satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

学びや!レイディアント学園 第68話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわちゃわちゃしてる物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック。
前回から予選が始まってます。Aブロック終わりましたね。本当は二話に分けようかと思ったんですけど、中途半端になりそうだったので、長くなりましたが、一話に収めました。無理矢理。
今回は順当にBブロックのお話です!
アラシ君視点でいきます。なんでかって? そりゃあ、そっちの方が面白いから(訳:一人称視点の方がやりやすいから)です。


《A side》
「……うわぁ」
モニター越しに見ても、かなりの威力のある攻撃魔法だと思った。魔力のコントロールが下手なレオンらしいと言えば、らしいんだが。いやでも、あそこまでする必要性ってなんだ。
『おおっと!? いきなり雷が落ちたと思ったら、二人を残して、残りはノックダウンだ!』
『ト、トーナメント出場権を獲得したのは……冒険科二年、イツキ・カグラ先輩と、冒険科一年のレオン・エクレール、です!』
リュウ先輩とキャスの実況で、残ったのは術者のレオンとそれを回避したイツキ先輩の二人がトーナメント進出を決めたことを告げる。
へらへら笑うレオンと、あまり事態を理解していないらしいイツキ先輩の顔が映し出された。音声は流れないものの、二人が何か会話しているのが分かる。まあ、世間話か何かだろう。
レオンの攻撃は強力だったが、心配はいらないだろう。おばさ……セラ理事長のかけた特殊効果付きのフィールドもあるし、何より救護班が何とかするはずだ。大きな怪我にはならない。少なくとも、俺が見てきた中で、大怪我したなんて話は聞いたことがないからだ。
『十分の休憩、及び準備時間を経て、Bブロックを開始するぞ! 該当選手はフィールドに集まってくれよな!!』
……始まってしまうのか。ある意味、地獄の始まりとも言える、予選が……いや、アリアがいなければ、地獄でも何でもなく、ある程度は楽しいと思う。こいつがいるからモチベーションも上がらないし、テンションも底辺なのだ。
「……はぁ。行くぞ、アリア」
壁に立て掛けてあった武器、双剣を手に取りつつ、近くで観戦していた─しっかりと見ていたかは怪しいところだが─アリアに呼び掛ける。アリアは俺の言葉に直ぐ様反応し、普段のクールさはどこへやらと言った具合に、元気よく答えた。
「タダ券っ!」
アァ……ハイ。イイオヘンジデスネ……
ふんすふんすと鼻を鳴らして興奮しているアリアを連れ、フィールドへと繋がる通路を歩く。この瞬間もある意味恐怖を感じているんだけれど、これを誰とも共有できないのが残念でならない。
できることなら、ユーリ先輩とは別のブロックでありますように……イツキ先輩は終わったし、知り合いでブロックを知らないのはユーリ先輩だけ。なるべく、被害は最小限の方がいいに決まっている。それに、知り合いが巻き込まれるのを見るのはちょっと……ね。いやまあ、レオンとかは別だし、仮に自分に何かあるなら、知り合いでも差し出しちゃうけど。……ま、差し出す人は選ぶけどな。

フィールドに出ると、俺達よりも先に到着した人達がたくさんいた。各々、軽い準備運動をしている。舞台に立つと、観客の声援というか、声が結構聞こえてきてて、臨場感がある。モニター越しよりも何倍にも、今、大会に参加しているという実感が湧いてきた。
「タダ券……優勝……!」
この場に立って、更に興奮してきたのか、嬉しくなってきたのか知らないが、アリアのテンションはてっぺんを知らない。普段がローテンションなだけに、ギャップが凄いだけかもしれない。
あの様子を見るに、俺は攻撃姿勢を取るよりも防御姿勢に力を入れる方が得策な気がしてきた。一応、釘差しておこう。
「アリア、俺はあっち行くけど……お前、本気なんか出すなよ? ぜーったいに、だぞ!?」
「優勝……♪」
頷いてはいるものの、本当に分かってるのかはさっぱりだ。タダ券のことで頭がいっぱいになって、適当に返している可能性もなくはない。ええい。話を盛ってでも、言い聞かせないと今後に関わる。
「……くれぐれも、最大出力で魔法なんか使うなよ!? どうなるか分かったもんじゃないし……下手したら、大会中止もあり得るからな! タダ券もなくなるかもしれないからな!!」
「分かった。優勝、タダ券。頑張る」
……大丈夫、かなぁ。本当なら近くで見張っていたいが、そんなことをして、俺が予選敗退するのはいただけない。できる限り、アリアからは離れて対策を練りたいのだ。開始のゴングがなる前にアリアから離れ、どうするか……というか、アリアからの攻撃をいかに食らわずに生き残るかを考えなくては。あぁ、もう! なんでこんなことになってんだよ!? 俺はアリアと同じブロックなんて望んでませんけど!? 願い下げだよ、くっそ。
自分の運を呪いつつ、アリアのいる位置とは反対側まで移動したところで、リュウ先輩の声が聞こえてきた。ここまでにユーリ先輩を見かけていないし、恐らく、別のブロック……ってことにしておこう。
『さぁ! いよいよ予選、Bブロックの試合開始だ! このブロックは他よりも三年生が固まってるために、Aブロック以上の激戦が予想されるぜ! 相棒! 開始のゴングを頼んだ!』
『へあ!? あ……はい! それではBブロック! スタートです!』
試合のゴングが鳴り響くのと同時にフィールド上にいる生徒達の激しい攻防戦が始まる。……が、それも急に周辺の気温が下がり始めたことで、ほぼ全員が攻撃の手を止める。
「……な、なんだ。誰かの魔法か技か?」
「それにしたって寒すぎだろ……霧まで出てきてるし」
俺を含めた周りの人達をドライアイスのような霧が辺りを包み始める。発生源を探している人もいるが、俺からすればそんなことをしたところで止められるものではないと知っている。
あんのやろぉ……!! 俺の言葉理解してねぇだろ! あの大食いバカは話をちゃんと聞いてたのか!?
恐らく、普通の防御魔法なんかでは間に合わないだろう。ここは先人のありがたいお言葉、『攻撃は最大の防御』に倣うしかない。
俺は構えていた剣をその場で地面に突き刺し、防御姿勢を取った。取っただけで、これで防げるなんて思っていない。
「“紅炎舞”!」
本来、炎属性の広範囲攻撃魔法である“紅炎舞”を発動させる。その瞬間、俺の体を包むように……この場合は守るように火柱が上がった。その瞬間、周りの人達から悲鳴が数多く聞こえてくる。
……やりやがりましたね、あいつ。
ある程度、落ち着いたところを見計らって、魔法を解除。すると、俺の目の前には氷の壁がある。でも、多分これ、壁じゃなくて……
『フィールドに突如として現れた巨大氷山! ほとんどの生徒がこれに飲まれてしまったようだぁぁ!!』
「……デスヨネ」
地面に差した剣を抜き、鞘に納める。俺の立つ場所以外はこの氷山に覆われているのだろう。こんな芸当をするなと忠告したはず。俺の言葉は届いていなかったのだろうか。それとも、これは彼女なりの手加減……なわけない。これを認めてしまえば、世の中のあらゆる魔法や技が手加減の範疇になりかねない。
パキパキと音が鳴っている氷山の上から滑り降りてきた、ことの原因に俺は怒りを抑えられなかった。あれほど言ったのに。言ったのに!
「……アリアァァァァ!!!」
「タダ券っ!」
誇るな!! 褒めてねぇわ!!
この氷山、何か名のついた魔法と言うよりは、気持ちが抑えられなかったアリアによる産物だ。簡単に言えば、とりあえず、興奮したから目一杯の魔力をぶつけてみたよ☆ 的なやつだ。迷惑極まりない。
「俺、始まる前に言ったよな!? 手加減! て・か・げ・ん! 知ってる!? この言葉!」
「優勝……♪」
「聞けよ!!?? さっきまで返事してくれてたよな! アリア! アリアさぁぁあん!?」
「……ご飯。優勝、タダ券」
「もうやだ。……俺、こいつのこと分かんない」
これに巻き込まれた先輩や同級生には同情しかないが、これも運の尽きだと諦めてもらうしかない。こいつの友人として、心の中で謝るわ……すみません。こんなやつで……
それにしても、このあとも試合が続くし、トーナメントだってここでやるはずなのに、フィールドをこんな風にしてしまって、大丈夫なんだろうか? これ、実行委員や生徒会にも迷惑が……あー……ごめん、ラル会長……ごめん。本当に。
……なんで俺がアリアのやらかしたことに罪悪感を感じなきゃなんねぇんだよ。意味分からん。



~あとがき~
Bブロックはアラシ君による一人劇場だと思ってる。一人で怒ったり、嘆いたり忙しいね……(哀れみ)

次回、アリアちゃんが作り出してしまった氷山をどうするのか! 
また別視点に切り替えますよっと~♪

特に言いたいことないですね。
もう少し、描写のお勉強したい。
似たような言葉ばかりを使ってしまいますが、お許しを……キャパがねぇんだ……(泣)

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第67話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で日常っぽい非日常を楽しむ物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ようやく開会式が終わりました。やったね。今回から、大会(予選編)です! このあと、トーナメント編なんかもお待ちしてるんで……ちゃっちゃといきたいね。無理かな。
そして、今回は誰の視点とも決めず、第三者視点でいきますよ。中心人物はいますがね!


開会式も終わり、待ち望んだ大会予選が開始される。観客の熱狂も出場する生徒達にも伝わってきていた。
大会のルールとして、戦闘不能、あるいは場外……厳密にはその下にある水路へ落ちてしまうと失格扱いである。これは勝ち残り戦であるため、自ら落ちてしまっても何かペナルティーがあるわけではない。が、そのようなことをする生徒がいるとは思えなかった。なぜなら、ここにいる全員、志願して出場しているからだ。こんな人数になるとは予想してなかったにしろ、激戦なのは想像に難くない。
あるとすれば、勝てないと実感し、痛い思いをするくらいならばと考えるくらいしか思い付かない。そのような考えで、戦場に立つとも思えないのだが。
『Aブロック出場者は全員揃ったぞ! ここはまんべんなく割り振られてるっぽいけど、若干冒険科が目立つな!』
試合を始める前の前口上なのだろう。さっとAブロック出場者の傾向を伝えているらしかった。司会兼解説者のリュウの声が響いていた。
『大会始まって一番手を飾る、Aブロックの諸君に敬意を表して! 早速、開始のゴングを鳴らすぜ!! 相棒!』
『ひゃ!? は、はいっ!! それでは、Aブロック、試合開始、ですっ!!』
リュウの相方、キャスの合図で試合が始まった。狭いとは言い切れないフィールドではあったが、百人もいると、一概に広いとも言えない。周りは手当たり次第に、近くにいる相手を攻撃しているようだ。属性はごちゃ混ぜ状態で、色鮮やかな光やら魔法やらが見えている。外から見れば綺麗なのかもしれないが、当事者達はそのような気分になれる程、余裕はなかった。……一部を除いて。
「さて。やりますかね!」
その例外の一人であるレオンは、冷静に素早くフィールド端へと移動する。その間、狙われない訳でないが、身軽なフットワークで攻撃を避け、無事に端へと到着。直ぐ様、胸の高さで手を合わせると、レオンの周囲に電撃が走る。レオンがそれに気を取られることはなく、何もない空間から出現させた長刀を手に取った。
レオンの使った魔法は、別空間から持ち物を取り出す魔法である。しかし、出すだけでいいものを、魔力の加減を忘れ、電撃が周囲に飛んでしまったのだ。その余波を受けてしまった不運な生徒がいたようで、何名かは電撃に痺れ、場外へと落ちてしまった。
「ぶはっ! おい、一年! 武器出すだけにどんだけの魔力使ってんだよ!! アホか!」
「いやぁ~……先輩方、すんませーん」
落ちてしまった魔術科の先輩─もちろん、レオンと面識はないが─からのお叱りを、詫びる素振りもなく、けろっとした様子で返答した。
この場で謝る必要なんてない。これは勝ち残り戦。油断し、対応できなければ負けていくのだ。この場合、レオンが思った以上の魔力を注ぎ、電撃が発生したのを、他の生徒達は対応できなかった。それだけである。運がなかったとも言えるし、意識が低かったとも言える。
そしてこれは、レオン自身にも言える。対応できなければ、終わり、なのだから。
「隙あり!」
落ちた先輩数人を見下ろしていたレオンの背後からの物理攻撃。小回りの利く短剣によるものだ。対応しなければ、状況は違えど、先に落ちてしまった先輩達の二の舞である。しかし、狙われた本人は至って冷静だった。
「ははっ! 人が礼儀を尽くしてるってのに、いい趣味してんな~♪」
この状況にレオンは振り返ることはなく、先程取り出したばかりの長刀を鞘から出さずに相手の攻撃を防いだ。
「なっ!?」
「まあ? ここは戦場ですし? そういう手もありだよな。けど、やるなら徹底的に……なっ!!」
振り返るのと同時に、長刀を器用に扱い、相手の短剣を宙へと飛ばす。相手の表情から、一瞬ではあるが、武器を手放してしまったという焦りが見える。その隙をレオンは見逃さなかった。
気配を殺して相手の背後に回り込むと、躊躇なく背中を蹴り飛ばして場外へと落とした。
「にしし♪ 猫ってのは音も立てずに近付くもんだぜ~?」
にやりと猫らしくいたずらっ子な笑顔を浮かべているものの、場外へ落ちた相手にその言葉が聞こえているかは定かではない。実際問題、聞こえていなかったとしても、レオンには何ら関係はないのだが。
レオンは、場外から目を離し、フィールド中央へと移した。今現在、近くには誰もいないのを確認し、そっと地面に触れる。それは長い時間ではなく、ほんの数秒だけで、すぐに地面から手を離した。
「よしっと。このまま準備すっかね~」
にこやかな笑顔のまま、そして、手に長刀を持ったまま、フィールドの端を沿うように走り出した。

レオン同様にフィールド端で応戦する生徒が一人。生徒会所属のイツキだ。
イツキは腰に二振りの剣を差し、背には竹刀袋のような物を背負っている。しかし、装備している剣を抜かず、体術のみで相手からの攻撃をあしらっていた。気絶させたり、場外へ飛ばしたり、時には意識を逸らして、戦闘を回避していた。
「ひゃ~……みーんな、脳筋プレイ大好きかよ~」
イツキ自身、何かと力任せに解決しようとする節はあるが、今回の場合、それでは体力が持たないと悟ったのだ。……否、悟ったのはイツキの相棒、ユーリであり、試合前にあまり体力を使わない方が得策だとアドバイスされた。頭を使うのが苦手なイツキは、向かう敵、全員相手にした方がシンプルで楽だと思っていた。しかし、この激戦を体験するとそうも言ってられない。
「親友の忠告をありがたーく受け取った俺、偉い」
端にいる理由としては、相手が突っ込んできた勢いを利用して、外へと飛ばせるからで、それ以外の理由はない。また、単純に得意な剣を使って戦うのなら、中央の広い場所で乱闘する方がいい。しかし、それだと、場外失格を恐れた生徒達の猛攻を受けることになり、ユーリの言う無駄な体力を使うはめになる。要は端の方が楽だと知ったのだ。
「……?」
右から何か向かってくる気配を感じるものの、イツキを狙っている訳ではなさそうである。ぶつからないように中央寄りへ避けるか、攻撃を仕掛けるかの二択が頭に浮かぶ。そして、答えを出す前にイツキの体は中央へと向かっていた。ほぼ、直感。言わば、なんとなくである。そして、気紛れで後ろの様子を窺った。そこで見えた生徒に、どこか見覚えがあった。
「あり、あの子。……アラシとツバサの友達……だっけか?」
ちらりと見えたぴこぴこ跳ねた癖っ毛の金髪にオレンジの猫耳の少年。それは、イツキの後輩の友人によく似ていた。
「ん~と……レオン、だっけ」
レオンはイツキに気付いていないようだったが、彼はフィールドの端をぐるりと回っているように見えた。何かをしているのか、逃げているだけなのか。
前者だとすると、レオンは何かを仕掛けている途中であると予想できる。が、後者だとすると、この状況下にはありがちな光景だ。気に留める必要もない。レオンがどちらの立場なのか、イツキには判断材料がなさすぎて、さっぱりであった。
「余所見するなよ、二年!」
「はぁい。してませんよ~? 三年の先輩さん!」
中央寄りへ移動したからか、どこを見ても乱闘騒ぎである。イツキの前に斧を振り上げた男子生徒が現れた。流石のこれには、剣を抜かない訳にもいかないだろう。左に差してある片手剣を素早く抜くと、振り下ろされた斧を受け止める。
「ぐへぇ。おっも」
「重量級の武器だしなぁ! お前みたいなひょろいやつなんて、一撃だぜ」
「……あ、そ。まあ、せいぜい吠えてればいいよ。そういうの、慣れてるから」
イツキの言動に怒りのスイッチが入ったのだろう。表情が一変し、見るからに怒りを露にしていた。
「余裕ぶっこいてんのも今のうちだぞ、二年……!」
「そっくりそのままお返ししますよっと!」
イツキは剣を斜めに倒して剣の刃と斧の刃を滑らせると、対面から脱出すると相手の背後へと回る。そこで攻撃を仕掛けるのかと、相手は身構えるものの、そこにイツキの姿はなく、周りを見渡しても見つけられなかった。
次の瞬間、上からの衝撃に耐えきれずに前のめりに倒れた。倒れた生徒の上にはイツキが剣を鞘に納める姿が。
「どこ見てるんですか、先輩。俺は上にいたんすけどねぇ……なぁんて、もう聞こえてないか」
近くで乱闘していた人の肩を勝手に拝借し、空高くジャンプしていたのだ。そこから勢いをつけ、斧使いの背中めがけて膝蹴りならぬ、膝落としをお見舞いしたのだった。
イツキは生徒の上から飛び降りると、イツキを更なる獲物と捉えたらしい数人がが走ってくるのが見えた。
数は減っているとはいえ、裏を返せば、残った人達はここまで残れるくらいの実力を持っていると言えるだろう。納めたばかりの剣を再度抜くと、イツキは無意識にため息をついた。
団体戦になると、ユーリの妨害魔法のありがたみを感じる~……なんでブロック違うんだろ」
運よくと言うべきなのか、彼とは全く別のブロックに振り分けられたのである。ユーリには、イツキのお守りなくて楽とかなんとか言われてしまったのだが。個人戦とはいえ、こういうときに協力した方がさっさと終わると言うもの。そっちの方が効率よく、且つ、確実だった気もするのだ。
しかし、この場にいない友人を嘆いても仕方がない。イツキにできるのは、襲ってくる相手をねじ伏せるだけだ。
「ふっふっふ~……一対多は慣れてるよん♪」
襲ってきた数人を器用にさばいていると、フィールド端で見かけたレオンを遠くで見つける。いつの間にか中央付近へと移動してきていたらしい。
「……ふーむ?」
なぜ今になってこちら側へと移動してきたのか、その理由は分からない。しかし、イツキは考えなしに突っ込むようなことをしないだろうと思った。根拠があるわけではないが、ただそんな風に思った。所謂、勘である。
そして、その勘は見事的中したらしかった。
リング端、六ヶ所から電気が発生し、その電流は中心に立つレオンへと向かっていた。それと同時に、地面に巨大な魔法陣が現れる。魔法知識に乏しいイツキに、魔法陣を見たところでこれだと明確に分かるはずもない。巨大な攻撃魔法らしいのは雰囲気で察せなくはないが。
「……こういうときって、使ってる本人の近くが安地……だよね?」
仮にレオンを中心に強力な電撃でも放たれてしまえば、近くよりも遠くにいた方が防ぎようがあるのだが、イツキはその可能性を検討する暇もなく、レオンの近くまで寄っていく。
レオンが発生させている電気を受け、倒れてしまっている人達もいるが、しっかり避けている人もいた。イツキの接近に攻撃を仕掛ける人もいるものの、一撃で黙らせ、スピードを落とさずに近寄った。レオンの声が聞こえる範囲まで近付くと、あと少しで魔法を放つところであった。
「そんじゃまあ……御同輩、先輩方。この勝負、俺がもらいますね!!」
レオンに集まる電気がバチンと一際大きな音をたてて弾けると、イツキは勢いに任せて、レオンの上空に浮いていた魔法陣の範囲へと飛び込んだ。ここまでほぼ勢いにしか任せておらず、どう転ぶかなんてさっぱりであった。
「“雷龍波”!!」
イツキが飛び込んだ瞬間とレオンが魔法を放つ瞬間はほぼ同時であった。
フィールド上に大きな雷が落ちたかと思うと、電流がフィールドそのものを飲み込んでいく。しかし、上空に現れていた小さな魔法陣は避け、レオンとイツキにはダメージはない。フィールドを飲み込んだ電撃はやがて、龍へ姿を変える。まさに雷龍となったそれは、天へと登り、地上には静寂が訪れた。
「ありり? なーんか思ったより威力強かったなぁ……ま、いっか♪」
レオンの呟きに、なんとも恐ろしいことを口にするものだと若干の呆れと冷や汗をイツキは隠せない。いつだったか、相棒も似たようなことを言っていた気がすると思いつつ、片手に構えたままだった剣を納める。
「あ、イツキ先輩! 先輩も残ったんすね~♪」
ようやくイツキの存在に気付いたらしい、レオンが地面に刺さっている長刀を抜き、鞘に納めながら話しかけてきた。どう対応したものかと一瞬考えるが、繕うのも誤魔化すのもどうにも違うと思い、いつも通りの自分でいることにした。
「いやいや。俺はレオンのおこぼれをもらえただけさ。いやぁ、魔法って怖いねぇ」
「にゃはは♪ そんな謙遜を~♪ 先輩が残れたのも、俺の魔法をかわせたのも、自分の実力ですって。まあ、あれはちょーっと加減を間違えただけっす。ま、死んだ訳じゃないんで大丈夫ですよ」
「救護班もいるし、理事長のかけてる魔法もあるし。あとはプロに任せとこ」
「そうっすね♪」
逆に言えば、このフィールドの効果がなければどうなっていたのだろうか、と考えが過るも、答えを出すのは精神的にも教育的にもよろしくない。浮かんでしまった疑問をゴミ箱に捨てながら、イツキとレオンのトーナメント進出のアナウンスを聞いていた。



~あとがき~
強引に収めてやったぜ……

次回、Bブロック!
こちらも一話で終わらせます! 予定!

レオン君のメイン武器は長刀です。長いやつ。
リアルで長い刀なんて操れねぇわ! って思うけど、創作の中だと無限大ですね!! 前は三刀流とかしてたけど、ここでもやるんでしょうかね? 聞いてないですけど……どうなんだろね。
イツキは意外となんでもござれ状態です。戦いの場においては、器用なんですよね。ここでは片手剣二つと背中に竹刀袋に突っ込んだ刀を持ち出してますが、それ以外も扱えるやつです。つっても、フォースみたいな万能さはない。あくまで、ある程度使えちゃう。プロ級ではない。くらいです。ラルと似たようなタイプです。
まあ、言うて、近距離武器、剣や刀といった斬撃を与えるタイプの武器に限ります。例外はあるけど。

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第66話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわいわいする物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、開会式が行われる中、ラルのポンコツっぷりが露骨に現れてました。
今回で……終わらせるぞ……開会式……!!
ラル「はよしろ」
それな。
フォース「変な茶番挟みやがって」
それな!
ラル、フォース「自覚してるならどうにかしろ」
あい……


《L side》
本来であればここで校長が出てきて、ありがたいお話の一つや二つするところだったんだろう。しかし、ここに入学してから、あの人のありがた~い話を拝聴したかどうか覚えがないんだけれど。
「お母さんだ!」
モニターにはツバサちゃんの母親にして、この学園の理事長を務める、セラフィーヌさんが映し出される。薄いピンク色の髪を後ろでお団子にまとめ、ジャケットにシンプルなロング丈のスカートという姿だ。
観客席の後ろに設置されている関係者席付近に、小さなステージがあり、そこにセラ理事長は立っている。その後ろには高等部の教師陣が並んでいた。その中を探しても、教頭は見つけられるものの、校長の姿はない。
「プリンの奴、どこ行ったんだ」
「さあ? まあ、いたとしても有意義なお話は聞けなかったでしょ。こういうときは大抵、ぐうぐうしか言わない」
「それもそうか」
「そうなんですか? でも、入学式はちゃんとお話ししてましたよ?」
「ふーん。……そうなの?」
私は覚えてないな。ほぼ聞いてなかったし、自分の出番が終わったらさっさと出ていったし。
「知らん。つーか、おれが真面目に教師の話を聞くと思うか?」
「そういえばそうか。……校長の貴重な話を逃したのは惜しかったかな」
「次の式典にでも期待すれば?」
「そっすね」
なんて、二人して気持ちのこもっていない会話をしていると、セラ理事長の話が始まってしまった。
『来賓の皆様、保護者の皆様、また、外部からのお客様。本日はレイディアント学園主催、剣技大会へとお越しくださりありがとうございます』
ここで一度、言葉を切り、浅く一礼。優しそうな笑顔を浮かべたまま、話を続けていく。
『先ほどの実行委員長と挨拶が被りますが、遥々遠方からのお客様もいらっしゃいますので、私から再度お礼申し上げます。この剣技大会は元々、下級生、上級生達の間にある壁を無くすため、また親交を深めようと設立された大会です。参加生徒の皆様は存分に己の力を振るい、来賓、観客の皆様は我が生徒たちの実力をどうぞご覧くださいませ』
これがしっかりしたご挨拶の一例だ。いやぁ……どっかの誰かさんも見習って欲しいよねぇ! なんでいないんだろうね、あの校長は。
いない人を考えても仕方がないため、私は別の話題を切り出した。考えを放棄したとも言うが。
「理事長、笑ってるところとか、ツバサちゃんそっくりだよね。似てるって言われる?」
「う~ん……私はどちらかと言えば、お父さんに似てるねって言われます」
まあ、セラ理事長は兎族の特徴である長い耳垂れていて、狐族であるツバサちゃんと瓜二つとはいかないけれど。性格や内面を総合すると、お母さんよりもお父さん、なのかもしれない。
「……ってことは、お母さんがウサギなら、お父さんが狐族?」
「そうですよ♪ お父さんは私みたいに耳は垂れてませんけどね」
「結局、子供なんて両親の遺伝子を持ってんだから、どっちにも似ててもおかしくねぇけどな」
「フォース君のそういうところ、嫌いでーす」
「ははっ」
笑ってごまかすな、この野郎。
ぽかぽかとフォース君に攻撃を仕掛けている─が、簡単にあしらわれているのが気に食わない─と、理事長の話も終盤のようだ。
『最後になりますが、この会場に来ている来賓の方々は、様々な招待を受けてここにいらっしゃいます。私は来賓の皆様、全員信用における方だと思っております。……セキュリティの高いこの学園内で誘拐などの犯罪が起きないと思っておりますが……念のため、申し上げておきますわ。くれぐれも皆様は己の発言等に注意してくださいね』
笑顔を絶やさなかったが、最後の言葉のところだけは目が笑っていない。そりゃあ、選りすぐりの若者集まる学園ですし、そういう考えを持っている人が全くいないとは言い切れない。犯罪とか誘拐は言い過ぎにしても、悪どいやり方で勧誘はあり得なくはないのだ。それを防ぐのがこちらの仕事ではあるけれど。しかし、理事長様直々にあのようなお言葉が出てくるとなると、下手なことは起きないだろう。事実、カメラに少しだけ映る一部のお偉いさん達の顔色ががらりと変わった。単純に驚いただけなのか、はたまた図星だったのかは判断できないが。
『……では、私からの言葉は以上でございます♪ 引き続き、本大会をお楽しみください♪』
理事長が一歩後ろへ下がってから礼をする。そして、そのまま小さなステージから降り、関係者席へと移動……したんだろう。そこまでカメラは追ってないから分からないけれど。
「……ティール、聞こえる?」
『はい。感度良好』
「合ってるのかなぁ……まあ、いいや。で、一応、頼むね」
『あはは。分かってる。ちゃあんと楽しんでもらうために、来賓の方々のお側に付いてるから』
うわ、こいつも本心では笑ってないぞ。怖いわ~
「ん……なんか、王子が護衛って変な話だよね。……ともかく、よろしく」
『えぇ? 最初の余計だろ。三年以上君の相棒やってるんだから、今更だ。……まあ、任せて』
必要ない気しかしないけど、念には念をってね。
ティールとの短いやり取りを終え、モニターに意識を移した。モニターにはこれから行われる大会のルールについて、説明をしているらしかった。リュウ君から促され、キャス君の戸惑いつつも、よく通る声が聞こえてくる。
『ままま……まず、大会全体のルール説明です! 会場内には、セラフィーヌ理事長直々の特殊な結界が張られている為、軽度のかすり傷、打撲はあるものの、致命傷になるような怪我を負うことはありません。斬撃などは全て、打撲程度の打撃ダメージに変換されます。なので、使用武器は自由! 魔法使用もOKとなっております!』
『サンキュー! 相棒! フィールドの周りには水が張ってあるから、ここに落ちても失格扱いだ! つまり、戦闘不能になるか、フィールド外の水に落ちるかすると、失格ってことを忘れないでくれよな!? 一応、制限時間も設けてるが……タイムアウトになったときはそんときに説明するってことで! まずは参加生徒四百人から八人に減らすため、各ブロックの勝ち残り戦だぁぁ!! 十分後、Aブロックの試合開始するから、該当生徒は準備をして、フィールドに集合してくれ!!』
ふむ。……特殊な効果を持ったフィールドでの蹴落とし戦。このフィールドと観客の間には大きな水路が存在する。この構造から考えるに、上手く立ち回れば、自分の力を出すことなく生き残れるはずだ。
「四百から八、か。……結構、減らすんですね~」
「参加人数多いから、振るいにかけるんだよ。これ、実力と運も絡んでくるね。……というか、運が大切な気がする」
「運ですか?」
「ブロック分けはくじだったからさ、偏りもありそうじゃない? 強豪だらけのブロックなんてのも考えられなくはないよね。三年ばっかりとか?」
総合的に見れば、三年生の出場者が多いわけだから、必然的に多くはなるだろう。それでも、多少の偏りは発生する。それこそ、試合を一発で決めてしまうような範囲攻撃を持っている人と当たってしまえば、一瞬で試合が終わる……なんてことも考えられるし、その逆も然り。全体の実力を見て、ブロックを割り振った訳ではないため、ここら辺は運任せである。
「運は抜きにしても、お前が得意そうなルールだな」
「ふふん♪ 自慢じゃないけど、武器も技も出さすに勝ち残る自信しかないね。なんて、フォース君もおんなじじゃなぁい?」
嫌味増し増しで吹っ掛けてみるも、フォース君から返ってきたのは、にやりと馬鹿にしたような笑みだった。
「どさくさに紛れて初戦敗退できるなんてラッキーだなとかしか。おれが出たときもそんなルールがよかった」
「つまらんやつめ……仕事行け!」
これには嫌だと反発されるかと思いきや、案外素直に椅子から立ち上がった。ふわりとあくびを噛み殺しながら、気だるそうに扉のドアノブに手をかける。
「へーい。見回り行ってきます。……つーか、さっきから連絡来てて、うっさいんだよねぇ」
出てやれよ。かわいそうに……あ、そだ。
「フォース君、行く前に一つ頼みが……」
「嫌でーす」
頼みを聞く前に出ていこうとするフォース君の後頭部目掛け、手近にあったファイルを投げつける。それが綺麗に当たる……なんてことはなく、華麗にキャッチされた。当たれば面白いのに。
「ツバサちゃんと写真撮って欲しいだけなんだけど、なんで逃げようとするかなぁ」
「それを早く言えばいいじゃん」
「言う前に出ていこうとしたのはフォース君ですけどね!」
振り返ってこちらに戻ってきたフォース君に半ば、端末を投げるように渡し、ツバサちゃんの背丈に合わせて中腰になる。
「……ってことで、いい?」
「はわ……もちろんです! あ、あの、あとでそのお写真、もらってもいいですか?」
「いいよ。家帰って印刷してくるよ」
「やったぁ~♪」
ん~……もうっ! 可愛いんだから!
抱き締めたいところだが、時間がない。さっさと終わらせるために、ここは我慢だ。
「ツバサちゃん、これ以上ないってくらい、笑ってね~♪」
「はーいっ!」
「フォース、ミスったら殺す」
「うえ。会長スイッチ怖いよ~……いや、探検隊スイッチの方か?……撮るぞ」
何回かシャッターの切る音が聞こえ、私に端末を返してきた。そして、そのまま出ていこうとするフォース君の腕を掴み、私の方に引き寄せた。
「え、何。処刑?」
「んなことしないって。綺麗に撮れてましたよ! ツバサちゃんこっちに近づいて~? はい、笑って!」
戸惑うフォース君と私の意図を汲んで、満面の笑みを見せてくれたツバサちゃん。一回だけ、シャッターを切って、フォース君を解放した。
「え、あ、はあ!?」
「えへへ! フォースさんとも撮れちゃいました!」
「……ティールがかわいそうだな」
ティールはいいの。最後に撮ればいいもん。フォース君の場合、閉会式には消えてる可能性もあるじゃん?」
「ソ、ソンナコトナイデス」
あるわ。絶対。わざとらしいぞ。
「引き留めてごめんね、二人とも。お互い、任された仕事はこなすように。何かあったら連絡して」
「はいっ! 分かりました!」
「ラジャー」
さてさて……今年の大会はどうなることやら。



~あとがき~
やっと終わった。ここまでくるまでがなっげ。

次回、Aブロック開始! 
誰が出てくるかな~♪

アラシ君視点も一応、あったんですけど、視点移動が面倒なので、ごめんなさいしました。相方には了承済みです。
アラシよりもツバサの方がいいね!! みたいな感じだったんで。ツバサちゃんとラルの絡みを+αしてます。とっちらかった気もしますが、満足。

セラさん、初登場です。ラル視点だと画面越しですが。ツバサちゃんの母にして、レイ学のトップのセラフィーヌ様です。このあともちょいちょい出てくる? と思うので、よろしくな!

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第65話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でとたばた日常を過ごす物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、放送を聞いていたラル達の話をやりました。一方その頃をお送りしました。ツバサちゃん達は何話もやったけど、ラル達は短かった。
ラル「あれくらいでいいんだよ。他が長いんだから」
それな。
まあ、頑張りますよ。今回で初めのゴング鳴ればいいけど……鳴らないかな……
ラル「さあ?」
他人事め……


《L side》
リュウ君の放送が流れた後、続々と生徒達が入ってきた。一週間前に顔合わせはしてあるものの、役員ではない人達の顔は正直、曖昧である。
「……私が統率すんのかぁ」
「頑張れ、会長」
「ファイトファイト~」
「……二人して、てっきとうなことしか言わな……あ、普段の私か」
人を統率するのは、生徒会としてだけではなく、探検隊としてもやるし、慣れてはいるけれど、こんな大人数はなぁ……まあ、大丈夫だろ。私一人ではないし。
「やあ、ティール、フォース」
「マル。ちょっとの間だったけど、楽しめた? 屋台とか」
人混みを掻き分けてこちらに近寄ってきたのは、今年の大会実行委員長、マル君だ。ティールの質問に、ふんわりした笑顔を浮かべて、ゆっくりと頷いた。
「おかげさまで、軽く回ってきたよ。毎年、人は多いけど、今年はそれ以上な気がするね。参加者の熱意も凄そう」
「四ブロック、百人ずつ。合わせて四百だろ? どこにそんな生徒いたんだよ……」
「うちの在校生はなかなかの人数だもん。そんなもんでしょ。……さて、マル君、そっちが全員揃ったかどうか確認してくれる? ティール、こちらも確認して」
「分かった。ちょっと待っててね」
「了解。部隊毎に並ばせる」
マル君とティールがぱっと集まった生徒達の方へと消えていく。そして、残っているフォース君をちらりと見る。
「フォース君、全員に通信機行き渡る?」
「数揃えましたよ、会長さん。後から合流するかもしんないから、一応、役員で大会出場予定の奴らの分と予備もある」
「手際がよろしいことで」
二人の人数確認も終わり、全員が揃ったのは、収集がかかってから十数分後だった。この人数なので、許容範囲内だろう。
注意事項の再確認、それぞれの担当範囲の話、軽い仕事内容の確認等々、話さなければならないものは全て話し終える。質問も出てこないのも確認し、私は全体を見渡した。
「今回は例年以上の参加人数で、予期しないトラブルや出来事に遭遇する可能性はある。しかし、それに迅速に対応するのが私達の仕事だ。……スポットに当たるのは、会場で戦う人達かもしれないけれど、あなた達も見られていることを忘れないで」
目立つのは大会出場者ではあるが、だからと言って、こちらに目が向かないわけではない。専門機関やギルドのお偉いさん達は、案外、裏方とも取れる私達も見ているものだ。強いだけが利点ではないのである。
「何かあれば、各班のリーダーを頼ること。それでも駄目だと判断した場合、私が対処する。……この先、臨機応変な行動を求められるようなこともあるかもしれないけれど、そのときは私の方から全体的に指示を出すので、通信機だけは手離さないで。壊すのも厳禁」
いやはや、臨機応変とか、予定外の指示を出すとかそんな事態には遭いたくないものだけれど。何が起こるか分からないのが、現場である。
「最後に、ここにいる全員が仲間だ。互いを信じて行動し、仕事に当たること。……以上! 開始時刻まで各班待機」
「了解っ!!」
生徒会役員、大会実行委員全員が声を揃え、返事をする。毎回思うが、こんな感じに話していると、生徒ではなく、何かの軍隊を率いているのではと思わざるを得ない。前にもこんなことを言った気がするけれど。
「ラルは開会式出るの?」
警備全体の指揮を任せたティールは、剣を腰に下げた状態である。何かあったとき、対応するためだろう。ただし、探検に行くときは二つ下げるところを一つだけではあるが。
「いんや。挨拶しろとも言われてないから行きません。ティールは?」
「出るわけないでしょ。会場にはいるけどね」
「あ、警備か。……今日はスイちゃんなの?」
ティールの持つ剣はスイちゃん、セツちゃん─正確な銘は水泉、雪花だが─という二つを所持している。スイちゃん、セツちゃんが対になっている武器……というわけではなく、それぞれ単体で成り立つものだ。それをティールが二刀流といいますか、なんちゃって双剣装備として普段から愛用している。この辺は話すときりがないので、本日は省略するけれど。
深い海のような色の鞘に収まるスイちゃんを見下ろしたティールは、少し呆れているような、冷めたような目をしていた。
「勝った方を装備してる」
『あのね! しりとりー! すいちゃがかった!』
「あー……心中お察しします。ティールさん」
私がティールの剣にちゃん付けしていた理由は、これである。雷姫のように喋るのだ。まあ、所有者のみに声を伝える雷姫とは違い、条件が幅広いスイちゃん、セツちゃんは私やフォース君にも、当たり前のように声が聞こえている。二人……? から、拒絶されないだけ、ありがたい話なのかもしれないけれど。
『るー! あのね、せっせんだったんだよー!』
「うるさい。しばらく喋るな」
『てぃーのいじわる~』
スイちゃんの相方、セツちゃんと白熱したらしいしりとりの内容を聞く前にティールが止めてしまう。そして恐らく、ティールはそのしりとりをリアルタイムで永遠と聞かされたはずだ。今は聞きたくもないんだろう。
スイちゃんを黙らせた後、生徒会の後輩君に呼ばれてしまったティールは、無感情な表情をぱっと笑顔に変え、そちらの方へと行ってしまった。いやはや、手慣れていらっしゃる。
「フォース君は……動く気ないだろ」
真面目なティールや委員長のマル君とは違って、私の近くにある椅子に座ったまま、のんびりとしていた。こいつはこいつで、生徒が出しているお店の管理やバックアップを指揮するような─簡単に言えば、店長とか、そんなもん─偉いポジションに置いたはずなのに、やる気ゼロである。
「店のトラブルなければなんもねぇんだって。備品壊れたとか、足りないとかそういうお手伝いしかしないし、大抵下の奴らが動く。おれがやる必要性なし」
放任主義が過ぎるなぁ。何もないならいいけど」
「どうにもならんときは、おれがやるからいいの」
ま、いいけどね。フォース君がやればできる子なのは知ってるし。
あぁ、そうだ。忘れるところだった。
私は救護班の集団へ近づき、ツバサちゃんの肩を軽く叩いた。真剣なお話をしているところ悪いけれど、少し話があったのだ。
「ツバサちゃん、そっちの話が終わったらちょっといい?」
「? はい。分かりました♪」
不思議そうにしていたけれど、何かを疑う様子も不信にも思わなかったみたいだ。笑顔と共に肯定の返事が返ってきた。
フォース君のところまで戻ってくると、私とツバサちゃんの様子を見ていたのが、小さいため息が聞こえた。
「……ろくでもないこと考えてんだろ」
「そんなことないよ。変なことじゃない」
……少なくとも、私からすれば、だが。

開会式の時間になり、生徒会と実行委員の子達はほぼいなくなった。私はというと、控え室から一歩も動いていない。いざってときに全体の指揮をしなければならないため、極力ここから動くなとの私の相棒にして、副会長からのご命令である。
『Ladies & gentlemen!! レイディアント学園、イベント会場へようこそ! 本日の司会を務めますのは、冒険科三年、放送部所属のリュウと!』
『同じく、放送部所属の……ま、魔術科一年、キャスでお送りします。……えと、よろしくお願いします』
生徒会控え室に備え付けられたモニターに映るのは、コロシアムのような会場に沢山の観客と、関係者席に座る教師やお偉いさん達。そして、聞こえてきたのは今回の司会を務める放送部の二人の声。片方は先程会ったばかりのリュウ君だ。もう一人は初めまして……いや、見たことはあるが、挨拶程度の会話しかしたことがない。淡い緑の髪を綺麗に切り揃え、かっこいいというよりも、可愛いという言葉が似合うような少年だった。
初々しい挨拶をするキャス君に、リュウ君が少々……いや、かなりのオーバーリアクションで絡んでいく。
『おいおい、相棒~? 初っ端からそんなに緊張してちゃあ、後半まで持たないぜ?』
『そ、そんなこと言われましても……今回の放送が初めての仕事で……って、そんな話はどうでもよくって! これ、生放送ですよ! 生放送!!』
すでに暴走気味なリュウ君の手綱を一年生の彼に操れるのか微妙なところである。というか、一年生なのに、リュウ君が相方なんて……
「この一年が噂の後継者?」
リュウ君曰く」
私と同じでなぜか部屋から出ていかなかった、フォース君が、放送部二人の雑談とも取れるやり取りを聞きつつ、うへと嫌そうな表情を浮かべた。
「相変わらずうっせぇな、こいつ」
リュウ君だからね。仕事はできる人なんだけど。このうるささをキャス君とやらが引き継がない未来を願うばかりです」
とまあ、私らは、キャス君が立派な放送部員になる姿を見届けることはないんだけれども。
「……で、聞いてもいいですか。ラルさん」
「なぁに?」
「姫様に何てことしてるんですか」
呆れ顔のフォース君は、会場の勢いに圧巻しているのか、モニターから目を離さないツバサちゃんを示す。当の彼女は救護室に行かず、ここで観戦中だ。理由としては彼女の格好にあった。
普段の魔術科女子制服ではなく、空色と白のエプロンドレスっぽいナース服に身を包み、頭には薄い水色のナースキャップ。そして、首元で赤いネクタイを締めている。これに着替えるためにわざわざこちらに残ってもらったのだ。ちなみに、同じ救護班にして、生徒側のリーダーを任せたリリちゃんにはツバサちゃんが遅れることに了承を得ている。
「可愛いでしょ? 私の姫ちゃん」
「天使なのか姫なのかはっきりしろよ」
「じゃあ、天使様」
「姫は『ちゃん』で、天使は『様』なの? 敬う基準が分からん。……ツバサさ~ん?」
「! は、はい! ごめんなさい! お話聞いてなくて……どうかしましたか、フォースさん?」
ツバサちゃんはフォース君に呼ばれると、慌てて画面から目を離し、こてんと首を傾げる。
「嫌なことは嫌だと言っていいんだぞ。おれとティールでこのアホ会長懲らしめとくから……」
「ほえ!? 全然、嫌なんかじゃありませんよ! とっても可愛いですし♪」
ツバサちゃんの満面の笑みに、何一つ嘘はないと判断したようだ。フォース君の口から諦めのこもったため息が漏れる。
「聞かなくても分かるが、これを用意したのは」
「ドールちゃん」
「……自分の分身に、んなことさせる気持ちをじっくり聞きたいわぁ」
「自分が着る訳じゃないんで、特には」
まあ、お勧めはされましたけれど。当然ながら、丁重に……且つ、キッパリお断りした。
朝に一人、生徒会室で“ドール”を呼び出した私は、その場の思い付きと言われても反論できないくらい、突然に服を見繕えと命令した。その命令を見事完遂し、今、ツバサちゃんが着ているナース服……と言うよりも、私服とも見える服を作り出した。これを出したときのドールのドヤ顔と言ったらない。たった数時間でツバサちゃんの服を作り出した理由については、恐ろしい考えが過るので、あえて聞かなかったが。
「ツバサちゃん、くるっと一回転!」
「わかりました~♪」
私のリクエストに笑顔で応えるツバサちゃん。その場でくるりと回ると、スカートがふんわりと揺れる。スカートの下はパニエでスカートのふわふわ感増し増しなのだ。このドールの気合いの入れようは予想以上である。
「次はポーズ取って~♪」
「はーいっ!」
スカートの裾をちょこんと摘まみ上げ、お嬢様のような挨拶ポーズをしてくれる。すかさず、私はカメラを構えて何枚か撮らせていただいた。
「はあぁぁ~♪ めっちゃ可愛い!!! いいよ、ツバサちゃん!」
「えへへ♪ ありがとうございます♪」
普段ならティールのツッコミが飛ぶところだが、生憎、彼は会場内の警備でここにはいない。ティールのお小言が飛ばない快適空間でツバサちゃんを堪能できるなんて、これは天国か何かなのかもしれない。
ティールいないんだから、余計なことすんなよ。変態」
「変態でいいよ! この可愛さの前じゃ、どんな罵倒も受け入れられるよ……何もかもが浄化されますわ……!」
「……おい、ティール! 戻ってこい。おれじゃ、こいつのお守りなんて無理なんですけど! 応答しろ!」
『……え? あっと、ティールです、けど?』
フォース君がティールに無線で連絡を取ったらしく、私の耳にもティールの戸惑った声が届く。回線は私とフォース君、ティールの三人らしい。
『あ~……よく、分かんないけど、変なことはしないでね、ラル。……どうぞ?』
「してないしてな~い! 今の私はテンションMAX! 何しても許せるくらいの聖女になってるから! どーぞ!」
『そう? じゃあ、この前、湿地帯周辺の依頼受けたので、今度行きましょうね~? リーダー』
「はぁ!? ざっけんな!! 聞いてませんけど!?」
「何でも許すとは一体」
「? どうかしたんですか? ラルさん」
『どうでもいいことに無線使わない。切るね』
衝撃的な告白をし、そのまま連絡を切りやがった我がパートナー様。なんなんだ、あいつ。
「テスト前に討伐系やるんじゃなかったっけ? それとは別件か」
「別件。……あの様子だと、いきなり言われて請け負った感じかな。まあ、いいや。今日帰ってからじっくりと問い詰めてやる」
私達三人の会話を聞けなかったツバサちゃんは不思議そうにしているが、説明したところで意味はないし、関係のない話だ。
私達がどうでもいいやり取りをしている中でも、開会式は粛々と(?)進められていた。次に意識をモニターに移す頃には、半分以上のプログラムが終わっていた。
『……実行委員長の話が終わり、続けてプリン校長からのお話~……といきたいんだが』
『ほ、本日、諸事情により、プリン校長は学園を留守にしているので……セラフィーヌ理事長からお話をしていただきます……!』
親方……否、校長の代わりが理事長ってどういうことよ。あの人は何処へ……?



~あとがき~
切るタイミングがなくて長いです。

次回、何気に初登場のセラフィーヌ理事長のご挨拶です! 開会式は終わらせるよ!!

長くなったので、さっさと終わります!
さっさと終わらせるけど、これだけ。
ツバサちゃんの衣装チェンジは予定(プロット)通りです。ラルがツバサちゃんの写真撮ってましたが、きっと専用アルバムでも作るんじゃないですかね。(適当)

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第64話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわたわたする物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック。
前回、屋台探索も終わり、出場者によるブロック決めも駆け足ながらも終了。
アラシ「……なんで、アリアと」
メタ的で身も蓋もないことを言えば、アラシ君のポジションのせいだよ。
アラシ「俺、そんなキャラ?」
ここではそうかな……?
アラシ「はあぁぁぁ~」
今回はお久しぶりのあの子視点です。ツバサちゃんがステラ達と合流して、楽しそうにしてる辺りまで時間を戻します。一方その頃ってやつです。


《L side》
剣技大会の開催日を迎え、一足先に周りの出店や屋台が賑わう頃。私と二人の男子は、しんと静まった部屋に集まっていた。集まった私達は大会の責任者として、ある程度の情報共有と、これからの段取りについての最終チェックだ。本来なら、出店等々が出る前に行う予定だったのだが、ある人物の遅刻があり、予定が変わってしまったのだ。
「……って感じによろしくね。言っておくけど、リュウ君。ここで機材故障なんてしないでよ。くっそ忙しくなる予定なんだからね!」
釘を指した相手は、今回の放送全般を請け負う放送部部長で、今回、朝に遅刻をしたリュウ君。理由は単純に寝坊したらしい。
リュウ君は紫色の髪を後ろでアップにまとめ、首にはヘッドフォンがかけられている。彼は冒険科三年で私と同学科、同学年だ。彼の放送は生徒には好評価なのだが、何かと機材トラブル─主に些細な故障─が多く、ことある毎に買い変えたいと申請に来る。そりゃあ、直らないくらい駄目になったのなら考えなくはないけれど、全くもってそんなことはないので、直せば使える! と、なぜか私が直しに行っている次第だ。原因は基本的にリュウ君なので、彼が卒業すれば、放送部も利口になる……はずだ。
「だぁいじょうぶだって! 今回使うのは、俺達の持ち物じゃないしな! 最高の機材と司会を勤めて見せるぜ~♪」
その最高の機材とやらを壊すなって話なんだけれどね、私は。
リュウの司会っぷり、楽しみにしてる人もいるだろうな。僕らで今回の大会、成功させようね」
少しおっとりした話し方をするのは、剣技大会実行委員長のマル君だ。彼も私達と同学科、同学年。リュウ君よりは俄然、話が通じる相手であり、この中の良心みたいなポジションである。いやまあ、今回の大会が終われば、このトリオも解散するけれども。
「極力、努力はするよ。……放送関連に関して言えば、ある程度は現場の判断で構わないよ。私からとやかく言わない。本当に何かあるなら、連絡してもらっていいけれど、基本、任せる」
「OK! 任せとけって!」
うるさい。音量下げろ。
リュウ君は放置しておき、もう一人の責任者に視線を向けた。
「マル君は逐一、連絡くれるかな。現状把握がしたいから、少しの疑問や懸念があるなら私に伝えて。何かあったら一人で決めようとせずに、周りと相談。よろしくね」
「分かった。……ラルさんは手慣れてて、安心するよ。こういうの、あんまり得意じゃなくってさ」
困ったように笑うマル君。ここでずっと気になっていた質問を彼に投げ掛ける。
「そんな気はしてたよ。よく受けたよね」
「前の委員長からのご指名だったんだ。それで断りきれなくって」
「あ、よくあるよくある」
「ラルも先代会長に押しきられて、今の会長職だっけか? いつ就いたんだっけ。気がついたら、お前がトップだったろ」
「一年生の冬。先輩が卒業するから、新しい会長を指名するとかなんとかで呼び出されて、あれよあれよと、今に至る……」
思い出したくもないわ。この生徒会に入ったのも、その会長に引っ張られたからだし、流石に会長なんて上に任せるだろとか思っていたら、こっちに投げてきたし。
先代の話なんてしたくはないが、どこか親方……プリン校長と似た雰囲気の持ち主だった。だからだろう。私が断りきれなかったのは。最初から苦手な相手だったというわけだ。しかしまあ、早めに会長という職務を得て、この組織を改革できた。自分好みの組織改革も完了したと言っていい。なんだかんだ、慣れると楽しいんだよね、生徒会長。
「雑談はここまでにして……私からはこれで以上よ。二人の質問がなければ、今後、余程のことがない限り、三人で集まるなんてないから、何かあるなら、ここで言ってね」
と、一応、形式に乗っ取った口上を述べるが、これを言われて、じゃあ質問ですと飛んできた試しがない。大抵、時間が経ってから、あれを聞けばよかった、これを聞き忘れたと思い出すものである。少しの時間を置き、それぞれの頭の中で整理する時間が必要なのだ。
「じゃ、今後は各自、連絡ちょうだい」
「おー! 円滑に進行するからよっ! 司会進行は任せろ!」
「うん、裏方業は任せてね。頑張るよ」
「トラブルはないに越したことはないけれど、何かあれば迅速に対処する。大会成功目指して、お互い頑張りましょ。……さて、解散!」
リュウ君とマル君と別れた後は、その足で生徒会が使用する予定の会場内に設置された控え室もとい、会議室へと向かった。

「ただいま、我が家……」
扉を開けると、見慣れた二人が好きな席に座って寛いでいた。どこから買ってきたのか、唐揚げを食べるフォース君と、律儀に周りの整理をしているティールだ。部屋は違くても、やっていることは、大して変わらない二人にどこか安心感を覚える。
「お前ん家じゃねぇけどな。ま、お帰り」
「お帰り、ラル。お疲れ様」
「こんなんで疲れてたら、体持たないよ~……で、どう? 今回の規模は」
「結構来てるぜ。去年よりは多いと思う」
「そのせいだと思うんだけど、お客様同士のトラブルが頻発してるみたい。ま、ラルが出なきゃいけないくらいのレベルはないから安心してね」
にっこりと笑うティールの口からは物騒な話が飛んできた。私が出なくても、フォース君やティールは出たんだろうな……
「後輩を引っ張ってこなきゃならんこともないし、人数の割には平和な方だ。不安に思っていた程、忙しくならんかも」
かもしれないけれど、生徒会としては人数がいつもより少ないのは、不安材料ではある。実行委員を少々こちらに回してもらっているし、その子達が上手く機能するといいんだが。
「お前の一言で問題ねぇよ」
「ラルの真面目バージョン、鶴の一声だもんね」
なんじゃそりゃ。いいけどさ、何でも。
フォース君の隣の席に座り、じっとフォース君を見た。
「……何?」
「言わなきゃ分かんない?」
「……言わなくても分かるけどさ」
ため息混じりに竹串の唐揚げ一つを私の口に突っ込むと、空になったらしいカップと竹串をビニール袋にまとめて、口を縛る。そして、フォース君は立ち上がることなく、備え付けのゴミ箱に投げ捨てる。投げ捨てられたそれは、吸い込まれるようにゴミ箱へゴール。それを見届けながら、フォース君からありがたくいただいた、唐揚げをちゃんと飲み込む。その唐揚げを味わった後に、ふと思い付いたことを口に出した。
「こういうお祭りの屋台ご飯ってさぁ」
「なんだよ、急に」
「うわ、マジかよって値段だけど、大体、美味しいって思うよね。屋台マジック?」
「素直に唐揚げ旨いって言えば?」
「唐揚げ美味しかったです」
「はい。お粗末さんでした。……でも、これって冷凍だったりすんのかね」
うわぁ、夢がねぇ……ま、冷凍も美味しいけどね。
「真面目に答えるなら、ちゃんとその場で揚げてると思うよ。今の唐揚げ、形が全部バラバラで、市販のものより大きかったから」
「ぼくらの家にある冷凍のって少し小さいもんね。主婦目線だ」
ティールのその発言には反論したいと思ったけれど、残念ながらその通りだったので、黙っておこう。
「フォース君も主夫だろ。頑張れよ」
「うち、揚げ物は極力しないから。面倒じゃん。油の処理」
分かる。めっちゃ分かる。けど、揚げたてが美味しいんだよなぁ。
「それは分かるけどさ……学校から帰ってきてからの揚げ物は気力ねぇな」
同意。
「『しゅふ』談義……?」
したいわけじゃないけど、暇だからね。しちゃうね、どうでもいい話。どうでもいいついでに、あんまり興味のない質問でもするか。今なら真剣に聞ける気がする。
ティール、今年のりんご飴、いかがです?」
「全部回ってきた~♪ 全部よかったけど、やっぱりいつものだね!」
「今年も同じところ来てたんだね」
ティールのりんご好きはいつものことなのだが、こういうお祭りの屋台では、りんご飴というお菓子が出るわけだ。出るのは普通で、買うのは個人の自由なんだけれど、ティールの場合、来ているりんご飴屋さんを全部回る。
この大会においても何店舗がお店が出ているようで、いつの間に行ってきたのか、ティールは全て制覇してきたらしい。そして、彼の言ういつもの、とは、毎年屋台を出しに来るりんご飴屋さんがあるのだ。
「飴とりんごのバランス絶妙だよね……飴の甘みに負けないりんご飴、最高……」
りんごの話になると、アホの子になるからな、ティール。私がツバサちゃんやしーくんに対して、可愛いとか、私の天使可愛いと騒ぐのと同じ原理。ものは違えど、似た者同士である。
「次はその味に会えないな。おれら卒業だし」
「あ、来年は一般客として来るから大丈夫!」
それのためだけに来るんかい!!
「ん~……それだけじゃないけどね。剣技大会、ゆっくり観客席で見てみたいなーって。考えてみると、ゆっくり見られたのって中等部のときくらいじゃない?」
まあ、確かに。高等部へ進学すると、ティールは選手として参加していたし、最初から最後までじっくり見る機会はほぼゼロに等しい。
「中等部三年のときは仕事で来れなかったもん。後さ、今ならそこそこの知識ついて、見るの面白そうじゃない?」
そうかもね。私は興味ないけど。
「あ、でも、来年は見たいかも。きっと、ツバサちゃんが参戦でしょ? めっちゃ見たい。来年はどうなってるか知らないけど、仕事休み取って来よう」
「とことんツバサ中心なやつだな」
心底どうでもいい話を永遠としていると、部屋に設置してあるスピーカーから、先程、聞いた声が響いた。
『放送部からお知らせだ! もうすぐ大会が始まるから参加生徒、大会関係者はイベント会場に集まってくれ! 到着した参加生徒はイベント会場入り口に集まり、案内の指示に従ってくれよ? 大会実行委員、生徒会の生徒は会場内の控え室Aに集合だ! もう一度繰り返す!』
立っていたティールが素早くスピーカーの音量を下げてくれたお陰で、ダメージは最小に留まった。ここのスピーカーいじるの忘れていた。初期設定のままだと、リュウ君の声によって、私達の耳が死んでしまう。
「ありがと、ティール」
「忘れてた。あいつだったな、司会進行」
「ぼくもいじるのすっかり忘れてたよ。間に合ってよかった」
さてさて、私達も準備しますかね。



~あとがき~
大会(導入)が終わりませんね。

次回、今度こそ、開会宣言を! お願いします!!

分かってるんですよ。茶番をなくせば、その分早く進むってのは……分かっているんです。でも、駄目なんです……楽しくて……この、無駄な会話が……楽しくてだな……っ!!

ラルが生徒会長になった経緯を少しだけ明かしました。ここでの生徒会のシステムについてちろっとお話ししますと……
生徒会に入るためには、選挙に参加する必要があります。で、そこで当選すると、一役員として迎えられます。例外として、ツバサちゃんがそうでしたが、会長自ら、スカウトした場合です。そうなると、選挙をパスして、役員として登録されます。まあ、滅多にありませんけど。ラルもツバサちゃん採用に関しては慎重になっていたのは、お話の中で出てきた気がするので省略します。
役職は一役員から指名制で決められます。そして、お披露目をして、よろしく! みたいな。まあ、選挙をパスする人がほぼなので、元から支持のある人ばかりなんですけどね。ティールやフォースはその口です。面倒臭がりのフォースが参加した理由は、ラルにお願いされたってのがあります。頼む。味方は多い方がいい! とかなんとか。
そんなラルは、入学早々、前会長に気に入られ、春から興味のない生徒会に出入りするようになって、選挙に立候補させられ、気がついたら会長にって感じです。流されてます。彼女らしくもなく、流れに流されました。理由は……一応、今回の話で語りましたね。苦手な相手だった、この一言に尽きます。前会長の話は……いつか機会があれば……うん。なさそうですけど、いつかね。

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第63話

~attention~
『空と海』のキャラが学パロなif世界で面白く過ごす物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバックで!
前回、長かった射的の話が終わりました。
今回で探索編は終わりかなーと思います。思いたいですね。
アラシ「願望が入ったな」
ステラ「探索が終わっても、次から大会が始まるとは言ってないんですよね~」
アラシ「あ、確かにそうだな」
そんなところに気づくとはお主も悪よのぉ……
アラシ「ステラが心底嫌そうな顔してるぞ」
ひえ……


《A side》
思った以上に色々あった射的屋から離れ、流れで、イツキ先輩達とも一緒に行動していると、各地に設置しているスピーカーから音声が流れ始めた。
『放送部からのお知らせだ! もうすぐ大会が始まるから参加生徒、大会関係者はイベント会場に集まってくれ! 到着した参加生徒はイベント会場入り口に集まり、案内の指示に従ってくれよ? 大会実行委員、生徒会の生徒は会場内の控え室Aに集合だ! もう一度繰り返す!』
聞こえてきた声は随分とテンションが高い。大会が始まる合図なので、ある程度はいいとしても、これ、始まったらさらに上げていくのだろうか。
「大会開始まで約一時間前ってところですかね。予定通りです」
あ、そうなんだ……ついでだ。これも聞いちゃえ。
「ユーリ先輩、この放送主って、昼の人っすか?」
昼の時間になると、放送部の活動の一つらしい、ラジオのようなもの週に何回か流れるのだ。内容は面白いのだが、何分、かなりの音量で話しているらしく、教室で音量を最小で聞いていても、よく通る声である。それはそれで、才能の一つなんだろうけど。
「はい。放送部部長のリュウさんですね。会長曰く、厄介者だそうです」
「厄介?」
「なんでも、よく放送機材を故障させるんだって。それで、会長様が放送部にお呼ばれして、機材を直しに行くの。余程のことがない限り、新しいのは買わせないって。高いから」
なるほど。ラルからすると、厄介の何者でもないってことか。
にしても、なんでもできるな、ラルのやつ……
「俺達も会場向かうか~」
「そうだな。時間内ならいつ行っても一緒だろうけど。……リリアやツバサさんはお仕事がありますし、会長から何かあるかもしれません」
……ん? その口ぶりだと、ユーリ先輩も大会参加する方?
「はい。当たった際はお手柔らかにお願いします」
うわあ……どうなるんだろ。
観客側のステラとリーフとはここでお別れである。一般客の入場はまだ先だから、二人はもう少し時間を潰す必要があるのだ。
「アラシさん、頑張ってくださいね! イツキ先輩とユーリ先輩も! 私達、席から応援してます♪」
「ツバサと、リリアーナ先輩はお仕事、頑張ってください♪」
後輩二人からの労い受け、俺達は会場へと向かった。ここで先輩達と別れる理由はないため、一緒に行くことにした。先頭を歩くのはイツキ先輩とユーリ先輩で、その後ろに俺とツバサ、そしてリリアーナ先輩だ。
「大会中の警備班、どんな組み合わせだと思う?」
「そんなの普段通りじゃない? あ、イツキと僕が抜けて、他にも二年生は何人かいないか。……代わりは誰だろ。とりあえず、隊のトップは副会長かな。フォースさんは生徒が出してる店の方をまとめてた気がする。お金関係で」
「んでもって、ラル先輩は全体の総括しないとだもんな。俺ら抜きってさ、各隊のリーダーはどうなんの? 入学式のときは俺達でやってなかった?」
「やったけど、大体三年生はでしょ。でも、今回は三年生、大会参加率高いからな。えぇ……と、今回のリーダー誰だったかなぁ」
生徒会って何してるんだろうって思っていたけど、そんなことやってるんだな。
「うん。全体の指揮は会長様のお仕事で、各班のトップに指示を出すの。で、そのトップから各部隊のリーダーさんに指示が飛んで、隊員が動く! いつも大きな行事だとこんな感じかな?」
へえ……組織化されてんだな。
「入学式とかはそこまでの人員を動かさないけど、剣技大会や文化祭とか、規模が大きくなると大変みたい。でも、会長様はいっつもスマートにお仕事をなさるのっ! かっこいいんだよ~!」
……リリアーナ先輩も、ツバサまでとはいかないものの、ラルが好きなんだな。いや、ツバサの好きとはベクトルが違うかもしれないけど。
熱弁するリリアーナ先輩にツバサは何度も頷き、先輩の言葉に同意した。
「ラルさん、とってもかっこいいです!」
「ねー!!」
そのうち、この二人で何かするんじゃないかな。ラルを崇める会とか褒めちぎる会とか、そんなのを立ち上げそう。
なんて下らない話をしていると、あっという間に会場までたどり着いた。教師達の誘導で、続々と参加者をさばいていく。ここで、ツバサとリリアーナ先輩とはお別れだ。二人は生徒会関係者の部屋へと向かい、俺とイツキ先輩、ユーリ先輩は参加者の集まるホールでブロック決めをしなくてはならない。
「じゃあね、いっちゃん、ゆっちゃん。予選落ちなんてしたら、あれだよ! いっちゃんは耳引っ張って、ゆっちゃんは尻尾を引っ張るから!」
リリアーナ先輩からの激励に二人の顔は青ざめる。そして、イツキ先輩は両手で耳を押さえて、ユーリ先輩は困り顔だ。
「幼馴染みがこわぁい……」
「言うようになったね、リリア」
「私は二人を信じてるんだよ?」
「いや、それなら、頑張っての一言で十分だけどね?」
「それだけじゃ、ゆっちゃん、手抜きするから」
「俺はユーリの巻き添えかよ!?」
「抜かないよ。……少なくとも、予選上がるまでは。僕の目標、そこだもん」
思ったより、低い目標……なんて、思ったけど、参加人数がかなりいるみたいだし、勝ち上がるだけでも相当大変だろう。ある意味、少し低めのハードルを設けて、努力した方が達成感があっていいかもしれない。
「アラシも頑張ってね! その、あーちゃんのこともあるけど……頑張って!」
あ、はい……うん、アリアなぁ……

俺は参加者の待合室として、かなり大きめのホールへと通された。どうやら、人数の関係でいくつかの待合室が用意されているらしく、俺と先輩達は別の部屋へと通された。そりゃ、何百人が一か所に集められて、さらにくじを引くなんて、時間がかかる。分けて行うのが普通だ。
「ん? あれ、ミユルとシエルも参加すんのか?」
俺と、ここに入ってすぐに見つけたレオンとアリアとで待合室の端に固まっていると、見知った顔がこちらに近寄ってくるのが見えた。
ミユルはにこりと笑って答えた。
「セラおばさんの講習会に行きたくて。講習会なら、優勝しなくても参加資格貰えるかもだし。シルも私と同じ理由よ♪」
「へ~……俺やレオンは賞品に興味ないんだけど、そういう人が多いんだろうな」
「ま、二人はそうだろうね。……で、そのレオンは大丈夫なの?」
シエルの視線の先に、壁に全体重を預けてぐでっとしているレオンがいた。俺がアリアとレオンと合流したときからこんな感じである。気絶はしていないから、会話は可能だけど、極力話したくないようで、俺に状況説明をした後は、ずっとこの調子だ。ちなみに、アリアは興奮気味で落ち着かない様子である。
「なんか、ここに来るまでに首根っこ掴まれたまま引きずられたんだとさ。周りがくじを引き始めたら、勝手に復活するって」
そこから数分後、教師からのアナウンスが入り、参加者によるブロック決めが始まった。そして、予想通り、ぐでっとしていたレオンが跳ね起きる。近くに立っていたシエルが驚いたのか、びくっと体を震わせた。
「っしゃ! どうせなら、皆で確認しようぜ! いっせーのーせっ感じで!」
「それはいいけれど、どうして?」
ミユルが不思議そうに質問をした。俺が考えるに、大した理由なんて存在しない。聞いたところで呆れるだけだ。
案の定、レオンはけらけらとおかしそうに笑って、一言。
「んなの決まってるだろ? そっちの方が面白そうだから、だよ!」
ほらな。心底、どうでもいい理由だった。
俺達が全員、一枚ずつくじを手に持ったのを確認したレオンはニヤニヤ顔のまま、合図で紙を開くように促した。俺が持っているくじを見てみると、それは四つ折りになった簡素なものだった。これを実行委員達が一から作ったのかと思うと、彼らの苦労も途方もない。……もしかしたら、使いまわししている可能性もあるけどな。
「せーのっで見えるように開けるぞ~?」
「予選は四ブロックで行われるってことは、僕達は五人だから、最低でも一組は被るね」
「ふふ……タダ券……♪ ご飯……!」
「気合い入っているわね、アリアちゃん♪」
「タダ券……!」
出てくる言葉は「タダ券」か「ご飯」のほぼ二択だが、ミユルの言葉に頷いている辺り、話は聞こえているらしい。やれやれ。それなら、もっと違う言葉も話してくれたっていいだろうに。……無理か。
「せー……のっ!!」
レオンの掛け声で俺達は一斉にくじを開いて、お互いに見せ合った。皆の反応はそれぞれだが、俺は叫ばずにはいられなかった。
レオンはAブロック。アリアはBブロック。ミユルはCブロック。シエルはDブロックだ。
そして、俺の手の中にあるくじは大きく大文字の『B』の記述。それが意味するものは、俺の割り当てがBブロックだということ。俺とアリアが被ったということ。
これが頭を抱えない理由がないだろ。
「なぁぁんで、俺なんだよぉぉ!!??」
「ゆう~しょうっ♪」
タダ券とご飯以外も話せるじゃん! いや、そうじゃねぇ!!
「にゃはは~♪ 頑張れ、アラシ~♪」
くっそ! むかつく笑顔しやがって!! こういうのはお前の担当だろう!?
「担当なんて初耳だけど!? いや、俺はあれだ。さっきの屋台巡りに行ったから。それでほら、免除だよ。免除」
一生、レオンがアリアの相手してくれよ……
「地獄だな~……無理~」
くっ……決まったものは仕方がないとはいえ、俺が何をしたと言うんだ。



~あとがき~
探索編終わった……勝手に探索編とか呼んでるけど、終わった……

次回、大会(予選)スタート! の前に、生徒会の話をちらりとしますね。まあ、流れでスタートできるでしょう。

大会始まるまで約十話程かかってますね。長いね。
ここから予選が終わるまで、どれだけかかるのやら……十話でおさま……らないか。うん……

全くのノープランでしたが、アラシ君が生徒会二年組とお話しするシーンが書けて満足です。今後、何かあるかもしれないし、交流を広げておけ、アラシ君!!←え

ではでは!

空と海 第226話

~前回までのあらすじ~
フォースがポチャに活を入れました。
多分、ピカとポチャのほのぼの回も終わります。
ちなみに、今回の話からは夏祭り編終わった後に書いてる奴です。だからなんだって話ではありますが。
フォース「久し振りに本編にも余裕が出てきたな。これ出すときは知らんけど」
ポチャ「シリアスから脱したからだね」
そうっすね……シリアスよりも断然ギャグテイストの方が好きです~♪
今回がそうなるとは限らないけどな!
ポチャ「……えっ!?」
フォース「www」


基地に戻ると、さっきまで五人もいた空間に二人だけになったからか、少しの寂しさを感じた。ここ最近、この基地に大人数で寝泊まりしていたせいもあるのだろう。なんだか、二人きりが新鮮に思えた。……いや、実際には先週、二人で仕事三昧だったんだけども。二人りきではあったけれど! そうじゃなくて、我が家に二人が随分、久しく思えた。
……ぼくは誰に言い訳をしているんだろう。
「まだ日が沈まないから、明かりいらないね~♪」
「そうだね。もう夕方のはずだけど、まだ明るいや」
「暑いのは嫌だけど、寒いよりはまし」
散らばった書類をかき集めながら、天気に文句を言っている。それを言うなら、ぼくは真逆の方がありがたいんだけれど、この話については堂々巡りになる可能性が大だから、話題に上げないのが得策だ。現にこの前もそうだったし。
ぼくはいつもの定位置に座り、ただなんとなく、ピカを目で追っていた。頭ではフォースと交わした会話が巡っている。
ぼくとピカは探検隊としてのパートナー歴、それに伴って友達、親友歴の方が長くて、今更、恋人になりましたなんて実感がない。一年以上はピカを友達ではなく、女性として意識していたはずだけれど、だからって何かが変わったわけじゃない。
ぼくは、何が望みなんだろう。今と、昔、何が違うんだ……?
「ポチャ、どうかした? あ、夏バテか。早いなぁ!?」
考え事をしていたら、ピカが不思議に思ったようで、呆れたような目でこちらを見ていた。ぼくは慌てて、首を振る。
「ちがっ……別にバテるほど、動いてないし、水分補給だってやってるよ」
「そう? ならいいけど。倒れるくらい我慢なんてしないでよね~」
「う、うん……」
この前の散策をデートだって言う割に、ピカ自身はぼくを意識しているようには見えない。いつも通りのピカ。探検隊スカイのリーダーであり、ぼくの大切な相棒で、親友のピカだ。それ以外が見えてこない。
「あのさ、ピカ」
「ん~?」
ある程度、片付けが終わったピカは、書類をまとめて保管している大きな宝箱のような木箱に手をかけているところだった。こちらは振り返らずに返事だけが返ってくる。そして、ぼくはこの先の言葉が出てこなくて、黙ってしまった。
箱を閉める重い音が響いた後、ピカがこちらを振り返り、ぼくの真正面に座る。そして、彼女はこくっと小さく首を傾げた。
「ポチャ?」
「あ……と、その」
言葉に詰まるぼくにピカは急かさず、じっと待ってくれていた。茶化さなかったのは、ぼくの表情から察したのかもしれない。おふざけモードだったら、ここで茶々を入れているところだから。
「あの、何て言うか……ピカは将来をどう考えてますか!?」
頭がぐちゃぐちゃで、やっと出た言葉は意味の分からないものだった。親じゃないんだから、何かもっと言い回しがあるだろうに。なんだ、これ!?
「あ、えーっと……最近、そこら辺気にしてるよね。ぼくがパートナーでよかったか、とかさ」
「ちょっとね……」
パートナーうんぬんは自信喪失して思わず聞いてしまっただけだ。時々、そんな不安を覚えてしまう、ぼくの弱さが嫌にはなるんだけれど。……いや、今聞きたいのは、そんな話ではないのは分かる。
ピカは少し考えながら、首に巻いてあったスカーフを外した。
「繰り返しになるけどさ、私はポチャ以外のパートナーなんていないって思ってる。だから、ポチャ以外の人とコンビで探検隊はやらないよ。それを踏まえて、さっきの質問に答えると、将来もずっと、ポチャと探検していきたいかな。いけるとこまで、二人で」
「ピカ……」
「仕事は嫌いだけど、探検は嫌いじゃないんだよ。だから、何を不安に思っているのか分からないけど、これからも私の相棒してくれると嬉しいかな。……あ、もちろん、ポチャが探検隊はいいやってなる日が来たら、それはそれでとめない。ただ、そのときはちゃんと言ってね?」
嘘偽りのない笑顔を浮かべ、今の気持ちを伝えてくれた。
真っ直ぐな、普段見えてこない心の奥の気持ち。
「ぼくも、そう思う。ずっと、ピカと探検隊やっていきたい。……だから、ぼくが探検隊いいやなんて言わないよ? 言い出しっぺはぼく自身だ。言い出しません!」
「あははっ! 確かに! でも、過去に一回あったからなぁ……?」
ぐっ……!? あ、あれは……!
ぼくが何か反論する前に、ピカはおかしそうに笑った。
「ごめんて。あれはポチャが探検隊を嫌いになって言い出したわけじゃないのは分かってる。……それは置いておいて、ポチャは王子様なわけだし、何かあれば国に帰らなくっちゃ」
「ま、まあ……そうだけど、でも、ぼくは何かあっても絶対にここへ帰ってくる。君を置いて、どこかになんていかないよ」
「うん。ポチャはそういう人だもんね。分かってるよ」
……あれ、なんでこんな話に……? ぼくが聞きたかったのはこれじゃない、よな? えっと、そうだ。結婚の……はな、し、だよね。フォースが確かめろって言っていたのはそれだったはず。けど、もう話の修正なんて出来ない。かと言って、直球に聞ける程、肝も据わっていない。今回は諦めようかな。
「……あ、そういうことか?」
ぽつりとピカが呟いた。そして、彼女にしては珍しく、顔を赤くして、ぼくから目を逸らした。ぼくは意味が分からず、戸惑いつつ、問いかけた。
「え、と、ピカ?」
「隣、行っても……いい、ですか……?」
「う、ん。いいけど」
ぼくとは目を合わせず、すとんとぼくの隣に座る。ピカの顔を見ようとしても、そっぽ向かれてしまい、どんな表情なのかが分からない。
「さっきのは、私の……ピカとしての思い」
「探検隊続けるってやつ?」
ピカは黙って頷く。
「探検隊の私……一部隊を率いる、リーダーの思いであり、そうでありたいっていう願い。……でも、一人の女の子っていうか、その、ラルとしては、違う」
「違う……?」
ここで、ピカがこちらを見た。顔を真っ赤にして、いっぱいいっぱいの彼女は初めて見るかもしれない。
「私は、ティールとずっと一緒にいたいって……添い遂げるって夢くらいはある」
「…………えっ」
今度はぼくが赤面する番だった。
「今は、まだ早いと思うけど、将来的には……五年とかもっと後になって、そういう話があるなら……考えなくはないって話!」
「ぷ、ろ……ぽーず? ですか、ラル、さん」
「ち、違う! 私からはしない!!」
しないんだ……
「しないよ。だって、確約出来ないから。私はふらふらしてる自覚あるもん。もしかしたら、明日、パッといなくなるかもしれない。だから、私からお願いなんてしない。……ティールにそんな私を受け入れる覚悟が出来たんなら……そのとき、私がティールの隣にいられるのなら。一生、家族として傍にいます! 以上!」
一気に捲し立てると、再び、ぷいっとそっぽ向いた。そんな反応がありがたかった。今のぼくも、ピカに負けないくらい真っ赤になっていると思うから。でも、それじゃあ……いつものぼくだ。
何度か深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。まだ顔が熱い気もするけれど、これは夏だから仕方がないと無理矢理思い込むことにした。
「つまり、ラルはぼくと、けっこ……」
「今は言わないで。めっちゃ恥ずかしい」
「……分かった。じゃあ、こっち、見てくれる?」
少しの沈黙の後、ピカがゆっくりとこちらを振り向いた。俯いたままではあるけれど、なんとか様子を窺えそうだ。
「ラル」
ティール……んっ」
名前を呼び、顔を上げたところで、そっとキスをした。軽く触れるだけのそれはすぐに終わって、代わりにピカを後ろへと優しく押し倒した。
「わっ……!」
「今ある問題を全部片付けて、安心出来るようになったら。……ぼくがラルといられるようになったときは……約束する。ちゃんとお願いするから、覚悟しててよ」
ぼくの下でピカがぽかんとしていた。普段のぼくじゃやらないから、びっくりさせてしまったのかもしれない。
「なんか……ティールがティールじゃない、みたい」
「こんなぼくは嫌い?」
「ううん。だぁいすき。……ね、ぎゅってしていい?」
「へっ!? わっ、ちょっ!?」
ピカの両手が伸びてきて、ぼくを抱き寄せた。耐えきれなくて、ピカの上に崩れ落ちる。退きたくても、ピカが離してくれなくて、がっちり密着してしまっていた。これは予想外で、ぼくの頭はプチパニックだ。
「わ、ラル、なんっ!?」
ティールのそのお願いを受け入れられるように、私、頑張るね。よろしくお願いしますって言えるように」
「ぼ、ぼくも、自分で納得できるように強くなる。……それまで、待っててね。今度は前みたいに待たせないよ」
ピカの手が緩むと、ぼくは四つん這いになって、ピカの上に被さるような体勢になった。ぼくの下でピカはふわりと笑う。
「うん。……ティール、大好きだよ」
「ぼくもだよ、ラル。愛してる」
どちらかともなく、もう一度キスを交わす。長くも短い時間を共有して、二人で甘い時間を過ごした。



~あとがき~
このあとはご想像にお任せって奴です。

次回、オーシャンの二人+フォースの話。
ピカとポチャをピックアップしたんでね!

こういう恋愛的なお話はしばらくありません。最後ですとまでは言わないけど、そう言っても間違いないくらいには予定がないです。
というか、久し振りでしたね。フォースと鈴流以来ですかね……?
そもそも、恋愛絡みのきゃっきゃっした話なんて、フォース&鈴流か、ピカ&ポチャにしか書けないんですけど、鈴流はもういないし、ピカとポチャはお互いにやる気がないんで……必然的に機会もない。私自身、こういうのは書き慣れてないので、単調な表現ばかりで申し訳ないですけどね~

今回でかなり進展というか、ポチャ君はかなりジャンプした気がします。そんなに飛んでいいのかってくらいです。ピカはピカで一途なので、問題ないと思いますが。
さて、二人は無事にゴールインするんですかね……(遠い目)

ではでは!