satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

学びや!レイディアント学園 第118話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわちゃちゃしてる話です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
お昼食べようってところで、誰かいるぞ……? 誰だ!? というところで終わりました!
別に変な話ではないんで、楽しんでってね!!
ラル「どういう繋ぎ……?」


私の言葉にティールは少しだけ真剣な顔をして、タンクをじっと見つめる。が、誰なのか分かるはずもなく、立ち上がって肩をすくめる。
「誰かって誰さ。誰も入れないはずだし、ラルが鍵を開けるところをぼくら見てるんだよ。……まさか、侵入者だって言うの?」
「それはねぇだろ。とあるお兄様の事件で、セキュリティがこれでもかって厳重になってんだ。誰かが入るなんてあり得ない。……そうだろ、ラル?」
まあ、そうだろう。私達と校長、理事長まで巻き込んで警備体制を一新させたのだ。それを短期間で破られては意味がない。生徒会の名折れである。
「確認した方が早いか。ティール、行ってきてよ」
「うえぇ!? ぼく!? なんで!」
だって……ねぇ?
頼りになるフォース君は、上履きを脱ぐのが面倒なのか足を地面の方に向けて座ったままだ。立ち上がる気もないのだろう。
それを無言で見て、再び給水タンクのある方を見た。正確には、それに上るための梯子を見る。
「大丈夫だって。ティールは強いから」
「やだよ! ぼくがお化けとか苦手なの知ってて言ってる!? 見てきて何もいなかったら怖いじゃん! ぼく、見える人じゃないんだよ!? 君らと違って!!」
お化け怖いとか女子か。
こんな真っ昼間からお化け騒動などあり得ないとは思うが、それはこちらの固定概念でしかない。昼間から、健気に働くお化け様もいらっしゃるかもしれないのは、確かに否定できない。
そして、ティールに霊感がないのも事実。実際、霊体の鈴流さんも見えないのだ。見えないのが当たり前かもしれないけれど。
「しっかたないなぁ……じゃあ、私が─」
ティールお前、女子に行かせるの? 梯子だぞ? マジで?」
私達を見上げていたフォース君が、にやりと笑いながら割り込んできた。自分は行く気ないくせに、この問答に何の意図があるのだろうか。
フォース君の言葉にティールは、観察するように私の頭の先から爪先までじっと見てきた。そして、何かに気づいたのか、少しの焦りを見せる。
「……あぁっ!? くそ。そういうことか! フォースは本当に狡いよね!」
それを言い残すと、足早に給水タンクへと駆け寄って行ってしまった。全く意味がわからない私は首を傾げるしかなくて。
……なんなんだろう?
「お前、女だって自覚したら? ワンピース着てんだから、分かるだろ」
「……は? んー……?」
フォース君に言われ、だぼついているカーディガンの袖から手を出し、ワンピースの裾をちょんっとつまみ上げる。後ろを見たり、くるりと回ってみたり。しかし、変なところは特にない。
「……どゆこと?」
「真面目モードだとほんと自分は二の次なのな? 察しろよ。下手したら見えるだろ? いやまあ、タイツ履いてるけども」
「…………!? 変態っ!」
ここまで言われてようやく気がついた。そんなこと考えてたんか、この馬鹿フォースめ!!
ほぼ勢いに任せて足技をかますものの、そこは実践経験ナンバーワンのフォース君。ひらりとかわし、またもやにやりと笑う。
「だぁから、スカート履いてんの忘れんなっての。おれにそんな趣味はねぇよ~♪」
「くそ! ムカつく!」
いつか絶対に斬ってやる!!
「わあっ!?」
雷姫を呼び出す手前まできていたところに、ティールの驚いたような声が聞こえてきて、我に返る。ついフォース君とのしょうもないやり取りに気を取られていたが、ティールをタンクへと向かわせていたのを忘れていた。
私も給水タンクへ近寄り、梯子に足をかけたままのティールに呼び掛ける。
ティール! 大丈夫?」
「あ、う、うん……大丈夫。……ねえ、なんでこんなところにいるの? 話聞かせてくれる?」
ふむ? ティールが話しているということは、お化け様ではないのか。それは一安心……と言っていいのだろうか。
「……あぁ? この気配って」
ようやくやる気になった─というか、立ち上がる理由ができたから、ついでに近寄ってきただけだと思うけど─フォース君が首を傾げながら、気配を辿る。どうやら、この気配に心当たりがあるらしい。つまり、うちの生徒……?
「……って、そんな嫌そうな顔しないでくれるかな!? こっちは問答無用に生徒会権限を使って、君を処分したって問題ないんだからな」
……なんとなく拒否されているみたいですな。
しかし、すぐにティールが梯子から飛び降りてきたから、上にいる人物は渋々了承したらしい。
そして、ティールに続くように飛び降りてきたのは、私達が知る人物だった。
青い髪をポニーテールにまとめ、ジャージを羽織り、何やら食している人魚族の女子生徒。
アリア・ディーネちゃんである。
「な、なんでアリアちゃんが……?」
私の後ろでは、フォース君のため息混じりの「やっぱりか」という呟きが聞こえてきた。
「えぇっと……とりあえず、あっちでお話いい?」
こくんと無言で頷くアリアちゃんを、少し離れたところに寂しく設置されたレジャーシートへと案内した。
私達は上履きを脱いで、円になるように座り─と言っても、フォース君は脱ぐ気もなく私達に背中を向けているが─、ようやく昼食タイムである。
「あ、あの、アリアちゃん? なんでここに? 立ち入り禁止エリアですけど……?」
私の隣で相変わらず、もぐもぐしているアリアちゃんに遠慮がちに聞く。無視覚悟ではあったのだけれど、そんな心配は無用だったらしい。アリアちゃんは食べていた何かをごっくんと飲み込むと口を開く。
「ん……学食食べたあと、よく来るよ。……誰もいないから、静かだし。……鍵は持ってないから……窓から出て、壁伝いに登る」
「あっぶなぁ!? アリア!? 駄目だよ、そんなことしちゃあ!」
真面目なティールに、アリアちゃんはちらりと反応を見せるものの、特に返答はしなかった。何言ってんだ、みたいな感じである。
……というかだ。
「アリアちゃん。話する前に確認いい? 私とこいつはこの前戦ったから分かる?」
私の言葉にアリアちゃんはちらっとフォース君の背中を見て、こくんと頷く。
「ん。分かる。……ラルとフォースでしょ?」
「その節はどーも、ディーネさん」
「じゃあ……こっちは知ってる? 大丈夫だよね??」
次に私はぎょっとしている自分の相棒を指差した。再び、こくんと頷くアリアちゃん。
「……ん。生徒会の人、有名人だから。……ティール、だよね?」
「よかった。なら、いい」
「ええ!? そこから!?」
いやぁ……その、反応薄くって……心配で。それに、そこまで関係築いてなかったもので。
けどまあ、侵入者やお化け様じゃなくてよかった。
「ア、アリア? もっかい言うけど、壁伝いにここまで登っちゃ駄目だよ?」
こほんと咳払い一つしたティールが、アリアちゃんに言い聞かせるように話しかける。が、それは彼女にあまり響いていないらしく。
「……でも、ここに行きたい」
「立ち入り禁止だってば!!」
あ、これ、しばらく続くな。
私は買ってしばらく経ってしまったお弁当の蓋を開ける。一緒に入れて貰ったスプーンの封を開け、一口だけ掬う。少し冷めてしまっているけれど、ホワイトソースとチーズのコンビネーションが抜群で、ホワイトソースに負けずに、ほんのり風味の残るきのこもアクセントとなっている。流石、クレアおば様。とても美味である。
「……何。購買の弁当なの?」
どこから取り出したのか、紙パックのジュースを飲んでいたフォース君がきのこのドリアを見下ろす。
「アホ狐が弁当のおかずを食らい尽くした」
「……そりゃ、災難で」
ほんとだよ。
あれこれ言い聞かすティールだけれど、アリアちゃんの耳には届いていないらしく、気にする様子もない。そんな彼女は、学食で食べてきたと言っていたにも関わらず、袋から一つのパンを取り出した。鮮やかな狐色に焼いた一般的な菓子パン……だろうか。いやでも、どこかで見た気が。
それを見たティールはぴたりと動きを止める。ただアリアちゃんの持つパンに視線が注がれていた。
「ア、アリア……それ、そのパン……それえぇ!!??」
ティールの絶叫の中、アリアちゃんはパンをぱくっと咥え、美味しそうに頬張る。
「……ティール、怖いよ? 情緒不安定なの?」
「ラルに言われたくない!! っていうか、アリアのパンを見たら不安定にもなるだろ! あれ! それ見て! 分からない!?」
いやぁ、分からねぇっす。見たことある気はするけど。ぽんっと出てこない。
「……これ?」
「そうっ!!!」
一口食べたパンをずいっと差し出すアリアちゃん。そこからはりんごの甘い匂いがほんのり漂ってきた。りんごのジャムパンだったらしい。ん……りんごの……?
「あ……幻のジャムパン?」
週一の数量限定(五個限定)のパンか。
学食にも行って、それも買ってるんだな。まあ、順番的にはジャムパン買って、学食来て、ここにいるんだろうけれど。本人は何とも思っていなさそうだが、アリアちゃんのお昼、忙しすぎない?
「? そんなことは、ないよ。……僕、いつも五個買ってる……毎週の楽しみ……♪」
……いつも、ご購入されているらしかった。
「……あ? 五個? 元々、五個しかないんじゃなかったか?」
そういえば、そうか。しかし、アリアちゃん以外にも買っている人達はいる……つまり、間違っているのはこちらの認識。
「つまり、アリアちゃんが毎回五個買っているから、いつの間にか本来の十個じゃなくて、半分の五個しかないって情報が流れてるんじゃないかな……?」
「なるほどねぇ……とんでもねぇな、お前」
「?」
分かっているのか、いないのか。きょとんとしているアリアちゃん。まあ、この生徒数だ。五個も十個も大差ないけれど。毎週、チャレンジしているティールですら、ほぼ手にできないパンを毎回ゲットしているなんて、欲望と言うものはある意味、偉大である。



~あとがき~
今更ながらに、今週の投稿間隔、変なことになっとることに気づいた。謎の三日連続投稿……あっれぇ?? まあ、レイ学更新は週三っす。つまり、今週はこれで終わりっす。

次回、四人の昼食は続きます。

ラルとティール、フォース三人の茶番、久しぶり過ぎひん? 前回も一応はあったけど。
いやはや、楽しかったです。やっぱり、あの三人はいいですな。(自画自賛
自キャラだから、好き勝手できるしな。
アラシ君達一年組も好きだし、生徒会幼馴染み組の三人も好きなんですよ。これからも書いていきたいですね!

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第117話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界での青春物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
学園っぽい授業風景のお話でした!!
今回はお昼です。ぽいぞぽいぞー!!
ずっと、バトルしてたからな。いいですね! 日常の楽しい感じ! 好き!!


三年の教室から学食と購買部はどちらかと言えば、後者の方が近いため、私は迷わずそちらへと歩を進める。
この学園での昼食パターンは主に三つ。
一、学食を使用する。
二、購買部で購入し、好きなところで食べる。
三、お弁当等を持参。
……である。全生徒がどれだけの割合で、どのように利用しているかは知らないが、学食や購買部の利用率の方が高い気もする。
購買部ではクレアさん、学食ではゴンツさんという夫婦がお互いにメニューを考えている。つまり、購買部ではクレアさんの考えたメニューが、学食ではゴンツさんの考えたメニューが食べられるというわけだ。
「ちょ、押すなよ!」
「混んでんだからしゃーねぇだろ! それよりも、早く進めよ」
あらあら。今日も今日とて混んでるな。まあ、ジャムパンの発売日だからというのもあるんだろうな。
……あー、ティールが揉みくちゃにされてる。これが全員敵なら助けてあげるんだけれど。
「巻き込まれたくないからスルーだね。頑張れ~」
戦場のジャムパン特設コーナーは素通りし、私はお弁当コーナーへと到着。
購買は客を分散させるために大まかにパンはパン、お米はお米みたいに分類され、レジも分けられている。レジで買いたい商品名を言えば、店員さんがぱぱーっと詰めてくれるのだ。とはいえ、いちいちコーナー移動するのも面倒であるため、種類は少なくとも、別系統のものも置いてはある。
例えば、おにぎりも買って、サンドイッチも! みたいなことがお米コーナーでも、パンコーナーでもできるわけだ。いやはや、考えられている。
私はお行儀よくレジに並び、その間に何にするかと何となく考える。ついでに、負けて帰ってくるであろう、ティールの分も。
万が一。万が一にもゲットしてきたり、ジャムパンは無理だったとしても、自分用のを買ってきたと言われたら、フォース君に投げつけるか。
「ありがとうね! はい! 次の人どうぞ!」
「はぁい……あ、お久しぶりです。サクラさん」
「おや、ラルちゃん! 久しぶりだねぇ!」
普段来ないからなぁ……
桃色の髪を下の方でお団子にまとめ、頭に白の三角巾を着ける、おばちゃんがにこやかに笑いかける。
「キノコのドリアとフィッシュサンド……あと、りんごのミニパフェとマゴウのミニパフェ、一つずつお願いします」
「はいよ! ラルちゃんがここに来るときは、何かあってお弁当作れなかったときだけだからね!」
「あ、あはは……まあ、色々ありまして」
朝から嫌な事件でした。
サクラさんは手際よく袋に入れてくれ、ご丁寧にお弁当とデザートの袋を別々にしてくれた。
「お待たせ! まだ温かいからね。教室帰ってからでも美味しく食べられるよ!」
「わっ! ありがとうございます~♪」
お会計を済ませ、にこやかに見送ってくれるサクラさんに軽く会釈をする。そして、出入口付近にて、未だ戦場から戻らないティールを待つ。
「なんか、学食の方がすごいらしいぞ!」
「え? 何々?」
購買の先にある学食にて、何やら起こっているらしい。心なしかいつもより賑やかな気がする。
何かトラブルが起こっているというよりは、単純に何か面白いことが起きているみたいな雰囲気のようだ。これがトラブルなら、もう少しパニックになるはず。その空気が今はない。
この前の大会に似たお祭り騒ぎというか、そんな感じ。外の陽気も穏やかで、事件とは無縁な様子ともいえるが、それなら、何が学食スペースで起こっているのだろう?
「ただいまぁ」
「あ。……おかえり、ティール」
そちらが気にならない訳ではないが、ふらふらでぼろぼろのティールが帰ってきたため、学食の件は一旦放置しよう。
壁際まで危なげに歩いたと思ったら、ずるずると座りこんでしまう。見た目と様子からして、駄目だったのは明らかである。が、一応、聞いてみるか。
ティールの横でしゃがみ、乱れている髪を整えてあげる。
「まあ、聞くまでもないけど……どうでした?」
「分かるだろ? 無理だったよ。どっかの知らない人に押されまくった結果でした」
ティール、威厳ないから」
「なにそれ……関係ある?」
いやぁ、この世界には威圧感というものがあってだな。それを駆使すれば人という人はひれ伏すんだよ。
とまあ、冗談はさておき。
完全に手ぶらなティールを立ち上がらせ、教室方面へと導く。歩きながら、お弁当の入っている袋をちらつかせた。
「ところで、君、お昼はいらないのかい?」
「……あぁ!? そっか! ラルのお弁当ないんだった!! またあそこ戻るのかぁ……」
「いいよ。私のチョイスでよければティールの分もあるから」
「え? ほんと? ありがとー!」
ティールは満面の笑みで答えたあと、持つよと言われたので、素直にお弁当の袋を差し出した。
「……ティール」
「んー?」
「今日、外で食べよっか。天気いいからさ」
「ん。いいけど……上? 下?」
ティールのこの質問は、校舎外で食べるのか、一般生徒が立ち入り禁止の屋上へ行くのかという問いだ。屋上に行こうかなんて、一般生徒が行き交う廊下では言えないから、こんな言い方をしたのだろう。
「上。それなら、フォース君も来てくれるだろうからね。連絡すれば来るっしょ」
「いれば来るだろうけど、学校にいるかも怪しいよ。朝から見てないし」
いるいる。いなかったら私のために登校してくればいいんだよ。
私の暴君もびっくりな支離滅裂な発言にティールは呆れているけれど、これを咎めても何かあるわけではない。学生の本分は学業。来ない方が悪い……ま、私も適度に休む派なんだけども。
端末を操作し、フォース君を呼び出す。何回かコールしたあと、通話状態になるが、何か聞こえてくるわけではない。強いて言えば、クラスメイトの楽しそうな声が遠くから聞こえる。とりあえず、教室にはいるらしい。
いや、そんなことよりも何か話せよ。
「上で待ってる。早く来い」
『……へい』
それだけが聞こえてくると、一方的に電話を切られる。仕方なく、私も通話状態を解除した。
「フォース君は確保した。多分」
「来てたんだ?」
「みたい。どっかでサボってたのか、昼から来たのかは分かんないけどね。……私達も上に行こっか」
「了解だよ」
屋上へと向かうために階段を淡々と上っていく。そんなに階数のある学校ではないからすぐに登り終えると、階段の最上段にぼけっとフォース君が座っていた。
「おはよう、フォース。午前中はどこにいたの?」
「図書館」
「ふーん? 学校にはいたんだ。なんで授業にはいないんかな」
「ラルもいないときはいないだろう? 人のこと言えないよ」
う。……さ、最近は真面目にいるし……ちゃんとお利口さんだし?
じとーっとしたティールの視線から逃げるように、私は屋上へと続く扉の前に立つ。ポケットからマスターキーを取り出すと、扉は簡単に解錠される。
限られた人しか屋上へと続く鍵は持っていない。理由は単純。危ないから。
職員室に厳重に保管されているのが一つ。私の持つマスターキーが一つ。そして、校長と理事長が持つマスターキーが一つずつ。計四つ。私が把握している屋上の鍵の在りかはこれだけ。……まあ、例外はある。例えば、そこのぼけーっとしていたお兄さんが複製する、とかね?
屋上に出ると、外の穏やかな風がとても気持ちいい。ぽかぽかした陽気も相まって、心まで暖かくなった気分だ。
「そいやぁ、ティール。今日も行ってきたのか?」
ティールの挑戦をフォース君も幾度となく見てきている。今日がジャムパンの発売日であると思い出したらしいフォース君が、大して興味もなさそうなトーンで聞いてきた。
「ん? あぁ、行ってきたよ。結果は言わなくても分かるだろ」
「どんくせぇなぁ」
「じゃあ、今度は君が行ってきてよ。味わいなよ、あの地獄」
「おれを殺すつもりかよ……人酔いで死ぬ」
死因が人酔いなんて聞いたこともないわ。
安全上のために高く設置された柵と給水タンク。そして、配電盤があるであろう小屋くらいしかこの屋上にはない。フォース君の嫌いな人混みからは離れられる数少ない場所だ。
「とりあえず、ご飯食べよ~? フォース君、レジャーシート的なやつ、よろしく!」
「そのために呼んだんじゃねぇだろうな? つか、お前、おれのことを何でも屋だと勘違いしてない?」
何でも屋というか、便利屋だとは思ってる。なんて、言えませんけど。
「心外だなぁ? きっと、教室でこの前の大会のあれこれを聞かれてて大変だろうなぁって思っての行動だよ?」
「……ちっ」
ふふん♪ この反応は図星だな。……そりゃそうだ。フォース君が鈴流さんを見せたのはあれが初めてだったんだもん。世の男子が根掘り葉掘り聞きたくなるのも分からんでもない。それくらい、鈴流さんは可愛らしいのだから。
フォース君が片手をかざすと、丁度よい大きさのシートが出現する。本当に、何でも作り出せてしまうものである。
そのシートにフォース君がどかっと座り、そんな彼にティールはお礼を言っていた。そのときだ。
「……なんだ」
一瞬だけ感じた人の気配に、私は後ろを振り向く。しかし、そこにあるのは扉と給水タンクのみ。人影など全くない。当然だ。ここは基本的に立ち入り禁止区域で、人がいてはいけないのだから。
……なら、なぜ誰かの気配を感じ取った? 私達以外の気配を、だ。
「ラル? どうかした?」
ティールが私を見上げながら質問をなげかける。何も言ってこないが、フォース君も不思議そうにしていた。
「誰かいる。……仮にいるなら、多分、あそこに」
と、私が指差したのは、給水タンクの上。給水タンクには梯子があり、上ろうと思えば上れるのだ。鍵がなければ入れない電気室を除けば、可能性はそこしかない。もちろん、出ていった可能性もあるけれど、今もまだ微かに気配を感じる。
つまり、まだ、そこにいるのだ。



~あとがき~
よくないやつだなと思いつつも、長いので次回に続く。

次回、立ち入り禁止の屋上にいるのは一体……?

フォースのおサボりスポットはいくつかあります。まずは今回出てきた図書館。そして、屋上。
あとはまあ、生徒会室にいたり、その辺の木陰に寝てたり自由です。自由ですが、教師のいるようなところには寄り付きません。ラル御用達(?)の保健室は行かないですね。リアさんいるんで。
図書館はいいんかい! って思うかもですが、あそこは広いし、不用意に関わってこないので、邪魔されないんだと思います。もしくは、生徒会の重要書類をまとめた部屋にいる。あそこ、関係者以外立ち入り禁止だから。いやはや、職権乱用ですね。悪いやつめ。

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第116話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で学生生活を謳歌する物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回から新しいお話を始めています。一応!
メインになる三年はラルとティールしかいなかったけどな……まあ、進めていけば、ちゃんと出てきますので。大丈夫!


ごくごく平和な午前ラストの授業が淡々と進められていた。本日の授業は『魔物学』と呼ばれるもので、内容は読んで字のごとく、魔物、モンスターに関する座学だ。〇〇の弱点はここで、得意技は何とかだーとか、△△はこんな攻撃するから、こう対処しろよーとか、なんかそんな内容だ。
教壇に立つのはイグさん。イグさんの担当は実技が多いんだけれど、たまに代理として座学も教えている。今日なんかがまさにそれだ。
本来の教師に何があったのかは知らないが、イグさんの授業は分かりやすいとかで生徒にも人気だ。だから、急な担当教員の変更に文句のある生徒はいないだろう。
実技のときは動きやすい服装をしていることの多いイグさんだけれど、今回は教師らしくシンプルなYシャツ姿。
「──とまあ、コカトリスの雌の尻尾は、メデューサみたいな石化効果を持っている。だから、もし出くわしても絶対、尻尾の蛇と目を合わせないようにすることが重要だ」
イグさんは黒板に要点だけをさらさらと書いていく。そして、生徒達はイグさんの言葉を逃さぬようにメモを取る。
コカトリスとは、半分鶏、半分蛇みたいな魔物のことだ。そして、そこそこでかい。大型モンスターかと言われると、微妙なラインだが、少なくとも、私達よりは大きい。
「あと、これは雄雌共通だが、蛇に噛まれたら確定で毒のデバフがつく。真っ先に切り落とした方が得策だな」
周りが必死にメモを取る中、私は記憶の引き出しからコカトリスを引っ張り出し、ノートの隅っこに書いていた。が、かなり簡略化したせいで、可愛くなってしまう。どこぞのマスコットみたいな感じ。
……うん。奴はこんなマスコット的な容姿はしていない。書き直すか。
それはそれとして、いつだったか、イグさん達とダンジョンへ赴いた際、コカトリスの毒を食らった経験がある。何がどういう経緯でそうなったかは、もう忘れたのだけれど。ただ、私が特攻仕掛けたのだけは覚えてる。
「ちなみに雄雌の区別の仕方は頭のトサカだな。そこは一般的な鳥と一緒だ。……でも、いくらこの方法がいいからって、捨て身で尻尾を切り落とそうとするなよ?」
要点を書き終えたイグさんがこちらを振り向く。ぐるっと全員の顔を─欠席者は何人かいるけど─見回し、にこっと笑う。
「雄だったら隙を見て……雌だったら目眩ましの魔法なり道具なりを使うようにして、なるべく安全に対処すること。……昔、それすら使わないで、単身で倒そうとした奴を俺は見たことあるからな~?」
私かな、これ。私のことかな。
イグさんの視線を感じつつも、私は無視してノートを取っている風を装う。いやまあ、ちゃんと一応は、取ってるんだけど。『魔物学』って基本、知ってることだから、ほぼ真っ白なんですけど。
「真面目に受けなよ」
「!……ビックリした」
私の前の席にいるティールが横目で私の方を見ていた。呆れたように、じーっと冷めたような目で。
あのときのことは忘れてませんからね、とでも言いたげである。
「うっさい。今はあんなドジ踏むわけないでしよ。前向け、前」
「知ってる。今は実力ついちゃって、できること増えて、余計に危ないことしまくるもんね~」
とだけ言い残し、ティールは前を向いた。
なんなんだよ。お前に言われたかないわ!! それこそ、この前、ティールがぶっ倒れたの忘れてないからなぁ!?
後ろから椅子の裏に軽く蹴りを一発入れ、知らんぷり決め込む。ティールが軽く睨んできているのは分かるけれど、こちらも無視だ。
「はーい。そこ、二人で仲良くじゃれてないで、先生の話聞けよー?」
教卓からばっちり見えていたんだろう。イグさんが、しょうがないなぁみたいに注意してきた。
「ま、きりのいいとこで終わってたからいいけどさ。……おっ? もうこんな時間か~」
態度が悪ければ、ガンガンに減点をつける人だけれど、意外にもあっさり許してくれた。少し不思議に思ったが、その理由はすぐに分かった。
「今日は幻のジャムパンが販売される日だし……今日の授業はここまでにするか~♪」
あぁ、今日か。それ。
幻のジャムパンは、購買で売られるりんごジャムのパン。数量限定品で決まった日にしか発売されないため、競争率は高い。
ジャムパン狙いをするつもりの生徒達から、「おー!」という感嘆が漏れる。
「さっすがイグニース先生! 気が利く~」
「ははっ♪ それでもパンが買えなかったからって俺のせいにするなよ~?……あっ、最後に伝えることがあったんだった。この授業とは別件だけど」
そう言って、イグさんは一枚の紙を取り出し、黒板に張り出す。その紙を指差しながら、内容を説明していく。
「三日後、高等部冒険科の三年全員対象にした一泊二日の合宿を行う。場所は学園の裏山で、四人一組のグループでのサバイバル形式」
はー……なるほど? またこの時期が来たか。
レイ学は広大な敷地の中に様々な施設がある。裏山も施設と言っていいかは不明だが、学園内でよく利用される場所の一つなのだ。学園の裏山ではあるが、授業のためか魔物が生息している。余談だが、一応、降りてこないようにしつけてある。しかし、たまぁに園芸部の畑を荒らすいけない子達がいるとか、いないとか。
そんな裏山で行うサバイバル合宿は冒険科の恒例行事みたいなものだ。一年生から三年生が毎年、二回参加する必要があり、いわゆる卒業必須科目である。要は三年までに六回受ける必要があるのだ。
「詳しい内容はプリントで各自チェックするように。それでも分からないことがあったら、俺や他の先生達に聞いてくれ。……ま、流石に皆、三年だから理解してると思うけど、これは必ず出席しろよ。サボんなよー? 特にサボり常習犯達には絶対伝えること。ラル、分かったか?」
「は? なんで私なのか理由が分からない」
「今日いないフォースは、お前のチームメンバーだろ? そうでなくても、生徒会長なんだから、快く引き受けろよな~? ま、アリアには俺から言うけど」
なら、フォース君もよろしくしたいんだけど。
「俺より、確実に連絡取れるのはラルだけだろ。よろしくな♪」
よろしくな、じゃねぇし!? 職務放棄だ。職務放棄!
私の抗議も空しく、イグさんは「じゃあ、今日はここまで! お疲れさん!」と、そそくさと号令をかけて教室を出ていってしまう。それと同時に、昼食を買いに行くつもりのクラスメイト達がどたばたと勉強道具を片付け始めた。
数分後にチャイムが鳴り、十数人の生徒が教室を飛び出していく。この一軍は多分、皆、ジャムパン狙い。毎回五つしかない数量限定品だからな。毎回が戦争と化す。りんご大好きなティールは毎回のように参戦して、泣きながら─実際は泣いてないけど─帰ってくるくらいなので、私は本当に参加したくない。まあ、過去に一回だけ、ティールに泣きつかれて代わりに行ったことはあるけど。
それに遅れて、バラバラと出ていくのは、ジャムパン狙いでもなく、ただ購買に行く人達か、食堂利用者、或いは何かしらの用事のある人達だろう。
「……あ、私も行かないとなのか」
いつもはお弁当派の私だけれど、今回はアホ狐ちゃんのせいでお昼がない。残念なことに。
貴重品だけ身に付け、私も遅れて教室を出る。ティールがいないのは、一軍として教室を出ていったから。多分、ティールも本気を出せば買えると思うんだけれど、その辺は真面目スイッチがあるせいなのか。探検でのティール君が出てくれば、チャンスはあると思うんだけどなぁ……?
はてさて、今回のティールはゲットできるのやら。



~あとがき~
学園っぽい!! 学園ものっぽいぞぉぉー!!
んでも、ラルとティール以外の三年がいねぇえー!! あの二人、授業サボってるせいだ!!←

次回、ラル達のお昼風景です。

ラルのやらかし案件は数知れず。ティールはまあ、普通だと思うんです。説教を受けるレベルの失敗は数えるくらいしかないと思うんですよね。注意はたくさんあると思うけど。
ラルに関しては、あれこれ説教を受けてる人です。詳しいエピソードがありませんでしたが、コカトリスの件もお叱り受けてると思います。独断専行してるので。リアさんに……されてるんだろうな。
ラルはそういうやつなので、致し方なし。本人も反省はするけど、後悔はないタイプです。厄介だね! 必要とあらば、なんでもするんでね。

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第115話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でどたばたする物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ラルとティールの休日回! 終わりました!! ラルのティールに対する気持ちとか! 書けてよかった!! ティールはどうなんでしょうね。出さなかったけど。まあ、出す機会あるか。
今回からはまた新しいお話です! 三年のメインキャラが主役。
視点は大体ラルかな。頑張りまっす。


いつもの時間に目が覚め、ベッド近くに置いてある目覚まし時計を見る。アラームがなる数分前に起きれたみたいなので、アラーム機能を止めてベッドから出た。流れるようにカーテンを開け、ぐっと背伸びをした。
「……んんーっ! うん。いい天気だね。これなら洗濯物乾くわっ」
着ていた部屋着から制服へと手早く着替えて、身支度を済ませる。勉強道具等々入ったバッグも中身を確認し、カーディガンと共にまとめておく。
私が朝起きてすることは、とりあえずこんなもんだ。着替えて、道具の確認。髪とか見た目は家を出る前にする。どうせこのあと、どたばたと動くはめになるから。
次にすることと言えば、洗濯物を片付けることだ。髪をポニーテールに結びながら一階に降り、予め夜にセットしておいた洗濯物達を回収する。そして、二回目の洗濯物をセット。回収した洗濯物を干すために二階のベランダに直行。
干し終わったら、洗濯物が終わるまでに朝ごはんとお弁当を作る。ともは中学校、しーくんは保育園で給食があるからお弁当はいらないけど、私とティールは用意しないといけない。もちろん、買うのもありだけど、その分お金がかかる。作った方が安上がりなのだ。前日にある程度準備しておけば、当日は詰めるだけで楽チンだし。
作り終わったら、皆を起こして、ご飯を食べてもらう。私は洗濯物第二段を干しに行き、軽く家の掃除をして、自分の身だしなみ整えた後、しーくん送り届けて私らは学校!
これを平日は毎朝行う。ここにムーンがいれば、半分くらいはなくなるんだけれど。今日はいないから、私一人だ。
「……我ながら、なかなかのハードスケジュールを毎朝こなしてるよなぁ」
世の中のお母様方を尊敬する日々だよ。お手伝いさん欲しいなぁ……なんて思いながら、一回目の洗濯物を全て干し終わると、足早にリビングへと向かう。
「お弁当作って、朝ごはんも作って、皆を起こさないと。……?」
リビングへと足を踏み込むと、微かに美味しそうな匂いが漂っていた。たった今何かを食べた訳ではなく、何時間も前にご飯を食べたあと、みたいな。それくらい微かな匂い。
それだけで嫌な予感がした。
真っ直ぐキッチンへと向かい、冷蔵庫を開ける。そこにあるはずのものがない。……明確に言えば、私とティールのお弁当用に作っておいたおかずがない。昨日、夕飯を作るついでに作っておいたはずなのに、だ。
となれば、食べた犯人がこの家にいるということだろう。そして、それは我が家において一人しか思い当たらない。うちのやんちゃ狐……灯。
「……あんのアホ狐ぇぇぇ!!!」

とんとんっと階段を降りる音が聞こえる。
いつもより少し遅めに取りかかったせいか、朝ごはんの準備が終わる前にリビングへとやって来たメンバーがいるらしい。
「ラル、おはよー!」
「はーい。おはよう、しーくん。いつも一人で起きられて偉いね~♪」
メンバー最年少のしーくんこと、雫。最年少とは言うけれど、メンバー内で一位二位を争うほどのしっかり者だ。現に、一人でちゃんと起きてこられるし、着替えも身支度だってお手のもの。こんなハイスペック保育園児に負ける、年上もいるわけです。例えば……
「ごめんね、しーくん。まだご飯できてないんだ。降りてきたばっかで悪いんだけど、私の代わりにティール起こしてきてくれる?」
……私の相方とかね。
「ゆ? わかった! おこしてくるー!」
愛らしい歩みで、リビングを出ていくしーくん。ほんと、真っ直ぐで素直でいい子だよ! 天使!
しーくんが大きくなれば、うちも安定する。主に家事の役割分担的な意味で。人数はいるけれど、家事ができる人が極端に少ない。まともにできるのは、私とムーンだけ。ティールはものによるし、クラウはほぼアウト。ともは完全アウトで、しーくんは小さいが故に、できることが限られている。とはいえ、ともやクラウよりは手際はいいんだけれど……しーくん、何者よ。あ、天使か。
しーくんがティールを呼びに行ってから数分後。眠気でゆったりとした動きのティールと、そんなティールを後ろから、よいしょよいしょと押しているしーくんがやってきた。その押し込みは全く意味のない動作である。
……しーくんが……朝からめっちゃ可愛いっ!
「おはよ……ラル」
「おはよう。ティール」
「ごーはーん! ティール、ごはんだよー!」
眠そうなティールをしーくんがぺしぺしっと叩く。どうにかして、目を覚まさせようとしてくれているのだろう。残酷なことに、ティールには全く効いてないけど。
「ちゃっちゃと食べちゃってねー? ティール、着替えてないし」
「着替える暇を雫がくれなかったんだよー……早く早くーって。朝ごはんは逃げないのに」
時間に追われれば、食べる暇もなく出なきゃいけない。ある種、逃げられるのと同意なのでは?
どうでもいいことを考えながらも、しーくんとティールの前に朝ごはんを並べていく。
本日のメニューはミニパンケーキとサラダにヨーグルト。お好みで好きなお飲み物をどーぞ、的なやつである。このメニューでいくと、ティールはコーヒーでしーくんはジュースだな。
しーくんはきらきらと目を輝かせてぱちんっと手を合わせる。
「パンケーキ! いただきまーす!」
「……? 何かあった?」
じっとパンケーキを見ていたティールが私をちらりと見上げる。隣ではしーくんがパンケーキを美味しそうに頬張っている。その笑顔もまた、愛らしい。
私は、ティールの正面に座りながら返答をする。
「……よく気づいたね」
「まあね。……君の性格上、平日の忙しい朝からパンケーキ焼くなんて、あり得ない。イライラを何かにぶつけたかったんだろ?」
流石、ティール。よく分かっている。
「ともが弁当のおかずぜーんぶ食べちゃってた」
「……夜に?」
「うん。聞いたら、お腹すいちゃってーだって。他に食べるもんあるだろうよ」
夕飯を食べ、私達といつも通りに団らんしたあと、寝る支度まで済ませて就寝したまではいい。そこから、お腹が空き、何か食べるものを探しに下に降りたのが夜中だそうな。
ともは冷蔵庫を開けて、一番に目に入った私達のおかずに手を伸ばした。気がついたら全部食べていたらしい。
……という内容を、先程本人から聞き出し、それをティールに説明する。それらを聞き終わった彼の第一声は……
「お仕置きした後なのね。……いただきまーす」
である。呆れつつ、パンケーキを一口大に切ってから口に運ぶ。
「もちろん。しばらく動けないと思うよ」
「まあ、うん。当然の報いだよね」
優しいティールがともを擁護するでもなく、すぱっと切り捨てる辺り、食べ物の恨みというものは恐ろしい。悪いのはともだけど。全面的に。
だって、昨日の夕飯、誰よりも食べていたくせに、お腹空いたって理由で我々のおかず食べますか……? いや、食べない。嫌がらせの何物でもない。
「とも、ぜーんぶたべたの? ラルとティールのごはん?」
「そうだね。ぼくらの昼ごはん食べられちゃった」
「あや……だいじょぶ??」
「今日ばかりは購買か学食だなぁ……食べるものはあるから、大丈夫だよ。雫」
食べるなら別のものを食べなさいよ……全く。
ささっと朝ごはんを平らげると、私は椅子から立ち上がる。私の仕事はまだ終わっていないのだ。
ティール、食器としーくんは任せた。あと、早く着替えてね!」
「はぁい……いつもの時間には準備終わるから大丈夫だよ」
「ぼくも! じゅんび、できてるー!」
それは何より。
さてさて。早く終わらせないとね!



~あとがき~
ある朝の日常でした。お母さんするラルは新鮮です。空海ではこんな風景書くことないですし。
……学校の話だって言ったのにね。学校行ってないね。おかしいなぁ。

次回、とある日の授業風景を!

雫は初登場ですね。
幼児です。相方お気に入りの幼児です←
誰よりもしっかりしているハイスペック園児。そりゃあ、元が元だからね……
こちらでも、ラルとティールのことは大好きですし、実の親のように慕っています。

ではでは!

空と海 第231話

~前回までのあらすじ~
預言者捜し中(不法侵入中)のお三方は、謎の通路を発見し、先に進んで、新たな村人発見か!? みたいな感じですね。
フォース「不法侵入なんて人聞きの悪い」
イブ「鍵はかかってなかったけど、勝手に入ったのは事実だよぅ」
フォース「迷惑かけるって宣言してるからセーフ」
イブ「そういうことにはならないよね!?」
まあ、バレなきゃ大丈夫((
イブ「バレてなくてもダメなものはダメー!!」


遠くの方に見える明かりを発見し、思わず足を止める。そして、そっと息を潜め、小声で話した。
「ど、どうしよっか……?」
「今更、こそこそする必要なんてなくね? おれら、ここまでふっつーに歩いてきたぞ。音が反響しそうな場所だし、あっちも気づいてんだろ」
そ、そうなんだけど! 気持ち的に! なんかこう……ひそひそした方がいいのかなって!?
慌てる私を鼻で笑い、すーくんは勝手に先を歩く。暗闇でもばっちり見えてるすーくんに、ランプの光は必要ない。そのため、私達を置いて歩いていってしまう。チコちゃんは私が歩かないから、私を気遣って留まってくれていた。きっと、すーくんと二人だけなら後ろを着いていくんだろうな、チコちゃんは。
「んもう! チコちゃん、追いかけよ!」
「分かった。行こっか!」
先を歩くすーくんの後を追いかけ、走っているわけでも、早歩きをしているわけでもないすーくんにさっさと追い付く。すーくんの見る方向に目をやると、信じられないものを目にした。岩壁の窪みに木材を組み上げた簡素な檻がしてあり、簡易的な牢屋が作られていた。その中には、最低限の家財道具、村の人達が与えたであろうたくさんの本が積まれている。そして、囚われているのは、一人のキルリアの少年。少なくとも、私よりは年上だろうけれど、ピカさんと同じくらいなのか、少し上なのか……そこら辺は曖昧な見た目だ。
「あなたが、預言者……?」
思わず口に出た言葉をキルリアは理解したらしく、戸惑いつつも、困ったように笑う。
「あ、と……そう、呼ばれちゃってる、かな。あの、あなた方は?」
「私はイブ。私のパートナーのチコちゃんと、すーく……フォースだよ。私達、探検隊なの」
「た、たんけんたい? あ、えと、俺はアイトです。その、探検隊さんがどうして」
「おれらはお前をここから出すために来た。……ってのは、強引か。まあ、お前に出る気があるなら、連れ出してやるよ」
展開についていけてないアイトさんは、真意を探るためなのか、じっとすーくんを見た。でも、それは長い時間ではなく、ほんの十数秒で、アイトさんはすぐに目を逸らした。
「俺、は……ここから出てもいいんでしょうか」
……ん? それってどういう……
「いいか悪いかじゃなくて、出たいかそうじゃないかを聞きたいんだけど」
理由を聞こうとしたけれど、すーくんに遮られ、私の言葉はアイトさんに届かなかった。
すーくんの問いにアイトさんは黙りこんでしまった。何を考えているのか分からないけれど、出ていくのも抵抗があるのか。ザゼルさん達に恩がある、とか。
「えっと、俺、ほとんど何も知らなくて。多分、三人が常識として知っているようなことすらも……きっと、分からないと思う。そんな俺が出てもいい、のかな」
事情がよく分からない。記憶喪失……にしては、自分の名前は分かっているみたいだ。それに本を読む教養だってある。それなのに、何も知らないなんて……? ううん。そこは今、関係ないよね。
「アイトさん、私達と一緒に行こう。知らないなら、見てみればいいんです! 知らなかったこと、外にはいっぱいありますよ? 知りたいって思っているなら、私達がお助けします! 探検隊は、困っている人を助けるのもお仕事の一つだから」
アイトさんはどこか違うところを持っているから、その違いを見るのが怖いんだろう。他人と決定的に違うというのは、劣等感を抱いてしまう。そんな風に思っているのなら、そんなことないって言ってあげられれば。きっと、大丈夫。
「おーおー……リーダーらしいこと言うねぇ……つーことだ。どうする? 言っておくが、あの人達に恩義を感じる必要はないぞ。今の状況を冷静に判断できるなら、な」
普通の人は幽閉なんてしないもんね。
アイトさんが犯罪者って可能性も考えたけれど、それなら牢屋の中にあるたくさんの本の説明がつかないし、囚われているのに、アイトさんは不健康そうに見えない。食べ物なんかも充分な量を欠かさず持ってきてくれていたんだろう。だから、これはザゼルさん達がアイトさんを軟禁しているんだと思う。それもかなりの優遇で。それをしなきゃいけないくらいの人なのか、何かを持っているのかもだけど。
「……出て、この世界のこと、確かめたい。俺がいてもいいのか、俺自身で決めたい。その、なので、連れ出してくれますか?」
決心を固めたアイトさんを勇気づけるために私は力強く頷き、笑って見せる。
「もっちろん! でも、すーくん、ここから出すなんてどうやって? 木材とはいえ、ばっちりカギもかかってるのに」
「あ? んなもんぶっ壊すに決まってるだろ」
デスヨネ……
中にいるアイトさんになるべく檻から離れるように伝え、隅っこに移動してもらった。さっきみたいに蹴り飛ばすのかと思ったけれど、すーくんは手元に剣を二振り創り出した。
「斬るんだ」
「蹴ってもいいけど、格子一つ一つ蹴るのは時間かかるだろ。……一応は追われてる身。時間は有限」
そっか、うーん。ザゼルさん達をどうにかしないとなのか。せめて、お話くらいは聞きたいけれど、そんな余裕あるかな?
剣を構え、目にも止まらぬ剣技によって簡単に檻を壊してしまったすーくんは肩をすくめる。
「さてな。常識があれば話し合いですませられるかもね。そら、おいでなすった」
くいっとすーくんが示す方向には、ゆらゆらと揺れる光があった。チコちゃんの持つランプと、アイトさんがいたところにある明かりとは別のもの。
「俺を……ここに置かせるために……?」
「あー……戦うにしても、話すにしても……場所が悪いな。この先から空気の流れを感じる。きっと外にも通じてるんだ」
「一旦、外に出る……? でも、フォース、来てる人達はどうする?」
チコちゃんの疑問にすーくんはさも当たり前のように答えた。
「おれがある程度、足止めするに決まってんだろ。五分間、敵を食い止めてやるから、その間にお前らは外に出ろ」
ぜ、全員!? こんな狭いところなのに……大丈夫?
「おれを誰だとお思いで? イブ様?」
「……ごめん。そうだね。……すーくん、私のために……ううん。私達のために、時間を稼いで!」
「はいよ。……一応、これ渡しとくわ」
無造作に投げられたのは小さな拳銃だ。とっても軽くて、これが普通の銃じゃないってのははっきり分かる。自分の力を込めて撃つ……“強き力”を源にした銃。
「ま、使わないことを祈ってる。五分経ったら、すぅの中に戻るから。そんときに合流しよう」
すーくんから受け取った銃をカバンに入れ、アイトさんとチコちゃんに目配せをする。そして、最後にすーくんを見た。
「このチームのリーダーはお前だ。……行け!」
「絶対に、怪我なんてしないでよ! あ、あと、手加減! してね!」
二振りの剣を構えたままのすーくんに背を向け、私達は走り出した。光源はチコちゃんのランプだけ。三人の足元を照らすのには心許ないけれど、信じて走り抜くしかない。
走り出した直後、私の背後で大きな音と振動を感じるものの、振り返らずに前へと地面を蹴った。

三人が走り出したのと同時に、ここが抜かれぬように、柵を作る。そして、イブ達の気配が遠退くのを感じつつ、フォースは前から来る人達へと意識を移した。完全に対立した今の状態で穏便にすむなんて考えていなかった。まだ、ここの集落の人々に手は出していないものの、それも時間の問題だろう。
ドタドタと慌ただしくフォースの目の前に現れたのは、集落の男達だった。種族は統一されていない。ただ、全員が何かしらの武器を構えているくらいが共通点だった。
「お、お前……! そこにいらっしゃった方は」
「宣言通りのことをしたまで。……ここは通さねぇよ。そんなちゃっちい武器で、おれをどうにかできるなんて思うなよ?」
外に通じているのを知っているのは、この人達も同じかもしれない。そうなると、出口に待ち構えている可能性もある。しかし、ここ半年の期間で、イブもチコも強くなったとフォースは感じていた。これくらいのピンチを乗り越えられるくらいには。
「……逃がすか!! “チェーン”!」
後ろの方で遠ざかる……言うなれば、引き返すような気配を感じ、フォースは“鎖”を創り出して拘束した。その場に縛り上げたために、その男達が邪魔で、他の人達も引き返せなくなる。
何の変哲もない地面からいきなり鎖が飛び出し、更に身動き一つ取れなくなった仲間を見て、怖じ気づいたのだろう。フォースから数歩離れる。
「いつの時代も、未知なる力は煙たがられるもんだ。……はっ! 人の子らよ、貴様らの保身が欲しくば、このおれを倒せ。……行くぞ、童共が!」



~あとがき~
フォース無双は面倒なんで書きません。皆様、脳内補填でよろしく((

次回、フォースと別れたイブ達。どのように集落の人々と和解する……?

展開早いけど、まあ、こんなもんこんなもん。
なんか久しぶりにフォースの口調を変えた気がする。マジギレぷんぷんだと、おじいちゃんというか、偉そう(?)口調になるフォースさんです。雷姫みたいな話し方になりますね。なんとなーく?

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第114話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわいわいしてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ティール視点で二人の夜をお送りしました。ちょっぴり真面目な空気だったけど、今回からはそれをぶち壊していこうかと思います。
視点は戻って、ラルちゃんです。


部屋を出ていこうとして、ティールに呼び止められたとき。
あのときのティールがとっても苦しそうだったから、残ると決めた。それを言う必要はないからぼかしたけど。
結果、よくない夢を見て、不安になったというどこか子供っぽい理由で呆れはした。同時にティールらしいと思う。そういうのも真面目に捉えてしまうティールが、ぽいなぁって。
だから、傍にいると伝えた。そこに嘘はない。ティールが私を必要とする間は、あいつの相棒で居続ける。もし、必要なくなったそのときは……
極力、誰にも気づかれないように……わからないように、静かにいなくなるだけだ。
「けどまあ、それはもう少し先の話だよねぇ……ってことで、起きろ。朝だ」
閉められていたカーテンを開け、ティールが被っていた布団を剥ぎ取る。ティールは差し込む光から逃げるためか、猫のようにくるりと丸くなった。そんなんで逃げられるはずもないのだけれども。
「うぅぅ~……まぶしぃ~」
「朝です。おはようございます」
「……まだ、眠いです……お母さん」
「誰がお母さんだ! 自宅じゃないんだから、起きてくれ!!」
「うー……意地悪……」
他人の家で午後まで寝かせられるか!!
ティールは嫌々体を起こし、ベッドから降りる。寝ぼけ眼のまま、Tシャツを脱ぎ捨て、綺麗に畳んであったシャツを手に取る。私がいると言うのにお構い無しだ。まあ、上くらいなら今更なので気にしないけども。
「……そいやぁ、ラルが着替えさせたの?」
「ん? あぁ……」
「上下?」
本当は私じゃないけど、曖昧な返事をしてしまったせいか、ティールは私がやったと思ったらしい。少し反応が気になったから、このままにしておこう。
「そうだったら何かあるの?」
「何もない。気にしたところで今更かなぁって」
そりゃあ、そうだね。
ティールがお風呂入ってるときでも普通に脱衣場入るし、部屋で着替えているティールとご対面したことも数えきれないくらいある。今更だ。
私はティールの裸なんてどうでもいいが、─いや、全裸は見たことない。流石に─ティールはその辺気を付けているのか、私の着替え中に突撃されたことも、入浴中に脱衣場に来ることもない。あぁ、いや。数えるくらいはあるけれど、どれも事故だな。俗に言う、ラッキースケベ的な、なんかそんな場面。一緒に住んでいるし、何年もいるとその辺は希薄になっているような気がする。よくないのは分かっているけれど。
「このまま帰るの?」
下のスエットに手をかけた辺りで、ベッドメイクをしていた私はティールに背を向ける。
「帰ってもよかったけど、親方が「朝ごはん一緒に食べよ! 美味しいよー」って言ってくれたから。朝ごはん集る」
「うわ、ラルらしい……」
なんだそりゃ。
「……よし。お待たせ。着替え終わったよ」
ティールはきちっとしたフォーマルな私服姿へと着替えていた。一応、この格好で探検行くんだよなぁと思うと場違いな気もするんだけれど。
白のワイシャツにリボンタイを結び、紺色のベストの前は止めずに羽織るだけだ。ズボンは流石にスーツみたいな素材ではなく、動きやすいタイプのものでアーミーブーツを履いている。これに上からポンチョを被れば探検隊スタイルのティールの出来上がりである。私と同じで、これはいくつかあるパターンの一つでしかない。
ティールって緩い感じの私服ないよね」
「んー……そうだね。そういうの着てこなかったからな」
フォースくんもどちらかと言えば、シンプルでクールなものを好むからか、緩い感じの私服は見ない。アポなし訪問をすると、ジャージ着てることはあるけど。対するティールはジャージとかも着ない。
……これが文化の違いなのか。
「あってもいいかなーとは思うけど、なかなか機会なくてさ~……ラル? 食堂行くんだろ?」
いつの間にか準備を終えたティールが医務室の扉に手をかけて、こちらを見ているところだった。彼の質問でようやく現実に帰ってきた。
「あー……うん。行く。忘れ物ない?」
「ないよ。大丈夫」
「ほいほいっと。じゃあ、行きますかね」
ティールが開けてくれた扉を潜り、私達はギルドメンバー専用の食堂へと向けて歩き出した。

今日のメニューはトーストと目玉焼きにグリーンサラダ。そして、自由に取っていいフルーツの数々。いやはや、トースト、サラダまではいいとして、目の前の、ホテルのバイキングですかと問いたくなるくらいにフルーツの量がエグい。
そして、私の隣で目を輝かせている相棒は無視しておこう。
「うちらも食べてよかったの?」
トーストにベリーのジャムを塗りながら目の前に座るリンに問いかけた。リンはギルドの受付嬢であると共に、食事係の一人でもある。
「はい♪ 一人二人増えたところでなんにも変わりませんから! たっくさん食べてくださいねっ! ティールさんのためにりんごをいつもより多めに用意しましたので♪」
「わあぁ! ありがと、リン! 朝からこんなにりんご食べられるなんて幸せ!」
こいつ……さっきまでは私の朝ごはん集る発言に対して引いていたくせに。
「他のも食べてよね、ティール」
「うんっ! りんごは別腹だから大丈夫だよ」
聞いたことないし、微妙に噛み合ってないぞ。
「その様子だと、体調は問題なさそうですわね」
美味しそうにりんごを食べるティールを見て、私の左隣にいるひまっちが笑う。まあ、この光景を見たら、笑うしかないけれども。
「寝れば回復するからね。それでも駄目なら病院だよ。びょーいん」
「そうですわね。……ところで、ラル?」
ひまっちが突然、声を潜め、ずいっと耳元に近付いてきた。この場合、大抵どうでもいいことなんだけれど、黙って聞いておこう。
「ずぅっとティールと一緒だったんですのね?」
「看病してたら、私も寝入っちゃって」
まあ、嘘だけど。ティールに呼び止められて、あれからずっと起きてたんですけどね。
「何もないんですの?」
「ないよ。何、期待してるの? 残念でした。別にティールにあーんなことやこーんなことされてないもーん」
「夜に年頃の男女が同じ空間にいて、何もない……!?」
ねぇよ。……厳密に言えば、あったけど。口が裂けても言えるか。それにあれは、ひまっちが期待するようなことではないだろう。
「ひまっち、夢見すぎだってば。私とティールはなぁんにもないって話したでしょ?」
ぐぬぬ
「置き換えてみなよ。ひまっちとドームが同じ場面に遭遇したとして、何か起こる?」
「ないですわよっ!」
「そういうこと。ひまっちが私に聞いてるのとおんなじことだよ」
「ドームとティールを一緒にしては駄目ですわよ、ラル! スペックが違いますもの。スペックが!」
ひまっちは立ち上がると、少し遠くに座るドームを指差し、続けてティールを指差した。ドームはこちらに気づいたけれど、ティールはりんごに夢中で興味なしだ。
「なんだぁ!? おい、ヒマワリ! 何か用かぁ!?」
「何もありませんわよ!! ただ、貴方とティールとでは、差があるって話ですわ!」
「なんだとぉ!? ワシの方が強いに決まっているだろうが!」
何を勘違いしたのか、ドームが的はずれなことを主張してくる。話の流れを知らないから仕方がないかもしれないけれど。
一方のティール。ドームの大声にようやく気づいたのか、トースト(りんごジャムのせ)を咥えて、ひまっちとドームを交互に見た。そして、当然ではあるが理解できなかったようで、小さく首を傾げた。
「……んぐ?」
「なんでもない。気にせず堪能しなさいな」
「ん~? んっ! 分かった!」
りんご食べてるこいつは扱いやすくて助かるわぁ……食べてなくても扱いやすい部類だけども。
ちなみに、ドームとティールの実力云々は、ティールに軍配が上がる。武器の扱いも技の練度も、知識も、私の相棒の方が何十倍にも格上だ。ドームは探検家として先輩で立場は上だけれど、元からある素質に関してはティールが上。
「うちのティール君が強いに決まってるやろが! ドームなんて、けちょんけちょんだぞー!! 私のティールをなめるな!!」
「むぐ? ぼく、いつの間にラルの所有物に……ま、困らないし、構わないけど」
困れ。ツッコめ。りんごに絆されるんじゃない!! ボケだよ! 私の!
「なぬっ!? ラルまでワシを疑うのか!」
「そうで……って、そこじゃなくってよ!? 男性としてのスキルですわよ!!」
知ってる。
このあとも、ひまっちとドームの痴話喧嘩……いえ、口喧嘩は収まるところを知らず、朝ごはんが終わるまで永遠と続く……はずもなく、ノウツの一喝で喧嘩は中断した。流石、ノウツ。こういうメンバー同士のいざこざを止める損な役回りをするだけのことはある。
そんなノウツを笑って見つめる親方。本来は親方がストップかけるべきだと思う。セカイイチに夢中たから無理か。
なんだかギルドメンバーとの久しぶりのご飯は楽しくて、たまにはいいかなぁなんて、思ったり……思わなかったり。
うん。ティールがりんご食べ過ぎるから、よくないわ。今後、お世話にならないように頑張るわ。
「そいやさ、ティール」
「ん?」
ティールのお陰で臨時収入入りそうだから、何か食べたいものとかほしいものある?」
手柄はティールだもんね。労わないと。
「ラルのアップルパイ。ほしいものはないからね」
即答で返ってきたのは、当然と言えば当然の、りんご料理。しかも、デザートて。
「……目の前にたくさんあるりんごを食べてるのにまだりんご?」
「いくら食べても飽きないだろ?」
私は見るだけで飽きましたけど。
「えー? ぼくは飽きないけどな。それに、ラルの大好きだから。久しぶりに食べたい」
きらきらの笑顔を向けてきた。これが耐性のない女の子なら一瞬でイチコロの王子様スマイルというやつだ。私は散々見慣れてしまったので、何とも思わないけれども。
「……あっそ。ならいいけど。言い出しっぺだからね。ちゃんと約束は守るよ」
「ほんと!? やったぁー! ラル、大好き!」
「はいはい。私も大好きだよ、ティール」
ティールの言う、『大好き』は何なのかは分からないけれど、私はずぅっと貴方に恋しちゃうくらい、大好きだよ。
これからもよろしく、相棒。



~あとがき~
いつもの調子に戻って終わりです。

次回、学園パートに戻ります!
三年メインの話です。よろしくねー!

家族みたいな距離感のラルとティール。家族よりも近いかもしれないですね。
いやぁ……恋愛発展しねぇなぁ、こいつら。
お互い、大好きなんですけどねー! 愛あるんだけどね!?

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第113話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界を過ごす物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
レイ学の楽しい雰囲気はどこにもなかった前回でしたね。今回? 知らね。どうにかなるさ……最後には元の楽しいキャッキャッした雰囲気には戻るよ! それは保証するよ!!
今回の視点はティールです。


《Te side》
誰かが頭を撫でる。優しく、ゆっくりと。そして、小さく何かを呟くと、ろうそくを吹き消すかのように消えてしまう。
辺りを見回してもその人物は見えてこない。誰だったのか確かめようがなかった。
ぼくが瞬き一つすると、場面が変わったみたいに知っている人物を見つける。見慣れたブロンドの長い髪をなびかせる少女。
「ラル……?」
ラルはぼくの方をちらりと見る。無感情で、何を見ているのか分からないような瞳をぼくに向けた。そんな見たこともないラルに怯んでしまって、何も言えなくなっていると、彼女は背を向けてどこかへと歩き出してしまう。こちらの様子を気に留める素振りもなく、先へ先へと行ってしまう。慌てて何度名前を呼んでも、ラルが立ち止まることはなかった。
「待って!」
力の限り手を伸ばしても、触れられる距離にいないのか、空を切るばかりであった。

……ここで目が覚めた。
目の前に広がるのは、見知らぬ天井と自身の右手だった。ラルに向けたはずの手は、なぜか天井に向かっている。ぼんやりと考えつつ、ゆるゆるとベッドに手を下ろした。横を見ると、うつらうつらしているラルが視界に入る。器用に椅子に座ったままうたた寝しているらしかった。
……よくもまあ、椅子から転げ落ちないものですね。ぼくだったら一発で床に倒れてるよ。
しかしまあ、彼女がここで寝ているのなら、さっきのは夢だったんだろう。なんて、縁起の悪い夢なんだろうか。
「……ここ、どこなんだろ」
少し冷静になってきて、寝かされている場所が気になった。自分の家でもないし、かといって、誰かの自宅でもない。しかし、病院という雰囲気もない。となれば、答えは一つだけ……
「ギルド……なのかな」
ラルとの『お約束』を完全に頭からすっぽかした結果、やらかして、今の今まで寝かされていたと考えるのが妥当だ──あんまり覚えてないけど。部屋の明暗からして、夜なのは間違いない。こんな時間までラルは残ってくれていたらしい。子供じゃあるまいし、ギルドなら放置して帰ってくれてもよかったのに。
……あぁ、でも、あんな夢を見たあとだ。ラルが近くにいなかったら、いてもたってもいられなくなって、家に帰っていたかも。
夢のことなんて、ラルには関係ないのに。
「なんであんな夢見たんだろ」
確かに、ラルは気がついたらどっか行くし、ぼくの言うことなんて何一つ聞きやしないけど。
あの夢のラルはいつものラルじゃなかった。空虚で何も感じなくて。ろくでもないことを思い付いたときによく見せる、天真爛漫な笑顔も、仲間に向ける優しい笑顔もなかった。本当に、何もない。
ぼくと初めて会ったときみたい……いや、それよりももっと酷かった。なんで、そんなラルがほくの夢に出るんだろう。記憶にはないはずの、あんな表情を見せたんだろうか。
考えても仕方がなくて、ぼくは掛け布団を引っ張り、頭から被る。そして、そっと目を閉じる。
閉じるものの、眠気なんてのはなく、謎に印象に残ってしまった夢のワンシーンが鮮明に脳内で再生されていく。無機質なラルの顔とぼくから離れていくあの光景だけが、なぜか頭から離れない。
たかが夢。気にする必要もないはずなのに、どうしようもなく不安になる。
不穏な気持ちを振り払いたくて、掛け布団から抜け出し、上半身を起こした。そして、こっくりこっくりしているラルに話しかけた。
「ラル、ちゃんとベッドで寝ないと危ないよ?」
「……ん」
聞こえているのかいないのか、曖昧な返答だけが聞こえてくる。ほんの少し触れるだけでばったりいっちゃいそうだ。いや、本当に危ないから、空いてるベッドに行ってほしい。
でも、動く気はないのか、座ったまま。完璧なバランス感覚で睡眠中のようで……ここまでくると、狸寝入りなのではと疑ってしまう。
「……あの、ラルさん……起きてます?」
これには無反応。
寝てる……? マジで?
そうなると、起こすのも悪いか。えーっと……どうしようかな。どうしたらいいんだろ。
ぼくが悩んでいると、ラルががくんっとバランスを崩し、椅子から落っこちた。突然のことで、ぼくは何もできず、呆然としてしまった。
「……いった」
「だ、大丈夫……?」
思ったよりも淡白な反応だけど、そこそこ痛そうな音は聞こえてきていた。覚醒していないから、反応も薄いのかもしれない。
「あぁ……大丈夫。気ぃ抜いた私が悪い……」
床にぶつけたらしい頭を擦りながら、ラルがゆっくりと立ち上がり、ラルはふわりとあくびをもらしつつ、こてんと首を傾げる。
「今、何時?」
「あー……時計見てないから分かんないや」
「そう。……まあ、何時だとしても今は夜中だろうね。……寝直すわ。おやすみ」
「寝るってどこで? え、家に帰るの?」
「うんにゃ。ギルドには説明して、部屋貸してもらった。朝にはまたここに来るから、ちゃんと一人で起きろよー」
「あっ……待って」
ぼくは分かったと言いかけるも、それが出てくることはなく、代わりに、別の言葉が無意識に飛び出していた。
「ん。なぁに~?」
思わず、出てしまった「待って」という言葉に、ラルは眠そうにしながらも、出ていこうとしていた動きを止めてくれた。
「あ……と」
待ってとは言ったけれど、その理由はラルが知るはずもない。だって、単なる夢なんだから。
誤魔化せるような言い訳も、理由も全く出てなくて、ぼくは気まずそうに笑うしかなかった。
「その……ごめん。何でもない。おやすみ、ラル」
ラルはじっとぼくの方を見て、何か考えているみたいだった。それを読み取れるような能力は、残念ながらないから、今、ラルが考えてることが何なのかさっぱりだ。
少しの沈黙のあと、ラルはどう結論付けたのか、部屋を出ていく……訳でもなく、再び椅子に座り直した。その意味が分からず、今度はぼくが首を傾げる番だった。
「よく、分からんけど、一緒にいてあげる。よく分からんけど」
「え、でも」
「うっさい。寝ろ」
あっはい……
起こしていた上半身を倒し、仰向けになった。さっきまではあんなに冴えていたのに、少しずつ眠くなってくる。ぼんやりとした意識のまま、彼女を呼んだ。
「ねぇ、ラル……?」
「んー」
「ラルはさ、一人でいなくなったりしない?」
「? どゆこと」
「さっき、そういう夢見たから……」
「あぁ……そういう。……んなことで不安になるなよ。ティールが私と組んでる限りは傍にいる。私の相棒はティールだけなんだからさ」
「……うん。そだね……」
ラルはぼくの大切な友達で、親友で……大好きな相棒だ。昔も、今も。そして、きっとこれからも変わらない。
ラルの手がぼくの頭をふわりと撫でた。あの夢で撫でられたときみたいに。結局、あれは誰だったのか分からないけれど。
「おやすみ、ティール」
「……おやすみ、ラル」
ラルと話して、触れてもらったからだろうか。感じていた不安はどこかへ行き、ぼくは暖かな気持ちで眠りにつけたのだった。



~あとがき~
ラルは他人の心を読むのが上手い。

次回、そろそろ締めていきます。この休日回!

久しぶりのティール視点でした。
最初の夢でティールを撫でた人。何も考えずに出したわけではなく、とある人物なのですが、作中では明かされない……というか、少なくともこの休日回の中では明かされないかなと思います。
私の中ではこの人、みたいに思ってるのはありますが、作中にヒントも何もないんですよね。なので、てっきとーに当てはめてもらっていいです←

関係ないけど、これティールがラルを押し倒す展開も案としてありました。なくなりましたけど。

ではでは。