satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

空と海 第238話

~前回までのあらすじ~
人知れず、イオとフォースの密談が行われてましたよーっと!
イオ「もう二度とこちらには出ないだろうな」
だろうね。ある意味、友情出演的な。なんかそういうやつだから! もうないでしょうな!
そしてそして、今回はポチャ君に関わる方が!
ポチャ「え」


最近はずぅっとどたばたしていたけれど、ここ何日かは、のんびりとした夏の日が続いています。
「あっつぅ~……溶けるぅ」
水タイプのポチャさんは夏の暑さに弱いらしく、スカイ基地……ではなく、ギルド(地下二階)の隅っこでだらっだらしていた。ここが地面の中にあるからか、比較的涼しいらしい。スカイ基地も海の近くだし、海風で涼しい気がするけど、時間帯によっては日当たり良好過ぎて、しんどいんだとか。
「お前、王子様なのにその低堕落でいいんか」
「王子様だからって暑さに強いことにはならないんだよ~……フォースこそ、暑そうな見た目してるじゃん」
「あ!? イーブイ歴なめんなっ! んなもん慣れたわ!!」
るーくんが言ってたけど、すーくんが元々、継承者としてこの世界で生きていたときも、イーブイだったらしい。そして、制御者として暮らしていく中で、何度かイーブイの方とご一緒していたとか。
イーブイイーブイを引き付ける何かがあるのかもしれない。
まあ、今のすーくん、イーブイ特有のもふもふにプラスして、スカイメンバーの証である空色のマフラーもしているから、余計に暑く見えるんだろうな。見た目が。
「すぅ、お前も大して変わんねぇだろうが」
「え? 私はほら! マフラーしてないから! リボンだから! 暑くないもん」
「じゃあ、お天道様が輝く砂浜でも歩いてきたら? 暑くないんだもんなぁ?」
「嫌です。暑いです。海の照り返しで死んじゃいます」
「暑いんじゃねぇか!」
見栄張りましたー!! ごめんなさぁあい!
私とすーくんがくだらない話をしている間も、ポチャさんはだらーっとしていた。ほんとに、暑いのダメなんだなぁ。
「ほわぁぁぁ!!! ポチャさん!! こんなところに!!」
だらだらしている私達の間を割って入るように、ぼこっと地面から現れたのはディグ君だ。どうやら、慌てているみたいだけれど、どうかしたのだろうか?
「なぁに~……ぼく、暑くて何にも考えたくな…」
「ブライト王が! 来てます!! 今、浜辺に!」
「へー……ブライト王……がぁぁ!? な、なんで!?」
今にも溶けそうだったポチャさんが一気に跳ね起きる。どこにそんな力あったのかと思うくらい、機敏な動きだった。
「ブライト王? ペンギンの父親の?」
だ、だね?
私達がいるのは陸の国。その他にも、海の国、空の国がある。ポチャさんは陸の国ではなく、海の国の出身で、王の後継者の一人だったはず。
ポチャさんの父親のブライト様がどういう人なのか、ポチャさん本人から聞いたことがないからよく分からない。一般的な知識でいいなら、他国出身者だけれど、一応、心得はある。……すーくんの受け売りで。
ブライト様は王として名のある人だ。悪い噂なんて一つも聞いたことがないくらい、愛されていると聞く。
「王様がこの辺りに何のご用なんでしょうか? あ、ポチャさんに会いに来たとか?」
「あの父がそんなことするわけない。どうせ仕事だよ。だって、今の今まで来たことなんて……一回、あったけど、あれはまた違うやつだし……ディグ! 父上はどこに!?」
「海岸です。親方とピカさんが対応しているのを、ボクはたまたま見かけて」
「分かった! ありがとう!!」
慌ててギルドを出ていったポチャさん。それを私とすーくんは、あまりの速さに、黙って見送ることしかできなかった。
……ん? ピカさんと親方さん?
「初めから海岸にいたとすれば、あいつは元から知っていたのか? プクリンも」
「そ、そうなんでしょうかね?」
ディグ君はあくまでも見かけたことを、ポチャさんに教えに来てくれただけみたいだ。理由は知らないっぽい。
「……おれ達も見に行った方が早そうだな」
「そうだね。……あれ、珍しいね。すーくん、こういうことはどうでもいいって顔して他人面してそうなのに」
「ペンギンのあの慌てよう、珍しいからさ。なんか面白そうじゃん?」
すーくん、時々、ひどい人だなーって思う。心から。
「他人の隠したいことほど、面白いことはないんだよ。ながーく生きるためには、こういう刺激も必要なの」
「人の不幸は蜜の味ってやつ?」
「そうとも言う♪」
やっぱり、ひどい人だなぁ……

……なんて、言ってはみたけれど、私も気になるものは気になるので、すーくんと一緒に海岸へと足を運んだ。
すでに噂を聞き付けたらしい人達で静かな海岸には似つかわしくない程に、ごった返していた。
「野次馬根性とはこのことだな」
どうするの? 親方さん達はもっと前にいるみたいだけれど。
「飛ぶ」
ほへ……?
私のことをがっしりと掴むと、思ったよりも軽く上へと飛んだ。
軽くなんて言ったけれど、すーくんが何でもないように飛ぶから、そう表現してみただけ。実際はすーくんの脚力だ。普通の人からすれば、軽くなんて次元は越えていると思う。
思わず目を閉じていた私が再び目を開けたときには、野次馬さんの先頭に降り立っていた。
「ほ、ほわ……すーくん、やることが唐突だよ~」
というか、どんだけ気になるんだ!
「お前に言われる前に行動したおれを褒めろよ」
「どういう理屈なの……って、あのエンペルトが、ブライト様?」
「だろうな。今はペンギンと話してるみたいだけど」
すーくんの指摘通り、ブライト様と思われるエンペルトは、ポチャさんと何やら会話をしている。その近くに、親方さんとピカさんの姿も。私とすーくんはその二人に駆け寄った。
「ピカさん!」
「ん? お。ダイナミック登場したイーブイコンビ! ちゃお~☆」
「こ、こんにちは……あの、これは?」
「んー……ブライト様の凱旋?」
凱旋!?
「いや、嘘だよ。単純に親方に会いに来たの」
「いやぁ、この感じは凱旋でも間違ってねぇ気がするけど?」
たくさんの人が見に来てるもんね……
「単なる話し合いだったから、ポチャにも言わなかったんだけど……どこでバレたんだろ?」
「やっぱり、君が塞き止めてたんだな!?」
ブライト様とお話ししていたはずのポチャさんが、こちらを振り返った。どうやら、自分が知らされてなかったから、怒ってるみたいだ。
「だぁって、言ったら即逃げるだろ~? いいじゃん。お話しすればさぁ」
「話すことなんてないけどね!」
え、えーっと?
「ポチャとブライト様、仲悪いの。ま、ポチャが一方的に突っぱねてるんだけど~」
「うっさい!」
わ、わあ……見たことないくらいに荒れてますね……? いつも優しくて温厚なポチャさんが、あそこまで乱暴になるなんて。
「親子関係って難しいんだな」
「そーだねぇ」
適当か……?
「ポチャ~? お話は終わった? ボクら、これから会議することになってるんだ~♪」
「もう話すことはないですから、いつでもどうぞ。ピカ、覚えてろよ」
「にひ。数分後には忘れるわ~♪ じゃ、行きましょっか、ブライト様?」
「ん……あぁ。分かった」
きちんと聞いたブライト様の声は、静かで落ち着いた声だった。どこか厳格で不要なことは語らない。そんな雰囲気をまとっていた。
そのまま、ポチャさんの方を振り向かずに歩き出すのかと思ったのだが、ふと、何かを思い出したらしい。ちらりとポチャさんを見下ろした。
「……言い忘れていた。ティール」
「なんですか」
「セイラのことを頼んだぞ」
「……は? なんでここにいない母上の名前が?」
「私が知るはずもないだろう。……勝手についてきたのはセイラだからな。あいつに聞け」
と、それだけを言い残すと、今度こそプクリンギルドの方へと歩いてしまう。
親方さんが先頭を歩き、ブライト様の後ろにピカさんがついていってしまったから、事情を説明してくれる人がいなくなってしまったわけだけど。
「母上!」
ポチャさんが海に向かって、お母さんを呼ぶ。それに答える人なんて見当たらないと思ったけれど……
「なぁんだ……ブライトにはバレていたのね? 私も腕がなまりましたねぇ~……というわけで、お久し振りです。ティール♪」
海面からちょこんと顔だけを出して、どこか楽しそうにしているポッタイシが現れた。
「ポチャ、さん……あの方は」
「父上の妻で、ぼくの母……セイラ王妃」
ですよねー!!
海から上がってきたセイラ様は体を軽く震わせ、水滴を落とす。そして、こともあろうことか、ポチャさんに抱きついた。
「きゃー!! ティール! 元気にしてましたかー!!」
「なぜ母上がここに!?」
「んもう! お母さんでしょ!」
母上呼びが嫌なのか、むっとしながら訂正する。王妃なんだから、ポチャさんが母上って呼ぶのは変ではないと思うけど、そこはセイラ様の拘りなんだろうか。
「……なんで、母さんが、ここに」
ポチャさんは、セイラ様の指摘に、渋々呼び方を変えて、改めて聞き直す。今度は問題なかったのか、パッと顔を輝かせた。
「それはもちろん、あなたに会いに!」
「ぼくぅ?」
「そうよ? 帰ってこないから」
「帰るわけないでしょ……これでも修行中なんだから」
「あら。ごめんなさい。修行と書いて、家出だものね?」
痛いところをつかれた、みたいな顔をしているポチャさん。所謂、図星ってやつなんだろう。
「……うるさいなぁ。それに、帰ったって父上がぼくを王宮に入れるわけないよ。王様になれない、でき損ないなんだから」
……え?
「とりあえず、離して。母さんの事情はあとで聞くよ。……どうせ、他にも目的はあるんでしょ?」
「あら、わかっちゃう?」
くすくすと楽しそうに笑いながら、優しくポチャさんを解放した。ポチャさんの深刻な顔なんて見なかったみたいに、触れることもなく。
「ぼくらの基地に行こう。そこで話を聞く。……あ、イブ達も来る?」
「え? ご一緒しても……?」
「もちろんです! こんな可愛らしいイーブイさんと、こんなところでお別れなんて、悲しいですもの!」
あ、え……え?? え!?



~あとがき~
やべ。空海にしては長いぞ。

次回、ポチャとセイラとイブとフォース。
チコがいないけど、もうちょい先で出てくるよ! 安心してくれ!!(笑)

お久しぶりの更新。今年初の空海ですね。
とりあえず、ちょっとストックが貯まったので、月一更新で再開していこうと。なので、月初めは空海更新していくぞーと息巻いてます。それなりにストックが増えたら二週に一回更新したい……っていう希望を抱いて、更新していくので、よろしくです!
すぐに不定期になりそうな予感! ひえぇー!(汗)

覚えてますかぁぁぁ!!!(三回目)
セイラとブライトです! ポチャの両親です!!
ブライトがメインって言うよりは、セイラの方がメインになりそうです! なんでって? ブライトよりも動かしやすいから!

ポチャとブライトの仲は悪いです。はい。
レイ学でも取り上げてますが、それ以上に拗れていると思ってくれれば。
とはいえ、レイ学ティールは反発も大してできないような感じでしたが、空海ポチャはがんがん反発してます。意思疎通が苦手なのかな、この二人……(笑)

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第227話

~attention~
『空と海』のキャラ達の学パロなif世界物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
番外編を挟み、レイ学本編に帰ってきました。そんな本編、前回はルーメンおじいちゃんに諭されるティールでした。その続きっすね!


《Te side》
「……ティールはそのままでよいのかの?」
両者が何も発しない沈黙の時間を破ったのは、言わずもがな、ルーメンさんだった。
その言葉にぼくはゆっくりと顔を上げた。
「王子を辞め、探検隊として生きるのはいい。……じゃが、自分の思いを両親に告げぬままで本当によいのか?」
「ぼくの、思い……? けど、今更、何を言えば」
「ふむ。……ティールや。お主はサフィアさんが亡くなった時、両親に一度でも『寂しい』と伝えたかの?」
その問いにぼくは小さく首を振る。
そんなの言えるわけがない。そんな場合じゃなかったのは、幼いぼくにも分かった。それくらい慌ただしかったし、空気も言い出せるものでもなかった。
「『忙しいのは知っている。でも、寂しかった』……『なんで、あのとき、ぼくを見てくれなかったのか』……なんでもよい。そんな言葉をライト達と交わして……なんなら、泣きわめいてもよいと思うぞ」
「いや、それは……流石に迷惑でしょう?」
「なーに、子が親を気を遣っておる。子は親に迷惑をかけてなんぼじゃろう。儂かて、今でもセラに面倒を押し付けられるくらいじゃぞ?」
それを聞かされたぼくは、どんな反応をするのが正解なんだろう。そもそも、理事長のそんな一面、聞いてよかったんだろうか。
「それに、お主の場合、きちんと言葉にせんとライトにゃ伝わらん」
ぼくの疑問や戸惑いなんてどこ吹く風のルーメンさんは、勝手に話を進めていく。
「儂に話したように、思ったまま……ありのままを話せばよい。あの唐変木のことじゃ。はっきり言わんと、一生、ティールのことなんぞ分かりはせん」
「……」
「ライトは昔から自己主張が低い。しかし、お主から話せば、ライトは向き合ってくれるじゃろう。まごまごしつつ、答えるに決まっておるわ」
……そんな父上、想像できないけど。でも、もしそうなるのなら……そうであるのなら、話してみるべき、なんだろう。逃げずに、向き合わないと。
「そういう男なんじゃよ、ブライトは。……それと、セイラさんじゃがの」
「母上……?」
「先程、ティールは申し訳ないと言っておったが、あまり気にせんでよいと思う。あれは、セイラさんが子離れできとらんだけじゃし」
……思った以上にストレートに言ってくるな。
「子はいつか離れるもの。お主らにとって、それが少し早かっただけに過ぎん。それに、定期的にあちらに帰っておるんじゃろ?」
「い、一応は」
「なら、問題はなかろ。こちらに来て、ただの一度も帰ってないと言うのなら、別問題じゃがの♪」
そういうものなんだろうか。帰るとは言っても、嫌々というか……あれなんだけど。
「……とまあ、色々言ってきたが、今までの話は年寄りの戯れ言。後はティール自身が向き合うべきじゃろうな。何、時間はあるから、ゆっくりで構わんさ」
「は、はい……ありがとう、ございます」
「もし、また自分自身に押し潰されそうになったら、パートナーを頼りなさい。儂とはまた違った助言をくれるじゃろうから」
「あ、はい。……多分、そうだと思います」
ラルのほわっとした暖かな笑顔を思い出しながら頷いた。こちらも自然と、笑みも溢れてしまうくらいだ。
それを見たルーメンさんは、楽しそうに笑った。
「ほっほっ♪ それに、こんな年寄りも大切な相棒の方が気が楽かもしれんからな~♪」
「えっ……? いやいや! ルーメンさんに聞いてもらえて助かってますよ!?」
「それなら嬉しいんじゃが、実際問題、愛しのパートナーの方がよかろうて」
「や、別にそんなこっ……ん? 愛しの? 誰が? 誰と?」
「お主のに決まっておろう。ティールとラルは恋人同士じゃろ?」
「え……ラルと、ぼくが?……んなわけないでしょう!? あり得ませんって!!」
何を! どこを! どう見たらそうなった!? あぁ、いや、学校でもたまに言われるけども! 断じて違うからね!?
「ぼくとラルは仕事上ではパートナー同士ですけど、基本は友達です。友達というか、親友なだけで、それ以上はないですから」
「……ほう?」
あれ? あ、あまり納得してない……?
そりゃあ、ラルとは普通の女友達よりも距離感は近いとは思う。でもそれは、普段から一緒にいるからだし、仕事の付き合いもあるからだし、パートナーだからであって……特別な関係はない。
それに、ぼくからすれば、ラルを世話してる感覚だ。ふらふらっといなくならないように見張っているというか……くそ。なんて言えば納得してもらえるんだ。
「流石、ライトとセイラさんの子じゃの。足して二で割った感じだの」
「……え? 何が……?」
いきなり褒められたのか、呆れられたのか分からない。何の話なのかも見えてこない。
「いやいや。何でもないぞ。まあ、今はティールの言う通りにしておこうかの」
「え、いや、どういうことです?」
「年寄りの独り言ということさ。……しかし、ティールは、もう少し自分の感情を理解すべきだの」
……どういうことだろ。さっきの思った通りの気持ちを言葉にしろってやつか?
「まぁ、その辺りは若いもん同士で何とかなるじゃろ!」
この言い方は……違うやつだな。え、これは何の話だ?
深く聞き出そうとした瞬間、ルーメンさんはぼくからふっと目線を外して、部屋に飾ってある時計に目をやる。
「そろそろ時間かの?」
「え。あ、もうそんな時間か」
今晩は話に集中し過ぎて、チェスなんて忘れていた。今日はステイルメイトしたわけじゃないけど、また、勝敗はお預けか。
「今晩も話し相手になってくれてありがとの~♪ 気を付けて部屋に戻るんじゃぞ?」
「はい。こちらこそ、ありがとうございました」
いつになったら、チェスの勝敗がつくのか。そもそも、つける気はあるのだろうか。……疑問に思えてきたぞ。
別の意味でモヤモヤしながら、ルーメンさんの部屋を後にした。昼の賑やかさとは対照的に、しんと静まり返った廊下を歩いていく。
一人で考えるのは、やはりさっきの話の内容。
ぼくはそう簡単に、自分の立場から逃げられるものではないと思っていた。王の直系の子孫はぼくだけだから、いつかは、嫌でも王子としての役目を果たさねばと。王族の下に生まれた者として、それが当然で、当たり前だと思っていた。今の探検隊としてのぼくは、その『いつか』のための途中経過でしかないのだと。だって、ぼくと同じように修行に出ていたお祖父様も父上だってそうだったから。
だから、あんなあっさりと「王子を辞めて、探検隊を続ければいい」なんて言われるとは思ってなかった。
……そういえば、ラルはどう思っているんだろう。
ラルはぼくが王子だってとっくの昔から知っている。彼女は賢い人だ。探検隊をやり始めてすぐにでも、ぼくとの探検隊に終わりがあると考えていてもおかしくはない。
ラルは今後をどう考えているんだろう。もっと言ってしまえば、学園を卒業した後のことを。お互い、その辺りの話はしたことがないから、どうなるのかよく分かっていない。
「進路かぁ」
彼女なら何だってできるんだろうな。
だからこそ、これからもぼくと一緒にやってくれる保証なんてないのかもしれない。
それならそれで、素直に受け入れるしかないか。ぼくは修行を終えて、国に帰って、ラルは好きなことをする。それが彼女の幸せになるのなら、優先されるべき……だけど。
「それは、少し……いや、かなり……」
寂しいというか、モヤモヤするというか……釈然としないというか。よく分からない感情が心を満たしていく。
これは、なんて表現するものなんだろう?



~あとがき~
とりあえず、ルーメンおじいちゃんとの会話はこれにて終了。

次回、部屋に帰る途中の悩めるティール君の前に怪しい(?)影が……!
お楽しみに。

ラルの卒業後の考えは昔にご紹介した通りです。探検やる気満々です。けどこれは、ティールに言っているわけじゃないんでね。どうでもいい会話はこれでもかとやる二人ですが、肝心な部分は触れていかない二人。お互い、手探りですね。
ま、ラルの場合、突っ込むのを遠慮しているだけで、ティールはあまり先のことを考えず、現実逃避してるだけですが。

ではでは!

気ままな神さま達の日常記録 vol.9

こちらは『学びや! レイディアント学園』の番外編でございます。スピンオフというか、なんというか。全く本編に関係のない皆々様に焦点を当てたお話となっております。
前回、子猫と神様にお菓子作りを命じられたフォース君の続きからっすね。


☆さくっと登場人物紹介のコーナー☆
アルフ:転生の神様。穏やかな性格でにこにこしながら、みんなを見守る優しいお方。また、従者(?)でもあり、妻でもあるミィとは、どこでも仲良し。

ファウス:力の神様。ずぼらな性格で部下である制御者達(特にフォース)からの信用度は低い。趣味は料理。

フォース:制御者の一人で、最高位の色を制御する。現在、ステラの制御者として下界で暮らしている。天界では振り回されポジ。

ミィ:アルフに仕える蒼い目をした白猫。誰にでも優しい性格。天界にある図書館の主。アルフ以外だと、フォースと仲がいい。


★おねだり子猫と紅の制御者。時々、転生の神★
今回、おれが作るのはアイスボックスクッキーというお菓子。チョイスはミィとアルフ様。なぜ、それにしたのかは分からないが、複雑なものでなくてよかった。
ちなみに、アイスボックスクッキーとは、生地を棒状に成形し、一旦冷蔵庫で冷やす。そして、包丁で適当に切ってから、オーブンで焼くクッキーのことだ。冷蔵庫を使うから、『アイスボックス』……なんだろうが、そんな単調な命名でいいのだろうかと思う。型抜きクッキーでも、冷蔵庫で生地を冷やすこともあるし、何とも言えない気がする。
何がともあれ、おれは猫と神様に言われて、お菓子作りに励んでいます。誰でもいいから、こうなった訳を教えてください。なんでこうなった?
初めは、ここで、できもしない料理していたマスターを叱っていただけ……だったんだがな。今では、おれが料理する羽目になるとは。
こんな嫌そうにやるくらいなら、初めからやるんじゃねぇよ、と思われるかもしれない。が、やらなくていいなら、そもそも、やってないってヤツだ。
頭ん中で、ぐちゃぐちゃと考えているおれとは違い、おれの頭上にいるミィは上機嫌だ。ついでに、少し離れたところで、適当な椅子に腰掛けているアルフ様も、ニコニコ顔でこちらを見ていた。
ミィが残るのはよくあることだ。時折、今回のようにミィにねだられ、料理する際も、大人しく見学している。だから、ミィがその辺をうろつこうが、頭の上にいようが、あまり気にはならない。が、アルフ様は別だ。第一、アルフ様がおれの料理する姿を見るってのも、可笑しな話である。何が楽しくて、見ているのだろう。
……一言で表すなら、滅茶苦茶やりにくい。アルフ様の視線が気になって、集中できん。いやまあ、集中しないと、料理できないってことじゃないけども。なんだろう。落ち着かないというか、何というか。
というか、おれが勝手に「アルフ様は仕事部屋に戻る」もんだと思っていた。そのせいで、なぜ、ここに残っているのか、滅茶苦茶、気になってしまう。
「あの、アルフ様」
「ん~? なんだい?」
「不躾ではあるのですが、ここにいて、よろしいのですか? 今日中にすますお仕事とか、よろしかったのです? なんなら、この後、菓子とミィはアルフ様の仕事部屋まで届けますよ」
ぶっちゃけ、アルフ様に限って、「仕事終わってないんだよね~♪」なんてことはないと思う。思うけど、あまりにも現状に耐えきれず、何でもいいから話をしたかった。何も言わず、ニコニコと見られるのはなんか気になるし。
「心配してくれてありがと! でも、今日の仕事は終わってるから大丈夫♪」
おれの問い掛けにアルフ様は、笑顔を絶やすことなく答える。
まあ、そっすよね。知ってた。うちのヘボ上司じゃあるまいし。
「……もしかして、僕が見てるとやりずらい?」
「え……いえ、そんなことは」
いやはや、全くもって、その通りだよ。まあ、言わねぇけど!?
「ふふ。ごめんね? フォースくんもおっきくなったな~♪ って思ってたら、ついつい居座っちゃって」
「えーっと……どんな理由ですか、それ」
確かに、アルフ様はおれの幼少期も知っている。おれが幼い頃、ここに連れてこられた時には、アルフ様もミィも、ここの住人だったのだ。そこから永い年月が経っているのは、紛れもない事実でもある。あるのだが、それと、ここに残る理由にはなっているのだろうか。
「だって、あんなに小さなかったフォースくんが、こうして一人で、お菓子作れるようになったんだなーって?」
いや、だから、それは理由になってるか?
アルフ様の謎の親目線に困惑するものの、アルフ様はお構い無しに、ミィにも同意を求めていた。そして、この子猫も楽しそうに頷いている。
それを聞かされたおれは、どういう反応をするのが正解なんでしょーかね。教えて、神様~……
「ふふ……思い出すなぁ。フォースくんの小さい頃! いつもファウスさんから逃げてたよね~」
「みゃ~♪」
「……んんっ!?」
「で、よく僕の布団に隠れてたっけ。あはは♪ そんなフォースくんが、今では立派になったもんね。時間が経つのは早いねぇ」
「にゃあ」
「そ、その節は……大変お世話になりました」
おれが幼い頃のマスターは、今みたいな腑抜け野郎ではなく、ある程度、神としての威厳を表に出していた。そのせいで、少し……いや、かなり恐怖を感じた。想像してほしい。ほんのちょっぴり、不思議な力を持っただけの単なる少年(十歳前後)が、見知らぬ大人(神様)にガン飛ばされる絵面を。恐怖せずにいられるだろうか。
そもそも、初対面時も最悪だったために、マスターに対する第一印象が底辺から始まっているのだ。そりゃ、逃げたくもなる。
……なんて開き直っても、その頃はおれにとって、黒歴史以外の何物でもない。今更、その話を持ち出してほしくないのが本音だ。
「ふふ。い~え♪ あの時は、ミィに連れられて僕の部屋に来たんでしょ? その頃のフォースくん、色々参ってたもん」
「まあ、そう……ですね」
……おれがまだ、制御者ではなく、継承者だった頃──つまり、兄貴……ウィルにぃが、おれの制御者だった頃。
おれは『強き力』を悪用するため、おれを捕えようとしていた奴らに殺された。
仲の良かった友達も、おれを守ろうとして死んでしまった。そして、ウィルにぃもそうだ。……守るために神様であることをやめた。今じゃ、元気に神様やってるけど。
そんないろんなことが一度に起こり、制御者として目覚めた時、それらを理解してしまったおれの精神が耐えられるはずもない。……当然だ。まだ十歳前後のガキだったんだから。一度に沢山の大切なモノを失って、平然といられるわけがない。
「少しでも逃げ場になればと思って、僕も入室を許してた訳だし、『自由に使って』って言ったから」
……そんな状態の子供に、ぐいぐい迫ってきたマスターはやっぱり、アホなのかもしれない。デリカシーないな、あの馬鹿め。今思うと、滅茶苦茶、腹立つんだけど。なんなん、あいつ。
「……ありゃ? フォースくん、顔怖いよ? そんなに昔の話、嫌だった?」
「いえ。我がマスターが、昔から腹立たしい阿呆であると、思い返していただけです。……アルフ様のお心遣いには感謝しています」
こうなったら、この後、仕返ししに行こう。そうしよう。
「そっかそっか。ほーんと、逞しくなったね。……僕だけじゃなく、ミィもフォースくんのことは、昔から気にかけてたからね。あ、今も、かな?」
「にゃあ~♪」
マスターのことには触れず、話はおれの昔話のままである。いいのか悪いのかはさておき。
今もミィに気を遣わせていたら、世話ないよ。おれはいつまで、ミィの子供なんだろう。……流石に、今はそんな風に思っていないと願いたいものだ。
あれこれ話していると、クッキーをセットしていたオーブンの加熱が終わる音が響く。
「お? 焼けたかな?」
「恐らくは。今、取り出しますので、もう少しお待ちください」
「は~い♪」
クッキーが焼けたのを合図に、おれにまつわる昔話も終わりを告げる。ようやく解放された。……なぜ、おれの昔話になっていたのかは、謎のままだけども。
「にゃっにゃー!」
「あたっ!? いや、痛くはねぇけど……落ち着けって。……やめろ。おれの上で、じたばたすんな!」
アルフ様は静かに座っているのに、ミィは待ちきれないのか興奮気味に、べしべしとおれの頭を叩く。早く出せと駄々っ子のように、遠慮なく急かしまくった。
「みー!!!」
「だぁぁぁ!! 今、出すって! 急かしてもすぐには出てこないって!!」
頭の上でぎゃーぎゃー騒ぐミィをたしなめつつ、おれはちょっとしたお茶会の準備をする。ここにいるのはアルフ様とミィだけだが、もしかしたら、どこぞで匂いを嗅ぎ付けた奴らが集まるかもしれない。多めに用意するに越したことはないだろう。



~あとがき~
この後のことはご想像にお任せです。
ウィルがやっほいするかもしれないし、ファウスにうん百年前の制裁が下るかもしれません。

次回、本編戻ります!

フォースの生前の話はこの番外編を通して、ちらちらしてますが、本格的に書くことは……今のところ、予定はないですね。
空海フォースとレイ学フォースだと、行き着く結果は変わらずとも、結果に辿り着くまでの違いはあるんですよね。つっても、空海フォースの生前話も大してした記憶がないけどな!!(笑)
ということで、「へー、そんなことあったんだなー」くらいの認識で大丈夫です。今後の本編には関係ないので!
まあ、なんだ。空海フォースの場合、助けてくれる人がいなかったくらいで、レイ学フォースの方が恵まれてるかもしんないっすね。アルフさんとミィちゃんという逃げ道があったので。
だからって、彼の性格が変わるようなこともないけどな。うん。

ではでは!

気ままな神さま達の日常記録 vol.8

こちらは『学びや! レイディアント学園』の番外編でございます。スピンオフというか、なんというか。全く本編に関係のない皆々様に焦点を当てたお話となっております。
前回、仕事をすっぽかしていたファウスを追い出したその後の話をやります。


☆さくっと登場人物紹介のコーナー☆
アルフ:転生の神様。穏やかな性格でにこにこしながら、みんなを見守る優しいお方。また、従者(?)でもあり、妻でもあるミィとは、どこでも仲良し。

ファウス:力の神様。ずぼらな性格で部下である制御者達(特にフォース)からの信用度は低い。趣味は料理。

フォース:制御者の一人で、最高位の色を制御する。現在、ステラの制御者として下界で暮らしている。天界では振り回されポジ。

ミィ:アルフに仕える蒼い目をした白猫。誰にでも優しい性格。天界にある図書館の主。アルフ以外だと、フォースと仲がいい。


★おねだり子猫と紅の制御者。時々、転生の神★
おれが散らかったキッチンを見渡している間、アルフ様は腕の中にいるミィを優しく撫でていた。それをミィは嬉しそうに受け入れている。
「図書館にいないと思ったら、ミィはフォースくんと一緒だったんだね~?」
「みぃ~♪」
今日一日、ずっと一緒にいたわけではないが……この際、どうでもいいか。
「フォースくん、こっち帰ってきてから、会ってなかったよね? お帰り~♪」
「はい。……まあ、最近はここと下の行き来が激しいんですが」
「そうだったんだ。忙しないね」
「何日も空けると、主がうるさいので」
学園が夏休みになり、すぅの里帰りについていったおれだったが、あそこにいても、ウザい小僧に付きまとわれるだけ。だからと言って、ラル達の方に行くわけにもいかない。遠いし。面倒臭い。
つーことで、おれはおれで里帰りというか、避難所の一つとしてこちらに来ていた。何か用事があるわけでもなく、誰かに呼ばれたわけでもなく、行ったり来たりを繰り返している。が、その中でアルフ様とは顔を会わせていなかった。
「あはは。そっか~♪ あ、もしかして、僕、お邪魔だったかな?」
話が戻ったな。お邪魔とはどれだろう。マスターに対するあれのことなのか、おれとミィのことか……? 後者なら、むしろ、こっちの台詞ですけどね。
「いえ、そんなことは。それより、マスターが申し訳ありません。アルフ様の仕事に支障を来しているとは思ってませんでした」
「うん? あぁ、さっきの。あれは明日の仕事で使うヤツだから、今のところは大丈夫だよ。だから、顔を上げて?」
そう仰ってくださるが、あのアホのことだ。あぁしてアルフ様からの催促がなかったら、取り掛かりはもっと遅くなっていただろう。
仮にそうなっていたとしても、真面目なアルフ様からのかなり強気な催促があるだけだとも思うけど。
おれはアルフ様に言われた通りに顔を上げる。頑なに頭を垂れていたとしても、アルフ様は半強制的に顔を上げさせる。この方はそういう方である。
「しかし、早いに越したことはないでしょう?」
「そだね。相手がファウスさんなら、尚更早い方がいいよ!」
……分かる。分かるが、こうも澄みきった笑顔で言われるのも何だかなぁ。
良くも悪くも、流石、アルフ様……と言うべきなのだろうか。
アルフ様はキッチンに放置された食材や道具類を見て、再びおれへと目線が移る。
「ここを見る限り、ファウスさんはまた、何かを作ろうとしていたのかな?」
「みたいですよ。まあ、何を作りたかったかまでは、聞きませんでしたけど。時間の無駄ですし」
一応、レシピ本はオペラという、チョコレートケーキのページが開かれている。実際、それを作りたかったかは分からない。あのアホが作れるとも思えないが。
なぜ、できもしないことを進んでやろうとするのか。謎すぎる。マスターに聞いたところで「やりたかったからだよ!」としか言われなさそう。……ウザい。
「何かを作ろうとしていたマスターの邪魔をミィがしていた様です。で、そこをおれが合流した形になります」
「なるほど~……いつものだね!」
「そうですね」
「にゃふんっ!」
アルフ様に抱かれるミィが自信満々に鳴く。「私、いいことしたでしょ」みたいなニュアンスだろうか。
そんなミィにアルフ様はニコッと笑い、優しく撫でる。
「うんうん。つまり、ミィは食材達の命を守ったんだね♪ 偉い偉い♪」
「! みゃあん♪」
アルフ様の言葉にミィは一段と顔を輝かせ、甘えるようにアルフ様に擦り寄った。それを拒まず、アルフ様も嬉しそうにしている。おれの存在なんて、眼中にないかのように。
……隙あらば、どこでもイチャつくな、この夫婦。
『あはは! そこは、私達もあんまり変わらないと思うよっ♪』
おれの中で、鈴流が余計な一言を言った気がするが、完全無視を決め込む。反応したら終わりである。無視だ。無視。
いやまあ、確かに、鈴流はどこだってお構い無しにくっついてくる馬鹿だけど、おれはアルフ様みたいに構ってはいない。……その場合、イチャついているに入るのだろうか。
どうでもいいことを考えながら、おれはようやく、キッチンの片付けに手をつけ始める。まずは、散らかった調理器具をシンクへ放り投げ、食材は冷蔵庫。床は……モップの水拭きでどうにかなるだろう。よし、やりますかね。面倒だけど。
「ん? フォースくん、もしかして、ここを片付けるの?」
一通り、ミィとの触れ合いに満足したのか、アルフ様がおれに質問を投げ掛ける。おれは片付けの手を止めず、それに答えた。
「えぇ、まあ。普段、使われない場所とは言え、このまま放置するわけにもいません。ですが、やらかした犯人にやらせようにも、仕事でいないので」
「犯人って……フォースくんは相変わらず、辛辣だねぇ」
貴方程ではないと思いますが。
「みっ!」
何を思ったのか、ミィがアルフ様の腕から抜け出し、おれの前に立ち塞がる。いや、体格的に塞がっている様には見えない。見えないが、彼女の心理的には、邪魔をしたいのだろう。多分。……なってなくはないけど、あまり支障がないところが何とも言えない。
数秒、お互いに見つめ合う。そして、おれは作業を再開させた。考えたところで何も分からない。おれの能力が効かないミィの考えなんて、見通せるはずもない。なら、手を動かした方がいいというものである。
が、それが気に食わなかったのだろう。ミィはむすっと不満げな表情を浮かべると、おれが拾おうとしていた木べらに乗っかり、こちらに向かって猫パンチを繰り出した。
「うみゃぁぁ!! にゃー!」
「勇ましい鳴き声で、大変素晴らしいと思うけど、大して効かんぞ。あと、邪魔なんだけど」
「みっ! みっ!!」
「すみません。おれの話を聞いてくれませんか、ミィさん」
「みゃー!!」
無視!?
呼び掛けをガン無視し、ひたすらおれの腕に猫パンチをしている。こういう時は大抵、何かを訴えたいという意思の現れである。それを考えて、言い当てないとこれは終わらない。……面倒臭いな。先に片付けてしまいたいのだが。
「もしかしたら、ミィはフォースくんの作るお菓子が食べたいんじゃないのかな?」
「……はい?」
「みゃ!」
困惑するおれの傍で、ミィはこくこくと頷いた。アルフ様はおれの内心なぞ露知らず、ミィの通訳を続けた。
「しばらく、フォースくんのお菓子、食べてないもんね~? で、目の前には沢山の材料がある。食べたくなっちゃうのも仕方ないよね」
え、仕方ないの? 仕方ないですまされるの?
「ってことみたいだから、フォースくんさえよければ、作ってほしいな? ほら。これらを残しておくと、近いうちにファウスさんがまた、やらかしちゃうと思うからさ」
……もちろん、おれがここで材料を消費したとて、どうせ、どこぞで調達してくるとは思っている。しかしまあ、少なくとも、ここにある食材達は無駄にならずにすむのは、確かだ。
神の命には従うべし、というのが、神に仕えるおれ達の常識。……ま、今回のは命令でもなんでもないから、さっきの言葉に強制力はない。もっと言えば、アルフ様はおれの仕える神ですらない。縛るものはない……けど。
おれはちらりとミィの様子を窺う。
おねだりする幼子のように、うるうると上目遣いでおれを見上げていた。
どこぞの娘よりは可愛げがある。流石、愛玩動物。……って、中身はおれよりも年上ですけどね! そこんとこ、自覚してますかね、リュミエールさん。
「……畏まりました。簡単なものでよければ、お作り致します。……ミィも、それでいいか?」
「みゃあっ!」
「ありがとう、フォースくん! よかったね、ミィ。久々にフォースくんのお菓子が食べられるよ♪」
「にゃあ! みゃあ~ん♪」
乗っかっていた木べらからすんなりと退くと、再びアルフ様の元へと戻っていく。
何だか、してやられた感がする。……この後、用事もないから、問題はないのだが。いや、ミィが喜んでいるのなら、それはそれで構わないのだけれども。
「ところで、フォースくん」
「はい。何でしょう?」
「さっきからずっと気になってたんだけど……床のこれ、なんだい?」
と、アルフ様が指差したのは例の紫色の液体だ。そりゃ、初見で分かるはずもない。
「マスター曰く、湯煎したチョコレートだとか」
「ちょこれーと」
「一般的に言う、茶色くて甘いあれですね。なぜ、あのような変化を遂げたのかは、分かりかねますが」
「流石、ファウスさんだね~」
……ノーコメントで。



~あとがき~
おっわらないだとー!!

次回、猫のために料理するお兄ちゃんとそれを見守る神様の話。

次でラストかな。はい。
そして、大して言うことも思い付かない!
終わります!!

ではでは!

気ままな神さま達の日常記録 vol.7

こちらは『学びや! レイディアント学園』の番外編でございます。スピンオフというか、なんというか。全く本編に関係のない皆々様に焦点を当てたお話となっております。
神様の一人、アルフさんの従者兼奥様のミィちゃん主役の話が終わり、安定のフォース視点で参ります。説教回だね☆
ということで、今回も登場人物紹介からだ!


☆さくっと登場人物紹介のコーナー☆
アルフ:転生の神様。穏やかな性格でにこにこしながら、みんなを見守る優しいお方。また、従者(?)でもあり、妻でもあるミィとは、どこでも仲良し。

ファウス:力の神様。ずぼらな性格で部下である制御者達(特にフォース)からの信用度は低い。趣味は料理。

フォース:制御者の一人で、最高位の色を制御する。現在、ステラの制御者として下界で暮らしている。天界では振り回されポジ。

ミィ:アルフに仕える蒼い目をした白猫。誰にでも優しい性格。天界にある図書館の主。アルフ以外だと、フォースと仲がいい。



★おねだり子猫と紅の制御者。時々、転生の神★
ここは天界。様々な神様達が暮らす世界。
基本的に人目に触れることがない神々であるが故に、下界には知られてはないが、そこに住まう人々の為、色んな仕事をしている。
……基本的には。
現状を分かりやすく説明しよう。
おれが見下ろす先には、その辺で元気よく走り回っていてもおかしくない位の子供が、ぷるぷると震えながら、正座をしている。さながら、親に怒られ、反省する子のように。
しかし、残念ながらここにいるのが、単なる子供な訳がない。情けなく震える子供みたいなこいつは、神様だ。
そして、おれの上司とも言える力の神、ファウス様だ。……こいつに仰々しく『様』なんて、つけたくもない。
「おれ、この前も言ったよな。あんたが料理する度に、ろくなことにならないって。だから、キッチンに立つなって、命じたはずなんですけど?」
自身の体の大きさにあっていないローブのフードを被り、おれと目線を合わせないようにしている辺り、自覚しておきながら、やらかしたと見た。
「人と話すときは、目を見たらどうですかね」
「やー……だって、フォース、めちゃ怒ってるしぃ……怖いじゃん?」
そりゃあね!? お前が約束、破ったからね!? つか、神様が説教でビビってんじゃねぇよ! なんなん!?
言いたいことは終わりが見えない程、山積みだが、それを口にしてしまったら、何日もかかる。そこで、おれはぐっと我慢し、一言だけ言う。
「行け、ミィ」
「みゃっ!」
おれの頭の上でふんふんしていたミィ─多分、マスターを叱るおれの真似だと思う─にマスターに向かって、突撃命令をした。素直なミィはマスターに飛び付き、器用にフードを脱がす。
「ぎゃあ!? ちょ、ミィちゃん!?」
「にゃ!」
反省しなさい、とでも言いたげなミィ。実際は知らんが。
「で、何するつもりだったのか、教えてくんない?」
とは言ったものの、周りの状況を見れば、何かの料理を作りたかったのは分かる。そりゃ、ここは天界になぜか存在するキッチンだ。そんなキッチンには、散乱する調理器具に、無造作に開かれたレシピ本がある。そして、床に飛び散る紫の液体(粘度高め)。
おれの知る限り、粘度のある紫色の液体なんて、毒以外知らないし、調理器具も様々なものが散らかっている。そんな状況下では、何を作りたかったかまでは、予測不可能。
いやまあ、あそこのレシピ本に載っているどれか、ではあるだろう。じゃなきゃ、あそこに置いてある意味が分からない。
「えっとですね……この前、ふらっと立ち寄った図書館で『初心者でも簡単! ちょっぴり豪華なお菓子レシピ集☆』ってのを見つけましてですね」
本のタイトルを言うときだけ、声色を変えるの、腹立つ。ぶん殴りたい。
「その本見て、豪華なお菓子を作って、フォースを驚かそうかなーって……思った次第でして。はい」
「あぁ、そう。よかったね。別の意味で、おれを驚かせてるよ。目標達成したな。おめでとう」
「おめでとうって顔、してない!」
それに対する解答は、実際はめでたくないから、です。
しかしまあ、やりたかったことは分かった。マスターの中では、お菓子を完成させて、おれを驚かせたろう……という魂胆があった、と。
……神様の癖にちっせ。何だ、こいつ。暇か? 暇なのか? 働けよ、駄目神様が。
「そこら辺に飛び散ってる紫のあれは?」
「湯煎したチョコをミィちゃんが落としました」
「あ?」
「ごめんなさい」
……いや、チョコを紫にする手はある。ホワイトチョコレートに着色料を使うことだ。着色料でなくても、チョコペンには紫は存在する。あるけども。
今、床に広がるのは毒々しい紫。あの色を着色料で出せるだろうか。いや、そもそも、まともな料理を作れないマスターが、着色なんて発想に辿り着くはずもない。つまり、あれは普通のチョコレートだと思われる。それがホワイトなのか、ビターなのか、ミルクなのかは、さておきだ。
「にぃ……?」
ミィがあからさまに「チョコって、こんな色だっけ?」と困惑気味に首を傾げている。
おれだって、同じ気持ちである。
「……はぁ。で? 仕事は?」
「そそそりゃあ、お、終わってますとも!! とーぜんですよぉー!!」
明らかに動揺している。多分、いや、絶対に終わっていない。まあ、マスターの仕事がきちっと終わった試しがないのは、ある種、おれ達の常識だ。ここの片付けをやらせた後にでも、仕事も片付けてもらえばいいだろう。
「ったく……とりあえず、ここを」
「あー! いたいた! ファウスさーん!」
おれの言葉と被さるように入ってきたのは、こちらも少年のような見た目の神様。転生の神、アルフ様だ。
ひょこっと、キッチンの入り口から顔を出したかと思えば、何の躊躇いもなく、おれ達のところへ近付いてきた。そして、正座しっぱなしのマスターの傍でしゃがみ、にこっと笑う。
「僕が頼んだ急ぎの書類、そろそろ終わってるかなって思って、捜してんだ。あれがないと、僕の明日の仕事ができないんだよ~♪」
「あ、アルフさん! いえ、アルフ様!? その話、今はタブーってやつでして!!」
「え? どれ? 仕事の話? 僕の仕事に支障が出るって辺り?」
「全部!」
この状況に突っ込むでもなく、仕事の話をする辺り、アルフ様のスルースキルは見事である。いや、仕事に真面目なだけなのか、ある程度、予測がつくから、言わないだけなのか。
……と、言うか、だ。
「おい」
「へ、あの、フォースさ……わひゃ!?」
おれは逃げ腰のアホの首根っこを掴んだ。最初の説教時よりも、ぶるぶる震える情けない神について思考するよりも、聞くべき事を聞く必要がある。
「手短に答えろ。貴様、アルフ様に頼まれた仕事を放置して、遊び呆けていたのか?」
「あ、あの、いちお、俺……君の……いえ! あなた様の、上司、みたいな人……なんだけどな~?」
「聞こえなかったか。聞かれたことに手短に答えろと、おれは言ったんだが」
「ごめんなさい!! 遊んでいたつもりは、ないんですが、い、息抜き感覚……では、ありましたね。あ、あはは~♪」
「そうか。それはつまり、遊び呆けていた、と捉えても、間違いではないな」
「い、いや、呆けてたつもりは」
「そもそも、息抜きで、完成に時間のかかる菓子作りなぞ、選ぶ阿呆がどこにいる。んなこたぁいいから、仕事しろ! クソ上司がぁぁ!!!」
「ぎゃふっ!!!」
力の限り、アホを入り口めがけて、ぶん投げる。アホは一直線に入り口を通り抜け、壁に激突。普通の人なら、気絶間違いなしだが、あれでも一応、神様だ。あんなので、くたばってもらっては困る。
「さっさと終わらせてこい!! そして、二度とアルフ様を困らせんじゃねぇぇ!!」
「さーいえっさぁあぁ!!! いってきまぁぁ!!!」
「ファウスさーん! よろしくね~♪」
「にゃ~♪」
おれの怒号にマスターは、バネのように飛び起き、一目散に自室へと向かう。そんなアホの背中に向かって、アルフ様はミィを抱きながら、楽しそうに手を振って見送っていた。そして、ミィもアルフ様の真似をしている。
おれは盛大にため息をつきつつ、周りを見渡す。そこには、マスターが放置していった惨状が映るばかり。本来、マスターにやらせるはずだった片付けが残されたまま。……当然だ。させる前におれが追い出したのだから。優先順位を考えれば、ここの片付けよりも、神としての仕事が上である。そして、自身の仕事ならいざ知らず、今回は他者の神の仕事に関連する仕事だ。そりゃ、そっちの方が大事って奴だ。
……つーことは、だ。ここは、おれが片付けるしかないわけだ。もちろん、放置したって構わない。構わないが、変な噂が立つのもよろしくない。只でさえ、ヤツはクソ不真面目、というレッテル貼られてるのだ。それのせいで、あれこれ気を回すのは、こちらである。これ以上、身動きを取りにくくする必要性があるだろうか。いや、ない。
……なんか、一気に疲れた。なんで、毎度毎度、あんなアホの尻拭いしてるんだろう。



~あとがき~
ラルとツバサちゃん達が楽しい夏休みを送っている中、フォースは変わらず、ファウスを叱る日々を送っています。

次回、キッチンに残された制御者と子猫と神様の話。
この三人(二人と一匹)だけってのは、去年なかった組み合わせですね。

なんかフォースだけ夏休み感ゼロじゃね?? やってること、いつもと変わらんのだが。大人って大変だね……←
ということで、一方その頃的な立ち位置であります。時系列は本編とほぼ変わりませんね。夏休みの出来事です!

ではでは。

気ままな神さま達の日常記録 vol.6

こちらは『学びや! レイディアント学園』の番外編でございます。スピンオフというか、なんというか。全く本編に関係のない皆々様に焦点を当てたお話となっております。
前回から子猫のミィちゃん視点でお話をお送りしてます。
ファウス探しを密かに手伝うミィちゃん。ミィちゃんは無事にファウスを見つけられるのか~……って感じで、始めますか!
と、今回も登場人物紹介から!


☆さくっと登場人物紹介のコーナー☆
アルフ:転生の神様。穏やかな性格でにこにこしながら、みんなを見守る優しいお方。また、従者(?)でもあり、妻でもあるミィとは、どこでも仲良し。

ファウス:力の神様。ずぼらな性格で部下である制御者達(特にフォース)からの信用度は低い。趣味は料理。

ウィル:生命の神様。人懐っこい性格。普段はアルフの下で働き、暇さえあれば、弟的存在のフォースの側でにっこにこしてる。ファウスとは反りが会わない。

フォース:制御者の一人で、最高位の色を制御する。現在、ステラの制御者として下界で暮らしている。天界では振り回されポジ。

ミィ:アルフに仕える蒼い目をした白猫。誰にでも優しい性格。天界にある図書館の主。アルフ以外だと、フォースと仲がいい。



★小さな従者の神様探し★
図書館を出て、少し経った後、私はウィルくんがいる仕事場……通称「魂の間」と呼ばれる部屋の扉前まで来ました。
この部屋では、ウィルくんが管理している魂たちが安置されている。ウィルくんは、その魂たちについての書類とか、この部屋でまとめているはずなんだよね。
さて、今、私の目の前には、大きな扉があります。私が通るような猫ドアもない、綺麗な彫刻が彫られている美しい扉です。
そんな扉の前にいる子猫の私ですが、当然、ジャンプしてもドアノブには届かないし、ましてや人間の姿になんて、変身できません。
じゃあ、どうやって開けるのか?
答えは簡単! 「念力」の力を使って開けるだけ!
私はドアノブをじっと見つめながら、チリーンと鈴を鳴らして能力を使います。
すると、カチャリとドアノブが下に動き、扉が自然と開きます。
開いたと言っても、僅かな隙間なんだけど、その隙間を逃さず、私は前足を使って隙間を広げ、するりと部屋に侵入した。
中に入ると、勝手に扉が開いて驚いたのか、びっくりした様子で、こちらを見ているウィルくんの姿があった。
「おあ! りゅっち! こんな所に来るなんて、めっずらしー! どうかしたの?」
「にゃあ」
ウィルくん、仕事中にごめんね? 急だけど、お邪魔するよ〜♪
ピョンっとウィルくんが使っている机の上に飛び乗り、私は部屋の中を見渡す。
「魂の間」の中は、ウィルくんがちょくちょく掃除しているおかげか、きちんと整理整頓されていた。見渡しているこっちまでも、気持ちの良い部屋となっている。
そして当たり前だが、ここにはウィルくんしかおらず、ファウス様の気配も感じない様子であった。
分かっていたことではあったけど、やっぱりファウス様は、ここにはいないみたいだね〜
ファウス様と超絶、仲が悪いウィルくんが、ファウス様を匿っているってこともなさそうだし。
「んー? りゅっち、もしかして、何か探している感じかな? さっき、エルエルとかーくんが、あのクソ親父を探していたみたいだったから、もしかして、そのお手伝い?」
「にゃ!」
そうだよ!
首を傾げながらも、優しく私の頭を撫でてくれるウィルくんの言葉を肯定するように、私は頷く。
それを見たウィルくんは苦笑しつつ、私を持ち上げて目線を合わせてくれる。
「かーくんたちの手伝いをしてくれるりゅっちは偉いけど〜……俺があのアホを匿うなんて、本当に思ってたの?」
「にゃ〜」
思ってないよ〜? ウィルくんとファウス様がすっごく仲が悪いのは知ってるもん。
そう思いながら首を振る私を見て、ウィルくんは少し考える素振りをしたけど、それもすぐにやめて、パッと顔をあげ、また首を傾げた。
「じゃあ、もしかして、ただ単に遊びに来た感じかな? りゅっち、ここに来るの、久しぶりだもんね?」
「にゃー!」
「あはは! 正解って言ってるのかな? そういうことなら、好きなだけ探検してって大丈夫だよ〜♪ 今は、そんなに急ぎの仕事をしているわけじゃないからね〜」
笑いながらそう言ったウィルくんは、優しく私を机の上に下ろしてくれた。
そして、ニコニコと笑顔のまま、私を見守りつつ、仕事を再開し始めた。
ウィルくんはそう言ってくれたけど、私はもう一通り部屋の中は見渡したし、あまり長居しても、仕事の邪魔をしちゃうから、そろそろ他の場所を探そうかな?
そう思った私は、ピョンっと机の上を飛び降り、出口である扉の方に向かう。
それに気づいたウィルくんは、顔をあげて右手をひらひらと振り、見送ってくれた。
「にゃあ」
「はーい♪ また遊びに来たくなったら、いつでも遊びに来ていいからね、りゅっち〜♪」
「にゃあ♪」
ありがとう、ウィルくん。お邪魔しました♪

〜〜〜〜〜〜

ウィルくんに見送られながら「魂の間」を後にした私は、次はどこでファウス様を探そうかなと考えつつ、天界の長い通路をテクテクと歩いて行く。
とはいえ、私はファウス様に仕えている従者じゃないから、逃走の検討先なんて、すぐに思いつかないんだよね〜……どうしようかな?
なんて思いながら、とある部屋を通りすぎた時、中からカタンッという音が聞こえ、思わず足を止める。
私が足を止めた部屋は最近、他の神様が作ったと、他の従者の人たちから聞いた、キッチン部屋。中には、大きなキッチン台があるという。
基本的に私たち、従者の主である神様は食事をしません。永遠の刻を生きる方たちだから、食事を必要としないのです。
でも、趣味とか興味本位で、地上の食べ物を食べる神様も少なからずいるわけで。数は少ないけど、こういった台所とか、厨房みたいなお部屋は、いくつかあったりします。
その部屋の扉の前で、私は首を傾げながら考える。
今、中から物音が聞こえたけど、誰かが料理でもしているのかな?
でも、扉から漂う、この匂いは……
いつもなら、素通りする所なんだけど、とある可能性を連想させる匂いにつられて、私が僅かに開いている扉から、するりと中に入っていった。
中にいる人に邪魔にならないよう、静かに入室すると、そこにはボウルを持って、上機嫌で何かを混ぜているファウス様の姿があった。
「にぃ……」
ファウス様、ここにいたんだ……
ということは、この変な匂いの正体はやっぱり、ファウス様が原因だったんだね……
さっき、神様の中には趣味で食べ物を食べるお方もいると言ったけど、ファウス様や私の主で旦那様でもあるフゥ兄ちゃ……アルフも、そんな神様たちの中に入っています。
……が、ファウス様に限っては、ちょっと特殊というか、おかしな神様で、食べるだけじゃなくて、作ることも好きな神様だったりします。
ただ作るだけなら問題ないんだけど、実はファウス様には、それが当てはまらなくて……なんていうか、その……
ファウス様の作る料理は、なぜか全部、ゲテモノ料理になってしまうんだよね……
使っている材料はみんな、普通のお野菜や果物とかなんだけど、ファウス様がそれらを使うと、なぜか調理工程中に全部、見たことのない変な物体になってしまうんだよね〜
しかも、それを見て、ファウス様はなんとも思わないというね。今、作っているやつも、すっごい臭いなのに、なんで気づかないんだろ?
「ふんふんふ〜ん♪」
「に……」
ファウス様は上機嫌で作っているけど、それを隠れて見ている私は、気が気ではない。
だって、どう頑張っても、ファウス様が作るものはみんな、おかしくなっちゃうんだよ? 食材がもったいないよ……
それに、それらを片付けるのはいつも、ファウス様の従者であるフォースくんたちなんだよね……見てて可哀想に見えちゃうよ……
なので、ファウス様が何か作っているところを見かけたら、私は必ず、ある事をすると決めています。
「ふんふ〜……ん? あ、あれ? ミィ……ちゃん……? いつの間にここに……」
「にゃあ」
こんにちは、ファウス様。そして、ご覚悟はいいですか?
こっそりとキッチン台に上がった私を見つけて、固まるファウス様。そして、満面の笑みを見せる私。
ニコニコと笑顔の私を見て、サァ……っと顔を青くするファウス様だけど、そんなファウス様に構わず私は……
丁度、目の前にあった紫色の物体が入っているボウルを前足を使って、床目掛けて、落とし始めた。
「にゃ!」
「あ!」
ガッシャーンと部屋中に鳴り響く音を聞いて、ファウス様は慌て出す。
「なぁあぁぁ!? ちょ! ミィちゃん!? なにしてくれちゃってるの!?」
「にゃあ!」
毎回、変な料理をするファウス様に、正義の鉄槌なの!
「いや、にゃあ! じゃなくてですね……って、あぁぁぁ! 今度はつまみ食い!? こらー! 勝手につまみ食いしちゃ、だめでしょうよー!」
なんて怒っているファウス様を完全に無視して、私は近くのまな板の上に乱雑にカットされていた果物をもぐもぐと食べる。
ん〜♪ この果物、瑞々しくて、すっごくおいし〜♪
「にぃ〜♪」
「おいし〜♪ って感じで食べてくれるのは、いいけど、それケーキの飾り用のフルーツ! 勝手に食べちゃめっ! だよミィちゃん!」
「にゃ?」
飾り用って……大きさもバラバラで、飾り用とはいえないくらいにカットされている果物だよ、ファウス様?
「そんな可愛く首を傾げられても……あーあ……せっかく、フォースたちの目を盗んで調達した食材が……もう、なんでミィちゃんは、俺が料理するのを見かける度に、邪魔をしようとするのかな〜?」
そう。私が料理をするファウス様を見かける度にやる事、それは……

ファウス様の料理を邪魔することなのです!

そうすれば、ファウス様が調達した食材をダメにすることはないし、何よりこの騒ぎを起こせば……
「そりゃあ、ミィだって、食べ物を粗末にすることは許さないって考えてるんだろ」
「へ……?……って、フォース!? いつの間にここに!?」
フォースくんが駆けつけてくれるって知ってるからね♪
「そりゃあ、あんだけの騒ぎを起こせば、誰でもマスターがここにいるって気づくだろうが。つーか、おれが言いたいのは、それじゃなくて……毎回毎回、何をしてくれてるんだ。このアホマスター!!!!」
「ヒィィィィ!!」
フォースくんの怒声が飛び、ファウス様の悲鳴が聞こえるけど、その二人を無視して、私は残りの果物を食べ続けた。
だって、あとはフォースくんに任せれば、問題ない……もんね♪



~あとがき~
子猫の冒険、これにて終幕。

次回、フォースと子猫と神様がキッチンであれこれします。
まあ、今回の続きっすよ。執筆者はバトンタッチして、私に戻ります。

ミィちゃん主役の話、どうでしたでしょうか。去年の短編でも出てきた子猫ちゃんですが、当然、人の言葉を話せないので、普段、何を思っているのかみたいなのが見えてこない。よし! 今回、スポット当ててみよう!
というのが、相方の意図です。多分。
本編には(一部を除いて)ほぼ出てこない天界組なんですが、私と相方の方では何かと小ネタの多い方々でもあります。だからまあ、こんな形で皆様にお見せしている次第です。
もう少々、お付き合いくださいませ!

ではでは!

気ままな神さま達の日常記録 vol.5

こちらは『学びや! レイディアント学園』の番外編でございます。スピンオフというか、なんというか。全く本編に関係のない皆々様に焦点を当てたお話となっております。
今回から何話か番外編をお送りします!
前回は短編をいくつかやりましたが、今回はちょっと長めになります。
そして、登場人物紹介から!


☆さくっと登場人物紹介のコーナー☆
ファウス:力の神様。ずぼらな性格で部下である制御者達(特にフォース)からの信用度は低い。趣味は料理。

ウィル:生命の神様。人懐っこい性格。普段はアルフの下で働き、暇さえあれば、弟的存在のフォースの側でにっこにこしてる。ファウスとは反りが会わない。

フォース:制御者の一人で、最高位の色を制御する。現在、ステラの制御者として下界で暮らしている。天界では振り回されポジ。

エレル:制御者の一人で色は青。明るく後先考えない性格で、トラブルメーカーっぽい。現在はフリーで天界でのんびりしてる。

ミィ:アルフに仕える蒼い目をした白猫。誰にでも優しい性格。天界にある図書館の主。アルフ以外だと、フォースと仲がいい。



★小さな従者の神様探し★
ここは天界。様々な神様が住まう場所。
様々な神様がいるということは、それぞれの神様専用の自室や、仕事部屋も当然あります。
でも、それ以外に神様たちが共有して使う場所もいくつかあるの。
神様に仕える従者たちが使う訓練場だったり、神様同士でお話しする休けいスペース。あとは趣味で、料理やお菓子などを作るためのキッチンなんかもあったりするね。
今、私がいる場所もその一つ。叡智の図書館と呼ばれているこの場所も、神様やその従者たちが共有して使う部屋になってます。
ここには、この世界ができてから現在までが書かれている創世記とか、それぞれの能力を司る神様たちが、私たち従者が読むように執筆した本とか、はたまた「なんで、こんな本がここに?」って感じの変わった料理本とか、手芸本とか、色々保管されてるよ。
そんな膨大な本と図書館の管理を任されているのが、子猫のミィこと私、リュミエールのお仕事なのです! えっへん♪ すごいでしょ♪
子猫一匹で、広大な図書館の管理ができるのかって話なんだけど、実は、意外とできちゃうものなんだよね〜
まぁ、私にはちょっとした能力があるから、それを利用すれば、できちゃう話なんだけどね?
そんな私は現在、その叡智の図書館にある、読書スペースのテーブルの上で、読書&日向ぼっこ中です。
「にぃ〜」
ここの図書館の読書スペースは丁度、陽の光に当たってあったかいから、お昼寝にいいんだよね〜♪
あっ、ちなみに私が読んでいる本は、地上の生き物たちが書かれている図鑑。前に一度、読んだことがあるやつだけど、暇つぶしにまた読んでみました♪
そんなぬくぬくしながら、読書をしていた私ですが、不意に、ガチャっと図書館の扉が開かれる音が聞こえたので、そちらの方に顔を向ける。
そこには、大量の本を抱えたフォースくんとエレルちゃんが仲良く入室してきたところだった。
「ったく、あのアホ……少しでも目を離すと、すぐに図書館の本を借りパクしやがって」
「うぅ〜……フォースぅ……この本、分厚すぎて重いよ〜……」
「にゃあ?」
フォースくんとエレルちゃんが持ってきてくれたあの本は……もしかして、この前、私がうたた寝してた時、こっそりファウス様が持ち出してたやつかな?
本来、図書館の本は基本的に持ち出し厳禁。でも、私が図書館にいる時なら、一言言ってから借りれるってルールがある……はずなんだけど、ファウス様はたまに、無断で持って行っちゃう時があるんだよね〜……
まぁ、だからといって、これといった処罰があるわけじゃ無いんだけどね?
あるとすれば、私の子猫パンチを一発、お見舞いするくらいかな〜? ダメージは全然無いんだけど。
「仕方ねぇだろ。マスターのやつ、分厚い歴史本ばっか、借りパクしてたんだから……っと、ミィもいたのか。もしかして、読書中だったか?」
「にぃ」
大丈夫だよ、フォースくん。読書と言っても、日向ぼっこがメインな感じだったから。
読書スペースにいた私の存在に気づいたフォースくんは、たくさんの重そうな本を持っているのにも関わらず、スタスタと軽快な足取りで、こちらに来てくれた。
それを見ていたエレルちゃんも、納得してなさそうな顔をしながらも、フォースくんを追いかけるような感じで近寄ってくれた。
「もう! なんでフォースはそんな軽々と持っていけるの!? 量はそっちの方が多いのに!」
「鍛え方が違うからな。鍛え方が」
「むう……」
ドスンッと本を置きながら、エレルちゃんは恨めしそうな顔でフォースくんを見つめる。
フォースくんは気づいているはずなのに、エレルちゃんからの視線を無視している。
そんな二人の様子を見つつ、私はフォースくんたちが置いた本のタイトルを確認する。
えっと……フォースくんとエレルちゃんが返しに来てくれたのは、この世界の歴史が書かれている創世記のやつだね。しかも、よくファウス様が持ち出すやつ。
毎度思うけど、なんで力の神様であるファウス様は、創世記の本を持ち出すのかな〜?
何か調べて……っていうのは、なさそうかな? フォースくんたちの話じゃ、よく部屋にぶん投げられてあるらしいし。というか、ここを管理する者として、図書館の本をぶん投げて欲しくないなぁ……ぶん投げるくらいなら、返却して?
なんてこと思いながら、私は二人が持ってきてくれた本たちを眺めつつ、首元にある鈴を鳴らして、力を使う。
チリーンという音に合わせて、私の目の前にあった本の周囲に淡い紫の光が発生し、本を包み込む。
そして、ふわりと光に包まれた本が、私の頭上に浮かび上がる。
それを見たエレルちゃんは、感心したようにため息をついた。
「相変わらず、ミィちゃんの念力は便利だね〜?」
「だな。かといって、ミィに頼りすぎもよくないんだがな」
「にゃふん!」
ふふん♪ すごいでしょ!
子猫の私だけど、普通の猫とは違って、物を動かしたりできる『念力』という能力を持っているんだよ♪
これは、私がこの姿になってから、使えるようになった能力なんだけど……まぁ、この話は別にしなくてもいいか!
とにかく。この能力のおかげで、気軽に本の出し入れもできるし、図書館の管理も、私一人でできるというわけです!
……まぁ、フォースくんが言ってた通り、あまり過信しちゃ、いけないんだけどね?
この能力を使い過ぎると、疲れて眠くなっちゃうのが、唯一の難点ではあるんだけどね〜?
そのことをよく知っているフォースくんは、私が浮かび上げた本のうち、特にページ数の多い重い本だけを取って持ってくれる。
それを見たエレルちゃんも慌てて、フォースくんが持っている本よりは、軽いやつではあるけど、それでも、数冊の本をとって持ってくれた。
別にこのくらいの量の本なら、どうってことないんだけどな〜?
「にぃ?」
「大丈夫なのに? って顔か? ミィが大丈夫でも、おれらは良くないんだよ」
「そうそう♪ 仕える神様は違えど、同じ従者同士! 協力して本を片付けようよ、ミィちゃん♪ それに元々、私たちが持ってたやつだからね! そのまま、ミィちゃんに丸投げするほど、私たちは非情じゃないよ!」
「……にゃあ♪」
んふふ♪
フォースくんとエレルちゃんは相変わらず、優しいね〜
じゃあ、お言葉に甘えようかな?
ということで、ここからは私の案内の元、フォースくんとエレルちゃんにも手伝ってもらった。そして、ファウス様が持っていった本を元の本棚に戻したのでした♪
本の返却作業自体は特に問題もなく、綺麗に片付いたけど、手伝ってくれたフォースくんとエレルちゃんは浮かない顔をしていた。
どうしたのかなと思って、心配の気持ちが伝わるように、フォースくんの足元に擦り寄った。
「みゃ〜?」
「ん……いや、別に大したことじゃねぇよ」
「ミィちゃん、私たち、この後マスターを探さないといけないの」
「にゃ?」
ファウス様?
「ったく、あの阿保……おれらに部屋の掃除を任せっきりにしたまま、どこかにいきやがって……」
「私、マスターに稽古の相手をお願いしてたんだけどなぁ〜」
「……の前に、今日の分の仕事、終わってんの?」
「さぁ?」
「にぃ〜……」
なるほどね〜……フォースくんたちは、どこに行ったのかも分からない、ファウス様探しに行かないといけないと……
フォースくん、今は学校も「なつやすみ」?……ってやつで、お休みのはずなのに、休んでもファウス様のお世話をしないといけないなんて、大変だね〜?
「……っと、ここで言ってても仕方ねぇから、とっとと、マスターを探し始めるか」
「だね! じゃあミィちゃん、本の戻し作業、手伝ってくれてありがとね〜♪」
「にゃあ!」
いえいえ〜! こっちこそ、ありがとね、二人とも〜!!
そう言って、フォースくんとエレルちゃんは、ファウス様を探しに図書館を出たのでした。
二人が去った後、図書館内は再びシンっとした空気に包まれ、また心地よい空間に……
……なるんだけど、私はさっき、フォースくんたちが話していた会話を思い返していた。
フォースくんとエレルちゃん、二人でファウス様を探さないといけないのかな?
天界って結構広いし、それを二人だけで探すとなると、大変だよなぁ〜……
……私、この後は特に、これといった仕事もないし、こっそり、二人のファウス様探しの手伝いに行こうかな?
「にゃ!」
そう思い立ったら吉日! 早速、ファウス様探しに行ってみよう!
と言っても、さっき言った通り、天界は広いから……とりあえず、可能性は低そうだけど、ここから一番近い、ウィルくんの所に行ってみようかな?
しばらく行ってなかったから、遊びに行くのも含めて!
そう考えをまとめた私は、スクっと立ち上がり、そのまま出口の方へ向かい、図書館を後にするのでした。



~あとがき~
まさか、子猫(神様の従者兼奥様)が主役だとは誰も思ってなかっただろ!!
私もだよ!!←

次回、子猫の冒険、後編。

いつもの文章と違うなーと思ったそこの読者様。……え、そんなことはない?? まあ、それならそれでいいや←
実は今回の本編、相方が書いてくれました。
私は最初の前書きと、ここのあとがきだけ書いてます。
ミィちゃん主役の話、前後編となりますが、それらは相方のmike猫様作となります。
お楽しみに~

ではでは。