satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

学びや!レイディアント学園 第330話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でだらだらしてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回は馬車移動中の雑談回って感じでしたね。スプランドゥールに向かう道中では昔話したりしてましたが、今回は噂の話でした。
この噂がどうなるのか見物ですな(笑)


《L side》
スプランドゥールを出発し、馬車に揺られ続けること数時間。ようやく目的地である海の国の王都、リエンマイムへと到着した。
海の国はのどかな町並みも多いのだけれど、ここは国の中心とも言える場所。街は賑やかで人々の往来は絶えない。
白と青を基調とした洋風建物が多く並ぶ街並みは、当然ながらスプランドゥールの和と洋がミックスされた街並みとは全く違う。正に異国の地って感じがする。
「わー! とっても綺麗な街ですね!」
「ボクしってる! とーいつかんあるってゆーの!」
「おぉ♪ 難しい言葉知ってるな、雫~♪」
どうやら、私とティール以外は来るのが初めてらしく、三人とも馬車の窓から楽しそうに街並みを眺めていた。
「にしても、遠くの方に海も見えたし、名前の通りって感じだよな!」
「まあ、そうかな。……陸の国程、開拓しまくってる訳じゃないし、今でもダンジョン内に遺跡とか、そういう痕跡みたいなものが見つかるよ。レオンの言う遠くから見えた海の近くに海底遺跡があるらしいよ。まあ、詳しくは知らないけど」
海底遺跡!!??」
今でまで窓から景色を眺めていたレオン君だったが、ティールの「海底遺跡」という言葉に勢いよくこちらを振り向いた。そして、興味津々な眼差しをティールに向け、これでもかと詰め寄っていく。
「マジか! どんなところ!? どんな遺物が見つかるんだ!? どんな文明!?」
「く、詳しくは知らないんだってば。それに遺跡とかそういう重要文化財っていうの? そういうやつの大体が王家の所有物……つまり、国の管理下にあって、一般人は入れないよ」
ルーメンさんが管理するダンジョン、『奇跡の洞窟』みたいなもんだな。そうでなくても、各地のお偉いさんに認められないと入れない場所は多い。海の国では遺跡等々がそれに当たるわけだ。
レオン君はどうしても諦めきれないのか、じっとティールを見つめる。
「……俺がティールの友達で後輩でも?」
「君が友達で後輩でも、だよ。ぼくが判断できるものじゃないからね。まあ、絶対にないとは言わないけど……期待はしない方がいいよ」
「くそぉ~……滅茶苦茶、興味あんのに……っ!」
誰がどう見ても落ち込んでますオーラを放ちながら、その場に崩れ落ちる。考古学部に所属するレオン君は自分の知らない遺跡とか、滅茶苦茶興味あるし、行ってみたい欲が強いんだろう。気持ちは分かるけど、どうにもならないのが現状である。
「えーっと……ツバサちゃん、海の国に行ったことなかったんだね?」
落ち込み中のレオン君に話を振るわけにもいかず、かといってこの微妙な空気のままにしておけず、半ば無理矢理に話題を切り替える。
「はい。今までは特に国を出るような用事もなかったので。んと、私だけじゃなくて、レオンやアラシ達も陸の国から出たことないと……あ、でも、あーちゃんだけは海の国に親戚がいるらしくて、年に一度くらいは来るって言ってました!」
「……あぁ、アリアがそんなこと言ってた気がするな」
? ティールってそんな話をアリアちゃんとするくらい仲良かったか?
「たまたまそんな話をする機会があっただけだよ。サバイバル合宿の時、スイとセツがアリアに興味持っちゃって……そこからね」
合宿時というと、アリアちゃんとティールの二人で薪集めに行ってもらったっけ? その時か。じゃなきゃ、ティールだけが聞いたって状況に合わないもんな。
「……なんて言ってみたけど、ツバサから話が出なきゃ忘れてたと思うけどね。話よりもアリアの暴走の方が印象強くて」
「あー……アリアちゃんによるお肉狩りの話か。ま、それは仕方ないね」
「うん。……間違ってないけど、もうちょっと言い方ないの?」
ないよ。これが真実だもの。
ま、そんな話はどうでもよくて。
アリアちゃんが何度も来ているんなら、海の国の知識は教えてもらえたのでは?
……と、思ったのだが、ツバサちゃんはふるふると首を振る。
「あーちゃん、あの海産物が美味しいとか、あの郷土料理がよかったとか、あのお店はボリューミーでオススメとか……ご飯の話しかしてくれないんですもん。なので、私達は海の国についてあんまり知らないんです」
アリアちゃん……? それ以外にも興味を持とう? これは海の国に限らないけど、ご飯以外も色々あるぞ?
……とは言え。
海の国について、私も知識をひけらかせる程知っているわけではない。
王権主義国家で中心都市はここ、リエンマイムと呼ばれる王都。
スプランドゥールと比べると、冒険、探検に積極的ではないからか、探検隊や冒険者が闊歩するようなところではない。むしろ、旅行者、観光客の方が多い。……こんなもんだ。
「なんかさ、リエンマイムってリゾート地って感じだよねぇ。ここの特産品って宝飾品だったよね?」
「そうだよ。……だからってリゾート地なのかは分からないけど。国の特徴……あとは女神信仰があるって感じ?」
「ほえ。女神ですか?」
スプランドゥールでいうところのミルティアみたいなものだ。
海の国で信仰されているのは水氷の女神。ミルティアみたいに民を救った云々のおとぎ話があるわけではないが、遥か昔よりこの地を見守り、守護してくださっている女神……と言い伝えられている。
当然、国の人達は水氷の女神と話したこともなければ見たこともないから、この地に代々語り継がれる言い伝えみたいなものだ。「この国には女神様がいて、私達を守ってくださってるんだぞ~」的なあれである。
「女神様、大分美化されてるなと思う今日この頃です。私は」
「言ってやるな。……ぼくも思うし、本人も大袈裟だって笑うけども」
「? ラルさんとティールさんは女神様と会ったことあるんですか……?」
「そうだね。……王家の人というか、国王は女神の神託を賜った人なの。女神に認められないと駄目ってことなんだ。その関係で王家の人は一度は女神と謁見することになるから、ぼくも会ったことあるよ」
「女神様って会えるんですか!!」
「い、一応」
神の血を引き継ぐ一族がそこを疑うんかい。……と、思ったけれど、ツバサちゃんはそれらを知らないんだっけ?
しかしまあ、純粋な神であるミルティアとは少し意味合いが違うのも事実だ。
「水氷の女神……白雪は聖剣に宿るスイとセツの親みたいなもので、この地に根付く神様でもある」
そもそも、聖剣は力の神─フォース君のマスターさん─がこの世界に授けたとされる武器の一つらしい。その聖剣を人の子に渡す担い手の一人が白雪ちゃんって訳で。
相関図としては、一番上に力の神がいて、その下に白雪ちゃん、またその下にスイちゃん、セツちゃん……みたいな感じになる。
「白雪ちゃんと例の人とはあまり関係なさそうだよねぇ」
例の人とはフォース君だ。名前を出すわけにもいかないので、適当にぼかしておく。ティールには通じたようで、はにかみながら頷いた。
「そだね。どっちかと言うと、雷姫さんと横並びって感じかも。二人は嫌がりそうだけどね」
まあ、確かに?
今回は雷姫は関係ないので説明はしないが。
話が脱線してしまったが、まとめるとだ。
海の国は王権主義国家、ブライトさんの治める国。首都は王都リエンマイム。
海が綺麗で、自然豊かなこの土地には今でも遺跡等々、歴史の痕跡が見つかる。
国民には水氷の女神の信仰が根付いている。
こんなもんか。
ツバサちゃん達が白雪ちゃんに会うことはないし、遺跡に行くこともないだろうが、この国の基礎知識はこんなものだろうか。
「見えてきたね」
街中を走り続け、目の前に現れたのは大きな洋風の門。そこに門番のように佇む王宮騎士の姿が二人いる。
この門の先が海の国の王宮……ティールの実家がある。いやはや、いつ見ても別次元で、別世界の光景だわ。



~あとがき~
本当は王宮へGoしたかったけど、無理やった。
だって、きりがよかったんだもの!!

次回、海の国の王宮へ!

なにやら色々とごちゃっと説明しましたが、ここは国の説明をしただけであって、今後それが関わるのかと問われると、そんなことはないですね。
スプランドゥール編みたく、「この台詞がここの伏線にぃ!?」という仕掛けもないので。はい。

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第329話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でだらだらしてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ラル達は海の国へ向かうべく、スプランドゥールの街を旅立ちました。
海の国の登場人物達を登場させられるかは分かりませんが、その辺は追い追いとな。


《L side》
私達の乗る馬車には当たり前だが、私の他にもメンバーがいる。
ティール、しーくん、レオン君、ツバサちゃん、リラン(犬の姿)である。アラシ君は護衛のために騎竜と呼ばれるでっかいトカゲ(?)のような翼のない竜(?)のような、そんな移動動物に乗っている。私達の馬車と並走しながらなので、窓から私達と会話することは可能だ。
そして、馬車の中は見た目以上に広く、私達の座る席はゆったりできるようになのか、広々としたスペースが確保されていた。そして、なぜか小さい子が遊ぶようなスペースが設けられ、しーくん、ツバサちゃん、リランの二人と一匹はそこできゃっきゃっと楽しそうに遊んでいた。
馬車にそのようなスペースが必要なのか首を傾げたくなるが、まあ、しーくんが楽しそうならいいか。……うん。
そんなきゃっきゃっしている子供達を眺めつつ、私はレオンに今回の件の話を持ちかける。
「ルーメンさんから聞いてたけど、海の国ではレオン君がツバサちゃんの付き添い役なんだね?」
「おう♪ あっちじゃ、アラシのやつは騎士団の仕事がメインで、ツバサの護衛っつーか、付き添いができないからな~? まあ、俺だった理由としてはアリア達が別の仕事やら予定やらがあって、適任者が俺ってだけ♪」
レオン君曰く、アリアちゃんはギルドでのお仕事、シエル君とミユルちゃんは各々実家の手伝いがあるそうな。
「ボク、アリアお姉ちゃんにいろいろ、もーっとおしえてもらいたかったのにー」
私達の話を聞いていたらしいしーくんが残念そうにぷくっと膨れっ面を見せる。
そう焦らなくても夏休みが明ければ、簡単に会えそうな気もする。しかし、それはアリアちゃんの都合次第でもあるか。
「アリアちゃんの特訓があったからしーくんもレベルアップしたもんね~」
「うん! みんなでびしょびしょになったの!」
と、誇らしげに教えてくれる。
……それがよかったのかは謎なので、言及しないでおこうと思う。
「わふっ!」
「わわっ!?」
突然、リランがしーくんにすり寄っていく。単純に甘えたいからやっているのかと思ったが、ツバサちゃんがニッコリと笑い、リランの頭をそっと撫でた。
「リランが頑張ったね、だって♪」
「ほあ! リラン、ありがとー!」
「わふんっ♪」
どうやら、リランなりの労いだったようだ。いつもの構ってアピールとの違いが分からないけれども。
リランのすりすり行動からしーくんとツバサちゃんは再び、自分達の世界へと戻っていった。
それを見た私はレオン君に向かってちょいちょいっと手招きをし、近寄るように促した。彼は不思議そうにしつつも、こちらに近づいてくれ、耳を傾けてくれる。図らずとも、三人で内緒話をするような感じになり、自然と声も潜める。
「例の噂、皆も知ってるの?」
「あ~っと……俺とアラシは把握してるぞ。ティールのじいちゃんが原因でティールとツバサが婚約関係にあるってやつだろ? んでも、ツバサはそれを全く知らない」
「ぼくが言うのもあれだけど、中心人物であるツバサは何にも知らないの?」
「おう、なーんにも、な。ルー爺に言わせれば、ツバサには海の国の社交界に集中してほしい。だから、余計な情報は必要ないんだと。噂の沈静化のためにもそっちがいいだろって判断みたいだぜ?」
ふーん……確かに一理あるかも。
ツバサちゃんはよくも悪くも素直。嘘はつけないタイプの人間だ。そんなツバサちゃんに噂の情報が耳に入ったら、商品を宣伝云々どころではなるかるかもしれない。それに、ツバサちゃんに変な気遣いをさせたくないってのも理由にありそうだ。
「噂の件を聞いたときは面白そうなことになってんな~って思ったけどさ。ティールは見てて飽きないよな? 俺が戦場で死闘を繰り広げてる中、ティールはなーんかツルギにも懐かれてるし? そのせいでラルに嫉妬されてるし? 面白すぎだな、ティールは♪」
「いや、言ってる意味が分からないんだけど」
レオン君はニマニマと笑いながら、婚約者の話と合わせて、ツルギ君の件も突っ込む。言われた側のティールは若干、呆れたような何とも言えない目をしている。
ここからの話は子供達に聞かれても問題ないと判断し、私は盛大なため息を漏らしつつ、窓枠に頬杖をつきながらちらりと隣の相棒を見た。
「確かにティールが面白いし、見てて飽きないのは今更だけどさぁ~?」
「は? 何言ってるの、ラルは」
「ツルギ君の件はいまいち、納得できないんだよねぇ? こんなティールのどこがいいんだ、ツルギ君は」
「本当に何言ってんだ、君は。まさか、さっきの見送りで名前を呼ばれなかったの気にしてるの?」
「そんなことないですけど」
「嘘つけ。そんなことあるって顔してる」
ティールが私の好感度上げてくれないんだもん。そりゃ、不満にも思うでしょ」
仮に私がツルギ君にやさし~く話しかけても、ツルギ君の気持ちが変わらず、不機嫌になってしまうのは仕方ない。なら、他人から私の印象操作を図るしかないのだ。
「しようとしたさ。でも、ラルの話題を出しても露骨に嫌がるから、ぼくにはどうしようもないというか。……つまり、好感度上げるなんて無理なんだって」
「うっそだろ……? 無理ゲーってことぉ?」
「そこまで難易度上げたの、君自身ですけどね」
あのときはあぁ言うしかなかったんだもん! そうじゃなきゃ、被害が別ベクトルに向く可能性があったから! それなら、私にヘイト向けとけば一時的な凌ぎになると……それがここまで続くのは予想外だよ。くそ。なんたる執着心……と言っていいのか。
「にゃはは♪ 外野の俺としては滅茶苦茶面白かったけどな~♪」
他人を楽しませるエンターテイメントではないんだよ……これは。
……この話をこれ以上続けてしまうと悲しくなりそうだ。もうやめよう。
私は窓に目を向け、そこから景色を一瞥する。森の中なのか山道なのか青々とした木々が延々と続いていた。そして、騎士としての仕事(護衛)を全う中のアラシ君の姿もあった。
そんなアラシ君にも噂の話をしたくて、窓を開けて彼の名前を呼んでみた。すると、こちらを一瞬だけ見やり、すぐに前を向く。
「なんだ? 危ねぇからあんま顔出すなよ。今のところ危険は感じないが、何もないとは言いきれな─」
「いや、そんなことよりさぁ」
「あぁ!? そんなことより!?」
言われなくても、周りに危険がないのは知っている。こちとら、数多のダンジョンをクリアしてきたんだし、その辺の危機察知はお手のもんですわ。とはいえ、フォース君には劣るけどね。……いや、そんな話をしたいわけではなく。
「ねぇねぇ、アラシ君は噂を聞いてどう思ったの? ティールに嫉妬とかするの?」
「!?!?!?」
まさかこんな時に聞かれると思わなかったのか、明らかに動揺しまくるアラシ君。
ほお? この感覚は久々だな。面白い。
自分でも分かるくらいニヤニヤしながら、再度、アラシ君に問いかける。最初は無視しようとしていたのだろう。しかし、私があまりにもしつこく聞くものだから、耐えられなくなったらしい。騎士のアラシ君ではなく、いつものアラシ君の表情に戻り、キッと目を吊り上げる。
「だあぁぁ!! うるっさいな、お前! 別に嫉妬なんてしてねぇわ! デマだって分かりきってるのに嫉妬なんかする訳ねぇだろ!?」
「ほーん? じゃあ、デマを広げた原因のアルドアーズさんとか貴族様には? 根も葉もない噂で盛り上がってるのは貴族様だもの。その方々に怒りはない?」
「怒りって……あったとして、アルドアーズ様に怒れる訳ねぇだろ。あの方は国の重鎮だぞ?」
アルドアーズさんはそうだろうな。あんな素敵な性格してるけれど、ティール曰く、アルドアーズさんは国の偉い人らしいからね。
「じゃ、後者の方々は?」
「あ?」
「だから、見知らぬ貴族様方が面白おかしく、ティールとツバサちゃんの婚約云々の話を広めてるのが現状でしょ? それに対してイラついてないのかって話」
「そりゃあ、そいつらにはとうぜ……っ! その顔やめろ!!」
わはは♪ 今のは失言でしたねぇ?
つい話の流れで本音が漏れてしまったアラシ君。慌てて否定したところで、口をついて出た言葉は取り消せないのである。
「そうだよねそうだよね~♪ ツバサちゃんの騎士、Knight様としては、そんな不届き者は許せませんよなぁ? いいんじゃない? もっと怒りなよ~♪」
「うっせ! うっせ!! ニヤニヤすんな!」
「これはニヤニヤせずにいられませんって。よきかな♪ よきかな~♪」
「よくねぇぇぇ!! くそ! 窓閉めろ! 馬車で大人しく座ってろや!!」
顔真っ赤にしながら否定されても面白いだけなんだよなぁ。
「ったく、何してるのさ。ラルは」
「え、後輩いびり?」
「わあ……す、素直に言うね?」
えへへ~♪ 本当のことなので~♪



~あとがき~
忘れちゃってる方のために一言。
レオン君の言う戦場とは追試のことです。

次回、海の国到着。

アラシ君含む騎士団の方々が乗っているであろう騎竜。イメージはあれです。ファンタジーに出てくるようなおっきい乗れるタイプの爬虫類です。なんていうか、恐竜のパキケファロサウルスみたいな感じのやつです。あんな感じの見た目をしてて、人が一人乗れるくらいの大きさのやつみたいな?
多分、そんなんです。はい。そんなんだったはず。

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第328話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわいわいしてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ラルVSツルギ戦、ファイナル!
ってな感じにやりました。まあ、今回の夏休み編『スプランドゥール)で行うのが最後ってだけで、今後も全くないのかと言われると未定としか言いようがない。ツルギ君が再登場すればまたあるかもしれませんね。
ということで、今回でスプランドゥールともお別れ(の予定)です。


《L side》
ここを旅立つ前にまあ、色々ありましたが……ツバサちゃんが私達を探しに来たということは、そろそろ出発の時間なのだろう。
「じゃ、部屋の荷物取りに行こう。すぐ戻るからツバサちゃん達はここで待っててくれる?」
「はい。分かりました!」
双子を置いて、私達は約二週間お世話になった部屋へと向かう。
最初は二週間も……なんて思ったけれど、過ぎてしまえばあっという間だったように思う。いや、本当に色々あった。
ツルギ君に数え切れない程襲われるし、誘拐未遂事件に巻き込まれたり……いや、ここまではある種、ちょっとした非日常で片付けられる。しかし、仕事先でこの土地の女神様の秘密を知ってしまうし、新しい神様と知り合いになってしまうのは誰も思うまい。
極めつけは新たなギルドに入ることになるとは。いやぁ……色々ありすぎだ。
それにきっと、私に限った話でもなく、ティールやしーくんは私と違う経験を多くしたはずだ。
願わくば、この経験が私達の成長に繋がればいいのだけれど。
部屋には荷物をまとめておいたバッグがベッドの上に数個並べてある。それを各々が手にし、ぐるっと部屋を見渡す。
ここの部屋にもお世話になりました。初日、ティールがなかなかいい値段のする部屋だと言っていたので、二度と泊まれない可能性すらある。自宅に戻ったとき、物足りなさを感じないか不安になる。
思えば、今年の夏は贅沢している。この後はここ以上に豪華なティールの家に泊めてもらえるし、そこでもご飯とか普段やらなければならない家事等々、こちらが気にする必要がない。……いや、本当に普段の生活に戻れるのか? 約一ヶ月、家事らしいことやらないぞ、私!?
……まあ、その辺の心配は帰ってからしよ。この旅はまだ終わりではないのだし。
と、気持ちを切り替え、私はティールとしーくんの方を振り向く。
「よし、忘れ物はない?」
「うん! なーい!」
「大丈夫だよ」
よし、じゃあ行きますか!
お世話になった部屋とも別れを告げ、私達はツバサちゃん達の待つ、中庭へと戻った。

海の国へはルーメンさんの用意してくれた馬車で行くことになっていた。なんでも、海の国へ定期取引をするため、ギルドの人達や騎士団の人達も一緒に行くらしく、そのついでに私達も送ってくれるそうな。ちなみに、帰りもルーメンさんの計らいで用意してくれているとのこと。
至れり尽くせりだが、海の国へと取引がなくても、ツバサちゃん達の同行もあるし、元より送迎はするつもりだったのではと予想している。
「適当に移動手段考えなきゃいけないかなぁとか、最悪、家の人に迎えに来てもらおうかとも思ってたから、ありがたい話だったよ。ありがとう、ツバサ」
「いえいえ♪ 私達の方こそ、あちらではお世話になります!」
ツバサちゃん達が寝泊まりする場所は私達と同じく、ティールの実家……つまり、海の国の王宮である。ツバサちゃんの同行が決まった際、ティールがセイラさんに連絡して交渉した。いや、交渉したというか、「泊めてあげられるよね?」みたいな確認の連絡みたいだったけれど。
元々、あちらにはルーメンさん経由で話が通っていたので、その辺りの用意は問題ないらしい。
「気にしないで? ぼくらもここでたくさんお世話になったからね。あっちでは部屋は有り余ってるし、ご飯とかも気にしなくていいよ」
「はい。ありがとうございます♪」
「あ、おーい! こっちこっち~♪」
こちらに向かってぶんぶん手を振っているのはレオン君だ。その側には騎士団服のアラシ君もいて、更にはルーメンさん、アルドアーズさんの姿もあった。
となると、私達が最後か。
「ごめんなさい、お待たせしました」
「よいよい♪ こちらもたった今、荷物の確認や出発の準備を終えたところじゃ」
ルーメンさんの言葉に私は馬車をちらりと見る。スプランドゥールへ来た時とは別の馬車だが、こちらはこちらでなかなか立派である。
護衛兼合同訓練のためか、騎士団の人達もいて、それなりの団体での移動になりそうである。
「ラル達の準備ができとるなら、そろそろ出発するかのぉ?」
「そうですね。私は問題ないですが」
と、私はティールを見る。彼にはツルギ君がぎゅっと抱きついてしまっているのだ。
ティールは困ったように笑いながらも、ツルギ君の頭を優しく撫でる。
「じゃあね、ツルギ」
「ん……」
彼の言葉に頷きはするものの、離れる気配はない。しかし、このままでいるわけにもいかないと思ったのだろう。ツルギ君はそっとティールを見上げた。
「ねえ、ティール」
「ん?」
「また、遊びに来てくれる……?」
「あ~……そう、だな。……すぐには難しいけれど、いつかね」
「……そっか」
ギルドに加入するのは来年。したとしても、ここへ毎日通うわけでも、住み込みで働くわけでもない。現状、ここに来る予定は今後もないし、そう頻繁に会えるものではないだろう。それをツルギ君は理解しているから、しょぼんとしてしまっているのだ。
そんなツルギ君を見たティールは少しだけ考えるような表情を浮かべ、すぐに何かを思い付いたのかふっと笑う。
「そうだ。ぼくらの予定が合うなら、ツルギがあっちに来た時に会おうか。ツルギさえよければだけど」
「! ほんと!?」
「もちろん。それまでに何して遊びたいか考えておいてね」
「うんっ! わかった! 絶対だよ!」
「うん。約束する」
なんだ、この光景は。
私もツルギ君にあんな笑顔向けられたいんですけど。なんで、顔を会わせる度に決闘してたんだろ、私……?
「お~♪ ティールのやつ、ツルギにめっちゃ懐かれてんじゃーん? いいねぇ、微笑ましいねぇ?」
「それよりも、その隣でラルが恨めしいって顔してるのが気になるけどな、俺は」
「私だってそれなりのコミュニケーションしてきたつもりなのにー!」
「は? なんの話だよ」
くそぅ……まあ、人には相性ってもんはあるし、子狐がじゃれあってくるみたいであれはあれで楽しいからいいか。……そう思うことにする。
ティールとツルギ君が円満にお別れができたところで、私達は馬車に乗り込む。
が、ティールが馬車に足をかける直前、その足を止め、アルドアーズさんの方を振り返った。
「そう言えば、お祖父様は一緒に帰らないのですか?」
「ん? まあ、ちぃとやることがあるのさ。心配せずともいつか戻ると伝えておけ」
「いや、心配はしてないです。お祖父様が戻らないなら戻らないで、こちらは困りませんので」
「あぁ……なんと言うことだ。孫が冷たい」
「通常だよ、これが」
「ほっほっ♪ ティール、お主らを迎えに行く際、この阿呆は縛ってでも連れていくからの。ライトにはそう伝えておくれ♪」
「あ、はい……え、縛ってでも?」
「縛ってでも」
あの目は本気のような気がする。本気で縛ってでも連れていくつもりなんだろうな。朝練の生き埋め(?)や引き摺り回しの刑がいい例だ。
それを横で聞くアルドアーズさんは平然としていて、どう考えているかは私には分からなかった。それはティールも同じだったのか、何とも言えない表情を浮かべながら、馬車に乗り込んだ。
全員が馬車に乗り─アラシ君は騎士団のお仕事のためなのか、馬車には乗らず、外から護衛に回るらしい─、ツバサちゃんがひょこっと窓から顔を出し、ルーメンさん達に向かって大きく手を振った。
「じいじー! ツルギー! 行ってきまーす!」
「うむ♪ ラル、レオン、アラシ。ツバサのことを頼んだぞ~♪」
「うっす! まっかせてくださいよ~♪」
「じゃあ、ルー爺、行ってきます」
レオン君はいつも通りの笑顔を見せ、アラシ君は騎士としてなのか礼儀正しく会釈しながら答える。
ティール! 雫! またねー!」
「ツルギお兄ちゃん! ばいばーい!」
「……ラルさん、睨まないでくれませんか。怖いです」
元気いっぱいにお別れの挨拶をしてくれたツルギ君に手を振って応えていたティールが私をちらっと見て呟く。
「ツルギ君があからさまに私を見ないで、二人に挨拶してるのが羨ましいんだよ。嘘でもいいから何か言えって思うじゃん?」
「それ、ぼくに言わないで?」
分け隔てなく愛想よくした方が得するぞ、ツルギ君。まあ、私に媚売ったとして、得するかは分からないけれども。
私達を乗せた馬車は騎士団の人達に守られながら、たくさんの荷物を乗せた馬車を引き連れ、海の国へと出発したのだった。



~あとがき~
スプランドゥールの巻、終わった!!

次回、夏休み編の後編とも言える海の国の章に突入!
スプランドゥールよりは長くならないと誓います。えぇ、誓いますとも!

夏休み編スプランドゥールの章っていつからやってるんだろーと思い、確認しました。
夏休み編に突入したのが、171話(2020/7/17)でした。つまり、ほぼ二年かけてここまでやってきたってことですな。というか、レイ学話数の約半数はこのスプランドゥールの話では?? そうなると、最早、タイトル詐欺を疑いたくなるが!? 一体、いつになったら学校の話に戻れるんだ!(笑)

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第327話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でだらだらしてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
ラルとアルフォースさんのお話が終わりました。
今回は因縁の(?)対決です。


《L side》
約二週間程の滞在をしたこのスプランドゥールとも今日でお別れ。……ということで、スプランドゥール滞在最終日。
ツバサちゃん達と向かうことになった関係で、移動手段もルーメンさん側が用意してくれるとのこと。そのため、午後にこの街を出る手筈になっているとルーメンさんから聞いていた。
その時刻に間に合うよう荷物もまとめ終わっているし、今回、お世話になった人達との挨拶等々も終了している。
後は、予定時刻まで部屋でのんびり過ごす──つもりだったのだが。
「なんでこんなことに」
そう問いかけても、それに答えは返ってこない。当然だ。目の前の人物は答えるつもりがなさそうだから。
部屋にいる予定だった私は中庭にいるし─ついでにティールとしーくんも─、目の前には刀を構えてやる気満々なツルギ君の姿がある。

──こうなった経緯を思い返すと、本日の朝まで巻き戻る。
海の国へ出立する関係で、朝練参加も昨日で最後にしていた。そのため、いつもより少し遅い時間に目を覚ました。
ふわりと欠伸を漏らしつつ、大きな窓まで歩み寄ると、そこのカーテンをシャッと勢いよく開ける。
窓から覗く空模様はご機嫌そのもので、嫌な雲一つない爽やかな晴天だった。
「うん。……これぞ、絶好の旅立ち日和ってやつだね」
遠出すると分かっているのに、雨だったり曇り空だったりしたら、気持ちも沈んでしまうというものだ。暑すぎるのは勘弁だけど、どうせなら気持ちよく晴れている方が嬉しい。個人的には、だけど。
私はティールに起きるように声をかけつつ─全く意味ない行為でもあるけど─、身支度を済ませ、テキパキと小物類の荷物もまとめてしまう。
そんなことをしていると、ティールのベッドがもぞもぞと動き、むくりと体を起こす人物が一人。
「ん~……おはよー……ラル~」
「うん。おはよう、しーくん。よく眠れた?」
「ん。……ねれた!」
それは何より。じゃあ、隣ですやすや眠ってるティールを起こしてくれると嬉しいな?
「あい! おこす!」
幼児の方が先に起きるんだ……それでいいのか、ティール君や。
最早、慣れた光景ですらあるが、しーくんにこれでもかとぺちぺちされ、激しくゆっさゆっさされて、ようやく身動ぎするティール。
「おーきーてー! ティール!」
「うー……」
しーくんの必死の努力により、ティールはようやく体を起こす。しかし、寝惚けているのかなぜかしーくんを撫でつつ、メトロノームみたいに体をゆらゆら揺らしていた。
「起きてる?」
「あー……おき、ては……いる、とおもう……うー? あ~……ねっむい……」
いつものことではあるが、これは覚醒するまで時間がかかりそうだな。
「もう。準備終わったらごはん食べに行くよ?」
「はぁい……あー、あと、さんぷん……まって」
それくらいで覚醒するなら待とう。
というか、こんなんなら、今日も朝練出てもよかったのではと思いつつ、外の様子を見たくて、部屋の扉を開けた。
すると、そこにはつり目の白狐がちょこんと座っていた。口には何か手紙のようなものを咥えている。
「……ツルギ君の精霊?」
精霊らしい狐は返答はせず、代わりに受け取れ言わんばかりにぐいっと手紙を見せつける。
受け取らないと帰らなそうなんだけど、その手紙に嫌な予感がするのは私だけだろうか。
「それ……貰わなきゃ駄目っすか」
「……」
狐は無言。しかし、手紙を差し出してくるのは変わらない。仕方なく、その手紙を受け取ると、白狐はふてぶてしい顔ですっと立ち上がってどこかへ行ってしまう。
貰った手紙を見ると、表に『はたしじょう』と子供らしい字で書いてあった。
「……読まずに捨てるのはありか?」
『マスター、無慈悲だな』
くつくつと面白そうに笑いながら雷姫が現れる。
こちとら、今日、ここを出るっつってんだぞ! なんで最終日まで決闘をせにゃならんのだ。
『しかし、いつでも受けて立つと言ったのはマスターだろう? それを素直に信じ、こうして果たし状とやらを寄越す小僧の心意気を無視するのは如何なものかのぉ?』
「それを言われると……というか、雷姫はツルギ君の味方なの?」
『いや? マスターに勝てぬと知りながらも挑む姿勢を崩さんのは称賛に値するとは思う。しかし、あの態度は気に食わんから、捻り潰すがな』
結局、好きなのか嫌いなのか分からない感想だ。
私は雷姫に言われるがまま、手紙を確認してみる。内容はとってもシンプルで『午後一時! 中庭にて誘惑魔を待つ!』とだけ。
「私、いつまで誘惑魔でいなきゃいけないんだろう?」
『白狐の小娘と仲睦まじい光景を見なくなるまで?』
じゃあ、一生誘惑魔のまんまじゃん。
さて、どうするか。
無視もできなくはないけど、今更放置プレイもないか。ここまで付き合ったのだ。最後まで、彼の相手をするのが大人ってやつだ。
「一時、ね。出発ギリギリになりそう」

──とまあ、こんなことがあって、仕方なく受けて立つことになっている。
最終日はもうよくない? やらなくてもいいよね? って気持ちはなくなってないけども。
「よそ見すんなぁ!」
いつまで経ってもやる気を見せない私に痺れを切らしたのか、ツルギ君が怒りを露にしながら真っ正面から斬りかかる。それを紙一重でかわし、軽い身のこなしで再び距離を取った。
「大丈夫。よそ見はしてないよ、よそ見は」
まあ、余計なことは考えていたけれど。……とは言わず。
一度、避けられだけで諦めるはずもなく、ツルギ君は刀による攻撃をやめようとはしなかった。再度、正面から斬りかかってくる。
同じ手で攻撃するだけなら、何度だって避けてやろう。……と、思ったのだが、そう簡単にはいかせてくれないらしい。
私が回避行動を見せると、ツルギ君は瞬時にバックステップで後方へ飛び退き、私の周りに地面からゴーレムを数体呼び出して、逃げ場を塞ぐように取り囲む。
あらぁ? ゴーレムを倒すのなら、素手は無理かぁ……しゃーない。
「来て、雷姫」
『うむ。今更、我なしで終わらせるなんて水臭いぞ、マスター?』
呼ばずに終われるのなら、そっちの方がいいかなーと思うわけですよ、私はね?
しかし、そうもいかないのが現実だ。私は電流を放出しながら現れた雷姫を握り、ほんの少しだけ力を込める。
「雷姫、敵を一掃する」
『承知した』
「“雷撃─」
「その電撃、もらったぁぁぁ!!!」
ゴーレムを一掃するために“雷撃一真”を放とうとした瞬間、ツルギ君が私の攻撃に臆せず、ゴーレム達の隙間から現れた。
ツルギ君に当たるとまずいと咄嗟に攻撃を中止させようとしたのだが、その前にツルギ君の刀が雷姫に触れる。その瞬間、彼はニヤリと笑った。
「“ドレイン”!!」
恐らく、何かの魔法なのだろう。雷姫が纏っていた電気がツルギ君の刀へと流れていく。言葉通り、私の……いや、雷姫の電気を吸収しているのか。
以前、イグさんの言っていたツルギ君の得意魔法……“反射魔法”とは、これのことか。やってくれる。
『……』
「へへーんっだ! これでも食らえっ!!」
本来、私が放つ予定だった“雷撃一真”の電撃をツルギ君は全て吸収し、私に返そうと一歩踏み出した足はぴたりと止まる。
「うぐっ!?」
突然、ツルギ君は顔を歪ませると、その場に倒れてしまう。それと同時に私を囲んでいたゴーレム達も土に還り、刀の電撃もバチンと大きく弾け、宙へ消えてしまった。
「……雷姫、やり過ぎ」
『はん。童の分際で我を操ろうなどするからだ。罰当たりな小僧めが』
「多分、ツルギ君は技を反射したかっただけで、雷姫を操ろうとした訳ではないかと」
『何を言う? 我が作り出した電気を纏おうとしたのだ。それだけで罪深き行為であろう?』
……左様ですか。
ツルギ君の倒れた原因は雷姫だ。
雷姫はツルギ君が“ドレイン”を発動させたのと同時に彼がコントロールできない位の電気を流したのだ。
そんな雷姫の流した強力な電気に耐えられなかったツルギ君は重度の麻痺状態に陥り、ばたりと倒れてしまったのだろう。
子供相手に容赦ない雷姫も大人気ないけれど、未然に防げなかった私にも非はある……かな。いや、こんなん防ぎようもなかったけども。
私はため息混じりに雷姫を鞘に納めると、遠くで観戦していたティールに向かって大きく手を振った。
ティール、麻痺治しのポーションちょーだい! ツルギ君、雷姫の制裁、受けちゃったみたーい!」
「うえぇ!? ちょ、ちょっと待っててー!」
ティールがあわあわとポーションを探しながらこちらに近寄ってきて、見つけた小瓶を私に手渡す。
やれやれ、ティールが持っててよかった。
「あ、ラルさーん! こちらの準備は終わりましたよー! ラルさん達の方は……って、ツルギ!?」
ツルギ君にポーションを飲ませていると、遠くの方で手を振りながらツバサちゃんが近寄ってきた。が、中庭の真ん中で倒れる実の兄を見つけ、慌てて駆け寄ってくる。
「な、何があったんですか!? ツルギ! 大丈夫!?」
「あ~……気にしないで? いつものだから。今回はちょーっと雷姫の怒りに触れただけ。ポーション飲ませたし、大丈夫だよ。私のお手製なので、効果と即効性は保証する」
まあ、私がというか、ティールが、だけどね。私は滅多に麻痺状態になんてならないし?
「な、なんだ……よかったぁ」
心からほっとした様子で安堵の表情を浮かべていた。まあ、普通はびっくりするわな。
「うぅ……っ」
「ツルギお兄ちゃん! だいじょーぶ?」
ポーションが効いてきたのか、ツルギ君はゆっくりと体を起こす。しかし、しーくんの心配の声には反応せず、泣くのを我慢しているのか、小さく体を震わせていた。
「……結局、最後まで……ラルから一本も取れなかった……っ! 僕だってツバサにかっこいいとこ、見せたかったのに……!」
「ほえ……? ツルギ?」
不思議そうにするツバサちゃんをよそに、ツルギ君は悔しさからから声を震わせ、俯いたままポツリと呟く。
「僕……弱いまんまじゃん……」
おおっふ……この二週間、果敢に私に挑んできたメンタルはどこへ。うーむむ……ツルギ君を自信喪失させたまま、ここを離れるわけにはいかないよなぁ。
「いや、そんなことはないと思うけどね?」
「そんなことあるもん! 現にラルに一回も勝ててないじゃないか!!」
私の言葉に勢いよく顔を上げ、涙を溜めた目で睨み付けてくる。
なんで、一番戦ってきた相手の言葉を信じないの、この子。
……これは私が何を言っても否定するんだろうな。それじゃあ、意味がない。
「……はぁ。ティール、頼んだ」
「ん、了解。任せて」
私は一歩引いて、ティールにバトンタッチする。かなーり悔しいが、ツルギ君は私の言葉より、ティールの言葉を聞くだろう。そう思って、私は身を引いた。
「確かにツルギは今日まで一度もラルを倒せなかったけど、だからって弱いままだとはぼくは思わない。確実に強くなってるよ」
「……ふえ?」
ティールの優しい声にツルギ君は不思議そうに彼を見上げる。ティールは優しく微笑みかけ、ツルギ君と同じ目線の高さに合わせた。
「最初の頃はラルにあれこれダメ出しされてたけど、今はそんなことないだろ? 気配の消し方、刀の使い方、攻撃方法……前よりたくさんの戦い方を覚えたんじゃない?」
「……ん」
「それに結局、不発だったけど……ラルに技を撃たせるまでになったんだ。今は勝てなくても、ぼくらがここのメンバーになって……来年とか一回は勝てるかもしんないよ。その努力を惜しまなければ、ね」
ティール……!」
ぽんぽんっと頭を優しく撫でられ、ツルギ君は自信と元気を取り戻したらしい。それは大変よろしいのだけれど……一言いいか。
一年足らずで倒されるようなせっこい鍛え方しているつもりはないんだが!?
もちろん、こんなところで反論しても意味はない。これはツルギ君を慰めるために言っているのだ。ティールだって本心で言っているとは思わない。思わないけど……!
なんか悔しい!! なんか! 悔しい!!!
心の内を叫びたい衝動に駆られるが、もちろん、口にしてしまえばツルギ君のご機嫌が台無しである。沈黙が吉。分かってるけどぉー!
「そうだよ! 私もちゃんと知ってるよ? ツルギが戦い方、上手になってるって! だから、弱いなんて言わないで? かっこいいよ?」
「……!」
「ん! ラルとたたかう、ツルギお兄ちゃんはね、かっこよかったよー!」
「……雫。……へへっ♪ ありがとっ!」
……なんだかな。
「ねぇ、ティールさんや」
天使達が微笑ましい光景を見せてくれている横で、私はちょいちょいっと相棒の肩をつつく。それにティールは気づき、そっと立ち上がると私の横に立ち、何も言わずに耳をこちらに傾ける。
「色々言いたいことはあるけど、何? つまり、来年以降もツルギ君の相手をしろってことなの?」
「そりゃ、そうなると思うけど」
「……もうよくね?」
私の言葉にティールは少しだけ思案する。が、それも数秒で、にこっと笑う。
「それを決めるのはラルじゃなくて、ツルギだよ。最初に自分を相手にしろって仕向けたの、君だろう?」
ぐ……まあ、そうなんですが。
当時はそこまで続くとは思わないじゃないですか。え、私は年単位で彼の決闘に付き合うの? 嘘やん。



~あとがき~
なげぇ。

次回、さらば、スプランドゥール!
終わるで~

入れたかった説明が本編じゃ入らなかったので、ここで補足します。
ツルギ君が使った魔法、“ドレイン”とは、その名の通りです。相手の技をそっくりそのまま吸収し、カウンターする魔法。
なので、今回の場合、ツルギ君はラルが使おうとした“雷撃一真”の威力そのままうばっちゃうぞ☆をしようとしたんですね。雷姫が邪魔(?)したので、できませんでしたが。
というか、仮にできたとして、ラルに雷属性の攻撃はほぼ無意味(雷姫が吸収してしまうため)なんだけど……それはツルギ君が知るよしもないってことでね。はい。

今後、ラルVSツルギが見れるかどうかは今のところ不明です。相方の気分次第じゃないですかね(笑)
なんだろう。二人で仲良く(笑)休日を過ごす話とかあれば面白いかもなぁとは思うけど、ネタがなさそうなのと、需要もあまりない気もする。

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第326話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界の物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
ラルの答えを明かしたり、ティールの里帰りにツバサちゃん達も行く事になったり、なんか色々ありました。
今回も何かあります。よろしくお願いします。
ラル「……何が?」
本編見れば分かる!!


《L said》
「……それで、私に伝えたいことって?」
そう切り出すと、アルフォースさんはどこか困ったような表情を浮かべるものの、心を決めたのか、じっと私を真剣な眼差しで見つめる。
「あまり驚かないで欲しいのですが……前置きはなしで、単刀直入にお伝えします」
「え、あ、はい。……どうぞ?」
「ラルさん達が海の国に滞在中、うちの娘が原因で一日、ティールくんが雫くんくらいの年齢まで幼児化します。それも、あなたと雫くんを忘れた状態で」
すっと背筋が凍った気がして、一瞬、息をするのを忘れてしまった。それくらい、私にとっては衝撃的だった。
……これを驚かずに聞けるほど、私は大人でもなければ、冷静でもないらしい。
つまり、なんだ?
ツバサちゃんが原因でティールが小さくなり、記憶も当時に逆戻りする? だから、私やしーくんを忘れるってこと? 今まで一緒にいた記憶も、全て?
そうなったら、私は。……私は、私としていられる? 私を認識してくれていたティールがいなくなって、私は私として、ここにいられるの?
「──アル。これを驚かずに聞けと言うのは無理があるぞ?」
「う……やっぱり、そうですよね。……ごめんなさい、ラルさん」
二人の声で思考の底から無理矢理引き揚げられた感覚がする。
……落ち着け。パニックになるな。……大丈夫、大丈夫だ。
「……いえ、確かに驚きはしましたが。……詳しい話を聞いても?」
「はい。今日、ラルさん達が僕を起こしてくれた時、視えてしまったんです」
そう言うと、アルフォースさんは自身の青い目を片手で覆う。
ミルティアが言っていた。かつて、自分の持っていた能力、“夢見”の力はアルフォースさんが受け継いでいると。
「“夢見”で……ですか」
「はい。……実は、僕の家系がケアル家の遠い親戚に当たるらしいのです。親戚と言っても、もう他人レベルのものなのですが」
アルフォースさんは神と関わりのない他人だと思ってたのに……そんなことなかったんかい。けど、元を辿れば、人類皆親戚みたいなもんだ。……多分、そういうことだ。いや、知らんけど。
「ワシもその事を知ったのは、セラとアルが付き合い出してからじゃったな~」
「そういえば、そうでしたね。……僕らはケアル家のように高い魔力はないし、高度な魔法に精通しているわけでもありません。ただ、この力だけは……ミルティア様の“夢見”だけは代々受け継がれていたのです」
直系であるルーメンさんやセラフィーヌさんにその力がなかったのは、遠い昔、どこかで分かれてしまったせい。それが時の流れってやつなのかもしれない。
「話が逸れてしまいましたね。……ティールくんの話に戻しましよう」
こほんっと軽い咳払いの後、アルフォースさんは幼児化事件の詳細を教えてくれた。
滞在何日目かは不明だが、ツバサちゃんが風邪─以前の魔力風邪みたいな特別なものではなく、普通のやつ─で寝込む日が来ると言う。その風邪が原因で起こる魔力暴走にティールが巻き込まれた結果、幼児化してしまうとのこと。
「巻き戻ると言っていいんでしょうか。……ティールくんはちょうど、サフィア様の亡くなった頃の歳まで小さくなるみたいで。記憶もその頃までのものしかないと思います」
というと、五歳のティール……? 本人曰く、親を含めて、他人と関り合いを避けていた頃だったか。
「……原因は分かりました。しかし、それをなぜ私に?」
「そう、ですね……一日だけとはいえ、大切な人が自分を忘れるのは堪えます。現に“夢見”で視たお二人は相当ショックを受けていた様子でした」
まあ、前情報もなしにそんなことが目の前で起きたら……ショックに決まっている。大体、そんなことは予測できるものでもない。アルフォースさんみたいに私も“時空の叫び”が発動すれば別だけど、何かを視ようと思ってティールかツバサちゃんに触れないと意味がない。しかし、何も知らない私だったら、そんなことをしようと思わない。結果、私がその事件を事前に知ることはほぼ不可能だ。
「つまり、アルフォースさんはショックを和らげるため……私に……? あれ。未然に事件を防ぐためではない?」
「はい。防いでは駄目なのです。この事件はティールくんと陛下にとって、大きな転機でもありますから」
「転機……ブライトさんとティールの」
アルフォースさんは小さく頷く。
そうか。ティール自身も言っていた。
サフィア様が亡くなった直後から、関係性がおかしくなったと。二人が関わる時間が減り、そのせいで距離感がおかしくなった、と。
原因はサフィア様とアルドアーズさんの失脚による、内部統制強化のためにセイラさんとブライトさんが多忙になってしまったため。もっと簡潔に言うのなら、ティールと一緒にいる時間が極端に減ったから。
……でも、今回はそれがない。それを塗り替えられるかも、と。
「あの頃できなかったことを今回、ブライト様に何かしていただければ……ティールくんの中にある悲しい記憶も、少しは変わるかもしれません」
今のティールにある不信感の原因は、幼児化から元に戻れば思い出すだろう。つまり、完全に塗り替えられるものではない。それでも、悲しいだけの幼い頃の記憶に少しでも優しくされた記憶が残れば……或いは?
「ラルさんには申し訳ないのですが、その手伝いをしていただきたいのです」
「防げるかもしれない事件を見逃し、ブライトさんとティールの仲を取り持て、と?」
「言い方は酷ですが、そうなります」
その言葉に私は頭を抱えてしまう。
……これがただ幼くなるだけなら、喜んで協力してたかもしれない。でも、今回はティールは私を忘れる副産物がある。それだけが気がかりで。たった一日……その一日を私は平静を保ちつつ、親子の仲を取り持って……私の精神は耐えられるのか。
正直、私はそこまでメンタルが強い方ではないし、自我を保ってられるのもティールの存在が大きいのもある。その辺りの依存性は自覚している。
だからこそ、周りに気を配り、しーくんにも気配って、どうにかできる自信がない。だって、今、話を聞いただけで息ができなくなるくらい辛いのに、それを見過ごせって言われているのだ。……本当に、できるか?
『マスター』
……らい、ひめ。
『パートナーの幸せを願う、仲間の幸せを願うために我を必要としたマスターはどこへ行ったのだ? 仲間を守るためならば、自らを犠牲にしてもよいと豪語したマスターはどこへ?』
「……」
こんなの、悪魔の囁きにしか聞こえない。
けれど、つまりはそういうこと。
壊れそうになったら、その前に……って話なのだろう。
『うむ。我はマスターのためならば、なんだってしてやる』
信じよう。その言葉を。
私は閉じていた目を開き、深呼吸をする。そして、そっと顔を上げる。
「分かりました。引き受けます。どうなるか想像できませんけど」
家族は仲がいいに越したことはない。すれ違いに終止符を打てるのなら、私の思いなんて二の次でいい。……そう、思うようにしよう。
「さっきは適当に仲介と言いましたが、具体的にはどんなことを?」
ティールくんの口から本音を聞き出してもいいと思いますし、陛下になんらかのアクションを促し、話す機会を設けるとかでしょうか?」
「その辺りが妥当じゃろうな? なんせ、ライト一人に任せていても、当時の二の舞になるだけじゃろうしなぁ? やつの行動なんてたかが知れておるわい」
なんだろ。信用ないな、ブライトさん。
ルーメンさんの辛口コメントにアルフォースさんも苦笑を浮かべる。
「え、えーっと……とにかく、ラルさんにはひとりぼっちで悲しんでいるティールくんを救って欲しいのです。大袈裟かもしれませんが、ラルさんがティールくんの光になってくれればと」
「……そんな大それた存在にはなれないと思いますけど、やれるだけやってみます」
「ありがとうございます、ラルさん。……辛い役目を背負わせてしまいますが、よろしくお願いします」

親方部屋を後にした私はその足でティール達と合流した。預かってくれたツバサちゃんにもお礼を言い、今は三人で自分達の部屋へと戻る最中だ。
しーくんはティールに抱っこされ、彼を見上げ、こてんと首を傾げる。
「ねー! おはなし、ルーメンおじいちゃんとしたの?」
「ん? したよ~? さっき、皆に話した通りの感じになりそうだよ」
「ほあ~♪ よかったね!」
「うん。そうだねぇ」
二人で他愛ない話を楽しそうにしている。そんな二人を見て、改めて思う。
ティールに幼児化事件は話せない。それを知って、素直に巻き込まれてくれるのか……んな訳ない。難色を示すに決まっているし、嫌がるに決まっている。
かと言って、しーくんにもできない。しーくんはティールとブライトさんの不仲を知らないってのもあるけど、そもそも隠し事に不向きだ。しーくん経由でティールにバレたら意味がない。
現状、私一人でどうにかするしかない。
「ラル? 難しい顔して、どうかした?」
ずっと黙ったままだったからか、ティールが不思議そうにこちらを見ていた。
「……え? あぁ、いや。なんでもないよ」
「本当に? 何か隠してない?」
なんでこういう時だけ鋭いんだよ、こいつ。
胸の内で悪態をつきつつも、それを実際に口にはできない。作り笑いで「なんでもない」ともう一度告げる。ティールはあまり納得してなさそうだったが、腕の中のしーくんがパッと笑顔を覗かせた。
「ラルー! おへや、おかたづけするんだよね?」
「片付け?」
「ん! だって、もーすぐ、ここいなくなるでしょ? だからね、おかたづけするってティールがね、はなしてたんだよ?」
なるほど。その返答がなかったから、不信感を抱かれたのか。それは私の不注意だわ。
「ごめん、二人とも。考え事してて話聞いてなかった。……あと二、三日くらいでここを出て、ティールのお家行かなきゃだから、この後片付けよっか」
「あいっ! ボク、ティールのいえ、たのしみー! ティールのパパとママにあうの、たのしみなの!」
「えっ……あー……? おー……んー? 暴走しないか心配だ」
無理では?
「……だよなぁ。ラル、頼むから雫から目を離さないで? 母上が何するか分からないから」
善処する。けど、私ごときでどうにかなるような御仁ではない気もしますが。
ティールと会話しながらも、私は別のことを考える。
……今のところ、アルフォースさんの話してくれた未来がどうなるのか予想がつかない。事件は教えてくれたけど、その先は話さなかったからだ。視えなかったのかもしれないし、あえて話さなかったのかもしれない。
とりあえず、今はいつも通りに過ごすしかない。その時が来るまでは。



~あとがき~
終わりが見えてきました。

次回、あの二人の対決!
がっつり描写は二回目になるのかな? お楽しみに。

ここまでラルが思い詰める理由。多分、本編で語らなそうなので、ここで補足しておきます。
ラルにとってティールは精神安定剤みたいなものです。レイ学世界線では大して目立たない記憶喪失設定(笑)なのですが、これのせい(?)でラルは自分の存在する理由をティールに委ねているというか、求めている節があります。どっかで言った気がしますが、ラルはティールに依存してるんです。
(関係ないけど、逆もまた然り。理由も深刻度も違いますが。)
ティールがラルを認めてくれる(認識している)から自分でもここに存在している、できていると思えるとも言えます。なので、そんな存在のティールに忘れ去られたらと思うだけでSANチェックすっ飛ばして、SAN値減少案件なのです。
とまあ、いっちばん最初に幼児化事件ネタを持ち出されたとき、相方の中ではきゃっきゃっするだけのネタだったと思うんですが、この設定があるせいできゃっきゃっとできんかった。すまん。
はい。ほのぼのわいわいメインなレイ学世界線には全く必要のないはずの闇設定の話でした。
まあ、これは空海ピカちゃんにも言えることなので、しゃーなし。

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第325話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で決断する物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、チーム会議を経て、ラルが仲間達に自分の出した未来を語るところで終わってます。(正確は語る直前)
とまあ、答え合わせはルーメンさん相手に話すところでしてもらおうかと思います!


《L side》
ルーメンさんとの約束の時間ぴったりに部屋を訪れた私とティールは、部屋のソファに腰かける。目の前にはルーメンさんが座り、側には微笑むアルフォースさんが控えている。
アルフォースさんの淹れてくれたお茶を飲み、ルーメンさんが私達の方を向き直る。
「して、アルフォースによれば、ギルド入団の件を伝えに来てくれたそうじゃな。……早速、答えを聞いてもよいかの?」
その言葉に無言で頷き、一回だけ深呼吸をする。
……先程、チームからの同意は得ている。後はそれをルーメンさんに伝えるだけだ。
「その前に謝罪をさせてください。返事が遅くなってしまい、申し訳ありません」
「それについては構わんよ。ここを発つまで待つと言ったのはこちらだ。なんら問題はないさ♪ 無事に結論を出せたようで何よりじゃ」
「はい。……それで、入団するか否か、こちらの解答ですが──」
言葉の続きを紡ぐだけなのに、こんな緊張することがあるだろうか。無意識に震える手を押さえる手すらも無駄に力が入る。
「……大丈夫」
そっと私の手にティールの手が重なる。そして、そのまま優しく包み込んでくれた。
うん、大丈夫。そうだね。
もう一度、深呼吸をする。そして、しっかり目の前のルーメンさんを見据えた。
「──私達は、今回の話を受けようと思います」
この答えにルーメンさんはピクリと眉を動かし、アルフォースさんは笑顔を崩さなかった。それは、“夢見”で未来を知っていたからかもしれない。まあ、真相は分からないけど。
そして、この返答はルーメンさんにとって、予想してなかったのだろうか。多少なりとも意表が突けたようで何よりだ。
「しかし、入団するに辺り、こちらから条件を提示しても? それが受け入れてもらえるのなら、よい返事をしたと受け取ってもらって構いません」
「ふむ。よかろう。その条件とは?」
「私達の入団を公にせず、今まで通りの活動を許して欲しい。これだけです」
簡単に言えば、イグさんやリアさんみたいな扱いをして欲しいということだ。
理由としてはいくつかあった。
一つは長年、拠点としていたフェアリーギルドを……プリン親方が治めるあの街を離れたくないから。
二つはチームメンバーの住むあの家を手放したくないから。元々はティールが一時的に住むための家だったけど、今ではチームの家になっている。私達が学生でなくなっても、ともやしーくんはこれからがある。あの街で友達と同じ学校へ行ったり、過ごしたいだろうから。
まあ、家の所有権云々はこれからブライトさんに交渉するとして……とりあえず、あの街を離れるつもりはない。少なくとも、しーくんが学業を修めるまでは、だ。
私の言葉を最後まで聞いたルーメンさんはゆっくりと頷く。
「うむ。その条件を受け入れよう。まあ、もとよりそのつもりじゃったしな。……あまりこういう言い方はしたくはないが……こちらの目的はあくまでラルの持つ“時空の叫び”を保持すること。それが達成できるのなら、どんな条件でも可能な限り受け入れる所存じゃ」
だろうな。
何としても私の能力を確保したいルーメンさんがこれくらいの条件で断る理由なんてない。無理難題を突きつけてる訳じゃないもの。
ルーメンさんが恐れているのは、自分の知らないところで祖先の過去が暴かれること。それだけなのだから。
「しかし、本当にこの誘いに乗ってくれるとはなぁ……この結末になるのなら、報酬金をあそこまで底上げする必要もなかったの? まあ、結果論じゃが」
……今、何つった?
私とティールがポカンとしていると、アルフォースさんが笑みを浮かべたまま、ルーメンさんさんの肩を叩く。
「親方? 本音が少し漏れていますよ」
「む? おっと、これは失礼」
いやいや、あれを聞いてそうですかとスルーできるほど、人間できてねぇぞ!?
「報酬金ってぼくらが受けた依頼の報酬のこと、ですよね? あの高額金の」
「ここまできたら、お互い隠し事はなしにしましょう、ルーメンさん?」
「う、うむ。……そうじゃなあ」
言い淀むルーメンさんだったが、「実は」とあの謎にバカ高い報酬について話してくれた。
「あれはラルが入団を断った際の迷惑料込みの金額だったんじゃ」
迷惑料?
「例えば、ラル達が未踏のダンジョンへ赴いたとするじゃろう? その際にワシのお抱え隠密部隊がお主らを動向を窺う……みたいな迷惑料じゃ♪ 一応、プリンにはこの事を伝えた上で許可はもらっておったんじゃが」
……つまり、なんだ?
断っていたら、今後、探検隊として活動し続ける限り、監視が着いてたってことぉ!?
ルーメンさんの言葉を素直に受け取るなら、四六時中見張るわけではなく、あくまで、未開の地の探索、調査時のみの監視みたいだけど。……いや、それを許すプリン親方はどういう思考回路をしているんだ。馬鹿なのか。私のプライベートはないの!
「そちらが断ったとしても、ワシとしてはラルの能力を野放しにはできん。そのための策を用意していたという話さ」
過激すぎだろ、それぇ……?
なんか、強引に迫ってきたり、捕まえてきたりしてくるよりもタチ悪くない?
「結果的に、ラル達はワシの提案に乗ってくれた。今後、監視等を着けることはないから、安心しておくれ?」
「私としては、そうであって欲しいと願うばかりです」
どちらにせよ、ルーメンさんは私をフリーにさせるつもりはなかった。どちらに転んでも、私はこの人から逃れられないってことか。今回はお互い、穏便な方向でまとまっただけだ。……双方、利益のある方を選べたってことかな。少なくとも、私は得をしている……と、思う。こちらのルートで間違ってなかったと思いたい。マジで。
「……くそ。帰ったら覚えてろ、あんのセカイイチ馬鹿親方め」
「多分、話にならないと思うよ。諦めよう?」
諦められるかぁ!! 文句の一つや二つ、許される! 絶対に!!
プリン親方については、とりあえず置いておこう。今ここで文句言っても仕方がない。
「さて、お主らの入団の手続き等なんじゃが……お主らの卒業が近くなってから本格的に進める予定じゃ。そのつもりでいてくれると助かる」
今のところ、入団決定(仮)、みたいな扱いか。大体、学校を卒業するか決まってからだもんね。できないことはないと思うけど。
「ふむ。ギルド入団の件はこれで終わりなんじゃが……ラル、ティール。この後、少し時間いいかの?」
? なんだろ? ルーメンさんがそう言うのなら、別件か?
私とティールはお互いの顔を見合わせ、首を傾げるものの、時間は空いているので問題はないと頷いた。
「ちと、相談がしたくての。……二人はここを発った後、そのまま海の国へ行くんじゃったな」
「はい。私としーくんもティールの里帰りに着いてく予定です。せっかくなので、しーくんに海の国、見てもらいたくて」
「里帰りは母がなんかうるさいんで、仕方なくですけど」
まだツンツンしてるなぁ~……まあ、ティールは最初から嫌々ではあったけど。
不満そうな表情をしていたティールだったが、ふっと表情を和らげる。
「……まあ、父と話すいい機会かなって。ルーメンさんとの話を繰り返して、そう思ってます」
……なんだ。前向きじゃん。
未だに里帰りを嫌がるから、ルーメンさんとの話で得られるものがなかったのかと思ったけれど、そんなことはないらしい。
ティールはちゃんと前を向けたんだね。
「……? 何、ラル。嬉しそうに笑っちゃって」
「ん? いや、楽しみだなって思って?」
「ぼくは別に楽しみではないけど……君が楽しみなら、まあ、よかったよ」
またまたぁ? なんて、いじっても不機嫌になりそうだな。やめた。
「そうか♪ そう思ってくれたのなら、ワシのくだらん話も役に立ったんじゃな~♪」
「くだらないなんてそんな……!」
「ほっほっ♪ と、話が脱線してしまうな? 相談というのは、ラル達の里帰りにツバサ達も同行させて欲しいんじゃ」
お? ツバサちゃん達も海の国へ行くってことか。私は構わないけど。
「ツバサ達って言うと……?」
「ツバサ、アラシ、レオンの三人じゃ。ツルギはここでの仕事があるから、同行できんでな。すでにあちらには話を通してある」
あら、ルーメンさんらしく用意周到。
あちらってことは、ブライトさん達にってことだろうか。あれ、単なる観光ではない? 何か目的があって行かなきゃ行けないってこと?
「なぜ、いきなり三人の海の国行きが決まったのです?」
「ふふっ……やはり、ラルは鋭いの。今、海の国ではとある噂が流れておる。それがツバサと……ティール、お主に関わるものでな」
「……え、ぼく?」
ルーメンさんはこくりと頷く。そして、どこか疲れたような顔をして、噂の内容を教えてくれた。
「まあ、なんじゃ。簡潔に言えば、『ツバサとティールが婚姻を結んでいる』という根も葉もない噂が貴族間に流れておるらしい」
ツバサちゃんとティールが……婚約者ってことかぁ!?
思わず、隣に座るティールの方を見る。ティールはティールで、私を見て、これでもかと全力で否定していた。となると、ティールも初めて聞いた、らしい。
「噂の発端はアズ。女性と酒の席であれこれ話しているうちに、なぜかワシの孫娘であるツバサの話になり、自身の孫のティールの話になり……気がついたら、『ティール王子があのルーメンの孫娘と婚約関係になるらしい』みたいな盛大に盛られた謎の噂が完成した」
お、お酒の力ってこと? 酒は偉大……いや、今回の場合、迷惑の何物でもないか。
しかし、『あのルーメン』ってどういうことなんだろう? そう言わざるを得ない何かをやらかした前例でもあるのか。
……なんだろう。ルーメンさんだから何しててもおかしくないと思ってしまう自分がいる。
「ラル? どうかした?」
私としてはどんな表情をしていたのか分からないけど、ティールから見て、気になる点でもあったのだろう。不思議そうにこちらを見ていた。
正直にルーメンさんについて考えてたって言ってもいいけど、本人にも聞かれてしまう。それはなぜか今ではないような気がしたので、とりあえず適当に誤魔化しておこう。
「いやぁ……ツバサちゃんまで私から奪うなんて、ティールは私に喧嘩を売ってるのかと思ってただけです」
「んなわけないだろ。これ、ぼくも被害者みたいなもんでしょ? っていうか、『ツバサちゃんまで』って何?」
「私を差し置いてツルギ君と仲良しになったくせに、私からツバサちゃんという天使すらも奪うのかって意味だ、この悪魔め」
「誤解だっつてんだろうが!!」
「今回の件、一番の悪人はアズじゃ。全く、あの阿呆め……昔っから余計なことしかせん」
あぁ、朝練で話題になってた噂の詳細ってこれかぁ……これのせいで、アルドアーズさんは地面に埋められてたんだな。
まあ、それはそれとして。
この噂とツバサちゃん達の海の国行きがどう関係するのだろう? まさか、ツバサちゃん本人が噂を否定しに行くとでも言うのか。
「当たらずとも遠からずじゃの。ツバサには貴族らの集まるパーティーに出席してもらい、噂の沈静化を図ってもらう。ま、ツバサには、うちの商品の宣伝をしてきて欲しいと伝えるつもりじゃがの~」
ツバサちゃんが噂の内容を理解できるとは思ってないですけど。しかし、渦中の人物の一人であるツバサちゃん自ら参加しても大丈夫なのだろうか? 悪化してしまいそうな気もするけれど。
「いや、ワシはツバサだからこそ沈静化する確率が高いと踏んでおる」
……? ふーん?
ルーメンさんがツバサちゃんを使って、どんな風に沈静化しようとしているのかさっぱりだ。しかし、ルーメンさんの考えるそれが一番よい手だと言うのなら、それを信じる他ない。
「ここまでの準備が一番面倒じゃったわ……パーティーの選別、招待状の返信、参加者の洗い出し……これなら、普通の仕事をやっとる方が何倍も楽じゃよ」
準備していた時を思い出しているのだろうか。ルーメンさんにしては珍しく、遠くを見つめ、すっと目が死んでいった。それ程までに苦労したのかと同情と哀れみを感じてしまう。
……ツバサちゃんが行くのは分かるが、残りの二人はなぜ?
「ん? あぁ……元々、アラシはあちらの騎士団との合同訓練が控えておってな。それのために行くことが決まっておった。そして、その間、レオンにはツバサの付き人役をしてもらうつもりじゃ」
ふむ。アラシ君は騎士団の仕事。ツバサちゃんは明けの明星の商品宣伝……もとい、噂の沈静化。そして、レオン君はアラシ君のいない間、代わりにツバサちゃんの護衛役ってわけか。
ツバサちゃん達が同行したい理由はわかった。とは言え、私は里帰りするティールのおまけみたいなものなので、どうするかは彼が決めればいいと思う。
ティール的にはどう? 私は口を挟む側じゃないと思うから黙るけど」
「えっ? いやぁ……ツバサ達はあっちでやらなきゃいけない目的があるだろ? なら、別行動する意味が分からない」
そりゃそうだ。どうせ、あっちで合流するんなら、最初から一緒に行けって話だわな。
「と言うことなので、私達は構いませんよ」
「すまんの~? この後、ツバサ達にもこの事は伝えておくからの。当日はツバサ達をよろしく頼むぞ」
了解です。
今度こそ、話は終わりだな。帰るか~?
私はティールに目配せをして、ソファから立ち上がるように促す。彼も小さく頷き、それに従った。
「ラルさん、少しよろしいですか?」
え、今度はなんだ……?
私を引き留めたのは話の間、沈黙を守り続けていたアルフォースさんだった。
「僕から伝えたいことがありまして。そこまでお時間は取らせません。なので、ティールくんは先に雫くんのお迎えに行ってもらえますか?」
ツバサちゃんのところでお留守番しているしーくんを気遣っているのか。或いは、ティールには聞かせられない話なのか。それとも、私一人で事足りるような話なのか。
……全く心当たりがないだけに滅茶苦茶怖いんですけど!?
ティールはちらりと私を見るものの、私が頷いて見せれば、「分かりました」と一言残して、部屋を出ていく。
アルフォースさんが私に話なんて珍しい。大体、─ルーメンさんがいるとは言え─アルフォースさんと二人でってなんだ。共通点も特にないけど。
立ち上がったばかりのソファに再び腰かけ、じっとアルフォースさんを見据える。アルフォースさんも先程はずっと立っていたけれど、私の正面、ルーメンさんの隣に座り、ふぅっと息を吐く。
……一体、何があるというんだ。



~あとがき~
上手く切れなくて長くなってもた。
すんませぬ。

次回、アルフォースの話とは。

原作の空と海では完全フリーのベテラン探検隊なんですけど、レイ学ではギルドに再びお世話になる世界線です。せっかく、お互いのキャラが絡む話なので、こういうのもありかなぁと相談した結果ですね。
ゆーて、大きく変わることもないんですけどね!

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第324話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でだらだらしてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ルーメンさんへ入団の話をするためのアポ取りをしましたよーっと。
今回はそれに関係する話をば。


《L side》
アルフォースさんとアンナさんに見送られ、技師部屋を後にした私達は、真っ直ぐ自分達の部屋へと戻ってきた。
「しーくんが戻ってきたら、ルーメンさんに話す前に教えとく。今後の方針というか、答えについて」
「ん。了解」
「その時、他のメンバーにも通信繋げて、一緒に話しておこうと思う。あっち帰って、事後報告ってのも変な話だから」
「うん」
結構、重大な決断をしているつもりなのだけれど、ティールは至って普通だ。私に任せると心に決めているからなのか。
「変に緊張してるのは私だけかい」
「え? うーん……ラル程ではないと思うけど、ぼくもしてるっちゃ、してるかな? 主にルーメンさんがどんな反応するかってところでさ。受けても断っても、どう反応するか分からないだろ?」
なんで今更、脅し文句みたいなものを聞かされなければならないのか。分からんでもないけど!!
「まあ、それでもぼくはラルと一緒に行くって決めてるから。君となら怖いものなんてないよ」
「……そこにお化けいるよって言っても?」
「それは滅茶苦茶怖いから別物っ!! なんでそういうこと言うかな! そんな雰囲気じゃなかったよね!?」
いい雰囲気だったのは認める。けど、今はそんな真面目空気いらない。
「いつも通り、のほほんとしてたいよ。今は」
「なら、のほほんとできるような話題で空気壊して欲しいかな! え、ほんとはいないよね!」
いないよ。冗談だから。
というか、一週間以上も滞在している部屋に今更、実はここに幽霊いるんだよねって言っても仕方ないだろう。バラすなら最終日だろ。そっちの方が怖くね?
「どっちも一緒だ、馬鹿っ!!」
ティールは布団を頭から被り、部屋の隅っこに移動してしまう。そういうところは本当に子供っぽいというか。……しーくんやともですら、あんな怖がり方しないと思うけど。
「ごめんごめん♪ もっとマシな嘘つけばよかったね~?」
「やだ! 許さないっ!」
しーくんが帰ってくるまでにティールの機嫌を直さなきゃいけなくなったらしい。あ~……自業自得だけど、めんどくせぇ。

ティールのご機嫌取りがようやく終わった頃。部屋をノックする音が聞こえ、扉を開けるとツバサちゃんとしーくんの姿があった。
「ラル! ティール! ただいま!」
「はい、お帰り~♪」
「お帰り、雫。ツバサもここまでありがとう」
「いえ! おはようございますと言うには、遅いです……ね。……えへへ。こんにちは、ラルさん。ティールさん」
「こんちは、ツバサちゃん」
セラフィーヌさんの言葉通り、たっぷり寝たお陰なのか、滅茶苦茶元気一杯のしーくん。興奮気味に昨日、何をしたのか教えてくれた。
「あのね! トランプしたりね、まくらなげたりね、いっぱいあそんだんだよ!」
「そっか。楽しかった?」
「たのしかったー! おっきーおふろにもはいったの! ラルとねティールとねボクがはいってもだいじょーぶなくらい、おっきーの!」
そっかそっか~……そんな大きなお風呂で大惨事してないよな? ザバーッとお水……もとい、お湯で遊んでないよね?
「だいじょーぶ! がまんした!」
やりたいとは思ってしまったのか。よかったよ、力が暴発しなくて。
「しーくん、ちゃんと皆と仲良くしてたのでご安心ください♪」
「みたいだね。しーくんの様子を見れば分かるよ」
「はい♪ では、私はこれで。この後、ツルギと一緒にもう少し寝る予定なので」
あら、そうなんだ。
「舞で大量の魔力を消費しちゃったので、その疲れが抜けてないみたいです。……もう一眠りすれば完全に回復するので、ご心配なくっ♪」
なら、よかったけど。
確かに特別顔色が悪そうとかもないし、本人の言う通り、もう少し休めば問題ないのだろう。
「なら、一つ頼みごとしてもいい?」
「? はい。なんでしょう?」
「夕方くらいにルーメンさんと話をすることになってて、その時にしーくんを預かって欲しいなって。もちろん、無理にとは言わないけど」
「夕方ですか? それなら大丈夫だと思いますよ♪ 私もツルギも完全回復してる頃ですから」
笑顔で快く引き受けてくれたツバサちゃんの頭をなでなでする。条件反射なのか、ぴこぴこと動く耳と尻尾が大変愛くるしいでございます。
「ありがとう、ツバサちゃん♪ じゃあ、お願いしちゃうね?」
「はいっ♪ 任せてくださいっ!」
撫でられたのが相当嬉しかったのか、ツバサちゃんは幸せそうな笑顔のまま、元気よく手を振って自分の部屋へと戻っていった。
……ツルギ君に変な誤解を与えなければいいのだが、まあ、今更か。
さて、しーくんも戻ってきたし、ムーン達に話していた時間帯も差し迫ってきたな。
私はティールとしーくんにソファへ座るように促し、テーブルの真ん中に端末を置く。
「どしたの、ラル?」
「んーとね、今から大切な話をしようと思ってね……と」
しーくんを私の膝の上に座らせ、ティールは対面に座る。そして、テーブルの端末を操作して、仲間に連絡を取る。
「……よし、これでいけるはず。やほ~? 聞こえますか~?」
『えぇ、聞こえます。問題なさそうです』
『おー! ひっさしぶりだな、ラルー! これ、かんどりょーこーってやつだぞ!』
『あらあら、ともさん、難しい言葉知ってますね~♪』
『その言い方は馬鹿にしてるだろ』
端末からはチーム全員の声が聞こえてくる。
ムーン、とも、クラウ、フォース君。私の希望通り、全員いるらしい。
『ラルさんとは朝に少しだけお話しましたが……ティールさんや雫さんもお元気ですか?』
「ムーンか。うん、元気にやってる。ちょっと暑いのは勘弁だけどね」
「げんきだよ! ムーンたちもげんきー?」
『もっちのろんだぜ! あ、でも、フォースはさっきまでだらーってしてた!』
『聞き捨てならん。一人だけくそ暑い中、ここにわざわざ来てるからな? 分かる? その苦労』
『あら、それなら私がお迎えに上がりましたのに~』
『お前の迎えは怖いからいらねぇ!』
あちらは随分と賑やかだな~……このまま適当に雑談してても面白いんだけれど、今回連絡したのは雑談のためではない。
私は流れを変える意味で、こほんっと咳払いをした。端末越しにわいわいしていたメンバー全員がしんっと黙る。
「肩慣らしはその辺にしておこう。今日は皆に伝えたいことがあって連絡したの」
『むー? あたし達、ぜーいんに聞かせたい話ってこと?』
「そうだよ。事前に伝えたくて」
『……真面目な話なの?』
「そう。真面目な話。ともは苦手かもしれないけど、分かるように説明する。ここにはしーくんもいるからね。……だから、最後まで聞いていて欲しい」
いつもなら、難しい話なんて嫌だと匙を投げるともだけれど、雰囲気が違うと察したのだろう。少しの間が空いて、そっか、と呟くのが聞こえた。
『わかった。聞く。分かんなかったら、何回も聞いてもいい?』
「うん、何回でも聞いていいよ。……他の皆も大丈夫そう?」
『えぇ、大丈夫です』
『はーい♪ 問題ないですよ♪』
『お好きにどーぞ』
とも以外の全員の返事を聞き、私はここにいる二人にも目配せをする。
「ん。大丈夫だよ」
「ボクもー!」
全員の同意を聞き、私は深呼吸をする。
思えば、こうして全員で真面目な話をすることは稀だ。いつだって、私が一人で勝手に決めてきた。メンバー加入も、チーム方針も、仕事の割り振りも全部。もちろん、決めたことに対して、同意を得るために皆に話をするけど、それだって大体が事後報告みたいなもんだ。
「私達が今、『明けの明星』ってギルドにいるのは知ってると思う。今、そこの親方さんに私とティールが学園を卒業したら、二人ともギルドへ来ないかって話が来てるの」
『ほあ……?』
『あらまあ~』
『……』
事前に相談をしていたフォース君以外からはそれとなく反応が返ってくる。
ともははてなマークを浮かべて。
クラウはただの相槌だけ。
ムーンは沈黙。話の続きを聞くような体勢。
「平たく言えば、私とティールは勧誘されたってことになるか」
『でも、フェアリーギルドは? スカイはあそこにいるんじゃなかったの?』
『馬鹿。とっくに卒業してんだろ。今、スカイはフリーの探検隊だ』
『あれ? そうだったっけ?』
『嘘だろ。お前、おれより先輩だろうが!?』
……ともさん、自分のチームの現状くらいは把握しておいてください……っ!?
『ともの馬鹿発言は置いておくとして。……この連絡はお二人がどうするのか伝えるためのものですね? その答えに伴い、僕達のこれからも決まる、と』
「うん。そう思ってくれていい」
『なるほど。理解しました』
流石、ムーンさん。物わかりが早い。
「ラル、ルーメンおじいちゃんのおねがいごと、どうするの?」
「そうだね。……正直、この話を聞いた直後はかなり悩んだ。入団した時の恩恵は大きいし、魅力的だと思った。けれど、今まで、プリン親方……フェアリーギルドの皆にお世話になった恩もあったから」
『まあ、言い方が悪いですが、鞍替えしたと思われても不思議ではないですものねぇ』
「……うん。クラウの言う通りだと思う」
ギルドの皆がそう思わないのは知っているけれど、思われてしまうんじゃないか、私がそう考えてしまった時点で、罪悪感は生まれてしまう。
「そういった事情込みで、私の出した答えを聞いて欲しい。……私は──」



~あとがき~
答えはルーメンおじいちゃんのところで☆←

次回、ラルの出した答えとは。

クラウさん、初出しがここってまじぃ!?(笑)
いや、名前だけならかなーり前に出てるんです。名前だけならな! しかし、(当然っちゃ当然)出すタイミングもなく、あれよあれよとこんなところで声の出演が初出しになってもた。
どこかの休日回とかで出せたらええが……そんな予定もないのが現状。悲しみ。
まあ、しゃーなしですんで、軽くここでご紹介しておきましょう。
チームの運び屋。且つ空の国の次期王女で今はまだお姫様、ハーピィ族のクラウさんです。そんな彼女は成人済み、スカイの大人組の一人です。とはいえ、お姫様特有(?)のふわふわしてるマイペースな方なので、大人組に属してもいいのか謎なお姉さんです。よろしくお願いします!!

ではでは。