satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

学びや!レイディアント学園 第244話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で探検してる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、中間地点に到着したラルとティール。そんな二人が水晶の花を目の前にあれこれしました。今回もお花にまつわるあれこれの続きです。
ラル「ここのダンジョン花ばっかだな」
ティール「鉱石もたくさんあるけどね」
ラル「そうだった」


《L side》
ティールによる手当ても終わり、私は再びグローブを装備する。そして、ふと彼の剣に目がいく。
この二人のことを忘れていた。もしかしたら、何か知っているかもしれないではないか。何せ、過去にここへ訪れたアルドアーズさんとブライトさんの元相棒なんだもの。
「ねぇ、スイちゃんとセツちゃんはここまで来たことあるの?」
『う? ある! あずときた!』
『あとね、いーちゃとせいちゃともあるよ』
「お? ってことは、ここの花のこと、ルーメンさんか理事長に何か聞かなかった?」
この質問にスイちゃんとセツちゃんは一瞬だけ黙る。記憶の中から該当するものを探しているのだろう。そして、二人声を合わせ、『きいた!』と元気な返事。
『ここのおはな、めがみさまがつくったって! じっちゃがるっちゃのときにきいた! あのね、ほわわの、ぽややなの!』
『あとね、あとね! えいってやったら、ぱーってなったって、ふぃーからきいた!』
スイちゃんの言う『めがみさま』というのは、女神ミルティアで間違いないとは思うが、セツちゃんのやつは理解できなかった。擬音しかなかったぞ? つまり、何をしたんだ。女神ミルティアは!
私はスイちゃんセツちゃん翻訳機のティールに目配せをするも、ティールはティールで眉をひそめていた。長年の付き合いである彼ですら、今のは理解に苦しむらしい。
「あ~……えーっと、つまり……なんだ? 女神の力でここの花が増えたってことでいいの?」
『そうだってふぃーがいった!』
『いった! いった!!』
あ、そういうこと……
二人の言いたかったことが理解できてすっきりした私だったが、ティールは別のところも気になったらしい。
「あのさ、ふぃーって、理事長だよな? なんで『ふぃー』なの?」
『セラフィーヌだから、ふぃーなの!』
『なのなの!』
「お前らのあだ名基準がほしい……!」
今更かよ。
まあ、いい。話を戻そう。
アルドアーズさんはルーメンさんから、ブライトさんとセイラさんは理事長から詳しい話を聞いていると見ていいだろう。
それをスイちゃんとセツちゃんは傍らで聞いていたと思うのだが、この二人がその頃の内容を私達に教えられるとは思えない。
「……お前ら、他に何か覚えていない?」
『? あとはわかんない! むつかしだもん』
『ねー? むつかし、せっちゃ、わかんない!』
駄目元でティールが聞いてくれたけれど、予想通りの答えだ。覚えていたとしても、それを言語化できるとも思えないけれど。
……それにしても、ここで女神の名前が出てくるのか。
「……ねぇ、どうかした?」
ティール、私がずっと考えてたこと、ここで言ってもいいかな」
「? うん。構わないよ」
「私、ずっと疑問だったの。ルーメンさんが私達を『奇跡の洞窟』へ向かわせた理由が」
「それは……ぼく達が選ばれた理由ってこと?」
「そうとも言うかもしれない。……ここでの戦闘、私達の実力を試されているような感覚がしたの。出てくる敵全てが、私達の実力に合った奴らばかりだったから。もちろん、たまたまかもしれないけれどね」
つまり、依頼内容にある目的は表向きのもの。必ず達成してこいよという、最低限満たさなければならない目標なのだろう。
しかし、それだけでなく、裏の何かがあるように感じていたのだ。そこに女神の存在がちらついてきた。それによって、何かを試しているのではないかという憶測が確信めいたものに変わってきた。
「つまり、戦闘能力だけでなく、もっと別の何かを試すつもりなんじゃないかなって思う。というか、最初からルーメンさんの手のひらで弄ばれてる気がしてならないのよ。何て言うの? イグさんに無理矢理、仕事押し付けられるときみたいな?」
「その言い方は二人に失礼じゃない……? けど、ルーメンさんはぼくらを陥れるようなことはしないと思うけど」
「それは私も思ってる。まあ? 上げて落とすみたいな、胸くそ悪い展開がお好きじゃないならだけど。……つっても、あの双子のおじいさんがんなことするとは思えないから、そこの心配はいらないかな」
ルーメンさんに悪い大人の雰囲気はなかったのは確かだ。何より、ギルドメンバーの面々を見れば、あそこがどんなにいいギルドなのか伝わってくる。
だから、悪いようにされることはない。なんせ、プリン親方のお知り合いでもあるし、ティールの身内とも親交のあるお方。私達が損するようなことはない……と、思う。
「……ぼくはラルみたいに考えるの得意じゃないから、ルーメンさんが何を望んで、ぼくらに何をさせたいかまでは分からないや」
「それは私にも分からない。……判断材料がないから、考えようがないもん。仮説ならいくらでも思い浮かぶけど、それはあくまで仮説。それを立証するための事実も、否定する事実もないんじゃ、考えても意味がないってやつよね。……けれど、頭の片隅には、ルーメンさんに試されているというのは忘れない方がいい」
「分かった。頭に入れておくよ。……でも、今は一先ず、できることをやっていこうか。先に進めば、ルーメンさんの真意が分かるかも」
賛成。ここで永遠と思考を重ねても答えは出てこないだろうからね。
ということで、表向きの目標であろう、中間地点にあるという機械パーツの交換をしよう。……したいんだが、それらしきものがどこにも見当たらない。
「機械だって言うから、見れば分かるものがどーんっと置いてあると思ってたけど……ありませんな」
「そうだなぁ。あるものと言えば、水晶の花ばかりだ。……これは機械じゃないよね」
当たり前やろがい。
仕方ない。この道を進んでいくとしよう。途中にぽつんと置いてあるかもしれないし。
私とティールは謎の機械を見落とさないようにと、辺りを見回しながらゆっくりと奥へと進む。
道沿いに水晶の花は咲いているのだが、水の中にも咲いていた。まあ、水晶でできているから、水の中でもなんら問題ないのだろう。腐ることもないし、枯れることもない……んだろう。多分?
「水中に咲く花って凄いね? いや、水晶なんだけど」
「あっちの離れ小島? みたいなところにも沢山咲いてらぁ~……ほんと、何なんだろうね?」
私達の歩く道以外にも陸は存在していた。が、それはこの湖を挟んだところだし、この水晶の花が咲き誇る先にあるので、私達は近づけないのだが。
「……この花、どうにかしてお持ち帰りできないかな」
「え、ラル……そんなこと考えてたの?」
「考えるでしょ! 私達は探検隊だよ? 珍しいお宝を見つけるのがお仕事でしょーが! でも、運搬方法がなぁ~……思い付かないのだよ」
「あぁ……確かに。すぐ壊れちゃうからか。専用ケースでもあれば別かもね?」
「フォース君がおれば……こんな小さな問題なんて、すぐに解決してくれるのに」
フォース君なら、望み通りの物を創ってくれるはずだ。このダンジョンを抜けるまでの間なら、嫌な顔はしても、拒みはしないだろう。もちろん、文句は大いに飛んでくるだろうが。
うーむ。諦めるには惜しいんだよね。どうにかして運搬方法を確立させたい。お持ち帰りしたい~!
諦めきれず、じっと水晶の花を見つめていると、あるところに咲く花が目に入る。
それは、水中に咲いているのだが、他の水晶の花とは違い、白みがかっている。更にほんのり発光しているようにも見えた。
他とは違うそれが気になって、傍まで近寄り、そっと触れてみる。それは、冷たい水の中にあるはずなのに、ほんのり暖かさを感じた。そして、水晶の花とは違って、強度もあり、少し力を入れただけでは割れそうにない。
「……ラル? その花は?」
「分からん。けど、周りに咲くやつとは別の個体だと思う。ティールも触ってみ……っ!」
立ち上がりながら、ぐらりと視界が揺れるのを感じた。単なる立ち眩みかと思ったが、すぐに違うと思い直す。
……これは“時空の叫び”が発動する前兆だ。



~あとがき~
中間地点、長くない? あれ??
未だに依頼一つ達成してないぞ???


次回、ラルが時空の叫びで視たものとは?

久々に出てきましたね。時空の叫び。
まあ、空海ではほぼ使われない能力なので、こういうところで活躍してほしいよね←

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第243話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわちゃわちゃしてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、幽霊騒ぎ(?)を見事解決したラルちゃんでしたっと。
ようやく本題だ! 本題手前まで来たぞ!!
ラル「はっはっは~……長かったー」
ティール「だねー」
大丈夫。この奇跡の洞窟編、まだまだ終わらねぇからよ……!
ラル「だろうなぁ」
ティール「あはは……」


《L side》
ここまで来るのに色々ありましたが……ようやく! ついに! 来ました!
「中間地点! 来たぞ!」
「だね~……なんか、テンションおかしくなってない?」
なってない!
さて、ダンジョンにおける中間地点とは、安全地帯のことだ。敵であるモンスターが入り込まない不思議なフロアである。基本的には迷路形式ではなく、見通しのよいワンフロアが普通。飾り気もなく、新たな発見も見込めない。なんなら、ここいらで小休止しようぜくらいの役割しかない。間違っても長く滞在する場所ではないのだ。……普通は。
だが、ここの中間地点はそうではないらしい。
清らかに透き通った水に満たされている湖。そして、ゆったりと曲がりくねった道の周り─正確には、湖の際─には、透明に近い白い彼岸花のような花が咲いていた。
そして、壁や天井には相変わらず、宝石達が散りばめられている。湖の水と宝石達が反射し合い、互いの輝きを乱反射させていた。
周りの空気すら、輝いているんじゃないかって錯覚を起こしそうだ。そんなことないはずなのに。
「ここに来てから、ファンタジー感溢れる景色に見飽きたと思っていたけれど……この考え、撤回します。ごめんなさい」
「ラル、誰に謝ってるの……? けどまあ、気持ちは分かるよ」
そして、この小道の先になにやらオブジェ的なものが見える。あれがルーメンさんの言っていた機械だろうか? 遠くていまいち、細部まで見えないが。
「こういう風景を幻想的って言うんだろうね。遠征で見た湖みたい」
「……遠征?」
「最初に参加したやつ」
あ、はい。理解した。
そういえば、いつかのツバサちゃんの魔法を見たときも同じ風景を思い描いたっけ。いやはや、それほどまでに記憶に残っているのだろう。似たようなものを見ただけで、ぱっと思い出せるくらいには。
「ゆーちゃん、元気かな」
「そこでユエの名前を出す……!? 確かに久しく会ってないけど!」
ゆーちゃんこと、ユエは、かつて私達が遠征で出向いたとある湖の護り手。所謂、守護者だ。彼女曰く、「ちょっぴり偉い人なんですよ?」とのこと。どこの界隈とは聞かなかったが。……だって、まあ、ある程度予測できるし?
それはさておき。
この彼岸花、初めて見る色をしている。ほぼ透明では? というか、彼岸花ではないんだろう。似ている何かなんじゃなかろうか。
私は植物博士ではないから、何でもかんでも知っているわけではない。それでも、こんな不思議なものは見たことがない。これもまた、ここのダンジョンにのみ自生する植物の一種なのだろうか?
私は興味をそそられて、そっと手を伸ばした。そして、花とは似つかない感触にぎょっとする。
「? どうしたの?」
「えっと……きゃっ!」
「ラル!?」
ティールの方を振り向こうとした瞬間、手元の花が、ぱきんと小さな音を立てて割れてしまった。
私の手には小さな花弁……というか、その欠片だけが残る。
「……えへ。割れちゃった☆」
「割れちゃったじゃないよ。っていうか、花って割れるもんだっけ」
「いやぁ~……知らん。というか、ティールがちゃんと見た方が分かるかも」
「……? そう、なの? じゃあ、見るけど」
私は花弁だったものをティールに手渡した。彼はそれをまじまじと観察し始める。
「……これ、水晶だな。……つまり、その花は」
ティールの解答に私はにこっと笑って見せる。そして、立ち上がりながら大きく手を広げた。
「全て水晶でできているんだと思うよ。私が割ってしまったものだけじゃなく、ここにある全ての花が水晶なんだと思う」
「うっそだぁ~……信じられないよ。……信じられないけど、目の前にあるし、紛れもない事実だって受け入れるしかないよな」
そういうことになるね。
更に、この花をよくよく見てみれば、人工的に作られたものではなく、自生しているものであると分かる。地面から生えているし、何より、一つ一つ形が違う。それに、仮に人工的に造ったと仮定したところで、わざわざ、こんなところに置いておく意味はない。しかも、こんな大量にだ。意味が分からない。
そもそもだ、こんなものを人の手で造れるものなのか?
「ねえ、ティール。馬鹿なことを聞いてもいいかな」
「……なんだい?」
「こういうのって造ろうと思ったら造れるもん?」
「ん~……どうだろう? ぼくは造形に詳しくはないから。でも、水晶を人が軽く触れただけでも割れるくらい薄くするってのは、現実的ではないと思う」
そうだよな。なら、これは、自然とできたものであると考えた方が自然か。……いや、自然なのか?
「次の質問。こういうものが自然界に存在するってのはあり得るの? ティールはそういう事例、知ってる?」
「知ってたらさっきの発言はしないと思うけど?」
……ですよね。確かめたかっただけだよ。
「でも、自然の力だけでこうはならないと思う。なんらかの力は働いてるんじゃないかな? それが『技』なのか『魔法』なのか『術』なのか……或いは、『能力』の一つで保たれているのかは分からないけど」
「はは……なるほど。それならいっそ、神の御業によるものでしたってのが一番納得できそうだよね」
半分冗談みたいなものだったのだが、ティールからの突っ込みはなく、数秒の沈黙が二人の間に流れた。
「……人間がやりましたってよりは納得できる説だよ。神秘的でリアリティはないし、ラルらしくもないなげやり解答だけどね」
「私らしくもない解答で悪かったな。でもさぁ、実際に存在する訳じゃないっすか。神様は」
「まあ、ねぇ……じゃあ、その神様は何のためにこれを造ったの?」
「……趣味かな」
「それ、真面目に考えた?」
「ごめん。適当」
私は再び花の傍にしゃがみ、割ってしまった花にグローブを外した手で触ってみる。
肌で触ってみても、生花のような感触はないが、まるっきり作り物だと思えない。なんとも不思議な感覚である。
割れた部分はいつの間にか丸みを帯び、ガラスのような鋭さはない。水晶が割れたのだ。そこは鋭利な刃物並みに鋭さがあるものだと思ったのだが。……こういうところを見ても、これらは生きていると仮定した方がよさそうだな。
私はもう一度ほんの少し、力を込めた。すると、やはり簡単に花は割れる。断面を見ると、不用意に触れてしまえば、怪我をしてしまうくらい鋭さがあった。
そして、興味本位で自分自身の手の甲を切り裂いてみた。当然、鋭い刃物でつけられたような切り傷ができあがる。
「お~……切れた」
「ちょっと!? ラルさん!?」
ティールの慌てた声は無視し、私は花を凝視する。割れた断面から水滴が溢れだし、刃物状態だった断面を丸く整形し直していた。
……うーん? どういうメカニズムなのだろう? 人で言うところの、かさぶた的なものなのだろうか?
「ラル!」
悶々と考えていたところにティールが私の腕を掴み、無理矢理立たせた。そして、私の目線を合わせて、じっと見つめてくる。その瞳にはどこか怒りの色がちらちらしているような……していないような。
「今、何した? なんで自傷行為したの? 意味が分からないんだけど?」
「え……興味本位……?」
「はぁぁぁ!!??」
あ、これは怒ってますね。とりあえず、言い訳しておくか。通用するかは分からないけれど。
「こんな簡単に割れるからさ、殺傷能力はあるのかな~……って気になって。断面がよく切れそうだなって思って……その、つい?」
「そんなくっだらない理由で今の行為が許されると思った?」
「死ぬようなことじゃないからいいかなと」
「基準がおかしい!! 死ぬような行為じゃないなら何やってもいいことにはならない!」
でも、こんな切り傷、日常茶飯事では?
「戦闘の末にできるのと、故意にやるのとでは意味合いが変わるから。事故と故意は後者の方が罪深いの。分かる?」
「……そうなの?」
「そうなの。……手、出して」
私はティールに言われた通りに手を出した。すると、どこからか取り出した傷薬と包帯を使って、てきぱきと怪我の手当てをしていく。
「大袈裟じゃない? 仰々しく手当てしなくても……」
「この後も戦闘するんだから、きちんと手当てしておいて損はない。それに、ばい菌とか入ったら困るでしょ」
ま、まあ……そうなのかな。
なぜ、ティールがそこまで大事にしていくのか分からないが……やりたいようにさせておこう。
こんな傷、ほっといても問題と思うんだけどなぁ……?



~あとがき~
思ったよりも進まなかった。

次回、中間地点でのお仕事は続くよ!
仕事すらしてませんけど!

語りたいことはないです……まだまだ続くのでお付き合いくださいとしか言えない。
なんか、そこまで探検してる! モンスターと戦闘してる! みたいなシーンがないですが、きっとこれからです。

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第242話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわちゃわちゃしてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ティールが一人であわあわしているところをお見せしました。
というか、一高校生がお化けにあわあわするってどうなんすかね。……前にも言ったかな?(笑)
今回から視点は戻ってラルちゃんです~


《L side》
「あっ! そう言えば……ラル、どこに行ってたの!?」
何かにビビったり、私との再会を泣く程─実際は泣いてないが─喜んだりしていたティールだったが、突然、ハッと思い出したように問い掛けてきた。
「どこって……どっかの誰かさんが押したスイッチのお陰で、入口まで戻されたのよ。正確には、ここのフロアの入口か」
「う。ごめ……え、でも、なんでこんなに早く戻れたの?」
「あぁ……どっかのアホが押したものと同じものが入口にもあったのよ。だから、短時間で戻れた……試してみようか?」
「あの、君、結構根に持ってる……?」
それなりにな! だって、相棒の危機かもしれないときに呑気に隅っこに座り込んでたのだ。恨まない方がどうかしている。
私は飛ばされる前に立っていたところへと戻り、床を指差す。
「ここに描かれている魔法陣が飛ばされた先にもあったの。見たことがない仕掛けだけれど、多分、場所固定のワープスイッチみたいなもんかな」
予め指定された場所へと移動できるみたいなものだろう。ダンジョンにしては珍しい罠があるものだ。
「なんなら、試してみる?」
「え」
私は困惑しているティールの手を引いて、二人で魔法陣の上に立つ。そして、先程、ティールが盛大に転けた辺り目掛けて、お手頃な石を投げてみる。
石が地面に落ちる音とカチッとスイッチの押されたような音が聞こえたところで、視界が暗転。一瞬にして、入口へと戻ってきた。
「うわ……本当だ」
「でっしょー? んで、ここのスイッチは~……これだ」
再び、スイッチを押して、白い花が咲く場所へと戻ってきた。まあ、これに何の意味があるのかは分からない。また最初からやり直しかよー!……と探索者をイライラさせたいだけの罠なのだろうか。或いはここへショートカットできる裏道なのだろうか。
……うーん。両方かもしれない。そもそも、入口のワープに気づかなければ、やり直しになるのだ。見つけられたらラッキーくらいなのだろう。多分。
「……で? 蒸し返すみたいで悪いけど、ティールはどうして、何にもないところでぶるぶるしてたわけ? 怖いとか何とか言ってたけど」
「はっ! そうだよ! 声! 声が聞こえてきたんだ! あのアンナさんの話のやつみたいなのが!」
興奮気味に私の肩を掴み、ティールの身に起こった奇妙な現象の説明を受けた。
要約すると、私とはぐれた直後、誰もいないはずなのに声のみが響いたと言う。それを彼は幽霊の仕業だと思って、ビビってたとのこと。
「幽霊ねぇ……そんな気配ないから安心しろ」
「でも、はっきり聞こえたんだよ……?」
ティールが嘘をついているとは思わないが、今は特に何も聞こえてこな……
──おま…………しは……つけ──
……おっと?
「ほらほらほらー!! さっきとは違うやつ! 別の幽霊だよー!!」
いや、だから、何も感じないってば。
そう説明しても、確かに声は聞こえている。その事実だけで、ティールは完全に冷静さを失っていた。がっちり私をホールドして、ぶるぶる震え始めている。ついでに、声を聞かないためか、永遠に喋り始めている。
めっちゃ、動きにくい……! そして、うるせぇ!
あぁ、もう。動けないのなら、頭を動かすしかないか。
声が聞こえてきたとは言え、やはり幽霊の類いの気配は全く感じない。つまり、これは幽霊の仕業ではない。ならば、なんらかの仕掛けがあるはず。
では、私達はここで声がする前、何をしたか。
答えは、ワープスイッチを押した、だ。恐らく、これが原因。つまり、ここでティールや私が押したスイッチは、罠を起動させるだけでなく、声を再生するみたいな役割もあるのだろう。
では、あのスイッチが再生ボタンだと仮定する。ならば、どこかに再生機……スピーカーのようなものが存在するはずだ。しかし、それらしきものはない。……ここにあるのは、少しの水辺と白い花だけ……と、いうことは。
ふむ。……信じがたいが、スピーカーの役割を果たせるものは、あれしかないという結論に至るわけか。
私から離れないティールを引きずりつつ、私は白い花に近づいた。その花をよくよく見てみれば、トランペットの口に似ている。蓄音機の部分というか、音を出す部分に。
ティール、一回黙れ。そして、ここにしゃがんで、よく聞いとれ」
「うん……?」
私とティールはこの白い花の近くにしゃがみ、そっと耳を澄ます。
『──お姉さま! みてて、みてて~!』
花から無邪気な少女の声が聞こえてきた。それに続くように、女性の声も聞こえてくる。
『セラちゃん!? そんなに近づいたら危ないよ! って、これはー!!』
『お前ら、少しは落ち着け!』
と、二人の行動を制止するような男性の声が聞こえて、この花からは何も聞こえなくなった。
「……えっと?」
「これが喋ってたってことよ。あ、いや、違うな……この花が聞いていた声を私達が再生させた、と言った方が正しいのか。多分、そういう性質を持つ植物なんだと思うよ。録音再生できる、花みたいな?」
「んな、機械みたいな花が実在するの……?」
んなこと言われても、実際に目の前にあるから信じろ。よかったな、幽霊じゃなくて。
「そ、そうだけどさ。っていうか、今聞こえてきた声の主って……父上と母上だよね?」
私は無言で頷く。
スイちゃんとセツちゃんがブライトさんとセイラさんとも来たことがあると言っていたから、そこに驚きはない。驚きはないが。
「声にあった『セラ』ってのは、理事長の愛称だったはず。つまり、ブライトさんとセイラさんは、当時幼かった理事長とここへ来ていたってことかな」
ってことは、スイちゃんとセツちゃんは理事長ともお知り合いの可能性がある。ツバサちゃんが二人の声を聞くのだ。母親である理事長に聞けてもなんらおかしくはない。
ティールも同じことを考えたのだろう。花から目線を外し、自身の腰に帯剣される二人をちらりと見下ろす。
「……おい、スイ、セツ。お前ら、んなこと一言も言ってなかったよな? え? まさかとは思うけど、理事長とも知り合い……?」
『うゆ。しりあい!』
『しりあい!』
「ぼくが学園に入学してから一回も聞いた記憶がねぇ……!!」
「仕方ない。スイちゃんとセツちゃんだもん。多分、聞かれないと言わない」
「そうだけど! そうなんだけど!!」
まあ、真面目なティールが、理事長と会うときに剣であるスイちゃんとセツちゃんを連れるわけがない。だから、今までは感動の再会場面がなく、二人もわーわー騒ぐことがなかった……と、思う。多分。
さて、話を戻そう。
ティールがびくびくしていた声の正体は幽霊ではない。この花が記録した音声であった。ついでに、声の主は若かりし頃のティールの両親とセラフィーヌ理事長だった、と。
「謎が解けてよかったね。ほら、そろそろ先に進もう。思いの外、ここで時間取られたわ」
「はーい」
……そういえば、この花の再生方法は分かったが、録音はどう行っているのだろうか。ブライトさん達の音声を聞くに、この花の存在に気づいていた素振りはなかった。つまり、また別に方法があるのだろう。まあ、分かりやすい仕掛けと言えば、ワープスイッチが押されたときに、再生と録音を同時に行っている、とか。
仮にそうなると、私の相棒の醜態がどれかの花に記録されている可能性がある。……ってのは、言わないでおこう。ティールの尊厳に関わる。いや、やつに尊厳があるかは置いておいてだな。
私はあの不思議な花について考えるのをやめた。これ以上考えても、憶測の域を出ない。あれこれ考える必要はないと思ったのだ。あんまり、意味ないし。
「それにしても、ブライトさんとセイラさん、随分と理事長に振り回されてたね?」
「ん? あぁ……そだね。そういう話はルーメンさんから聞いてたけど、なんか予想以上だったな。父上、結構苦労してたんだなって」
「何て言うか……絵に描いたようなお転婆少女って感じだったね。理事長」
「あ、はは……うん。そうだね」
理事長的には、このお転婆時代をどう思っているのだろう。こんな時代もあったと笑って流せるのか、恥ずかしいと顔を赤らめるのか……うーむ。聞いてみたいが、そんな機会があるはずもない。……とりあえず、保留で。
思いがけない収穫(?)もありつつ、私達は第一目的地である、中間地点へと歩を進めた。
ここまで長かったんだし、目的地まで、あと少しだろう。ようやく、一つ目の依頼が果たせそうだ。



~あとがき~
単なる通過地点のはずなのに、ここまでが長いな!?

次回、中間地点到着!
ラル達は一つ目の依頼を無事に達成できるのか?

このお花について、相方と色々話して設定もある程度決めてるんですが、公開するところがないですね。残念。
全部終わって、ルーメンさん辺りが話してくんないかな……まあ、そんな機会も必要性もなさそうですが。

ではでは。

空と海 第240話

~前回までのあらすじ~
セイラが楽しそうに振り回していたり、旦那と息子の関係性を心配したりとそんな回でした。
さて、今回はがらっと雰囲気が変わって、真面目なお話をする三人にスポットを当てます。親方に真面目な話ができるのかってところは置いといてな。


ポチャ達と別行動をするピカは、プクリンギルドにある親方部屋にて、海の国の国王を交えた緊急会議を執り行っていた。本来であれば、四天王達が話し合いの場として使用する中央の島で、かつ、他の四天王達をも交えるべきである。しかし、早急に話をするべきというプクリンの判断の下、四天王補佐であるピカと、四天王の一人であるプクリン……そして、海の国の長、ブライトの三人のみで話し合いの場を設けたのだった。
「まずは、遠くまでご苦労様! 大変だったでしょ~♪ というか、護衛がいるもんだと思ってたよ?」
相手は王様であるというのに、プクリンは普段通りの話し方であった。とはいえ、これが通常である。ブライトも気にする様子はなく、小さく首を振る。
「護衛なんて連れた日には、到着が遅れてしまう。……できる限り早くというのが、そちらの希望だったはずだが?」
「うん♪ ご協力感謝だよ~♪ んじゃあ、話をしよっか。ピカ!」
「はい。親方」
プクリンに促され、ピカは二人に向かって話を始める。
「親方も仰いましたが、私からも。ここまでのご足労感謝します、ブライト王。事前に知らせた通り、本日は数日前に発生した闇絡みの事件についての共有と現状の把握。それを踏まえて考察をできればと」
「あぁ。理解している」
「あら。それは話が早くて助かりますわ」
「よそ行きピカの話し方は、いつ聞いても面白いね~♪」
「……親方、少し静かにしていてくださいませ?」
どこにいても、誰と話していてもプクリンプクリンである。それが彼の良さではあるが、今はただ単に邪魔でしかない。
気を取り直して、ピカはブライトに向き合う。なるべく、茶々入れてくるプクリンは無視しつつ、である。
「事件の概要はご存知のようですので、説明は省きますね。……結論から申し上げます。とある集落に住む全員に多かれ少なかれ、闇の侵食である症状が見受けられました。そして、我々は始まりに過ぎないと考えています」
「……ふむ。その根拠は?」
「夏祭りにおいての襲撃事件です。それには裏で手を引く人物がいました。……この先の意見は、その人物と対面した私の主観ですが……その人、その人が率いる団体が、本格的に動き出していると思われます。それが今回の事件。そして、これから似たようなことは増えていくと思います」
「なるほど。今回の件は自然発生ではなく、人為的に引き起こされた、と。ピカさんの言う、その団体とやらに」
「……えぇ。恐らく」
実際の現場を見たわけではないが、イブ達の話、キアこと、アイトの話……そして何より、紅と対峙したフォースの話を踏まえれば、簡単に今回の答えに辿り着いた。
善意な人々に闇を植え付ける実験。その実験台にザゼル達は巻き込まれた。もちろん、心の隙間にアイトの力を自分達だけで使えたら、なんて欲があったために、利用された。しかし、そのような欲はある種、誰にでもある感情の一つでしかない。
「誰でも持つ欲が何倍にも膨れ上がり、その欲は悪へと染まる。……ブライト様、これは多分、陸だけの問題ではないのでは?」
「……正解だ。我が国やルフトが治める空の国でも似たような話は聞く。……理由なき暴動、事件がな。幸いにも死者がいたという話は聞かないが……このまま放置するわけにもいかない。……しかし、だ。この件に関して、解決法はあるのか?」
その問いに、ピカは答えられなかった。
簡単に言うのであれば、元凶を叩けば、この人為的な闇の侵食は収まる。しかし、それが簡単でないのは、この場にいるピカが一番分かっていた。
「闇に打ち勝つには強い心を持てー!……みたいな、今時びっくりの根性論が一番の有効打なんだよね~♪」
沈黙を破ったのはプクリンだった。いつもみたいに明るく前向きな声で、何でもないように話した。彼の言葉にブライトは小さく笑う。
「なるほど。我を強く保て、か。分かりやすい対処法だ」
「でしょ~♪ 自分に自信を持ち、欲に負けない。光を失わない。そんな夢みたいな、希望論みたいなことが一番の特効薬。……あは。一番、作るのが難しいお薬だね」
「違いない。……きっと、それを作れる人はこの世にはいないだろう。誰でも欲はあるからな」
「そだね。きっと、これには終わりがない。……だから、むずかしー問題だと、ボクは思うなぁ」
トップに立つ二人には、多くの人々を守る義務がある。だからこそ、対処法がない今は歯痒く思うのだろう。希望を捨てるな、という夢物語だけでは意味がない。
何か、行動を起こさなければ、負の連鎖は止まらない。終わらないのである。その連鎖を断ち切るには、どうすべきなのか。ピカはずっとそれを考えていた。夏祭りの際、紅と対峙したそのときから、ずっと。
元凶を叩く。その方法を。
「ピカ」
「……はい?」
「君は、どうするつもりだい?」
「どう、とは」
「過去二回、この世界を救った英雄は、どうするのかなって。……ボク達は、期待してもいいのかな?」
「へ? 期待……?」
質問の意図が見えてこず、ピカは思わず聞き返してしまう。それにプクリンは答えなかったが、代わりにブライトの苦笑が返ってきた。
「それは大きなプレッシャーを背負わせる問いではないか? とは言え、私からも問おう」
「は、はい!?」
「今回の件……そして、これには大きな何かを感じる。数年前に起こった……世界を変えてしまうくらいの、大きな何かを。その再来を思わせる。……しかし、過去にそれを覆したのは貴女だ。そんな貴女に私達は希望を託してもいいのかな?」
「……私に、ですか?」
「そう。そして、ピカさんが信頼する仲間に」
ピカは自信を持って、もちろんですとは言えなかった。過去のそれらは、対処法を知っていたから、それをやり遂げる思いで貫き通しただけのことだった。しかし、今回は何をすべきなのか導いてくれる人はいない。かつてのパートナーだったジュプトルや、夢の番人であるクレセリアのような助っ人なんていない。
それでも、ピカのやろうとすることに変わりはない。それをずっと思案していたのだから。
「私は英雄ではないですよ。そんなに強くないですから。……ないけど、黙って事の顛末を見届けるつもりはないです」
「ふふ♪ ピカらしいね~♪」
「うるさいですよ、親方。……ブライト様。もう少しだけ、考えさせてください。この先の行動については……まだ、まとめられなくて」
「いや、いいんだ。少し、意地悪な問いをしてしまった。……だが、それほど、貴女に期待しているということを知っておいて欲しい。過去の偉業とは、そういうものなのだ」
昔にやったから、今回もと期待するのは普遍の心理なのだろう。状況も、環境も何もかもが違ったとしても、それを理解するものはいない。
「分かっています。……私には頼もしい仲間がいますから。それだけは、何があっても変わりません」
そして、ピカの抱く思いにも、何ら変わりがないことも、彼女自身がよく分かっていた。



~あとがき~
お? なんか真面目だぞ??

次回、話は戻りまして、イブ達へ!
セイラの面倒を見るポチャ達です。

さらっと流したけど、この辺りからなんとなく物語は動き始めてる感じするね。メインの方な。
いやぁ……動くの遅くね??

ではでは!

はちねん。

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ついでに、小説版空海も8年経ちますのイラスト(笑)

昨日を持ちまして、ここのブログを開設して8年が経ちました。
そこまで意識してなかったのですが、つい最近、ブログ編集ページが変わっていて……ってのも、私が気付くの遅かった可能性もあるけどね!?
とにかく、編集ページに開設日が表示されるようになってから気付きました。そんなに経ったのか……(笑)
まあ、気ままにやってますので、何か変わるわけではないんですが。とはいえ、更新ペースに波はあれど、8年続けているのも素直にすごいなぁと自画自賛しようかと思います。ほら、8って末広がりで縁起がいいって言うし? 自画自賛してもいいよね?? 自分を褒めるのも大切だもんな……な!?
とまあ、久しぶりに小説とか物語関連ではない何かを出したかっただけなんすけど!!

最近の近況とやらも話せるほどのネタがないので、しれっと終わろうかな……(笑)
あ、今月末、ポケモンスナップが発売されますね。騒いでないけど、楽しみです。当日は仕事を休みにして楽しもうかなって思ってますよ。ええ!
騒いでないけど、今年はダイパリメイクもありますね。騒いでないけど。
もちろん、発売日が分かり次第、仕事を休みにして楽しもうかなって思ってますよ。ええ!(2回目)
ここまで来ると、趣味のために仕事をしてる気がしてきました。よきかなよきかな~

さて、小説版空海も8年経ちます。
8年かけて半分くらいなので、終わりまでまだまだっすね~……(笑)
いつも言ってることなんですけど、最後まで書くつもりはあるので、のんびりお付き合いくださると幸いです。月1ペースだけど……!
全盛期は週に3つとかばんばん出してたのにな~……おっかしいなぁ…(汗)

さて、これからものんびりと好きなことをこの場でやっていくとは思います。基本、お話作りがメインだとは思いますが、たまーに絵だったり、どうでもいい話だったりしてるかと。
そんなんでも見て、楽しんでくれたら幸いです。
ではでは。

学びや!レイディアント学園 第241話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界であわあわしてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ラルに何かが起きました。
そんなこんなで、幽霊がいるのでは!? と、一人で勝手にソワソワしているティール視点でお送りします。


《Te side》
ラルがいきなり、アンナさんの話がここ、『奇跡の洞窟』で起こったことなのではないかと言い出し、ぼくの中ではよくないものがぐるぐるしてしまった。
その結果、何かに躓いて、情けなくも綺麗に転んでしまった。非の打ち所がないと思うくらい、綺麗に転けました。
「い、いてて……なんなんだよ~」
いや、自分の不注意のせいだ。怪談話を思い出して、足元が覚束なくなったたけだ。恥ずかしいことに。
でも、こういうときに、良くも悪くも話しかけてくる相棒が何一つ言葉を発してこないのはなぜだろう。
「……ラル?」
気になって、後ろを振り返る。しかし、そこには誰もいない。……そう、誰もだ。
ぼくの不甲斐なさを見て、からかっているのだろうか。その辺の物陰に隠れている……とか?
そう思って、辺りを見回してみてもラルの姿は見当たらない。なんなら、気配すらも感じない。まあ、彼女が本気で気配を殺してしまったらぼくが見つけられるかは自信がないが……それにしたって、人気がなさすぎる。本当に、彼女はどこへ行ってしまったのだろう?
『るー、きえちゃった』
『てぃー、かちってやったら、るー、きえちゃったよ?』
……んん??
こいつらの話をまとめると、ぼくが転けた拍子に何らかのスイッチを押してしまったのだろう。それが原因で、ラルはここからいなくなってしまったと。
『てぃーがかちってしたの、あずがかちってしたのとおんなじ~』
『おんなじおんなじ~』
「お祖父様が? ってことは……」
アンナさんの話では、どんな流れだったろう。相棒と別れてしまった男……お祖父様は、ここで声を聞く、んだったか。どこからともなく、聞こえてくると言う謎の声。振り返っても、声の主が見当たらないやつ……!?
ぼくは慌てて、もう一度、辺りを見渡してみる。が、ラルの姿もなければ、声を発するかもしれない「何か」もいない。
……そもそも、スイッチを押して少し経ったが、声なんて聞こえてこない。ということは、アンナさんが話していた怪談はここではない? それなら、とっても嬉しいんだけれど。
──い…………まっ……──
聞こえて……こなかったら、嬉しかった、んだけどな。
「スイ、セツ。今、何か言った?」
ぼくは一縷の望みをかけ、愛剣に問い掛ける。こいつらのイタズラだと思いたいだけとも言う。
『う? なーにもいってないよ?』
『いってなーい!』
想像通りの答えが返ってきた。いや、できるなら、実はスイとセツでしたってのが一番なのだけれど。
だって、聞き慣れたスイとセツの声じゃなかった。分かってたさ。ついでに、ラルの声でも、雷姫さんの声でもない。
ってことはだ。……ってことはだよ?
「まって……まって……」
今度はハッキリと聞こえた。
声がした方を振り向くも、そこには誰もいない。あるのは、水辺とその周りに咲く花だけだ。つまり、ぼくに見えない何かがいる。それが幽霊なのか、実体のある敵の特殊効果的な何かなのかは分からない。いや、後者なら、少なからず気配がするはずだし、それなら、スイとセツが教えてくれるはず。
考えたくもないのに、頭の中では信じたくもない事実を明白にしていく。理解せざるを得ない。
『てぃー?』
『らいじょーぶ?』
……大丈夫かって?
「大丈夫なわけ、ない……!」
二人と話している間にも、不明瞭に聞こえてくる謎の声は止まらない。声は聞こえてくるのに、声の主は見当たらない。
前みたいに、実は幻術のせいでした!……という、展開にならないだろうか。知らないうちに幻術かけられて……いや、そもそも、幻術を使うような敵に遭遇していない。そして、イタズラ好きなラルも幻術使いではない。というか、こんな大事な仕事中にしょうもないイタズラするわけがない。
だったら……だったら、今の状況をどう説明できる?
幻術でもなく、スイとセツのイタズラでもなく、ラルが仕掛けた何かでもない。
どうにかこうにか、「原因は幽霊」という信じたくない事実を覆したい。が、考えれば考えるほど、それは無理であると思い知らされる。
と、ここまでが冷静に思考できたところ。思考した結果、冷静でいられるかはまた別問題である。
「────っ!!」
言葉にならない声を出し、できる限りこの部屋の隅へと移動した。もちろん、今のぼくにできるトップスピードで。
そして、フードを被り、且つ、両手で耳を塞ぐ。一応、効果はあるらしく、聞こえていた声は小さくなった。
『てぃー?』
『ぶるぶるしてるの? せっちゃ、なーにもしてないの?』
知ってるわ!! お前の冷気に震える程、ぼくは寒さに弱くない!!
……なんか、前にも似たようなやり取りをしたような。いや、どうでもいいけど!
「なんで、こういうときにラルはいないの……? いや、ぼくのせいか……ぼくの馬鹿」
知らなかったとは言え、謎のスイッチを押してしまったのはぼくだ。ラルは不可抗力でどこかへ飛ばされてしまっただけ。
どうしよう。ラルに何かあったら……ラルもお化けに襲われ……たとしても、彼女なら、ぼくみたいに怯えることはない。なんなら、真顔で退治してしまっているかもしれない。なら大丈夫か……
今は自分自身の心配をすべきか。これからどうする? 聞こえてくる声の正体を暴く? いやいや、視える目を持たないぼくにできるはずがない。今回はなぜか、声だけは聞こえてくるけれど……だからといって、対処できる手立てがない。できることなんて、この場からダッシュで逃げるくらいか?
……そうしようかな。うん、そうしよう。
これからの方針を決め、ぼくは恐る恐る耳を塞いでいた手を外した。
それと同時だった。背後に何かの気配を感じたのだ。
ううん。きっと、ぼくが一人でぐるぐる考えていたときから、少しずつ近づいてきていたのだ。それに、ぼくは気づけなかった。
ぼくが半ばパニックになっていたのもあり、武器に手を伸ばす動作にも入れなかった。
そして、その『何か』はぼくの肩にそっと触れた感触がした。そこで、ぼくの理性は恐怖に支配され、声となって爆発した。
「うわぁぁぁぁぁっ!!??」
「おおう……そこまで驚くとは。ごめんね? もしかして、私の声、聞こえてなかった?」
「え…………ら、る?」
「? うん。そうだけど」
ぼくの背後にいた『何か』は、お化けでもなく、魔物でもなく、ぼくの相棒ラルだった。
探検隊服に身を包み、綺麗なブロンドの髪もサイドでまとめている、さっきまで一緒にいたラルそのものだ。
「ほ、ほんもの……?」
「あの……なんで偽者だと疑われているのかさっぱりだけど、私だよ。お前の相棒でリーダーで美少女ラルちゃんだよ☆」
と、くるりとターンし、ウインクをする。それをぼくは黙って見ていた。数秒の沈黙後、ラルはキッと目を吊り上げた。
「黙るな! 突っ込め! 恥ずかしいだろ!?」
「ご、ごめん……色々あって、理解が追い付いてなくて」
「私もだわ!! あんなに分かりやすいボケをスルーされるとは思わなかったよ!」
そこかよ!?
……あぁ、でも、ラルに何もなくてよかった。大丈夫だろうとは思っていたけれど。
ぼくは安堵から特に深く考えず、ラルを抱き締めた。さっきまで滅茶苦茶怖かったし、不安だったのもある。
「な、何!? ちょ、ティール!?」
「……めっちゃ怖かった」
「そ、それは……その、心配かけてごめ─」
「こんなところで一人にされて怖かったー!!」
「……そっちかよ!! 私の心配しろ! お前の相棒が大量のゴーレムに囲まれてるかも~……みたいな!? そういう心配をしろや!!」
無理矢理ぼくから離れ、一気に捲し立てる。確かに、そういう可能性もあったのかと今更ながらに思った。いや、少しは考えたな。何かあるかもしれないくらいは。でも、ラルの言う具体的なものは全くで。
「ごめん。する余裕あんまりなかった」
「このやろー!!」
一人でいるときは嫌なことばかり考えてしまったけれど、ラルが戻ってきた途端、いつもみたいなくだらない話をするくらいには調子が戻った。
うん。やっぱり、ラルと一緒にいる方が心強いや。



~あとがき~
本当はもう少し書きたかったのですが、長くなりそうだったので、おしまいです。

次回、謎の声の正体とは!?

ティールの幽霊絡みのあわあわを書くのは何回目だろうか。ここまでポンコツにするつもりはなかったけどね……おかしいな。
まあ、いいか。おもしろい(?)し。

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第240話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で探検してる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
いい感じにダンジョン攻略をしている気がします! いいぞ! 探検してる! ファンタジーっぽいぞ!?
ラル「学生感はないけどね~」
それは夏休み謳歌してるってだけでクリアしてるので!
ラル「幅が広すぎやしません?」


《L side》
数々のゴーレムを倒しつつ……いや、ゴーレム以外にもいないことはないのだけれど。基本、ゴーレムを倒しつつ、順調に奥へと進んでいた。
「ふー……戦闘は楽じゃないけど、まあ、何とかなるくらいだな。この先も気を抜かずに……ティール?」
例のごとく、アイアンゴーレムなるものを屠った後、ティールは壁に手をつき、何やら考え事をしているらしかった。私の呼び掛けにも答えず、じっと壁を見つめている。……正確には、壁から露出している宝石、だろうか。
「おーい? ティールさんやーい?」
「……! あ、ごめん。何?」
「それはこっちの台詞よ。何か気になることでもあった?」
「まあ、ね。……多分、今回の探索には関係ないんだけど。ここって、階層ダンジョン……つまり、下へ降りていくタイプだろ? で、下に降りていく度に、ここの宝石の数が減ってる気がしてさ」
……ほう?
ティールに言われ、改めてぐるりと辺りを見回してみる。言われてみれば、入口付近と比べると、見えている宝石の数は少ない。
「それに、もう一つ気になることがある」
ティールは近くにある宝石二つを指差した。片方は青、もう片方は緑だ。どちらも親指の関節くらいの大きさである。
「これとこれ、大きさが同じくらいだよね? これだけじゃなくて、ここにあるほとんどが同じ大きさ……統一されているんだ」
……つまり?
「そもそも、ラルは宝石って何だか分かる?」
「えーっと……所謂、化学記号で使う物質が結晶化したやつでしょ? ダイヤモンドなら、炭素の塊。……みたいな?」
「うん。……永い年月を地中で眠り続け、宝石は出来上がる。ってことは、大きさにバラつきがあるはずなんだ。同じ場所で取れたとしても、結び付く物質が違えば、色も形も見た目すらも変化する。もっと言ってしまえば、全てが同時期に結晶化したとは限らないだろう?」
なるほど。ティールが言いたいことが分かってきた気がする。
人工的に造られた宝石なら、ある程度の大きさが揃っていても不思議ではない。しかし、天然物だとすると、大きさが統一されているという事実は不自然である。
しかし、入口付近でのティールの目利きじゃ、どれも質のよい宝石であると断言している。なら、これが造られたものではなく、自然にできたもの……だと、思う。
「見えない部分を含めたら、大きさがばらばらでした~……ってことはない?」
「うーん。それは、分かんないけど……どちらにせよ、見えている部分の大きさが統一されているという事実に変わりはないよ?」
……確かに。
「自然に露出すること自体が珍しいし、ここまで似通った大きさで見えているから……他の宝石が壁に埋まってるってのも考えにくい。……もちろん、実際はどうなってるかは、掘ってみないと分かんないけどね」
ふむう……
奥に進むにつれ、数を減らしていく宝石……そして、大きさが統一された宝石、か。
まあ、ここで考えたとしても、答えは見えてこない。理由、原因がさっぱりだ。
それはティールも分かっているらしく、困ったように笑い、「急にごめんね」と壁から離れた。
ティールが抱いた謎がここを踏破することで明らかになるかは分からない。が、少なくとも、ここで立ち止まるのは不正解なのは分かる。
私達はお互いに頷き合うと、目的地へと歩を進めた。

相変わらず、ちょいちょい出てくる敵を倒しつつ、進んでいく。
そろそろ中間地点が近いのか、洞窟の雰囲気も変わってきていた。時々しか見かけなかった水辺が増え始めたかと思えば、小さな川のような水場が現れ始めたのだ。
その周りに白い水仙のような花を見かけるようにもなった。私はそれを見たことがなく、ティールに目配せしたものの、彼も不思議そうに首を傾げていた。彼でも知らないということは、ここのダンジョン限定で自生する花……なんだろう。多分。
私が調べた中にあの花に関する情報はなかったため、無闇に近づくのは得策ではない。
ということで、無視しましょう。
『ほあ! すいちゃ、ここしってう!』
『せっちゃ、きたことある!』
と、ここでずっと大人しかったスイちゃんとセツちゃんが楽しそうに話し始めた。
『ねー! ここのふーいき、なつかしーの!』
『ねー!』
「……懐かしいって、お前らここに来たことがあるのか?」
『うん! あずとるっちゃがたんけんした!』
『むかーしにしたの!』
二人の言う「あず」は恐らく、ティールの祖父、アルドアーズさんなんだろうが……「るっちゃ」って誰だろう。私の知る人に該当者はいただろうか。
……いや、一人だけいる。アルドアーズさんと交流を持っていて、ここに来たことがあるかもしれない人が。
「ねえ、スイちゃん、セツちゃん。るっちゃってもしかして……ルーメンさんのこと?」
『あい! そだよ!』
『じっちゃがるっちゃのとき、せっちゃたちもきたんよー!』
『あとねー? いーちゃとせいちゃもある! ちょっとむかし!』
えーっと……? いーちゃとせいちゃって確か。
「ぼくの両親の呼び名。……じゃあ何か? お前らは少なくとも二回は来た経験があるってこと?」
というティールの問いに元気よく返事を返した二人。それに対して、私は苦笑いを、ティールは呆れた表情を浮かべていた。
「だったら、早く言ってくれてもいいんじゃない? ぼくら、ここに来てそこそこ進んでるんだけど?」
『ほあー……でもでも、すっちゃ、にたよーなとこ、いっぱいしってるのら』
『いったことあるのら。だから、すぐにわからないよー』
「はいはい。そーですか。聞いたぼくが馬鹿だったよ」
……ふむ。若い頃のアルドアーズさんとルーメンさんがここを訪れた……か。
私の中で、とある話が思い出される。昨日、アンナさんから聞いた例の怪談話だ。舞台は洞窟だったし、何かとタイムリーだったからか、あの怪談話のモデルはここなのではと思えてならない。仮にそうだとした場合、話に出てきた見知らぬ声だとか、いきなり相棒が消えるとかがあり得るということになってしまう。……それは、如何なものか。
「ラル? どうかした?」
「……んー」
この考えをこいつに言ってしまってもいいのだろうか。パニックにならないだろうか。大丈夫……な、訳がない。だとすると、黙っているのが一番なのだが、押し黙るのも難しそうな気がする。それに、何も知らない状態で、過去の二人と同じ目に遭った場合、それはそれで面倒である。一応、話しておこうか。
「いやね? 可能性の一つとして聞いてほしいんだけどね。あくまで! 可能性の一つとして!」
「な、なんだよ……やけに念を押してくるなぁ」
「重要なことだからだよ。……話を戻すと、この前のアンナさんの話、ここのことなんじゃないかなって」
「……え? で、でも、事前に集めた情報の中にそんなのあった?」
ティールの問いに私は黙って首を振る。
彼の疑問は最もだ。しかし、それの答えはなんとなく、予想ができている。
「恐らく、若いルーメンさん達が来た当時は、ギルドの管理下になかったはずだもの。だから、例の噂が流れていたんだと思う。でも、時が経ち、ギルドの管理下になってからは、立ち入る人が激減した。それと同時に、噂自体も忘れ去られていたんじゃないかな?」
まあ、一度立った話は人から人へ語り継がれ、結果的にアンナさんの語る怪談へと変化した訳だが。
私の説明を黙って聞いていたティールは、話が終わる頃には、完全にビビってしまい、顔も青ざめていた。
私の「可能性の一つとして聞いてくれ」という言葉はもう忘れてしまったらしい。こいつめ。
「こ、ここに来て、そんな可能性知りたくなかったよ! 幽霊がいるかもしれないってこと!?」
「いや、そこまでは言ってないけど」
「だって、あの話の元ネタはここなんでしょ!? なら、同じことが起きる可能性は十分じゃないか!」
いやまあ、そうだけども。……とりあえず、落ち着けって。
ティールは両耳を塞ぎ、一刻も早くここから立ち去ろうと早足で通りすぎようとしていた。それに何の意味があるのかさっぱりである。依頼が終わらなきゃ、出られないというのに。
「ちょっと、ティール! 一人で先に歩かないでよ。というか、ティールの場合、そういうときは大抵、よくないことが……」
「うわっ!」
起こる……と、釘を指す前に何かに躓いたのだろう。ギャグ漫画世界かと思ってしまうくらいに盛大に転けた。
それと当時に、何かを押してしまったような音も聞こえる。そして、押した本人に文句を言う間もなく、私は視界は暗転した。



~あとがき~
やらかしました。

次回、ラルとティールの運命や如何に!?

真面目に探検していたと思ったのに、途中から王道コメディみたいな雰囲気になってきましたね。冒頭、真面目顔で物事を語っていたティールが終盤、アホの子になっている気がしますね。なんでじゃ……

ではでは。