satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

学びや!レイディアント学園 第78話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で学園生活を謳歌する話です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ツバサちゃんの魔法すごい! って感じでした。それくらいっすね。
今回からは一時休戦……というか、お休みして、ご飯ですよ。お昼休憩! 飛ばせよって?? 飛ばさない時点で察して!!←
そろそろ、ラル視点以外もやりたいです。(願望)


《L side》
ツバサちゃんのお陰で、救護室の地獄絵図から解放され、ようやく静けさを取り戻した。ここで人がいなくなることはないが、それぞれが交代で昼休みを取ってもらう……そんなシフトになっているはずだ。とはいえ、状況整理は必要なので、一部のリーダー達を集めた打ち合わせをしなければならない。
私は包帯や薬等の整理中のリリちゃんの肩をそっと叩いた。
「リリちゃん、お昼前にいいかな」
「はい! 軽い打ち合わせですね~♪ 無線を聞く限り、変なことはなかったみたいですし、落ち着いてますね。今年の大会」
「開会式の理事長のお言葉の賜物でしょ」
「やっぱり、あれなんでしょーか」
だろう。多分。少なくとも、ドキッとした人はいただろうな。
「ここも落ち着いてきたし……僕はそろそろお義父さんのところへ戻ります」
結局、ポーション作りだけでなく、救護室の片付けまで手伝ってくれていたアルフォースさんが口を開いた。そんなアルフォースさんに向かって、私はペコッと頭を下げた。
「アルフォースさん。お客様なのに、こんなどたばたに巻き込んでしまって申し訳ありませんでした! 代表して、謝ります」
「いえいえ! そんな! 僕なんかが力になれたなら、よかったです。ラルさんにはツバサがお世話になってますし、そのお礼になればと」
そんなことは……! って、これ、終わらないやつか。私が引き下がろう……貴重な時間を奪うのは忍びない。
「本当にありがとうございました。……イグさんに連絡するのでもう少し待っててくださいね」
「はい。ありがとうございます♪ ツバサもこのあとのお仕事、頑張るんだよ? でも、魔力の使いすぎには注意してね」
「はーい! お父さん!」
私がイグさんに連絡している間、ツバサちゃんとアルフォースさんは少しの親子の時間を過ごしていた。そして、数分後、昼休憩中で暇してたのか、イグさんは思ったよりも早くにすぐに救護室へ顔を出した。
「よっ♪ 怪我人の治療お疲れさん」
「ほんとですよ。裏切り者めー」
軽く頬を膨らませ、どこからどう見ても不機嫌な女の子を演じる。悪ふざけなのを悟っていると思うが、イグさんは苦笑した。
「そんな顔するなよ。ラルと違って、俺がここにいたって手伝えないしな~? それに、他に仕事もあったんだって」
知ってて言ってるんだよ、オニーチャン?
「お前なぁ……つーか、全体の統括が仕事だろ? これも仕事の内なんじゃないか、生徒会長さん」
知ってて言ってるんだよ!
「あー……分かった。後で労ってやるって。……おじさんも手伝ってくれてありがとうございました」
「微力ながら、ね。それでは、ラルさん。僕はもう行きますね。これからもツバサをよろしくお願いします」
「もちろんです。こちらこそ、これからも仲良くさせてもらいますね」
「ぜひ、そうしてやってください。……そうだ。夏休み辺り、うちのギルドにも遊びに来てくださいね。きっと、いい刺激になりますから」
うちのギルドにも……?
どこか確信めいたような口振りに私は首を傾げる。いつか遊びにというよりは、すでに私がアルさん達のギルド方面へ行くと決まっているような、そんな口振りだ。今のところ、そんな予定はないし、そもそも『明けの明星』がどこにあるかなど、明確には知らない。それなのに、どうしてアルフォースさんはそんなことを言ったのだろう。
「ごめんなさい。あなたの能力の話はツバサから聞いていまして」
うん? 『時空の叫び』のことか。しかし、それとアルフォースさんの態度と何が……
アルフォースさんはイグさんの横を離れ、私に近づく。そして、私にしか聞こえない程度の音量でそっとささやいた。
「実は僕も……ラルさんと似たような能力を持っているんです。……『夢』という条件下のみで発動するですけどね」
「……!」
驚きを隠せず、アルフォースさんの顔をまじまじと見つめる。しかし、彼は微笑みかけるのみで、それ以上を語らなかった。リアさんに挨拶をし、ツバサちゃんに手を振って、そのまま出ていってしまった。
「……会長様?」
「ラルさん、どうかしましたか?」
「あ、いや……なんでも……」
私と似たような能力……何らかを見通す……夢を見る? そんな能力、なんだろうか。条件下が夢。それを根底に考えてみるならば……
「あ、ここにいた! ラル! 打ち合わせ開始時間、過ぎてるよ」
「……どうした? ぼけっとして」
ティール……フォース君も」
アルフォースさん達と入れ違いに入ってきたのは、時間になっても来ない私を探しに来たらしい、ティールとフォース君だった。思考をぷつりと切られたせいか、上手く切り替えができていないらしい。曖昧な返事をする私にティールは首を傾げる。
「ラル? 大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫。救護班が忙しそうだったから手伝ってた。ごめん。今、行くよ。……ツバサちゃんはどうする? あ、アラシ君達のところに先に送ろうか?」
ツバサちゃんがお昼はアラシ君達、昔からの友達と食べる約束をしていると聞いていたので、ここで拘束するのは申し訳ないと思ったのだ。しかし、ツバサちゃんはにこっと愛らしい笑顔を向けてきた。
「いえ! 控え室は生徒会の使っている部屋の先にありますし、打ち合わせ終わってからで大丈夫です」
「ごめんね。じゃあ、ついてきてもらっていいかな?」
「はいっ! ラルさん!」
「リリちゃんも。……リアさん、お二人借りていきますね」
「ええ♪ 私も交代してくれる生徒が来たら、このあと休憩だけれどね。行ってらっしゃい、二人とも」
まだ少し残るらしいリアさんに見送られ、私達は救護室を後にした。

簡単な打ち合わせの後、今後の方針─とはいえ、午前とほぼ変わらないが─の確認、予選落ちした生徒会メンバーの割り振り等を各班のリーダーに伝え、解散となった。リリちゃんもユーリ君やキーくんと約束があるらしく、ぴゅーっと飛んでいってしまった。
「ラル、ツバサのあれ、どういうこと?」
ティールの言う「あれ」とは、ツバサちゃんの衣装のことだろう。フォース君は開会式のときに一度見ているが、ティールはここでお初である。
そんな会話をしている私とティール、フォース君は、打ち合わせが終わった後、ツバサちゃんのお着替え待ち中だった。ツバサちゃんは、打ち合わせ前に着替えてきます! と言って、そのまま帰ってきていない。打ち合わせ自体、大して時間をかけていないので、特に何かあった訳でもないだろう。
ということで、他愛ない話を続けていこう。
「え、可愛いでしょ。可愛いは正義でしょ。そういうことだよ」
「どういうことだよ」
「やめろ。不毛な会話だ。似たようなことおれも言った」
「あぁ……開会式中のあの連絡って、そういうこと?」
「そういうことだ」
男子二人には分からないかなぁ……? ツバサちゃんの天使級の可愛さ!
「だからって、あんな服着せなくってもいいよね。暇なの? ラル」
「暇じゃないけど、ツバサちゃんのためなら、何だってできるよぉ?」
「こっわ。新手のストーカーじゃね?」
節度はわきまえてます。大丈夫です。
可愛い女の子を、更に可愛くする行為の何がいけないのだろう。本人もノリノリだし、問題ないと思うのだけれど。
「別に私はツバサちゃんと特別仲良くやりたいと思ってやってる訳じゃないからね。可愛いから! それだけだよ。理由としては。仲良くなるのは、二の次的な? そんな感じ?」
「それが怖いっつってんの! あのモフモフファンクラブ? とかとそう変わらねぇって」
「せめてもの救いはツバサ本人にちゃんと許可取ってるってことだけだよね。それもツバサの優しさというか……気を使ってるとかだと、アウトだけど」
「あー……それはねぇな。ツバサのやつ、本心だから。ラルに撫でられんのも、ブラッシングされんのも、全部、喜んでやってもらってる」
心が読めるフォース君が言うんだから間違いないよね。えへへ。愛の勝利だね!
「ほんっとうにわきまえて欲しいんだけど。君、ここでは生徒会の会長で、外では探検隊のリーダーなんだよ? ぼくらのリーダー!」
びしっと指を指して、念を押してきた。ティールと一緒に過ごして、生徒会に入ってから、何度、似たような台詞、同じ台詞を聞いたんだろう。
「学園内では単なる生徒ですので~♪」
「生徒会長だって言ってるだろ。ぼくは!」
「なぁんでこんなやつがトップ張ってるんだか」
「私が望んでこの地位にいる訳じゃない。前会長に言え。むしろ、私が聞きたいわ。あの人から」
とっくに卒業してしまった前会長。あの人はあの人で物好きな人ではあったと思う。今思い返しても、振り回された記憶しかない。……なんだろう。私の過去は思い返したくもない思い出ばかりだ。悲しいくらいに。
あの人との過去を振り返ると、色んな意味で涙が出てきそうなので、無理矢理、記憶に蓋をする。そして、強引に締め括った。
「とにかく。ツバサちゃんは可愛いから、もっと可愛くあるべきなの! 以上!」
「あれ? そんな話だったっけ?」
「いや? 違うと思うがな。……んでも、いつも通りじゃん。さっきはぼーっとしてたくせに」
「あれは考え事してたんだよ。大したことじゃないんだけど……」
フォース君なら何か知っているかもと思い、話を続けようかとした矢先、部屋の扉を開ける音で中断される。三人とも音に釣られて、そちらを振り返ったのだ。
そこには水色のエプロンドレス……ではなく、魔術科女子制服姿のツバサちゃんだった。
「お待たせしました♪」
「よし。じゃあ、行きますか~♪ アラシ君達のところ!」
「はい♪」
私達三人は椅子から立ち上がり、出入口へと向かう。今、アルフォースさんのあの言葉の真意を考えて、答えを出したところで、何かになるわけではない。それに、この大会の対応に追われてしまえば、きっと、すぐに忘れるだろう。
「あ、そういえば。ツバサのパフォーマンス、凄かったね。上から見てたけど」
今、思い出したようで、ティールが突然話し始めた。それでもツバサちゃんは何の話なのか理解しているため、しっかりと受け答えする。
「ありがとうございます! あ、ちゃんと届きましたか?」
「うん。氷の花だよね。ぼくのとこまで来るとは思わなかったけど」
「えへへ。ステラちゃんとリーフちゃんのところ最優先だったので……できればって感じでした」
「そっか。それでも、嬉しかったよ」
ステラちゃんとリーフちゃんも、会場で見学するという話だったから、ツバサちゃんのショーも間近で楽しめたはずだ。そんな二人のためにプレゼントしたいという、ツバサちゃんの思いはきっとステラちゃん達にも届いているだろう。
「そのティールが貰ったっていう花は溶けちゃわないの?」
「あーちゃんの魔法でできてますから……常温でも一週間くらいは……多分、大丈夫かと」
わお。魔法って怖いわ。
「……にしては、手元にないけどな。花」
そういえば、そうだな。
ティールが貰ったらしい花は、彼の制服のポケットにあるわけでも、手元にあるわけでもない。誰かにあげてしまったのだろうか。
「ん~……セツがね」
言いづらそうにして出てきた名前は、ティールの愛剣、セツちゃんこと、雪花だ。氷を司る聖剣でティールを主として慕っている。このセツちゃんと水の聖剣、スイちゃんは何というか、やんちゃなのだ。剣にやんちゃっていうのもおかしな話なのだけれど。
「セツちゃんか。盗られた?」
「あー……まあ、そんな感じ。『きれー! てぃー、ちょーだい!!』 とかなんとか言って、吸い盗りました」
冷気、氷なら意のままに操るセツちゃんらしい。きっと、彼女に言えば、ぽいっと出してくれそうではあるけれど、多分、一生返ってこない。
「固形物のあれを持っていかれるとは、思わなかったよ。きっと、氷の花が発している冷気を一気に吸収したんだろうけど。まあ、セツの中……というか、セツの一部になったんなら、一生残ると思うから、それはそれでありなのかなって」
セツちゃんを知らないツバサちゃんは終始不思議そうにしていたけれど、きっと、ティールが教える気がないので、私も黙っておく。勝手に話しでもすれば、ティールに何をされるか分かったものではないからだ。
「おっと。そんなこんなでつきましたな。控え室」
「あ、そうですね♪ ありがとうございます。ここまで送ってくれて」
「ううん。せっかくだし、皆に一言言っておこっか。特に何も考えてないけど!」
「無計画な奴だ」
「ラルだからね……」
止めもしない男子二人は放置で、私は目の前のノックもせず、ゆっくりと扉を開けた。そして、開けきらないうちにすぐに閉めた。勢いよく。
この控え室にはトーナメントへ駒を進めた八人が共同で使っている部屋。もちろん、今は昼休み中だから、全員いるわけではないが、少なくとも、ツバサちゃんを待つ、アラシ君達は全員いた。
部屋のレイアウトは簡素なもので、試合を中継するためのモニターと机と椅子あった。簡単な軽食と飲み物が常備されているだけで、単純に選手達が出番を待つための部屋。……それのはずなのだけれど。
……一瞬見えた、あの大量の食べ物はなんだったんだ?



~あとがき~
途中、ごちゃっとしているのは、適当につらつら書いたせいです。

次回、ツバサちゃんを送り届けたラルが見たものとは……?
いやもう、予想つくわ!!

アルフォースさんの言う能力やら、彼の言葉とか、色々ありますけれど、これだけ言いたい!
ラルとティール、フォース三人のくっそ下らない会話! 久し振りですね!! どうでもいい話しかしませんね!!
三人でっていうと、開会式始まる前の屋台飯の話が最後でしたね。いやぁ……久しぶり。
それだけ。以上。

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第77話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で色んなことに巻き込まれる話です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、魔術科でもないのにポーション作りしているラルさんや、地獄絵図な救護室を助けるためにツバサちゃんが新たな魔法を作ってきました。今回はそんな魔法の披露からです。……この一方その頃で三話目になるとは思ってなかった。


《L side》
ツバサちゃんが作ってきたという魔法を発動するため、救護班員全員でその準備に取り掛かる。その指示をするのは先生であるリアさん……ではなく、魔法をかけるツバサちゃん本人だ。
「まず、今できているポーションを円形に並べてもらってもいいですか? そして、氷漬けの人達はその外側に円になるようにぐるっと……」
という、十二歳とは思えないしっかりとした指示の下、年上の高校生達は真面目にツバサちゃんの言う通り動いている。私が手伝う必要はなさそうなので、部屋の隅に放置していた上着とカバンを回収し、そのまま端でじっとしていた。
「ラルさん、大丈夫ですか?」
「……へぁ? あ、あぁ……大丈夫です?」
何をどう捉えたのか分からないが、アルフォースさんが話しかけてきた。
「なんか、ずっと難しい顔しているので。ラルさんが魔法式に疎いのはツバサから聞いています。今、ツバサがしているのもあんまり分からない……ですよね?」
「……そうですね。何なのか予測はできても、可能性の一つとしか考えられない。理解できないです。どうしても」
まあ、魔法式に限りませんけどね。魔法全般苦手なんで。
……とは言わず。にこっと笑って誤魔化した。
「そういえば、以前はツルギの件でご迷惑をおかけしてすみません」
今から行われる魔法の話をしても、つまらないと思ったのだろうか。気を使って、完全に関係ない話を振ってくれた。そもそも私とアルフォースさんの共通点なんて、双子の話くらいだ。
「迷惑なんて。学園内のトラブルを解決するのは生徒会の仕事で、ツルギ君のだってその一環です。それに、ツルギ君のあれなんて可愛い方ですよ」
生徒会室に殴り込みとか、生徒同士のいざこざとか、それに比べれば、ツルギ君の落書きなんて笑って許せるレベルだ。いやまあ、周囲の迷惑を考えてしまうと笑えないけど。トラブルなんて周りに迷惑をかけない方があり得ないのだから、そこはまあ、目を瞑っていただこう。
「今でもたまに、ツルギ君の話はツバサちゃんから聞きますけれど、その後は大丈夫ですか?」
私が聞くのはツバサちゃんから、休日にあれした、これしたの中に「ツルギと~」みたいな感じだ。兄妹仲良しなのは伝わってくるが、ツルギ君があれ以来、私をどう思っているのはまでは分からなかった。ツバサちゃんが意図的に伝えてないのか、ツルギ君が表に出していないかの二択だが、ツルギ君の性格を考えるに、恐らく、後者だろう。
「以前よりはラルさんに嫉妬していない様子ですね。けど、完全に対象外……というわけでもないようで、今度また、ラルさんにご迷惑かけてしまうかもしれません」
「いいですよ。私一人に来るなら、問題ありません。……ツルギ君は妹のツバサちゃんが大好きなんですね」
「はい。本当に仲がよくって」
二人の話をしているアルフォースさんはとても優しそうに笑う。子供の成長を嬉しく思う……そんな感じか。よく、分からないけど。私がしーくんに向ける思いと似たようなものだろうか。
「これで準備できたわね♪ それじゃあ、ツバサちゃん以外は部屋の隅に移動しましょう。……ツバサちゃん、お願いね?」
私とアルフォースさんが話している間に準備が終わったらしい。救護班の人達が部屋の端へと移動をする。
部屋は極力物がどかされ、広く開けた床に大きな魔法陣が描かれていた。そして、ツバサちゃんを中心にポーションが内側、凍結状態の生徒達外側の円を作り出している。要するに、ポーションと生徒で二重の円を作っているわけだ。
「魔法陣……もう書いてあるんだ」
「あれは魔力消費を抑えるために、ツバサが予め書いたんだよ。マジックスペルって道具……ツバサが持っていた羽ペンだね」
あ、あれか。
魔法発動にも段階が存在する。まずは魔法式を組み立て、それに倣って魔法陣を作り出し、魔法が発動する。この魔法陣を作るのにも魔力消費は伴うのだ。今回の場合、術者のツバサちゃんの魔力を極力抑えたものをってお題だったから、代用の利くものはそれに置き換えているんだろう。
本来の戦いの場で、悠長にペンを使って魔法陣なんて書いている暇はないけれど、サポートや回復なんかは、時間に迫られていない限りはこうした手も使えるということか。そういえば、フォース君も似たような羽ペンを持っていた気がする。今更だが。
「はふー……これでどうにかなってほしいです~」
「ツバサちゃんの魔法は完璧だもの。大丈夫よ♪」
リリちゃんとリアさんが私達の方へ近寄ってきた。これで、部屋に展開された魔法陣の近くにはツバサちゃんと凍ってしまった生徒達しかいない。
ツバサちゃんは周りに人がいないことを確認すると、魔法陣の中央で膝立ちになり、祈るように両手を組んで目を閉じる。すると、ツバサちゃんの周りから淡い光が漏れだし、それに合わせてポーションが減っていく。ポーションの減りと共に、生徒達の氷も少しずつ溶けていった。
「……綺麗」
昔に見た、ある泉の光景が脳裏を掠める。そこは月明かりと、そこに住む妖精達が放つ光が水面に映し出されていて、夢の中にいるような不思議な感覚を味わったのを覚えている。それは何年か前の話だけれど、今、私の目の前の光景もそれと似たようなものを感じた。
「はいっ! とっても幻想的です♪」
「これは光魔法の一種だね。回復魔法も似たような光が出るけど、回復魔法じゃ、こんなに光は漏れ出ないから」
「ほへっ!? これが光魔法? 初めて見ました」
「あまり使い手がいませんからね。光魔法は」
「私も使ったことないのですよ~……今度、ツバサちゃんに教わろうかなぁ……?」
アルフォースさんの言う通り、光魔法は使い手が少ない。高度な魔法で、適正者も色で言えば、白に当たるからだ。白でなくとも光魔法は使えるらしいけれど、初歩的なものでも相当な鍛練が必要になるだろう。
ツバサちゃんの魔法が終わるのに数分かかったものの、全員の氷を溶かし終える。彼女はパッと立ち上がり、こちらを振り返る。
「ほぇ~……うん。終わりました! でも、皆さん氷漬けでしたので、体を暖めた方がいいと思います」
「そうだね。えっと……会長様、毛布ってどこにありましたっけ?」
「え?……いくつかに保管してるけど……ここから一番近い倉庫に予備の毛布あるはず。……そうだね。男子で人数分取りに行って、残った人達で飲み物とか用意してあげたらいいんじゃないかな」
「了解ですっ!」
リリちゃんは、ピシッと敬礼ポーズをしたあとに、生徒のまとめ役として、救護班の子達に指示を出し始めた。リリちゃんと入れ違いになるようにツバサちゃんがアルフォースさんの元へ駆け寄る。
「ツバサ、よく頑張ったね。偉い♪ 偉い♪」
「えへへ~♪」
「さっき、リリちゃんが光魔法使ってみたいって言ってたよ」
「そうなんですか? それじゃあ、後で初歩的な光魔法のお話ししてみますっ」
……光魔法自体が高度なんじゃなかった? まあ、いいや。魔法の難易度とかよく知らないし。
『トーナメント進出を決めたのは、魔術科二年のシエル・シルフ先輩と……同じく、魔術科二年のユーリ・ケイン先輩……ですっ!』
ずっとつけっぱなしにしてあったモニターから、Dブロック終了の合図である、勝ち残った二人の名前が聞こえてきた。どうやら、私の知る後輩達が残ったらしい。
『これで午後から始まるトーナメントに進む八名が決定! 一時間の昼休憩後に開始するトーナメントでの対戦決めはシャッフルで決定されるぜ!』
『トーナメント出場者は、お昼休憩終了前には……ええっと、シャッフル開始前に会場までお戻りくだしゃいっ!』
キャス君、ここら辺で慣れてくるかと思っていたけれど、未だに噛んでるなぁ。大丈夫かな。
『さぁ~らぁ~にぃ~? トーナメント戦では、とあるゲストが出場するらしいぜ? とまあ、詳しいことはまた後で! それでは、一時間後に! See you again! よぉし! 昼飯だー!』
『せ、先輩! スイッチ切ってから喋ってくださいよー!!』
……欲の塊か。あいつは。
しかし、ゲスト……? 誰だっけ。貰った書類に書いてあった気もするが、全く覚えていない。しかし、人選は理事長や上の人達がしているはずだし、変な人がやるなんてことはないだろう。気にする必要はないか。



~あとがき~
とりあえず……Dブロックの一方その頃が終わったので、ここで一区切りです。

次回、昼休みだー! ご飯だー!
久し振りなキャラもいるかもですね。

いつもよりは短い気がします。まあ、通常運転。……他に特筆したいこともないでふ((

ではでは!!

学びや!レイディアント学園 第76話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で好き勝手する話です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバックです!
前回はアリアちゃんの二次被害を受けてしまっている救護室を見てもらいました。今、Bブロックの子達を対応しているけれど、これ、並行してCブロックの子達(眠り状態)も手当てしてんだろうな~とか考えたら、めっさ忙しいやん。まあ、放置でも起きるんだろうけど。ベッド放置?
まあ、いいや。出てこないんで。きっと、ベッド放置か、簡易的な処置として別室で雑魚寝だろ←


《L side》
薬草をすり潰すための乳鉢。成分抽出のための専用器具。魔素が溶け込んだ水。数々の薬草やら木の実等々……これら全て、組み合わせ次第で様々なポーション……つまり、回復系アイテムへと変化させることが可能だ。しかし、どこかの配分を間違えたり、入れるもの一つ違うと効果もがらりと変わってくる。そのため、ポーション作りはレシピを見ながら逐一確認を取りつつ、制作するのが基本だ。手慣れている人や、これが専門という人はテキパキと作れるだろうが、学生でそんな人は稀であろう。なんせ、一日中ポーション作りの授業をする……なんてあるわけがなく、主に魔術科のたくさんある授業の一つでしかない。冒険科も選択式で学ぶことは可能ではあるが、『作る』という知識は探検に必ず必要ではないため、人気のある授業とは言えない。
とまあ、何が言いたいかって、レシピがあるからと言って一人で黙々と作れる人はこの場にはほぼいないし、材料がたくさんあるからと言って、すぐさま「はい! 全員分出来上がり!」ともならない。要は、圧倒的に時間と人が足りない。それは理解しているのだけれど……
「…………なんで私が作ってるん!?」
魔術科でも、ヒーラーでもない私が!? なんで!!
作業に邪魔だったという理由で髪をポニーテールにまとめ、制服の上着も私物であるカバンと共に隅っこへと放置中だ。白いワンピースの下に七分丈のインナー姿という、校内ではほぼしない服装スタイルの私は、なぜかポーション作りのお手伝いをしている。
「ラルさん、すみません。まさかここまで人手が足りないなんて僕も思いませんで」
私の隣では薬草をすり潰しながら、申し訳なさそうにするアルフォースさんがいた。困り顔ではあるが、にこっと笑う。
「いや~……ラルさんがポーション作りの心得があって助かりましたよ」
「ものづくりが趣味なので」
と、これも嘘ではないが、一番は経費削減が大きな理由である。買うよりも自分で作った方が安く済む。なんなら、薬草はダンジョン内で回収可能で、実質、材料費は魔素が溶け込んだエール水のみ。こりゃ、手を出さない理由がない、というやつだ。そこまでお金に困っているチームじゃないけども。
なぜできるかという質問に関しては、そこのリア先生の賜物だとでも言っておこう。過去に色々あったんだよ。うん。
そんなことを考えつつ、エール水を適量取り分けた瓶を並べる。エール水の配分を確認しながら、事前にすり潰しておいた薬草を瓶の中に入れた。そして、マドラーでぐるぐるっとかき混ぜていく。
すでに出来上がっているポーションをまとめていたリリちゃんが、誇らしげに口を開いた。
「会長様がいれば、百人力です!」
なんて言う彼女は、私をポーション製作チームに引き込んだ張本人だ。
彼女からの要請前は、凍結状態以外の人達を救護班の子と一緒に診ていた。Bブロックの子達ばかりを診ているわけにもいかないからだ。他の要因でここを訪れる人もいるし、なんなら、救護室以外の仕事で通信も入る。手当てと指示出しを並行して行う私を、誰か褒めて欲しいくらいである。
ある程度混ぜた薬草+エール水をろ過し、別の容器へと移す。不純物を取り除いた水色の液体をぺろりと舐めてみれば、薬草特有の苦い味が口に広がる。まあ、魔素が溶け込んだ水なんて味的にはほぼ水だ。それに凍結解除効果を持つ、アシン草とヒス草の二種類突っ込んだだけで、あ~ら不思議! 美味しく飲める飲料水の完成!……となるわけがない。魔法じゃあるまいし。
「リアさん、これ、全身氷の人達って……」
ポーションを直接かけないと解除できないわ。頭さえ出ていれば、飲めば解決なんだけれどねぇ」
あー……まあ、そうか。飲む口がないもんな。
効果だけを求めるなら、これだけでも問題はない。しっかりとエール水に薬草の効果は抽出されているから、ポーションとしての役割は果たしてくれる。しかし、私はそこに置いてあった木の実数種類を適当に手繰り寄せて、小さなナイフを使って手際よくカットし、その木の実を絞って果汁だけを取り分けた。そしてその果汁を先程作ったポーションへと混ぜる。
「会長様?」
「こうした方が飲みやすいんだよね~? ま、今回は飲むだけじゃないみたいだから、する必要はないかもだけど」
木の実の果汁を加えたのは、苦味で飲みにくいポーションの味を変えるためだ。その他にも混ぜる理由はあるのだけれど……この際、どうでもいいか。
「被害者の半分は全身凍結だから、氷にかける分、多くのポーションを使って氷を溶かさなきゃいけないんだけどね。……とりあえず、今、作っているポーションで終わりにしちゃって大丈夫よ♪」
「でも、リア先生、作っていただいた数じゃ、とても足りないですよ?」
リリちゃんの疑問にリアさんは答えず、微笑みを返すのみだ。現場監督教員のリアさんがそう言うのだから、何か考えがあるのだろう。ツバサちゃんに何か頼んでいたし、それと関係があるのかもしれない。しかしまあ、終わりにしていいらしいので、すり潰していない薬草やエール水の片付けでもしてもらおうかな。
頭にはてなのリリちゃんに指示して、使わなかった材料達を片付けもらい、私とアルフォースさんとで、すり潰した薬草をポーションにしてしまう。ポーションに関しては多くて困ることはないはずだ。
きっと、これからも必要になる。うん。多分。
ある程度、作り終えた頃。ツバサちゃんが救護室へと戻ってきた。私服からエプロンドレス型のナース服に着替えたまではいいが、彼女の手には、一枚の紙とシンプルな羽ペンが握られていた。
「お待たせしました! 師匠♪ “範囲型特定状態異常回復魔法”の魔法式と魔法陣が完成しましたよ」
「ありがとう、ツバサちゃん♪ 思っていたよりも断然早いわ♪」
聞き慣れない魔法名が聞こえてきた気がする。なんだって? 名前と状況から察するに、この惨劇……大量凍結状態被害者のための魔法……なんだろう。
この場にフォース君やティールがいれば、説明してくれるんだろうけども、生憎、二人とも傍にいない。……いや、教える以前に勉強しろよと怒られるな。
理解していないのは私だけらしく、アルフォースさんも、リリちゃんすらもどこか納得したようだ。
「なるほどね~♪ だから、ツバサは準備にし行ったんだね。それは分かったけど、その服は?」
「! これはね、ラルさんにもらったのっ♪」
と、言いながら自慢げにくるっと回る。そんなツバサちゃんの頭をアルフォースさんは、そっと撫でた。
「そっか。とっても似合ってるよ♪」
「えへへ……ありがと、お父さん!」
父親と子供のあるべき姿って感じだな。はー……うちの相棒にもあんな時期……は、なさそうですね。こんなの考えてるのバレたら、別の意味で怒られる……しまっとこ。
「ともかく……解決するためのものだとして、なんでそれをツバサちゃんが?」
「ラルちゃん、もしかして知らなかった?」
私の呟きが聞こえたらしいリアさんが少し驚いた色を含ませた表情を浮かべる。馬鹿にするでも、皮肉でもなんでもなく、単純に知らないから驚いた……そんな感じだ。
「ケアル家が魔力の質や扱いに長けた一族だっていうのは知ってる?」
「……え、えぇ、まあ。さっきイグさんが言ってましたし」
「それの延長線上として、魔法のエキスパートでもあるの。魔法に必要な魔法式や魔法陣……魔法そのものの分野において、右に出るものはいないってくらいにね」
魔力については大して詳しくないが、言いたいことは分かる。魔法という分野の中にも色々あるけど、ケアル家は全体的に優秀な家系であると。もちろん、個人的に得意分野はあるだろうが、共通点として、魔法分野が秀でている……そういうことだろう。
「その中でもツバサちゃんが得意なのは、新たな魔法の創造……って言えば、伝わるかしら? 元々ある魔法を応用して、別の魔法にしたり、反対に簡略化させたりって感じね」
創造、か。……フォース君みたいだな。
「そんなツバサちゃんに私がお願いしたのは、術者の魔力消費を抑え、ポーションを媒体とした特定状態異常を回復させる魔法式と魔法陣の作成♪」
うぅ……頭が痛くなってきた。つまり、あれか。術者……この場合はツバサちゃんの魔力を限りなく消費しないための新たな回復魔法……? て、認識でいいんだろうか。いや、しかし、そんなことが短時間でできるものなのか。
ケアル親子に目を向けると、ほわほわした空気を漂わせる二人。さも、当たり前かのような反応で。
「ツバサは新しく魔法式考えるの、好きだもんね」
「うんっ! 楽しかったよ~♪」
何でもないように答えるツバサちゃん。その笑顔は偽りも気遣いもない、無垢なものだった。
……えーっと……こんな可愛らしくて、性格もよくて、その上魔法にすこぶる適性を示す少女、か。すみません。世の中、不平等過ぎない?
「生きるの……しんどくなってきた」
「えっ? ラルちゃん!? どうしてそうなったの?」
「いや、ちょっと前から荒んでましたよ……すぐ戻るで大丈夫ですけど」
「そ、それって大丈夫って言うのかしら……?」
「大丈夫。ダイジョーブ……今更ですって」
適当な返事しか返さない私に、真意が見えてこなかったのだろう。リアさんは心配そうな表情を浮かべるものの、これ以上は踏み込んでこなかった。
ふむう……これぞ、世に聞くチートキャラ……なんだろうか?



~あとがき~
ラルの自問自答というか、精神的な不安定さは今更です。

次回、ツバサちゃんの更なる凄さをご覧にいれましょう!!
なんかめっちゃ目立ってるな!! 流石、主人公(その1)!! 

ツバサちゃんが天才の才女様なのは今更ですが、その内容がより詳しく見えてきた、と言えばいいでしょうか? ラルも言ってましたが、ツバサちゃんはチートちゃんですよ。
私のキャラでチートさんはフォースですが、相方キャラのチートさんはツバサちゃんってなるんでしょうかね。あ、メインでって話ね。
メイン抜かすとチートレベルの強さなんて大量にいるんでね。うん。ここで出てくるかはまた別の話だけども!

ではでは。

学びや!レイディアント学園 第75話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわちゃわちゃする話です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバックです!
前回でようやく予選終了! トーナメントへ進む八名が決定しました。やったね。
今回は救護室へ戻るラル達の話ですので、時間がDブロック開始直前になります。


《L side》
私達四人が救護室へと到着すると、私らが出ていく前と今では部屋の雰囲気ががらっと変わっていた。
「おい! 追加の薬草どこだ!?」
「追加ぁ? そんなのそこにまとめて置いて……って、もうない!」
「はあ!? ちょ、誰か園芸部の許可貰って、分けてもらって!!」
なんていう救護班のやり取りと、その近くで寒そうに震えている男子生徒二名。それもそのはず、なんせ二人とも氷漬けの状態のまま、ここに運ばれているのだ。
「さ、さむ……しぬ……」
「なんか、俺……寒い通り越して……ね、ねむ……」
「「「寝るなぁぁぁぁぁあ!!!!」」」
寝そうになる一人に対して、近くで言い争っていた─その間も手は動いている辺り賢い─救護班三人の叫びがこだまする。
ちなみに、それが救護室全体であちこち起きているため、寒くて死にそうになっている人達は大勢いるということになる。
……大会が行われているフィールドは参加者……つまるところ、生徒達の戦場であるが、ここはここで戦場化しているらしかった。
そんなもう一つの戦場の入口付近で、立ち尽くしている私達。口を開いたのは、イグさんだった。
「う、うわあぁ……アリアがやっちまったのを見た辺りから、想像はしてたけど……予想以上だなぁ」
「これ、ほぼBブロック出場者ですね。救護室、広い部屋を割り当ててもらったつもりだったんてすけどね……地獄絵図。極寒地獄」
「だな。なるほど。これが阿鼻叫喚って奴か」
どこか他人事の私とイグさんの横で、ツバサちゃんがアルフォースさんを見上げていた。
「お父さん、あびぎょうがんって??」
「うーんと……『あびきょうかん』、ね。そうだね……とっても苦しくて助けてくださいってなってる……って言えばいいかな?」
と、言葉の勉強会のようなものを親子で話していた。なんとも微笑ましいが、こちらも他人事だ。恐らく、状況が飲み込めなくてとりあえず、何でもない会話で気持ちを落ち着かせ……いや、ツバサちゃんだもんな。普通に気になっただけだろう。うん。
「あら! 皆、お帰りなさい。……って、アルフォースおじさま?」
「あっ! 会長さまあぁぁぁ!!!」
たまたまこちらに気がついたリアさんと、リアさんの近くにいたリリちゃんが私達に話しかけてくれた。イグさんも知っていたし、リアさんだけがアルフォースさんを知らないなんてないと思っていたから、そこにはもう突っ込まない。
そのアルフォースさんの登場に驚いているリアさんは、彼の登場が予想外らしかった。リアさんがルーメンさんに頼んだ訳ではないようだ。まあ、アルフォースさんの言い方だと、ルーメンさんの独断だったんだろうな。
同じくして、リリちゃんは半分泣きそうな顔で、私の方へと駆け寄ってきた。一応、生徒側のリーダーなので、そんな顔はしないで欲しいんだけれど、それは酷な願いというものか。
リリちゃんの頭をぽんぽんと優しく撫でる。涙目の彼女は「会長様~」と落ち着くどころか、うるうるが倍増してきた気がする。
「おーおー……どした。落ち着け~?」
「そ、それがぁ……」
「大丈夫よ、リリアーナちゃん。私が説明するわ」
泣きそうなリリちゃんから聞くよりも、リアさんから聞いた方が早いだろう。苦笑を浮かべたリアさんに、同じような表情のイグさんが話しかけた。
「リア。説明つったって……どうせアリアだろ?」
「まあ、そうね。イグの言う通りよ。あの映像で察してはいると思うんだけれど、Bブロックの被害者はアリアちゃんとアラシ君を除いた全員なのよ」
そうだろうなぁ。あれを逃れた人がいれば、放送部で促しているはずだ。
「今回の賞品が賞品だから、アリアちゃん参加は警戒していたの。それで、凍結解除用の道具は多めに用意していたんだけれど……まさか、フィールド全体を凍らせちゃうなんて思ってもなかったから……その……」
アリアちゃんを前から知っていたリアさんですら、これなのだ。初見の救護班メンバーはてんやわんやだろう。
「あうぅ~……それで、凍結解除用のポーションとか薬草とか全部使いきっちゃったんです。まだまだ凍結状態の生徒達はいっぱいいるのに」
「参加者以外にも別の被害が出てるとは……やっばいな、アリアちゃんは」
「あうう……あーちゃん……」
ざっと見ただけでも、参加者の半分は未だに寒さに耐えている。これらは、あくまで魔法による副産物。意識を保っている間なら、凍結状態だからといってすぐに死ぬことはほぼないだろう。しかし、それが永遠と持つはずがない。一度意識を手放せば、一気に体温低下し、死に至る危険はゼロではないのだ。
道具がないなら、魔法や技で解除する方法が一番手っ取り早いが、それ関連の専門に扱う人が、この中に果たして何人いるのか。仮に魔法や技で解除していくにも時間がかかるし、こちらが持たない。それくらいの人数が状態異常になっているということだ。
対策を考えていると、ふとアルフォースさんの荷物に目が向く。あれの中は状態異常回復のための道具が入っていた。そして、なぜあれを持たせたのかも、推測したではないか。
「……なるほど。アルフォースさん、荷物の中身、ちょっと見せてもらっていいですか?」
「うん? 構わないよ」
アルフォースさんが抱えたままの箱から薬草とポーションを一つずつ取り出すと、リアさん達に見せる。
「リリちゃん、リアさん。ツバサちゃんのお父さんが持ってきてくれたこの箱に入ってる薬草やポーションで、どうにかなりそう?」
「あら……それはアシン草ね? うふふ。おじさま、グッドタイミングだわ♪」
「状態異常回復用のポーションまで……まさしく神のお恵みですよー!! これ、わたしたちが使ってもいいんですか!?」
若干、食い気味にアルフォースさんに迫る、リリちゃん。泣いたり興奮したりと忙しい子である。そんなリリちゃんに向かって、アルフォースさんは優しく微笑んだ。
「はい。元々、そのつもりでこちらに運んだので。どうぞ遠慮なく♪」
「はわわ……ありがとうございます! ツバサちゃんのお父様は神様なのですー!!」
「えぇっと……神様は大袈裟かなぁ……?」
神様呼びにちょっと困り顔のアルフォースさんだけど、その言葉はリリちゃんに届いていないご様子で、その場で小さくぴょんぴょん跳び跳ねている。あれで高等部二年生というから驚きである。ツバサちゃんよりもいくらか高いくらいで、小柄なリリちゃんは動作だけ見れば、中等部と思われても不思議ではない。
対するリアさんは、私の持っていたポーションをそっと手に取ると、何やら考え事をしているらしかった。
「……これがあるなら……あとは……」
そう呟き、ちらりと見た方向には、未だに私服姿のツバサちゃん。リアさんの視線に首を傾げた。ツバサちゃんに何か言うでもなく、リアさんはリリちゃんに話しかけた。
「リリアーナちゃん、頼めるかしら?」
「はいっ♪ 先生! これを元にポーション追加しますっ!」
その一言だけで意図を汲み取ったリリちゃんは、アルフォースさんから箱を丁寧に受け取ると、部屋の中腹部まで行ってしまった。それを見送ったリアさんが次に目を向けたのは、先程ちらっと見ていたツバサちゃんだった。
「ツバサちゃん、お願いがあるんだけど……」
と言ってから、その続きはツバサちゃんの耳元でそっと話していく。傍で見ている私達にすら聞こえないくらいの─もしかしたら、獣の聴覚を持つ、イグさんやアルフォースさんには聞こえているかもしれないが─音量で話している。
リアさんの話が終わり、ツバサちゃんから離れると、ツバサちゃんは、こくんと笑顔で頷いた。
「それくらいなら大丈夫です! じゃあ、準備してきますね♪」
「えぇ。お願いね、ツバサちゃん♪」
それを聞く限り、リアさんはツバサちゃんに何かお願いをしたんだろうけれど、その内容はさっぱりだ。まあ、今の状況を打破できる何かなのはなんとなく想像できるけれど。
私達にぺこっと頭を下げてから、ピューッと部屋を出ていってしまう。私には詳しいことは分からないけれど、イグさんは察しているのかなぁ……なんて思いながら、様子を窺うものの、イグさんもよく分かっていないらしい。少し不思議そうにツバサちゃんを見送っていたものの、見ていても仕方ないと考えたのだろう。ぱっとこちらを振り返った。
「んまあ、よく分からないけど……俺がここにいてもやれることはないし……いなくても、どうにかなるだろ。ラル、後は任せるぜ♪」
「は? いや、任せるって何を」
私の問いには答えず、イグさんはアルフォースさんに目線を移していた。
「おじさんはどうします? 戻るのであれば、ルー爺のところまで案内しますよ?」
「ん~……いや、もう少しここに残るよ。忙しそうだし、僕にも手伝えることがあるかもしれないから」
「そうっすか? んじゃまあ……ルー爺のところに戻るときはどうすっかな。……んー……あ、ラル」
「……はい」
イグさんはにこっと曇りのない笑顔を見せる。大変好印象の笑顔だが、私には危険信号にしか見えない。こういうときは、大抵……
「おじさんが戻るってときは、俺に連絡寄越してくれ♪ それまではお前に任せるからさ」
今日が初めましての私に、後輩の父親預けるとはこれ如何に。一応、意味のない反論ではあるが、しておくか。
「イグさん。私達、今日が初対面なんですけど」
「あっはは! 大丈夫だって! おじさん、いい人だからすぐ仲良くなれっから♪ 俺も仕事あるから、ずっといれないし? じゃ、そういうことで」
「……マジっすか」
イグさんは、ひらひらと手を振って、さっさと救護室を出ていく。確かに、イグさんも非常勤講師とはいえ、今回の大会では、仕事を任されているのは知っていた。ずっとそこを離れるわけにはいかないのも分かる。分かるんだけれど、さっさといなくなるのは如何なものですかね。
「イグニースくん、またね~♪」
ほわほわっとした空気を纏ったアルフォースさんは、イグさんを見送った後、少し離れたところでお仕事中のリアさんに近付いた。
「リアちゃん、何か手伝えることあるかな? 部外者の僕でよければ、だけど」
「あら、いいんですか? それじゃあ、ポーション作りをお願いします。正直、手が足りてなくて」
「分かった」
ポーション作りはやり方を知らないと作れない。ここにいる救護班全員が作れるのかと言われると、素直には頷けない。誰にだって得意不得意はあるというものだ。それに、仮に全員がポーション作りができたとして、全員にさせる訳にもいかない。難しい問題である。
さて、イグさんに任されてしまった以上、アルフォースさんがここにいるなら、私も残っていなければならない。
若干の手持無沙汰感が否めず、私はちらりと救護室に備えてあるモニターに目線を移す。そこにはDブロックの真っ最中らしく、生徒達が戦っている映像が映し出された。私の記憶が正しければ、確か、Dブロックにはユーリ君とシエル君がいたはず。大人しく観戦できればよかったんだが、この救護室の状況を見るにそうもいかないだろう。
手近な救護班の子達に近付いて生徒の手当てに混ざることにした。



~あとがき~
あばば。一話で終わらない、だと……!!(知ってた)

次回、成り行きで救護室のお手伝いをするラル。救護室の危機(?)を救うのは誰だ!?
いや、別にそんな大それたやつじゃないけどね??

特に言いたいことがなあい。
んー……そうだな。友人のキャラについて何か補足することはできないので、私のキャラの補足をば。
ラルのスキルは本編通りだと思ってくれていいです。大抵のことはこなしちゃう天才少女。だからまあ、手当てと言うか、医療的なこともできちゃうって話ですよ。本編でもそうですし。おすし。
できないこともありますけれどね。当たり前ですが。一番の器用キャラは間違いなくフォース様です。この場にいないけど。性格的な問題抱えてますけどね~!!

ではでは!

空と海 第227話

~前回までのあらすじ~
ピカとポチャのほのぼの回……もとい、ちょっぴり甘いお話でした。フォースよりはましでしたね。
フォース「おれが普通じゃないみたいな言い方すんな」
ピカ「手慣れてる感凄いけどな」
フォース「本当のことだし……?」
ピカ「うわぁ」
さてさて! 今回はがらっと変わりまして! オーシャンの二人とフォース、三人のお話です。お仕事の話です! バトルはやらない! つもり!


今日は珍しく、親方さんに呼び出しを受けて、どきどきしていた。私とチコちゃん、そして、ちょっと後ろの方で暇そうにしているすーくんの三人で親方さんの話を聞いていた。
「ここから南西の方角にある『シキやま』ってところに行ってきて欲しいんだ~♪ そこにはある集落があってね? その長にお届け物をお願いしたくって」
「お届け物、ですか?」
「うんっ♪ あそこ、街から離れてるからさ、定期的に物資のお願いがあるの~」
あ、あぁ……そういうことか。
「それで、あっちで郵便とか、そういうお届け物を預かったらそれを持ち帰ってきてね。持って帰ってきたものは、こちらで改めてお仕事として引き受ける手筈になってるから」
なるほど……つまり、あっちで持ってきて欲しいって頼まれた荷物をお届けして、代わりにあっちで届けて欲しい物を持ち帰る……っていうお仕事か。
「『シキやま』自体、ダンジョンでもなんでもないんだけれど、ちょっと道が険しいんだよね~? 斜面が急だったり、道がややこしくなってたり? だから、ある程度の知識のある人に任せるの」
……知識のある人? 私とチコちゃんは『シキやま』なんて行った経験はない。となると、この場で親方さんが指す人物は。
私とチコちゃんは親方さんから後ろのすーくんを見た。見られた本人は全く気にしていないとかと思ったけれど、嫌な予感はしたんだろう。そっと明後日の方向に目線をやる。
しかし、それくらいで親方さんが折れるわけがない。
「ってことだから、よろしくね! フォース!」
「……くっそ!!」
まあ、うん。そうだよね。
「しょーがないよ、すーくん。一緒に頑張ろ?」
「ワタシ達と一緒に行こうか」
「行くのはいいけど、おれ頼みなのが気に食わん。何なの?」
「あはは~♪ それとも、『シキやま』、知らない?」
「知ってるけど、そうじゃなくて」
「知ってるなら適任だね! ピカ達でもよかったんだけど、あの二人、忙しいからさ~♪」
「おい。話を聞け。おれの、話を!」
ピカさんでも勝てないんだから、すーくんだって勝てないって。諦めなよ。
すーくんは、あからさまに舌打ちしているけれど、親方さんはものともしない。よろしくね! と笑顔のままだ。
私達が出ていこうとすると、親方さんはすーくんだけを呼び止めた。見るからに嫌そうな表情を浮かべるものの、避けて通れる道ではない。
「二人は先行って、準備してこい」
……という、すーくんの指示を全うすべく、私とチコちゃんは、ギルドを出てそのまま、トレジャータウンへと足を運んだのだった。

まず必要なのは何かと言えば、道具を買い揃えるためのお金だ。ってなわけで、フゥさんの銀行へとやって来た。今までにゲットした道具はまだたくさんあるし、そこまでのお金は必要ないだろうけれど、多く置いておく分には問題ない……はず。
「こんにちは! 二千……いや、千ポケくらいでいっか。引き出し、お願いしまーす」
「はいよ~♪ 珍しいな、お前達二人で買い物か?」
後ろの金庫をガチャガチャやりながら、フゥさんが話しかけてきた。フゥさんの言う通り、私達二人だけってのは久し振りな気がする。
いつもはすーくんがてきぱきやっちゃうし、ピカさんと探検行くときも横で見るだけだもんなぁ……
「時間短縮ですよ。フォースは今、親方とお話し中なので。ところで、フゥさん、『シキやま』って知ってますか?」
「おー……知ってるよ。四季に合わせた山の風景が綺麗だって有名だぞ。ま、一般人だけで行くようなところじゃないからな~? 専門家と行って楽しむようなところ。……イブ達、今から行くのか?」
お金の入った小袋をカウンターに置いて、フゥさんは首を傾げる……とは言っても、フゥさんに実際首なんて存在しない。まあるい風船みたいな体を少しだけ斜めに傾け、それっぽい動作をして見せた。
「はい♪ 実は親方さん直々にお仕事を頼まれたんですよ~♪」
「はあ~……プクリン親方からねぇ? 成長したってことだっ!」
「あはは。そうだといいんですけどね」
「謙遜すんなって、イブ。ほらよ。きっちり千ポケ! まあ、あそこは何かと噂が絶えねぇけど、頑張れよ~♪」
フゥさんからお金を受け取り、そして、何やら気になることも添えて、だけど。……でも、次のお客さんの対応を始めてしまい、詳しく聞けなかった。
「なんだろ、噂って……?」
「さあ? 行くの大変って話だし、迷子が絶えないとか? 遭難スポット第一位……とか」
なんでそんな方向ばっかり。もっと明るい噂がいいなぁ。景色はきれいって話もあったし、そんなのがいいよ。せっかく行くんだもん。
お次は倉庫と商店か。お隣同士だから、いっぺんにできちゃうかな?
倉庫はチコちゃんに任せ、私はその隣にあるアイスさんとホットさんのお店を覗く。丁度、お客さんがいなかったらしく、アイスさんが私達にすぐ気がついた。そして、ホットさんも少し遅れて、こちらを見る。
「よっ! 何か用か?」
「あら、お仕事かしら?」
「はい! えっと、ダンジョンじゃないので、食料全般を見たいなーって」
「ダンジョンじゃないのか。どこ行くんだ?」
「『シキやま』です」
場所の名前を告げると、アイスさんとホットさんはお互いの顔を見合わせた。やっぱり、有名なところらしく、探検隊でもない二人がこんな反応をするとは、どんなところなのか。
「あら、あそこ……イブちゃんとチコちゃん、ちゃあんと帰ってこられる……のかしら」
あ、あう。いや、すーくんいますし!!
この辺だと、すーくんも姿を隠さずに出歩くようになったため、ホットさんもアイスさんも……ついでにフゥさん達、トレジャータウンのみんなは、顔見知りだ。すーくん本人は不服っぽいけれど、ピカさんが面白おかしく紹介しまくったのが主な原因。私的には全く問題ない─むしろ、もっとやって欲しいくらい─ので、名前を出しても大丈夫だし、すーくんの頼もしさはみんなが知っている。
「あらあら。それなら、大丈夫かしらね? 大丈夫じゃなくても、捜索隊が組まれるから大丈夫ね」
怖いこと言わないでくださいよ、ホットさん!
「ふふっ♪ ごめんなさい。あそこ、遭難者が多いって話を聞くの。それに……なんだっけ? 悪魔? が住むとかなんとか」
あ、あく、ま?
すると、アイスさんは首を傾げて、そうだっけと呟いた。
「俺はありとあらゆる不思議現象があるって話を聞いたぞ。何もないところから火が出たり、物が浮いたり? 幽霊的な……こう、オカルトチック? な噂だと思ってたけどな」
ゆ、ゆーれー!!??
私の反応に、アイスさんはやっちゃったみたいな表情を浮かべた。そんな顔をしたところで、聞いちゃったものは聞いた。忘れるなんてできっこない。
「ま、まあ、フォースがいるなら、大丈夫だろ。あいつ、そういうの平気そうだし?」
「平気ですけど……すーくんはちょっと意地悪なので、そんな話聞いたら、面白がって、いたずらするかもじゃないですか!! 責任! 取ってください!!」
「ごめんって! 単なる噂だし、他にも色々あるっぽいしよ~……でも、噂は噂。その域を出ないってやつ? 多分、しょーもないもんが一人歩きしてるんじゃないかな。こういうのって、するのは楽しいだろ?」
私は楽しくないです……けど、確かにうわさはうわさだよね。気にしても仕方ないかな。
「ほい。一応、予算内ギリギリの分。まあ、こんなにいらんだろうけど」
ぼんっと置かれた食料袋を受け取って、ちらっと中身を確認。思ったより入っているから、少し返そうかと思ったけれど、アイスさんは首を振った。
「いいって。貰っとけ貰っとけ」
「で、でも……食料以外も入って……」
「出世払いでいいぞ。これでも期待してっから。ピカ達から直々に指南受けてるし?」
うっ……そういうの、プレッシャー……だけど、素直に期待してるって言われるのも悪くない、かもしれない。それだけ、見てくれているってことだ。私達のことを応援して、頑張れって言ってくれているんだもん。
「ありがとうございます、アイスさん! ホットさん! 行ってきますね♪」
よぉし! 頑張るぞー!



~あとがき~
月一更新な空と海です。
忘れそうになってたのは内緒。

次回、三人揃って『シキやま』へ!
そこまで長くしないぞって思ってるけど、多分、長くなると思う。(無計画)

ちょっと謎の多い『シキやま』にオーシャンとフォースが挑みます。悪魔とか幽霊とかなんとかありますが、どうなることやらですねぇ~(いつも通りの見切り発車)
そして、久し振りにフゥ、アイス、ホットの三人が出てきました。もうな、何年ぶりよ!! ヤバイね!?
本当はロールとかも出そうかと思ったけど、出るタイミング逃しましたね。ごめんね。ごめん……
ホノオも出そうかとちらっと考えたけど、カットです。カット……いいかなって(汗)

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第74話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で好き放題している物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック。
前回、切りどころが分からなくて、かなり長くなりましたが……まあ、そんな日もあるよね。ってことで、ツバサちゃんの父、アルフォースさんこと、アルさんの登場回でした。他にも色々あったけどね。重要なのはここだけです←
今回はラル視点は一度、放置してDブロック行きまーす!


前の三ブロックと同様に放送部からの案内で百人の生徒達が集められる。予選最終ブロック、Dブロックである。
『これが泣いても笑っても最後の予選ブロック! 結構、バランスよく学年も学科も配置されてるって感じだな~♪ さあさあ! 観客のみんなも、待ちきれないよなぁ!? 相棒!!』
『ひゃい!! そ、それでは、Dブロック開始でしゅっ!!』
語尾を最大に噛んでしまっていたが、試合開始の鐘は綺麗に鳴り響いた。
屈伸やストレッチをしていたシエルは、鐘の音と共に、両頬を気合いを入れるかのように強く叩く。
「……僕以外の皆は、この先に勝ち進んだ。負けてられないよね!」
シエルと仲のいいアラシ達は─その中でも色々あった人物はいるものの─順調に、トーナメントへ駒を進めていた。この流れに乗りたいものだが、レオンやアリア……そして、ミユルのような、大型、あるいは範囲魔法を使用する手立てはシエルにはなかった。魔法が不得意というわけでないが、一発で形勢逆転できるようなものは持ち合わせていない。
そんな彼がここで勝ち残るには、至極単純な方法しか残されていなかった。
「せやあぁぁっ!!」
「おっと!」
接近戦で地道に倒していく。それだけである。
シエルは腕を竜化させると、襲いかかってきた相手を片手で受け止める。腕力の上がった彼に捕まった生徒は抜け出せず、場外へと投げ飛ばされた。
竜族である彼は、身体の一部を竜化させることで、身体強化を行える。今は、腕を硬い鱗に覆われた竜の腕に変化させたが、他にも足や尻尾を変化させることで、自身を強力な武器へと変化させられるのだ。もちろん、飛ぶための翼だけを出現させ、空中戦も可能である。しかし、空に逃げている生徒はいない。シエル以外にも飛行手段を持つ者はいるはずなのに、だ。
「無策に飛ぶのは……的になりやすいか」
何も考えずに空へと逃げてしまえば、地上から遠距離攻撃を受けたり、武器による攻撃をされたりと、何かと狙われやすい。それならば、初めから地上戦として対策を練っていた方が気も楽というものだ。シエル自身、空中戦なんてこれっぽっちも考えていなかった。
完全に竜化し、人の姿から完全なるドラゴンになって、この場にいる全員を蹴散らすことも可能ではあった。しかし、それは大会のルールとして……それ以前に、学園のルールとして許されていない。
つまり、シエルができるのは一部の強化のみ。
気の遠くなる話だが、愚直に進むしか道はないのだ。……誰かが強力な範囲魔法や範囲技を使用しない限りは、だが。今現在、会場の雰囲気を見るに、そのような動きをしている人はいない。
去年の今頃、シエルは半ば興味本位で─自分の中では記念のつもりで─参加した大会では、予選敗退という結果に終わっていた。当時は数人の乱闘が行われ、最後まで残っていた人が最終ブロックの乱闘へと駒を進められるルールだった。どのようになるのか楽しみ半分、緊張半分だったシエルが割り当てられたブロックは、透き通るようなブロンドの少女が一瞬で勝負を終わらせてしまった。身構えずに、更には武器も構えず、技一つで。
……その少女が二年生にして、生徒会長を任されていたラルであったのは、試合が終わってから気がついたのだ。
今回参加したのは、その結果を不満に思っていたから……ではなく、ミユルと似たような理由だった。入賞賞品目当てである。ほんの少し、リベンジも兼ねてはいるが、ほぼセラの講習会目当てだった。
着実に向かってくる相手を倒しながら、そのような戦いにあまり関係のないことを浮かべていた。それくらいの余裕が自分にあるのかもしれない。昔の自分の記録は更新していると感じていると、後ろから気配を感じる。その気配の居所めがけて、尻尾で凪ぎ払うように振り回すが、手応えはなかった。しかし、気配はぱたりと消えている。
「……?」
どうなっているのかさっぱりだったが、答えを探すにも情報がなさすぎた。気のせいだったと済ませる方がずっと楽に思えるくらいに。

シエルが地道に相手を倒している同時刻。
同じブロックに割り当てられたユーリは、リング端で両足を水路側に投げ出した状態で座っていた。彼の目の前には戦いを見守る観客が大勢いるが、その誰一人として、戦意の欠片もない彼を見ようともしていなかった。
「混戦してるなぁ……」
黒いグローブをはめた両手で、何もない空間から、くるくると糸を巻き取るような動作をしながらぽつりと呟く。
自身に幻術魔法をかけて、気配と姿を隠し、更にフィールド上にばら撒いた監視用の小狼達を通して、しばらくの間、情報を集めていた。この狼達も極力、微量の魔力で生成し、気付かれないように配慮させている。
今現状の情報をまとめると、今までのブロックとは違い、誰かが大技を仕掛けている様子もなく、単純な力比べとなっているらしい。ある意味、平和な予選かもしれない。
考えるよりも行動派な幼馴染みとは違い、完全に頭脳派のユーリは無闇に戦闘へと赴きたくはなかった。まずは周りの状況把握、そこから自身の打てる最善を、がデフォルトである。いつも、ユーリの側には無鉄砲なイツキがいるからだろう。
「あいつを動かすだけでどうにかなるなら、そっちの方が楽だったかなぁ」
と、そこまで考えて、イツキの力に依存した立ち回りを普段からしているんだなと、他人事のように考えた。一人でも戦えるはずなのに。
パッと手を手を広げ、空を見上げる。何の変哲もない空だが、所々、日の光を浴びてキラキラしているところがある。それを確認して、大きなため息をついた。
「はー……そんな自分が嫌になる」
一言漏らし、横に置いてあった細剣を持って立ち上がる。剣を腰に装備させてから、服についた砂埃を払い、くるりと後ろを振り返った。
変わらず、ごちゃついた戦場を見据え、どこを狙うか目星をつける。この際、誰でもいいので近場の男子生徒にした。
「……狼達はまだ放った状態で、僕の魔法を解く」
左手を剣に添えてから、地面を蹴って一気に加速する。相手の懐へ潜り込んだのと同時に幻術魔法も解いた。相手からして見れば、いきなり見知らぬ相手が、目の前に現れたように錯覚する。ユーリの姿を捉え、かなり驚いているのがはっきりと見えた。
状況を理解していない相手をそのまま峰打ちで黙らせ、再び近くにいる生徒に狙いを定める。
「こいつ、いつの間に……!」
「僕一人では、遠距離戦に不向きですけど、接近戦は得意なので」
幻術魔法を解いた後は、単純な身体能力勝負だった。遠距離攻撃を使われる前に距離を詰め、体術、若しくは、手元にある細剣で仕留める。事前に仕掛けた魔法以外は使わずに、次々と倒していく。
「くっそ……!」
「すみません。もうそろそろ、終わりにしたいんですよね。……っ!?」
ある生徒を倒した後、ユーリはばちんと何かが弾けたような感覚に襲われる。それが、誰かからの攻撃……ではなく、自分が仕掛けた狼が一つ消えてしまったのが原因だった。こちらから切るのではなく、一方的に切られたために起こったのだ。
消された狼が映していたのは、竜族の少年だった。彼をずっとマークしていたわけでもなく、たまたま捉えたに過ぎない。参加者が減り、それに合わせて狼を減らしていたユーリは、特定されるのを防ぐために、一人に留まらせずに絶えず移動させていたのだ。それなのに、少しの気配を察知し、本能的に攻撃してきたのだろう。
「最後に見えたのは……シエル……えっと、シルフ、さん……だっけ? よく気付いたな」
やられたという苛立ちや悔しさよりも、単純な感心を抱く。様々な魔法や技が飛び交う中、ユーリの魔力なんて微々たるものであったからだ。
「奥の手を使うような場面だけは避けたいですね」
剣を構え直し、飛んでくる風魔法を縦に真っ二つに斬り伏せると、その術者めがけて走り出した。

『そこまで!! Dブロックを勝ち残った二名が決定だあぁぁ!!』
後半は無我夢中で戦っていたシエルは、リュウのストップがかかって、竜化を解いた。強化していたとはいえ、武器相手にも素手で戦っていたいたために、あちこち擦り傷や切り傷でボロボロだった。とはいえ、シエルにとってはほんの掠り傷程度で、特に問題はないし、想定内の範囲だった。竜族の固有能力として、自己再生能力があるからだ。時間はかかるが、トーナメント時には問題なく戦えるまで回復する。
『トーナメント進出を決めたのは、魔術科二年のシエル・シルフ先輩と……同じく、魔術科二年のユーリ・ケイン先輩……ですっ!』
自分の名前を聞き、今回は残れたのだと安堵した。今までのブロックよりは時間がかかった気がするが、制限時間内には終われたらしく、それに関してもホッとした。
シエルと共に勝ち上がった相手を探してみると、すぐには見つけられない。しかし、よく見てみると、その場にしゃがみ、倒れた生徒達に紛れてしまっているらしい。なんとなく近づいてみると、彼は何体かの小さな狼に囲まれていた。場違いな光景ではあるが、ユーリは対して気にしていないのか、狼の頭を撫でていた。シエルと比べ、目立った怪我もなく、息も上がっていない。
近づくシエルに気づいたのかまでは定かではないが、ユーリはその場から立ち上がると、ぱちんと指を鳴らした。すると、ぷつんと何かが切れたように、張り詰めたフィールドの空気ががらりと変わる。
……否。変わったというよりは、元に戻ったと言うべきだろう。今まで、戦場だから変に思わなかっただけだ。この変化に気付いている人は果たして、どれだけいるのだろう。それくらい、高度であり練度の高いものだった。これを作り出したのは、もちろん、シエルではない。この戦いで魔法は一切使ってこなかったのだから。となると、これを引き起こしていた人物は一人。
「……魔力に囲われていた、の? これ、君が?」
「僕の奥の手です。使わなくてすみました」
「君のメインは剣じゃなくて、糸……それも、魔力で紡がれた糸を、フィールド全体に張っていたんだね。でも、それを使えば一瞬で終わっていたんじゃないの?」
具体的な使用方法は分からないが、糸が届く範囲であれば、ユーリの状態異常魔法……デバフ魔法も簡単に広げられたはずだ。ミユルとは手段が違うが、似たようなものである。
「そうでしょうね。それくらいの自信はありますが……まあ、先生に極力使うなと言われていたので、本当に死にそうなときにと」
「先生……?」
「友人と僕の剣の師匠です」
魔法を使う者の中には、サポートメインになる黒を蔑む輩は少なからず存在する。攻撃魔法を使えないからと舐めてかかるのだろう。それを補う方法はいくらでもあるが、純粋な魔法対決となると、分が悪いのは確かだ。シエルに黒が劣勢だとか、そんな偏見は一切ないが、ユーリの周りがどうだったのか想像もつかない。
それに、シエルとユーリは面識があるわけではなかった。というのも、中高通して、同じクラスになった経験がない。そのため、ユーリが現在、ミユルと同じクラスで、生徒会役員というくらいしか知らないのだ。そんな浅い関係しかないシエルが、彼の気持ちを計り知るのは不可能というものである。
「トーナメントは昼休憩後に始まります。もし、当たったらよろしくお願いしますね。シルフさん」
ユーリは数匹の狼を肩や頭の上に乗せてるものの、器用に小さくお辞儀をする。同年代からファミリーネームで呼ばれる機会がないためか、むず痒い気分になる。
「シエルでいいよ。……その代わりって言うとおかしいけれど、僕も君のこと、ユーリって呼んでも構わないかな?」
「構いません。お好きなように」
「それじゃあ……よろしくね、ユーリ」
差し出した右手をユーリは一瞬見つめると、はめていたグローブを取り、シエルの手を握り返した。



~あとがき~
途中まではすらすらだったのに、最後でつまずくとは……予想外……

次回、ラル視点に戻し、一方その頃やります!
それが終われば、剣技大会も半分終わったと思える……気分的な話ね。話数じゃなくてね?

シエル君の戦い方もほぼ捏造ですよ……どう戦うのか聞いて、私がましまししてます。何も語れない←
身体の一部を竜にさせて、筋力やらなにやらを強くさせてるって感じです。体術です。それだけです……!
あ、あとは、去年の大会も参加した経験ありとのことなんで、過去も捏造させていただきました……ラルだけ過去の大会でどうしていたのか出してなかったんでね。それも兼ねて。

ユーリはイツキ程ではないにしろ、ある程度、武器の扱いは器用です。まあ、だからってほいほい色んなものに手は出してませんけど。
そんな彼のメインは糸ですね。今回使用したのは、自分の魔力を練って、見えない糸を作り出し、張り巡らせることで、本来、威力の低い or 範囲の狭い魔法も遠くへと届かせることができます。ユーリを介せば攻撃魔法も運べるかもね。知らんけど((
ただ、既存の糸ではなく、いちいち練らないといけないので、手間はかかりますがね。
まあ、普通の武器としての糸も扱えますので、持ってはいると思います。メイン武器とは言っているものの、普段はサポート入ったり、体術で黙らせたり、武器あっても剣使ったり、出番はあまりないですけどね(笑)

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第73話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でどんちゃん騒ぎしている物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ミユルちゃんが参加していたCブロックが終わりました。そして、今度はDブロックー!! と、行きたいところですが、また箸休め話入ります。時間は遡って、Cブロック始まる前になりますね! どぞどぞ!!


《L side》
障害物がなくなり、ようやく予選Cブロックが開始できるようになった。そのため、Cブロック参加者を呼び掛けるアナウンスが響き、私達が待機している通路にもぞろぞろと生徒達が横切っていく。やる気十分な生徒達の邪魔にならないように移動しながら、私はティールに連絡を取った。
「何もなかった?」
『うん。観客に何か被害は出てないよ。ちょっとした花の取り合いは発生してたけど……大したことじゃない』
花? あぁ、ツバサちゃんと理事長が作り出していた、氷の造形か。
『全体的にラルが好きそうな感じだったんだけど、君、通路から出てきてないでしょ? 残念だったね』
ティールの言う通りで、通路からツバサちゃん達が行っていた解体ショーを見ていた。そこからでは近いと言えば近いのだが、残念ながら、全てが綺麗に見えたかと問われれば、NOである。これは仕方ないのだが、角度的な問題である。まあ、全く見えなかった訳ではないのだけれど、外で警備しているティールとは雲泥の差ではある。気分的な問題で。
「うっ……結構悔やんでるんだから、そんなこと言わないでよね」
『……ラルの場合、ツバサに似合う衣装を準備すればよかったとかなんとか思ってるんだろ?』
「あぁ~……それもあるけど、全体をしっかり見れなかったことにも悔やんでるよ? さ、三割?」
『残りは可愛い衣装が~……っていう考えか』
うるさいなぁ……そりゃあ、魅せるためなら必要でしょうよ! 可愛い衣装!!
まあ、自分が着るってなると話は変わってきますれけどね。これはあくまで、天使のように可愛いツバサちゃんがやったからこそ出てくる感想。仮に私がやるってなるなら、制服のままでいいんだよ。そういうことなんだよ。
「んんっ! これから警備体制を通常に戻す」
邪心を相棒に読まれたことを誤魔化すため、─全くの無意味であるが─私は、至極真面目な声を発した。それを茶化すような相棒ではないものの、小さな笑い声が聞こえた後、肯定が返ってきた。
『了解。今の隊を解体して、本来の持ち場につくように指示を出しておく』
「任せる。何かあれば連絡よろしくね」
『ラジャー』
どうでもいい会話が多かったが、言いたい内容はしっかり伝えたので、問題ない。
通信を終えると、隣に控えているイグさんに話しかけた。ツバサちゃんが来るまでの暇潰しだ。
「それにしても、さっきのは凄いの一言ですね。近かったからかもしれませんけど、かなりの圧と言うか、威力を感じました」
「セラおばさんはもちろんだけど、『神の祝福』を受ける前のツバサも凄かったな。まあ、ツバサの家系は、魔力の質も扱いも秀でているからな♪ 魔法に疎いラルでもそれくらいは分かるだろ?」
「その言い方は私を馬鹿にしてるでしょ……」
ツバサちゃんの家系が優秀なのは、ツバサちゃんを見ていれば予測可能だ。彼女が白であるから、ではない。十二歳にして、高等部へ入学できる程の力を持っているという点である。また、兄のツルギ君も高度な幻術魔法を使えることからも、血筋なのだろうと推測は可能。まあ、双子が優秀なだけとも考えられなくはないが、それはないと言える。根拠としては、二人の母親、セラ理事長だ。理事長もあまり表舞台には出てこないものの、噂程度には耳にする。理事長の魔法、それに関する知識の高さが物語っている。以上のことから、ケアルの血が魔力の高さ、扱いに長けた人々を代々産み出しているのだろう、と考えを巡らせるのは容易である。
何が言いたいかって、イグさんにそんなことを言われるのはとても心外だの一言。しかし、私が魔法関連の知識に乏しいのは、自身がよく分かっているので、これ以上は何も言わない。……つもりだったのだが、呆れ半分のため息が聞こえてきた。
「お前、戦場では技だろうと魔法だろうと、それに見合うだけの的確な動きをするくせに、知識になるとてんで駄目だよな?」
それは相手の動きを観察していればある程度の予測ができるからだ。相手の見た目、身に付けている装備、口にする言葉、目の動き、呼吸、気配等々……ありとあらゆる情報をかき集め、どのような動きに出るのかを見ているに過ぎない。それに加えて、これはもう野性的な勘というか、培ってきた経験を合わせて、最善の策を練り上げ、実行。あるいは、チーム全体に指示を出す。……という、戦い方をしているので、正直なところ、魔法式を覚える必要はない。それを覚えるくらいなら技の一つでも修得する方が有意義である。
それに、魔法関連はティールに任せておけばいいのだ。うん。この一言に尽きるな。
「私の記憶領域にも限度があります。私が使えない魔法式やら魔法知識やらに、その領域を侵されるわけにはいかないんですよ。避ければ、どんな大魔法を使えたところで失敗です」
「そこら辺、脳筋の考えだぞ~?」
「どうせ私は脳筋プレイ厨ですよーっだ」
「いじけんなって~? ラルの冷静で高い分析力は武器なんだから、そこに魔法知識も組み込めばもっと幅広がるって話で……っと、ツバサが帰ってきたな。この話は一旦やめやめ♪」
イグさんのプチ授業はここで一旦区切られ、こちらに駆け寄ってきたツバサちゃんを見る。武器は魔法か何かで収納したのか、手元にはなく一人で戻ってきた。どうやら、理事長とは別行動らしい。
「お帰り、ツバサちゃん。そして、お疲れ様。とっても綺麗だったよ~」
「わっ! 本当ですか? ありがとうございます、ラルさん!」
「あれ? ツバサ、おばさんは?」
「お母さん、このあと、大切なお客様をおもてなししなきゃなんだって。だから、私とは反対側の出口に行っちゃった。……でもね、お母さんもさっきのショー、褒めてくれたんだよ!」
とっても嬉しそうに報告するツバサちゃんを見て、イグさんは自分のことのように嬉しそうに笑う。そして、ツバサちゃんの頭を優しく撫でた。
「そっか♪ そっか♪ よかったな、ツバサ~」
「えへへ……うんっ!」
「ほい。消費した魔力をこれで回復しとけ」
「ありがと! イグ兄」
イグさんが渡したのは、少し前にリアさんのところで拝借した魔力回復ポーションだ。私には魔力なんてないから、一度も飲んだことはないのだけれど、どのような味がするのやら。
……しかしまあ、私との対応の差がヤバイ。はー……差別だ差別だ~……なんて、私が生意気なのが悪いんだけどね? 分かってる分かってる。というか、イグさんに優しくされた暁には、何かあるんじゃないかと勘繰りますのでね。─ぶっちゃけ、イグさんは基本的に優しい人だけれど─人を疑わなければやっていけない……それが私の悲しい性……いや、本当に悲しいな。ま、あれこれ騙されてきた人生なので、仕方ないですけど。主に親方が悪い。
「おい、ラル~? 救護室まで戻るぞ?」
いつの間にか微笑ましい二人のやり取りは終わっていて、一人で勝手にブルーになっていた私に呼び掛けた。私の思考は表に全く出ていなかったらしく、いつも通り平然としている。
「りょーかいです、先生」
「お、おう? なんだなんだ。いきなり……?」
「気紛れですよ。知ってるでしょう?」
「それは知ってるけどな~? ラルの言動はどこに意図があるのかさっぱりなときあるから、聞いてるこちとら油断ならない」
意図なんてないですよ。……きっとね?
わざとらしく陰りを見せつつ笑うと、予想通り、イグさんはじとっと疑うように見つめてきた。
「うわぁ~……怪しい」
「ふふ。心外です」
「……あの、ラルさん! 救護室のときから思ってたんですけど、イグ兄と仲良しなんですね?」
ずっと疑問に感じていたのか、少し食い気味であった。『イグ兄』と呼ぶのだ。幼い頃から慕っているのだろう。
「そいや、明確にラル達の名前は出したことなかったな~……それに、アラシにも話してないや」
てっきり、過去に話しているものだと思っていた。ちなみに、私はイグさん達の口からツバサちゃんやアラシ君達の名前は聞いたことはない。ここに入学してから知った仲だ。
「私とティールはね、イグさんとリアさんとは約四年くらいの付き合いがあるの。主に探検について色々と教えてもらっていたことがあって、今もまあ、縁あって、たまに仕事もらったり押し付けたり……?」
「そりゃ、お互い様だな♪」
二カッと爽やかな笑顔をいただき、これからもよろしく的な空気を感じ取った。それこそ、お互い様である。
「ふえ~! じゃあ、どんな風にイグ兄と師匠に」
「ツバサ」
ツバサちゃんの言葉に被さるように聞こえてきたのは男性の声だ。優しく、落ち着いた印象のある声。私達が呼び掛けられた方を振り返ると、何やら箱を抱えた男性が立っていた。見た目はイグさんよりも年上だろう。ユーリ君と同じ黒髪に、狐族特有の大きく、ふんわりした耳をぴんと立てている。そして、何より、ツバサちゃんと同じ、黒と青のオッドアイ
一瞬、侵入者かと身構えるものの、私の中にいる雷姫は何もアクションを起こしてこなかった。それに、隣のイグさんも警戒する様子もないし、何よりツバサちゃんの名前を呼んだ。
つまり、敵ではない……のだろう。
そんな私の予想を裏付けてくれたのは、呼び掛けられたツバサちゃん本人だった。嬉しそうに尻尾と耳をぱたぱたさせ、呼ばれた方へと走り出す。
「あっ! お父さ~ん!!」
「おー! アルフォースおじさん!」
「イグニースくん、久しぶり。元気にしていましたか?」
「うすうっす♪」
どうやら、ツバサちゃんだけじゃなく、イグさんとも面識がおありのようで。……まあ、順当に考えれば、アルフォースと呼ばれたこの男性は、ツバサちゃんのお父さんなんだろう。
アルフォースさんとやらは、抱えていた箱を地面に下ろして、しゃがんだ状態でツバサちゃんの頭を撫でている。撫でられたツバサちゃんは、とっても嬉しそうに尻尾を揺らしていた。
「ツバサ、お疲れ様。さっきのショー、とっても素敵だったよ」
「! ほんと!?」
「もちろん。即興とはいえ、よく頑張ったね♪」
微笑ましい場面に水を指すような行動は慎みたいのだけれど、あまりにも疎外感が強すぎる。それに耐えきれなかった私は、イグさんの裾を軽く引っ張る。
「……イグさん」
「あーそっか。ごめんごめん♪」
私が気まずそうにしていたのが表に出ていたのだろう。申し訳なさそうにイグさんが耳打ちしてくれた。
「あの人はツバサの親父さんで……『明けの明星』っていうギルドの親方、ルーメンさんって人の補佐もしてるんだ」
「……明けの、明星……?」
うぅん……『明けの明星』のルーメン? どこかで聞いたことのある名前だけど、どこで聞いたのか、どんなギルドなのか思い出せない。恐らく、有名なところではあるのだろうけれど、パッと出てこない辺り、私は行ったことがないところ……なんだろう。ティールなら知っているだろうか?
ふと伏せていた顔を上げると、アルフォースさんと目があった。目があったのはたまたまだろう。しかし、どこか見透かされている感覚に陥る。なぜ、そう感じたかは分からないが、思わず目を逸らし、右手で胸を押さえる。手のひらから自分自身の鼓動が伝わり、また、心に巣食う雷姫も感じ取った。
……こいつがいる限り、見透かされるなんて、あり得ない。大丈夫。……ん? そもそも、雷姫が大人しい時点で、何もないことは分かりきった事実。何を慌てているだろう。私は。
軽く深呼吸をし、再びアルフォースさんと目を合わせた。挙動不審な私に、不思議そうにしているものの、目を合わせたことに気がつくと、にこりと笑ってくれた。
「妻の学園……高等部の生徒会長さん、ですよね? 初めまして。ツバサの父のアルフォース・ケアルと申します。いつも娘からあなたのお話は伺っています。大変お世話になっているようで……」
年下相手にもご丁寧な口調で、アルフォースさんは優しそうな笑顔を浮かべていた。そこまで畏まるとは思わなくて、私も慌てて頭を下げた。
「こ、こちらこそ、ツバ……いえ、娘さんにはお世話になっています。……申し遅れましたが、冒険科所属、三年のラル・フェラディーネです」
フォース君も落ち着いた雰囲気だけれど、この人はまた別の雰囲気を漂わせている。なんだろう。これがお父さんの貫禄……? 違うか。
「ところでおじさん。なんでこんなところに? いくらおばさんの夫でも、ここは関係者以外立ち入り禁止っすよ?」
アルフォースさんがこの場にいる理由が気になったらしい、イグさんが質問を投げかけた。そんなイグさんに向かってアルフォースさんはにこりと笑う。
「実はお義父さん……親方から、これを救護室まで持って行ってくれって頼まれて」
そう言うと、アルフォースさんは、地面に置きっぱなしだった箱の中身を見せてくれる。中には青色の液体が入った小瓶数十本と何かの薬草だった。
それを見たツバサちゃんはこてんと首を傾げながら、小瓶を指さした。
「お父さん、これなあに?」
「う~ん……お父さんも詳しくは知らないんだけど……状態異常回復系ポーションと薬草かな? Bブロックが終わった辺りで急に持って行けって言われたんだ」
アルフォースさんの言う通り、青色の液体は状態回復用のポーションで、薬草も魔素が溶け込んだ水といくつかを組み合わせると、あら不思議、回復用ポーションの出来上がりとなる、材料の一つだ。もちろん、それ単体でも効果はあるが、基本的にはポーションにした方が、薬草の節約になる。薬草一枚で一人を回復させるのか、薬草一枚でポーションを量産するのかの違いだ。まあ、ポーション作成は専用の器具がなければ作れないため、緊急なら薬草のまま利用すればいいというわけだ。
……とまあ、そんな道具達をなぜ、それらをルーメンさんがアルフォースさんに持たせたのかは、なんとなく分かる。
Bブロックで無事だったのは二人。残りは凍結やら体温低下による運動制限のデバブやらのオンパレードのはず。こちらが前もって準備していた道具だけで到底足りるはずもない。あるいは、トーナメントに進んだアリアちゃんの更なる攻撃を危惧してってのも考えられるが……まあ、どちらにせよ、アリアちゃんのためのもの。またの名を犠牲者の救済といったところか。
「……多分、アリアちゃん関連かなって。あの巨大氷山を見て、お義父さんが必要になるだろうと予測したんだと思う」
私と似たような考えをアルフォースさんも感じ取っていたらしい。Bブロック終了後となれば、そのような考えが浮かぶのも容易いというものだ。
「じゃあ、一緒に救護室へ向かいますか? 私達も行き先は同じなので」
「そうかい? それじゃあ、お言葉に甘えて、同行させてもらおうかな?」
すぐそこではあるんだけれど、一時的にパーティーを増やし、私達とアルフォースさんは救護室へ向かった。



~あとがき~
長いのは切るところがなかったからです。

次回、Dブロック開始!
残り、出てきてない子達はだーれだ!!←

色々言いたいことはあるけど、長かったので、これだけ!
機会があれば、ラル&ティールとイグ&リアの出会いの話を書きたいなーと思っています。話自体は練り上げてあるのですが、如何せん、滅茶苦茶長そうなので、出すかは微妙なところですね。出したいけど。
これだけ!! 言いたかった!!((

ではでは!