satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

空と海 第227話

~前回までのあらすじ~
ピカとポチャのほのぼの回……もとい、ちょっぴり甘いお話でした。フォースよりはましでしたね。
フォース「おれが普通じゃないみたいな言い方すんな」
ピカ「手慣れてる感凄いけどな」
フォース「本当のことだし……?」
ピカ「うわぁ」
さてさて! 今回はがらっと変わりまして! オーシャンの二人とフォース、三人のお話です。お仕事の話です! バトルはやらない! つもり!


今日は珍しく、親方さんに呼び出しを受けて、どきどきしていた。私とチコちゃん、そして、ちょっと後ろの方で暇そうにしているすーくんの三人で親方さんの話を聞いていた。
「ここから南西の方角にある『シキやま』ってところに行ってきて欲しいんだ~♪ そこにはある集落があってね? その長にお届け物をお願いしたくって」
「お届け物、ですか?」
「うんっ♪ あそこ、街から離れてるからさ、定期的に物資のお願いがあるの~」
あ、あぁ……そういうことか。
「それで、あっちで郵便とか、そういうお届け物を預かったらそれを持ち帰ってきてね。持って帰ってきたものは、こちらで改めてお仕事として引き受ける手筈になってるから」
なるほど……つまり、あっちで持ってきて欲しいって頼まれた荷物をお届けして、代わりにあっちで届けて欲しい物を持ち帰る……っていうお仕事か。
「『シキやま』自体、ダンジョンでもなんでもないんだけれど、ちょっと道が険しいんだよね~? 斜面が急だったり、道がややこしくなってたり? だから、ある程度の知識のある人に任せるの」
……知識のある人? 私とチコちゃんは『シキやま』なんて行った経験はない。となると、この場で親方さんが指す人物は。
私とチコちゃんは親方さんから後ろのすーくんを見た。見られた本人は全く気にしていないとかと思ったけれど、嫌な予感はしたんだろう。そっと明後日の方向に目線をやる。
しかし、それくらいで親方さんが折れるわけがない。
「ってことだから、よろしくね! フォース!」
「……くっそ!!」
まあ、うん。そうだよね。
「しょーがないよ、すーくん。一緒に頑張ろ?」
「ワタシ達と一緒に行こうか」
「行くのはいいけど、おれ頼みなのが気に食わん。何なの?」
「あはは~♪ それとも、『シキやま』、知らない?」
「知ってるけど、そうじゃなくて」
「知ってるなら適任だね! ピカ達でもよかったんだけど、あの二人、忙しいからさ~♪」
「おい。話を聞け。おれの、話を!」
ピカさんでも勝てないんだから、すーくんだって勝てないって。諦めなよ。
すーくんは、あからさまに舌打ちしているけれど、親方さんはものともしない。よろしくね! と笑顔のままだ。
私達が出ていこうとすると、親方さんはすーくんだけを呼び止めた。見るからに嫌そうな表情を浮かべるものの、避けて通れる道ではない。
「二人は先行って、準備してこい」
……という、すーくんの指示を全うすべく、私とチコちゃんは、ギルドを出てそのまま、トレジャータウンへと足を運んだのだった。

まず必要なのは何かと言えば、道具を買い揃えるためのお金だ。ってなわけで、フゥさんの銀行へとやって来た。今までにゲットした道具はまだたくさんあるし、そこまでのお金は必要ないだろうけれど、多く置いておく分には問題ない……はず。
「こんにちは! 二千……いや、千ポケくらいでいっか。引き出し、お願いしまーす」
「はいよ~♪ 珍しいな、お前達二人で買い物か?」
後ろの金庫をガチャガチャやりながら、フゥさんが話しかけてきた。フゥさんの言う通り、私達二人だけってのは久し振りな気がする。
いつもはすーくんがてきぱきやっちゃうし、ピカさんと探検行くときも横で見るだけだもんなぁ……
「時間短縮ですよ。フォースは今、親方とお話し中なので。ところで、フゥさん、『シキやま』って知ってますか?」
「おー……知ってるよ。四季に合わせた山の風景が綺麗だって有名だぞ。ま、一般人だけで行くようなところじゃないからな~? 専門家と行って楽しむようなところ。……イブ達、今から行くのか?」
お金の入った小袋をカウンターに置いて、フゥさんは首を傾げる……とは言っても、フゥさんに実際首なんて存在しない。まあるい風船みたいな体を少しだけ斜めに傾け、それっぽい動作をして見せた。
「はい♪ 実は親方さん直々にお仕事を頼まれたんですよ~♪」
「はあ~……プクリン親方からねぇ? 成長したってことだっ!」
「あはは。そうだといいんですけどね」
「謙遜すんなって、イブ。ほらよ。きっちり千ポケ! まあ、あそこは何かと噂が絶えねぇけど、頑張れよ~♪」
フゥさんからお金を受け取り、そして、何やら気になることも添えて、だけど。……でも、次のお客さんの対応を始めてしまい、詳しく聞けなかった。
「なんだろ、噂って……?」
「さあ? 行くの大変って話だし、迷子が絶えないとか? 遭難スポット第一位……とか」
なんでそんな方向ばっかり。もっと明るい噂がいいなぁ。景色はきれいって話もあったし、そんなのがいいよ。せっかく行くんだもん。
お次は倉庫と商店か。お隣同士だから、いっぺんにできちゃうかな?
倉庫はチコちゃんに任せ、私はその隣にあるアイスさんとホットさんのお店を覗く。丁度、お客さんがいなかったらしく、アイスさんが私達にすぐ気がついた。そして、ホットさんも少し遅れて、こちらを見る。
「よっ! 何か用か?」
「あら、お仕事かしら?」
「はい! えっと、ダンジョンじゃないので、食料全般を見たいなーって」
「ダンジョンじゃないのか。どこ行くんだ?」
「『シキやま』です」
場所の名前を告げると、アイスさんとホットさんはお互いの顔を見合わせた。やっぱり、有名なところらしく、探検隊でもない二人がこんな反応をするとは、どんなところなのか。
「あら、あそこ……イブちゃんとチコちゃん、ちゃあんと帰ってこられる……のかしら」
あ、あう。いや、すーくんいますし!!
この辺だと、すーくんも姿を隠さずに出歩くようになったため、ホットさんもアイスさんも……ついでにフゥさん達、トレジャータウンのみんなは、顔見知りだ。すーくん本人は不服っぽいけれど、ピカさんが面白おかしく紹介しまくったのが主な原因。私的には全く問題ない─むしろ、もっとやって欲しいくらい─ので、名前を出しても大丈夫だし、すーくんの頼もしさはみんなが知っている。
「あらあら。それなら、大丈夫かしらね? 大丈夫じゃなくても、捜索隊が組まれるから大丈夫ね」
怖いこと言わないでくださいよ、ホットさん!
「ふふっ♪ ごめんなさい。あそこ、遭難者が多いって話を聞くの。それに……なんだっけ? 悪魔? が住むとかなんとか」
あ、あく、ま?
すると、アイスさんは首を傾げて、そうだっけと呟いた。
「俺はありとあらゆる不思議現象があるって話を聞いたぞ。何もないところから火が出たり、物が浮いたり? 幽霊的な……こう、オカルトチック? な噂だと思ってたけどな」
ゆ、ゆーれー!!??
私の反応に、アイスさんはやっちゃったみたいな表情を浮かべた。そんな顔をしたところで、聞いちゃったものは聞いた。忘れるなんてできっこない。
「ま、まあ、フォースがいるなら、大丈夫だろ。あいつ、そういうの平気そうだし?」
「平気ですけど……すーくんはちょっと意地悪なので、そんな話聞いたら、面白がって、いたずらするかもじゃないですか!! 責任! 取ってください!!」
「ごめんって! 単なる噂だし、他にも色々あるっぽいしよ~……でも、噂は噂。その域を出ないってやつ? 多分、しょーもないもんが一人歩きしてるんじゃないかな。こういうのって、するのは楽しいだろ?」
私は楽しくないです……けど、確かにうわさはうわさだよね。気にしても仕方ないかな。
「ほい。一応、予算内ギリギリの分。まあ、こんなにいらんだろうけど」
ぼんっと置かれた食料袋を受け取って、ちらっと中身を確認。思ったより入っているから、少し返そうかと思ったけれど、アイスさんは首を振った。
「いいって。貰っとけ貰っとけ」
「で、でも……食料以外も入って……」
「出世払いでいいぞ。これでも期待してっから。ピカ達から直々に指南受けてるし?」
うっ……そういうの、プレッシャー……だけど、素直に期待してるって言われるのも悪くない、かもしれない。それだけ、見てくれているってことだ。私達のことを応援して、頑張れって言ってくれているんだもん。
「ありがとうございます、アイスさん! ホットさん! 行ってきますね♪」
よぉし! 頑張るぞー!



~あとがき~
月一更新な空と海です。
忘れそうになってたのは内緒。

次回、三人揃って『シキやま』へ!
そこまで長くしないぞって思ってるけど、多分、長くなると思う。(無計画)

ちょっと謎の多い『シキやま』にオーシャンとフォースが挑みます。悪魔とか幽霊とかなんとかありますが、どうなることやらですねぇ~(いつも通りの見切り発車)
そして、久し振りにフゥ、アイス、ホットの三人が出てきました。もうな、何年ぶりよ!! ヤバイね!?
本当はロールとかも出そうかと思ったけど、出るタイミング逃しましたね。ごめんね。ごめん……
ホノオも出そうかとちらっと考えたけど、カットです。カット……いいかなって(汗)

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第74話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で好き放題している物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック。
前回、切りどころが分からなくて、かなり長くなりましたが……まあ、そんな日もあるよね。ってことで、ツバサちゃんの父、アルフォースさんこと、アルさんの登場回でした。他にも色々あったけどね。重要なのはここだけです←
今回はラル視点は一度、放置してDブロック行きまーす!


前の三ブロックと同様に放送部からの案内で百人の生徒達が集められる。予選最終ブロック、Dブロックである。
『これが泣いても笑っても最後の予選ブロック! 結構、バランスよく学年も学科も配置されてるって感じだな~♪ さあさあ! 観客のみんなも、待ちきれないよなぁ!? 相棒!!』
『ひゃい!! そ、それでは、Dブロック開始でしゅっ!!』
語尾を最大に噛んでしまっていたが、試合開始の鐘は綺麗に鳴り響いた。
屈伸やストレッチをしていたシエルは、鐘の音と共に、両頬を気合いを入れるかのように強く叩く。
「……僕以外の皆は、この先に勝ち進んだ。負けてられないよね!」
シエルと仲のいいアラシ達は─その中でも色々あった人物はいるものの─順調に、トーナメントへ駒を進めていた。この流れに乗りたいものだが、レオンやアリア……そして、ミユルのような、大型、あるいは範囲魔法を使用する手立てはシエルにはなかった。魔法が不得意というわけでないが、一発で形勢逆転できるようなものは持ち合わせていない。
そんな彼がここで勝ち残るには、至極単純な方法しか残されていなかった。
「せやあぁぁっ!!」
「おっと!」
接近戦で地道に倒していく。それだけである。
シエルは腕を竜化させると、襲いかかってきた相手を片手で受け止める。腕力の上がった彼に捕まった生徒は抜け出せず、場外へと投げ飛ばされた。
竜族である彼は、身体の一部を竜化させることで、身体強化を行える。今は、腕を硬い鱗に覆われた竜の腕に変化させたが、他にも足や尻尾を変化させることで、自身を強力な武器へと変化させられるのだ。もちろん、飛ぶための翼だけを出現させ、空中戦も可能である。しかし、空に逃げている生徒はいない。シエル以外にも飛行手段を持つ者はいるはずなのに、だ。
「無策に飛ぶのは……的になりやすいか」
何も考えずに空へと逃げてしまえば、地上から遠距離攻撃を受けたり、武器による攻撃をされたりと、何かと狙われやすい。それならば、初めから地上戦として対策を練っていた方が気も楽というものだ。シエル自身、空中戦なんてこれっぽっちも考えていなかった。
完全に竜化し、人の姿から完全なるドラゴンになって、この場にいる全員を蹴散らすことも可能ではあった。しかし、それは大会のルールとして……それ以前に、学園のルールとして許されていない。
つまり、シエルができるのは一部の強化のみ。
気の遠くなる話だが、愚直に進むしか道はないのだ。……誰かが強力な範囲魔法や範囲技を使用しない限りは、だが。今現在、会場の雰囲気を見るに、そのような動きをしている人はいない。
去年の今頃、シエルは半ば興味本位で─自分の中では記念のつもりで─参加した大会では、予選敗退という結果に終わっていた。当時は数人の乱闘が行われ、最後まで残っていた人が最終ブロックの乱闘へと駒を進められるルールだった。どのようになるのか楽しみ半分、緊張半分だったシエルが割り当てられたブロックは、透き通るようなブロンドの少女が一瞬で勝負を終わらせてしまった。身構えずに、更には武器も構えず、技一つで。
……その少女が二年生にして、生徒会長を任されていたラルであったのは、試合が終わってから気がついたのだ。
今回参加したのは、その結果を不満に思っていたから……ではなく、ミユルと似たような理由だった。入賞賞品目当てである。ほんの少し、リベンジも兼ねてはいるが、ほぼセラの講習会目当てだった。
着実に向かってくる相手を倒しながら、そのような戦いにあまり関係のないことを浮かべていた。それくらいの余裕が自分にあるのかもしれない。昔の自分の記録は更新していると感じていると、後ろから気配を感じる。その気配の居所めがけて、尻尾で凪ぎ払うように振り回すが、手応えはなかった。しかし、気配はぱたりと消えている。
「……?」
どうなっているのかさっぱりだったが、答えを探すにも情報がなさすぎた。気のせいだったと済ませる方がずっと楽に思えるくらいに。

シエルが地道に相手を倒している同時刻。
同じブロックに割り当てられたユーリは、リング端で両足を水路側に投げ出した状態で座っていた。彼の目の前には戦いを見守る観客が大勢いるが、その誰一人として、戦意の欠片もない彼を見ようともしていなかった。
「混戦してるなぁ……」
黒いグローブをはめた両手で、何もない空間から、くるくると糸を巻き取るような動作をしながらぽつりと呟く。
自身に幻術魔法をかけて、気配と姿を隠し、更にフィールド上にばら撒いた監視用の小狼達を通して、しばらくの間、情報を集めていた。この狼達も極力、微量の魔力で生成し、気付かれないように配慮させている。
今現状の情報をまとめると、今までのブロックとは違い、誰かが大技を仕掛けている様子もなく、単純な力比べとなっているらしい。ある意味、平和な予選かもしれない。
考えるよりも行動派な幼馴染みとは違い、完全に頭脳派のユーリは無闇に戦闘へと赴きたくはなかった。まずは周りの状況把握、そこから自身の打てる最善を、がデフォルトである。いつも、ユーリの側には無鉄砲なイツキがいるからだろう。
「あいつを動かすだけでどうにかなるなら、そっちの方が楽だったかなぁ」
と、そこまで考えて、イツキの力に依存した立ち回りを普段からしているんだなと、他人事のように考えた。一人でも戦えるはずなのに。
パッと手を手を広げ、空を見上げる。何の変哲もない空だが、所々、日の光を浴びてキラキラしているところがある。それを確認して、大きなため息をついた。
「はー……そんな自分が嫌になる」
一言漏らし、横に置いてあった細剣を持って立ち上がる。剣を腰に装備させてから、服についた砂埃を払い、くるりと後ろを振り返った。
変わらず、ごちゃついた戦場を見据え、どこを狙うか目星をつける。この際、誰でもいいので近場の男子生徒にした。
「……狼達はまだ放った状態で、僕の魔法を解く」
左手を剣に添えてから、地面を蹴って一気に加速する。相手の懐へ潜り込んだのと同時に幻術魔法も解いた。相手からして見れば、いきなり見知らぬ相手が、目の前に現れたように錯覚する。ユーリの姿を捉え、かなり驚いているのがはっきりと見えた。
状況を理解していない相手をそのまま峰打ちで黙らせ、再び近くにいる生徒に狙いを定める。
「こいつ、いつの間に……!」
「僕一人では、遠距離戦に不向きですけど、接近戦は得意なので」
幻術魔法を解いた後は、単純な身体能力勝負だった。遠距離攻撃を使われる前に距離を詰め、体術、若しくは、手元にある細剣で仕留める。事前に仕掛けた魔法以外は使わずに、次々と倒していく。
「くっそ……!」
「すみません。もうそろそろ、終わりにしたいんですよね。……っ!?」
ある生徒を倒した後、ユーリはばちんと何かが弾けたような感覚に襲われる。それが、誰かからの攻撃……ではなく、自分が仕掛けた狼が一つ消えてしまったのが原因だった。こちらから切るのではなく、一方的に切られたために起こったのだ。
消された狼が映していたのは、竜族の少年だった。彼をずっとマークしていたわけでもなく、たまたま捉えたに過ぎない。参加者が減り、それに合わせて狼を減らしていたユーリは、特定されるのを防ぐために、一人に留まらせずに絶えず移動させていたのだ。それなのに、少しの気配を察知し、本能的に攻撃してきたのだろう。
「最後に見えたのは……シエル……えっと、シルフ、さん……だっけ? よく気付いたな」
やられたという苛立ちや悔しさよりも、単純な感心を抱く。様々な魔法や技が飛び交う中、ユーリの魔力なんて微々たるものであったからだ。
「奥の手を使うような場面だけは避けたいですね」
剣を構え直し、飛んでくる風魔法を縦に真っ二つに斬り伏せると、その術者めがけて走り出した。

『そこまで!! Dブロックを勝ち残った二名が決定だあぁぁ!!』
後半は無我夢中で戦っていたシエルは、リュウのストップがかかって、竜化を解いた。強化していたとはいえ、武器相手にも素手で戦っていたいたために、あちこち擦り傷や切り傷でボロボロだった。とはいえ、シエルにとってはほんの掠り傷程度で、特に問題はないし、想定内の範囲だった。竜族の固有能力として、自己再生能力があるからだ。時間はかかるが、トーナメント時には問題なく戦えるまで回復する。
『トーナメント進出を決めたのは、魔術科二年のシエル・シルフ先輩と……同じく、魔術科二年のユーリ・ケイン先輩……ですっ!』
自分の名前を聞き、今回は残れたのだと安堵した。今までのブロックよりは時間がかかった気がするが、制限時間内には終われたらしく、それに関してもホッとした。
シエルと共に勝ち上がった相手を探してみると、すぐには見つけられない。しかし、よく見てみると、その場にしゃがみ、倒れた生徒達に紛れてしまっているらしい。なんとなく近づいてみると、彼は何体かの小さな狼に囲まれていた。場違いな光景ではあるが、ユーリは対して気にしていないのか、狼の頭を撫でていた。シエルと比べ、目立った怪我もなく、息も上がっていない。
近づくシエルに気づいたのかまでは定かではないが、ユーリはその場から立ち上がると、ぱちんと指を鳴らした。すると、ぷつんと何かが切れたように、張り詰めたフィールドの空気ががらりと変わる。
……否。変わったというよりは、元に戻ったと言うべきだろう。今まで、戦場だから変に思わなかっただけだ。この変化に気付いている人は果たして、どれだけいるのだろう。それくらい、高度であり練度の高いものだった。これを作り出したのは、もちろん、シエルではない。この戦いで魔法は一切使ってこなかったのだから。となると、これを引き起こしていた人物は一人。
「……魔力に囲われていた、の? これ、君が?」
「僕の奥の手です。使わなくてすみました」
「君のメインは剣じゃなくて、糸……それも、魔力で紡がれた糸を、フィールド全体に張っていたんだね。でも、それを使えば一瞬で終わっていたんじゃないの?」
具体的な使用方法は分からないが、糸が届く範囲であれば、ユーリの状態異常魔法……デバフ魔法も簡単に広げられたはずだ。ミユルとは手段が違うが、似たようなものである。
「そうでしょうね。それくらいの自信はありますが……まあ、先生に極力使うなと言われていたので、本当に死にそうなときにと」
「先生……?」
「友人と僕の剣の師匠です」
魔法を使う者の中には、サポートメインになる黒を蔑む輩は少なからず存在する。攻撃魔法を使えないからと舐めてかかるのだろう。それを補う方法はいくらでもあるが、純粋な魔法対決となると、分が悪いのは確かだ。シエルに黒が劣勢だとか、そんな偏見は一切ないが、ユーリの周りがどうだったのか想像もつかない。
それに、シエルとユーリは面識があるわけではなかった。というのも、中高通して、同じクラスになった経験がない。そのため、ユーリが現在、ミユルと同じクラスで、生徒会役員というくらいしか知らないのだ。そんな浅い関係しかないシエルが、彼の気持ちを計り知るのは不可能というものである。
「トーナメントは昼休憩後に始まります。もし、当たったらよろしくお願いしますね。シルフさん」
ユーリは数匹の狼を肩や頭の上に乗せてるものの、器用に小さくお辞儀をする。同年代からファミリーネームで呼ばれる機会がないためか、むず痒い気分になる。
「シエルでいいよ。……その代わりって言うとおかしいけれど、僕も君のこと、ユーリって呼んでも構わないかな?」
「構いません。お好きなように」
「それじゃあ……よろしくね、ユーリ」
差し出した右手をユーリは一瞬見つめると、はめていたグローブを取り、シエルの手を握り返した。



~あとがき~
途中まではすらすらだったのに、最後でつまずくとは……予想外……

次回、ラル視点に戻し、一方その頃やります!
それが終われば、剣技大会も半分終わったと思える……気分的な話ね。話数じゃなくてね?

シエル君の戦い方もほぼ捏造ですよ……どう戦うのか聞いて、私がましまししてます。何も語れない←
身体の一部を竜にさせて、筋力やらなにやらを強くさせてるって感じです。体術です。それだけです……!
あ、あとは、去年の大会も参加した経験ありとのことなんで、過去も捏造させていただきました……ラルだけ過去の大会でどうしていたのか出してなかったんでね。それも兼ねて。

ユーリはイツキ程ではないにしろ、ある程度、武器の扱いは器用です。まあ、だからってほいほい色んなものに手は出してませんけど。
そんな彼のメインは糸ですね。今回使用したのは、自分の魔力を練って、見えない糸を作り出し、張り巡らせることで、本来、威力の低い or 範囲の狭い魔法も遠くへと届かせることができます。ユーリを介せば攻撃魔法も運べるかもね。知らんけど((
ただ、既存の糸ではなく、いちいち練らないといけないので、手間はかかりますがね。
まあ、普通の武器としての糸も扱えますので、持ってはいると思います。メイン武器とは言っているものの、普段はサポート入ったり、体術で黙らせたり、武器あっても剣使ったり、出番はあまりないですけどね(笑)

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第73話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でどんちゃん騒ぎしている物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ミユルちゃんが参加していたCブロックが終わりました。そして、今度はDブロックー!! と、行きたいところですが、また箸休め話入ります。時間は遡って、Cブロック始まる前になりますね! どぞどぞ!!


《L side》
障害物がなくなり、ようやく予選Cブロックが開始できるようになった。そのため、Cブロック参加者を呼び掛けるアナウンスが響き、私達が待機している通路にもぞろぞろと生徒達が横切っていく。やる気十分な生徒達の邪魔にならないように移動しながら、私はティールに連絡を取った。
「何もなかった?」
『うん。観客に何か被害は出てないよ。ちょっとした花の取り合いは発生してたけど……大したことじゃない』
花? あぁ、ツバサちゃんと理事長が作り出していた、氷の造形か。
『全体的にラルが好きそうな感じだったんだけど、君、通路から出てきてないでしょ? 残念だったね』
ティールの言う通りで、通路からツバサちゃん達が行っていた解体ショーを見ていた。そこからでは近いと言えば近いのだが、残念ながら、全てが綺麗に見えたかと問われれば、NOである。これは仕方ないのだが、角度的な問題である。まあ、全く見えなかった訳ではないのだけれど、外で警備しているティールとは雲泥の差ではある。気分的な問題で。
「うっ……結構悔やんでるんだから、そんなこと言わないでよね」
『……ラルの場合、ツバサに似合う衣装を準備すればよかったとかなんとか思ってるんだろ?』
「あぁ~……それもあるけど、全体をしっかり見れなかったことにも悔やんでるよ? さ、三割?」
『残りは可愛い衣装が~……っていう考えか』
うるさいなぁ……そりゃあ、魅せるためなら必要でしょうよ! 可愛い衣装!!
まあ、自分が着るってなると話は変わってきますれけどね。これはあくまで、天使のように可愛いツバサちゃんがやったからこそ出てくる感想。仮に私がやるってなるなら、制服のままでいいんだよ。そういうことなんだよ。
「んんっ! これから警備体制を通常に戻す」
邪心を相棒に読まれたことを誤魔化すため、─全くの無意味であるが─私は、至極真面目な声を発した。それを茶化すような相棒ではないものの、小さな笑い声が聞こえた後、肯定が返ってきた。
『了解。今の隊を解体して、本来の持ち場につくように指示を出しておく』
「任せる。何かあれば連絡よろしくね」
『ラジャー』
どうでもいい会話が多かったが、言いたい内容はしっかり伝えたので、問題ない。
通信を終えると、隣に控えているイグさんに話しかけた。ツバサちゃんが来るまでの暇潰しだ。
「それにしても、さっきのは凄いの一言ですね。近かったからかもしれませんけど、かなりの圧と言うか、威力を感じました」
「セラおばさんはもちろんだけど、『神の祝福』を受ける前のツバサも凄かったな。まあ、ツバサの家系は、魔力の質も扱いも秀でているからな♪ 魔法に疎いラルでもそれくらいは分かるだろ?」
「その言い方は私を馬鹿にしてるでしょ……」
ツバサちゃんの家系が優秀なのは、ツバサちゃんを見ていれば予測可能だ。彼女が白であるから、ではない。十二歳にして、高等部へ入学できる程の力を持っているという点である。また、兄のツルギ君も高度な幻術魔法を使えることからも、血筋なのだろうと推測は可能。まあ、双子が優秀なだけとも考えられなくはないが、それはないと言える。根拠としては、二人の母親、セラ理事長だ。理事長もあまり表舞台には出てこないものの、噂程度には耳にする。理事長の魔法、それに関する知識の高さが物語っている。以上のことから、ケアルの血が魔力の高さ、扱いに長けた人々を代々産み出しているのだろう、と考えを巡らせるのは容易である。
何が言いたいかって、イグさんにそんなことを言われるのはとても心外だの一言。しかし、私が魔法関連の知識に乏しいのは、自身がよく分かっているので、これ以上は何も言わない。……つもりだったのだが、呆れ半分のため息が聞こえてきた。
「お前、戦場では技だろうと魔法だろうと、それに見合うだけの的確な動きをするくせに、知識になるとてんで駄目だよな?」
それは相手の動きを観察していればある程度の予測ができるからだ。相手の見た目、身に付けている装備、口にする言葉、目の動き、呼吸、気配等々……ありとあらゆる情報をかき集め、どのような動きに出るのかを見ているに過ぎない。それに加えて、これはもう野性的な勘というか、培ってきた経験を合わせて、最善の策を練り上げ、実行。あるいは、チーム全体に指示を出す。……という、戦い方をしているので、正直なところ、魔法式を覚える必要はない。それを覚えるくらいなら技の一つでも修得する方が有意義である。
それに、魔法関連はティールに任せておけばいいのだ。うん。この一言に尽きるな。
「私の記憶領域にも限度があります。私が使えない魔法式やら魔法知識やらに、その領域を侵されるわけにはいかないんですよ。避ければ、どんな大魔法を使えたところで失敗です」
「そこら辺、脳筋の考えだぞ~?」
「どうせ私は脳筋プレイ厨ですよーっだ」
「いじけんなって~? ラルの冷静で高い分析力は武器なんだから、そこに魔法知識も組み込めばもっと幅広がるって話で……っと、ツバサが帰ってきたな。この話は一旦やめやめ♪」
イグさんのプチ授業はここで一旦区切られ、こちらに駆け寄ってきたツバサちゃんを見る。武器は魔法か何かで収納したのか、手元にはなく一人で戻ってきた。どうやら、理事長とは別行動らしい。
「お帰り、ツバサちゃん。そして、お疲れ様。とっても綺麗だったよ~」
「わっ! 本当ですか? ありがとうございます、ラルさん!」
「あれ? ツバサ、おばさんは?」
「お母さん、このあと、大切なお客様をおもてなししなきゃなんだって。だから、私とは反対側の出口に行っちゃった。……でもね、お母さんもさっきのショー、褒めてくれたんだよ!」
とっても嬉しそうに報告するツバサちゃんを見て、イグさんは自分のことのように嬉しそうに笑う。そして、ツバサちゃんの頭を優しく撫でた。
「そっか♪ そっか♪ よかったな、ツバサ~」
「えへへ……うんっ!」
「ほい。消費した魔力をこれで回復しとけ」
「ありがと! イグ兄」
イグさんが渡したのは、少し前にリアさんのところで拝借した魔力回復ポーションだ。私には魔力なんてないから、一度も飲んだことはないのだけれど、どのような味がするのやら。
……しかしまあ、私との対応の差がヤバイ。はー……差別だ差別だ~……なんて、私が生意気なのが悪いんだけどね? 分かってる分かってる。というか、イグさんに優しくされた暁には、何かあるんじゃないかと勘繰りますのでね。─ぶっちゃけ、イグさんは基本的に優しい人だけれど─人を疑わなければやっていけない……それが私の悲しい性……いや、本当に悲しいな。ま、あれこれ騙されてきた人生なので、仕方ないですけど。主に親方が悪い。
「おい、ラル~? 救護室まで戻るぞ?」
いつの間にか微笑ましい二人のやり取りは終わっていて、一人で勝手にブルーになっていた私に呼び掛けた。私の思考は表に全く出ていなかったらしく、いつも通り平然としている。
「りょーかいです、先生」
「お、おう? なんだなんだ。いきなり……?」
「気紛れですよ。知ってるでしょう?」
「それは知ってるけどな~? ラルの言動はどこに意図があるのかさっぱりなときあるから、聞いてるこちとら油断ならない」
意図なんてないですよ。……きっとね?
わざとらしく陰りを見せつつ笑うと、予想通り、イグさんはじとっと疑うように見つめてきた。
「うわぁ~……怪しい」
「ふふ。心外です」
「……あの、ラルさん! 救護室のときから思ってたんですけど、イグ兄と仲良しなんですね?」
ずっと疑問に感じていたのか、少し食い気味であった。『イグ兄』と呼ぶのだ。幼い頃から慕っているのだろう。
「そいや、明確にラル達の名前は出したことなかったな~……それに、アラシにも話してないや」
てっきり、過去に話しているものだと思っていた。ちなみに、私はイグさん達の口からツバサちゃんやアラシ君達の名前は聞いたことはない。ここに入学してから知った仲だ。
「私とティールはね、イグさんとリアさんとは約四年くらいの付き合いがあるの。主に探検について色々と教えてもらっていたことがあって、今もまあ、縁あって、たまに仕事もらったり押し付けたり……?」
「そりゃ、お互い様だな♪」
二カッと爽やかな笑顔をいただき、これからもよろしく的な空気を感じ取った。それこそ、お互い様である。
「ふえ~! じゃあ、どんな風にイグ兄と師匠に」
「ツバサ」
ツバサちゃんの言葉に被さるように聞こえてきたのは男性の声だ。優しく、落ち着いた印象のある声。私達が呼び掛けられた方を振り返ると、何やら箱を抱えた男性が立っていた。見た目はイグさんよりも年上だろう。ユーリ君と同じ黒髪に、狐族特有の大きく、ふんわりした耳をぴんと立てている。そして、何より、ツバサちゃんと同じ、黒と青のオッドアイ
一瞬、侵入者かと身構えるものの、私の中にいる雷姫は何もアクションを起こしてこなかった。それに、隣のイグさんも警戒する様子もないし、何よりツバサちゃんの名前を呼んだ。
つまり、敵ではない……のだろう。
そんな私の予想を裏付けてくれたのは、呼び掛けられたツバサちゃん本人だった。嬉しそうに尻尾と耳をぱたぱたさせ、呼ばれた方へと走り出す。
「あっ! お父さ~ん!!」
「おー! アルフォースおじさん!」
「イグニースくん、久しぶり。元気にしていましたか?」
「うすうっす♪」
どうやら、ツバサちゃんだけじゃなく、イグさんとも面識がおありのようで。……まあ、順当に考えれば、アルフォースと呼ばれたこの男性は、ツバサちゃんのお父さんなんだろう。
アルフォースさんとやらは、抱えていた箱を地面に下ろして、しゃがんだ状態でツバサちゃんの頭を撫でている。撫でられたツバサちゃんは、とっても嬉しそうに尻尾を揺らしていた。
「ツバサ、お疲れ様。さっきのショー、とっても素敵だったよ」
「! ほんと!?」
「もちろん。即興とはいえ、よく頑張ったね♪」
微笑ましい場面に水を指すような行動は慎みたいのだけれど、あまりにも疎外感が強すぎる。それに耐えきれなかった私は、イグさんの裾を軽く引っ張る。
「……イグさん」
「あーそっか。ごめんごめん♪」
私が気まずそうにしていたのが表に出ていたのだろう。申し訳なさそうにイグさんが耳打ちしてくれた。
「あの人はツバサの親父さんで……『明けの明星』っていうギルドの親方、ルーメンさんって人の補佐もしてるんだ」
「……明けの、明星……?」
うぅん……『明けの明星』のルーメン? どこかで聞いたことのある名前だけど、どこで聞いたのか、どんなギルドなのか思い出せない。恐らく、有名なところではあるのだろうけれど、パッと出てこない辺り、私は行ったことがないところ……なんだろう。ティールなら知っているだろうか?
ふと伏せていた顔を上げると、アルフォースさんと目があった。目があったのはたまたまだろう。しかし、どこか見透かされている感覚に陥る。なぜ、そう感じたかは分からないが、思わず目を逸らし、右手で胸を押さえる。手のひらから自分自身の鼓動が伝わり、また、心に巣食う雷姫も感じ取った。
……こいつがいる限り、見透かされるなんて、あり得ない。大丈夫。……ん? そもそも、雷姫が大人しい時点で、何もないことは分かりきった事実。何を慌てているだろう。私は。
軽く深呼吸をし、再びアルフォースさんと目を合わせた。挙動不審な私に、不思議そうにしているものの、目を合わせたことに気がつくと、にこりと笑ってくれた。
「妻の学園……高等部の生徒会長さん、ですよね? 初めまして。ツバサの父のアルフォース・ケアルと申します。いつも娘からあなたのお話は伺っています。大変お世話になっているようで……」
年下相手にもご丁寧な口調で、アルフォースさんは優しそうな笑顔を浮かべていた。そこまで畏まるとは思わなくて、私も慌てて頭を下げた。
「こ、こちらこそ、ツバ……いえ、娘さんにはお世話になっています。……申し遅れましたが、冒険科所属、三年のラル・フェラディーネです」
フォース君も落ち着いた雰囲気だけれど、この人はまた別の雰囲気を漂わせている。なんだろう。これがお父さんの貫禄……? 違うか。
「ところでおじさん。なんでこんなところに? いくらおばさんの夫でも、ここは関係者以外立ち入り禁止っすよ?」
アルフォースさんがこの場にいる理由が気になったらしい、イグさんが質問を投げかけた。そんなイグさんに向かってアルフォースさんはにこりと笑う。
「実はお義父さん……親方から、これを救護室まで持って行ってくれって頼まれて」
そう言うと、アルフォースさんは、地面に置きっぱなしだった箱の中身を見せてくれる。中には青色の液体が入った小瓶数十本と何かの薬草だった。
それを見たツバサちゃんはこてんと首を傾げながら、小瓶を指さした。
「お父さん、これなあに?」
「う~ん……お父さんも詳しくは知らないんだけど……状態異常回復系ポーションと薬草かな? Bブロックが終わった辺りで急に持って行けって言われたんだ」
アルフォースさんの言う通り、青色の液体は状態回復用のポーションで、薬草も魔素が溶け込んだ水といくつかを組み合わせると、あら不思議、回復用ポーションの出来上がりとなる、材料の一つだ。もちろん、それ単体でも効果はあるが、基本的にはポーションにした方が、薬草の節約になる。薬草一枚で一人を回復させるのか、薬草一枚でポーションを量産するのかの違いだ。まあ、ポーション作成は専用の器具がなければ作れないため、緊急なら薬草のまま利用すればいいというわけだ。
……とまあ、そんな道具達をなぜ、それらをルーメンさんがアルフォースさんに持たせたのかは、なんとなく分かる。
Bブロックで無事だったのは二人。残りは凍結やら体温低下による運動制限のデバブやらのオンパレードのはず。こちらが前もって準備していた道具だけで到底足りるはずもない。あるいは、トーナメントに進んだアリアちゃんの更なる攻撃を危惧してってのも考えられるが……まあ、どちらにせよ、アリアちゃんのためのもの。またの名を犠牲者の救済といったところか。
「……多分、アリアちゃん関連かなって。あの巨大氷山を見て、お義父さんが必要になるだろうと予測したんだと思う」
私と似たような考えをアルフォースさんも感じ取っていたらしい。Bブロック終了後となれば、そのような考えが浮かぶのも容易いというものだ。
「じゃあ、一緒に救護室へ向かいますか? 私達も行き先は同じなので」
「そうかい? それじゃあ、お言葉に甘えて、同行させてもらおうかな?」
すぐそこではあるんだけれど、一時的にパーティーを増やし、私達とアルフォースさんは救護室へ向かった。



~あとがき~
長いのは切るところがなかったからです。

次回、Dブロック開始!
残り、出てきてない子達はだーれだ!!←

色々言いたいことはあるけど、長かったので、これだけ!
機会があれば、ラル&ティールとイグ&リアの出会いの話を書きたいなーと思っています。話自体は練り上げてあるのですが、如何せん、滅茶苦茶長そうなので、出すかは微妙なところですね。出したいけど。
これだけ!! 言いたかった!!((

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第72話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわやわやする物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
予選の箸休め、氷山解体は終了しました! Cブロックをね! やっていこうと思いますよ!! はい!
また苦手なバトル描写。単調なものになりそうですが、気晴らしにでも見てってくださいな。わちゃわちゃっとしたのは次回にね……きっと、うん。あるから……(笑)


セラとツバサが全ての花を配り終え、観客に向かって頭を下げる。鳴り止まない拍手の中、セラは顔を上げたツバサにそっと呟く。
「お母さん、ある人のおもてなししないといけないの。イグくんと会長さんのところに一人で戻れる?」
「うん。お仕事、頑張ってね、お母さん♪」
笑顔で頷くツバサの髪をふわりと撫で、セラは入ってきた方と反対側へと歩いて行った。ツバサもセラに背を向けると、周りの観客に手を振りながら別の出口からフィールドを離れた。

二人が出ていった後、お馴染みになりつつある、放送部二人の声が聞こえてきた。相も変わらず、ハイテンションなリュウの声が会場を包み込んだ。
『言葉に表現するのが難しいくらい美しく、可憐なショーだったな! いやぁ……こんなショーは二度と見られないかもだぜ!?』
『そ、そうですね! 二人のお陰で大会も続行できそうですし……』
『だなっ!! つーことで、予定通りCブロック開始するぞぉ!!』
『ひゃ……!? Cブロックしゅちゅ、出場者は、こちらのリングへとお集まりくださいっ!!』
キャスの言葉に被さるように話し出したリュウに驚いたのか、キャスの声が若干裏返る。最後は何とか持ち直したものの、噛んでしまった事実は消えてはくれない。熱くなる顔を手で押さえながら、モニターを見た。
すでに通路近くで待機している生徒達がいたのだろう。ばらばらとフィールド上に移動しているところだった。
予選も残るはあと二つ。Bブロックでは予期せぬトラブルに見舞われたが、残りのブロックは平和に終わって欲しい。これは、キャスだけが考えている訳ではないだろう。取り仕切る生徒会も、大会実行委員会も同じように思っているはずだ。
隣ではリュウが涼しい顔で台本をチェックしている。とはいえ、チェックなんてせずとも、次の予定は頭に入っているはずだ。手持無沙汰なだけで、なんとなく近くにあった台本をペラペラと捲っているだけに見える。キャスにとって、鬱陶しいくらいに構ってくる先輩ではあるが、それと同時に頼りになる人でもあった。
最後までリュウ程ではないにしろ、努めて明るく振る舞い、来てくれている人々に楽しんでもらいたいと気持ちを入れ直すのであった。

Cブロックに割り振られたミユルを含めた百名の生徒達がフィールドへと集まっていた。ミユルが周りを見渡せば、知った顔よりも知らない顔の方が多く、彼女のような女子生徒は少ない。先に行われた二つも、傾向的には男子生徒が多かった気がする。元より、このような戦いを楽しめるのは好戦的な人達に限るのだろう。友人であるアラシ、レオンが賞品に興味がなく、自らの力試しのために参加しているのがいい例だった。対するミユルは、今回が初参加。そして、優勝賞品ではなく、入賞賞品に興味があり、セラの講習会がなければ、参加してなかったかもしれない。つまるところ、ミユルは優勝をしたいわけでなく、四位入賞……準決勝まで駒を進められれば目的達成であった。
『色々あったが、これから予選! Cブロックを始めていくぞ!! このブロックは魔法使用者が少し多いようだな? どんな魔法が炸裂するのか! 見物だぜ!!』
『そ、それでは、試合、開始ですっ!!』
甲高いゴングの鐘が鳴り響き、フィールドは一気に戦場化していく。リュウの紹介通り、魔法使用者が多いのか、あちこちに魔法陣が浮かび上がっては、何らかの魔法が発動していた。もちろん、参加者各々が持つ、武器同士のやり合いも勃発している。
「確実に決めていかないと、ね♪」
ミユルは自分のメイン武器である鞭を構え、周りの生徒達から距離を取る。アリアやレオンのような攻撃的な魔法はあまり得意ではないし、アラシのように力強い武器の扱いもシエルのような体術だって不馴れだ。そもそも、戦闘自体、好きではない。
そんな彼女がこの戦闘を生き残るには、なるべく相手の攻撃を受けないように立ち回り、かつ、短時間で終わらせるのだ。長時間続いてしまえば、攻撃手段に乏しいミユルの勝ち目はなくなってしまうからである。
しかし、先に述べたように、戦闘は好まない。では、どのようにして戦闘を終わらせるのか。
それに関しては、ミユルの中でしっかりと考えてあった。それを実行するため、鞭にあらかじめセットしてあった植物の種を取り出すと、そっと地面に埋め込む。これを何度か繰り返せば、ミユルは勝てると確信していた。
この単純な作業は、何もなければ数分で全てが完了するのだが、現状、そんな楽にいくはずもない。地面に種を蒔く姿が無防備に映ったのだろう。ある生徒が武器を振り上げた状態でミユルに向かって来た。彼の持つ武器は、何の変哲もない片手剣だ。彼の間合いまではあと数歩と言ったところだろう。
……あくまで、彼の、だが。
「そこはもう、私のテリトリーです」
そう呟き、鞭を振るう。鞭が吸い込まれるようにガードが緩くなっていた脇を打つ。バシンと痛々しい音が響き、打たれた生徒は無抵抗に吹っ飛ばされた。呆気なく場外へと……とまではならないものの、地面に力なく倒れているところを見ると、一撃でノックアウトできたようだ。
「ごめんなさいね。これでも、勝ちを狙っているものだから」
年上なのか、下なのか、はたまた、同い年なのかは分からないものの、ミユルはぺこりと頭を下げてから、深緑の髪を揺らしながら、その場を離れた。別の場所に種子を植え付けるために。
それを使うには端ばかり植えるのでは、あまり意味はない。ランダムに植えてこそ、勝率が上がるというもの。そのために、混戦している中央付近にもいくつかは埋め込みたいのである。
それには戦闘が不可欠なのだが、相手との間合いを上手く見極め、相手の武器を取り上げて、峰打ちを決め込んでいく。そして、少しの暇を見つけては勝利の鍵となる種を植えていく。
ある程度、時間が経った頃。ミユルは中央を抜け出し、戦場の端へと移動していた。戦闘によって汚れてしまったワンピースの裾を軽く叩く。
「……私、あまり、戦闘は得意じゃないの」
バシンッ!
ミユル自身が持つ鞭で地面に叩きつける。誰かがいて、牽制するために打ったわけでも、攻撃のために打ったわけでもなかった。
「だから、ごめんなさい。……少し、卑怯な手を使わせてもらいますね?」
申し訳なさそうな言動とは対照的に、彼女はもう一度、鞭を打ち鳴らした。バシンと地面に鞭が当たる音が響く度に、ミユルを勝ちへと誘う花が咲きつつあった。風に乗り、それを運んでいく。
異変に気付いた生徒はどれだけいたのだろう。そして、異変に気付いた生徒の中で、瞬時に対策できたのはどれだけいたのか。
「な、なんだ……か……ねむ、く」
「は、花? いった、い……だれ、が……」
バタバタと倒れていく参加者達。彼らが倒れる瞬間、瞳に映るのは、鞭を持ち、笑みを浮かべる一人の少女。
ミユルが仕掛けたのは、強制的に睡眠状態へとさせる花粉を撒き散らす植物の種だった。その花粉を少しでも吸ってしまえば、対策していない人は瞬時に眠ってしまう。
植物を愛し、操るミユルだからこそ、使える手段でもあった。
『勝負あったー!! このCブロックを勝ち上がったのは……』
『魔術科二年、ミユル・ノフェカ先輩と、魔術科三年、セジュ・クルール先輩です!』
どうやら残れたのは、たった一人だったらしい。そして、なぜ残れたのかもミユルには理解した。
「同じ部活の先輩なら、私の植えた植物の判断できて当然……ってことね♪」
要するに、ミユル同様に植物に精通する人物であった、ということである。とはいえ、知識の面で言えば、ミユルの方が何十倍もあるのだが。
小さく笑みを溢すと、周りの観客に向かって一礼をした。そして、近くの出口からフィールドを後にする。



~あとがき~
頑張ったな……私……(笑)

次回、一方その頃は~……ってやつです。
別名、バトル休憩回!←

ここら辺のミユルちゃん戦闘描写は私オリジナルなんです。相方が「戦闘……思い付かねぇ……」ってなってたので、ミユルちゃんの戦い方を聞いて、私がてっきとうに練り上げました。ほんわかミユルちゃんのかっこいい一面が出ていれば……いいなって……私、そう、思ってる……うん……
話を戻しますと……多分、このCブロックで大きな出来事がなかったので、創造神の相方も頭を悩ませたのだと思います。私もこれを書き上げるのに珍しく、一週間くらいは放置していました。レイ学の放置ってほぼないんですけどね。ほら、シナリオが送られてくるから、「書けない!!」ってなることが少ないのでね。本編は細かくプロットを書き上げてないので、何ヵ月放置も不思議ではないんですけど、これは作り手の違いですね(笑)

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第71話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界ではっちゃけてる物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、大会の箸休めと言っても過言ではない氷山解体ショーをしているんだけども……なかなか本題に入りませんね。なんででしょう。
ラル「前置きが長い」
それな……
今回は第三者視点でやっていきます。一話で収まるやろ……いや、長くなろうと収めてやります。


生徒会の準備、並びに教師陣の対応の時間を稼いでいたリュウにラルからのゴーサインが出た。その連絡を受け取ると、今までの話を切り上げ、本題へと移る。
「おおっと? 今、運営側から連絡が来たぜ! どうやら、普通に解体するだけじゃかなりの時間を要するらしいっ!!」
と、ここまで言い切ると、隣に座るキャスに目配りをする。それと同時に、今の状況を簡潔にまとめたメモを見せた。一年生でこれが初仕事の彼には、原稿のないこの状況下は、少し酷な仕事かもしれない。しかし、普段からリュウに手解きでも受けているのか、或いは、無茶ぶりを受けるからだろうか。そのメモを頼りに上手くアドリブを交えつつ、アナウンスしていく。
「で、ですので、急遽、この氷山を使った解体ショーを行います! 出演者はこの学園の理事長、セラフィーヌ・ケアル先生です」
「更に更に~? 高等部魔術科に所属し、理事長の娘であるツバサ・ケアルとのコラボレーションだ! 実質、親子によるショーになるなっ」
二人のアナウンスに、観客の下がり気味だったボルテージが戻りつつあった。そして、ツバサとセラのスタンバイ完了を確認して、リュウは締め括りの言葉を紡ぐ。
「そんじゃあ、ここからは理事長にバトンタッチだ!」
マイクを切り替え、自分達ではなく、セラの声を聞こえるように設定を変えた。ここからは司会進行役は一旦お休みである。
段取りにはないアクシデントを一つ乗り越えたからか、ほっと一息つくキャスに、リュウは嬉しそうに笑った。
「ちゃんと話せてたぜ、相棒!」
「う、うぅー……もう、びっくりしましたよぉ……急にメモだけ見せてきて……」
「生にアクシデントはつきものだ! 覚えておけ!」
「は、はい」
戸惑いつつも成長を見せてくれる後輩を頼もしく感じつつ、リュウは放送室に備え付けてあるモニターに目を移した。飛び回るカメラを魔法で隠しているため、カメラ自体は観客に見えていない。そんな隠しカメラから送られる映像を見る。
そこにはBブロックで作られた氷山と、アラシが自身を守るための魔法によって偶発的に氷ができなかった空間に立つ一人の女性を映し出していた。その女性はまさしく、キャスが紹介したセラフィーヌ・ケアルであった。

放送部からの短くも分かりやすい説明により、これから起こることを理解してくれた観客に向かって、セラは恭しく一礼をする。
「この度はBブロックでできてしまった氷山の解体に時間がかかり、皆様に多大なるご迷惑をおかけして申し訳ございません。そこで急遽、私自らこの氷山を使った美しいショーを披露することにいたしました。どうぞ、心からお楽しみください」
謝罪の言葉も手短に切り上げ、そっと目を閉じる。心の中で魔法の詠唱を開始しつつ、レイピアを抜く。すると、セラの周囲には赤い魔法陣が展開された。炎属性の魔法陣は淡く光りつつ、炎の渦を作り出し、その渦はセラを囲うように出現。その炎を氷山にぶつけるのではなく、彼女の持つレイピアに吸収されるように集まっていくと、刃先周辺で炎が渦巻いていた。
そこでセラは閉じていた目を開けると、炎を纏わせたレイピアをキープしつつ、氷山の前に立つ。そして、目の前の空気を断ち斬るかのようにレイピアを素早く操る。その動作が終わる頃には、レイピアの周りに出現していた炎はなく、くるりと氷山を背にしながら、レイピアを鞘に納めた。
その瞬間、背後の氷山が大小様々な形で崩れ始めた。目にも止まらぬ速さの斬撃がそれを成したのだが、それを見極めきれなかった者が大半のようで、観客からどよめきが起こる。しかし、それに留まらず、鞘に納めたレイピアの柄に手を当て、剣に嵌め込まれている薄黄緑色の魔力石から風属性の術を発動させる。そうして、自ら崩した氷の塊を重力に逆らって浮かび上がらせた。全ての塊が宙に浮かせると、満足したように笑う。
『ピィィィィ!!』
甲高い音が会場中に響き渡る。その音が合図だったのだろう。空中からいきなり現れたツバサが、パーカーを風になびかせながら、ゆっくりと地へと降り立った。その姿はさながら、天使のような儚さを持ち合わせている。
実際のところ、ツバサの操る幻術と風魔法によるもので、それを察した者が何人いたのかは定かではないが。
地面に降り立ったのもつかの間、ツバサはちらりとセラと目配せをする。そして、母の笑みに小さく頷くと、愛用の武器である両剣を握りしめて、宙に浮かんだままの氷塊へとジャンプした。先程、空を浮かんでいたときと同様に風魔法を操りつつ、氷塊から氷塊へと飛び乗って移動していった。それなりの高さがあるものの、それに臆することなく次々と上へ上へと上っていった。
「……よっと♪」
浮かび上がる氷達の半分くらいまで来る頃には、両剣の両刃を赤く光らせていた。ツバサの武器は、使おうとする属性魔法と呼応するように様々な色へと変化する特徴がある。『白』である、ツバサだからこそとも言えた。
始めにセラが発動させた魔法と同じ赤色を解き放つ……前に、ツバサは誰にも悟られぬよう、そっと会場を見回した。幸運にも、少女の捜しものは簡単に見つかり、パッと表情が和らぐ。
「いたっ! ステラちゃんとリーフちゃん♪」
ショーの真っ最中に勝手なことはできないものの、満面の笑みを送るくらいは許されるだろう。そう考え、二人のいる方向に飛びきりの笑顔を見せると、それに気づいたのか、或いは偶然なのかは分からないが、二人が応えるように、笑顔で手を降ってくれているのが見えた。それが「頑張って」と言ってくれているみたいで、心がほかほかしてくる。
「……うんっ! 頑張るねっ!」
母の期待とは別に、ステラとリーフの思いを胸にツバサは浮かんでいる塊たちの天辺を目指した。軽々と頂上まで上り切ると、待機させていた魔法を発動させる。そして、今度は氷塊から氷塊へとランダムに移動し始めた。上っていたときと違うのは、ツバサが発動させた炎属性の魔法が、移動に使った塊に印をつけている点である。その印はツバサを追いかけ、炎によるラインを作り上げていく。
見てくれている観客にアピールをしつつも、ある程度の移動を終えたツバサは、自分の辿ってきた氷塊の道を目で追った。正確には、自分がつけて回った炎の印だが、それらは、思い描いた通りに配置できているらしかった。炎が浮かぶ氷を丸く覆い、氷が炎の檻に囚われているかのように映った。その光景に嬉しそうに頷くと、ツバサはセラのいる地面へと一気に降りる。
そして、ツバサの作り上げた作品を地で見ていたセラは、氷塊を浮かせている風属性の術とは別のものを発動させた。その風は、娘の炎魔法をも吹き飛ばすのではと感じる程の強風であるものの、そんな風の中でも炎たちは氷を覆い隠し、豪快に動き回っていた。風に乗った炎はやがて、花火のように大きな音を立てながら弾ける。昼間であり、火薬を使っていないために、色とりどりの光の花を咲かしはしなかったものの、氷山の塊が炎と風によって、溶かされ、削られたのだろう。日の光を浴び、きらきらと輝く無数の氷の花たちへと姿を変えた。
先程まで、巨大な氷の塊だったそれが、小さく愛らしい花へと変貌する。そんな一連の出来事を目の当たりにしていた観客達から、大きな歓声と拍手が二人へと注がれた。セラは慣れたものだが、ツバサはここまでの反応は想像してなかったために、少し驚きつつも観客を見回す。見てくれていた人達全員が笑顔で楽しそうな表現を浮かべているのを見て、ほっとした。そして、関係者席近くで小さく手を振るティールを見つけ、更に嬉しくなった。いつも仕事を教えてくれる先輩も、優しく見守ってくれていたことに。同時に、この場にはいないらしいフォースや、通路付近にいるであろうラル……そして、何より大会に参加している友人達は、これを見て楽しんでくれただろうか、と思ってしまう。
「ツバサ」
「は、はい!」
セラに呼び掛けられ、慌てて思考を現実に引き戻し、当初の打ち合わせ通りに、二人で風魔法を使って、氷の花を観客達へとプレゼントしていく。風に乗った氷の花は幻想的な風景を生み出し、これにも観客から感嘆の声が漏れていた。
残念ながら、花の数と観客の数は後者の方が多い。風を操っているとはいえ、ツバサからすれば、名前も顔を知らない相手ばかりで、仮に知った顔がいてもどこにいるのか瞬時に判断はできない。先程、ステラ達を見つけられたのは、ツバサ自身が高いところへ上っていたから。そして、ティールに関しては、彼が高い位置で警護していたからで、下に立つツバサの位置でもたまたま見えただけだ。そのため、花は完全にランダムに配っている。しかし、どうしてもステラ達には自分が作った花をプレゼントしたくて、そっと風の方向を操り、彼女達の近くへと運ばせた。ちゃんと届きますようにと心の中で願いながら。



~あとがき~
いえぇぇえい!!! 一話に収まったぁぁあ!! 
説明が多かったので、思いの外、短くまとめました。もうちょい表現を頑張れよって感じですね……

次回、Cブロック開幕!

一応、ここまで書きましたが、これ、伝わってるかなぁ……自分の引き出しが浅すぎて悲しくなってきます……会話文がないので、より単調な感じになってしまいました。すみません!!
いつか、私の文章能力がアップして、手直しできればいい感じにしたいですね。どうやればいいのかさっぱりですが。
プロットに書かれていた表現をほぼまるっと写し、プラス詳しくしたり、ちょっと心情っぽい何かを書き加えたりはしましたが……半分以上は相方の表現をまるっとしてますんでね……いや、私なりに書き換えてはありますが。書き換えない方がよかった説もある……ひぇ……
まあ、あれです。理解してほしいのは、巨大な氷山が小さな花に変わりましたよってところですね。それだけでいいです……
花がステラ、リーフに(もしかしたら、ティールにも)届いていたかはまあ、ご想像にお任せ……いや、描写するまでお待ちくださいね!! するところあるだろ! 作るんで! へい!!
答えが出るまではお待ちくださいなーと。

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第70話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で無茶苦茶やってる物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバックです。
前回、救護室のお手伝い(と書いて、『おサボり』と読む)していたラルの元に、なんだか色々と緊急のお仕事が……ってことで、大会(氷山解体編)やります。大会とは関係はないけれど、まあ、箸休めとしてね? 楽しんでってくださいな。


《L side》
全員への伝達が終わり、通信機を切ると、私はふっと息を吐いた。安心するにはまだ早いけれど、とりあえず、一仕事終えた気分である。いや、厳密には何一つとして終わってないんだけれども。
「なぁんか、久しぶりに真面目に仕事してるラルを見たな」
イグさんのその言葉に私は首を傾げた。確かに真面目に仕事をする方ではないと自覚しているつもりだが、一応、人前に出なければならない式典等々では、それなりにやっていると思っていたのだけれど。それに、言うほど久しぶりでもない。
「? 入学式でもちゃんとしたご挨拶したつもりですが?」
「いやぁ、そうじゃなくって。生き生きしてるって言うの? そんな感じ」
「えぇっと……楽しそうってこと?」
「簡単に言えばな♪ ラル、ちまちま書類とかやってるよりも、動いている方が様になってるぞ」
……うーん? 褒め言葉? 受け取っていいのか、これは。悩ましいところだ。
「お待たせしました!」
準備を終えたらしいツバサちゃんが部屋に帰ってきた。普段の制服姿……ではなく、少し薄い黄緑色のパーカー、水色のTシャツにショートパンツといったいわゆる、普段着姿。私服姿だ。そして、そんな彼女の手には槍のように長く、両端に刃がキラリと光る、両剣が握られていた。そして、魔力石も埋め込まれている。
魔力石とは、まあ、読んで字のごとくではあるのだが、魔力の込められた石である。色によって使えるものは異なり、石の秘める魔力量にもよるが、魔法にも似た術を繰り出すことが可能だ。ここら辺は魔法使用者の髪の色と同じである。そして、ツバサちゃんの武器には白い魔力石がつけられており、白い石は大変珍しいのも、魔法使用者の特徴と全く同じで、大変覚えやすい。
つまり、青い魔力石なら、水系統だし、赤い魔力石なら、炎系統の術が出せる。ただし、純粋に魔法で攻撃した方が威力は高く、魔力石にも容量があるために、必要以上の攻撃は期待できない。あくまで、サブとして、あるいは自身の弱点を補うためのアシストとして考えた方がいい。ちなみに、私のメイン武器の雷姫に魔力石はついていない。雷姫を手に入れる前に使っていた短剣には、一応ついていたが、ほぼ使った記憶はない。
武器自体の話をすると、─私個人の感想だけども─両剣なるものは扱いが難しいので、槍とか薙刀で事足りてしまう……と、考えてはいる。まあ、近くに使い手もいなかったのが原因ではあるが。
そんな中距離武器の一つをメインにするらしい、ツバサちゃんはいつも通りの笑顔を輝かせていた。
「ツバサちゃん、会長様からもらった服、着替えたの?」
「はい。あのお洋服とってもかわいいし、せっかく
ラルさんが用意してくれたので。汚したくないですもん」
汚れてもいいからこそのナース服では……あーいや、そういう話はいいか。
制服姿や先程のナース服はふわっとしたスカートだったからか、今のショートパンツ姿は、いつもと違う印象を感じる。大人しそうな少女から、活発な少女へ変化した。
うん。可愛い女の子は正義ですね!
「よっしゃ、行くか! リア、魔力回復ポーション、もらってくぞ?」
「ええ、もちろんいいわよ♪」
「ツバサ、ラル。行くぞ~」
「はーい!」
「ラジャーです」
前を先導して歩いてくれるイグさんを追いかけつつ、耳につけたままのインカムから絶えず情報収集をしていく。聞いている限り、特に問題なく人員の配置と結界の補填は行われているようだった。来場者が多い割にはトラブルも少なく、円滑と言えば円滑に進んでいると思われる。
……理事長様の一言が効いたのかな。そうだとすれば、やはりと言うべきか。侮れない人物である。
リングへと繋がる橋の手前の通路までやって来ると、開会式と服装は変わらないものの、そこにプラスするようにレイピアを帯剣したセラフィーヌ理事長が待機していた。
「お母さん!」
セラさんに気付いたツバサちゃんは無邪気に駆け寄る。ツバサちゃんからすれば、理事長である前に実の母親であるから、その反応は間違っていない。が、私としては、母である前に理事長という大きな肩書きが頭を過り、少しヒヤッとはしたけれど。
ツバサちゃんに少し遅れ、イグさんと私が追い付くと、イグさんが一歩前に出て、─非常勤とはいえ教師だから当たり前だけど─理事長に報告していく。
「理事長、お待たせしました。指示通り、二人を連れてきましたが……もしかして、お待たせしましたかね?」
イグさんの貴重な敬語を使うところを拝んでいると、理事長はふわりと笑う。
時折、理事長を『セラおばさん』と呼ぶ辺り、昔からの知り合いとかそんなんだろう。というか、イグさんがおばさんと呼ぶってことは、イグさんより年上……なんて、当たり前か。二児の母ですもんね。……いや、私が知らないだけでまだ何人もいる……いや、終わらない推測はするべきではない。なぜなら、終わりのない迷宮だから。はい。終わり!
「いいえ。今来たばかりだから大丈夫。それと、イグくん。ここには他の先生方もいらっしゃらないから、いつも通りに話してくれて構わないわ♪」
「そうっすか? そんじゃ、お言葉に甘えて」
イグさんの顔からふっと緊張の色が消える。昔からの慣れを今すぐ変えるのは容易ではない。私がイグさんやリアさんを先生と呼べないのと同じ。私に関しては、意図的にそうしているところもあるけれど、あと一年足らずで先生と生徒関係もなくなるわけだし、呼び方なんて些細なものだ。
理事長はイグさんの一歩後ろに立っていた私にも目を向ける。一人、勝手に思考を巡らせていた意識を現実に引き戻しつつ、姿勢を正してイグさんの隣に立つ。
「会場周辺、並びに会場内の警備強化もすでに完了しています。あと、余計かもしれませんが、観客に被害が出ないよう、会場周辺に理事長のとは別の結界も張らせました。……即席ですので、長くは持たないと推測されますが、最低でも三十分は私が保証します」
……私の相棒もいるから。……とは言わず。
私の報告に理事長は少しの感心を含ませるような優しい笑みを浮かべた。
「短時間でそこまで……流石、会長さんね。ありがとう♪」
「えっ!? あ、いえ……感謝されるようなことでは。これが仕事ですので、できて当然です」
素直に感心されるなんて思っていなかったから、若干、挙動不審になった。基本的に、お前ならできて当然だろと思われる方が多いからかもしれない。そう思わせてるのは、あの教頭だけどな……!
「あらあら♪ 謙遜なんてしなくてもいいのに」
面白そうに笑う理事長に、どこかプリン校長と同じ雰囲気を感じ取った。何度か話した経験はあるが、時折、理事長と校長は似ていると思っていた。口にはしない。絶対に。
と、理事長とは別の方向から小さな笑い声が聞こえる。そちらを見ることなく、近くの腕をつねってやった。
「いててっ!? ごめんって! 変な意味じゃないから~♪」
「どの口が言ってるんですか。楽しそうに笑ってましたよ、イグせんっぱいっ!」
彼の実力なら、私につねられるなんてあり得ない。イグさんなら、さらりと避けてしまえるはずなのだ。つまり、これはわざと受けている。その辺りも大変腹立たしいので、嫌味も込め、先輩呼びしてるものの、それを察してくれる程、イグさんは優しくはない。口では痛いとか言っている割には、イグさんの表情は穏やかで笑っている。
「昔から褒め慣れてないよなぁ、ラルは♪」
「腕だけじゃなくて、次はほっぺたを思いっきりつねってやりましょうか、先輩?」
「それは流石に痛いからパス♪」
「そう言われると、やりたくなりますねぇ」
「あはは♪ いやいや、やめてくれ」
やれるもんならやってみろ……って、顔に書いてあるな。覚えてろよ。いつかやってやる……!
話は変わるが、私とイグさんのやり取りを変わらずに楽しそうに見ている理事長は大物である。イグさんは有名な探検家で、そんな有名人に楯突いているんだから。まあ、私とイグさんの関係を知らない人から見れば、生意気な生徒が先生に歯向かっているようにしか見えないだろう。
「そうだ。ツバサ、ちゃんと武器は持ってきた?」
「うんっ! ほら♪」
世間話はそこそこに、理事長はツバサちゃんに向き直る。話しかけられたツバサちゃんは、自分の背丈ほどある両剣を理事長に見せた。言いつけ通りにしっかり武器を持ってきたツバサちゃんに、理事長はにっこりと笑う。
「よろしい♪ それじゃあ、アリアちゃんが作った氷山を解体するために、お母さんからツバサに一つのテーマを出します」
「テーマ?」
こてんと首を傾げるツバサちゃん。
そう言えば、普通に解体するだけじゃつまらないと、解体ショーにすると言っていた。ショーは見せ物。それのためのテーマ、か。
「難しく考えなくていいわ。今から言うことは、あくまで『できたら』の話。失敗したり、危ないことしたりしなければ、お母さんは怒らないから」
「うん……?」
「テーマは『氷と炎』。これを意識しながら、観客をあっと言わせつつも、ツバサ自身が楽しめるようなショーを行いなさい。お母さんも手伝うから……ね?」
「お母さんと!? 分かった!! 頑張るね!」
テーマを課せられた意味について不思議そうにしていたツバサちゃんだったけれど、お母さんと一緒にできると知ると、その疑問も吹っ飛んでしまったらしい。パッと顔を輝かせて尻尾をパタパタさせていた。
かなり微笑ましいシーンで、心がほかほかするところである。が、悲しいかな。私の脳内では、ツバサちゃんが疑問に思った問いの回答を考えていた。
テーマを与えたのは、ツバサちゃんを試すためだろう。ある意味、修行の一種なんだろう。解体するだけなら、適当な魔法を一つや二つぶつけてしまえば終わること。アラシ君の魔法で一部は防げているのだから、似たような炎系統の魔法を使えば終わる。しかし、そこにテーマ、ショーであると条件付けるとそうはいかない。如何にして魅せるか、そのための技術、魔力操作、どんな魔法を使うかが変わってくる。要は、単純に壊すのとは訳が違うということだ。
「ふふ。よろしい♪ それじゃあ、頑張ろっか?」
「はーいっ♪」
ツバサちゃんは、無邪気な笑顔を見せつつも、母親の期待に応えようと気合い十分だ。
一方のじゃれあっていた私とイグさんは、すでに取っ組み合い─私の一方的なものだが─は終わりにしていて、黙って親子二人を観察していた。
「……お母さんって感じですね」
「そりゃ、ツバサのお母さんだからな~♪」
「でも、仕事のときは上の人って感じです」
「そりゃ、理事長だからしっかりしてないと、学園の経営なんて成り立たない。それにあの若さで上に立つのも、相当な苦労があるはずだぜ。威厳って大切だしな。それは、お前が一番分かってるだろ?」
「探検隊のリーダーと理事長並べないでくださいよ……ん? あの若さって……?」
「ん? セラおばさん、三十五だから。理事長やるにはまだ若いだろ?」
あぁ、そういうことか。女性の年齢をさらりと言ってしまうイグさんには突っ込まず、スルーしておこう。
セラ理事長が今の立場に就任したのは、確か五年前……私がここの中等部に来た頃だったはずだ。ということは、三十で学園経営と教育者の立場にあるという計算になる。まあ、もしかしたら教育者の立場は三十歳前からやっていた可能性はあるが。
「……あんまり関係ないんですけど、ツバサちゃんとツルギ君の他にお子さんは?」
「いないぞ。双子だけだが……どした?」
「いえ。私の中の可能性を潰したかっただけです」
「ふーん? まぁた変に頭働かせてんのか~? 物好きだなー!」
なんて言いながら、イグさんは私の頭をぐしゃぐしゃっと撫で回した。力加減はギリギリしてあるけれど、痛いものは痛い。叫ぶほどではないけれど。
「……さて、そろそろ始めましょう♪」
親子ショーの打ち合わせが終わったのか、ぱちんと手を叩くと、理事長は私達の方を振り返り、にっこり笑う。
「会長さん、警備等々はお願いしますね? イグくんも」
「承知しました」
「了解っす♪」
「ツバサ、行こうか?」
「はいっ!」
イグさんに撫で回され、乱れた髪を整える。ついでにインカムを使い、警備班全員にこれから解体を開始することも伝える。
できれば、会場、あるいはモニター越しで全体を見てみたかったが……致し方ない。これもお仕事。ここから見学させてもらおうか。



~あとがき~
長いなぁ……まあ、しゃーなし。え? 途中の茶番?? 知らない人ですね……(目を逸らし)

次回、氷山を解体するぞー!! 親子ショーだぞー!! 多分、三人称視点!

ラルは途中編入組です。ティールは一年からいるけど。ラルが学校に通うことになった経緯とか二人の出会いとか、同居するきっかけとかその他もろもろ考えてはあるけれど、考えておこう……くらいの気持ちなので、日の目を見ることはないでしょう。
裏設定を考えるって楽しいよね……(笑)

いやぁ……必要以上にラルとイグさんの絡みを入れました。半分は私の欲望のままに書きましたが、もう半分は二人の関係性をお見せしたかったのです。探検隊として、色々教えてもらっていたので、ラルはラルでなついている……? いや、なついているって表現は違うか。フランクに接しているみたいなところを見せられたらと。
伝わればいいなぁ……!!(笑)

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第69話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわやわやする物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、Aブロック、Bブロックと予選の半分が終わった……終わったけど、ここからちょっと予選は休憩タイム? ですね。
できちゃった氷山の解体をします。消しましたで終わらせろって? それじゃあつまらんだろ!!??
ラル「首絞めてる~」
アラシ「言ってやるなって」
いけるいける!! 私ならできるー!!
ラル「詰まらないことを祈るばかりですね」
アラシ「本心丸見えだぞ、ラル会長」


《L side》
部屋に設置されている小さなモニターに映し出されるのは、一人の少女によって作り出された氷山。そんな状況でも、司会進行のお仕事を全うするリュウ君には感心する。流石に一年生のキャス君はびっくりしすぎて話せないらしく、トーナメントへ進む二人を紹介したのはリュウ君だった。あるいは、ここの場面はリュウ君の担当なのかもしれない。台本を知らない私からすると、どっちとも取れるので、推測するしかない。
『Bブロックからトーナメント進出権を得たのは、冒険科三年、アリア・ディーネと魔術科一年、アラシ・フェルドだ!! 続けてCブロック……と、いきたいが、流石にこのままじゃあ試合続行は難しいな? 係りの人がどうにかするから、観客の皆は、その場で待機しててくれよな~♪ にしても、凄かったな、相棒!』
『ひゃ! は、はいぃ……そう、ですねっ!』
『まだまだ大会始まったばっかりなのに、胸を熱くさせる展開だらけだぜ~!! 相棒もこれくらいで驚いてちゃ、まだまだだぜ?』
とまあ、何気ないトークで場を繋ぐリュウ君。これもいつまで持つのやら……いや、こいつなら永遠と持たせられる気もするけど、観客のボルテージは下がってしまう。さっさと対応した方がよさそうだ。
「あらあら。アリアちゃん、随分と張り切ってるわね~?」
「……リアさん」
備品整理をしているのか、私の背後で救急箱を抱えて頬笑む女性……養護教諭のリア先生だ。いつものようにクリーム色の髪を三つ編みにまとめ、優しく落ち着いた笑みを浮かべていた。
リアさんは、この学園の養護教諭であり、私とティールにとっては、探検隊のいろはを教えてくれた一人。また、ここの卒業生でもあるため、─代はかすりもしなかったが─私達の先輩でもある。そんな少しややこしい関係性を持つリアさんを「先生」と呼ぶのはかなりの違和感がある。「リアさん」と呼んできた時間の方が長いため、私は基本的にはさん付けだ。ティールは徹底してるけども。
閑話休題
私が今いるのは、生徒会が使っていた控え室……ではなく、救護室だ。あの広い控え室にたった一人なのも寂しくて、─ぶっちゃけ、寂しいとかではなく、控え室で永遠とノートパソコンを見ながら指示出しに飽きただけ─適当に歩き回っていたのだ。まあ、言ってしまえば、仕事放棄である。とは言え、私に繋がるインカムは装備しているし、時折かかってくる連絡には対応しているから、完全職務放棄ではない。半分くらいだ。半分。
「あれ、どうなってるんですかね」
「うぅん。一言で表すなら、有り余る魔力を放出した、かしら?」
「だよなぁ……力の爆発って感じだったもん」
リアさんは救急箱を机の上に起き、私の隣に座った。ある程度、Aブロックに出ていた生徒達の手当ては落ち着いたのだ。ちなみに、一人の控え室から逃げてきた私をリアさんが呼び、入ってみれば手当ての手伝いをさせられた。私は寛大なので……いや、この人にはかなりの恩があるので、それくらいのお手伝いは喜んでします。……はい。
「あの氷の処理、誰がするんだか。普通に考えれば、実行委員なんですけどね」
「誰というか……そもそも、準備と休憩時間を合わせて十分間よね? そんな短時間でどうにかできるのかしら」
「解体だけなら人員を割けばまあ……でも、会場の準備込みの十分はちょっと……時間押すかなぁ」
「ちょっと?」
「……かなり、かもですね。見積もりは出しません。悲しくなる」
会場の整備は生徒会ではなく、実行委員の仕事だ。が、実行委員全員をかき集めたとして、どうにかなるはずもない。
「ラルさん、どうかしたんですか?」
「ひゃあ! おっきい氷!」
手当てを終わらせてきたツバサちゃんとリリちゃんがこちらに近付いてきて、モニターを見る。そこに映るのは変わらず、氷の世界のまま。
「一面、氷ですね! え、何があったんですか!? 師匠?」
「アリアちゃんがやっちゃったみたいなのよね」
「あ、あーちゃん……」
ツバサちゃんとリアさんはどうやら師弟関係らしく、ツバサちゃんはリアさんを時折、師匠と呼んでいる。リアさんはリアさんで、ツバサちゃんを妹のように思っているらしい。
「会長様、これは……どうするのですか?」
「ははっ……不測の事態でも迅速に対応せよとは言ったけどねぇ……これは想定外過ぎるでしょ」
「ここは会長さんの出番かしら?」
リアさんが少し、面白がるように笑う。私の仕事嫌いを知っているからこその反応だろう。
「くっ……行きたくないけど、行ってきます……現場を見て、策を練ってどうにか……いや、これ、めんどくっさいなぁ。思った以上に」
「あらあら。本音が漏れてるわよ、生徒会長さん」
わざとです!!
私が立ち上がるのと同時に、後ろの救護室の扉が開く気配がした。振り返ると、男性にしてはかなり長い赤い髪を後ろで一つにまとめ、シンプルなYシャツを着た牙狼族が立っていた。
「それなら、ツバサも連れてってやってくれないか? 生徒会長」
「あら。あなたがここに来るなんて珍しいわね。あなたの担当はここじゃなかったと思うんだけれど、イグニース先生?」
イグニース・フェルド先生。名前から察してくれるかもしれないが、アラシ君のお兄さんで、冒険科の非常勤講師の一人。そして、この人は名の通った冒険家という一面を持つ。以前はリアさんとコンビを組んでいたのだが、今はソロで活躍中。そこら辺は結構ごちゃごちゃしているので、今は省略しよう。
まあ、リアさんとコンビを組んでいた時代に親交を深めていた私とティールなので、関係性としてはリアさんと全く同じである。ここの先生で、探検隊の先輩で、学園の卒業生。以上。
「ははっ♪ ここでお前に会いに来た~なんて言える状況ならよかったんだけどな~♪」
「ちょ!? もう! イグったら!」
あぁ、言い忘れた。イグニース先生こと、イグさんとリアさんは、この学園に通う生徒なら知らない人がいないレベルの、ラブラブカップルとして学園に名を馳せている。新入生は知らないかもしれないけれど、やがて知る運命。とりあえず、今ここにいる実行委員の一年生は知ったはずだ。
「駄目ですよ、リアさん。ここは『実は私も会いたかったの、イグ♪』くらい言えないと」
「きゃあぁっ!? ラ、ラルちゃん!?」
「で、なんでツバサちゃんを? というか、リアさんの言う通り、イグさんの担当は現場監督。つまり、会場でしょう?」
あわあわしているリアさんには触れずに、私は話を進める。できることならもう少し可愛らしい反応を見せてくれるリアさんと戯れたいのだけれど、如何せん時間がない。残念である。
「ったく、校内では先生をつけろって毎回言ってるだろ~? まあ、いいけどな」
じゃあ、私はこれからもイグさんと呼んでいくもんね~……というか、このやり取り、飽きる程してきたんだけれどね。
イグさんがアラシ君のお兄さんなら、アラシ君と幼馴染みのツバサちゃんが、イグさんを知らないはずもなく。イグさんを見上げると、年上相手にも関わらず、友人と接するときの砕けた口調で話し始めた。
「そうだよ、イグ兄。私の担当は救護だよ?」
「全く。ツバサもここじゃ先生をつけろよ~?」
「えへへ。ごめんなさい」
「でも、気にしないんでしょ? イグせんせー?」
「ははっ♪ まあな。んでも、体裁は必要だからな。……ラルに言ったって無駄なのは痛い程に理解してるけど」
にひひ。ご理解、感謝いたします~♪
魔術科所属のリリちゃんは、イグさんを見かける機会はほぼないだろう。私達のやり取りを黙って見ていた。リアさんの彼氏さんなのは知っているとは思うが、実際に対面するのは初めてかもしれない。
「あ、あの、イグニース先生? ツバサちゃんを連れていくって話はよろしいのです……?」
「ん? あぁ! そうだった。実はセラおば……っと、理事長から伝言を預かったんだよ」
「お母さん?」
「あの映像からも分かるとは思うんだが、現場の生徒だけじゃどうにもならないって判断でな。セラ理事長自ら解体に着手するってさ」
理事長が出てこなきゃいけないレベルの氷山を生み出すアリアちゃんとは……一体何者なんだ。
「それにツバサも手伝ってほしいって話らしい。ただ、単純に解体作業を見せるのもつまらないから、ショーみたいに観客も楽しませる方向性になった。ってことだから、ツバサ、武器を忘れずに持ってこいって理事長からのお達しだ♪」
「はーいっ! それじゃあ、準備してくるから、イグにぃ……イグ先生、ちょっと待ってて?」
そう言って、ツバサちゃんはぱたぱたと部屋を出ていく。武器を取り出すのに出ていく必要があるのかはよく分からないけれど、他にも何か準備したいのかもしれない。
「……で、ラルには周囲の警備強化をお願いしたい。中に人が入らないようにしてほしいんだってさ。なんか、派手にやるらしくって♪」
笑顔でなんでもないように、しかし、内容はとんでもないことを言ってきた。
「あっはは~♪ ただでさえ、色んなところに人員を割いているのに、警備を手厚くしろと? かっつかつなんですよ、こちらも」
「そりゃ分かるけど、理事長直々のご命令だ」
「……はあ。一分、時間ください。警備体勢の再編成しますので」
表面上は至って冷静に返すものの、内心は荒れに荒れまくっていた。持ち出していたシンプルな肩掛け鞄からノートパソコンと今回の人員名簿を取り出して、部屋の隅っこへ移動。移動した理由はリアさんがとんでもなく機械音痴だから。側にいるだけで壊す恐れのあるお人なのだ。
あーあーあー!! 班の組み直しかよ!! 今から!? 上等よ。やってやろうじゃない。私を誰だと思ってるのよ……!
やらなければならないのは、各担当から数人を抜き出し、会場周辺の警備をさせること。それを臨機応変に行えるのは、普段からこういった事態に慣れている生徒会役員のみ。そこに焦点を絞り、担当区域と照らし合わせて……ついでに、人数の少なくなった班を統合させ、指揮を執らせて……会場周辺に術を展開させる必要もあるか? 観客に何かあるのも否定できない。……となると……
「こちら、本部。応答して」
『聞こえてます』
『はぁい……聞こえてまーす』
私はインカムを通じて、馴染み深い二人を呼び出した。この二人なら詳しい説明がなくても思い通りに動いてくれるからだ。
ティール、現場の教師から説明は」
『聞いてる』
「フォースは?」
『大方は。会場外の全体指揮は任してくれていい』
「了解。フォースには会場外にも目を配り、私の代わりを一時的に任せる。ティール、魔法使える人達を集めて、観客に被害が出ないような結界を張ってくれる?」
二人に細かい指示を出しつつ、パソコンには現在の生徒会役員や実行委員の位置を表示させていた。画面では再編成を行い、口ではこれからのことを話していく。
『んと、今いる人達だけで?』
「そうね。それでできるなら。無理そうなら、できる人をそちらに寄越す。私も今からそちらに向かうけど、私はフィールドに繋がる通路付近にいるから、会場内周辺の警備は引き続き任せるよ」
『了解。まあ、今こっちにいる人達だけでも、結界を生成するのは問題ないと思うよ。最悪、不完全で何かあっても、氷ならぼくがどうにかしてみせる』
あぁ……確かに。
「……よしっ! 再編終了! 私から全体に連絡かけて、移動するように指示をするから、細かいことは二人からよろしく」
『了解だよ、会長』
『はいよ』
これでとりあえずはいいだろう。あとは現場行って対応すれば……うん。大丈夫。
ノートパソコンを閉じ、名簿と一緒に鞄へ突っ込む。再びイグさんの方を振り返ると、妙に感心しているというか、納得したような表情で微笑んでいた。それはリアさんも同じ。
「? なんですか、二人して」
「いやぁ? こういうときのラルは頼もしいなって思ってただけだぜ?」
「うふふ♪ そうね」
うーむ。……褒められている気がしないのは私だけだろうか。なんて、考えている暇はないか。さっさと全体連絡を回して配置につかせよう。
インカムの範囲を広げ、全体に聞こえるように設定をする。繋がっていることを確認すると、私は一気に指示を出した。
「各班に告ぐ! 現在、大会会場にて巨大な氷山が出現している。それの解体作業に伴い、会場付近、及び内部の警備強化命令が出た。今から名と配属先を言い渡す。該当者は直ちに持ち場につけ! 詳しい内容は指定時刻にティール及びフォースから説明がある。呼ばれなかった者は引き続き、担当している持ち場にて仕事を全うするように。……これから、名前と配属先を告げる。名を呼ばれた者は直ちに行動せよ!」
……や、ほんと、これ、軍隊だよね。私が悪いのかな?



~あとがき~
変に茶番を挟んだせいで長い?
いや! そんなことはない! 通常です! 通常!

次回、氷山解体ショー準備かな。
多分、ショーまでは……いかないっすね……(白目)

はぁぁぁぁ!!! 出したかったお二方をようやく! ようやく出せましたよ!! やったね!
リアさんとイグさんです。
私、イグさん大好きなんですね! 相方のオリキャラの中で一番と言ってもいいくらいに! 好きです。お兄ちゃんが好きなのかもしれない……
まあ、フォースみたいなクールキャラも大好きなんですけどね?(笑)
ってことで、リアさんとイグさんですが、ここでは書き表せないくらい設定がもりもりです。大丈夫でしたかね? ラル視点なので書きましたが、大丈夫だったかな。
二人はレイ学の教師で、OBOGで、ラルとティールにとっては、探検隊とはなんぞや! を教えてくれた先生でもあります。もちろん、二人だけがラルとティールに教えたわけではありませんが、何かと面倒を見てくれていた過去があります。
イグさんとリアさんは過去に色々あったキャラなのですが……(コンビ組んでたのに、解散してるところとか。その辺のごちゃごちゃっとした理由とか)それを今後出していくのか、語る日が来るのかは謎ですね。裏設定のまま、表に出ない可能性も大いにありますし、いつか過去編として書く日が来るかもしれません。それはそれで私はやる気満々ですけどね←
……とまあ、過去現在とお世話になっている相手にラルは適当な態度で接してますが……この、失礼な奴め……!!(笑)

ではでは!