satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

学びや!レイディアント学園 第160話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でお話ししてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
スカイとイグニース&リアの出会いの話でっす。過去編。レイ学で過去編は初ですね。これからも過去編あるのか微妙っすね。あるんかね?
過去編のネタはたっくさんあるけど、やる機会はなさそうだよね。まあ、いいんやけど。
今回はまだ警戒心むき出しで物静かなラルちゃん視点ですぞ。


とある休日。簡単な素材採取依頼を二つ、私達はこなしていた。一つは森林ダンジョンでの薬草採取。もう一つは渓谷ダンジョンで鉱石の採取だ。どちらのダンジョンも初心者向きで、出てくるモンスターも強くないと言われている場所だった。
まずはその一つ、薬草採取の依頼を片付けるために森林ダンジョンへとやってきたわけですが。
「薬草は五種類くらい集めろって話だね~」
「……ゴシュルイ」
「あ、大丈夫だよ! 全部、特徴のあるやつだから! ほら、写真見て見て!」
訳あってこの世界の常識という常識を学び直している私になんという苦行を。
とはいえ、ティールに見せられた写真を見るに、確かに全てがなんらかの特徴がある薬草ばかりだ。特にこのキノコ。ドクガダケ。いや、毒ですよって言ってるじゃないですか。
「……このキノコ、ほんとに探すの? マジで言ってるの? え、毒キノコじゃん。絶対」
「毒も薬になるってことだよ……あ、でも、バフ効果のある薬とは限らないのか。なら、デバフ効果の薬かも」
毒薬かな。
「ぼくはあっち見てくるね。ラルはそっち見てきて? 三十分後に連絡するから!」
「……え。別行動?」
「ここ、そこまでモンスター出ないからね! 手分けした方が早いよ」
まあ、そうだけど。
言うが早いか、ティールは森の中へと消えてしまった。ご丁寧に薬草の写真は私に押し付けて。
「……やれやれ。探すか」
しかし、こんな葉っぱをどう探せば……いや、キノコもあるけれども。そうじゃないよね?

適当にダンジョンをさ迷うこと数分。
知識に乏しい私がぱぱっとお目当ての品物を見つけられるはずもなく、迷子のように歩き回るだけである。かなり空しい。
「……? 人だ」
てけてけ歩いていると、薬草ではなく、まさかの人を見つけた。それはお呼びではなかったよ。
人数は三人くらい。私やティールみたくがっちり武装をしているわけではなく、山菜採りに来ました程度の軽装備。探検隊とかでもないのだろう彼らは、どこか困り果てた様子で辺りを見回していた。明らかに困っていると見てとれるくらいには。
ここは探検隊として声をかけるべきなのだろうか。探検隊とは、色んなお仕事をするものだと教わった。お宝や歴史的発見をするだけが仕事ではないと。人助けも仕事のうちだとかなんとか……? 誰が言っていたんだったか。……忘れたな。
しかし、見知らぬ相手とは何を考えているのか分からない。可愛い顔して襲ってくるくせに、他人には媚を売るような同年代もいるくらいだ。人なんてろくなもんじゃない。
……ろくなもんじゃないけど。
「……あ、あの、何かありました……?」
どうせ、ここで話しかけたとしても今回限りの関係性だ。今後なんてあり得ない。……大丈夫。
そう言い聞かせ、お困りの三人に話しかけた。こんなところに子供がいることに驚いたのか、戸惑いつつ顔を見合わせていた。
「お嬢ちゃんは……?」
「通りすがりの探検隊、です。……仕事でここに……あっと」
三人のうち一人が足を押さえてうずくまっていた。恐らく、彼が困っている原因なのだろう。
「これは……歩け……ないですよね。……あぁ、あそこからか」
少し上の方に出っ張った部分がある。きっとあそこから足を踏み外して、ここまで転がってきたのだろう。災難だが、折れた程度ですんでよかった。
「ごめんなさい。……私、魔法とか、回復とかできないんです。……でも、軽い処置くらいなら……あの、動かないでくださいね?」
未だに戸惑う彼らをよそに、私は手頃なところから程よく真っ直ぐな枝を見つけ、うずくまる人の足に添え木としてあてがう。そして、バッグから、手当て用の包帯を取り出し、ぐるぐる巻き付けていく。
「お嬢ちゃん、手慣れてるねぇ」
「……そんなことないです。……それに、これくらいしか、できないですから」
足の固定はしておいたが、病院で診てもらった方が絶対にいい。すぐにここから脱出させないと。しかし、探検隊バッジで脱出させられるのは、救助依頼を出した相手のみ。緊急脱出を使いたければ、私達も一緒に出る羽目になる。ティールがここにいれば、相談もできたけれど……いない以上、抜けるわけにはいかない。
「手当てしてくれてありがとう。この先は自分達でなんとかするよ」
私が考え込んでいたからか、一人が気遣ってくれた。そうしたいのは山々だが、そうもいかない。中途半端に関わったのなら、最後までやりきらねば意味がない。
「いえ……少しとはいえモンスターも出ます。怪我人背負って安全に抜けられる保証はない、です……ので、これ、あげます。使ってください」
「!? こ、これ、転移用の結晶!? こんな高級品もらえないぞ!」
「いいんです。……こういうときのための、道具ですから。私、まだ仕事あるので、一緒には行けませんが……ここを出れば、町はすぐですから」
ノウツに高いからむやみに使うなと、なくすなと散々言われたやつだけど……こういうときに使わないでいつ使う。
無償でもらうことに申し訳なさそうにする彼らに、私は思い出したように紙を取り出した。それは依頼で探す予定だった薬草の写真が載っている紙だ。
「じゃ、じゃあ、これ。……これ、持ってたら、それと交換……ってことにしましょ? それなら、私もあなた方も、損がない……と思うので」
何言ってるんだろう。損害は無茶苦茶あるんだけど。こっちが。いや、悟られるな。ノウツに怒られたって、この三人が助かるならいいじゃないか。探検隊っぽいことしてるじゃん。……あれ。救助隊ぽいか?
「お嬢ちゃんがそう、言うなら……全部はねぇけど、ほら」
「ありがとうございます。……助かります」
このままここに留まっていては、彼らも脱出してはくれないだろう。きっと、申し訳ない気持ちは消えていないはずだから。
一人から受け取った薬草の数々を適当にバッグに詰め、私はペコリと頭を下げる。そして、踵を返してさっさと去ろうとした。
「お嬢ちゃん、名前は……?」
「……スカイ。私の所属する……探検隊の名前ですけど。では、無事を祈ってますので」
私個人の名前を伝える必要性は感じなかったから、探検隊の名前を伝える。これ以上、会話を持ちかけられても話が続く気がしなかったから、今度こそ足早にこの場を去った。

あの三人組と別れて十数分後。ティールと合流し、軽く集めた薬草類を確かめてから、ダンジョンの外へと脱出した。そして、改めてお互いの成果を見せ合い、種類や数があっているか確認をする。
「……うん。バッチリだね!」
「よかったぁ。これでまた探してこいって言われたらボイコットするところだよ」
「なんでさ! けど、ラルはたくさん見つけたんだね? 凄いよ」
まあ、分けてもらったもんね。……とは言わず。
「山菜採ってた人がいたから、場所教えてもらったの。だからかな」
「……一人でよく話しかけられたね?」
「逆だよ……かけられた方」
まあ、嘘だけど。
しかし、深く追求せず、基本、私の言うことは素直に頷くティールだ。今回も例に漏れず、「そっか」と納得したらしい。
「よし、じゃあ次行ってみよー! 今度は渓谷ダンジョンか。探す素材はどこにでもある鉱石みたいだけど……頑張って探そうね」
「そだね。すんなり見つかるといいけど……あそこは一回行ったことあるとこだよね? バッジで移動しよっか」
「了解」
バッジに移動したい場所と座標を指定し、転移ボタンをぽちっと押す。一瞬の浮遊感のあと、緑ばかりの森林から、岩の目立つ渓谷へと景色が変わっていた。
「バッジの転移システム、凄いよね~♪ ま、場所を逐一記録させないと駄目だし、何かと制約もあるけど、便利道具だよね」
「脱出用の転移も、モンスターとか危険がないってのが絶対条件だもんね。緊急脱出のはずなのに」
「範囲にいたら、一緒にワープする危険があるからだろ? お尋ね者とかと町中に飛ばされるなんて事件だよ」
そりゃそうだけど。
探検隊バッジにはたくさんの機能があって、その中でも転移、転送システムは便利機能の一つでもあり、不便さを感じる一つでもあった。理由は語った通りである。敵にターゲットされている状態ではシステムは使えないのだ。チームならともかく、ソロだと何のための緊急脱出用なんだろうと思ってしまう。とはいえ、魔法を使えない私達にとっては、貴重な足というか、移動手段でもある。
他にはマップ表示とか、仲間の位置の特定だとか、通信だとか色々ある。なんかもう覚えきれないくらいだ。
「行こうか、ティール」
「うん」



~あとがき~
やっぱ、クールラルもいいっすよね。
だれおま感がいい。

次回、渓谷ダンジョンで二人が見たものとは。
シリアスシリアス~♪

ラルのこのイメージ的には、はじソラ初期みたいななんかそんな感じですね。この頃のラルは人間不信が凄いです。仲間やティールには普通ですが。
理由は本編では語ってきませんでしたが、それっぽいことを作中で言ってました。可愛い顔して襲われた経験があるからです。ま、これはオーバーな言い方してますけどね。
人は見た目じゃ良し悪しわかんねぇよってことっす。怖いね。

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第159話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で大騒ぎしてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
ラルとティールのどたばたお仕事風景でした。普段はもっと淡々としてるかな(笑)
今回からはスカイ二人と、剣技大会で出てきたとある方々達の関係性についてを後輩に語ります。
多分、次回からだけどな!


夏の本格的な暑さがじりじりと迫り来る今日この頃。学園のありがたーい最新設備で、適切な室温に保たれているこの生徒会室で、愛すべき天使の癒しを貰い、戯れていた。
「やっとテスト終わったよ~……もとい、ティール先生からの解放……!」
夏休み入ってすぐに行かされるらしい仕事のせいで、いつも以上にティールの指導にも熱が入っていたのだ。主に冷やかし要員だった、筆記実技学年一位フォース君も巻き込み、なかなかの苦行であった。
それが実を結んだかどうかは、このあと返されるであろう答案用紙を見ればわかる。明日から返却だけどな。
「お疲れ様です、ラルさん♪」
私の膝の上に座る心優しき天使ツバサちゃんは、天使の名に恥じぬ暖かな笑顔とお言葉を向け、優しくゆっくりと撫でてくれた。それだけで、今までの辛さが吹き飛ぶようだ。
「ツバサちゃん、優しすぎる……好き……どっかの誰かさんも見習うべきだよね。今すぐに実行すべきだよね?」
「今回の魔法学の点数が平均点越えてたらね」
世も末じゃぁぁぁ!!!
「……あ、越えてねぇ自信はあるんだ?」
小難しい本を読んでいたフォース君が半笑いで突っ込んでくる。私のここ最近の頑張りを思い出して、嘲笑しているのかもしれない。ムカつく。
「この私が? 魔法学で平均点? あり得ないよね。取ったことないよ」
「誇ってるんじゃないよ。ったく」
まあ、熱烈ご指導があるおかげで、赤点も取ったことないけれど。そこには感謝してるよ。そこにはな!
この学園での期末テストは、魔術科と冒険科で内容は違えど、実技と筆記がある。冒険科でいう実技は疑似ダンジョンでの対応だったり、戦闘だったり。はたまた、体育のような体力テストだったりがある。筆記は教養と専門の二つに分けられ、教養に関しては学科共通テストだ。そして、専門では各学科の専門知識が問われる。冒険科の専門はやっぱり、探検関連や古文書の読み取り等々だろうか。
とまあ、期末テストだから様々なテストを乗り越える必要がある。そして、赤点を取った生徒には補習のお呼びだしがかかるのだ。期間は一週間。
いつもなら、万が一補習になったとしても、仕事に遅れが出るだけで大した問題はないのだけれど、今年は違う。親方からの特別依頼がある。何がなんでも赤点は回避せねばならなかったのだ。だからまあ、私達は必死だったわけで、手応えだけで言えば、赤点は確実に回避しているだろう。
「ってかさぁ、テスト終わってあと一週間ちょいで夏休みよ? それなのにあの曖昧な怪しげお仕事の話が一向に進まないんだけど! 何なの。依頼主は? 仕事内容は? 全くの謎じゃん! こっちの方がテストの点よりも不安すぎるわ!」
親方に聞いても、「あとでわかる~♪」しか言わないし。代理人のことだって、「信頼できる人だよ」としか言わない。本当になんなのだ。
「そこには同意するけど……ぼくは依頼のあとのことも不安なんだけどねぇ」
「あ? 結局、帰んだっけ?」
「そ。仕事あるからで逃げ切りたかったのに……母上が大丈夫だから帰ってきての一点張りなの。どこにそんな自信あるんだよって話だろ?」
何度もティールが探検隊の仕事を手札に、お断りの交渉している場面は私も見かけた。しかし、結局押しきられてしまい、帰るで頷いたのだった。最終的に負けて帰ってきたとき、しーくんと私によしよしされまくって、ようやく回復したのだ。とはいえ、今でも思い出しては何度もため息をついているけれども。
「……ラルさんとティールさんはお仕事なんですか?」
「うん? そだよ。親方……ここでは校長か。校長先生に夏休み始まってから二週間、他の仕事入れるなって言われてるの。謎の依頼人からの謎のお仕事があるから~ってね。……フォース君はステラちゃんと里帰りだよね?」
「そうだよ。だから、お前らの謎依頼には付き合えません」
ちぇ……替え玉したかったなぁ……代わってくんないかな。
「嫌。つか、謎の依頼人はお前らをご所望なんだろ? おれは頭数にないだろ」
「まあ、確かに……?」
「必要なら呼んでくれてもいいけど、基本応えるつもりはない」
……くそぅ。優しくない。この世の中、全く優しくないよぅ。
話があちこち行ってしまったけれど、言えることは一つだけだ。
「まあ、あれだよ。何されるか知らないけど、仕事をすることだけは決まってる感じかなぁ?」
「…………そうですか……♪」
聞いてきたツバサちゃんは言葉では、夏休みに会えなくて残念そうな雰囲気があるものの、語尾や仕草でその残念さはかき消えている。
だって、嬉しそうにお耳とふわふわ尻尾さんが動いているもの。それ、嬉しい証拠だもの。
「……ツバサちゃん」
「はい?」
「何か知ってるよね。もしかして、この依頼について何か知ってる? そうだなぁ……例えば、ツバサちゃんが関係している、とか? そんなことってあるかなぁ」
「ふえ!? そそそんなことないですよー!! な、何言ってるんですか、ラルさんってばー……」
かなり動揺していますね、お姫様。おめめがあちこち泳いでますわよ。
ちらりとティールとフォース君の様子を窺うと、我が相棒は不思議そうにしているだけだが、心を読めるフォース君はにやりと笑っていた。きっと、私の言ったことがあながち間違いではなかったのだろう。そして、彼女の中にある答えを全て読んだ上で笑ったのだろう。面白そうじゃん、という傍観者視点で。
「ツバサちゃん、口では残念そうな感じ出そうとしてるけど、隠しきれてないぞ~? 可愛いお耳は正直だね?」
「ふえぇ!?」
私の言葉に、慌てて両手で耳を押さえる。それでも、尻尾はまだパタパタと嬉しそうに揺れていた。本当に隠し事ができないタイプである。
このままツバサちゃんを攻め続ければ、吐かなくとも予測はできそうだ。……かわいそうだから、これ以上やらないけれど。
「んなことよりさぁ……夏休み中、イグさんを連れ回す気満々だったのに、謎依頼のせいでパァだよ」
「え。そうだったの」
初耳みたいに反応をするティール。そうだろうな。彼の前で言ったのは初めてだ。
そして、私の膝の上では話が変わったことで、ほっとした様子のツバサちゃん。そんなツバサちゃんも愛らしい。
「そりゃあ、そうでしょ。剣技大会の恨み! 忘れてない! リアさんには連れ回していいよって言われてたもん」
「なんつー約束取り付けてんだよ」
「彼氏を連れ回す約束? でも、これも意味なくなりそう。ざーんねん!」
「そ、そういえば……ずっと聞けずじまいでしたが、ラルさん達とイグ兄とはどこでお知り合いに? 学校は学年が被りませんよね」
そうだろうな。私が中学二年であちらは高校二年。私達が高校に上がったときには、学校を卒業してしまっている。見事に被らないのである。
同じ学園に通っていたという共通点はあるものの、部活にも入っていない私達とでは、高校生とお近づきになる機会すらないはずなのだ。
「知り合ったところは学校じゃないからねぇ。……探検隊関連よぉ」
「ぼくらが探検隊始めて半年くらい経った頃に先生達……イグさんとリアさんに会ったんだ。あのとき会ってなかったら、ぼく達、死んでたかもね~♪」
「えぇっ!? し、しん……?」
唐突なティールの言葉に、戸惑いを隠せないツバサちゃん。そんなツバサちゃんをだっこして、私の椅子に座らせると、私はティールの隣に立ち、にっこりと笑って見せた。
「今日は暇だし、昔話でもしよっか! これから話すのは、私達が未熟なひよっこ探検隊だった頃の話で……そんなひよっこを助けてくれたヒーローの話だよ♪」



~あとがき~
まあ、今回で入れるわけないわな。

次回、過去編じゃぁい!
視点はラルです。イグ&リア視点はないです。だって、語ってるのラルだもんね。

あわあわしてるツバサちゃんをいじめちゃうラルさん、悪です。でもまあ、可愛いのでありですね。
指摘されても本能で動いちゃうツバサちゃん、可愛い(末期)

ではでは。

空と海 第234話

~前回までのあらすじ~
フォース&ラウラVSザゼル(紅)戦です。
こんなことになるなんて思いもしなかったぜよ。そして、短期間にアッピールしまくる紅さんに鳥肌です。
紅「うふふ」
フォース「まあ、短期間って言ってもね」
公開期間としてはご無沙汰です。まあ、敵軍のご無沙汰は黒やオパールなんだけど。オパールが一番出番ねぇぜ!
フォース「敵ながらかわいそ」
私もそう思う。


ラウラは自分が得意とする槍を手に馴染ませるように軽く扱い、楽しそうに笑った。
「んふふ。いいね。ようやく元凶をこの手で排除できるわけだ。フォースくんは優しいねぇ? 僕とは二度と会いたくないんじゃないかなって思っていたのだけれど」
「んなことないよ。ま、おれのイメージするお前がウザくないことを願うだけ」
「それはちょっと分かんないね~……さて、ご老人。幻とはいえ制御者二人を相手にするんだ。覚悟はしておきなよ、ね?」
一振りの剣を構えるフォースに対し、ラウラは槍を構える。そんな二人に紅……ザゼルは、不気味なほどに楽しそうに笑っていた。
先に動いたのはラウラである。槍を用いた突き技をザゼルに向かって容赦なく放つ。ザゼルはバイオリンの弓のような腕を器用に使って、攻撃をいなしていた。
「ご老人のくせによくやるぅ~♪ フォースくーん、サポートお願いね」
「はいよ」
ぱちんと指を鳴らすと、ザゼルの足元から鎖が伸び、意図も容易く相手の体を絡めとる。身動きのとれないザゼルに、ラウラは先程と同じように鋭い突き技を繰り出した。防御もままならない体勢で受けてしまったからか、簡単に吹き飛んだ。
「本体ではないからかな? なんだか手応えが薄いよ。これ、殺せはしないな」
「ここから追い出せばおれの勝ちってことだろ」
「ふふ。なら、こんなまどろっこしい手を使わずとも追い出せるでしょ? 君ならね」
ラウラの言う通りだ。変に戦わずとも追い出すだけなら簡単だろう。しかし、それをしないのは話す機会を得られる可能性があるからだ。
「女狐。ラルを手にして、あんたらのボスを復活させたとして、その先に望む世界があるのか」
ふらりと立ち上がるザゼルは、どこかおかしそうに肩を震わせながら笑う。
『そう。そのために不必要なものは消えてもらわないと駄目なの。まあ、普通の一般人はいいわ。今回の実験でどうとでもなりそうって知ったもの』
「どうにもならない人達はさようならって? 随分都合がいい話だね~」
『くすっ……都合よく仲間を利用した貴女に言われたくはないわねぇ』
「あらら。僕のこともご存知なのかな。僕は君を知らないけど」
『私はずぅっと我が主様と見ていたもの。この世界の行く末を。あるべき姿を。……ねえ、紅の制御者さん?』
「あん?」
『かつて、人の手で殺された貴方なら、分かるかしら。この世の中の不平等を』
フォース自身がまだ生を持っていた頃を思い出す。確かに、大人の悪意に踊らされ、その生を手放すはめになったのは事実である。
「んなの、仮に殺されてなくても分かるだろ。この世に平等なんてありはしない」
『……なら』
「だからって、おれは独りぼっちの世界に閉じ籠るつもりもねぇ。この世界は嫌いだがな、嫌いじゃねぇやつらが頑張って生きてんだ。それを手助けするのが年長者ってもんだろ?」
「あはは! ほーんと、理想ばっかり話してくるなぁ。そんな君が大好きだよ! 僕達のリーダーはね、君みたいな悪意の塊に負けちゃうような人じゃないの。……去れ、人の子よ。更なる深みは神の領域。我らは神に仕えし人形。その領域に踏み込むのならば、我らは容赦しない」
ラウラが構え、フォースもそれに倣う。これ以上の戦闘の命は保証しないとでも言うかのように、殺気を放つ。
紅はこれ以上の交渉は無理だと判断したのか、ザゼルから力が抜け、ばたりとその場に倒れる。しかし、不気味にもすくすくも笑い始めた。
『まあ、そうでしょうねぇ……でもね、あの方を手にするのは私。主様のために、この世界をあるべき姿に戻すために、必要な犠牲だもの。それは譲れないわぁ……それじゃあね、制御者さん。せめて、貴方の力尽きる頃に会いましょう?』
と、言い残し、これ以降は紅の声は聞こえなかった。
残されたのは、フォースとラウラ、そして、紅に取り残されたザゼルだけ。
「あの狐……後始末しろよ。何? おれがすんの?」
「さっさと追い出せばー? あんなの異物でしょ、あの老人は」
「そうだけど。どうせ、精神体だろうけど……荒っぽく追い出すと、あのジジィの自我、消し飛ばない?」
さっぱりしているラウラに困惑しつつ、問いかけるが、そんな彼女はにっこりと笑う。
「消し飛べばいいじゃん。悪者なんだし」
「あぁ、うん。……お前は昔からそういう奴だったな」
継承者の邪魔物は排除すべし精神に則り、フォースは結局、紅に向けて使わなかった剣を倒れているザゼルに向け、軽々と振り下ろした。
すぱん、と真っ二つになったかと思えば、ザゼルの体は霧のように消えてしまう。
残されたのはここの主であるフォースと、彼が作り出したラウラだけ。
「出口はあっちだよ、フォースくん」
「おう」
「ふふ。……また、話したかったらいつでも付き合うよ。悲しい自問自答に付き合ってあげよう~」
「……ま、そうなるよね」
フォースの意識で作り出したのなら、この会話もラウラならば、こう答えてくれるだろうという自己満足なものに過ぎない。彼女はもういないのだから。
「えー? 実は僕が生きてましたエンドがよかったかい? そんな奇跡、起きるわけないだろう。現実はいつでも残酷なんだよ?」
「うるっせ」
「つれないなぁ。……じゃ、ロマンチックに助言しよっかな? 君の中で生き続けるから心配しなくていいよ、とか言ってみようか?」
「お前、そういうの信じるのか?」
「いや? 死んだらそこで終わりだよ。僕みたいな誰の記憶にも残らないなお人形は特にね」
「……あっそ」
手元の剣を消し、フォースは踵を返す。ラウラの言う出口を目指すために。
彼女の横を通りすぎたとき、
「フォースくん」
と呼び止められた。フォースは足を止めるものの、振り返らなかった。
「なんだよ」
「留まるのは、大変だよ。思っている以上に、ね」
ラウラが何を言いたいのかは詳しく聞き返さなくても理解していた。これでも、何人もの継承者と共に過ごしてきたのだから。
「分かってる。でも……まだ、駄目だ。すぅを……あいつらを残しての退場は、まだ早い」
「あは。随分と変わったねぇ? 丸くなった?」
「言ってろ。……任せろよ、お前の元継承者が住む世界だ。ちゃあんと守ってやる。お前に代わってな」
「……ん。期待してるよ。リーダー」

ふわふわした感覚の中で、ゆっくり目を開けると、最初に飛び込んできたのは、ウィルの顔だった。
「! かーくーーん!」
「うわ、ちかっ」
思いの外近すぎて、フォースは堪らずウィルに平手打ちをかます。ぱしーんといい音が響く中、ウィルは呆気なく飛ばされる。
「いっったぁぁ!? 今の見た!? 起きがけに平手打ちですよ! 奥さん、あり得ますか!?」
ここに奥さんなんて一人もいないのだが、これは悪ノリの何かなのだろう。フォースは特に謝罪するでも、発言に反応をすることなく、辺りを見回した。
「すーくん! よかった! 起きてくれた!!」
「……すぅ? なんで泣いてんの」
どこかの横穴とようなところにいると把握したところで、自分の横でぽろぽろ涙を流しているイブが目に入った。なぜ泣いているのかが分からないのだが、とりあえず、フォースは彼女の頭を撫でた。
「だってだってー! 何回呼んでも起きてくれないんだもん! 私、すーくんを呼び戻そうとしても、上手くいかなくて、かといって、すーくんの中にも行けないし……!」
「……ふぅん。それは悪かったよ。ちょっと……悪い夢見てた」
「悪い夢……?」
「そ。んでも、もう大丈夫」
「……ほんと?」
未だ心配そうにするイブに、フォースはにやりと笑って、ぐしゃぐしゃと乱暴に撫で回した。
「きゃうぅぅ!? な、なにー!?」
「大丈夫だって。おれは一人じゃないからな」



~あとがき~
無理矢理納めた。
まとまり? なにそれ??

次回、謎の集落にまつわる話、まとめてまいります。
まあ、オーシャンとフォースの目的は達成してるしな。

前のピカとフォースの会話や、今回の紅の台詞、ラウラ、フォースの会話からわかると思いますが、彼に残された時間はあんまりないです。あ、いや、死ぬとかそういう話ではないですよ?(汗)
どこまで彼が抵抗できるのかは見守ってくださいませ。

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第158話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界の物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
敵に拐われたラルを助けたティール。悪いやつにもお灸を据えました。やり過ぎ感もあるけど。
今回はあれだね。まとめです。まとめ!
ティール「こんなに仕事でバタバタしたのも久しぶりだよ」
ラル「私は楽しかったけどね」
ティール「どこが!?」
慎重なラルらしくない感じではあったけど……まあ、あれだよね。適度にふざけてなんとなくのスリリングを味わいたかったのかもですね。
ティール「は!?」


ばたんきゅーしてしまった男を引きずり回して一部屋ずつ確認するのは流石に面倒だったため、雷姫を使い二階の捜索を行った。
できるなら最初からやれよと思われそうだけれど、これはこれで疲れるのだ。できるなら、やりたくはなかったのだ。……結局、やっちゃったけど。
結果、この男以外に館にいる者はおらず、人影だとか、気配だとかはこいつの仕業ということになるのだろう。
よって、この地域の警察さんに男を引き渡し、この依頼は終了である。屋敷を出て、その警察と合流を待った。
「探検隊スカイサン! ゴ協力、感謝シマス! ゴ苦労様デス」
「いえいえ。報酬はいつものようにギルドにお願いしまーす」
ものの数分で到着した警察さんは機械のように片言で話し始めた。言葉だけではなく、動きすらもかくかくとしたものに見えてくる。これが彼のデフォルトなのだけれども。
機械的なマスクを着用し、素顔を見せてくれないジバさんとその部下のイコルさんだ。イコルさんは片言以前に無口で喋らないお方だ。
「ラルサン、ティールサンハ、ソノ……大丈夫デスカ?」
「大丈夫っす! ちょっといじめすぎちゃっただけなので」
ジバさんが心配するティールは、木の影に隠れ、耳を塞いだ状態で小さくなっていた。こんなの、誰が見ても心配するってやつだ。やれやれ。
最後の悪ふざけで『幽霊』という単語を言ってしまったのを根に持ったらしく、館を出たあと、あんな感じに小さくなってしまったのだ。何もいないと言っているのにね。
ジバさん達に後は任せ、私はティールの元へと駆け寄る。きゅっと目を閉じ、小さくなるその姿は幼子がやるならまだしも、男子高校生がやるものではないだろう。ティールは気にしないんだろうけども。
ティール、帰るよ~」
「……今度はほんとに、本当に帰る? 実はまだお化け屋敷探検だーとかで連れ回さない?」
「回さない回さない。ギルドに行って報告したらお家に帰りますよ」
じとーっと見つめた後、ゆっくりと立ち上がった。彼の視線には疑いの色が混じっているが、このまま動かないままなのもよくないと思ったのだろう。
にしても、疑り深いなぁ。

ティールの疑念をよそに、私はフェアリーギルドへと帰ってきた。ここまで帰ってくると、ティールの機嫌もいつも通り。会話もすんなりとできるようになった。
しばらくは幽霊関連はなしだな。うん。
「うぅ……さっきまでは気にしてなかったけど、シャワー浴びたい。微妙に湿ってるよ~」
落下の衝撃をスイちゃんで作った簡易プールで相殺した際に、全身ずぶ濡れになってしまったらしい。ちなみに、ティールが持っていた電子機器類は過剰なまでに防水加工してあるので、壊れる心配はないけれど。これはティールに限らず、探検隊の持ち物は基本、何があっても壊れないように設計されているのだ。
「私が依頼完了の手続きしておくから、シャワー借りたら? ついでに服とかも」
「ん。そうするよ。ごめんね」
いいって。行ってこい。
手早く受付で事情を話し、了承を得た相棒は足早にギルドの奥へと消えていく。シャワー浴びるだけなら、そこまで時間はかからないだろう。私としてはゆっくりしてもらっても問題はないのだけれど、ティールの性格的にぱっと済ませてしまいそうだ。
「やっほーい。依頼終わらせてきたよ。確認よろしくね、リン」
「はーい! 先程、ティールさんがシャワーへと行きましたけれど……何かありました?」
ティールは濡れているのに、私は全くだからか気になったらしい。とはいえ、一から話すのは面倒だ。特筆すべき出来事もないし、私はにっこりと笑う。
「うんにゃ。なんもないよ~」
「そうですか? まあ、こうして怪我なく帰還してますもんね。では、少々お待ちくださいな♪」
討伐対象の魔物からドロップしたものを全てリンに引き渡すと、彼女は手慣れた手つきで端末を使ってチェックしていく。
「ふむふむ……問題なさそうですね! いつも思いますが、よくこの量を一日で片付けちゃいますね? 討伐二件、救助一件、調査一件ですか」
そうだろうか。移動は全てバッジで行うし、討伐一件と救助は同じ場所だ。トータルでもそこまでの時間はかけていないつもりだけれど。確かに帰ってくる時間は日も沈みかけギリギリだけども。
「明日もお休みだからね。最悪、終わらなくても野宿すればいいじゃない? もう少し受けるか迷ったけど、やめて正解だった。明日は休みになったわけだし」
「ふふ。そうですね。ラルさんもティールさんも学生なのですから、お休みは大切にしなくっちゃ!」
「だよね。明日は惰眠貪るかなぁ~?」
昼までだらだら寝て、昼過ぎくらいから活動したい。……習慣的に無理な気もするけど。
リンも私と似たような考えが浮かんだのか、小さく笑みをこぼすと少しいたずらっ子みたいに無邪気に囁く。
「あら? 惰眠謳歌するのはティールさんでは」
「誰が何だって~?」
黒と白のスポーティーなジャージ姿で現れたティールは、濡れた髪をタオルで拭きながら、不満げに頬を膨らませる。どうやら、私達の会話が耳に入っていたらしい。
「リン、ぼくだって起きるときは起きるからね!」
「あらあら♪ ごめんなさい♪」
「大丈夫だよ、リン。間違ってないから。どうせ昼まで起きないのはティールだもんね」
「……そ、そんなことないし」
あれぇ? 目が泳いでるよぉ?
「おお、ラルにティールじゃないか♪ ちょうどいいところに」
「げ、音符ぅ……」
「ノウツ! あのお屋敷調査! ぼくらに回さないでよ。酷い目に遭ったんだからー!」
ギルドの二階から降りてきたのは、学校で見るフォーマルな音符ではなく、探検家使用の所謂、私服姿の音符だった。そんな教頭改め、ノウツは不思議そうに首を傾げる。
「ふぅむ? ワタシはてっきりフォースが行くものだと思っていたんだけどね?」
「断られたわ! 勉強だとかなんとかで」
「ほう? あいつもまじめな一面があるじゃぁないか♪」
……ステラちゃんとリーフちゃんの勉強なんだけれど、言わなくてもいいか。勘違いさせとけ。
「……あ、ちょうどいいところにって? 何かぼくらに話でもあるの?」
「あぁ。そうだった♪ 親方様が二人をお呼びだよ。急ぎではないらしいが、せっかく来たんだから、今から顔出しておきなさい」
うげぇ……なんで仕事から帰ってきた今なのよ。帰りたい……
「別に明日でも明後日でもいいぞ? ただし、明後日の場合、校内放送で呼び出すけどな♪」
やめろ!! そんなん地獄じゃないか!!
「行こっか、ラル。放課後にでも呼び出されたら、ツバサとの触れあい時間も減るだろ?」
「……あい」
くそう。ツバサちゃんを人質に取るとは……鬼。悪魔……音符のアホ……
「うーんと……そこまでは言ってないと思うな、流石のノウツでも」
「おい。二人とも、ワタシをなんだと思っているんだい……?」
私達のやり取りを黙って聞いていたリンは楽しそうに笑っていたが、ノウツに見られるとさっと営業スマイルに戻る。プロの所業である。

「やあ! お仕事お疲れ様~♪ 待ってたよ」
ノウツに言われるがまま、親方の部屋を訪れると、いつもと変わらずにセカイイチで遊ぶ親方がいた。高級食材であるはずのセカイイチを軽々とお手玉のようにいくつも操る姿にヒヤッとする。しかし、これは日常。なので、私とティールはいつも通りを装う。
「ノウツから聞いてきました。私達に話でも?」
「うんうん♪ この前話した夏休みの特別依頼の話だよ~♪ ほら、ボクの知り合いが二人に依頼したいかもみたいなやつね~」
あぁ、あの曖昧で謎の日程押さえ込みのやつ……ついに依頼者が明らかになるとか。
「ううん。ならな~い♪」
「なんなんだよ!! そこまでして弄びたいか!? あぁ!?」
「こらこらこら……忘れがちかもだけど、プリンさんはギルドのトップだよ? ぼくらのお師匠様だから。そんな口の聞き方しないの」
むー……だってぇ……
「依頼者はわかんないけど、日にちは分かるよ!」
「「なんでそっちが先なの!?」」
流石のティールも私と声を揃えて抗議した。
しかし、これに反応はせずに親方はニコニコ笑顔で話を続けた。
「あのね、学校が終業式するじゃない? そこから三日後だね~♪ で、二週間お仕事してもらいたいって話だよ」
夏休み三日目から二週間……結構長いな。
「してもらいたいって話はあるんですよね。依頼者を明かしてもよくないです? あと、仕事内容! ギリギリに知らされてもこっちにも準備が……」
「依頼者は内緒の方向を望んでるんだよ~♪ あと、仕事内容はボクも知らない! でもでも、近いうちに代理人からラル達に直接連絡あるってさ。そこでわかるよー! ぜーんぶね!」
あっけらかんとした親方の態度に呆れを覚えるのと同時に、これ以上の交渉は無意味だと悟る。なぜなら、親方だから。
むむぅ……今回の仕事は秘密主義が好きな人なのかな。それとも、本当に怪しいお仕事なのではなかろうか。親方からのご命令だから断れないけれど、受けてしまってよかったのだろうか。今更後悔しても遅いが。
「ラル、まだわかんないことが多いけど……この仕事をするにあたって、やらなきゃいけないことが一つできたね」
「? 何かあったっけ?」
いつになく真剣な表情で見つめてくるティール。今の話の中で、何かに気がついたのだろうか?
「今回の期末テスト。赤点は取れないよ。補習なんて受けたら仕事行けないもん」
「……へ?」
「あはは♪ そうだね! 赤点げんきーん!」
「魔術関連の勉強、きっちり見てあげる。……いつも以上に厳しくやるからね?」
「オ、オテヤワラカニ、オネガイシマス……」
氷のように冷たくて鋭い笑みに私は引きつった笑いしか出てこなかった。
これから……というよりは、帰ってからのティール先生による熱いご指導がしばらく続くのだが……
これはまた、別の話である。



~あとがき~
とりあえず、終わり。

次回、スカイとイグニース&リアの出会いの話です。過去編です。
あ、ちゃんと現代だよ☆

言いたいことはないっすね。でも、これだけ。
ノウツだって、マウントは取れる。以上!

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第157話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわーわーしてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
百面相ばりに感情がころっころしまくるティールでした。敵の掌でころっころされてましたね。
ティール「ふふふ~」
ラル「あ、怒ってるぞぉ」
今回からはまたラル視点に戻ります。


ティールを突き飛ばして、無理矢理、敵の妨害の範囲外に追いやったあと、視界暗転のデバフをかけられてしまった。まあ、視界を奪われた程度で焦る必要はないのだけれど、ここはどこの室内で、どこに何があるのか頭に入っていない。下手に動くのは危険だと思い、されるがままを選んだ。少しでも敵意を感じ、攻撃する気配を感じ取ったら雷姫を振り回そうかと思っていたのだが、そこまでの度胸はないらしく、適当なソファ的な何かに寝かされているらしかった。らしいって表現を使ったのは、私は実際を知らないから。けど、雷姫がそう言うのだから、そうなのだろう。
今、私の頭に響くのは、雷姫の怒号だった。私に向けられたものではなく、そこにいるであろう敵に対して向けられたものらしい。
『おい、この男、マスターを嫌らしい目で見ておるぞ。斬り殺してやろうか!?』
やめてあげてください。命を取るほどの悪人ではないっしょ……?
不本意に捕まってしまったが、よくよく考えれば怪しい人物がいるのならば、こうした方が手っ取り早かった。短縮できたと捉えておこう。……周りの人に怒られそうな手法ではあるけれど。
「こ、ここんなところに人が忍び込んでくるなんて……まだ、子供じゃないか……?」
視界が奪われているだけで、声も出せるし、意識もあるのだけれど、ここは特に反応を見せる必要はないだろう。黙ってよ。
『そのような目でマスターを観察するなぁぁ!! マスターは我のものだ! もしくはパートナーのものぞ!?』
それはねぇわぁ~……
男は私でも聞き取れない─というか、ティールの声が絶えず聞こえているから、聞き分けられない─声でぼそぼそっと何かを呟いたかと思ったら、私の髪を触ったような気がした。
『だあぁぁー!!?? マスター! 我を実体化させよ! この男、一瞬で切り刻んでやる!!』
あぁ、触ったのは間違ってないのね。まあ、確かにゾッとはするけれど。
何をどう思ったのか不明だが、男が異様に近づいてくる気配があったため、私は我慢できず適当にパンチした。ちなみに当たった感触はない。
「人が黙っていれば、このあとは何するつもりだったのかしら。……痴漢の容疑で逮捕だ。たいほー」
「きっ、気絶させたはず……! もう目が覚めたのか……!?」
確かに、気絶はさせられたけれど。
「うるっさい目覚まし時計のお陰で目が覚めちゃったよ。とはいえ、あなたのデバフが解けている訳じゃないから、ここから逆転は難しいかもにゃあ?」
……あくまで、私一人だと、だけどね。
ずっと繋げていた通信機から、情けないティールの声がずっと聞こえていた。けれど今はいつもの……いや、いつも以上に冷静なティールになっていた。というか。
「怒ってるよなぁ、相棒」
『だろうな』
ぐぬ。
「何も見えていないお前と、俺とではハンデがある! もう一度、眠ってもらうぞ!?」
「その眠ってもらうは二度と目覚めない的なやつかなぁ……? そうなるのは、もしかしたらあなたかもしれないけれどね?」
「な、何を……」
男の言葉は後に続かなかった。
この部屋に乱入者が現れたからだ。
「彼女から離れろ」
いつもよりも低い声で私と男の間にでも入ってきたのだろうか。側にあった男の気配が消え、代わりにティールの気配を近くに感じた。
この隙に、私はレッグポーチから手探りで回復薬を取り出して中身を飲み干す。デバフ解除の回復薬は即効性で、すぐに効き目が出てきた。真っ暗だった視界が少しずつ元に戻り、薄暗い部屋を映し出す。
「はー……飲むタイミングなさすぎ~……っと」
ぐるりと見渡すと、腰が抜けたのか座り込んでいる男に、ティールが剣の切っ先を向けているところだった。何らかの手段で敵を飛ばしたんだろう。男が濡れている様子もなければ、冷気で凍っている様子もない。恐らく、スイちゃんかセツちゃんの剣の腹の部分をぶつけたか。
ティールはポーチから粉の入った小瓶を取り出すと、何の躊躇いもなく全て男に振りかける。
あれって……確か。
『マスターが作ったやつか』
だねぇ……怒ってますね。かなり。
「お前が全てやったのか。幻術も、彼女を連れ去ったのも、全部。お前が?」
感情を感じさせない声はどう聞こえたのだろう。男は予想以上にガクガクと震え出し、ティールからどうにか逃れようともがき始める。しかし、ティールが目の前に立っていること、喉元に剣を向けられて逃げ道がないことが相まって、無意味な行動となってしまっていた。
「……どうでもいいか。住居不法侵入は確実だ。ついでにここ最近の騒ぎについて、警察にでも弁解して。……でもね、ぼくのパートナーに手を出されて黙ってなんかいられない」
向けられていた剣が真上に掲げられ、すとんと振り落とされる。もちろん、狙いは外されていて、男の股の間に振り落としていた。しかし、男は当たってもいない片腕を押さえ、痛みで喚き始めた。
それだけで、男の今の状況を察した。
「完全に幻覚見せられてんな」
『効き目抜群じゃな、あの魔法の粉』
誤解を招きそうだけれど、あれは惑わしのタネを粉末状にしただけで、合法である。しかし、あの小瓶だけで二、三回分くらいはあるはずなので、必要以上の量を使用はしているのだけれど。それくらい、ムカついたんだろう。
『……パートナーが成敗してくれたな。我は戻るぞ。ふふん♪ すっきりした♪』
そりゃよかった。
「……ふぅ」
男がありもしない怪我のショックで気絶したところで、ティールはスイちゃんとセツちゃんを納める。そして、先程までの冷静さは無きものにされたのか、あわあわしながら私のところへと駆け寄ってきた。
「ラルー! 大丈夫!? 何かされてない?」
「一応、何もされてないけどさぁ……お前、耳元で叫ぶなと言ったよなぁぁ!?」
「ご、ごめんなさいぃぃ!!!」
ちょうどいい位置にティールの脛があるから、そこを重点的に蹴ってやる。正直なところ、この通信機の声で敵に何かされるんじゃないかとヒヤヒヤしたのだ。実際は、相手に聞こえてなかったみたいだけれど。そこは、敵の性格にも助けられた形となったのかもしれない。
「い、いたっ……ごめんってばー! でも、あんなところに一人なんてラルもひどいよ!?」
「男だろーが! 泣くんじゃないわよ」
「泣いてはない!」
どうだか。声は震えてましたけれど。
結果的にこちらの損害はない。が、もう少し上手く立ち回るべきだったな。いや、これはこれで楽しかったけれど。久しぶりにティールのあれこれが見れたし。
ティールの足を蹴るのをやめると、私はすくっと立ち上がる。
「とにかく、色々あったけど……助かったよ。ありがとうね」
「助けるのは当たり前だろ。ぼく達はパートナー同士なんだから。……ところで、こいつ以外に人はいないんだよね?」
「どうだろう。今度こそ、幽霊が……」
「やぁぁだぁぁぁ!! ラルのバカ! 何でそういうこと言うかな! 言うのかな!?」
真面目でかっこいいティールも好きだけど、あわあわしたり、笑ったり、怒ったり……表情がころころ変わるティールが好きだな。
だって、そっちの方が面白いじゃない?



~あとがき~
ごちゃっとしてるけど、ティールが静かに(?)怒ってるシーンが書きたかっただけです。

次回、まとめなり~!
今回の締めに入ります。すぐ終わると思います。

言いたいことないっすな……
なんだろ。ラルはティールにも思われ、雷姫にも思われ、幸せなやつですね。
雷姫のは過剰な気もしますが(笑)

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第156話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で冒険してる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
のんびりわいわいと屋敷探検中でしたが、敵襲(?)を受けてしまう二人。ラルの咄嗟の判断で分断しました。階段から落とされてますね。
ティール「酷い」
ラル「ごめんて」
ティール「一人にしないでって言ったのに」
ラル「あ、そっち……?」
みたいっすね。
視点はティールっす!


《Te side》
初め、何をされたのか分からなかった。上の確認へ行ったラルが慌てて戻ってきたかと思えば、体をふわっとした感覚がぼくを襲っているのだから。理解しろって方が無理な話だ。
そして、スローモーションのように遠ざかるラルを見て、落とされたのだと気づいた。どうにかして、落下の衝撃を抑えなければと、スイの柄を握り、液体に変化させる。そして、能力で上手く位置を調整し、その小さなプールへ飛び込んだ。
「……っ! ぷはっ! ありがとう、スイ」
よく、あの数秒間の世界で、ここまで対処したな。偉いぞ、ぼく……! もう二度とできないけど!
『にひひー! いーんだよー!』
スイを剣に戻し、いつも身に付けているポンチョも脱いだ。スイから作られた水でびしょびしょで、気持ち悪い。スイが剣に戻ったからといって、濡れた全身が乾くわけではない。
「だからって、刀身が短くなるわけでも、軽くなるわけでもないんだよな。変なの」
『すっちゃ、へんじゃないもーん! てぃー、ひとりになっちゃったねー? どーする?』
……あっ。そうだった。
「こんなところで一人にされても困る……! ラルは!?」
『るー、きっと、うえだよ!』
そ、そりゃそうか。
階段を駆け上ろうとするが、ほんの一瞬、ぼくの視界に何かが横切る。それのせいでぴたりと動きが止まってしまい、よせばいいのに、反射的に横を見てしまった。よせばいいのに。
「……何、あれ」
『ふにゅ?』
ラルと見回ったときには見かけなかったはずの半透明な方々を視界に捉える。皆一様にボロボロな服装で、ゆらゆらと生気のない動きで漂っていた。それも一人二人ではない。大量にいる。
「がっっっつり幽霊屋敷じゃん!! 大量にいるじゃん!? ラルの嘘つきー!! ばかぁぁー!!」
『ほわわ!? てぃー、おちつくんら!』
スイはそう言うが、そんなの無理に決まっている。幽霊だよ!? どう対処するべきなの。いや、できないって言ってるじゃないか。フォースじゃあるまいし!? 無理無理無理!!
『ウフフフ…』
不気味な笑い声が後ろから聞こえてきた。たまらず、後ろを振り返ると、至近距離に真っ白なお顔を近づけてきた女性の幽霊様がいらっしゃった。あり得ないくらい口を歪ませ、にやりと楽しそうに笑っている。怯える人間が面白くて仕方がないとでも言いたげに。
「ぎゃあぁぁぁ!! 無理だっつんてんだろぉぉぉ!! セツ!」
ぼくは叫びながら、バックステップで幽霊から離れる。幸いにも追いかけては来ず、その場でただただ、不気味に笑うのみだ。
『ほいなー! どしたの~?』
「もうどうしたらいいのか分かんないよー! ええい、とにかく、斬る! この世の未練とか知るか! 斬ってここから抹消してやる! お前らも手伝えぇぇぇ!!」
スイとセツを構え、訳のわからないことを口走る。もう、ぼくの頭はキャパオーバーだよ!!
『にゅ。ゆーれーに、ざんげきはむぼーらよ?』
『ほわ? てぃー、ないてうー?』
知るかぁぁぁ!!! もう心は号泣しとるわ、ばぁぁかぁぁ!!
「“絶花雪月”!」
『ほよー』
『ほんきらぁ』
セツに冷気を纏わせ、スイと一緒に連撃を放つ。本来は一つの剣でやるものだけれど、両手に持ってるんだから、一緒にやっても同じだ。
野原をのびのびと跳ねる兎のように軽やかに動くイメージをしながら、全ての斬撃を繰り出した。
「じゅーれんっげきっ! だぁぁ!!」
『てぃー、まったくてごたえないよ』
『すぶりなのら』
知ってるぅぅ!! 斬ってる本人が実感してるからな!! いや、斬れてないけど! 実体のない相手に何やってんだろう、ぼく!?
でも、フォースみたいに話術でどうにかできるはずもなく、ラルと雷姫さんみたいに消す方法なんて知らない。できそうなのは、話すことだけれど、話が通じる相手ではなさそうだ。だって、ずっと笑ってるだけだもの。言葉が一つも聞こえてこないんだけど。
『う、ウふ、ウフフフ……さア、こっチにオイで』
「誰がお前らの誘いに乗るもんかぁぁ!!」
言葉らしい言葉が聞こえてきたものの、それはそれで怖かった。会話なんて無理でした。
両手を大きく広げ、ぼくに抱きつこうとする幽霊達の隙間を掻い潜り、近くの部屋へと飛び込む。そして、スイ達を鞘に納めつつも何かを考える余裕もなく、立派なデスクの下に隠れた。
『てぃー? かくれるの、いみあうのー?』
「知らないよぉ……何でこんなことになってるのさ。ここ、どこなの」
『みゅーん……ごほんいっぱいよ~?』
なら、書斎かなんかなんだろうな。願わくば、ここが聖なる場所的な何かで、幽霊様が入れない部屋だと嬉しい。
ラルともはぐれるし、というか、ラルはどこに行ったの。ぼくを一階に残して─というか、落としてという方が正確かもしれないが─彼女はどこへ。
ふと、ずっと通信機が入りっぱなしだったことを思い出した。ぼくのパニック具合も筒抜けだったし、なんなら、ラルの約束を破って叫びまくっていたのだけれど、あちらからの返答は何一つない。
「ね、ねえ、ラル? 聞こえる……?」
改めて呼び掛けてみても、返答はなかった。ぼくの絶叫に嫌気が差して、通信機を切った……なわけないだろう。そもそも、絶叫一発目で怒られている。普段なら。
……となれば、通信できない状況なのか。
「信じてるよ、相棒」
ラルはぼくを落とす直前、こんなことを言っていた。なぜ、今更?
『てぃー、おちついたー?』
「……なあ、スイ、セツ。お前達は何も感じなかったのか? あんなにたくさんの魂があって、気配とかなかったの? 専門外だからわからない?」
『りゅ……? なーんもわかんないよ? でもでも、もしいるなら、けらいわかる! せっちゃは?』
『みゅー? しやなーい。ここはなんもないよねー? もし、いるなら、ぴーんてなるよー? ゆーれーいるとこ、さむさむだもーん』
なのに、わからなかった?
一つ、二つと深呼吸をして、思考をリセットさせる。目を閉じて、さっきまでの出来事を思い出す。
……よく考えろ。ラルがいつも言っているじゃないか。考えろって。
「……初めは何もいなかった。それは、ラルも言っていたし、スイもセツも何も言ってこなかった。多分、雷姫さんも……なら、いないのが正解なんだ。じゃあ、さっき見たものは? いないのが大前提なら……ぼくの見たものは、嘘……?」
……そうだ。そう考える方が自然なのだ。ぼくはラルやフォースみたく、視える目を持っていないのだから。ここで運良く第六感解放なんて、都合よすぎる話だ。きっかけも何もないのに、視えてたまるかって話である。
「……そう考えれば、納得がいく。それっぽいのを見せる手段があるんだから」
『? てぃー?』
スイの呼び掛けは無視して、デスクの下から這い出てくる。そして、この部屋の扉を見つめると、タイミング良く、数体の幽霊が扉や壁をすり抜け、にたりと嫌な笑みを浮かべて突っ込んできた。
「まんまと雰囲気に飲まれてたよ。だから、初歩的な罠にかけられたのか。……お前ら、幻だな。幻術。単なるデバフ攻撃」
エストポーチから、小さな小瓶を取り出し、中身を一気にあおる。そして、再び扉を見つめたときには誰もいなかった。扉を開け、廊下を見渡すも何の気配も感じない。
「あれを仕掛けた敵がいる。その敵にラルが気づいて……二人して何重にも幻術を掛けられないように、ぼくを逃がした……そういうことなのかな。あは。……やってくれる」
ぼくは階段の下まで戻ると、濡れたせいでずっと張り付いていた前髪を掻き上げ、スイとセツを構える。
「ぼくのパートナーに手を出すなんていい度胸しているじゃないか。……ただですむと思うな」



~あとがき~
怖がって叫んだり、冷静になって静かに怒ったり……忙しいやつですね。

次回、敵に捕まったラルの安否とは!
何度でも言おう。シリアスなんてない。

曖昧なものが苦手なティール。
きっちりしたい真面目な彼っぽいですね。
ちなみに。
幽霊の対処法は、ラルとフォースで違います。ラルは何でも斬っちゃう雷姫を使いますし、フォースはしっかり捉えるために会話でどうにかしようとします。もちろん、二人とも逆のこともしますけどね。ラルも話でどうにかしようとするし、フォースも力でねじ伏せることもあります。
どっちにしろ、ティールの専門外ではありますね。

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第155話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界を探検してる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回から、ラル&ティールのお屋敷調査のお話をしてます。お化け嫌いなティールくんでっす。
ティール「お化け屋敷とかホラー小説とかそういうやつは平気なんだけど」
彼の平気な塩梅は分かりにくそうですが、作り物は平気なのですね。この辺は作中でも説明あるかな。なくてもいいけど(笑)


館内はしばらく人がいない割には綺麗だった。埃っぽいだとか、そういう濁った空気というか、そんなものは感じなかった。雰囲気がそれっぽいから、大して気にならないせいかもしれないが。
いかにも古びた洋館の入り口。そこには広いエントランスがあり、左右に廊下が続く。そして、目の前には二階へと続く階段。確認しなければならないところは多そうだ。
「フォース君みたいにお化け様に敏感じゃないからなぁ。雷姫使ってもいいけど、こんなんで力消費するのもアホらしい。……一つ一つ確認してくか」
本当なら、手分けして見ていく方が効率的なのだけれど、ビビりなティールと離れられるほど、私は冷徹にはなれない。時間はかかるが、どうせ明日は休みなのだ。二人で一緒に見ていけばいいだろう。
「なんでそこまで冷静でいられるの」
「幽霊とか平気な女の子なので。ごめんね! 可愛げのない女の子でー!」
「何に対してキレてるの……?」
うっせうっせ!
持ち主が言うには、電気も水道も一旦止めているらしいので、光源は自分でつけるしかないのだ。私はバッグからペンライトを取り出し、辺りを照らしつつ、奥へと進んでいく。
右手奥の部屋を開けると、備蓄庫なのか、雑多に箱が敷き詰められていた。軽くライトを当てて辺りを観察。特に怪しい気配は感じないし、雷姫も静かだ。だからまあ、何もいないんだろう。多分。
ティール、いそう?」
「スイもセツも静かだから、この部屋にはいないと思う」
ほいよー
こうした地道な作業を淡々とこなし、見回りましたが不審な影はありませんでしたと報告しよう。それでなんかあっても知らん。専門外だ。個人的に霊媒師でも呼んでくれ。
次はお隣かな。
「おっ邪魔しまーす!」
「し、静かに開けようよー!」
ティールの忠告は無視し、ばーんと豪快に開けた先の部屋は食堂らしかった。長いテーブルとたくさんの椅子が等間隔に並べられていて、立派な暖炉も完備されていた。まあ、暖炉は恐らく飾りだろうが、お金持ちのお家って感じがする。ティールの家もこんな感じだったか。
「いや、ティールん家の方が広いか……?」
「ぼくの実家と比較しないで」
「えへへ~♪ ごめーん。ところでさ、夏休みに帰ってこーいって話はどうなったのー?」
「こんなとこでする話!?」
こんなところだからこそ、いつものどうでもいい会話をするんでしょうが。
私は一応、テーブルクロスをめくって、ティールと一緒に下を覗いてみる。当たり前だが、誰もいないし、気配もない。幽霊の『ゆ』の字すらない。
「ま、まあ、いいか。そういうことにしておくよ……で、実家に帰る話だっけ。前に話した以上の特に進展はなく、未だに帰ってこいコールが続くだけだよ」
「……今回、諦めないね。セイラさん」
「ラルもそう思う?」
セイラさんはティールのお母さんのお名前だ。つまり、海の国の王妃様。このお方、ティールのことが大好きで、「いつ帰ってきますか~?」的な連絡を度々ティール本人にしているらしい。そして、息子の彼の答えは決まって、「帰る予定はありません」である。普段なら、「あら、残念」で終わるところなのだが、今回はそうもいかないらしい。
「ん~……実は大切な公務があるんじゃない? ティールも同席してほしい、みたいな?」
「それならそう言うだろうし、その前に父上から連絡来るでしょ。そういうの一回もないから」
あら、そうなの。
ティールはお飾り暖炉を覗きながら、小さくため息をつく。ティールのお家事情は複雑で、あんまり踏み込めない。こればっかりは本人の気持ち次第だから、私も深く関わっていいものなのか疑問だ。
「例の夏休みの仕事は言った? 今度、連絡あったら探検隊の仕事があるから無理だって伝えてさ、期間も分からないって言っちゃえよ」
「それもそっか。そうしよ~」
……って、こんなことを言ってしまってもよいのだろうか。ごめんなさい、セイラさん……!
このあと、食堂もぐるりと確認したものの、怪しい影も気配もなく、私達は食堂をあとにする。
いつもみたいな他愛ない会話でいつものティールに戻るかと思ったのだが、全くそんなことはない。廊下に出た途端、何か不安に感じたのか、ぴたりと私の腕にくっついてきた。
「……ティールさん。あなた、霊感ないじゃないですか。零の感で零感じゃないですか。なんでそこまでビビるんすかね?」
そして、それは女の子が好きな男の子にするやつだから。決して、イケメンな男の子がブルブル震えながら、目の前の女の子に助けを求めるシチュエーションじゃないからね。分かります?
「見えないからこそ怖いってやつだよ……対処の仕様がないだろ? そういうの無理なんだって」
「見えないから対処もないと思うんだけどね~」
「見えない恐怖が嫌なの! 分かってよ~!」
いやいや、分かるさ。漠然とした恐怖は恐ろしいものだからな。
「……ラルの言うそれとぼくのこれは違う気がするよぉ……とにかく、離れないでよ。一人でどっか行こうとしたらあれだよ……あの、怒るから!」
「はいはい。……これ、ティールにお熱なファンの子達が見たら、ドン引き案件だよねぇ」
「? 別に気にしないけど」
……ちょっとからかうか。
「なんかうご……」
「!? え、何!? やめてってば!!」
私が言い切る前に、彼は私の後ろに隠れてしまう。予想以上の反応に、罪悪感がひしひしと沸き上がってくる。これ以上言ってしまうと、泣き出してしまいそうだ。
「……ごめん。気のせいだ。普段以上に早いね、ティール……バトルの反応速度もそれくらいだったら最強なんじゃない?」
「冗談だろ。……普段からこんな風に動いてたら心臓持たない……」
ティール、私達、一階の二部屋しか見てないよ。まだまだ行くぞ」
「心臓持たないぃぃぃ!!!」
安心して。最悪、骨は拾ってやるよ。

とはいえ、小さな物音でティールが滅茶苦茶にビビるという小トラブルを何度か引き起こしたくらいで、一階は特におかしな点はなかった。淡々と館内を見回り、再びエントランスへと戻ってきた。ここから階段を使い、上へと行かねばならない。
「もう、全部が怖い!! なんなの! なんかムカついてきたよ!?」
知らんよ。
どんなものでもビビって反応しまくるティールは、一階を見回るだけで精神力を消耗しまくったのか、テンションがおかしくなってきている。一周回って怒り始めてきた。そろそろ、帰らないとティールがかわいそうになってきたよ。
「上を見たら終わりだよ。あと半分だよ~」
「は、はんぶん……ハンブン……!」
「そうそう。半分。ま、これが王道パターンなら二階に何かあるとか、隠し部屋が! とか急展開を迎えるんだよね?」
「いらないから。そういう期待してないから。すっと終わるのを皆、希望してるから!!」
皆って誰やねん。
「さあさあ、幽霊屋敷探索も後半戦だ~♪ ゴーゴー!」
「だから! そういうことを言うなってば!」
ちぇ~……せーっかく人が楽しい探検にしてあげようとしてるのに。分かってないな~?
テンションがおかしくなってきているティールだが、私の手は離さない辺り、恐怖心は本物なのだろうと思う。
ここまで騒いできて今更ではあるが、一応は階段からの敵襲も視野に入れ、慎重に階段を上る。一階には人の気配もなく、幽霊の気配もなかったが、どこにどんな仕掛けがあるのかは分からない。何がトリガーになるかは誰にも分からないのだ。
と、意識を集中させようとした瞬間、ほんの僅かだが、物音が聞こえてきた。慌てて、階段の途中だが、その場にしゃがみ、再び意識を集中させる。
ティール、この先は通信機で会話しろ。叫ぶなよ。……仮に大声で叫んでみろ。私の耳が死んだあとにお前を殺す」
「え、あ、……了解だけど……なんでこのタイミングでぼくを脅すのさ?」
ノリ。
お互い、耳についている小型通信機のスイッチを入れ、小声で話し始める。さっきまでのおふざけモードはオフである。残念だけれど。
「微かに、何か聞こえてきた。気のせいならいいんだけれど……ちょっと確かめてくる。ティールはここで待機して」
「まっ! ま、まってまって。こんなところで一人にしないでよ……!」
「大丈夫。ティールの見える範囲にいるから」
ずっと繋いできた手を離し、私は一人で階段を上りきる。少しだけ顔を出し、様子を窺うも、広い廊下が続くだけだ。一階と大して変わらない。
……気のせいだったのか?
ちらりとティールの様子を見るが、あれは完全にびびってる。使い物にならないなぁ……いっそ、あそこに置いて一人で確認に走る? それとも、雷姫を使って探りを入れる? 何のために一つ一つ確認してきたのか分からないが……
「……っ!?」
突然、ぞわりと嫌な感覚が私の全身を駆け巡った。何かとは形容できなかった。漠然とした何かを感じたのだ。何かされたのではないか。或いは、何かされるのではないか。そんな勘のような何かで。
「……ティールっ」
「わっ!……な、何? 何かあったの!?」
ほぼ転げ落ちる勢いのまま、ティールの下へ戻り、どうすべきなのか考える。
何をされた? するなら、なんだ。あの短時間でできることはなんだ? 考えろ。攻撃ではない。殺気は感じなかった。ならば、何を……?
ふと、顔を上げた先に見えたものを見て、何を受けたのかを確信した。次に取る行動も。
「……信じてるよ、相棒。受け身しっかり取れよ」
「! ラ、ラル!!」
ティールを突き落とすことだった。
次の瞬間、私の意識も暗転した。



~あとがき~
別にシリアスしませんよ。

次回、雰囲気に飲まれまくっているティールがぼっちに! 大丈夫なのか!! パートナーを助けられるのか!?

言いたいことはないっすね。
ティールのキャラ崩壊がやばいけど、それくらいですもんね。ね?

ではでは!