satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

空と海 第189話

~前回までのあらすじ~
フォースがスラにやられそう。
表現注意やで。詳しく言うなら流血注意やで。
チコ「こういうのもある意味、ネタバレなんだろなぁ~」
イブ「すーくん……」
フォース「にらまないで。お願い」
まあ、書いてないけど、フォースも頑張った後だからね。仕方ないね。敵の探知だよね。地味だったから省いたところな……
フォース「おい」
よぉし! 始めるぞー!
フォース「おい!」


こうしてやられるのは、いつぶりなのかとふと思う。そして、ラウラと一回目戦ったときだったと思い出した。久し振りにも感じるが、そこまで時間は経っていないことも知っていた。経っていないとはいえ、一ヶ月以上前ではあるのだが、こうも短期間で何度もやられるものかと不思議になる。
「急所は外したか……残念」
無理矢理体を捻り、なんとか致命傷は免れた。が、免れただけで無傷ではない。深々と刺さる剣を見て、不味いなんて他人事かのように思う。実体なんてないのに、そこからは赤い血が流れ、地面に少しずつ血溜まりを作っていく。
「制御者は頑丈だねぇ」
「……そりゃ、どうも」
「強がっちゃって」
スラの言う通り、強がり以外の何物でもない。
フォースは刺さっている剣を消した。自分と同じ力なら、なんとか消せるだろうと試したに過ぎなかった。その考えは当たってようで、スッと消えていく。この考えを早く思いついておけばよかったと同時に思った。
「でも、もう少しで勝てちゃう。やった~♪」
子供のようにはしゃぎ、勝った気でいるスラに何かを言う余裕はない。スラよりもこの後のことをどうするのか考えなければならない。そのためには、目の前のことをどうにかする必要があった。
「……一か八か。賭けるか」
パチンと指を鳴らすと、周りにあった剣と鎖を一気に消した。スラは感心したようにぐるっと見回す。
「すごーい……本物は違うね」
「言ってろ。“ガンズ”」
二丁拳銃を創り出し、迷いなく構える。標準はもちろん、目の前に合わせる。そんな彼を見て、小さく首を傾げた。
「撃てるの?」
「まあ、その気はあるから」
「……私を、撃つんだ?」
「撃つ」
一度、深呼吸をする。心を落ち着かせ、引き金に手をかける。二つの破裂音がその場に響くと、スラは思わず目を閉じた。痛みは感じなかったため、当たったわけではない。が、音が聞こえたのなら、フォースは引き金は引いている。本能で外したのか、わざと外したのかはさっぱりだったが、この姿でいる限りはやられることはない。これだけは確かであり、彼女の勝ち筋である。
「その傲りが命取りだぜ、お嬢さん?」
「! 負け惜しみ?」
「いや。ちゃんとした勝算はあるさ。百パーセントではないけど……“チェーン”」
隙を見てスラに近付いたフォースは、彼女の体を“チェーン”で縛る。継承者を攻撃は出来ないが、これはダメージを与えるための鎖ではない。ましてや、殺すための武器でもないため、狙い通りに“チェーン”は発動した。両手に銃はもうなく、鎖を離さないように握る。
「銃は……消したんだ」
「さあ? どうだろうね」
「ここから、どうするの? すーくんは私のことを傷つけられないんだよね。こうしたところで意味ないよ。……でも、私は手が使えなくても問題ない。……出てきて、剣さん達」
再び、複数の剣を出現させ、自分の周りに浮かせた。フォースは怯む様子は見せず、全く動じない。回避動作をする様子も、武器を取り出して対処する素振りも見せない。
「……どういうつもり?」
「勝つつもりだよ。一応ね」
「もう、知らないからね! 行って!」
スラの言葉で剣はフォースに向かっていく。そうプログラムされているように正確に的確に飛んでいく。
これを一度に消すことは出来ない。それでも、数は減らせると感じて、先程と同じように指を鳴らす。何本かはフォースの元に届く前に霧のように消えていったが、やはり、全ては思い通りにいかないらしい。残った剣はランダムに彼の体を貫いた。足、腕、脇腹等……刀身が細いのが幸いして、耐えられない程のダメージを負うことはなかった。スラは制御者の頑丈さに寒気を感じつつも、次なる一手を考える。対するフォースは、込み上げてくる血の味に顔をしかめ、思わず吐き出した。
「ほんっと、化け物!」
「っ…………げほっげほっ。うぇ……まあ、予想範囲内、だな。……やれ、すぅ!」
「こんな無茶は聞いてないんだからねっ!」
スラからは死角になるところにイブはフォースの創った銃のうち、一つを構えて狙っているところだった。二丁拳銃の片割れをイブが回収していたのだろうか。
「すーくんのこと、すーくんって呼んでいいのは私だけなの! 真似っこしないで!!」
「嘘でしょ!?」
「殺すなよ、すぅ。こいつからは聞きたいことがあるんだからな」
「……分かってるよ、すーくん」
逃げようにもフォースが鎖を操っているため、動くことが出来ない。イブは標準をスラに合わせて、発砲した。五回の破裂音が辺りに響く。距離も至近距離から撃ったこともあって、全て命中したらしい。フォースに言われた通り、急所は外している。
スラはばたりとその場で倒れた。不思議と出血はしていなかったため、フォースがそのように設定でもしていたのだろう。実弾ではなく、エネルギーの塊を撃ち出せば、ダメージは与えられるが出血はしない。過去にも、そのようなものを見たことがあるイブは、特に疑問には思わなかった。
「すーくん! 大丈夫!? や、大丈夫じゃないよね!? どうしよう……!」
スラのことよりもフォースの今の状態の方が気になった。ラウラと戦ったときもこんな感じだったと思いつつも、血だらけのフォースを見て、冷静でいられるはずがなかった。彼はイブの様子など気にしていないようで、スラを縛る鎖を離さないようにしていた。地面に腰を下ろすと、ひらひらと手を振った。
「落ち着けって……おれは別だって言いつつも、殺すつもりはなかったらしい。お互い、その気はなかったってことだな」
「で、でも……痛いよね?」
「大丈夫。というか、兄貴が来ないってことは大丈夫だってことだから」
「そ、そうかもしれないけど」
「それに、死にそうになるならお前んとこ引っ込むって。こんなところで死にたくないよ、おれ」
なるべく優しく、心配をさせまいと笑う。ここまで言ったことに嘘はないが、下手に不安にさせると何をするのか分からないのがイブだった。
フォースの予想以上の働きをした彼女は、そんな自覚もなく、ほっと息をついた。
「うん……そうだよね。もう、心配したー!」
「ごめんって」
「許さないもん」
「じゃあ、どうしたら許すの?」
「……ぎゅーってしてくれたら許す」
「えぇ……後でいい? 今やると血で汚れる……って、おい!」
フォースの言葉を待つことなく、イブが抱きつく。そんな彼女に呆れつつも、しっかりと受け止めた。



~あとがき~
なんとか……終わった……

次回、イブ視点に戻して、続けていきます!

今回は特に言うことはないです。
フォースお疲れ様……! まあ、まだ終わらないけどな!
フォース「……こいつ」
イブ「すーくん、落ち着いて……持ってる武器を下ろすところから始めよう?」

一体、いつまで続くんだろう……終わりが見えない……どうか、最後までお付き合いくださいね。予測が立たないけど。この襲撃は二十くらいで終わると勝手に思ってたんですけどね……無理だった。見立てが適当すぎる(笑)
あ、一話一話の長さをもう少し伸ばせば話数は抑えられるのでは……!?
いや、今更か。なんでもねぇや((←

ではでは!

幼き騎士は何思う?

~前回までのあらすじ~
イーブイの少女(もえぎ)を救出。お家探しになります。
ねえ! 自分のお家は!?
ヴァルツ「俺がいなくてもどうにかなる」
もえぎ「あのときは……申し訳ないです……はい」
ヴァルツ「逃げる理由が出来てよかったよ。俺は」
もえぎ「……あうぅ」
こいつめ……!


「ここは……」
「ちゃんと見るのは初めてだな」
『でっか。発展都市なのは知ってたけどぉ』
「ここまでとは、人の子の知恵は侮れませんわ♪」
各々が感想を漏らす。
セイバーギルドの前に来たはいいが、ここで受け付けるものなのかまでは分からなかった。児童施設に行けばよかった気もする。
「マリー、ここから施設まではどれくらいだ?」
「徒歩五分圏内に」
「なるほど。……まあ、いい。直接そちらに向かう方がいいか。ここまで来てなんだが」
くるりとギルドを背にすると、そこには目を細めたナエトルがこちらを見上げていた。俺達三人を順に見ると、納得したように何度か頷いた。
「ぬぅ」
……なんだって?
「中へどうぞ、だそうです」
「おいマリー、なぜ分かる」
俺の疑問には笑って返すだけだった。トリスは何も言わないが、ふぃーはわなわなと体を震わせている。
「は、わ……あわわ……」
「ふぃーは落ち着け」
「は、にゃ……こわい……!」
第一声が言葉ではなく音だった。言葉を発するつもりはないのか。……発せないのか?
いずれにせよ、招待されたのなら、中に入ろう。
ナエトルの後に続いてギルドへと足を踏み入れた。建物自体が大きかったため、中もそれなりの人で賑わっていた。椅子に座って雑談をする者、掲示板とにらめっこしている者、武器の手入れをしている者等、各々作業中らしい。
「ナエさん、おかえりなさい! その子達は? 迷子ですか?」
一人のタブンネが近付いて来て、ナエトルに話しかける。俺達を見て、不思議に思ったらしい。このタブンネはどういう位置付けなんだろうか。
「依頼受理担当のようです。非戦闘員ですね」
マリーが俺の疑問にそっと耳打ちで教えてくれた。さりげなく力を使って探ったのだろう。何も言っていないのに、把握するのもどうかと思うが、俺的にはありがたい。
「ぬ」
「え……親方ですか? ええ、部屋にいらっしゃいますよ。何かありました?」
「ぬん」
「その子が噂の」
なんて言いながら、俺のことを見た。スカウトされた件だろうか。ギルドメンバーになんとなく広まっているらしい。
タブンネに見送られながら、俺達はナエトルを追いかけてついていく。このナエトル、何を言っているのかさっぱりだが、そこそこの地位なのでは?
ある扉の前でピタリと止まる。ナエトルはこちらを振り向き、俺に道を譲る。この先は自分で行けということなのだろうか。勝手に連れてきておいて、それはないだろうと突っ込みたくもなるが、元々会うつもりはあったのだ。それが早まっただけに過ぎない。
「行くか」
「は、はい……」
「何があるのでしょうね♪」
重々しい雰囲気のある扉に手をかけ、ゆっくり開く。部屋の中は豪華絢爛……とはいかず、思ったよりもサンプルである。両壁に本棚と収納棚。両者ともものが詰め込まれて、一応は整理されていた。パッと見たところ、物の規則性はないように思う。そして、正面にモニターがいくつかあり、親方の姿はそれに阻まれて目視出来ない。
「ぬー」
「やあ、おかえり。意外と早かったね。……この子達は?」
モニターから顔を覗かせたのは一人のエルフーン。この人がここ、セイバーギルドの親方であり、陸の四天王の一人……エルンか。
「ぬぬぬ」
「……あ、彼がスカウトしたっていう? なるほど。分かったよ。ナエ、ありがとう」
そう言うと、親方は俺達の前に姿を表した。まあ、どこにでもいるエルフーンにしか見えず、これといった特徴はない。見た目に関してはそれくらいの情報しかないが、にこにこと曇りのない笑顔を向けられ、少しだけ違和感を覚える。その違和感の正体はすぐに見当がついた。
……心から笑っていないな。この人。偽りの仮面でも被っているのだろう。
猫を被るのは悪いことではない。敵を作らないという面では一番よい方法だろう。そういったものが身に染みているのか、意図的にそうしているのか分からない。
「ここに来たってことは返事を聞かせてくれるのかな? ヴァルツ君」
「返事に関してはまだ何も。この子をどうにかしてほしかっただけだ」
ちらりと足元で小さくなっている少女を見る。親方は、俺の目線で何が言いたいのか分かったのだろう。納得したように頷くと、部屋の後方にいたナエトルに呼びかけた。
「ナエ、この子を連れてってあげて」
「ぬーん」
「え? え?」
理解していないのはこの子だけらしい。しきりに辺りを気にして、キョロキョロしていた。どうにか状況を把握しようとしているのかもしれない。
「ふぃー、あの人が新しい家に連れてってくれる」
「おうち……」
ナエトルを一瞥し、再び俺を見上げた。その目には不安の色が見える。
「……俺は一緒には行けない。やることがあるから、ここでお別れだ」
そう告げると、見るからに落ち込んでいるのが分かった。今まで、こんなことをしてくれる大人もいなかったのだろうか。短時間でそれなりの信頼を得たのはいいことなのだろうが、俺にとっては素直に喜べない。今後、会うこともないかもしれないのだから、変に期待させるのもどうかと思う。
そんなことを考えながらも、俺の口から出たのは全く違うことだった。
「これで終わりじゃない。また会えるよ」
「……ほんと?」
ふぃーの目線に合わせ、頭を優しく撫でる。上手く笑えているのか自信はない。
「本当だ。お前が大きくなったら……一人で生きられるくらいになったら。……それくらい時間が経てば、俺のやることも終わっているだろうから」
「わかった。……まってても、いい?」
「好きにしろ」
ふぃーは、パッと顔を輝かせ、こくこくと何度も頷いた。そして、ナエトルの元へと駆け寄ると、こちらを振り返った。
「あ、あの、おにーさん、なまえ……ばる…?」
「ヴァルツ。……ヴァルでいいよ」
「ばるさん! またね……っ!」
「……あぁ」
最後に少女らしい笑顔を見せ、部屋を出ていく。それを見れただけでも、助けた甲斐はあったと言えるだろうか。



~あとがき~
おかしいな。こんなことを書くつもりはなかったのにな??

次回、少女と別れたヴァルツはやっとお家に帰ります。ここまで長かった(泣)

この時代から、エルンとナエは健在ですね。空と海から十年ほど前の話で……え、こいつら何歳??
まあ、いいや。考えるのよそう。

ヴァルツ視点で書く内容は決まっているんですが、こうも続くなんて思ってませんでした。まあ、もうすぐ終わると思います。五話くらいで終われと思ってたのになぁ……無理だったなぁ……

ではでは!

空と海 第188話

~前回までのあらすじ~
スラがイブになりました。禁断の手やで……!
イブ「え、えぇぇ……!?」
フォース「どうしよう」
イブ「どうにかして!? お願いだよ!」
まあ、あれだね。なんとかはなるよね。多分。
イブ「多分!?」
フォース「しんどいなぁ……めんどいなぁ」
結局はそこだよね。君。
フォース「まあ、うん」
表現注意やで! 多分! 始めます!!
イブ、フォース「かっる……」


「なんかあっち、大変なことになってない!?」
チコちゃんに言われ、私はすーくんの方を見た。どこが大変かは言われなかったが、多分、大変なのはそっちだろうって勝手に予測をした。るーくんがこの大群で大変なことにはなってないと思うし。
そして、チコちゃんの言う大変は、確かに大変だし大問題だ。たくさんの剣が浮いて、一度にすーくんに向かって飛んでいったのだから。
いや、そこも重要だけど、別のところも重要だ。
なんか、あそこに私がいる!? え、あ、えぇ!?
「どゆこと……?」
じゃあ、あれはあのキルリアが私に変身したってこと? 何のために……あ。すーくんを殺すため?
制御者は制御者を殺せる。それは同じ力を持っているから。同じ力っていうのは、“強き力”のこと。……力を取り戻した継承者にも出来ることなんだろう。でも、私はまだ出来ないのに。……キルリアは出来るってこと? え、負けた気分……
「るーくん!」
たまらず、離れたところで戦っていたるーくんを呼び戻す。るーくんは無視することなく、すぐに来てくれた。
「どしたー?」
「あれ! あれ!!」
「およ? およよ……その手があるのか。なるなる。あはは。俺達、終わったね!」
結構、軽めに諦めたな!?
「継承者と制御者が戦ったって話は聞かない。まあ、あり得ないから、聞くわけないんだけどね? 今まで一緒に暮らしてきて、自分の半身みたいに過ごしてきた相手を攻撃するってなかなかいないよね。それこそ、恨みを買うくらいのことはしないといけない。……だから、継承者と制御者は絶対的な信頼関係にある」
「最初の理解者が制御者になるんだもん。裏切るようなこと、しないよね。少なくとも、私はしない」
一人ぼっちだった私にすーくんは色々してくれた。家族みたいに、友達みたいに……たくさん、優しくしてくれた。教えてくれたし、育ててくれたんだ。そんな人に攻撃なんて出来ないもん。
「制御者同士の戦いで制御者が死ぬことは確認されてる。だから、掟で禁じているわけ。……まあ、うん。理屈じゃ、継承者にも可能ってことは分かってたけど……うーむ。こんなケースは想定外よぉ? あの馬鹿も予想外じゃないの?」
あの馬鹿……?
二人で首を傾げていると、るーくんはそれに気が付いてにこっと笑った。
「あ、なんでもなーい♪ とにかく、俺にも手は出せない。制御者としてここにいる以上、俺もすっちーの制御者だ。制御者の肩書きを消してもいいなら、戦うけど。……いや、それはそれで無理だ。神様としてってなるから、別のルールに縛られる」
「傍観するって話?」
「そそ。りっちーはよく覚えてるね~♪ 人の世に俺は干渉出来ない。神様が手を出すようになれば、世界が簡単に変わるし、下手したら滅亡する」
世界滅亡か。あり得ない話ではないかも。
「ふふん♪ それほど力は強大で恐ろしいものなのよ~……ここはかーくんに任せるしかないねぇ。大丈夫、かーくんは出来る子だから」
るーくんは安心させるように笑うと、優しく頭を撫でてくれた。そして、目の前に迫った敵を持っていた槍で一気に蹴散らす。
「だから、俺達は俺達で出来ることをしよう!」
「……うんっ!」
私とチコちゃんは同時に頷いた。
大丈夫。すーくんは約束したもん。……私の、大好きなすーくんは強いんだもん。信じてるって言ったから。大丈夫、信じてる。

「おお~♪ 制御者って本当にすごいな」
「……はっ……しんど……」
パチパチと拍手されるが、馬鹿にされたようにしか聞こえなかった。
二十の内、半分以上は鎖で縛り、残りの三、四本はこちらへと飛んできた。回避をしつつ、なんとか全てを抑えることは出来たものの、それはあくまで結果論。そこに至るまでに剣には、致命傷は避けたものの、何度か斬られている。斬られて分かったことは、この紛い物の力でも制御者であるフォースを殺すことは可能であるということだけだ。もちろん、相手の威力は半減している。それだけ時間と猶予はあるが、消耗戦になる以上、フォースの死刑決行時間が増えるだけである。
「お前、ほんとに何がしたいんだよ」
「分かってるでしょ? 足止め」
「この敵はお前の仲間がやったことだ。でも、探検隊達は『ヴァンガル』がやったと騒いでいる。が、今のところ動きはない……となれば、『ヴァンガル』の情報は嘘ってことになりかねないが」
「確かに動きがないもんね。そう思っちゃうか。……でもね、すーくん。『ヴァンガル』はある闇組織の傘下なんだって。その親玉はすーくんも知ってると思うな」
「……あいつがいるのか?」
「まっさかぁ♪ そんなわけないよ! あの人は余程のことがない限り、手は汚さない。でも、考えていることは正解だよ」
にこにこと笑いながら話す姿を見て、本人ならこう話せる内容ではないと、フォースは知っていた。スラは更に続ける。
「上の組織が『ヴァンガル』に命令して、あることをしようとしてるってことだよ。……あたし達はそれに便乗して、別の目的を果たそうとしているの。最初に言ったでしょ? あんなところと全くとは言えないけど、関係ないって」
「なるほどね。……やろうとしていることに興味は?」
「ある! だからこその足止めなのっ! 本当なら、ピカさんを一番に止める必要があるんだけど、なんか倒れちゃったみたいだし? 必要なさそうだよね。そっちは神器使い手が三人。その中でも上位が雷姫なの。一番の危険人物だよ、ピカさんは」
「あのババァ、なかなか高位の武器なんだよな。忘れてたわ。……つか、そんなにいるの、神器使い」
「神器一つをババァ呼ばわり出来るすーくんの神経を疑いたいけど……まあ、いるよ。リーフィアブラッキーのコンビ」
リーフィアはもえぎのことかと見当がついた。“リーフブレード”の扱いが剣のそれと酷似していて、普段から使いなれている物があるのだろうと何となく想像していたのだ。そして、そのブラッキーについては知らないが、もえぎのパートナーで、それなりの手練れならば、ピカがちらりと漏らしていたヴァルツという相手のことだろうと予想した。
「武器の形を変える、トリス。周囲の情報を読み取る、マリー……そして、雷の力を宿し、強大な力を与える雷姫。……たくさんあるよね~」
「神器がこの世にいくつあるのか分からない。生まれたり、消えたりを繰り返すからだ。……でも、それと何の関係……って、え、待て。お前ら」
「私じゃないけどね? でもね、すーくんは勘がいいのね。歴戦の戦士って感じっ♪ カッコいい♪」
神器の名が出てくる時点で、ある意味察しがついた。否、ついてしまった。
「神器を使った暴走……? それが目的?」
「そう! まあ、今言った三人の中から暴走者は出ないけどね。神器との信頼関係が築けちゃってるし、結構長い間所有してるみたいだから、暴走なんて起きないもん」
「最悪、かなりの人が死ぬんだけど」
「そうだね?」
直接、フォースは神器による暴走なんてものは見たことはない。見たことはないが、話には聞いたのである。文句混じりのファウスの言葉であったが、町一つが壊滅するだのなんだのと。そんなことを言っていた横で、大変なんだなと当時は他人事のように思ったものだ。
それが今、自分の目の前で起こるかもしれないなんて考えたこともない。そもそも、神器自体が珍しいため、制御者としてこの地にいる間に所有者に出会うことがなかった。ピカの所有していた雷姫と、この時代、この地で会ったのが初めてだった。
誰かに知らせなければ、大事も大事だ。どうにかして、止めなければ。しかし、一体、誰が頼れるのか。信頼しているピカは頼れない状況下なのに。誰を頼るべきなのか。
そんな一瞬の焦りと油断がスラにチャンスを与えてしまった。
「ばいばい、すーくん」
「やっば……!」
怪しく笑うスラにフォースは後ろを振り返った。スラと同じように、キラリと怪しく刀身を光らせた剣が一直線に向かっていたのだ。そして、それを避ける暇はないと直感で思ってしまう。なるべく、致命傷にならないよう、対処する他なかった。



~あとがき~
やっと敵の目的が見えてきましたね。

次回、やっとフォースに借り(?)を返せそう!
フォースはどうするのか……!?

なんか終わりそうにないですね。二十くらいで終わるだろとか楽観的に考えてたんですけど、まだ終わらねぇや、このお祭り編!
いつ終わるんだ……?

ではでは!

幼き騎士は何思う?

~前回までのあらすじ~
苛めっ子達に話しかける十五歳。
ヴァルツ「……」
苛めっ子らの年齢は詳しく決めてないけど、十ないし十代前半。ヴァルツよりは年下だと考えてます。
もえぎ(イーブイの少女)はどうなんだろう。分からん。苛めっ子と同い年かそれよりちょい下だと思ってくれればいいです。
ではでは、始めます!


子供達は誰かに止められるとは思っていなかったのだろうか。話しかけられた途端にぎょっとして、俺の方をまじまじと見つめてきた。疑うようなそんな目をしている。それはいじめられていた少女も同じだった。ただし、疑うような目で見ているというよりは、何が起きているのか分からないといった、戸惑いの色が見える。
「複数人で泣いている女子を苛めるものじゃない。普段なら見て見ぬふりをされて、誰にも言われないのかもしれないがな」
「だれだよ! おまえ!!」
「これっきりの相手に名前を教える義理はない。よって、通りすがりの誰かでいい」
特定されるのも面倒だ。言う必要はない。こちらは、この子供達の名前なんて興味もないし、知らなくていい情報だ。仮に必要ならマリーで探りを入れればいい話でもある。
しかし、果敢にも突っ込んできた子供がいるものだ。こんなことで楽しむのもどうかと思うが、楽しんでいたところに水を指されたのだ。腹を立てて突っかかる気持ちも分からなくはない。
「それで? 止めるつもりはあるか?」
「なんにもしらないくせに、勝手なことをいろいろ言うな! ほっとけよ!」
『いや、苛めてるガキの言う台詞じゃないよねぇ』
……ふむ。確かにその通りだ。
「何も知らないのはお前達の方なんじゃないか? 苛めている方はされる方の気持ちを知らないと言うし、やめた途端にけろっと忘れるらしい。……じゃあ、思い知らすためにはどうしたらいいんだろうな」
そう言いながら、手前にいた子供の腕を引き、よろめいたところに足を引っ掻けて転ばせる。他の子供達が驚いたように……そして、一部は怯えたような目をする。
「仕方ない。口で言って止めないのなら、体で分からせるだけだ。喧嘩は得意な方だし」
『んふふっ~♪ 子供相手に躊躇いもなく手をあげちゃうヴァルツ、いいよぉ~♪ 好きぃ♪』
「お前は黙ることを知らないのか?」
思わず、トリスに返答してしまったが、幸いにも子供達が反論しようとしたところで言ったためか、自分達に言われたものだと勘違いしたらしい。きゅっと口を結んだ。
そんな子供達を見て、おかしく思えてきたのか、くすくす笑いながら、また俺に話しかけた。
『女の子、助けたら?』
「そこのイーブイ。動けるなら、こちら側に来てほしいんだが。そこにいられると、苛めっ子達に手が出せない」
「あ……」
ハッと気付いたように顔を上げ、慌てて俺の側まで駆け寄ってくる。苛めっ子達が引き止めるのかとも思ったが、そんなことはなくすんなりと引き渡してくれた。まあ、自分より年上がこんな風に迫ってきているのだから、当然と言えば当然か。
「さて。これで心置きなくお勉強が出来るわけだ。手加減はしてやる。流石に力の差がありすぎるし、弱いもの苛めをしたいわけではないから」
それ以前に、俺とこの子供達だと見た目が弱いもの苛めなんだが、不可抗力というやつだ。大目に見てほしい。
『容赦ないけど、大切なことだ。いいぞいいぞ!』
「ほんっと……口煩い奴だな」
『だって楽しいんだもん』
トリスに黙れと言ったところで、素直に黙るわけもない。小さくため息をつくと、一歩苛めっ子達に近付く。それだけで相手が恐怖していることをはっきりと感じ取った。
これではどちらが苛めているのか分からないな。
俺はバッグから『てつのトゲ』を数本取り出すと、地面に倒れたままの子供目掛けて投げつける。
もちろん、当てることはせず、縁取るように狙いを定めていた。そして、普段の成果か、当たらないギリギリを打ち抜くことが出来た。やられた本人も見ていた子供達も涙をためて、体を震わせている。
「金輪際、この少女を苛めないと誓うならさっさと逃げてもいいんだが。……それをする元気も勇気もないか?」
「うわあぁぁっん!!」
そう声を描けた途端に、脱兎の如く公園を飛び出した。地面に倒れたまま、不幸にも俺の的になった子を残して。
「置いていくんだ。……非情な奴らだ」
『子供相手にここまでしちゃうお前も大概だ』
「お前にだけは言われたくない……って、さっきも言った気がするぞ」
『確かに』
仕方がないので、近付いて地面に刺さっている『てつのトゲ』を抜いてやる。全部抜き終わり、自由になると、ふらつきつつも公園を後にした。
「最近の子供は情けないな」
『お前から見ればねぇ~』
「大丈夫か、お前」
「あ、は、はぃ……あの、わたし、その、いじめないで……ください」
「俺はそんなことしないが。……やっぱり、やりすぎたか」
『ははっ! “ムジカク”って罪だよ~?』
「……? お前、その首の……リーフィアになりたいのか?」
毛に隠れていて先程までは見えなかったが、ちらりと見えたのは、リーフィアに進化するための道具だった。こんな小さな子が持っているのは不思議なものだが、誰かにもらったものなのだろう。
少女はこくこくと頷く。そして、俯いたまま、ぽつりぽつりと話し始める。
「これ、ママがくれたの。……パパ、いなくて、かえってこなくて……でも、これくれたあと、すこしして、ママ……しんじゃった」
その年で天涯孤独か。そりゃ、苛めの対象になるわけだ。パパとやらは死んだのか、元々いないのか、逃げたのか……予測は出来ないが、きっと寂しい思いをしたのだろう。頼れる相手がいれば、この少女も違う人生を歩めてたのだろうに。
そこら辺は俺と似ているのかもしれない。
「一人なのか。家もない?」
「……うん」
親戚もなし。おまけに家すらないという。本当に天涯孤独らしい。かといって、俺と来いとは言えないな。流石に。旅に連れ出すわけにもいかない。
「ふむ……マリー」
「はい。呼びましたか?」
離れたところで待機していたマリーを呼び、この子に出来ることを絞り出す。得策と言えるかは微妙だが、俺に出来ることはこれくらいだ。
「この辺で孤児院とかないか。信頼出来るところ」
「捜します。少々お待ちください」
「あ、あの、このひと……?」
「俺の仲間だよ。悪い人じゃない。……どうだ、マリー」
「この国は荒れていますから、絶対とは言えません。しかし、ギルドの管轄である児童施設があります。身寄りない子供達が集まり、勉学に励むところだそうです。衣食住も保証されているようですね」
「ギルド管轄……セイバーギルドか」
「はい。四天王が一人、エルン様が統治しているギルドですわ。この国唯一の頼み綱の」
「そういえば、少し前にそこにスカウトされたな。……ふぃー」
「ふぃー……?」
リーフィアになりたいみたいだから、ふぃー」
「ふぃー……」
少し笑っているように見えるし、よかったのか。本名を聞くのも忍びないと思ったから勝手につけただけなんだが。
「ふぃー、行くぞ」
「……はい」



~あとがき~
あと二、三話でヴァルツ視点は終わると思います。

次回、イーブイの女の子のお家探し。
いや、あの、ヴァルツ……? 自分のお家も大切にしてやれ? え?

本編でヴァルツはセイバーギルドに所属していますが、ここら辺から繋がりがあったんです。どうやって繋がりを持ったかは知らないけど(考えてない)。まあ、あれですね。多分、見込みある的な感じでスカウト受けてたんでしょうね。はい。
返事は決まってからでいいよって言われて、ヴァルツはほったらかしにしてたわけですが。

苛めっ子から助けるのはいいけど、やり方が酷い。もっとなかったのだろうか……まあ、ないか。

ではでは!

空と海 第187話

~前回までのあらすじ~
フォースがスラを捕まえたところですね!
なんだかすっごいデジャビュ
フォース「それな」
なんだか何をしているのかさっぱりやで……
今回も続けてフォース達をやってくよー!
フォース「大丈夫か? 時系列とか」
大丈夫。ここら辺からは読んでる順になるはずだから! 多分!
フォース「へえ……?」
では、始めます!


「……最初から、こうすればよかった」
スラはぽつりと呟く。その呟きにフォースが返答することはなく、そして、急所を外した状態で一気に振り下ろした。
が、その動きが最後まで行われることはなく、ピタリと止まってしまった。自分の意思で止めたと言うよりは、体が勝手に止まったと言って間違いはないだろう。
「……マジかよ」
「こっちの方が効果あるみたいだね。ね、すーくん?」
スラが次に姿を変えたのは、イブだった。すぐそこに本物がいると言うのに、何の躊躇いもなく主の姿へと変化させたのだ。体の大きさが変わったせいで、拘束していた“チェーン”からも抜け出してしまう。抜け出しただけなら些細なことですむのだが、よりにもよって、イブの姿になるのは痛手である。
いくら容赦なく冷静に、且つ冷酷に人を武器で狙うことに躊躇いはなくても、その相手が継承者ならば話が変わってくる。
ある程度の距離を取り、剣を手元から消した。その代わりに鎖を手に持つ。対して、スラは子供らしい笑顔を見せる。
「そっちに変えちゃうってことは正解はこっちか」
「正解も不正解もねぇよ」
制御者としての本能が継承者に逆らうなとセーブをかけている。意思とは関係なく、初めからそう組み込まれているように反抗出来ないようになっているのだ。制御者は継承者を殺すことは出来ない。守ることが仕事なのだから、誰に言われなくても当たり前である。そんな当たり前の掟がここでフォースを縛る鎖となり、邪魔をしていた。
見た目だけで止まってしまうのだから、良くも悪くも出来た仕組みではある。理解はしている。していても、自分ではどうにも出来ないことも悟ってしまった。フォースでこれなのだから、正式ではないにしろ、ウィルもイブの制御者としてこの場に存在しているのである。つまり彼も、彼女に逆らうことは出来ない。そして、イブやチコが相手になるとは思えなかった。
「はぁ……マジかよ」
先程と同じ台詞を吐き、どうすればいいのか頭を動かす。動かしたところで、攻撃は出来ない。近距離武器では狙って動作に入れても、直前で止めてしまうし、遠距離武器は狙っても意図的に外してしまうだろう。考えることはどう足止めをするかであった。
「“紅の継承者”……なんだっけ。えいっ!」
「……はぁ!? 嘘だろ!」
間の抜けた合図と共に現れたのは宙に浮く剣数本。出てきた剣は細く、レイピアの類いだろう。何もないところから武器を創り出すそれは、紛れもなく、“強き力”の能力である。鈴流は途中だったとはいえ、ある程度制御するところまでは段階を踏んでいたので、大して驚きもしなかった。が、イブは全くと言っていい程に力に耐性がない。彼女自身に制御するという気持ちがあまりないせいでもあるのだ。目の前の彼女はそんなことをいとも簡単にやってしまったのだ。
本来、力を持つものは目に色が出てしまうが、彼女はいつもの黒目のまま。本当に力を操っている訳ではないらしい。が、感じ取るそれは本物であると告げていた。
「さっきも出来たし……今回は出来ない、なんてわけないじゃない?」
「“へんしん”ではねぇんだな。それの上位互換。コピー能力かよ……心を覗いて、侵入してきたあれも、あのキルリアの固有能力か?」
「そうだよ♪ 私が変身した相手がそういう能力持ちだったの♪ まあ、流石にピカさんの持ってる刀は再現出来ないし、制御者の中に引っ込んだり、るーくんになっても神様にはなれないけどね? そういうのは無理だけど、ある程度は出来る。えへへ。そんなの、チートだって皆に言われちゃうけどね」
ポチャが気持ち悪そうにしていたのも分かる気がしてきた。目の前にこうも真似されると腹が立つと言うよりは、どこか違和感を覚えざるを得ない。そして、ポチャがピカを攻撃出来なかったのも、過去の話を持ってきた他に、こうして守るべき相手が敵意を向けているというこの場面。この場の圧に押されてしまうのだろう。相当のストレスがのし掛かっているのを感じた。鈴流のときは割り切っていたし、違うと確信して、躊躇はなかった。今も戸惑いないが、別の意味で拒否している自分がいるのは確かであった。
「やっぱり……制御者はこの力でやられると死んじゃうんだ? なるほど。同じ力は毒になるってことなんだね」
「すぅの記憶を盗み見てるのかよ。クズだな」
「酷いなぁ……情報として、ちょっと見てるだけだよ? すーくんだって、人の心読むでしょ。それとおんなじ」
「お前と一緒にするな」
「一緒だよ。勝手に見てるってところが特に。……行って、剣達!」
スラの言葉に数本の剣は、全てフォースに向かって飛んでくる。どれも急所に当たりはしないと直感で思う。が、スラの意思で軌道なんていくらでも変えられてしまうだろう。
「くっそ……! “チェーン”!」
変えられないようにするには、縛る必要がある。そう咄嗟に判断して、地面からいくつもの鎖を伸ばし、弓矢のように飛んできていた剣を全て捕まえる。浮いている剣を鎖で止めるという重力を無視した行為であるが、その状況に突っ込みを入れる余裕はなかった。
「わあ……♪ すごぉい♪」
「面白がってるな、お前」
「そんなことないよ? でも、どこまで出来るんだろって考えてたの。この力、色々出来そうだね」
剣を鎖で捕まえたとき、オリジナルよりは威力は劣ると感じた。仮にイブが力を取り戻したとして、フォースの技で止められるとは思えないからである。恐らく、鎖を壊し、的を射てくる。フォースはあくまで継承者の能力を預かっているだけで、自分のものにしている訳ではない。オリジナルには、力の主には勝てないのだ。こうして、扱えるのは能力と長年の経験、知識の違いだ。そこはイブよりは勝るので、競うことがあれば、結果的にフォースが勝つ。純粋な面でいえば、イブの方が上手になる。これも今までの経験上、そうなることは知っているのだ。
よって、スラのコピーはオリジナルよりは劣るということになる。しかし、だからと言って、事態が好転するわけではないのだが。
「じゃあ、数を増やしてみようかな? どれくらい出来るのか気になるもんね」
平然と言い、顔色一つ変えずに十、二十と剣を空中に出現させてその場に浮かせる。この全てを鎖で抑えることは不可能だ。なら、どうするのか。
「出来るだけ頑張るしかない」
二振りの剣を出し、構える。捕まえられないのなら地面に叩きつけて刃を折るしかない。鎖で縛れなかった分をこちらで処理をする。これで、全てを片付けることが出来るのかと問われれば答えは、NOである。いくつかは逃すだろうし、そもそも簡単に折れるわけない。どれだけ防げるかは運次第であった。
「いくよ、すーくん」
「言わなくても来るだろ、お前……!」
二十の剣が一斉にフォースめがけて襲いかかってきた。自分の運を信じて、どうにかするしかないのである。心なしか笑みが溢れてしまうが、頭がおかしくなってきたと冷静な自分がどこかで呟いた気がした。



~あとがき~
まあ、いつかはやってみたかったよね。
偽者だけど、イブVSフォースです。

次回、イブ(偽者)VSフォース!
どうなる、フォースくん。頑張れフォースくん!

制御者は継承者を守る盾であり、剣なので、間違っても殺すようなことはありません。制御者としての当然の意識というよりは一種の洗脳的なものかもしれません。これはフォースもウィルも同じですし、なんなら、エレルやユウ、もういないけど、ラウラも同じです。
抗えるなら神様成分が強いウィルでしょうけど、今回はそんな余裕もないし、別に殺したい訳じゃないからね。多分、ウィルがやったら死んじゃうよね……スラは。
これ、継承者に殺してと言われれば、そう動けるんですかね。どうなんだろ。……継承者が一番だから、命令が優先されそうな気もする。けど、そうやって殺すのは守るというものに反するよな……なんだ、この矛と盾の話は……? みなさんはどう思いますか!?((←え

ではでは!

空と海 第186話

~前回までのあらすじ~
ヴァルツともえぎ。シアとレン達でした。
さあ! 今回はスラと戦うフォースを視点にいきます! 頑張るぞ!
フォース「……」
イブ「ネタが切れてきたのを感じる」
言わないで!! 切れてないもん!!
フォース「まあ、なんとかするんだな」
は、はい……


ポチャがいなくなったことで、凍っていた敵が少しずつ動き始めていた。元々、動きが遅いため、やられることはないだろうが、数は多い。
「さくさくっとは無理だけど、食い止めることは出来るかな。頑張ろー!」
「るーくん、なんで生き生きしてるの……」
「こういうときこそ、明るくなきゃね♪」
率先して前に出ると、片っ端から槍で突く。鮮やかな手さばきにイブは言葉を失った。
ウィルの戦う姿をきちんと見たことがなかったため、思わず目で追ってしまっていた。一つ一つの攻撃に荒々しさがあるものの、敵を逃さんとする鋭さを感じる。隙があるわけでもないが、力強さも感じるという、実力者であることが分かる姿だった。
「……るーくん、強かったんだね」
「えぇ? 実力、疑われてたのぉ?」
イブの素直な感想にウィルは苦笑を漏らすが、その手は攻撃を緩めることはなかった。
「“はっぱカッター”!」
チコはウィルに負けじと攻撃を繰り出す。いくつもの葉っぱをランダムに飛ばしていくも、それらは敵に吸収されるように消えてしまった。吸収したからといって、何が変わるわけではないようだが、技は使えないのは目に見えて分かる。
「ワタシ、無力なんじゃ……?」
「技が効かない……じゃあ、これはどう!?」
イブがバッグから取り出したのは、『てつのトゲ』だ。数本取り出し、敵にヒットさせる。敵は動きを一瞬止めるものの、また、のそりのそりと動き出した。技よりは意味があるようだ。
「私の投擲力、なめないでよ!」
「おお~……すっごいやる気だね」
「チコちゃんも投げる?」
「ワタシがやるよりイブがやる方が早いと思うよ。ワタシは周りを見てる」
「了解。回避タイミングは任せるね♪」
「OK! 任せてっ」
実力はウィルやフォースに及ばなくとも、二人で協力して目の前の敵を退けることは出来る。お互いの出来ることに力を注ぐ。
「……いいね。友情だ~♪」
そんな二人を遠目にウィルは呟く。なるべく二人の手を煩わせるようことがないように、広範囲に攻撃をする。自分にヘイトが集まるように立ち回っていた。が、後方支援は任せてしまって問題ないようだ。
「子供の成長は早いものだねぇ」

スラと対峙するフォースはある程度、手加減をしていた。理由としては、聞きたいことがあるからなのだが、それも面倒に感じてきてしまった。
「“チェーン”」
「“サイコキネシス”!」
鎖を創り出し、スラに向かって投げるものの、“サイコキネシス”によって、それは阻止される。しかし、止められることは想定内であった。止められている間に一気に間合いを詰める。
「うわっ!」
剣を突き出し、スラの心臓を狙う。狙うものの、そう簡単にはやられてはくれないらしく、フォースの攻撃をすれすれで避けてきた。スラはフォースから距離を取ると、ビシッと彼を指差す。
「あっぶないわね! 殺すつもりなの!?」
「何を今更」
「鬼! 悪魔!!」
「どうとでも言え。『悪夢の続き』とか正直どうでもいいんだ。いいんだけど、我が主に危害が及ぶなら、排除しないとなぁ?」
「あんたのその悪い顔の方が悪夢そのものじゃない」
わざとらしく、スラは肩を抱いて身震いをする。その様子を見て、相手はまだ余裕があるんだと感じた。余裕がなければそんなことはしないのだから。
「何か策でもあるんだ? そうじゃなきゃ、そんなに余裕があるのはおかしいもんな」
「ふふん♪ まあね!」
勝ち誇るように笑うと、その場でくるりと一回転。そして現れたのは、一人のピカチュウだった。だが、その人物はピカではなく、フォースにとって、唯一無二の相手。
「どこで知った……なんて、野暮な質問か」
「そうだね♪」
にこりと笑う。二度と見ることがないと思ったその笑顔は目の前にあった。ただし、偽者の笑顔だが。
「そこまでやるのか。なあ、鈴流?」
「ふふっ♪ ねぇ……攻撃、出来る? 私にさ」
あえて、愛する人の名前で呼ぶ。スラの姿は紛れもなく鈴流そのものだ。以前戦ったときに、心に侵入されているため、そのときに見られたのだろう。現れたことに関しては、そこまで驚きはなかった。ポチャに対して、ピカを見せたようにこうなることはなんとなく予想していたのである。
「で、どうする? 死ぬまで力を得ることはなかったそいつで、戦うのか?」
「でも、力は私のもの、なんだよね? それなら、ちゃあんと出来るよ♪」
スラはそう言うと、パチンと指を鳴らす。すると、彼女の手元に剣が現れた。
「“強き力”……その力同士で戦えばフォースは死んじゃうんだよね。……でも、仕方ないよ。許してね」
「相手を縛り上げろ。“チェーン”」
スラの足下から鎖が飛び出してくる。回避するにも囲うように出てきたために、避けることも出来そうになかった。呆気なく“チェーン”に捕まると、バランスを崩して、地面に倒れる。
「ほい。終わり。さようなら」
倒れたスラに近付き、持っていた剣を振り下ろそうとする。何事もなく、淡々と。これが当たり前であるかのような様子にスラは慌てて制止を促す。
「まっ……待って待って待って!? ストーップ! え、待って? 確認させてほしいんだけれど」
「なんだよ。うるっさいな……あ、殺しはしないから安心しろ。聞きたいことあるし」
「違う! 待って! そうじゃなくて、え? この姿は君にとって、大切じゃないの?」
「大切な人だよ。おれの好きな人だし、生涯でたった一人の愛している人」
「じゃあ、なんでさらっと捕まえて殺そうとしてるの!? あ、いや、殺そうとはしてない……?」
「本物は死んでるし、こういうことしないし」
「いや、そうかもしれないんだけど、普通は躊躇うものだよ!?」
「そうか。勉強になりました。次からそうします。じゃあ、そういうことで」
一区切りついたと言わんばかりに再び剣を振り下ろす。スラは横に素早く転がり、回避する。避けられたと見るや、フォースは“チェーン”で地面にスラを固定する。
「まーって!! え、嘘」
「っせぇな……下手に避けられると、間違って殺すから固定したんだよ。ありがたく思え。感謝しな」
「違う! そうじゃない!」
「見た目は鈴流でも、中身はもどきだからな。全く似てないし、似せるつもりもないだろ」
「真似する前に捕まったからねぇ……あと! もどきって名前じゃないから。スラだから!」
「まあ、あのとき戦った頃は、確かに効果的だったかもな」
あの頃は力を完全に制御していないときだった。鈴流の件も胸につっかえたままだったし、その状態だったのなら、この作戦は効果的だっただろう。それこそ、動けなくなってしまったポチャと同じ道を辿ることになるかもしれない。
しかし、そのときと今では状況が違う。そこがスラにとっての誤算だった。
「……ムカつくっ!」
「もういいか? 覚悟決めた? 決めてなくてもやるんだけどさ。……じゃあ、そういうことで」



~あとがき~
フォースにポチャと同じ手は通用しないです。

次回、どうしようかな……(無計画)
まあ、フォース視点を続けますかね。

技が効かないもんだから、チコちゃんのやることがないですね。無計画だからなぁ……初めはそんなことなかったんだけどなぁ……おかしいなぁ……

イブの攻撃手段は何か投げるくらいなので、投擲力は異様に高いです。スナイパーかな??
フォース「銃を持たせたら化けるかもな」
イブ「え……?」
ウィル「持つ前に二足歩行をマスターしなきゃね」
イブ「あう」

こんな形で鈴流の名前を出すことになるなんて思わなかった……わけではないんだけれど、スラにはもう少し鈴流のふりを頑張ってほしかったと思いました。
鈴流「はぇ……? なんの話?」
フォース「なんでもない。お前は気にしなくていいよ」
鈴流「うーん? まあ、フォースがそう言うなら」

ではでは!

空と海 第185話

~前回までのあらすじ~
浅葱と太陽でした! 浅葱の使う武器がお披露目しましたね。
浅葱「失敗すると自分の腕を切り落としそうになるのよね~♪」
あ、明るく言わないで……?
浅葱「まあ、腕が落ちるくらい、自分の能力でなんとか出来るけれどね。くっつくでしょ。多分」
やめて……そういうこと言わないで……!!!
浅葱「……ふふっ♪」
含み笑いもやめてー!!


「この辺でいいだろ」
ヴァルツを背負って走り続けていたもえぎはその言葉に足を止める。
「さ、三分……経ちましたか……?」
「もう少しでな」
何度か大きく息を吸い、呼吸を整えた。そして、今まで自分が走ってきた道をじっと見つめる。特に敵が近付いている気配はないため、マリーが上手くやっているのだろう。とりあえず、“リーフブレード”を抜き、構えておく。しかし、ヴァルツの“シャドーボール”が効かなかったから、これもあまり意味はないのかなと思い始めた。ないよりはましくらいの気持ちでいた方がいいのかもしれない。
どうしようかと考え始めた頃、通信機が音をたてて鳴り始めた。思わず、体を振るわせて反応してしまう。
「はうぅうっ!」
「俺だ」
『ヴァルツ。うちやけど』
通信の相手はまろである。先程、武器使用の許可を取るように指示をしていた。その結果が出たのだろう。ヴァルツは率直に訪ねる。
「どうだった」
『貰えた。結局、あんたの名前出したんやけど、嫌味なことは言われんかったよ』
「ふうん。ちょっとは悪いと思ってるのかね」
『……そんで、こっからどうするつもり?』
「反撃するに決まってる。どこまでやれるかは、自分のお体と相談だがな」
『無茶は禁物やけんね』
「へーへー……しないように気を付けはするよ」
何か言いたそうにしているたまろとの通信を強引に切る。そして、何度か背伸びをした。
「ふぃー」
「ひゃいっ!」
「あいつ呼び出せ。使用許可が出た」
「は、はい……分かりました。ヴァルさん、どうするつもりですか……?」
なんとなくは想像しているものの、一応、聞いてみる。ヴァルツはもえぎの予想通りの答えを返してきた。
「マリーを使う。……戻れ、マリー」
『はい。愛し子の仰せの通りに』
どこからともなくマリーが現れる。逃げるために後ろを守ってくれていたマリーからは疲れなどは感じない。神器に疲れるなんて考え方は、存在しないのだろうか。そんな今の状況とは関係ないことをもえぎは考えていた。
「結果は?」
『彼らには弱点が見えました。大きさは様々でしたが、核のようなものを感じたのです。それを壊せば復活はしなくなりますわ。ただ、普通の技は先程試したように貫通してしまうようです』
「ふーん……感知は出来るか?」
『愛し子が命じるのなら、マリーはなんだってしますわ。もちろん、出来る範囲で♪』
「よし。ふぃー、俺が弱点を指示する。そこを狙っていけ。いいな」
「はいっ! お願いします、トリスさんっ」
武器の名を呼び、もえぎの手元にその姿を現した。綺麗なエメラルドグリーンをした、大鎌である。武器でなければ、マリー同様に宝の一種ではないかと見間違うくらいだ。手に馴染ませるように何度か大きく振るった。
「今日は……鎌なんですね……」
『ふふんっ♪ 命を刈り取るにはこういう武器がお似合いなんだよ、もえぎ?』
「これ、おっきくて、使いにくいんですよ。……剣がいいです」
『駄目』
キッパリと断られてしまった。信頼関係がないのかと思うが、もえぎの言葉には素直に従うことが多いため、全くないとは言えない。トリスと呼ばれた神器は楽しそうに笑う。それを聞いたマリーは不満げな声を発した。
『兄様。主には従うことが私共の使命であり、義務ですよ。兄様はもえぎ様を主として認めたのですから』
『あっははっ♪ 僕より下位の神霊が分かったようなことを言うねぇ? 教育がなってないんじゃなぁい? なあ、ヴァルツよ』
「俺に話を振るな。大体、マリーを教育するつもりはない。教育が必要なのはお前だ」
『冗談やめてくれない? 僕の気紛れでもえぎに憑いてあげてるんだから、感謝するべきだろ』
トリスとヴァルツ、マリーコンビはなかなか友好な関係とは言い難い。これもいつものことなので、もえぎは慌てて、自分の発言を撤回をする。元はと言えば、もえぎの発言から発展してしまっているのだ。
「あうあうっ! このままで大丈夫です! トリスさん、ご協力ください!!」
『うん。僕は素直なもえぎがだぁいすき♪ ヴァルツも見習いなよ』
「うるさい。やるぞ、ふぃー」
「はい、ヴァルさん!」
トリスとヴァルツは元々、契約を交わしていた。つまり、ヴァルツはトリスの所持者であった。今は色々あって、もえぎが所持者だが、力を引き出すのは断然ヴァルツの方が上手である。トリスを手放した理由は、一言では言えないためにここでは割愛しよう。しかし、虚弱体質になってしまったのは、トリスが一因であるとは言っておこう。
「マリー」
『承りました。愛し子』
「い、いきますよ……? トリスさん」
『はいはぁい。任せて』

救護班は慌ただしく動いていた。警備に回っている人達の手当てというよりは、混乱に巻き込まれて転倒したり、ぶつかったりなど一般人の手当てである。パニックになれば、予想外なことも起きるもので、意味もわからず泣き叫ぶ者、怒鳴り散らず者、じっと動かない者等、反応は様々だった。
「あーもう! うっさいわね! そっちは手当て要らないわよ!! そんなんほっといても治る!」
「医者としてどーなの、その台詞」
痛いからどうにかしろと詰め寄られていたシアが詰め寄っていた相手をあしらっていた。そんなところをレンは遠目で見ていたのである。
「まあ、シアは医者じゃなくて薬剤専門だけど。やれやれ……シーちゃぁん? 俺のお仕事増やさないでくれるかなぁ?」
「はぁ!? じゃあ、レッちゃんがどうにかしてよ!!」
昔の呼び方で呼んでみると、普通に反応した。まだ冷静に判断はしているのだと勝手に納得をする。
こういった、パニック状態の時は浅葱が一喝を入れれば、なぜか大抵収まるものである。鶴の一声とも言えるそれは、この場にはない。
「やっぱ、浅葱はこの場に必要だったな~」
「レン! 消毒液と包帯テントから取ってきて」
「はいはい……」
手当てを素早く終わらせ、救護テントを潜る。テントの中に設置されているベッドは今のところ、誰も寝ていないためか、がらんとしていた。重傷者がこの場にいないのが幸いである。重傷者が全くいないとは言わないが、ここでは手に負えないと判断した場合、即ギルドに送っているのだ。ここで待たせる程、出ていなくて内心ホッとしている。
「はよ戻ろ……シアにどやされる」
シアに言われた物を持ち、足早に外へと出る。今は重傷者がほとんどいなくても、これから増える可能性がないとは言えないのだ。気を抜けないのは変わらない。



~あとがき~
ヴァルツともえぎだけじゃ少なかったので……レンのところも入れました。

次回、イブやフォースに視点を置きますかね。メインはそこだよなぁ。

また出てきました。新しい神器。トリスです。鎌だけど鎌じゃないらしい。
元々はヴァルツの持ち物ではあったんだけど、なんやかんやあってもえぎに落ち着きました。そこら辺は番外編を見てね! ここでも、軽い設定を置いておきます!

トリス(♂っぽい)
もえぎが所持している神器。固有能力として、形状変化を持ち、持ち主に合わせて武器の形を変えられる能力を持つ。そのため、トリス自身の気分によって武器の形も変化してしまう。
性格は本編通り。
マリーに兄様と呼ばれてはいるが、尊敬はされていない。嫌味を含めてそう呼ばれているだけである。そう呼ぶ理由はマリーを所持する前にヴァルツが持っていたのがトリスだったため。

トリスは嫌なキャラになってくれればと勝手に思ってます。はい。

ではでは!