satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

学びや!レイディアント学園 第191話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で楽しむ物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ラル達に変に(?)絡んできた男がいましたね。一体誰なのか。
今回はあれだ。ご飯食べます。ご飯。


《L side》
私はカズキさん、ハルさん、ツルギ君のやりとりを黙って見ていたアラシ君をつつく。
「え、何……?」
「置いてけぼりな私らに説明せんかい」
「俺!? い、いや、いいんだけど」
君が近くにいたからね。説明してくれるなら誰でもいいんだけれど。
「えっと、ツルギから注意受けてるちょっと怖そうな人がカズキさん……カズキ・キザカさん。んで、ツルギと一緒になって怒ってるのが、ハル・サクラギさんだな。二人ともここのギルドメンバーで古参なんだ」
年齢的にも、ブライトさんをライトと呼んでいる辺り、そんな気はする。少なくとも、ブライトさんがここに修行していたときからこのギルドにいたってことだもんね。
「カズキさん、あの見た目だから結構、誤解されんだよな。あ、性格はいい人だから、安心しろよ。……んで、二人とも商人兼冒険家で、基本、ソロなんだけど、たまにコンビ組んで仕事してるんだと」
ほんほん。説明ありがとう!
ついでに付け加えるならば……
ティールのパパとお知り合いって感じだね。仲もよかった……のかもしれない」
「だな。……俺も今、知ったけど」
アラシ君からの簡単な説明を聞いている間も、ツルギ君によるお説教は止まらない。
「ダメだぞ! カズキおじさん! おじさん、顔怖いんだから、ラル達に誤解されたでしょ!? 特にラルは女の子だから、気を付けないとダメ!」
おやおや。私の心配かな。こんなの日常茶飯事でもあるし、大丈夫なんだけれど。
「若、それはあんまりっすよ~」
「うるさい! 誤解されてたのは事実」
「う……それはぁ」
「ともかく、すみませんね~? カズキさんが突っ走ったせいで、変な誤解を生んでしまって。話は親方から聞いてます。ラルさんにティールさん、そして、雫くん、ですよね。ほんと、すみません」
カズキさんの説教はツルギ君に任せることにしたのか、ハルさんがこちらを振り向き、ペコッと頭を下げる。それを見たティールも、姿勢を正して、同じように頭を下げた。
「こちらこそ、早とちりしてしまって申し訳ありません」
「いやいや。カズキさんの顔が怖いのと言い方の問題ですんで……お詫びにこれ、あげますよ!」
ハルさんが差し出したのは透明のビニールの袋に入ったケーキの箱だった。大きさ的にワンホールサイズのケーキだろうか? それとも、何ピースものケーキが大量に入っているのかもしれないけれど。
私の前に立っていたティールが戸惑いつつもそれを受け取る。何が入っているのか見えないけれど、ティールは中身が分かったのかパッと顔を輝かせた。
そして、それだけで私も、中身がなんなのか想像できた。多分、ティールの大好物の一つだ。
「それ、最近できたケーキ屋のアップルパイなんすよ。しかも、期間限定のしっとりふわふわアップルパイってやつ。よかったら食べてください」
やっぱり。
分かりやすくティールの機嫌が直り、とても嬉しそうだ。ここは断るところだよ。社交辞令的にも。
ハルさんがケーキを手渡したところが見えていたのだろう。ツルギ君に怒られていたのだが、ぎょっとして若干焦りつつ抗議する。
「あっ!? ハル! それ、俺の夜食……」
「迷惑かけたんすから、これくらい当然っすよね? カ・ズ・キさん?」
「…………はい」
「わあ……ありがとうございます!」
ハルさんの圧に渋々頷くカズキさん。ちょっと申し訳ない気もしなくはないが、ここは素直に受け取るべきなのだろう。というか、ティールは受け取る気満々だし。
「カズキおじさん! 僕の話は終わってない!」
「は、はい! 若!! すんません!」
「初対面の人と話すときはハルおじさんと一緒にいること! 勘違いさせるから! いいね!?」
「き、気を付けます……」
十二歳に怒られる中年おじさま。インパクトすごぉい。
とりあえず満足したらしいツルギ君がふうっと息を吐いたのだが、ここで何かに気づいたのか勢いよくこちらを振り向く。そんなツルギ君と目があった。
「べ、べべ別にラルのためじゃないからな!? ギルドのい、威厳? ってやつがあるから! そのために! 怒ってただけ! お前の心配なんてしてないんだからな!? 勘違いするなよ!」
繕うのが少し遅い気がするよ、ツルギ君。けれどまあ、その言い訳に乗っかってあげますか。
「分かってるよ。ギルドのためだよね」
「そ、そうだよ……分かってるなら……」
「妹のツバサちゃんにもかっこいいところ見せたいよね。だから、私を庇うような言い方したんだよね~? お兄ちゃん?」
「う……」
ちょっと焦ったように言い淀む。本心をここで言われるとまずい、みたいな。あぁ、可愛いなぁ。フォローしてあげますか。
「でもまあ、嘘でも嬉しかったよ。ありがとう、ツルギ君」
「うぐ……だ、だから、そんなんじゃないんだってばっ! ラルの馬鹿! 分からず屋! 行くよ、リラン!!」
照れなのか、恥ずかしさなのか、顔を赤くしつつさっさと食堂の方へと行ってしまう。呼ばれたリランもツルギ君の後を追いかけた。
そんな兄の態度に妹は、腰に手を当てて、プンプンしていた。
「んもー!! ツルギ! ラルさんにそんな態度ダメでしょー!」
「あぁ、いいのいいの。気にしてないから。……私達も早く中入ろ。ね?」
「むぅ……ラルさんがそう言うなら」
不満そうではあるものの、私の言葉に素直に頷いた。そして、カズキさんとハルさんに別れを告げて、先に入ってしまったツルギ君の後を追いかけるように私達も食堂へと入った。
ここのギルドの夕食はバイキング形式になっているらしく、様々な料理が並んでいた。
もちろん、私達が泊まるホテルの方にもレストランはあるのだけれど、探検隊の仕事で来ているのと、こちらならツバサちゃん達とも一緒に食べられるからと、ギルドの食堂を選んだのだ。
各々が好きなものを取り、空いているテーブルに着席。色々あったけれど、一日目の夕食スタートである。
ツバサちゃんはクリームシチュー、ツルギ君はビーフシチュー。アラシ君はカレーをメインにチョイス。リランはお肉を頬張っている。
私は鶏肉の照り焼き、ティールは魚の照り焼きをメインに、しーくんは中華類をちょこちょこ選んでいた。
「基本、ここの食堂を利用できるのは、ギルドメンバーとアラシやラルさんみたいに、じいじから許可をもらっている人だけなんです。朝と夜はバイキング。お昼は日替わり定食が三種類あるので、その中からチョイスです!」
ツバサちゃんがクリームシチューを美味しそうに食べながら、食堂の説明をしてくれる。
「でも、朝とお昼だけは有料ですけど、一般の方も利用可能なんですよ~♪」
「あと……食堂の話とは関係ないけど、じいちゃんのギルドのやつら、みんないいやつらばっかだから。なんか分かんなかったら聞けばいいんじゃない」
ツバサちゃんの正面でビーフシチューを食べつつ、ぶっきらぼうに話していく。完全に私達の心配してくれているけれど、それを悟られたくはないらしい。
「ツルギ、その態度は失礼だと思う」
「い、いいんだよ! 別に!」
「ツルギ~?」
「ツバサちゃん! 怒らない怒らない! せっかく楽しいご飯の時間なのに、もったいないよ?」
「う~……ラルさん、優しすぎです。ツルギにがつんと言っても大丈夫なんですよ?」
「いいんだよ。生意気なお子様相手は慣れてますから。うちの悪戯狐なめんな~?」
「はは……まあ、ツルギよりもある意味、手強い相手ではあるよね」
苦笑を交えつつも、ナイフとフォークを器用に使って、優雅に食べるティール。そんなティールの近くに激しく主張する妖精二人。
「てぃー! さかな! さかなたべるー!」
「せっちゃはね、はっぱ! はっぱー!!」
「却下。黙って見てろ」
とりあえず、ご飯は死守しているらしい。どこまで持つんだろ。あれ。
それはさておき。
「アラシ君は私達とおんなじ扱いなんだね? ここに部屋でもあるとかと」
「んなわけねぇだろ。俺はルー爺の孫でもねぇし、メンバーでもないし。……ここにいる間は昔、親父が買った家の方に寝泊まりすんの。んでも、飯だけはガキの頃からここで食べてたから、ルー爺の許可証も持ってるってだけ。ほれ」
アラシ君がポケットから取り出したのは私達がもらったブレスレットと似たようなものだった。ただ、デザインがアラシ君に合わせたものになっていて、全体的に赤っぽい。
「レオンも似たような理由で許可証持ってるぞ。つか、ツバサの幼馴染み達は皆持ってる」
ポケットから出したはいいけれど、しまうのが面倒になったのか、さっと左手にはめる。そして、再びカレーを食べ進めた。
「ラル~♪ このおまんじゅう、おいしーよ!」
「あんっ!」
……ところで、ここのバイキング、種類豊富すぎない? なんでもあるんですけど。怖いわ。色々。

和気あいあいとした食事会が終わり、今日はここでお別れとなる。寝泊まりの関係で、お城に残らないアラシ君もいるし、食堂前でさっさと解散である。
「ラル!」
「? なあに、ツルギ君?」
「明日! 負けないからな!! 絶対! ぜぇぇぇったい! 負けないから!」
宣戦布告か。いやぁ……清々しいねぇ。何も言わずに不意打ち狙いをしない辺り、潔いとも言えるが。
「いいよ。寝込みを襲わない限りは相手したげる。何回でもどうぞ? まあ? 君がルーメンさんのお孫さんだからとか、子供だからとか、しょうもない理由で接待なんてしない。やる以上、絶対に負かす」
「うわ。ラルってば大人げな~い……」
お兄様の! 教えなんで!?
挑発的に笑って見せると、少年の勘に触ったのだろう。キッと睨み付けてきた。
「むぅ~!! 言ったな!? その言葉、覚えてろよ!」
という、捨て台詞と共にばーっと走り去ってしまった。そして、遠くの方で立ち止まり、
「おやすみっ!!!」
と、思い出したように叫んで、再び走ってしまう。ぽかんと見ていた私達だったが、ツバサちゃんがハッと我に返り、私たちに向かってペコッと頭を下げる。
「で、では、おやすみなさい、みなさん! 待ってよ、ツルギー!」
二人の白狐ちゃん達の背中を見送り、アラシ君と共に苦笑いした。慌ただしい兄妹である。
「……んじゃ、俺も帰るわ。あーでも、俺は明日、騎士団の方に行く用事あっから、お前らと会うのは明後日になるかな?」
「じゃあ、明後日に。仕事、頑張ってね、アラシ」
「おう。サンキューな」
「んふふ。ナイト様は忙しいねぇ? おやすみ~♪」
「一言余計なんだよ! おやすみ!」
赤くならなくてもいいのにぃ? 可愛いな。今時の男子達は~?
「ばいばーい! アラシお兄ちゃん!」
「あらちゃー! じゃーねー!」
「またあそぼーねー! あらちゃー!」
「お、おう……まあ、うん。機会があれば、な」
妖精二人の言葉には目を逸らしたものの、アラシ君も軽く手を振って帰っていった。
さて、私達もお部屋に戻らないとね。



~あとがき~
少し長いんですが、きりがいいところまでやりたかったんす。

次回、部屋に戻ったラル達。のんびり(?)します。

睨み利かせていたはずなのに、アップルパイでころっと落ちちゃうティールはチョロい。んまあ、その前の言動で怪しい人じゃないって分かっていたのもありますが。
相方に「アップルパイでころっといっちゃうティールってチョロすぎない?」と言われました。弁明したけど、私もそう思う。

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第190話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわやわやしてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ティールの話とか、そんな話を聞いたラルの話とかやりました。(適当)
今回はごはん食べようぜって感じで食堂ですね。


《L side》
ティールの本音を聞き、なぜか分からないけれど、彼を泣かしてしまい、最終的には全然関係ないことで怒られる私でしたが……まあ、やりたかったことはできたので、問題ない。うん。
そして、約束の時間が近づき、食堂前へとやって来ていた。しかし、ツバサちゃん達の姿はないため、私達の方が早かったみたいだ。
「ちょっと端っこで待ってようか。入口付近は邪魔だろうから」
というティールの提案で、邪魔にならないように壁際で待機だ。
「おなかすいたね! どんなのがあるのかなー? ね、ラル?」
なんだろうね? あとで一緒に見よーね?
「ん! みるー!」
「あ! すいちゃもなんかたべる!」
「せっちゃも! せっちゃもー!」
「げ。お前らなんか食べるの。お腹空くって現象あったの?」
中庭で遊びまくっていた三人だけれど、まだ元気らしく、ぴょんぴょん跳び跳ねている。
「ないけどね、せっかくおくちあるから! もぐもぐしてみたい! ねー!」
「ねー!」
ふうん。まあ、ブレスレットもあるし、無料で使えるだろうから、問題はないと思うけれど。剣に戻ったときに、あれ食べたいこれ食べたいってならないかな?
「そのときはそのときー!」
「うんうん!」
その叶えられない我儘を聞くのはティールなんだよなぁ……
案の定、主ティールは、滅茶苦茶嫌な顔をしていた。そのときが絶対にあると確信しているのだろう。この子らの性格からして。だからって、今、この場で何にも食べさせませんなんて言うのも酷な話である。
「てぃー! いーでしょー!?」
「ねー! てぃー!!」
「やだ。無理。駄目」
……あ、酷だと思っていたのは私だけだったらしい。流石、ティールさん。厳しいお方。
しかし、言葉だけで諦めるスイちゃん、セツちゃんではない。
「たーべーるーのー!」
「もぐもぐするのーー!!」
「いってぇぇ!?」
あろうことか、ティールの髪の毛や耳を思い切り引っ張り始める。実力行使……もとい、武力行使だ。
ティール、そのままだと禿げるかもよ」
「この年で禿げたくはないけど! 折れたくもないっ!」
あはは……どこまで持つんだろ。その強気は。
「おい。あんたら」
「……? はい?」
突然、聞いたこともない声に、私は後ろを振り返る。邪魔とかうるさいとかの注意だろうか。そこまで邪魔していたつもりはないけれど……
振り返った先にいたのは、お世辞にも優しそうとは言えないお顔のおじさまがいた。種族は私達と同じ、人族だろう。ここにいるということは、このギルドの人なのだろうか。
睨み付けるように私を見てくる。そして、私の傍にいるティールとしーくんも観察していた。
……えぇ? ここでも難癖つけられるのぉ? 女だからってなめてんじゃねぇぞ的なやつぅ? それとも、ガキがどーのこーのってやつかなぁ。どっちにしろ、一人じゃないときにされるのは久しぶりだなぁ。
さっきまでふざけていたけれど、スイちゃんとセツちゃんは、大人しくティールの肩にちょこんと座っている。ティールもおじさまには怪訝な表情を浮かべ、しーくんを後ろに隠していた。
「……あんたらが、女リーダーで活動してるっつう、噂の『スカイ』か?」
おおう……そういう言い方するのね。もうこれ、面倒くさいやつなのかなぁ……ご飯前にやめてぇ~……せめて、私一人のときにお願い。ティールいるときに来ちゃ駄目って習いませんでしたかね。……習うわけないな。
「え、えぇ。まあ……そうで─」
「ぼく達に何かご用ですか?」
私の腕を引き、前後を入れ換えるようにティールが立つ。そして、そのまま私を隠すようにおじさまの前に立ち塞がる。
「……あ?」
「用があるなら、ぼくがお聞きします」
あ、これ、必要とあらば戦闘も辞さないやつだ。いやいや、あなた、武器ないですよ。今。
「あ、あのぉ? まだ何もされてないからね。穏便に~」
「君は黙ってて」
あ、ごめんなさい。黙ります。
学生から探検隊をしているというのは、なかなか悪目立ちするもので、同職同士のいざこざも後を絶たない。そのため、ティールはこういう初対面で、柄悪く絡んできた同職の方々をあまり信用していない。
人当たりのいいティールが敵意剥き出しなのも珍しいけれど、こういうときのティールは案外、怒りっぽいというか、冷静というか。
さてさて、どうしようかな。ここはフェアリーギルドではないし、知り合いが親方のギルド。騒ぎなんて起こしたくはないんだが。
「むー……ラルをいじめるひとは、ゆるさない~」
しーくんまで! やめてー!?
私にぴたっとくっつき、じとーっとおじさまを睨み付けている。どこで覚えたのだろう。嬉しいような、やめてほしいような。お母さん、複雑な気持ちです。
「あー! ちょっと、カズキさーん!? 何、勝手に親方の客人と睨み合ってるんすか!」
今度はなんだ。新手か。
しかし、言動からこちらに害をなすような雰囲気はなかった。少し離れたところで声を荒らげて、強面おじさまのことを注意しているらしかった。
バーッと走ってきた声の主は犬族の男性らしく、大きな耳がぺたんとしていた。そんな彼を見たおじさま……カズキさんとやらは、肩をすくめた。
「別に睨んでなんかねぇよ。ただ、親方が呼んだっつー客人がどんなんなのか気になって声をかけただけだ」
その割にはガン飛ばされた気が。見た目のせいかな。
「カズキさんはただでさえ、その顔で誤解されやすいんすよ? 一人のときに声なんてかけちゃ駄目っすよ。その顔で誤解されやすいんだから」
「てんめ! 『その顔で誤解されやすい』って二回言ったな!?」
「言ったすよ。事実ですから」
「ハル、てめぇ!!」
「奥さんに確認してもらいますか?」
「ちょ、女房は関係ねぇだろ!!」
この犬族の方はハルさんと言うらしい。言葉から察するに、このカズキさんが先輩で、ハルさんが後輩……かな。
「……何、この状況?」
「さてね。けどまあ、いつもの難癖つけてくるような人達ではないんじゃないかな?」
「みゅ~……ラル、いじめられない?」
うん……多分ね。
「ラルさーん! お待たせしました~♪ あれ、カズキさんとハルさん? ラルさん達にご用ですか?」
私達の姿を見つけてくれたツバサちゃんがぱたぱたと駆け寄ってきたものの、強面おじさまと犬族の男性を見て、不思議そうにしていた。
ツバサちゃんの口から名前が出てきたのなら、やはりここの関係者か。
アラシ君と共に、少し遅れて到着したツルギ君は私達の状況を見て、カズキさんをじーっと睨む。
「カズキおじさん……? まーた問題でも起こしたの~?」
「若! そりゃあ誤解ってやつですぜ!? 俺はただ、ライトの倅とその相方のリーダーに挨拶したかっただけですから!」
……ライト。この人、ブライトさんのお知り合いなのかな。
ブライトさんの名前にティールが一瞬だけ、表情を曇らせる。
「……ま、また、父上関連……? 今日一日だけでお腹一杯ですけど」
と、小さく呟いた。ティールほどではないが、私もそこそこお腹一杯である。
カズキさんの言葉を聞いたハルさんはむっとしながら、会話に入っていく。
「だから! それをするなら、僕が来るまで待っててくださいよ! カズキさん一人だけってのは、誤解されるんだって分かるでしょう!? 現に、ライトの息子さんに誤解されてます!」
「……えっと、ぼく?」
戸惑ってるけども、敵意出してたの、君だから。必要なら戦えるようにしてたじゃん。
「不意打ちされるの嫌じゃない?」
嫌だけども。
ハルさんの指摘にカズキさんは、誰がどう見ても落ち込んでいるといった感じで、分かりやすく落ち込む。
「そ、それは申し訳ない……」
「うわ。急に萎れないで、カズキおじさん。強面おじさんが落ち込む姿とか、なんかちょっとむさ苦しいんだけど?」
「若ぁ~……そりゃないですよぉ」
辛辣なツルギ君の言葉にカズキさんはさらに落ち込む。
初対面で言うのもあれではあるが、確かに強面おじさまがしょんぼりしているのは……インパクトがあると言いますか。
つか、結局誰やねん。この人達。



~あとがき~
ご飯食べてねぇ~

次回、ラル達に絡んできたこの二人は誰だ!
あとはご飯食べます。ご飯。

ティールはちゃんとラルを守る騎士様できるんです! ほんのちょっと前まで泣いていたやつとは思えませんね!
そして、雫も微力ながら、威嚇してますね。描写してないけど、ティールの肩でスイセツも「むー」ってしてるのではなかろうか。

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第189話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界の物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
ティールの過去の話をつらつらやってます。過去っつーか、独白みたいなもんすね。
今回もちろっと残ったやつと、ラルとティール二人でお話をしますぜ。


《Te side》
母上との仲は案外、早くに解消された。母がコミュニケーションの鬼だってのもあるし、しつこいってのもあるけど。なんか、気がついたら、今まで通りに話せるようにはなった。……それでも、時間はかかったと思う。
しかし、前から王としての責務に追われていた父上とは、話す機会もなく、上手く付き合えなくなった。
気紛れに剣の相手をしてくれたり、何かしらのアクションはあったけれど、それも長い会話に繋がらない。元々が無口な人で、多くを語らない人ってのも原因なのだろう。
それもあって、父上の本音が見えないことが怖かった。昔は、父上のちょっとした雰囲気の変化も感じ取れていたはずなのに、分からなくなっていたんだ。
ティール」と呼ばれるだけで、少し会話を交わしただけで、過剰なまでに奥底を探ろうとしてしまうようになった。この人は何を考えているのか、何を感じて、ぼくにどう感じてほしいのか、そんなことばかりを考えてしまう。
それが、積み重なって、父上を信じきれなくなって……不信感に変わって、父上を見ることすら疲れてしまった。
人伝いに父上が「こうだって言ってた」なんて聞いても、本当に聞こえなくなるくらいに、父上を避けていた。ううん。きっと、嫌っていた。ぼくをきちんと見てくれない父上が嫌いだったんだ。
そんなことないはずなのに。母上を見れば分かる。父上はそんな人ではないと。
でも、どうしても、それを信じられなくて。
今でも、見てくれないんじゃないかって。ぼくのことなんて本当はどうでもいいって思ってるんじゃないかって。
そんなことばかり考えていたからだろう。今でも、父上が分からない。向き合うのが、怖い。
きっかけは些細でも、ずぅっと心にあるその思いだけが、絡み付いて離さない。
幼い頃のぼくが、未だに父上を許してない。そして、それは今のぼくでもあるんだ。

「……ありがと。話してくれて」
聞いていて、いい気分になる話じゃないのに、ラルは優しく笑って、そう言ってくれた。そして、ゆっくり言葉を選ぶかのように口を開いた。
「私には家族関係のことは分からない。親なんていないし。そもそもそんな記憶もないしね。……でも、ティールの感じたその気持ちは紛れもなく、本当なんだと思う。だから、自分を追い詰める必要はないかなって」
……追い詰めてる?
ぼくが不思議そうにしていたのか、ラルは小さく笑う。
「だって、ブライトさんだけが悪くないって知ってるのに、信じられない自分がいてさ。それが嫌なんじゃない?」
「……あ」
「それはティールが優しいからだと思う」
そう言って、ぼくの手を握る。手のひらから彼女の温度を感じる。それは、優しい体温で。冷たかった体を溶かしてくれるような気がした。
「……あのさ。今日、ルーメンさんに誘われたあれも、どうしたらいいか分かんないんだ」
家族のことを、父上を知りたかったらって言われると……正直、気分が進まない。けれど、ルーメンさんは何かしらの意図があって、あの提案をしたんだと思う。それを知りたいとも思うけれど。
「うーん。まあ、しんどいなら行く必要はない。だって、仕事じゃないし。お願いだし。……でも、すこーしでも敵を知るにはいい機会だと思わない?」
「敵?」
敵って誰だろ……え、まさか、父上?
「知らない相手に挑むとき! ダンジョン攻略をするとき! 私は情報を集める。あの敵はどういう見た目? 攻撃手段は? 弱点は? ダンジョンなら、形状は? 地形は? 出現するモンスターは? 集められるだけの情報を集めるんだよね」
あ、あれ。なんの話だ……?
戸惑いを隠せないぼくに、ラルはお構い無しに話していく。
「全く知らない相手と戦うのはリスキーだよ。もちろん、戦いの中で知ることもあるけどさ……つまり、だよ。ブライトさんとちゃんと向き合うためには、まずは情報を集めるのだ」
「父上と、向き合うため?」
「そそ。それは本人以外からも得られる。今回はちょうどいい情報源があるじゃない?」
ルーメンさん、か。
ラルは力強く頷く。そして、パッと明るい笑顔でこう付け加える。
「まあ、何度も言うけど、嫌なら無理に行かなくてもいい。けど、時間は待ってくれないことだけは頭に入れておくのだよ、相棒?」
……今回は逃げてばかりじゃいられない。なら、今は、立ち向かうべき、なんだろう。
「あと、これだけは言っておこっかな」
「……うん?」
「昔の……小さなティール君の居場所はなかったかもしれないけれど、今のティールの居場所は一つじゃない。『スカイ』が……チームがティールの居場所だよ」
ラルは繋いでいた手を離し、ぼくの目の前に立つ。そして、パッと両手を広げた。
「それに、私がいる」
「……ラル」
ティールがどんなにしんどくなっても、私が受け止めてあげる。だから、ルーメンさんと話をする気があるなら、どーんとぶつかってこい! 大丈夫。私はちゃんとティールを見てるよ。いなくなったりしない。……そう言ったでしょ?」
あぁ……そうだね。そうだ。
君はいつでも、ぼくがほしい言葉をくれる。味方でいてくれて、対等でいてくれる。
正面に立って、先導してみたり、隣で歩いてくれたり。かと思えば、後ろで見守ってくれていたり。不思議な女の子だけど……それが、ぼくの親友で、相棒で。
彼女の言葉が柔らかく、優しくぼくの心を包むかのように広がって、じんわりと暖かくなっていく。それは心だけじゃなくて。
「……っうぅ」
「な、泣くほどでした!? え!? な、なん……どれ!? 本当は話すの辛かった……?」
流石のラルもぼくが泣くなんて思ってなかったらしく、かなり驚いている。ぼくも君に泣かされるなんて思ってなかった。どんだけ弱ってるんだ、ぼくは。
止めようとして手で拭うけれど、そんなんで止まるのなら苦労はしない。それどころか、止めどなく溢れてくる涙を抑えられなくなっていた。
「べ、別に……話は、だいじょぶ、だった。……泣きたくはないけど……なんか、うぅ……ラルに泣かされたぁぁ……!」
「うぇぇぇ!? ごめん!? いや、おかしい! 私が謝るのはおかしい!」
「い、今更だけど……けっこう、せい、しん……うぐ……やられてたんだなぁ……って。うぅー! ラルの言葉に落とされたぁ!!」
「そこまでして私のせいにしたいか!」
君のせいだよ……責任とって……
結構な無茶振りしたつもりだったけれど、ラルは少しだけ考えて、むぎゅっとぼくを抱き締めた。ここが中庭で誰か見てるかもしれないなんて状況を忘れ、ぼくも反射的にラルのことを抱き締める。
「ほら、もう泣くなってば」
「優しくされると、さらに決壊する……ラルの馬鹿」
「へいへい。私は大馬鹿ですよーだ」
数分の間……厳密に言えば、涙が止まるまで、ずっとこのままだった。夏の暑さも人の目もお構い無しに。
止まったと思って、そっとラルから離れる。
「……ごめん。ありがと」
……滅茶苦茶、酷い顔してる気がする。このあと、ツバサ達と会うのに。どしよ。部屋に籠ろっかな。
「冷やせばええんでーの? ほれ」
ポケットから取り出してきたのは淡い桜色のハンカチだった。ハンカチだけ渡されても、別に濡れてもいないのだが。……あ、自分でやれと。
ぼくは無言で受け取り、片手に懐中時計、もう片方にハンカチを持つ。そして、技を使ってハンカチを濡らした。その濡れたハンカチを目元に当てて、ぼうっとしておく。
何この一連の流れ。空しい……別の意味でも涙出てくるぞ。
「……ねえ。君が身に付けてる魔力石でやってくれてもよかったよね」
「これ、飾りなんで。術なんて使えないんで」
嘘をつくな。嘘を。それ、ぼくが昔あげたやつだから! きちんと術、発動するだろ! 大会でも使ってるの見ましたけどぉ!?
「……はあ。なんでぼく、ラルに泣かされてんだ」
んでも、よくよく考えると、君には泣かされてばっかりな気もするなぁ。今回のこれもそうだし、この前のなんちゃってお化け退治もそうだし……あとは……
「待て待て。百歩譲って今回は認める。とどめ指したのは私かもしれない。けど、この前の屋敷は違うんじゃないかなぁ!?」
「黙ってつれてった。有罪」
「ぐぅ……ん? あれ、泣いてたん?」
心で号泣してた。
「……せっこいな。その基準」
「君の飛び降りから始まって、今だから。反省してよ」
飛び降りとは、ラルが中学編入してすぐにあった事件だ。詳しい説明は省くけれど、とある女子生徒からの言動がきっかけで、ラルが最終的にとった行動が女子生徒の前で『飛び降りる』だった。もちろん、ラルに死ぬ気はなく、事前に対策をしていたらしいので、完全に仕込みありのドッキリ企画みたいなもんだ。まあ、ぼくは全く知らなかったので、大慌てで助けに入りましたけれど。何も知らなかったから、あれこれ捲し立てた結果、泣いた記憶がある。
考えてみてほしい。成り行きで探検隊組んで、色々あって一緒に住んでる女の子が、教室のベランダの手すり乗り越え、無表情で躊躇いもなく飛んだんだよ? そんなん泣くわ。
「あの件言われると心苦しいですが……なーんで怒られてんだろ。……けどま、いつものティールになったようで」
「おかげさまで!」
「食いぎみぃ……」
余計なことまで思い出したけれど、そのおかげで、かなり気分は軽くなった。ルーメンさんとの話を前向きに検討できるくらいには。
これも、隣の相棒のおかげだ。
「……いつもありがとう、ラル」
「どういたしまして。ま、私がしんどいときティールが助けてくれるしね~……お互い様よ。気にすんな」
ん。分かった。



~あとがき~
最後の最後でいつもの空気になってよかった。楽しい。

次回、ご飯食べるぞい!!
その前に集合だな!

前回今回とティールの本音と言うか、家族との関係についてつらつら述べました。
あれこれごっちゃごちゃに書きましたが、要するに小さい頃の経験が、今でも影響してるってことですね。母親のセイラはティールの壁を壊してしまいましたが、父親のブライトはできてない。そんな感じですね。
それをどうにかするのは……また、近いうちにね!

ラルの飛び降り事件について。
かなーり前(ツルギ君初登場編)にティールが言っていた、あの件についてってやつです。「無茶ばかりしやがって、あれは忘れてないぞ( ^ω^ )」みたいなところのやつですね。あとは、ちょっと前に出てきてた、ラルの人間不信の原因ですね。これは。

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第188話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で回想してる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ラルの思考整理回でしたね。
さてさて、今回はティール視点でティールの過去についてお話ししていきます。
真面目だぞぉ(笑)


《Te side》
ラルの提案でギルド探索をすることになったぼく達。ここに滞在し、施設を使う以上、万が一迷ったら大変だからということらしい。
昼、ツバサにも案内してもらったけれど、そんなのはほんの一部。ラルは入れそうなところには片っ端から入るつもりだったようで、躊躇いもなく、部屋を覗いていったのだ。そして、さっと確認して閉める……を繰り返した。
それをずっと横で見ていたぼくとしては、なんだか、悪いことしてる気分になる。
「武器庫とかおもろかった~……それに、図書室みたいのも使えそうだね」
図書室というか、資料室かもしれないけれど。何か調べたいのかな?
ぼくらはあちこち歩いた結果、昼間にやって来た、修練場兼中庭へと行き着いたみたいだ。この時間、流石に人はまばらで、ぽつぽつと武器の練習をしていたり、鍛練している人が少数いるくらい。
「粗方回ったな。夕食までここで時間潰すか」
「! なら、ここであそんでもいい?」
たくさん歩いたはずなのに、雫はなぜか元気一杯だ。楽しそうに笑って、早く遊びたそうにラルを見上げていた。
「いいよ。でも、あんまり離れないで、私達の見えるとこで遊んでね?」
「はーい! スイ、セツ! いこー!」
「おー!」
「やたー!!」
ありがたいことに雫は、スイとセツも連れてってくれた。もういっそ、ずっと連れてってくれないかな。
ぼくとラルはお互いの顔を見合わせると、小さく笑い合った。ラルも雫の底無し元気メーターには苦笑気味だ。
「私らは座って休憩タイムだな」
「そうだね。ちょうど、ベンチもあるし」
二人で近くのベンチに座って、少し離れたところで楽しそうにしている雫とスイとセツを見守る。
時間帯は夕方とはいえ、今の季節は夏だ。日が沈むのはまだ先。なんとなく明るい外は昼よりは涼しくなっているものの、過ごしやすいとは言えなかった。
「あっつ」
「これで暑いって言わないでよぉ……お昼はもっと暑いんだからさ?」
そうなんだけども。
「楽しみだね。探検」
「うん? ま、行ったことのないダンジョンだもんね。ぼくも少し、楽しみだよ」
なんて言ってみるが、ラルはじっとぼくを見つめた。そして、にやりと悪戯っ子みたいに笑う。
「嘘だぁ! 少しなんてあり得ないよ! この探検馬鹿が!?」
「……そ、そうだね。ルーメンさんの部屋ではちゃんと考えてなかったけど、今思うと、滅茶苦茶楽しみです……!」
悔しいけれど、その通り。ラルよりも探検に対する意識は強い方だ。今日は色々ありすぎて、実感湧かないけれど、未知の場所に行くって考えたら、わくわくしてくる。
「にしし。正直でよろしい♪」
「はい。鯖読みしました」
「んなとこ読まんでよろしい」
確かに。そこそこの付き合いだもんね。誤魔化す必要なんてないか。
「……ねえ、ティール?」
「うん?」
ラルはちらっとぼくの方を見る。様子を窺うように、それはほんの一瞬で。
「……なぁに? ラル」
「ちょっと真面目な話してもいいっすかね」
「え……あ、うん」
「私はティールのこと、それなりに知ってるつもりだよ。どんなのが好きとか、嫌いとか。癖とか思いとか……色々。だからこそ言うんだけど、今のティール、結構しんどそうなのよ」
「……そ、そうかな」
ルーメンさんの部屋で写真を見たとき、話を聞いたとき、そして、夜に誘いを受けたとき。どれもこれも、過剰なまでに反応していた。もちろん、ツバサ達の前ではそれなりに堪えていたつもりだけれど、隣に立つラルを騙せるほど、ぼくは大人になれなかった。
「元々、親に関連する場所ってだけで、気後れしてたじゃない? そこから、まあ、色々事実というか、見せられて。整理しきれてなかったかなって。見てて、思った」
「そうだね。……親の全部を知ってる子供なんていないからさ。お祖父様や両親が過去にルーメンさんと一緒にいたってのは気にならなかったよ。ならなかった、んだけど……」
ルーメンさんが父上を語る姿はとても楽しそうで、ぼくの知らない父がいると思ったら、なぜか分からないけれど、凄く怖くなった。それと同時に、ルーメンさんと親との関係を知って、今のぼくはどうしようもなく、親の行為に甘えていると知った。
「……親と向き合えなくなって、ぼくは国を出たかった。子供が簡単に出られるわけないから、仕来たりって名目で……逃げてきた。けど、それもある意味、あの人の手のひらだったって思ったら、心の中がぐっちゃぐちゃになったんだ」
「……レイ学がケアル家の運営だから?」
「そう。選んだのは偶然。でも、きっとどれを選んでも、父上の知る範囲内だったと思う。そりゃ、そうだ。ぼくは王子で、一国を担う、未来の王だから……逃げられるわけなかったんだ」
逃げたかったはずのものから、逃げられてない。なんなら、ぼくが煙たがっていた人に守られていたなんて。
そもそも、逃げ切れるなんて、思ってもなかったけれど。ただ、離れれば、見えるかなって思ったんだ。あの人の……父上の思いが。考えが。でも、この五年、何にも見えなかった。それどころか離れた時間の分だけ、あの人と離れていくだけで。
「ね。……ぼくが、あの人を避ける理由、聞いてくれる?」
「いいけど……いいの? 私に話しても」
「うん。ラルだから、いいかなって。……それに、今、吐き出さないと……どうにかなりそうで」
「いいよ。聞く」
ふわっと優しく笑うラルを見て、少しだけ心が軽くなった気がした。ラルなら、相棒なら、受け止めてくれる気がして。
「……ありがと。と言っても、他人から聞けば、すっごい下らないと思うんだけどね?」
ぼくも、ほんの少しだけ、心から笑えた。

少しだけ、昔の話をしよう。
昔から、父上との関係が悪かった訳ではない。幼い頃は好きだったし、なんなら、仕事ばかりの父でも、ぼくの自慢で憧れですらあった。
「とーちゃ! かーちゃ! おしごとー?」
ティールか。……あぁ。今から出てくる」
「ちゃあんとお留守番、しているんですよ? 帰ってきたら、たっくさん、遊びましょう」
王として城の中で淡々と仕事をしている日もあれば、視察と称して何日も帰らない日もあったし、別国に出向くことも多い。そういうときは大抵、母上も一緒に行く。
「うん。いってらっしゃい!」
それが日常で、普通だった。
もちろん、寂しさはあるけれど、それはほんの少しだけ。二人が帰ってきたら嫌というほどにすぐに構ってくれたから。
帰ってきたら決まって、三人で話をしていた。離れていた時間を埋めるように、基本的には、母上がいっぱい喋るだけだけど。
「今回行ってきたところはそりゃあもう、凄いんです! きらっきらしてました!」
「きらきら?」
「石の話か。……ティールは興味ないだろうに」
「あー! ブライトったら、馬鹿にしてますね!? ティール、そんなことないもんね?」
「ぼーけんのはなし、だぁいすきだよ!」
「でっしょー!? ほら、ティールはブライトみたいに意地悪言わないんですよーだ!」
「いや……冒険と言って」
「じゃあ、今回見つけてきた鉱石の話しますね!!」
「おい。セイラ……?」
「黙って聞く!」
「あいっ!」
「……う、うむ」
母上は色んな話を聞かせてくれた。行ってきた街並みとか、風景とか。会った人の話とか。冒険も、母上が大好きな鉱石の話もたくさん。ぼくが探検隊をやれているのは、きっと、母上の影響。
そんな母とは対照的で、父上から何かを聞くことはなかった。けれど、傍で何も言わなくても、静かながらも……楽しそうにしていたのは伝わった。そんな他愛ない時間がぼくは大好きで。ずっとそんな時間があればいいなって。
……でも、それは続かなかった。
お祖母様……サフィア様が亡くなってから、がらっと周りが変わってしまった。ぼくが五歳の頃の話だ。
元々、お祖母様は病気を患い、ベッドにいることが多かった。ぼくが産まれる少し前かららしい。
でも、正直な話、お祖母様は病気なんて感じさせないくらいに元気な人で、ぼくが両親と会えなくて寂しいときに、一緒にいてくれたのもお祖母様だった。
「内緒よ?」なんて笑いながら、部屋抜け出して、家の中を冒険したり、時に外に出てみたり。……お祖父様は気が気じゃなかったみたいだけれど。
そんなお祖母様が亡くなり、目まぐるしく変わったのだ。当然だ。元王妃の死去があったのに、変わらない方がおかしい。お祖母様の件が関係しているのかは分からないけれど、お祖父様も、ふらりといなくなることが増えた。影ながらに支えていた人が二人もいなくなり、城の中も慌ただしくなった。
当然、両親もその対応に追われ、バタバタしていた。子供のぼくに構えなくなるくらいに。
ちょっと会えないだけの時間のはずが、いつまで経っても会えない時間に変わってしまった。
多分、ここからだ。親との距離感が掴めなくなったんだ。
忙しそうにして、いつもとは違う空気に、ぼくは「ぼくを見て」と言えなくなった。昨日まで、していたはずなのに。
甘え方を忘れ、一歩後ろから見ているだけの時間が長すぎて、期待しなくなって。半年くらいだろうか。
ティール! やっと時間作れたの。少し、お話ししませんか?」
なんて、母上に話しかけられたけれど、ぼくは何も言えなかった。分からなくなって、首を振った。嫌だと、そう伝わるような仕草をした。
今にして思えば、「今更、期待させるようなことをしないでくれ」そんな気持ちだったんだと思う。どうせ、また、すぐにいなくなるくせに、と。ぼくのことなんでどうだっていいんだと、思ってしまったんだ。
このときの母上……母さんはどういう表情だったんだろう。



~あとがき~
お、終わらねぇだと!?

次回、ティールの追憶(後編)です。

なんでもないことでも、人が違えば、なんでもあることに変わるんですよね。
なんかそんな話です。
ま、真面目だぁ……(笑)

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第187話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界できゃいきゃいしてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、部屋につきました。めっちゃやべぇ部屋に滞在します。
今回はラルの思考整理回です。


《L side》
「あ、こら! 勝手に持っていくな!!」
「てぃーのおてつだーい!」
「これ、こっちおくー!」
「やめろやめろ!! ちょ、駄目だって! 置くな! 返せぇえ!!」
いつもなら、こんなにわいわいしながら整理なんてしない。二人が持ってる袋、ティールの慌て具合からして、多分、ティールの下着類では。……まあ、彼は気高き王族の生まれ。そうでなくとも、常識はあるし、エチケットを弁えているから、中が透けてしまうような袋には入れていない。だから、これは単なる私の推測。
……って、何推測してんだ、私。アホか。
しーくんはというと、特に広げるような荷物もなく、大人しく持ってきたペンペンぬいぐるみを抱え、絵本をソファの上で読んでいた。なんとなく重いなと思っていたけれど、絵本のせいか……
きっと私達の邪魔をしないよう、大人しく待っているのだろう。なんてよく出来た息子なのだろう。涙が出てくるわ。しーくん、いい子すぎる。天使通り越して神様だよ。あ、いや、本当に神様なんだけどね。しーくんは。
あとで、よしよししてあげないと……
大騒ぎする三人と心優しい我が息子から意識を逸らし、私は自分の広げた荷物をまとめていく。私の持ち物なんて、着替えや探検に必要な道具、電子機器やそれを直すための工具……普段の長期休みの際に持っていくものばかりだ。可愛いものもなければ、普通の旅行で持ち寄るようなものもない。
……可愛げねぇな。私の荷物。荷物に可愛いもないけど。
探検用の服をハンガーにかけ、クローゼットにしまう。ついでに今回、持参してきた道具も探検用のバッグに全て詰め込み、クローゼットに入れてしまう。
「……よし。こんなもんかな?」
旅行鞄は部屋の角に置いて、私の整理は終了だ。
私は上着を脱ぎ、ずっと装備しっぱなしだった雷姫共々ベッドの上に投げる。ノースリーブのシャツ姿になると、先程、ばたばたしまくったベッドに仰向けに倒れ、目を閉じる。
考えるのは、ルーメンさんとの会話だ。あの場では考える暇もなかったから。
今回の依頼は三つ。ダンジョン調査、祭りの出演、祭りの際の護衛。
ダンジョン攻略に関しては、日にちの指定はなかった。ここの滞在期間中ならば、こちらの準備が出来次第、向かってくれればいいんだろう。それなら、もう少し情報を集め、整理してから向かうとしようか。……そのために、肩慣らしもしておきたい。ダンジョン行く前にいくつか軽い仕事を受けよう。
祭りの出演は私とティールの入る余地はない。しーくんの頑張り次第だ。
最後の護衛……と、捕獲だったか。
捕獲については詳細が分からなかったが、護衛に関しては、傍で目を光らせておけばいいだろう。祭りの規模感が分からないから、これも後で調べておかねば。
「……今回の依頼、ルーメンさんは私達の実力を知った上でしてきている、と判断していいんだよな」
この待遇もある。その理由も聞いた。慎重な人選の上で私達が選ばれたのだろう。それは間違いない。
依頼に曖昧な部分はあるものの、怪しいものはなかった。悪意も感じなかった。私達を騙そうとする敵意も。仕草も、雰囲気も何一つ感じなかった。私自身も感じなかったし、雷姫だって大人しいものだった。
……しかし、どこか手のひらで踊らされている気分は拭えない。
閉じていた目を開け、なんとなく、普段からつけていた雫型にカッティングされた、青の魔力石のネックレスを触り、指でその形をなぞっていく。
なんでそんな気持ちになるのか、原因はなんなのか、私が覚えている限りのものを引き出していく。
「だあぁぁ!! いい加減にしろ、スイ!」
「だってあそびたいんだもーん」
「あそびたいんだもーん……じゃないよ! これじゃあ、いつまで経っても終わんないっつーの!」
「てぃー、これはどこしまうの~?」
「ちょっと!? しまったやつを今、出さないでくんない!?」
……くそ。うるさいな。
「……落ち着け。考えろ考えろ……ふぅ。なんだろうなぁ。この気持ち。もやっとしてるんだよなぁ」
ルーメンさんのあの雰囲気。
あれがうちの親方や仕事を押し付けてくるときのイグさんに似ている。そう感じた。そこか?
あの二人と話していると、どこか何かを企んでいるんじゃないかと思わせる。イグさんは仕事を持ってくるときがそうだ。それをルーメンさんにも感じたんだ。……いや、今回は別に仕事は押し付けられてないけれど。
じゃあ、ルーメンさんは一体何をするつもりなのだろう。
心当たりと言えば、ティールとブライトさんの仲をどうにかしようとしていた……あそこだけど、あれは仕事とは関係ない。うーん……それ以外にも何かありそうなんだけれど。
「ラル~? どしたの?」
いつの間にかしーくんが私のところへ近寄ってきて、ベッドの縁から顔を出してこてんと首を傾げていた。
……そういえば、しーくんを見ていたときのルーメンさん。そこでも違和感を覚えた。あれは……目か? しーくんを、雫を見る目……ただの子供を見るだけではなかった気がする。いや、この年で探検隊のメンバーなのだ。ただの子供ではないんだけれども。
「う? んふふ~……♪」
私は静かにしーくんの頭を撫でる。しーくんは嬉しそうに顔を綻ばせ、黙って撫でられていた。
まさか……雫の正体に気付いたか?
伝説の冒険家だ。見ただけで分かる、なんてこともあるのかもしれない。
仮にそうだとしても、ルーメンさんがむやみやたらに言いふらす人ではないと思うから、問題はないが……
「? ラル~?」
「しーくんがずーっといい子にしてたから、偉い偉いってなでなでしたくなっちゃった~♪」
「! えへへ! えらいでしょっ! おにもつもね、おわったんだよ!」
「おー! 偉いぞ~♪ じゃあ、そんなしーくんにミッションだ。スイちゃんとセツちゃんのお相手、できるかな? パパ、整理終わんなくてお困りだからね」
「はーい! ボクがスイとセツとあそべばいいんだね! できるよ!」
すくっと立ち上がり、しーくんはティールの元へと駆け寄った。
「スイ、セツ! ボクとあーそぼ!」
「あい! しーとあそぶー!」
「いーよ! なにするのー!」
ティールの周りを飛び回っていた二人はしーくんのところへと移動。それを見たティールはほっと息をついた。
「ありがと、雫」
「んーん! あっちいこーね!」
元気っ子妖精達とようやく離れられたティールは、手早く荷物の整理を再開させる。一人になった途端、手際がよくなりました。どんだけ邪魔されていたんだって話である。
……色々、思案したけれど、結局のところ、それは私の推測でしかないし、事実ではない。推測はその域を出ないってやつだ。
ルーメンさんは危険な人でも、害を与えてくるような人ではない。それは紛れもない事実。そこが揺らぐようなことがあれば、私はチームのために、ティールや雫のために戦う……それだけのことだ。
私の中に雷姫の嘲笑が聴こえる。それは完全無視して、私は体を起こした。
「ま、なんとかなるだろし、追々と分かるっしょ」
「またなんか物騒なこと、考えてなぁい?」
いつからこちらを見ていたのか分からないが、ティールがじとーっと疑うような目で見ていた。
「……そう見える?」
「無茶はやめてよね」
「善処する~」
「またそんなこと言う」
「大丈夫だって。……そんなことより、荷物整理、終わったのー?」
「そんなことぉ?」
あは。睨まなーい、睨まない♪
ティールの盛大なため息が聞こえてきたものの、彼はこくんと頷いた。
「もちろん。スイとセツが邪魔しなければさっさと終わってたんだよ? 人の姿でうろうろされるの嫌すぎる」
まあ、その辺は諦めていただくしかないな。今日までの辛抱だし。
「ねえ、整理終わったんなら、ちょっと歩かない? ギルド内の構造把握、しときたいからさ」
「ん。いいよ。ちょっと待ってね」
緩いながらもずっと締めていたネクタイをほどき、ボタンも二つくらい外してしまう。そこまでするなら脱げばと思うのだが、まあ、彼のデフォルトはこんな服装だし、仕方ない。
私もベッドに投げ捨てていた上着と雷姫を手に取ると、ソファの近くでわいわいしている子供達に声をかける。
「よぉし! ギルド探検についてくる人! 返事!」
「いくー!」
「すいちゃも!」
「せっちゃも! せっちゃもー!」
「お供します」
よしよし。全員参加だね!
……この間にティールの本音を聞き出せるといいんだけれど。そこは私の頑張り次第だろう。ま、いつも通り、話してみますかね。



~あとがき~
ラルの思案回でした。

次回、家族に対するティールの本音とは。
探検go! とか明るめに言っておきながら、真面目回だと思われる。申し訳ね。

話したいことないな。

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第186話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわたわたしてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ルーメンおじいちゃんのところで話が終わり、最後の最後にティールと二人で話がしたいと持ちかけられ、ティールは保留にしたところで終わってます。
今回はお部屋にGoですね。
ティール「ぼくが言うのもあれなんだけどさ……温度差が凄くない?」
凄いな。真面目で暗めの雰囲気からがらっと変わるんだもの。ひえってなるよ。こっちも。


《L side》
部屋を出ると、ティールが扉近くの壁際でうずくまっていた。そんな彼をどうにかして励まそうと、しーくんが必死にティールの頭を撫でている。私が部屋から出てきたのを見て、しーくんは不安そうにこちらを見上げる。
「ラル。ティール、げんきなくなっちゃった。……ティール、ボクがわがままいったから、おこったのかな……?」
「そうじゃないよ。しーくんは悪くないからね。……ティール、ゆっくりでいい。今すぐに飲み込む必要はないんだから。私が傍にいるよ、ね?」
「……うん。そう、だよね。ありがと、ラル。……雫も、ありがとね。大丈夫だから」
ティールは小さく笑い、ゆっくりと立ち上がる。そして、何も言わずに先頭を歩く。きっと、今の顔を見られたくないからだ。
「……ママ」
「だぁいじょぶ。しーくんはなんにも心配いらないよ。あとでママがパパとお話ししてみるからね」
「わかった。ラルにおまかせすれば、だいじょぶになるよね」
「うん。まっかせろ!」
そうなれるかは、ティールの心次第だけれど、私は信じてるから。だから、今はいつも通りに振る舞おう。それをティールが望むなら。
「お。……隣の部屋はここだね? きっと、ツバサちゃん達がいるよ」
私の言葉にティールは無言でドアノブを掴み、扉を開いた。……そして、飛び込んできたのは……
「てぃー! おかえりー!」
「るーも! しーも! おっかえり!」
そう叫びながら、天真爛漫に笑うスイちゃんとセツちゃんだった。空気も読まず、ティールの顔面に飛び込み、ティールをむぎゅむぎゅしている。
「あ、おかえりなさい! ラルさん、しーくん♪ あ、あと、大丈夫ですか? ティールさん……?」
扉の影から顔を覗かせたのはツバサちゃんだ。心配の声をかけられた相棒は無言で妖精二人を引き離し、にこっと笑いかける。
「……うん。大丈夫だよ。ごめんね? このてるてる坊主達が迷惑かけたでしょ」
「あ、いえ。私は楽しく遊んだので! でも、アラシが」
うん? アラシ君?
ツバサちゃんが見ている視線の先を辿ると、床にぐでっと倒れ、リランにのしかかり攻撃されているアラシ君がいた。
「何してるの、アラシ君? 遊んでるの? 元気だねぇ」
「こ、この状態を見て、よく言えるな?」
まあ、リランに遊べ遊べアピールされたんだろう。ついでに、スイちゃんとセツちゃんにも。その結果、バッテバテになったと推測しようかしら。今回はレオン君もいなくて、一人だしね。
ぐったりのアラシ君を見て、ティールは片手に一人ずつ確保している妖精に微笑みかけた。もちろん、目は笑っていない。
「スイ、セツ。知ってる? 無能なてるてる坊主は、頭と体をバラバラにしちゃうんだって。……お前らはどっちなんだろうねぇ」
「きゃー! てぃーがおこってるー!」
「おつかれなの、あらちゃがよわいだけなのにー!」
セツちゃんに弱いと言われ、アラシ君が
「うっせぇぇー!」
と叫ぶ。が、床に寝っ転がって現在進行形でリランにやられているために、説得力はあまりなかった。
「あんあんっ!」
「ぐえ! ば、上で暴れんな、リラーーン!」
こちとら、真面目な話をしていたんですけどねぇ。遊んでいたのですか。楽しそうですなぁ。
「この体力お化けドラゴンと妖精二人に絡まれてみろよ……こっちが死ぬぞ」
元気の化身みたいなもんだからな。
さて、ここからすることは一つ。部屋の確認だ。先程、アルフォースさんから部屋番号を教えてもらったのだし、今行っても大丈夫だろう。
ティールの怒りに触れ、きゃーきゃー騒ぐスイちゃんとセツちゃん、リランののしかかりから脱出できないアラシ君は今は放置だ。
「ねえ、ツバサちゃん。私達が泊まる場所、分かる? できたら、案内してほしいなって」
「はい! このエクラ城内にある後宮だったエリアですよね? 分かりますよ♪ 案内します」

城だから、色んな役割のあるエリアがある。玉座の間とか、エントランスとか、そういうやつ。その中でも後宮と呼ばれていたところは、現在、宿泊施設として使われているらしい。観光客はもちろん、私達のような探検隊なんかも宿泊先として利用するとか。そして、城にあるという事実で察するだろうが、そこも明けの明星が経営するホテルである。
ちなみに、スプランドゥールの中でも一番高い宿泊施設だとか。とはいえ、お金持ちだけしか泊めません、という金額ではないとのことだが、実際のところ、私は知らない。知らなくてもいいことというのは、世の中には存在するからである。
ツバサちゃんの案内で、豪華ながらも落ち着いた雰囲気のあるホテルの中を歩いていく。
「んでも、お前ら三人同じ部屋を選ぶとはな。よかったのか?」
「人の目があるし、本当はよくはないけどさ。しーくんのうるうるには勝てないのだよ」
「……なるほどね。甘えに負けたってか?」
いーや? あれだよあれ。見知らぬ土地だから、一緒にいた方が落ち着くって話だよ!
「ははっ……ま、そういうことにしとく」
ここにレオン君いなくて、正解だよ。言われるもん。絶対。そして、過剰に反応するのはうちのパートナーだろうけど。
「あ、つきました! ここがラルさん達のお部屋ですね♪」
とある部屋の前でツバサちゃんは扉を指差し、にこりとこちらを振り向く。
「へぇ。ここか……って、ツバサ。鍵とかはどうなってるの?」
両肩にスイちゃんのセツちゃんの乗せたティールが首を傾げる。なんかもう、今日一日限りだけれど、様になっている気がした。
「ほえ? じいじから受け取ってませんか?」
ルーメンさんから受け取って、鍵になりそうなもの……このブレスレットくらいか。
ツバサちゃんにブレスレットを見せると、パッと顔を輝かせた。
「それです♪ そのブレスレットをこのドアノブの……この辺にかざしてみてください」
こうかな?
ツバサちゃんに言われるがまま、ブレスレットをドアノブ付近に近づけると、カチャンと鍵の外れる音が聞こえてきた。
「わー! あいたー!」
「ふふ。実はそのブレスレット、許可証であると同時に、この部屋の鍵にもなってるんです。なので、失くさないように注意してくださいね?」
失くしたら、部屋にも入れないどころか、ギルドの施設も利用できないもんな。貰ったときから失くさないようにとは思っていたけれど、これ、気軽につけてられないんですけど……ダンジョン攻略時は外しとこっかな……壊れるなんてちゃっちい作りしてないだろうけれど、用心はすべきだ。
「ここの宿泊施設、全てオートロック制ですから、鍵はきちんと持ち歩いてくださいね♪ 部屋に誰かいるならいいですけど」
「分かった。気を付けるよ。ここまでありがとね、ツバサちゃん」
「いえいえ! これくらいなんでもないです♪」
私達はこのあと、荷物の整理をするけれど、二人はどうするのかな?
「んと、私はツルギと一緒に夏祭りの準備をすることになってますね~」
「俺は騎士団の方に顔出せって言われてるから、そっち行くわ」
なるほど。じゃ、ここからは別行動だ。
「あ、夕飯は一緒に食べませんか? お昼で使った食堂の前に集合しましょう♪」
ツバサちゃんの提案に、この場にいる全員が頷いた。断る理由がないしね。
「OK。なら、六時くらいに集合ってことでいいかな? ツバサちゃん、準備頑張って。あ、アラシ君も~♪」
「はーい! 頑張りますっ♪ では、また後で!」
「……なんか俺のついで感凄かったけど? いや、いいけども」
気のせいだって。気のせい!
私達の部屋の前でツバサちゃんとアラシ君と別れ、私はロックを外していた部屋の扉を開く。
「……な、なんだこれ。え、なんだこの豪華な部屋」
「みて~! ひろいね!」
「いまのいえくらいあるね!」
「ねー!」
そ、そこまで広いかな。うち……?
「んー……多分、スイートくらいじゃないかな?」
くそ! 冷静だな、ティールめ!
ティール曰く、スイートルームレベルの客室らしい部屋は、城の中にあるからか、洋室タイプだ。かなり広く、そして豪華である。三人で寝ても問題ないくらい大きなベッドが二つ、簡単なキッチン、冷蔵庫完備。お高そうなソファや椅子がいくつもあって、テーブルもちろんあって……なんかもう、頭痛くなってきた……
「おふろもひろーい! ラルー!」
「んー? なっ! ホテルなのに、ユニットバスじゃない、だと……!?」
「え、指摘するのそこなの?」
二人で入っても余裕な浴室。これなら、ゆったりのんびり疲れも癒せるだろう……いや、こういうのって絶対高いよね? 一泊いくらなんだろ……
「大袈裟な……スイートだろ? ロイヤルじゃないし。けど、スプランドゥールは物価高めだから……十数万ってところかなぁ」
「一泊!? 一泊で約十万飛ぶの!? 食費! うちの約二ヶ月の食費くらいだぞ! それを何日も!? 無理無理!!」
「凄いよねぇ……それをぽいっと負担できるくらい、明けの明星はおっきなギルドなんだね。そりゃあ、人選は慎重にもなるってやつだよ」
それをさらっと受け入れられるお前もお前だ!! 金持ちー! 金持ち怖いー!!
浴室の扉を閉め、ベッドに倒れこむ。ふっかふかのマットレスにビビりつつも、自棄糞になってばたばたしておいた。
いや、何これ。むっちゃ気持ちいい……
「いやぁ、これくらいは予測はしてたよ……ツバサのお祖父さんだよ?」
「そ、そうだけどさぁ……はぁ。私、気が休まらないかもしれない」
「ぎゃ、逆に?」
逆に。まあ、慣れればこの暮らしも快適になって、家帰りたくないとか言い出すんだろうな。人とは恐ろしい生き物よ……
お遊びはここまでにして、予め運んでくれたらしい荷物の荷解きをしなければならない。ふかふかベッドとは一旦おさらばし、私達三人はそれぞれの荷物の整理を始めるのだった。



~あとがき~
スイートルームなんて泊まったことないわ。

次回、部屋でのんびりするスカイの三人と妖精(聖剣)二人の様子をご覧ください。
ちょっとの間、ツバサちゃん、アラシ君、リランの出番はありません。しばし待たれよ!

ティール、情緒不安定っすな。
悩みすぎてしんどくなったり、普通に振る舞ってみたり。かと思えば、スイセツに怒ったり。忙しい……普通なのは周りに心配かけないように、という気持ちの現れですが。
さて、そんな彼にラルは何て声をかけるのか。接するのかは……近いうちにな。

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第185話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界の物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、仕事の話が終わり、部屋の話になり、雫が三人一緒を望んだところで終わりました。それがどうなるのか、ですね。
そして、今回で一旦、ルーメンおじいちゃんの部屋からの脱出を! 試みたいよね!
うん。閉じ込められてるわけじゃないけどね……(笑)


《L side》
一緒の部屋がいい、と。私とティールとしーくん、同じ部屋だと。そう言いましたか、雫さん……?
しーくんがふんすと鼻を鳴らし、「いい提案でしょ!」みたいに誇らしげにしている。そりゃあ、本当の親子なら一緒の部屋でもおかしくはない。普通だと思うけれど、私達は……既成事実もなければ、お付き合いしているわけでもない、単なる友人関係。親友同士である。同姓ならここまで悩まなくていいのに……世間の目とやらは厳しいもので。
「……どうする?」
「同じ部屋だったとしても、抵抗はないよ。ティールは?」
「抵抗感? 特にないよ」
じーっとこちらの様子を窺うしーくんの視線に耐えつつ、私とティールとでこそこそ会議を繰り広げる。
ちなみに、その様子を微笑ましく見守る大人二人。助けてほしいけど、介入するつもりはなさそうだ。
「ないけど……自宅じゃないし、人の目が気になると言いますか」
「だよね~……人の目怖いもん」
「それ……説明する?」
「え。説明……ねぇ」
「む~……」
無理。あんな無垢な幼児に「私達は特別な関係じゃないから、一緒の部屋は無理なんだよ」なんて言えるか? 私は言えません!!
ティール、言える? 本当の家族とは違うから別々の方がいいんだよなんて」
「え……い、言えるわけない」
私らが会議をしている中、しーくんがルーメンさんに向かって質問を投げ掛けていた。
「おへや、なんでもいいの?」
「もちろん。ワシらはどちらを選んでもいいように、準備はできておるからの。お主らで決めてよいぞ」
「じゃあ、ボクはパパとママといっしょがいい! だって、ながいおやすみのとき、ふたり、いえにいないんだもん!」
あう!?
「こんなふうに、いっしょなの、はじめてだもん。だから、たのしいたび、したいんだもんっ!」
うぅぅ!! ごめぇぇえん!!
「し、雫……そのくらいにしてあげて? ラルのライフはもうゼロだよ……?」
確かに、泊まりで家族旅行みたいなのも、今までになかった。近場で遊ぶとかならよくやっていたけれど、仕事とは言え、こうした旅行っぽい遠出は今回が初めてだ。
「ボク、いっしょがいい。……ダメ?」
「駄目じゃないです。三人一緒がいいですよね。せっかくですもんね。……はい。お願いします」
「君の折れる音が聞こえた気がする」
ばっちり折られたわ……原因はしーくんのうるうる上目遣いです。あれに耐えられる人は人じゃないと思います。はい……
「……パパは? ボクと、ママといっしょ、やだ?」
「え、あ、ぼくも……雫とラル……ママと一緒がいいです。はい。……あの、ルーメンさん。それでお願いしてもいいですか?」
「うむ。それでは、三人一部屋で手配しておこう。荷物も先に運び入れておくからの~♪ アル、頼むぞ?」
「ふふ。承知しました。三人部屋なら、部屋はこちらですね♪」
くすっと小さく笑って小さなメモ用紙を差し出す。部屋番号が書かれていて、きっとこの番号が私達がしばらく滞在する部屋なのだろう。
それにしても、ティールもしーくんのうるうるにやられ、完全に意思が折れたな。世間体がなんだ。もういいよ。周りからティールと付き合ってる通り越して、夫婦に見られてもいいわ……そういうことなのよ。我が天使、雫様のためならば、安いもんだ。別に嫌じゃないし……変な男も寄ってこないと思えば一石二鳥……うん……
「ラル、別のことでダメージいってない?」
「これからはもう少し、しーくんと旅行行こうかなって……家族っぽいこと、しようかなって……うん」
まさか、長期休みの過ごし方を指摘されるとは考えてもなかった。これは反省しないとなぁ……
と、部屋の件が片付いたところで、私はずっと気になっていたことを思い出した。
「ルーメンさん、最後に一つだけ、よろしいですか?」
「む? 仕事のことかの?」
「いえ。仕事ではなくて……いや、間接的には関わるのかな? その、今回のような優遇対応の件です。それの理由についてお聞きしても?」
この話を受けてから、寝泊まりの場所の提供や、街の滞在中の食費は出すとか……その辺が気にかかっていたのだ。いくらなんでも待遇がよすぎる。まさか、ツバサちゃんの友人だから、という理由でここまでするのも変な話である。私達は今までにフェアリーギルド以外のところから仕事を貰い、受けてきたこともあるが、ここまでの対応をされた記憶がないのだ。
「理由か……まあ、いくつかあるんじゃがな。一つ、大きな要因としては、このギルドの規則にあるからかのぉ」
規則、ですか。
「代々、ここの親方を勤める際、守るべき約束事のようなものじゃよ。昔から言われとることで、『特定の探検隊に依頼するときは、手厚い歓迎をせよ』とな?」
……ほう。
「冒険とは時として、命のやりとりがシビアなものになるじゃろう? 自らの命を守るために多くの時間と金をかける……それが探検隊達の負担となる。おかしな話じゃよ。金を稼ぐ手段の一つとして探検隊をしとるはずなのに、命を守る手段を得るために、お金をかけねばならんとはな?」
時として、探検という行為は利益を生まない。安全を多額のお金で得てしまうと、その分の利益はなくなるからだ。
まあ、ある程度の妥協は必要だけど、その妥協で死んでしまっては元も子もない。難しい線引きである。
「だから、この『明けの明星』では、その重荷を減らすために、依頼中に必要であろう食や休める場所を提供しておるんじゃ。そこで浮いたお金で少しでも安全に冒険してもらうためにの?」
少しでも生き残れる可能性を上げてほしいから、少しでも力になれるように依頼した側が負担する、のか。これは歴代の親方さん達が受け継いできた思いの現れなのだろう。
特定と決めているのは、ほいほい保障するわけにもいかないから?
「そうじゃな。この規則に当てはめようとする際には、かなり慎重に人選しておる。いくらこちらが保障すると言っても、好き勝手されても困るからの~」
このスプランドゥールは周りと比べて物価は高めだ。観光地でもあり、探検隊、冒険家達の街で人口も多いからだろう。きっとそこも影響しているんだろうな。
私達もお金に困る程の貧困層ではないけれど、節約できるなら節約したい。そのありがたい規則とやらに甘えてしまうのもいいのかもしれない。
「では、お言葉に甘えて……今日からしばらくの間、お世話になります」
「うむ♪ 滞在中、ギルド内の施設は好きに使ってくれて構わんよ。それと、ここにいる間はこれを持っていなさい」
ルーメンさんが手渡してくれたのはブレスレットだ。乳白色の石がワンポイントとして使われており、その石には星と三日月のマークが掘られていた。そんなブレスレットを私達一人一人に渡してくれる。
「それを見せれば、食堂や施設利用なんかが無料になるんじゃよ。つまり、ギルドの関係者だという証明となるわけじゃ」
なるほどねぇ~……許可証ってことか。失くさないようにしよう。
「星と三日月……ここのギルドのシンボルマークですね?」
「そうじゃよ。よくわかったの~?」
「ギルドの存在は前から知ってましたから。それに……さっきの写真にも載ってました」
ギルドメンバーの集合写真だから、ギルドのマークも載っていたんだろう。私はそこまで見えなかったけれど。
私はルーメンさんからもらったブレスレットをどちらにつけようか少しだけ悩んだ。とは言え、すでに左手には空色のバンドをつけている。同じ手でもいいけど、気分的に片っ方がうるさくなるのが嫌で、右手につけた。
ティールも似たような理由─私と同じ空色のバンドが右手についてる─なのか、何もついていない方の左手につける。しーくんには左手につけてあげた。
「よし。これで大丈夫だね」
「ありがと、ラル!」
どういたしまして。さて、次は隣で待ってるツバサちゃん達と合流するかな。そこから……どうしよう。部屋かな。部屋行くか。
「おっと。最後によいかな?」
なんとなく、お開きな空気だったから、立ち上がろうとしていた私達をルーメンさんが引き止めた。他にも言い忘れたことでもあるのだろうか?
「これは単なるお願いとして聞いてほしいんじゃが……ティールよ」
「は、はい? なんですか?」
「いつでもよいんじゃがな……夜、ワシと少し話せんかな?」
「ぼくとルーメンさんとで、ですか?」
「そうじゃ。なぁに、そんなに身構えんでもよい。この老いぼれの相手をしてほしい。それだけじゃよ」
そして、仕事とは関係のないことで、無理にとは言わない、というのを強調した。これはあくまで、『お願い事』だと言う。
唐突な話にティールはこの場での判断はしかねるらしく、少し思案するように考え込む。そんなティールをルーメンさんはちらりと様子を窺うように見据える。
「じゃが、ティール……もし、お主が家族……特にライトのことを知りたいと思っておるなら、ワシの話相手をしてはくれんかの?」
「……っ!」
「返事は急がん。もし、話をするつもりがあるのなら、夜八時以降にワシの部屋に来るか、アルに言っておくれ。……期限は滞在中、かの? その間ならば、いつでもよいぞ♪」
ルーメンさんはブライトさんと仲がいい。月一で会うくらいには。それなら、今のティールとブライトさんの仲も知っているはず。ルーメンさんは、二人の仲を悪化させるつもりはないだろう。そんなことをしても、二人のためにはならないし、なんなら、ブライトさんとも険悪になる可能性があるからだ。なら、とうにかよくしてあげようとしている……?
問われた本人は、黙ったままだ。返事は急がないと言うし、ここで「時間のあるときに」なんて答えられるほど、今のティールに余裕はない。
「今の申し出は……その、考えさせてください。……失礼、します」
ようやく出た言葉は、消えそうな程小さなもので、足早に部屋を退出してしまった。そのあとをしーくんが慌てて追いかけた。
「ラルよ」
「はい」
ティールのことを見てやってはくれんか? きっと、お主が適任じゃろう」
「……言われなくても、そのつもりです。ティールは、彼は私の大切なパートナーですから。では、失礼します」
ルーメンさんのアルフォースさんに一礼すると、私も部屋を出た。
ルーメンさんも人が悪いなぁ……けど、あれくらいしないと、向き合わないのかもしれない。なら、私は……私のするべきことは……?



~あとがき~
やだ。最後、真面目じゃない。
え、やだぁー!

次回、部屋に行きます。

チームではラルが一番権力ありますが、こういうところでは雫に逆らえないラルとティール。痛いところを突かれ、うるうるにやられました。親バカかな??(笑)

そして、ティールの話も近々やります。
ぼんやりと出ていただけですが、出しますんで。この話の中で出しますんで! はい!

ではでは!