satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

学びや!レイディアント学園 第349話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界の物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ティールとツバサちゃんがお互いペコペコし、一旦解散となってます!
今回もティール視点でやってくどー!


《Te side》
もし、これが実家ではなく、あっちの家で起こった出来事だったら、いくつもの候補地を巡って探す必要があっただろう。
けれど、ここは陸の国じゃない。
だからって訳じゃないけど、今のラルが一人になろうとするのなら……きっと。
「用意された自分の部屋しかない。下手に街中に出るわけないもんね、ラルは」
「……入っていいなんて言ったっけ」
ラルは自身が寝泊まりしている部屋にいた。ベッドに腰掛け、訝しげにこちらを見つめている。
確かにラルの言う通り、返事を聞いた記憶はない。部屋の前に辿り着いてすぐにノックし、そのままの勢いで扉は開けたから。
とは言え、今のラルが素直に返事をしていたかは怪しいので、間違った行動をしているとは思わない。
「ノックはしたよ」
「それは聞いた。返事した覚えがないって話」
「それ、必要?」
「……はぁ。それで? 何か用?」
ぼくがまともに取り合わないないと理解すると、その話題をさっさと止め、本題を振ってくる。
「うん。君にね」
「私?」
「そ。……本当なら一番に言うべきだったなって。……ラル」
ベッドに腰かけたままの彼女に近付き、目線を合わせるために膝をつく。
「ごめん。心配かけた」
「何、急に。……心配なんて一ミリもしてなかったから、謝る必要なんてないよ」
「じゃあ、なんでそんな素っ気ないの? 何か引っ掛かってるから、一人になりたいんじゃないの?」
図星だったのだろう。
いつもならポーカーフェイスを貫くラルだけど、ぼくの投げ掛けにどこか泣きそうな、何かを我慢するような表情を見せた。しかし、それは一瞬で、気が付いた時には呆れたような表情を浮かべていた。
「それが分かってて、よくもまあ……押し掛けてきたもんだな」
「こういう時のラルは一人にしちゃ駄目だって長年の勘が言ってるからね。……でも、何が引っ掛かってるのかまでは流石に分からない。昨日の事件が関係しているのは分かるけどさ」
「……別に何にもないよ」
「嘘つかないで。……ぼくが何かしたなら謝るし、償う……ってのは大げさか。埋め合わせするから。……何があったの?」
ぼくの問いかけにラルは答えなかった。ただただ沈黙するばかりで。
それは答えたくない意思表明なのか。それとも、言えない理由でもあるのか。
どちらにせよ、ぼくはエスパーじゃない。言って貰わないとラルが何を思っているのか、感じたのか分からない。
「雫が言ってた。ラルが悲しそうにしてたって。雫にすら、バレてるんだよ」
「……」
いつだってそうだ。ぼくらの前で何かに悩む姿を見せることはあれど、悲しそうに見えるくらい辛そうにする姿なんて滅多に見せない。それはぼくらの見えないところで一人でそうしているから。悔しいけど、それがラルって人だ。
そんなラルが一瞬でも雫の前で悲しそうだったと、そう思わせたこと自体が異常なんだ。
何もなかったなんてあり得ない。
「どんな時でも雫の前じゃ笑顔でいた君が昨日はそうじゃなかったんだろ。……逆にぼくの前じゃそんな素振りはなかったから、ぼくに気を遣ったからかな。……とにかく、今のラルはほっとけない」
「……」
ここまで言っても何も言ってくれないのか。
……となると、無理矢理聞き出すのもよくない……んだろうけど、相手はラルなんだよな。しんどいものは全部一人で抱えてしまう困った相棒なのは知っている。ずっと隣にいたから。
なら、こちらも黙って隣にいるしかないか……我慢対決なら負けるつもりないけどな。
ぼくはその場から立ち上がると、ラルの隣に座り直す。そして、こちらから何かを話すでもなく、ただそこにいることにした。
こんな気まずい時間がどれくらい経っただろう。数秒だったかもしれないし、数十分だったかもしれない。体感としては言わずもがな、後者である。
沈黙を破ったのは彼女の方だった。
ラルが絞り出すかのようなか細い声で、何かを呟いた。多分、ぼくを罵倒する何かだと思うけど、生憎、声が小さすぎて聞き取れなかった。
「……話す気になった?」
「話さないと、解放してくれないんでしょ。……何が聞きたいの」
「君の気持ちとか。どうしてそこまで自分を追い込んでるのかとか。……追い込む必要、あった?」
「はあ? 追い込んだ張本人が何を……いや、ごめん。ティールは悪くないわ。……自分を追い込んでるのは……多分、自己嫌悪のせい。だから、私が悪い……これでいい?」
いや、それ聞かされてよくなるわけなくない? 全く意味が分からない。
「ぼくが悪いのは……まあ、幼児化したのが原因だし、それが理由でぼくに冷たくなるのは分かるんだけど。なんで自己嫌悪してるの?」
ぼくと両親のために動いてくれたラルの行動に悪いところなんてどこにもない。幼児化したぼくのずっと傍にいてくれて、話を促してくれて……少なくとも、ぼくは彼女を責める必要なんてないと思っているのに。
「ラルは悪くないだろ。突然、こんなことになったのに色々手伝ってくれて……」
「違うの。知ってたの」
「? 知ってた?」
ティールが小さくなるって、前から知ってたの。……知ってて止めなかったし、防がなかった。ティールは嫌だったかもしれないのに……しーくんが悲しむって分かってたのに、私は何もしなかった」
それを知った経緯はなんなのだろう。ラルの能力がたまたま発動したのか、あるいは別の方法なのか。……当然、疑問に思うけれど、それは今はどうでもいい。
ラルは俯いたまま、両膝の上に置かれた手をぎゅっと強く握り、堰を切ったように話を続ける。
「……何もしなかったくせに、しーくんを安心させてあげる言葉すらかけられなかった。……そんな私が嫌い。知ってたくせに、一人前にショック受けてる自分も嫌い。……止めちゃ駄目なの知ってたのに、止めたいと思ってしまった自分が嫌いっ!!」
正直、ラルがどういう心境で今回の事件を見ていたのかは分からない。告白したそれらは脈絡もなくて、どう繋がるのかぼくには分からなかった。
けれど、ラルが色んなものを抱えながらも、ぼくや両親にそれを見せずに付き合ってくれていたのは分かる。
「……明日には、元の私に戻る。……戻るから、今はほっといて」
「あそこまで聞かせといて、ほっとくのは無理だなぁ……ごめんね、ラル」
「何に対しての謝罪? 放置しないことに対して?」
「それもなくはないけど」
幼児化事件を事前に知りつつも、それを阻止しようとしなかったのは、何かしらの理由があるのだろう。
でも、ラル個人としては止めたかった。それが他人のためなのか、自分のためなのかは分からない。でも、それを押し殺して、今回の事件を見届けた。
ラルの能力があれば、阻止するのは簡単だったはずなのに。
ぼくは強く握られている手を自分の手で優しく包む。そして、もう一方の手でラルの背をゆっくり撫でていく。
「ぼくや雫に言わなかった理由は、今回の事件をなかったことにしちゃいけない理由があるんだろ? なら、君がそれを責める必要はない。知ってたとして、何も感じちゃいけないなんてないよ。……ぼくだって、ラルと同じ立場だったとしても、驚くし……きっと、嫌だったよ。今までをなかったことにされるのは、辛いから。だから、止めたいと思った自分を嫌いにならないで」
「……ティール」
「というか、止めたいって思ってくれたのは……ぼくに忘れてほしくないって思ってくれたってことだろ? それは……なんていうか、嬉しいなって思う。君の中でぼくが特別な存在になれてるってことだし、悪い気はしないから」
第一、ぼくだって、ラルに忘れられちゃったら相当ショックを受ける。……よくよく考えれば、ラルはそれを事前に知ってたのだ。そりゃ、駄目だと分かってても止めたくもなるし、終始、感情ぐっちゃぐちゃだよな。
そんな状態であれこれ世話焼いてくれてたんだと思うと、頭が上がらないし、大変申し訳なく思う次第です。
「……本当にごめん、ラル。忘れちゃってごめんね」
ティールは悪くないって言ってるでしょ」
「そうなんだけど……仕方なかったかもしれないけどさ。ラルに嫌な気持ちにさせたのは事実だし。実際、泣かせてるのも……ぼくが原因なわけで」
俯いたままで分かりにくいけれど、声や肩が震えているし、溢れた涙がラル自身の服を濡らしていた。
「だから、ごめん」
「…………馬鹿」
「うん」
震える肩を抱き寄せて、そのままぎゅっと抱き締める。泣きじゃくる赤子をあやすように……昨日、父にやってもらったように、ラルの背中を擦っていく。
「もう忘れない。ラルのこと、全部覚えてる。……誰もラルのことを責めてないから。雫も分かってくれてるよ。大丈夫」
「……っ」
「不安にさせてごめんね。……でも、ありがとう、ぼくのことを優先してくれて。だから、今は自分を優先していいんだよ。全部、受け止める。昨日、君がしてくれたようにぼくが受け止めるから」
遠慮がちにぼくの背に腕が回される。
そして、ほんの少しだけ力が込められると、彼女の中で抑えていたものが全て溢れ出した。
「怖かった。……ティールが、私のこと忘れて……そのままだったらって……怖くて、おかしくなりそうだった……だから、考えないように、してた」
「うん」
「私を『ラルねぇ』って呼ぶ度、離れちゃう気がして、怖くて、怖くて……私が知ってるティールがどこにもいないって……私を知ってる、ティールがいなくなったら、私は……私は」
「……大丈夫。大丈夫だからね。いなくなったりしないよ……大丈夫」
昔、ラルと探検隊活動を始めた頃、親方に言われた。
記憶のない彼女にとって、自分……『ラル』という存在を作り出しているのはぼくらしい。
正確に言えば、ラルの中ではそう考えているのだろうと。
自我を持たない赤子は周りの刺激を受け、自我の形成を行う。ラルはそれを近くにいるぼくという存在で補っている。
つまり、彼女の中でぼくという存在は特別で、その特別を失えば、ラルはラルを保てなくなるだろう。……と、親方に言われた。
今じゃ、ラルはラルとしての感情も気持ちも考えも持ち合わせている。ぼくという特別を欲する必要はないはずなのだ。
けれど、それでも……
どこか不安定なのは……彼女の特別な境遇のせいなのか。彼女そのものに問題でもあるのか。或いは。
「ぼく自身が特別でありたいのかもしれない」
──なんて、まさか、ね。



~あとがき~
なんでこんなに闇が深いの、こいつら。こわ。え、こわ……(笑)

次回、約束したり、話をしたり。
本題にはまだいかない、と思う。はい。

どっかで言いましたが、こいつらは共依存しとるんです。その色が強いのはラルですけど。
なんか今回はそれが一番表に出てきたなって思います。出すつもりなかったんだけどなぁ……すみませんね、暗い話ばっか続いて。

ではでは。