satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

学びや!レイディアント学園 第90話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でゆるゆるっと過ごしている物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回からミユルVSユーリ戦がスタートしてます。一話で終わらせると言ったのはなんだったのか……
アラシ「俺とイツキ先輩のときは苦しい言い訳してたけど、あれはあれで二話構成だったよな」
し、知らない! 知らない!! とりあえず! 今回で終わる。終わらせるぞい!!
そして、前回と変わらず、第三者視点。


時はミユルが小さな狼を発見する前まで戻る。
ミユルの視界に入らぬよう、青々とした葉を揺らす木の上で、ユーリはいつも通り偵察部隊である狼達を放っていた。感覚の共有を行い、周りの把握から始めたのだ。それも大した収穫はないのだが。
「きゃうっ!」
「お帰り、ふわ」
ふわと呼ばれた、小さな黒狼は木の影に一度溶け込み、一瞬でユーリの肩へと移動する。すりすりとユーリに甘えるような行動をしてきた。
ふわは偵察部隊の狼と同じ魔法……精霊召喚魔法で呼び出されたが、偵察部隊とは全くの別個体である。ふわの方がほんの少し、力も強く、自我も意思もある。とはいえ、逆らいはしないし、人の言葉を操ることもないが。
精霊召喚魔法は自分の得意属性に属する個体……精霊を呼び出す魔法である。そのため、ユーリが呼び出せば、幻術や妨害を得意とする精霊を呼び出せるのだ。ちなみに、彼の幼馴染みであるリリアーナは、この手の魔法を使わないが、仮に彼女が使えた場合、土属性の精霊が現れる。……特殊な補助魔法の一つである。
「きゃう?」
「呼ばないよ。ノワールはルール違反でしょ」
ノワールもユーリの精霊召喚魔法で呼び出せる精霊である。しかし、普段使う名もなき狼達や、ふわよりもノワールは上位の存在であり、それに見合うだけの強さと能力を兼ね備えているものの、強力故、扱いが難しい。また、リンドウの条件に当てはまるのか微妙なところである。己の力を示すのに、ノワールを放っていいものか、と。
「今回は僕だけで頑張るよ。……さて、死角や地形把握はいいかい?」
この言葉にふわは元気よく頷く。
「いい子だ。勝てるか保証はないけれど、せっかくの機会だ。試す価値はあるよね」
満足な攻撃魔法もないユーリにできるものと言えば、幻術とデバフ魔法……それと、補助魔法だけだ。これらをどうにか組み合わせて、ミユルに立ち向かわなければならない。
「くぅ」
そう言うなら、約束なんて捨ててしまえと言わんばかりの不満そうな声が聞こえてきた。ごもっともな意見である。
「分かるよ。けど、僕はね、イツキの二の舞になりたくない。春時雨、抜いちゃって……」
春時雨は、アラシを場外へと追いやった際に使用した武器のことだ。詳しくはユーリにも分からないのだが、リンドウ曰く、一族に伝わる名刀であり、業物であるらしい。そんな刀を持っていた理由は戦場に触れさせるためとか、イツキに慣れさせるためとかなんとか。色々、複雑な事情があるらしいのだ。しかしまあ、余程のことがない限り、抜いてはいけないため、今回の試合でも使うなと釘を刺されていた……はずなのだが。
「……ま、イツキは知らない。今日帰ってお仕置きコースだね」
「あ、あう……」
「さて、やろうか」
するりと木から降りると、決して大きくない魔法陣を発現させる。すると、そこから何匹かの小さな狼が現れ、狼達に一言命令した。
「僕の幻術でお前達を隠す。ふわの合図でノフェカさんに気付かれ、攻撃を受けろ。そうすれば、僕のかけた魔法……呪いが発動するから」
「あうっ!!」
頼もしい返事を聞き、ユーリはそっと微笑む。肩に乗るふわから受け取った情報も甘味し、呼び出した狼達を配置した。最後に乗せていたふわを地面に下ろし、首に巻かれたリボンと予備の魔力糸の確認をしつつ、そっと一撫でする。
「頼める?」
「きゃう」
小さく一鳴きすると、ふわは木々の影の中へと消える。ふわへと合図はユーリがしなければならない。全体の配置が終わらなければ、意味がない。それをタイミングを計るため、放ったままの偵察部隊の視覚情報を回収していく。
「……配置が終わったら、偵察隊を消して……よし。頑張る」
そして、この数分後、ユーリはふわへ合図をし、自身はミユルに近づくために移動を開始したのだった。

そして、時は今。
彼の考えた作戦は概ね成功したと言ってもいいだろう。ユーリの思惑通りに事が進み……順調に進みすぎて、逆に何か恐怖を感じつつも、ミユルを見下ろした。『混乱』と『毒』を仕掛けるというユーリの魔法は成功しているようだ。
「……あの狼達に仕掛けたのね。呪いを」
「えぇ、倒した相手を状態異常にするように。デバフなんて呪いみたいなものですから」
「流石ね、デバフ特化の黒の魔法使いさん。高校生で……ここまでの効果は出せないわ」
「お褒めいただき光栄です。……さて、どうしますか? 続けるならお付き合いします」
しかし、ミユルにかけたデバフはとてもではないが、戦闘するには難しいだろう。混乱で視界は上手く機能しないし、目眩も引き起こす。毒も時間が経てば経つ程に威力を増していく。長期戦には向かないはずだ。ミユルに回復する手段があり、治せるのなら話は別だ。その場合は、遠距離でどうにかできる相手ではなくなるため、どうにかして接近戦に持ち込むしかないが。
「……どうする、ですって? うふふ。もちろん、続けるわ。……だって」
ミユルがゆっくりと立ち上がり、ユーリの方を見据える。にっこりと、笑みを浮かべながら。
その笑みに何か引っ掛かるものを感じた。何がとは言えない。言えないが、何か忘れている。重要な何かを忘れている。……そんな感覚をユーリは感じていた。その思考の海から無理矢理引き戻してくれたのは、草むらの影に隠れたままのふわの声だ。
「がううっ!!」
「……! しまった! そういうことか!」
黙って微笑み続けるミユルに向かって、ユーリは回転を加え、回し蹴りを繰り出す。ミユルはその攻撃を避けもせず、受け身も取らぬままに吹き飛ばされた。文字通り、跡形もなく吹き飛ばされる。
……否。ミユルだったものが、吹き飛ばされたに過ぎなかったのだ。
「まだ、戦えるもの♪」
ユーリの背後から聞こえてきたのは、穏やかな少女の声。そちらをゆっくりと振り向けば、目を閉じ、変わらぬ笑みを浮かべるミユルがいた。
「……樹妖精の能力を疑うべきだったか」
「ご明察。私が森を造った時点で警戒すべきだったのよ、ユーリくん?」
先程、ユーリが攻撃したものは、ミユルの偽物。彼女が操る植物で作り出した人形だったのだ。魔法でも、術でもなく、ドライアドのミユルだからできたことであった。
樹妖精は植物と会話し、交流が可能だ。しかし、ごく稀に、森と感覚共有を行う能力を持った樹妖精が産まれるという。ユーリはそれを知識として知っていたのだが、その稀な存在であるのがミユルなのは知らなかったし、その可能性すら考える余裕もなかった。
「例え、自分が産み出した一時的な森……『ツクリモノ』でも、『森』には違いない。だから、ユーリくんのデバフも効果がない……なんて、言えたらかっこよかったんだけれど、感覚を繋いでいるから、全くではないのよ。毒は防げたけれど、混乱までは無理だった」
目を閉じて会話するのは、視界が狂ったままでは、歩くのもままならないからなのだろう。そう考えると、ユーリの作戦はあながち失敗したとは言い切れなかった。しかし、半分以上を防がれたのは事実である。
「そういう……っぁ!」
全身に痺れを感じた途端、手足の感覚がなくなり、ふらりと体を揺らす。どうにか無抵抗に倒れるのだけは阻止するものの、地面に膝をつけてしまった。
「ふふ。そろそろ効いてきたかしら?」
「……はめ、られたって、ことか」
ユーリの足元には黄色い花を咲かした植物が風に揺れていた。痺れで口を開くのにも一苦労な彼に代わり、ミユルが口を開いた。
「ユーリくんも知っているよね? それはパリラ草。別名、『麻痺草』……基本生息地は風のない洞窟内部。麻痺直しの薬草だけれど、ほんの少しの風でも見えない花粉が飛びやすく、その花粉には……」
「重度の、麻痺を……ひき、おこす」
ユーリの答えにミユルはにこりと笑う。
植物は扱いを違えば薬にも毒にもなりうる。パリラ草もその一種である。授業で習う、誰でも知っているような常識だった。
「今度は私が言う番ね。……どうする? 続けるならお付き合いするわ」
続ける選択肢はあるにはあった。ふわを通じて、ノワールを呼ぶ。この状況なら念じさえすれば、闘争心の強いノワールは引き寄せられるように現れるだろう。また、ふわの糸を利用すれば、何かしらの隙を窺えるかもしれない。
しかし、そこまでして勝ちたいとは思っていないのが本音だ。元々、勝ちには拘っていなかった。その結果がこれなのだろう。
言うことを効かなくなってきた身体に鞭打って、不安定ながらもどうにか立ち上がって見せる。ただの意地だったが、ミユルは少し驚いたようだ。
「……こーさん。むり、ですもん」
「はい。……分かりました」
ミユルはぱちんと指を鳴らすと、二人を覆っていた森は跡形もなく消えていく。それと同時に歓声も大きくなり、実況の声が会場中に響き渡った。
『デバフ対決の末、勝利したのはミユル・ノフェカァァァァ!!』
ミユルの勝利を告げる声を聞いた瞬間、ユーリは支えを失ったかのように無抵抗に後ろ向きで倒れる。受け身も取らずに地面に倒れたが、皮肉にも麻痺のおかげで痛みはない。
「試合とはいえ、手荒な真似をしてごめんなさい!……ユーリくん、これ、食べて」
ミユルは倒れているユーリに慌てて駆け寄り、口に何かを突っ込んだ。そして、ミユル自身も同じ様に何かを口にする。
「っ……ん」
口の中に広がるのはほんのり甘いものだった。それも、人工的な甘さではなく、自然の優しい甘さである。
「安心して。ナーレっていう白いお花で、状態異常を和らげる薬草なの。完全には治せないんだけれど、救護室に行くまでなら、お互いこれで大丈夫だと思うわ」
ミユルの言う通り、少しではあるが、体の自由が戻ってきた。手や口が動くのを確認し、体を起こす。
「……えっと、ナーレなんてどこから? 試合中、回復等のアイテム所持は禁止されているはず」
「大丈夫。試合中から持っていた訳じゃないから。“インベントリ”よ♪」
“インベントリ”とは別空間に物を収納できるという異次元収納魔法の一つである。手荷物要らずではあるが、かなり高度な魔法に分類される。また、世の中には異次元収納を可能とした鞄─探検隊等が使用するトレジャーバックがいい例─があるために、使い手はあまりいない。
「……無限収納、ですか。よくもまあ、そんな高度な魔法を……才能を恨みますよ。ほんと。……あぁ、忘れるところだった。ふわ、いるかい?」
「ふわ?」
ふわの存在は知らなかったのだろうか。ミユルが首を傾げる。対して、呼ばれたふわは、ユーリの影から現れ、肩に乗る……のではなく、早く立つように促していた。ナーレの効果が切れる前に移動しろと言っているのだろう。
「あの、ふわ? ごめっ……」
「きゃうっ!」
「あ、はい。行きます」
「あらあら……可愛い♪」
ミユルは、ふわが目の前の小さな狼であると理解したらしい。ユーリとふわのやり取りをくすくすと笑っていた。
それに突っ込む気にもなれないユーリは、ふわに促されるまま、足早にリングを後にするのだった。



~あとがき~
このミユルVSユーリ戦、色んな意味で難産でした。心折れかけたわ。……いや、折れてました。

次回、一回戦ラスト! シエルVSセジュ……と言いたいところですが、別カメラでお送りします~!
察しろ。消化試合だ。

前話に引き続き、こちらは丸々っと書き直ししております。しゃーなし。私個人としては、直す前の展開もむっちゃ好きやったんですよ。直す前はノワールが出てきてて、ミユルVSノワール戦をちらりとやってました。ミユル(偽物)破壊もノワールの役目。
とまあ、ノワールのお披露目はまだまだ先の話ですね。この剣技大会では出てきません。いつかは出てくるんじゃないかなぁ……きっとね。

あ、精霊召喚魔法は話の通りです。精霊召喚は大雑把な分類上、補助になるのかなぁ……と。攻撃にも防御にも補助にもなるけれど、要は助っ人召喚ですから。(謎理論)
現状、作中で使用したのはユーリしかいませんが、私の知る限りだと、リアさんとツバサちゃんも使用できるらしい。(友人談)
リアさんは分かりませんが、ツバサちゃんは近いうちにお見せできるかと。本当に。すぐにな!!

ではでは。