satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

空と海 第233話

~前回までのあらすじ~
第一関門は突破したイブ、チコ、アイト。
なぜ、アイトがここに留まっていたのか、彼の言葉の意味等々が明らかになりました。……よね?
さー! この先はどうなることやら~?
イブ「放置しすぎですよ!!」
それな。大丈夫。忘れてないよ!!!(汗)
イブ「むう~?」
ぼんやりと流れはあれど、なかなか言葉にするのが難しいんだよなぁ……頑張るぞい。


「こんばんは」
フォースはイブ達と合流するのではなく、一度、村に戻ってきていた。理由は単純だ。話をつけるためである。元より、イブ達を巻き込むつもりはない。
そして、彼と相対するのはここの長であるザゼルだ。敵が目の前にいるというのに、至って落ち着いており、かえって不気味に感じてしまう。何を考えているのか分からない。
ちらりと心を覗いてみても、そこに見えるのは黒だった。それをつい最近、似たようなものを見たのだ。
「心に陰りが見える。……『闇』に侵食されてるのか……それとも、お前さん自身がそうなのか。……或いは、影響でも受けたか? 例えばあの女狐とか」
「何のことやら……しかしまあ、お強いですね。男達を襲わせたはずなのですがねぇ」
「おーおー? 隠すこともやめたか、若造」
「えぇ。貴方はここで堕ちてもらいますからねぇ」
ゆるりと手を上げると、どこからともなくぞろぞろと現れ、フォースを取り囲んだ。先程の地下牢同様、適当な武装をし、フォースに確実な殺意を向けていた。地下牢と違うのは、肌に感じる殺気が明確である点だ。
「儂らは、平穏に暮らしたいだけなのです。探検隊の方。……それを邪魔するようならば、取り除かねばなりませぬ」
「どんな手を使っても、か。その考え自体が歪んでいるとは思わないのかい、ザゼルさんや」
「お願いします、皆さん」
フォースの言葉に耳を貸すでもなく、ザゼルは周りの人に一言、命令した。丁寧な物腰だったが、その内容は物騒なものだ。
ざっと観察したところ、誰も遠距離武器を持たず、近接武器や中距離武器がほとんどである。一つ一つは大した威力もない農機具のようなものばかりである。人を傷つけるための武器ではない。
そんな人達の攻撃を軽く避け、ザゼル同様に心を視る。すると、ザゼル程ではないにしろ、黒を感じた。また、この黒は、危険であると長年の勘が告げていた。
「……兄貴、手伝え」
「ほーいよっと! カモーン! “ランス”」
フォースの呼び掛けに素直に応えたのは、フォースの自称兄であり、生命の神ウィルだった。
すぐさま槍を構え、襲ってくる人々を凪ぎ払う。
「かーくんはあのおじーちゃんを追いな。どうもくっさいんだよねー……? あの祭り以来、闇が加速してる気がするんだわ~」
「そのつもりだ。兄貴、道を開いて」
「ほいほいっとな! おにーちゃんにまっかせて! ほらほらぁ? どいたどいたー!」
バトンを回すように軽々と扱い、その勢いのまま、敵に向かって放った。当然、敵は避けるために槍の通る道を開けていく。その道をフォースは駆けた。

かつて起こった『じげんのとう』の崩壊は、ディアルガが闇に染まったからである。その原因は悪夢事件の元凶であるダークライだ。そこから、闇を作り出したのはダークライだと誰もが結論付けていた。その悪夢もダークライの記憶が崩壊したことで、人々の記憶から、心から忘れ去られていた──はずだった。
しかし、数週間前の祭りで感じた闇は本物である。あれは人々の心を狂わせ、やがて世界を崩壊しかねないと感じたのだ。
あれはディアルガを陥れ、世界を陥れようとしたダークライの闇そのものだ。しかし……
「……元凶のダークライは、もう脱け殻だ。ばらまく手段なんてない。……けど、消えたという前提が間違っていたのなら、あの女狐がばら蒔いているのなら。……悪夢事件の再来。いや、それよりももっと……」
悲惨な運命を辿ってしまうかもしれない。そうなる前に何かしらの手を打つ必要がある。
「……けど、おれがどこまで踏み込んでいいのかは微妙……あ?」
思考を巡らせながら走っていたせいか、気がつくと見知らぬ場所に立っていた。黄昏時の森の中を走っていたはずなのだが、今は暗闇そのものが支配する別空間のような場所にいる。
それだけで、何らかの介入が入ったのだと悟った。
「考え事なんてするもんじゃねぇや……はてさて、何が来るかなぁ~……と」
「闇が支配する世界、かぁ……なんだか凄そうだよね~? イメージできないけどさ!」
この暗黒の空間には似つかわしくない明るい声が突然聞こえてきた。当然ながら、フォースはそちらを見る。ぽつんと座り、にっこりと笑う少女がそこにいた。
「なんかもう、かなりやりつくした手を使ってくんな? どしたよ、鈴流。こうも短期間に会いに来られると反応に困るぞ」
フォースは呆れつつ、溜め息混じりに話しかけた。鈴流は笑顔を崩さずに彼の問いかけに答える。
「仕方ないよ。フォースの心にはいっつも私がいるからね! どうしてもぽーんって出てきちゃうんだよ? 嬉しいでしょ?」
「反応に困るっつてんだろ。なんだ? おれを攻撃するの? そういうやつか?」
「んーん。しないよ? お話ししたいだけだもん。だから、続き! 闇が支配する世界の例え話が聞きたいんだよ。フォースはどー思う?」
鈴流らしくない質問に、完全に敵に先手を打たれていると感じた。しかし、敵意も感じない。例えるならば、自問自答しているようなそんな気分である。これに何の意味があるのか分からない。そんな感覚。
「どう思うねぇ……楽しくはないんじゃないの」
「アバウトだね。ちゃんと考えてくれた?」
「知らんよ。そんな世界に興味がないからな。でもまあ、そんなんでも嫌だなって思う理由はあるよ」
「へぇ? 何々ー?」
こてんと首を傾げる鈴流に、フォースは無言で近づき、瞬時に作り出した剣を振りかざした。彼女はその斬撃に動じることなく、真っ二つになったかのように思われるも、その姿は霧のように消えてしまう。
「偽物のお前には教えてやんない」
「んもー……いっつもそういうことしちゃうんだから! すーくん、きょーぼーだよ!」
「今度はお前かい、すぅ……おっと?」
フォースの背後にいつの間にか立っていたのは、今の主であるイブだった。そして、その隣にはチコもいた。それには少し驚いた。鈴流やイブは少なからずフォースの弱点とも呼べる人物ではあるものの、チコとはそこまでの付き合いはない。ピカのように深く突っ込まれたわけでもなく、フォースの記憶に強く残っているわけでもない。そんな相手が出てくるとは思ってなかったのだ。
「まあ、いいや。で、すぅとチコは何が聞きたいんですかね?」
「もしも、暗闇が広がったら争いのない世界になるって言ったらすーくんは信じる?」
「なんだそりゃ」
「ここの空間みたいに、自分の知ってる人しか出てこない。入ってこない世界ってことだよ。フォースなら、どう感じるのかなって」
「なんも感じないけど。つか、そんな世界に意味はあるわけ?」
「そんなのは自分で作るんだよー」
「熱血的な回答だな。……なら、おれからは、意味がないのでお断りって回答で」
鈴流を斬った剣で、同じように二人を消した。
三人を意識から排除したところで、空間に変化は訪れない。未だフォース一人しかおらず、気がついたら知り合いが変な質問を投げ掛けてくる。それだけの空間である。
「……いい加減にしろ。何を言われても肯定しない。下らない質問と幻影でどうにかできるとでも? 単調な揺さぶりしかできないわけ?」
「おやおや。……残念ですなぁ」
闇の中から姿を表したのはザゼルである。
この空間を作り出した──否。幻影を見せてきたのはザゼルだったのだ。
「おれの記憶にある人物を適当に引っ張り出したんだろうが、幻影に躊躇する必要がない」
「冷たいお方ですな。本来ならば、迷いは出ると思いますがね」
「実体があればね、多少はするだろうよ」
「ほう……ならば、貴方を黙らせるにはあの少女らを捕まえる必要がありそうですねぇ」
にやりと嫌らしい笑みを浮かべる。
彼の思考に常識の文字はなくなってしまったのだろう。邪魔者であるフォースを排除したいという願いが、欲が、ザゼルを動かしていた。
「これを伝授したのは誰だ。女狐? それとも、その傘下か?」
「はて。そのような御仁、知りませんねぇ……」
「嘘をつくなよ。お前からは同じ気配を感じる。どこかで接触し、植え付けられてるはずだ……ま、今となってはどうだっていいけど。……言えることは一つだ。ラルは渡さねぇ。おれが、ポチャが仲間達がそれを許さない」
『……あらあら。この前、心を読ませたせいかしら? バレちゃったわねぇ』
ザゼルの口からしわがれた男性の声ではなく、女性の声が聞こえてきた。数週間前に聞いた、紅の声。
『初めは実験だったの。ここの集落にほんの少しの闇、悪意を植え付けてみたら、どう育つのかっていうね。まさか貴方が釣れるとは思わなかったわぁ』
「偶然だと?」
『もちろん。偶然よ』
くすくすと面白がるように笑う。そして、真っ直ぐフォースを見据えたまま、話を続けた。
『でも、偶然にも貴方を引き込めた。……分かるでしょう? ここはあまぁい世界が広がっているわ。飢えもなく、孤独でもなく、貴方が望む人物が話し相手になってくれる。そんな真っ暗空間。……これを作ったのは私の優秀な仲間』
ゆらりとザゼルの姿が歪んだ。この空間から出ていくつもりなのだろう。フォースだけを閉じ込めようとしている。
「おれが望む相手がねぇ……つーことは、おれの精神世界とでも。そこにお前が入り込んでいると。そういう解釈でいいのか?」
『そうね。いいと思うわ』
「……なるほど。なら、おれの独壇場ってわけだ。おい。手伝え、お前の憎き相手かもしんないぞ」
フォースの呼び掛けで、ザゼルに攻撃を仕掛ける影があった。ザゼルは老人とは思わせない俊敏な動きでそれを避ける。攻撃した人物は深追いせずにくるりと自らの獲物を操った。
「あは。君が僕をイメージするとは驚きだ。なんか、嬉しいような悔しいような……僕としては不思議な気分だよ? というわけで。久しぶりだねぇ、フォースくん」
「友情だよ。ゆーじょ。……行くぞ、ラウラ」
かつての友であり、自らの命と引き換えに主を闇の侵食から救った白の制御者、ラウラがそこにいた。
彼女を思い浮かべた理由は、何となくであった。しかし、ラウラは主を蝕んだ元凶を倒したかったはずだとフォースは思っていた。それが制御者の性分だから。それがあって、元凶であろう人物と対峙するここで、ふと浮かんだのだ。
例え、それがフォース自身のエゴだとしても。



~あとがき~
シリアスシリアスしてきた。
望んでないのに……おかしい……!

次回、フォースの精神世界で色々やる。
前にも似たようなことありましたね。

まあ、特に言いたいことはないけど、ラウラちゃん久しぶり! これくらいかな?
ただ、忘れないでほしいのは、これはフォースが思い浮かべた相手ってだけです。本物ではないのですよ。あの子はもういませんからねぇ~

ではでは。