satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

空と海 第193話

~前回までのあらすじ~
終わりが見えてきたヴァルツ達だけど、更なる災難が……
もえぎ「強化するなんて、聞いてない……です」
ヴァルツ「探る前にやられたな」
もえぎ「うー……」
フォース達よりは早く終わるといいなって感じです。理想は五話くらい!
ヴァルツ「……大丈夫か?」
分からない!!


明らかに動きが変わったのを目視でも確認することが出来た。ヴァルツは軽く舌打ちをしながらも、マリーを構えた。
「マリー」
『やってはみますが……あまり意味はないかと』
「まあ、そうだろうな……っ!」
軽く地面を蹴り、的確に弱点を狙いに行く。触手のように伸びてきた腕にあたるらしい部位をジャンプで避けると、その流れで敵の背後にある核を壊した。目の前でどろどろになって溶けていく様を見ていると、何とも言えない気持ちになる。
「ゾンビって、こんな奴のことを言うのか?」
『ふふっ♪ そうかもしれません』
「次は…………いっ…!」
ズキリと痛みが走る。先程から時折、感じていたものの、動かなければ問題ないと誤魔化しつつ無視していた。終われば倒れてもいいかと思っていたのだ。が、今ここで倒れるわけにいかない。倒れてしまわないよう、気力だけで踏ん張る。
「ぐっらぐらする……」
『前方、二時の方向から来ます!』
「あーくそ……これだから、嫌なんだよ。ブラックすぎる……マリー!」
『はいっ!』
敵からの攻撃を避け、素早く背後に回る。目がない相手に死角へ回る必要があったかは疑問だが、倒せれば問題ない。人で言うどの部分に当たるのかよく分からないところを切り落とす。腕でいいのかと思いつつ、右側の脇腹にある弱点を壊した。
『これで愛し子の周りにいた敵は殲滅しましたね』
「残りは全部ふぃーに行ったのか……笑えない」
後はもえぎに弱点を伝え、倒してもらえばここら一帯は完了したと言える。敵の数も減る一方であるため、今後増えることはないだろう。
そう考えてしまったのがいけなかったのだろうか。一時でも安心してしまったためだろうか。ぐらりと視界が回り、気がついたら倒れてしまっていた。立ち上がろうにも力は入らず、自分の荒い呼吸と鼓動。そして、全身を巡るような痛みしか感じない。
「つぅっ……!」
『愛し子よ……これ以上は』
「けほっ……ここで、倒れたって……仕方ないだろう。……マリー、残りの、探れ」

『触手みたい~』
「あうあうっ!」
呑気な感想しか述べてこないトリスに答えることなく、片っ端から鎌を振るっていた。ヴァルツの指示がなければ、どこに弱点があるか見当もつかないのである。ヴァルツの加勢に行けばいいのかもしれないが、生憎、敵に道を阻まれ、迂闊に近づくことが出来ないのだ。
「……ってあ!」
『手応えなさすぎ! 無限サンドバッグじゃん』
「うぅ……これじゃあ、きりないです……」
『そうだね。でも、何も策はないんだよ。ごめんね、もえぎ』
「鎌は重いし、疲れました……」
『失礼な! 普通の鎌より結構軽いんだからね! それでこの重みのある攻撃が出来るんだから、感謝してよ?』
そんなことを言うのなら、もっと扱いやすい物に変化してくれと切に願った。願ったところで、何も変わりはしないが。
『もえぎ! 後ろから触手が来るよ』
はえ……きゃっ!」
足を取られ、そのまま空へと持ち上げられる。逆さまで宙ぶらりになってしまった。そこまで高さはないが、この状態で離されると頭から落ちることになるだろう。それだけは絶対に避けたかった。
「ひゃあぁっ! トリスさぁあんっ!」
『うーむ。仕方ない。……何になる?』
「弓! ここから別の敵を狙います……!」
『それはいいけど、大丈夫? この場所? 不安定だけど、狙えるの?』
「何もしないよりは……あっ」
何を思ったのか、敵はもえぎをぶんぶん振り回し始めた。完全にもえぎのことをおもちゃか何かと勘違いしているようだ。
「みゃあぁぁぁっ!!」
『うわっ!?』
遠心力のせいで、するっとトリスが手から抜けてしまった。しかし、そんなことを気にしている余裕もなく、もえぎはぐるぐると回され続ける。倒されることもなく、攻撃されるでもなく、ただただ回されるこの状況に理解出来なかった。
「は、はう~……な、なんれぇ……?」
倒すなら一思いにしてくれればいいのに、と思わずにはいられなかった。
このまま回され続けるなんてことなく、十分に勢いのついたもえぎはパッと離され、勢いよく飛んでいった。目が回った状態では、上手く受け身なんて取れるはずもない。何度も地面を転がった挙げ句、近くの木にぶつかってようやく止まる。
「かはっ!……あ、う……ト、トリス、さん……どこに……?」
見える位置にトリスはいなかった。ゆっくりと体を持ち上げようとするも、強く打ち身をした影響で上手くいかない。
相手の攻撃が単純なものではなく、どうすれば追い込めるか考えているような動きになってる。いきなりこうなった理由を考えてみても、分かるはずもない。ヴァルツになら分かるだろうか。
ふと気付くと、もえぎの視界に影が落ちた。一つではなく、複数の影だ。これが敵の影だと理解するのに時間はかからなかった。ここからどうなるのかも、想像に難くない。あの触手は姿形を変えていたため、その素材、例えば固さなんかを変えられるとすれば、それを振り下ろすようなことがあれば。今のもえぎは避ける術も守る術も持ち合わせていなかった。
「……死んじゃうのかな」
そもそも、二人で対処なんて出来るはずもないのだ。無茶苦茶なことを押し付けられていたのだ。ここまでやってきたのは、むしろ褒められるべきことなのだ。
いくつもの言い訳じみた言葉が浮かんだものの、それを口にすることはなかった。結局のところ、自分は弱いものなのだと。そんな自分が助けを乞う相手はいつも決まっていた。そんな自分にも嫌気が指す程に。
「ヴァル、さん……」
「ここでこんなことしていたら、しばらく使い物にならないぞ、俺。……よし。有給でも取ろうか」
『火事場の馬鹿力、でしょうか。流石です。愛し子よ♪』
「やめろ。意識させるようなこと言うな。……おい、ふぃー、生きてるか?」
もえぎを攻撃しようとしていた敵を退け、彼女の前に立つのは、ヴァルツだ。彼の姿を見たとき、視界が歪んだ。助けてくれた嬉しさと、情けない自分に瞳には涙が溜まっていく。
「ごめん、な……さ……」
「謝ることはない。……来い、トリス!」
『あははっ! たっだいま! やっぱり、お前に使われる方がいいねぇ~♪ お望みのものをどうぞ?』
ヴァルツに呼ばれ、どこかへ飛んでいってしまっていた鎌のトリスが帰ってくる。元は彼の持ち物だ。なんなら、トリスの能力を引き出すのもヴァルツの方が上である。
「鎌とか、今の俺に扱えると思うか?」
『ははっ! 無理だね!』
「お前、ムカつく。重いし。……形状変化!」
『重くないですぅ!』
淡い光に包まれて、姿を変える。そして、現れたのはマリーより一回り大きい剣だった。二振りの剣を軽く馴染ませ、体勢を低く構えた。
「マリー、トリス、さっさと済ませるぞ」
『はい』
『だね。というか、早く倒さないと、お前死んじゃうもんね~♪』
「……一言余計。ふぃー、ちょっと待っててな」
「ヴァルさん……」
不安の色が見えたのだろう。ヴァルツはふっと優しく笑った。嘘のない笑顔を見せ、安心させるような笑顔だ。
「大丈夫。……こんなところで死ねるかよ」



~あとがき~
ヴァルツ、頑張ってますね。

次回、もえぎ&ヴァルツパートもラストスパート!
残りの敵にヴァルツが立ち向かいまっす!

トリスの今の所有者はもえぎなんですが、なんやかんやあって、もえぎが所有しているだけで、ヴァルツの方が使い手としては上ですね。天性の才能なんでしょう。なんやかんやの部分は過去編で!

ヴァルツ、ぶっ倒れたのに、よく復活したなぁ……マリーが言ってましたが、火事場の馬鹿力なのは本当なんでしょう。もえぎがやられてるのを見て、体が動いたんです。
……ここまでやるってもうさ、ヴァルツ、もえぎのこと好きだろ。
ヴァルツ「……あ?」
もえぎ「!? ふえ、ふえぇぇ!?」
うーん。……まあ、恋愛感情なんてもの、ヴァルツにはないか。

ではでは!