satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

学びや!レイディアント学園 第65話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でとたばた日常を過ごす物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、放送を聞いていたラル達の話をやりました。一方その頃をお送りしました。ツバサちゃん達は何話もやったけど、ラル達は短かった。
ラル「あれくらいでいいんだよ。他が長いんだから」
それな。
まあ、頑張りますよ。今回で初めのゴング鳴ればいいけど……鳴らないかな……
ラル「さあ?」
他人事め……


《L side》
リュウ君の放送が流れた後、続々と生徒達が入ってきた。一週間前に顔合わせはしてあるものの、役員ではない人達の顔は正直、曖昧である。
「……私が統率すんのかぁ」
「頑張れ、会長」
「ファイトファイト~」
「……二人して、てっきとうなことしか言わな……あ、普段の私か」
人を統率するのは、生徒会としてだけではなく、探検隊としてもやるし、慣れてはいるけれど、こんな大人数はなぁ……まあ、大丈夫だろ。私一人ではないし。
「やあ、ティール、フォース」
「マル。ちょっとの間だったけど、楽しめた? 屋台とか」
人混みを掻き分けてこちらに近寄ってきたのは、今年の大会実行委員長、マル君だ。ティールの質問に、ふんわりした笑顔を浮かべて、ゆっくりと頷いた。
「おかげさまで、軽く回ってきたよ。毎年、人は多いけど、今年はそれ以上な気がするね。参加者の熱意も凄そう」
「四ブロック、百人ずつ。合わせて四百だろ? どこにそんな生徒いたんだよ……」
「うちの在校生はなかなかの人数だもん。そんなもんでしょ。……さて、マル君、そっちが全員揃ったかどうか確認してくれる? ティール、こちらも確認して」
「分かった。ちょっと待っててね」
「了解。部隊毎に並ばせる」
マル君とティールがぱっと集まった生徒達の方へと消えていく。そして、残っているフォース君をちらりと見る。
「フォース君、全員に通信機行き渡る?」
「数揃えましたよ、会長さん。後から合流するかもしんないから、一応、役員で大会出場予定の奴らの分と予備もある」
「手際がよろしいことで」
二人の人数確認も終わり、全員が揃ったのは、収集がかかってから十数分後だった。この人数なので、許容範囲内だろう。
注意事項の再確認、それぞれの担当範囲の話、軽い仕事内容の確認等々、話さなければならないものは全て話し終える。質問も出てこないのも確認し、私は全体を見渡した。
「今回は例年以上の参加人数で、予期しないトラブルや出来事に遭遇する可能性はある。しかし、それに迅速に対応するのが私達の仕事だ。……スポットに当たるのは、会場で戦う人達かもしれないけれど、あなた達も見られていることを忘れないで」
目立つのは大会出場者ではあるが、だからと言って、こちらに目が向かないわけではない。専門機関やギルドのお偉いさん達は、案外、裏方とも取れる私達も見ているものだ。強いだけが利点ではないのである。
「何かあれば、各班のリーダーを頼ること。それでも駄目だと判断した場合、私が対処する。……この先、臨機応変な行動を求められるようなこともあるかもしれないけれど、そのときは私の方から全体的に指示を出すので、通信機だけは手離さないで。壊すのも厳禁」
いやはや、臨機応変とか、予定外の指示を出すとかそんな事態には遭いたくないものだけれど。何が起こるか分からないのが、現場である。
「最後に、ここにいる全員が仲間だ。互いを信じて行動し、仕事に当たること。……以上! 開始時刻まで各班待機」
「了解っ!!」
生徒会役員、大会実行委員全員が声を揃え、返事をする。毎回思うが、こんな感じに話していると、生徒ではなく、何かの軍隊を率いているのではと思わざるを得ない。前にもこんなことを言った気がするけれど。
「ラルは開会式出るの?」
警備全体の指揮を任せたティールは、剣を腰に下げた状態である。何かあったとき、対応するためだろう。ただし、探検に行くときは二つ下げるところを一つだけではあるが。
「いんや。挨拶しろとも言われてないから行きません。ティールは?」
「出るわけないでしょ。会場にはいるけどね」
「あ、警備か。……今日はスイちゃんなの?」
ティールの持つ剣はスイちゃん、セツちゃん─正確な銘は水泉、雪花だが─という二つを所持している。スイちゃん、セツちゃんが対になっている武器……というわけではなく、それぞれ単体で成り立つものだ。それをティールが二刀流といいますか、なんちゃって双剣装備として普段から愛用している。この辺は話すときりがないので、本日は省略するけれど。
深い海のような色の鞘に収まるスイちゃんを見下ろしたティールは、少し呆れているような、冷めたような目をしていた。
「勝った方を装備してる」
『あのね! しりとりー! すいちゃがかった!』
「あー……心中お察しします。ティールさん」
私がティールの剣にちゃん付けしていた理由は、これである。雷姫のように喋るのだ。まあ、所有者のみに声を伝える雷姫とは違い、条件が幅広いスイちゃん、セツちゃんは私やフォース君にも、当たり前のように声が聞こえている。二人……? から、拒絶されないだけ、ありがたい話なのかもしれないけれど。
『るー! あのね、せっせんだったんだよー!』
「うるさい。しばらく喋るな」
『てぃーのいじわる~』
スイちゃんの相方、セツちゃんと白熱したらしいしりとりの内容を聞く前にティールが止めてしまう。そして恐らく、ティールはそのしりとりをリアルタイムで永遠と聞かされたはずだ。今は聞きたくもないんだろう。
スイちゃんを黙らせた後、生徒会の後輩君に呼ばれてしまったティールは、無感情な表情をぱっと笑顔に変え、そちらの方へと行ってしまった。いやはや、手慣れていらっしゃる。
「フォース君は……動く気ないだろ」
真面目なティールや委員長のマル君とは違って、私の近くにある椅子に座ったまま、のんびりとしていた。こいつはこいつで、生徒が出しているお店の管理やバックアップを指揮するような─簡単に言えば、店長とか、そんなもん─偉いポジションに置いたはずなのに、やる気ゼロである。
「店のトラブルなければなんもねぇんだって。備品壊れたとか、足りないとかそういうお手伝いしかしないし、大抵下の奴らが動く。おれがやる必要性なし」
放任主義が過ぎるなぁ。何もないならいいけど」
「どうにもならんときは、おれがやるからいいの」
ま、いいけどね。フォース君がやればできる子なのは知ってるし。
あぁ、そうだ。忘れるところだった。
私は救護班の集団へ近づき、ツバサちゃんの肩を軽く叩いた。真剣なお話をしているところ悪いけれど、少し話があったのだ。
「ツバサちゃん、そっちの話が終わったらちょっといい?」
「? はい。分かりました♪」
不思議そうにしていたけれど、何かを疑う様子も不信にも思わなかったみたいだ。笑顔と共に肯定の返事が返ってきた。
フォース君のところまで戻ってくると、私とツバサちゃんの様子を見ていたのが、小さいため息が聞こえた。
「……ろくでもないこと考えてんだろ」
「そんなことないよ。変なことじゃない」
……少なくとも、私からすれば、だが。

開会式の時間になり、生徒会と実行委員の子達はほぼいなくなった。私はというと、控え室から一歩も動いていない。いざってときに全体の指揮をしなければならないため、極力ここから動くなとの私の相棒にして、副会長からのご命令である。
『Ladies & gentlemen!! レイディアント学園、イベント会場へようこそ! 本日の司会を務めますのは、冒険科三年、放送部所属のリュウと!』
『同じく、放送部所属の……ま、魔術科一年、キャスでお送りします。……えと、よろしくお願いします』
生徒会控え室に備え付けられたモニターに映るのは、コロシアムのような会場に沢山の観客と、関係者席に座る教師やお偉いさん達。そして、聞こえてきたのは今回の司会を務める放送部の二人の声。片方は先程会ったばかりのリュウ君だ。もう一人は初めまして……いや、見たことはあるが、挨拶程度の会話しかしたことがない。淡い緑の髪を綺麗に切り揃え、かっこいいというよりも、可愛いという言葉が似合うような少年だった。
初々しい挨拶をするキャス君に、リュウ君が少々……いや、かなりのオーバーリアクションで絡んでいく。
『おいおい、相棒~? 初っ端からそんなに緊張してちゃあ、後半まで持たないぜ?』
『そ、そんなこと言われましても……今回の放送が初めての仕事で……って、そんな話はどうでもよくって! これ、生放送ですよ! 生放送!!』
すでに暴走気味なリュウ君の手綱を一年生の彼に操れるのか微妙なところである。というか、一年生なのに、リュウ君が相方なんて……
「この一年が噂の後継者?」
リュウ君曰く」
私と同じでなぜか部屋から出ていかなかった、フォース君が、放送部二人の雑談とも取れるやり取りを聞きつつ、うへと嫌そうな表情を浮かべた。
「相変わらずうっせぇな、こいつ」
リュウ君だからね。仕事はできる人なんだけど。このうるささをキャス君とやらが引き継がない未来を願うばかりです」
とまあ、私らは、キャス君が立派な放送部員になる姿を見届けることはないんだけれども。
「……で、聞いてもいいですか。ラルさん」
「なぁに?」
「姫様に何てことしてるんですか」
呆れ顔のフォース君は、会場の勢いに圧巻しているのか、モニターから目を離さないツバサちゃんを示す。当の彼女は救護室に行かず、ここで観戦中だ。理由としては彼女の格好にあった。
普段の魔術科女子制服ではなく、空色と白のエプロンドレスっぽいナース服に身を包み、頭には薄い水色のナースキャップ。そして、首元で赤いネクタイを締めている。これに着替えるためにわざわざこちらに残ってもらったのだ。ちなみに、同じ救護班にして、生徒側のリーダーを任せたリリちゃんにはツバサちゃんが遅れることに了承を得ている。
「可愛いでしょ? 私の姫ちゃん」
「天使なのか姫なのかはっきりしろよ」
「じゃあ、天使様」
「姫は『ちゃん』で、天使は『様』なの? 敬う基準が分からん。……ツバサさ~ん?」
「! は、はい! ごめんなさい! お話聞いてなくて……どうかしましたか、フォースさん?」
ツバサちゃんはフォース君に呼ばれると、慌てて画面から目を離し、こてんと首を傾げる。
「嫌なことは嫌だと言っていいんだぞ。おれとティールでこのアホ会長懲らしめとくから……」
「ほえ!? 全然、嫌なんかじゃありませんよ! とっても可愛いですし♪」
ツバサちゃんの満面の笑みに、何一つ嘘はないと判断したようだ。フォース君の口から諦めのこもったため息が漏れる。
「聞かなくても分かるが、これを用意したのは」
「ドールちゃん」
「……自分の分身に、んなことさせる気持ちをじっくり聞きたいわぁ」
「自分が着る訳じゃないんで、特には」
まあ、お勧めはされましたけれど。当然ながら、丁重に……且つ、キッパリお断りした。
朝に一人、生徒会室で“ドール”を呼び出した私は、その場の思い付きと言われても反論できないくらい、突然に服を見繕えと命令した。その命令を見事完遂し、今、ツバサちゃんが着ているナース服……と言うよりも、私服とも見える服を作り出した。これを出したときのドールのドヤ顔と言ったらない。たった数時間でツバサちゃんの服を作り出した理由については、恐ろしい考えが過るので、あえて聞かなかったが。
「ツバサちゃん、くるっと一回転!」
「わかりました~♪」
私のリクエストに笑顔で応えるツバサちゃん。その場でくるりと回ると、スカートがふんわりと揺れる。スカートの下はパニエでスカートのふわふわ感増し増しなのだ。このドールの気合いの入れようは予想以上である。
「次はポーズ取って~♪」
「はーいっ!」
スカートの裾をちょこんと摘まみ上げ、お嬢様のような挨拶ポーズをしてくれる。すかさず、私はカメラを構えて何枚か撮らせていただいた。
「はあぁぁ~♪ めっちゃ可愛い!!! いいよ、ツバサちゃん!」
「えへへ♪ ありがとうございます♪」
普段ならティールのツッコミが飛ぶところだが、生憎、彼は会場内の警備でここにはいない。ティールのお小言が飛ばない快適空間でツバサちゃんを堪能できるなんて、これは天国か何かなのかもしれない。
ティールいないんだから、余計なことすんなよ。変態」
「変態でいいよ! この可愛さの前じゃ、どんな罵倒も受け入れられるよ……何もかもが浄化されますわ……!」
「……おい、ティール! 戻ってこい。おれじゃ、こいつのお守りなんて無理なんですけど! 応答しろ!」
『……え? あっと、ティールです、けど?』
フォース君がティールに無線で連絡を取ったらしく、私の耳にもティールの戸惑った声が届く。回線は私とフォース君、ティールの三人らしい。
『あ~……よく、分かんないけど、変なことはしないでね、ラル。……どうぞ?』
「してないしてな~い! 今の私はテンションMAX! 何しても許せるくらいの聖女になってるから! どーぞ!」
『そう? じゃあ、この前、湿地帯周辺の依頼受けたので、今度行きましょうね~? リーダー』
「はぁ!? ざっけんな!! 聞いてませんけど!?」
「何でも許すとは一体」
「? どうかしたんですか? ラルさん」
『どうでもいいことに無線使わない。切るね』
衝撃的な告白をし、そのまま連絡を切りやがった我がパートナー様。なんなんだ、あいつ。
「テスト前に討伐系やるんじゃなかったっけ? それとは別件か」
「別件。……あの様子だと、いきなり言われて請け負った感じかな。まあ、いいや。今日帰ってからじっくりと問い詰めてやる」
私達三人の会話を聞けなかったツバサちゃんは不思議そうにしているが、説明したところで意味はないし、関係のない話だ。
私達がどうでもいいやり取りをしている中でも、開会式は粛々と(?)進められていた。次に意識をモニターに移す頃には、半分以上のプログラムが終わっていた。
『……実行委員長の話が終わり、続けてプリン校長からのお話~……といきたいんだが』
『ほ、本日、諸事情により、プリン校長は学園を留守にしているので……セラフィーヌ理事長からお話をしていただきます……!』
親方……否、校長の代わりが理事長ってどういうことよ。あの人は何処へ……?



~あとがき~
切るタイミングがなくて長いです。

次回、何気に初登場のセラフィーヌ理事長のご挨拶です! 開会式は終わらせるよ!!

長くなったので、さっさと終わります!
さっさと終わらせるけど、これだけ。
ツバサちゃんの衣装チェンジは予定(プロット)通りです。ラルがツバサちゃんの写真撮ってましたが、きっと専用アルバムでも作るんじゃないですかね。(適当)

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第64話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわたわたする物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック。
前回、屋台探索も終わり、出場者によるブロック決めも駆け足ながらも終了。
アラシ「……なんで、アリアと」
メタ的で身も蓋もないことを言えば、アラシ君のポジションのせいだよ。
アラシ「俺、そんなキャラ?」
ここではそうかな……?
アラシ「はあぁぁぁ~」
今回はお久しぶりのあの子視点です。ツバサちゃんがステラ達と合流して、楽しそうにしてる辺りまで時間を戻します。一方その頃ってやつです。


《L side》
剣技大会の開催日を迎え、一足先に周りの出店や屋台が賑わう頃。私と二人の男子は、しんと静まった部屋に集まっていた。集まった私達は大会の責任者として、ある程度の情報共有と、これからの段取りについての最終チェックだ。本来なら、出店等々が出る前に行う予定だったのだが、ある人物の遅刻があり、予定が変わってしまったのだ。
「……って感じによろしくね。言っておくけど、リュウ君。ここで機材故障なんてしないでよ。くっそ忙しくなる予定なんだからね!」
釘を指した相手は、今回の放送全般を請け負う放送部部長で、今回、朝に遅刻をしたリュウ君。理由は単純に寝坊したらしい。
リュウ君は紫色の髪を後ろでアップにまとめ、首にはヘッドフォンがかけられている。彼は冒険科三年で私と同学科、同学年だ。彼の放送は生徒には好評価なのだが、何かと機材トラブル─主に些細な故障─が多く、ことある毎に買い変えたいと申請に来る。そりゃあ、直らないくらい駄目になったのなら考えなくはないけれど、全くもってそんなことはないので、直せば使える! と、なぜか私が直しに行っている次第だ。原因は基本的にリュウ君なので、彼が卒業すれば、放送部も利口になる……はずだ。
「だぁいじょうぶだって! 今回使うのは、俺達の持ち物じゃないしな! 最高の機材と司会を勤めて見せるぜ~♪」
その最高の機材とやらを壊すなって話なんだけれどね、私は。
リュウの司会っぷり、楽しみにしてる人もいるだろうな。僕らで今回の大会、成功させようね」
少しおっとりした話し方をするのは、剣技大会実行委員長のマル君だ。彼も私達と同学科、同学年。リュウ君よりは俄然、話が通じる相手であり、この中の良心みたいなポジションである。いやまあ、今回の大会が終われば、このトリオも解散するけれども。
「極力、努力はするよ。……放送関連に関して言えば、ある程度は現場の判断で構わないよ。私からとやかく言わない。本当に何かあるなら、連絡してもらっていいけれど、基本、任せる」
「OK! 任せとけって!」
うるさい。音量下げろ。
リュウ君は放置しておき、もう一人の責任者に視線を向けた。
「マル君は逐一、連絡くれるかな。現状把握がしたいから、少しの疑問や懸念があるなら私に伝えて。何かあったら一人で決めようとせずに、周りと相談。よろしくね」
「分かった。……ラルさんは手慣れてて、安心するよ。こういうの、あんまり得意じゃなくってさ」
困ったように笑うマル君。ここでずっと気になっていた質問を彼に投げ掛ける。
「そんな気はしてたよ。よく受けたよね」
「前の委員長からのご指名だったんだ。それで断りきれなくって」
「あ、よくあるよくある」
「ラルも先代会長に押しきられて、今の会長職だっけか? いつ就いたんだっけ。気がついたら、お前がトップだったろ」
「一年生の冬。先輩が卒業するから、新しい会長を指名するとかなんとかで呼び出されて、あれよあれよと、今に至る……」
思い出したくもないわ。この生徒会に入ったのも、その会長に引っ張られたからだし、流石に会長なんて上に任せるだろとか思っていたら、こっちに投げてきたし。
先代の話なんてしたくはないが、どこか親方……プリン校長と似た雰囲気の持ち主だった。だからだろう。私が断りきれなかったのは。最初から苦手な相手だったというわけだ。しかしまあ、早めに会長という職務を得て、この組織を改革できた。自分好みの組織改革も完了したと言っていい。なんだかんだ、慣れると楽しいんだよね、生徒会長。
「雑談はここまでにして……私からはこれで以上よ。二人の質問がなければ、今後、余程のことがない限り、三人で集まるなんてないから、何かあるなら、ここで言ってね」
と、一応、形式に乗っ取った口上を述べるが、これを言われて、じゃあ質問ですと飛んできた試しがない。大抵、時間が経ってから、あれを聞けばよかった、これを聞き忘れたと思い出すものである。少しの時間を置き、それぞれの頭の中で整理する時間が必要なのだ。
「じゃ、今後は各自、連絡ちょうだい」
「おー! 円滑に進行するからよっ! 司会進行は任せろ!」
「うん、裏方業は任せてね。頑張るよ」
「トラブルはないに越したことはないけれど、何かあれば迅速に対処する。大会成功目指して、お互い頑張りましょ。……さて、解散!」
リュウ君とマル君と別れた後は、その足で生徒会が使用する予定の会場内に設置された控え室もとい、会議室へと向かった。

「ただいま、我が家……」
扉を開けると、見慣れた二人が好きな席に座って寛いでいた。どこから買ってきたのか、唐揚げを食べるフォース君と、律儀に周りの整理をしているティールだ。部屋は違くても、やっていることは、大して変わらない二人にどこか安心感を覚える。
「お前ん家じゃねぇけどな。ま、お帰り」
「お帰り、ラル。お疲れ様」
「こんなんで疲れてたら、体持たないよ~……で、どう? 今回の規模は」
「結構来てるぜ。去年よりは多いと思う」
「そのせいだと思うんだけど、お客様同士のトラブルが頻発してるみたい。ま、ラルが出なきゃいけないくらいのレベルはないから安心してね」
にっこりと笑うティールの口からは物騒な話が飛んできた。私が出なくても、フォース君やティールは出たんだろうな……
「後輩を引っ張ってこなきゃならんこともないし、人数の割には平和な方だ。不安に思っていた程、忙しくならんかも」
かもしれないけれど、生徒会としては人数がいつもより少ないのは、不安材料ではある。実行委員を少々こちらに回してもらっているし、その子達が上手く機能するといいんだが。
「お前の一言で問題ねぇよ」
「ラルの真面目バージョン、鶴の一声だもんね」
なんじゃそりゃ。いいけどさ、何でも。
フォース君の隣の席に座り、じっとフォース君を見た。
「……何?」
「言わなきゃ分かんない?」
「……言わなくても分かるけどさ」
ため息混じりに竹串の唐揚げ一つを私の口に突っ込むと、空になったらしいカップと竹串をビニール袋にまとめて、口を縛る。そして、フォース君は立ち上がることなく、備え付けのゴミ箱に投げ捨てる。投げ捨てられたそれは、吸い込まれるようにゴミ箱へゴール。それを見届けながら、フォース君からありがたくいただいた、唐揚げをちゃんと飲み込む。その唐揚げを味わった後に、ふと思い付いたことを口に出した。
「こういうお祭りの屋台ご飯ってさぁ」
「なんだよ、急に」
「うわ、マジかよって値段だけど、大体、美味しいって思うよね。屋台マジック?」
「素直に唐揚げ旨いって言えば?」
「唐揚げ美味しかったです」
「はい。お粗末さんでした。……でも、これって冷凍だったりすんのかね」
うわぁ、夢がねぇ……ま、冷凍も美味しいけどね。
「真面目に答えるなら、ちゃんとその場で揚げてると思うよ。今の唐揚げ、形が全部バラバラで、市販のものより大きかったから」
「ぼくらの家にある冷凍のって少し小さいもんね。主婦目線だ」
ティールのその発言には反論したいと思ったけれど、残念ながらその通りだったので、黙っておこう。
「フォース君も主夫だろ。頑張れよ」
「うち、揚げ物は極力しないから。面倒じゃん。油の処理」
分かる。めっちゃ分かる。けど、揚げたてが美味しいんだよなぁ。
「それは分かるけどさ……学校から帰ってきてからの揚げ物は気力ねぇな」
同意。
「『しゅふ』談義……?」
したいわけじゃないけど、暇だからね。しちゃうね、どうでもいい話。どうでもいいついでに、あんまり興味のない質問でもするか。今なら真剣に聞ける気がする。
ティール、今年のりんご飴、いかがです?」
「全部回ってきた~♪ 全部よかったけど、やっぱりいつものだね!」
「今年も同じところ来てたんだね」
ティールのりんご好きはいつものことなのだが、こういうお祭りの屋台では、りんご飴というお菓子が出るわけだ。出るのは普通で、買うのは個人の自由なんだけれど、ティールの場合、来ているりんご飴屋さんを全部回る。
この大会においても何店舗がお店が出ているようで、いつの間に行ってきたのか、ティールは全て制覇してきたらしい。そして、彼の言ういつもの、とは、毎年屋台を出しに来るりんご飴屋さんがあるのだ。
「飴とりんごのバランス絶妙だよね……飴の甘みに負けないりんご飴、最高……」
りんごの話になると、アホの子になるからな、ティール。私がツバサちゃんやしーくんに対して、可愛いとか、私の天使可愛いと騒ぐのと同じ原理。ものは違えど、似た者同士である。
「次はその味に会えないな。おれら卒業だし」
「あ、来年は一般客として来るから大丈夫!」
それのためだけに来るんかい!!
「ん~……それだけじゃないけどね。剣技大会、ゆっくり観客席で見てみたいなーって。考えてみると、ゆっくり見られたのって中等部のときくらいじゃない?」
まあ、確かに。高等部へ進学すると、ティールは選手として参加していたし、最初から最後までじっくり見る機会はほぼゼロに等しい。
「中等部三年のときは仕事で来れなかったもん。後さ、今ならそこそこの知識ついて、見るの面白そうじゃない?」
そうかもね。私は興味ないけど。
「あ、でも、来年は見たいかも。きっと、ツバサちゃんが参戦でしょ? めっちゃ見たい。来年はどうなってるか知らないけど、仕事休み取って来よう」
「とことんツバサ中心なやつだな」
心底どうでもいい話を永遠としていると、部屋に設置してあるスピーカーから、先程、聞いた声が響いた。
『放送部からお知らせだ! もうすぐ大会が始まるから参加生徒、大会関係者はイベント会場に集まってくれ! 到着した参加生徒はイベント会場入り口に集まり、案内の指示に従ってくれよ? 大会実行委員、生徒会の生徒は会場内の控え室Aに集合だ! もう一度繰り返す!』
立っていたティールが素早くスピーカーの音量を下げてくれたお陰で、ダメージは最小に留まった。ここのスピーカーいじるの忘れていた。初期設定のままだと、リュウ君の声によって、私達の耳が死んでしまう。
「ありがと、ティール」
「忘れてた。あいつだったな、司会進行」
「ぼくもいじるのすっかり忘れてたよ。間に合ってよかった」
さてさて、私達も準備しますかね。



~あとがき~
大会(導入)が終わりませんね。

次回、今度こそ、開会宣言を! お願いします!!

分かってるんですよ。茶番をなくせば、その分早く進むってのは……分かっているんです。でも、駄目なんです……楽しくて……この、無駄な会話が……楽しくてだな……っ!!

ラルが生徒会長になった経緯を少しだけ明かしました。ここでの生徒会のシステムについてちろっとお話ししますと……
生徒会に入るためには、選挙に参加する必要があります。で、そこで当選すると、一役員として迎えられます。例外として、ツバサちゃんがそうでしたが、会長自ら、スカウトした場合です。そうなると、選挙をパスして、役員として登録されます。まあ、滅多にありませんけど。ラルもツバサちゃん採用に関しては慎重になっていたのは、お話の中で出てきた気がするので省略します。
役職は一役員から指名制で決められます。そして、お披露目をして、よろしく! みたいな。まあ、選挙をパスする人がほぼなので、元から支持のある人ばかりなんですけどね。ティールやフォースはその口です。面倒臭がりのフォースが参加した理由は、ラルにお願いされたってのがあります。頼む。味方は多い方がいい! とかなんとか。
そんなラルは、入学早々、前会長に気に入られ、春から興味のない生徒会に出入りするようになって、選挙に立候補させられ、気がついたら会長にって感じです。流されてます。彼女らしくもなく、流れに流されました。理由は……一応、今回の話で語りましたね。苦手な相手だった、この一言に尽きます。前会長の話は……いつか機会があれば……うん。なさそうですけど、いつかね。

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第63話

~attention~
『空と海』のキャラが学パロなif世界で面白く過ごす物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバックで!
前回、長かった射的の話が終わりました。
今回で探索編は終わりかなーと思います。思いたいですね。
アラシ「願望が入ったな」
ステラ「探索が終わっても、次から大会が始まるとは言ってないんですよね~」
アラシ「あ、確かにそうだな」
そんなところに気づくとはお主も悪よのぉ……
アラシ「ステラが心底嫌そうな顔してるぞ」
ひえ……


《A side》
思った以上に色々あった射的屋から離れ、流れで、イツキ先輩達とも一緒に行動していると、各地に設置しているスピーカーから音声が流れ始めた。
『放送部からのお知らせだ! もうすぐ大会が始まるから参加生徒、大会関係者はイベント会場に集まってくれ! 到着した参加生徒はイベント会場入り口に集まり、案内の指示に従ってくれよ? 大会実行委員、生徒会の生徒は会場内の控え室Aに集合だ! もう一度繰り返す!』
聞こえてきた声は随分とテンションが高い。大会が始まる合図なので、ある程度はいいとしても、これ、始まったらさらに上げていくのだろうか。
「大会開始まで約一時間前ってところですかね。予定通りです」
あ、そうなんだ……ついでだ。これも聞いちゃえ。
「ユーリ先輩、この放送主って、昼の人っすか?」
昼の時間になると、放送部の活動の一つらしい、ラジオのようなもの週に何回か流れるのだ。内容は面白いのだが、何分、かなりの音量で話しているらしく、教室で音量を最小で聞いていても、よく通る声である。それはそれで、才能の一つなんだろうけど。
「はい。放送部部長のリュウさんですね。会長曰く、厄介者だそうです」
「厄介?」
「なんでも、よく放送機材を故障させるんだって。それで、会長様が放送部にお呼ばれして、機材を直しに行くの。余程のことがない限り、新しいのは買わせないって。高いから」
なるほど。ラルからすると、厄介の何者でもないってことか。
にしても、なんでもできるな、ラルのやつ……
「俺達も会場向かうか~」
「そうだな。時間内ならいつ行っても一緒だろうけど。……リリアやツバサさんはお仕事がありますし、会長から何かあるかもしれません」
……ん? その口ぶりだと、ユーリ先輩も大会参加する方?
「はい。当たった際はお手柔らかにお願いします」
うわあ……どうなるんだろ。
観客側のステラとリーフとはここでお別れである。一般客の入場はまだ先だから、二人はもう少し時間を潰す必要があるのだ。
「アラシさん、頑張ってくださいね! イツキ先輩とユーリ先輩も! 私達、席から応援してます♪」
「ツバサと、リリアーナ先輩はお仕事、頑張ってください♪」
後輩二人からの労い受け、俺達は会場へと向かった。ここで先輩達と別れる理由はないため、一緒に行くことにした。先頭を歩くのはイツキ先輩とユーリ先輩で、その後ろに俺とツバサ、そしてリリアーナ先輩だ。
「大会中の警備班、どんな組み合わせだと思う?」
「そんなの普段通りじゃない? あ、イツキと僕が抜けて、他にも二年生は何人かいないか。……代わりは誰だろ。とりあえず、隊のトップは副会長かな。フォースさんは生徒が出してる店の方をまとめてた気がする。お金関係で」
「んでもって、ラル先輩は全体の総括しないとだもんな。俺ら抜きってさ、各隊のリーダーはどうなんの? 入学式のときは俺達でやってなかった?」
「やったけど、大体三年生はでしょ。でも、今回は三年生、大会参加率高いからな。えぇ……と、今回のリーダー誰だったかなぁ」
生徒会って何してるんだろうって思っていたけど、そんなことやってるんだな。
「うん。全体の指揮は会長様のお仕事で、各班のトップに指示を出すの。で、そのトップから各部隊のリーダーさんに指示が飛んで、隊員が動く! いつも大きな行事だとこんな感じかな?」
へえ……組織化されてんだな。
「入学式とかはそこまでの人員を動かさないけど、剣技大会や文化祭とか、規模が大きくなると大変みたい。でも、会長様はいっつもスマートにお仕事をなさるのっ! かっこいいんだよ~!」
……リリアーナ先輩も、ツバサまでとはいかないものの、ラルが好きなんだな。いや、ツバサの好きとはベクトルが違うかもしれないけど。
熱弁するリリアーナ先輩にツバサは何度も頷き、先輩の言葉に同意した。
「ラルさん、とってもかっこいいです!」
「ねー!!」
そのうち、この二人で何かするんじゃないかな。ラルを崇める会とか褒めちぎる会とか、そんなのを立ち上げそう。
なんて下らない話をしていると、あっという間に会場までたどり着いた。教師達の誘導で、続々と参加者をさばいていく。ここで、ツバサとリリアーナ先輩とはお別れだ。二人は生徒会関係者の部屋へと向かい、俺とイツキ先輩、ユーリ先輩は参加者の集まるホールでブロック決めをしなくてはならない。
「じゃあね、いっちゃん、ゆっちゃん。予選落ちなんてしたら、あれだよ! いっちゃんは耳引っ張って、ゆっちゃんは尻尾を引っ張るから!」
リリアーナ先輩からの激励に二人の顔は青ざめる。そして、イツキ先輩は両手で耳を押さえて、ユーリ先輩は困り顔だ。
「幼馴染みがこわぁい……」
「言うようになったね、リリア」
「私は二人を信じてるんだよ?」
「いや、それなら、頑張っての一言で十分だけどね?」
「それだけじゃ、ゆっちゃん、手抜きするから」
「俺はユーリの巻き添えかよ!?」
「抜かないよ。……少なくとも、予選上がるまでは。僕の目標、そこだもん」
思ったより、低い目標……なんて、思ったけど、参加人数がかなりいるみたいだし、勝ち上がるだけでも相当大変だろう。ある意味、少し低めのハードルを設けて、努力した方が達成感があっていいかもしれない。
「アラシも頑張ってね! その、あーちゃんのこともあるけど……頑張って!」
あ、はい……うん、アリアなぁ……

俺は参加者の待合室として、かなり大きめのホールへと通された。どうやら、人数の関係でいくつかの待合室が用意されているらしく、俺と先輩達は別の部屋へと通された。そりゃ、何百人が一か所に集められて、さらにくじを引くなんて、時間がかかる。分けて行うのが普通だ。
「ん? あれ、ミユルとシエルも参加すんのか?」
俺と、ここに入ってすぐに見つけたレオンとアリアとで待合室の端に固まっていると、見知った顔がこちらに近寄ってくるのが見えた。
ミユルはにこりと笑って答えた。
「セラおばさんの講習会に行きたくて。講習会なら、優勝しなくても参加資格貰えるかもだし。シルも私と同じ理由よ♪」
「へ~……俺やレオンは賞品に興味ないんだけど、そういう人が多いんだろうな」
「ま、二人はそうだろうね。……で、そのレオンは大丈夫なの?」
シエルの視線の先に、壁に全体重を預けてぐでっとしているレオンがいた。俺がアリアとレオンと合流したときからこんな感じである。気絶はしていないから、会話は可能だけど、極力話したくないようで、俺に状況説明をした後は、ずっとこの調子だ。ちなみに、アリアは興奮気味で落ち着かない様子である。
「なんか、ここに来るまでに首根っこ掴まれたまま引きずられたんだとさ。周りがくじを引き始めたら、勝手に復活するって」
そこから数分後、教師からのアナウンスが入り、参加者によるブロック決めが始まった。そして、予想通り、ぐでっとしていたレオンが跳ね起きる。近くに立っていたシエルが驚いたのか、びくっと体を震わせた。
「っしゃ! どうせなら、皆で確認しようぜ! いっせーのーせっ感じで!」
「それはいいけれど、どうして?」
ミユルが不思議そうに質問をした。俺が考えるに、大した理由なんて存在しない。聞いたところで呆れるだけだ。
案の定、レオンはけらけらとおかしそうに笑って、一言。
「んなの決まってるだろ? そっちの方が面白そうだから、だよ!」
ほらな。心底、どうでもいい理由だった。
俺達が全員、一枚ずつくじを手に持ったのを確認したレオンはニヤニヤ顔のまま、合図で紙を開くように促した。俺が持っているくじを見てみると、それは四つ折りになった簡素なものだった。これを実行委員達が一から作ったのかと思うと、彼らの苦労も途方もない。……もしかしたら、使いまわししている可能性もあるけどな。
「せーのっで見えるように開けるぞ~?」
「予選は四ブロックで行われるってことは、僕達は五人だから、最低でも一組は被るね」
「ふふ……タダ券……♪ ご飯……!」
「気合い入っているわね、アリアちゃん♪」
「タダ券……!」
出てくる言葉は「タダ券」か「ご飯」のほぼ二択だが、ミユルの言葉に頷いている辺り、話は聞こえているらしい。やれやれ。それなら、もっと違う言葉も話してくれたっていいだろうに。……無理か。
「せー……のっ!!」
レオンの掛け声で俺達は一斉にくじを開いて、お互いに見せ合った。皆の反応はそれぞれだが、俺は叫ばずにはいられなかった。
レオンはAブロック。アリアはBブロック。ミユルはCブロック。シエルはDブロックだ。
そして、俺の手の中にあるくじは大きく大文字の『B』の記述。それが意味するものは、俺の割り当てがBブロックだということ。俺とアリアが被ったということ。
これが頭を抱えない理由がないだろ。
「なぁぁんで、俺なんだよぉぉ!!??」
「ゆう~しょうっ♪」
タダ券とご飯以外も話せるじゃん! いや、そうじゃねぇ!!
「にゃはは~♪ 頑張れ、アラシ~♪」
くっそ! むかつく笑顔しやがって!! こういうのはお前の担当だろう!?
「担当なんて初耳だけど!? いや、俺はあれだ。さっきの屋台巡りに行ったから。それでほら、免除だよ。免除」
一生、レオンがアリアの相手してくれよ……
「地獄だな~……無理~」
くっ……決まったものは仕方がないとはいえ、俺が何をしたと言うんだ。



~あとがき~
探索編終わった……勝手に探索編とか呼んでるけど、終わった……

次回、大会(予選)スタート! の前に、生徒会の話をちらりとしますね。まあ、流れでスタートできるでしょう。

大会始まるまで約十話程かかってますね。長いね。
ここから予選が終わるまで、どれだけかかるのやら……十話でおさま……らないか。うん……

全くのノープランでしたが、アラシ君が生徒会二年組とお話しするシーンが書けて満足です。今後、何かあるかもしれないし、交流を広げておけ、アラシ君!!←え

ではでは!

空と海 第226話

~前回までのあらすじ~
フォースがポチャに活を入れました。
多分、ピカとポチャのほのぼの回も終わります。
ちなみに、今回の話からは夏祭り編終わった後に書いてる奴です。だからなんだって話ではありますが。
フォース「久し振りに本編にも余裕が出てきたな。これ出すときは知らんけど」
ポチャ「シリアスから脱したからだね」
そうっすね……シリアスよりも断然ギャグテイストの方が好きです~♪
今回がそうなるとは限らないけどな!
ポチャ「……えっ!?」
フォース「www」


基地に戻ると、さっきまで五人もいた空間に二人だけになったからか、少しの寂しさを感じた。ここ最近、この基地に大人数で寝泊まりしていたせいもあるのだろう。なんだか、二人きりが新鮮に思えた。……いや、実際には先週、二人で仕事三昧だったんだけども。二人りきではあったけれど! そうじゃなくて、我が家に二人が随分、久しく思えた。
……ぼくは誰に言い訳をしているんだろう。
「まだ日が沈まないから、明かりいらないね~♪」
「そうだね。もう夕方のはずだけど、まだ明るいや」
「暑いのは嫌だけど、寒いよりはまし」
散らばった書類をかき集めながら、天気に文句を言っている。それを言うなら、ぼくは真逆の方がありがたいんだけれど、この話については堂々巡りになる可能性が大だから、話題に上げないのが得策だ。現にこの前もそうだったし。
ぼくはいつもの定位置に座り、ただなんとなく、ピカを目で追っていた。頭ではフォースと交わした会話が巡っている。
ぼくとピカは探検隊としてのパートナー歴、それに伴って友達、親友歴の方が長くて、今更、恋人になりましたなんて実感がない。一年以上はピカを友達ではなく、女性として意識していたはずだけれど、だからって何かが変わったわけじゃない。
ぼくは、何が望みなんだろう。今と、昔、何が違うんだ……?
「ポチャ、どうかした? あ、夏バテか。早いなぁ!?」
考え事をしていたら、ピカが不思議に思ったようで、呆れたような目でこちらを見ていた。ぼくは慌てて、首を振る。
「ちがっ……別にバテるほど、動いてないし、水分補給だってやってるよ」
「そう? ならいいけど。倒れるくらい我慢なんてしないでよね~」
「う、うん……」
この前の散策をデートだって言う割に、ピカ自身はぼくを意識しているようには見えない。いつも通りのピカ。探検隊スカイのリーダーであり、ぼくの大切な相棒で、親友のピカだ。それ以外が見えてこない。
「あのさ、ピカ」
「ん~?」
ある程度、片付けが終わったピカは、書類をまとめて保管している大きな宝箱のような木箱に手をかけているところだった。こちらは振り返らずに返事だけが返ってくる。そして、ぼくはこの先の言葉が出てこなくて、黙ってしまった。
箱を閉める重い音が響いた後、ピカがこちらを振り返り、ぼくの真正面に座る。そして、彼女はこくっと小さく首を傾げた。
「ポチャ?」
「あ……と、その」
言葉に詰まるぼくにピカは急かさず、じっと待ってくれていた。茶化さなかったのは、ぼくの表情から察したのかもしれない。おふざけモードだったら、ここで茶々を入れているところだから。
「あの、何て言うか……ピカは将来をどう考えてますか!?」
頭がぐちゃぐちゃで、やっと出た言葉は意味の分からないものだった。親じゃないんだから、何かもっと言い回しがあるだろうに。なんだ、これ!?
「あ、えーっと……最近、そこら辺気にしてるよね。ぼくがパートナーでよかったか、とかさ」
「ちょっとね……」
パートナーうんぬんは自信喪失して思わず聞いてしまっただけだ。時々、そんな不安を覚えてしまう、ぼくの弱さが嫌にはなるんだけれど。……いや、今聞きたいのは、そんな話ではないのは分かる。
ピカは少し考えながら、首に巻いてあったスカーフを外した。
「繰り返しになるけどさ、私はポチャ以外のパートナーなんていないって思ってる。だから、ポチャ以外の人とコンビで探検隊はやらないよ。それを踏まえて、さっきの質問に答えると、将来もずっと、ポチャと探検していきたいかな。いけるとこまで、二人で」
「ピカ……」
「仕事は嫌いだけど、探検は嫌いじゃないんだよ。だから、何を不安に思っているのか分からないけど、これからも私の相棒してくれると嬉しいかな。……あ、もちろん、ポチャが探検隊はいいやってなる日が来たら、それはそれでとめない。ただ、そのときはちゃんと言ってね?」
嘘偽りのない笑顔を浮かべ、今の気持ちを伝えてくれた。
真っ直ぐな、普段見えてこない心の奥の気持ち。
「ぼくも、そう思う。ずっと、ピカと探検隊やっていきたい。……だから、ぼくが探検隊いいやなんて言わないよ? 言い出しっぺはぼく自身だ。言い出しません!」
「あははっ! 確かに! でも、過去に一回あったからなぁ……?」
ぐっ……!? あ、あれは……!
ぼくが何か反論する前に、ピカはおかしそうに笑った。
「ごめんて。あれはポチャが探検隊を嫌いになって言い出したわけじゃないのは分かってる。……それは置いておいて、ポチャは王子様なわけだし、何かあれば国に帰らなくっちゃ」
「ま、まあ……そうだけど、でも、ぼくは何かあっても絶対にここへ帰ってくる。君を置いて、どこかになんていかないよ」
「うん。ポチャはそういう人だもんね。分かってるよ」
……あれ、なんでこんな話に……? ぼくが聞きたかったのはこれじゃない、よな? えっと、そうだ。結婚の……はな、し、だよね。フォースが確かめろって言っていたのはそれだったはず。けど、もう話の修正なんて出来ない。かと言って、直球に聞ける程、肝も据わっていない。今回は諦めようかな。
「……あ、そういうことか?」
ぽつりとピカが呟いた。そして、彼女にしては珍しく、顔を赤くして、ぼくから目を逸らした。ぼくは意味が分からず、戸惑いつつ、問いかけた。
「え、と、ピカ?」
「隣、行っても……いい、ですか……?」
「う、ん。いいけど」
ぼくとは目を合わせず、すとんとぼくの隣に座る。ピカの顔を見ようとしても、そっぽ向かれてしまい、どんな表情なのかが分からない。
「さっきのは、私の……ピカとしての思い」
「探検隊続けるってやつ?」
ピカは黙って頷く。
「探検隊の私……一部隊を率いる、リーダーの思いであり、そうでありたいっていう願い。……でも、一人の女の子っていうか、その、ラルとしては、違う」
「違う……?」
ここで、ピカがこちらを見た。顔を真っ赤にして、いっぱいいっぱいの彼女は初めて見るかもしれない。
「私は、ティールとずっと一緒にいたいって……添い遂げるって夢くらいはある」
「…………えっ」
今度はぼくが赤面する番だった。
「今は、まだ早いと思うけど、将来的には……五年とかもっと後になって、そういう話があるなら……考えなくはないって話!」
「ぷ、ろ……ぽーず? ですか、ラル、さん」
「ち、違う! 私からはしない!!」
しないんだ……
「しないよ。だって、確約出来ないから。私はふらふらしてる自覚あるもん。もしかしたら、明日、パッといなくなるかもしれない。だから、私からお願いなんてしない。……ティールにそんな私を受け入れる覚悟が出来たんなら……そのとき、私がティールの隣にいられるのなら。一生、家族として傍にいます! 以上!」
一気に捲し立てると、再び、ぷいっとそっぽ向いた。そんな反応がありがたかった。今のぼくも、ピカに負けないくらい真っ赤になっていると思うから。でも、それじゃあ……いつものぼくだ。
何度か深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。まだ顔が熱い気もするけれど、これは夏だから仕方がないと無理矢理思い込むことにした。
「つまり、ラルはぼくと、けっこ……」
「今は言わないで。めっちゃ恥ずかしい」
「……分かった。じゃあ、こっち、見てくれる?」
少しの沈黙の後、ピカがゆっくりとこちらを振り向いた。俯いたままではあるけれど、なんとか様子を窺えそうだ。
「ラル」
ティール……んっ」
名前を呼び、顔を上げたところで、そっとキスをした。軽く触れるだけのそれはすぐに終わって、代わりにピカを後ろへと優しく押し倒した。
「わっ……!」
「今ある問題を全部片付けて、安心出来るようになったら。……ぼくがラルといられるようになったときは……約束する。ちゃんとお願いするから、覚悟しててよ」
ぼくの下でピカがぽかんとしていた。普段のぼくじゃやらないから、びっくりさせてしまったのかもしれない。
「なんか……ティールがティールじゃない、みたい」
「こんなぼくは嫌い?」
「ううん。だぁいすき。……ね、ぎゅってしていい?」
「へっ!? わっ、ちょっ!?」
ピカの両手が伸びてきて、ぼくを抱き寄せた。耐えきれなくて、ピカの上に崩れ落ちる。退きたくても、ピカが離してくれなくて、がっちり密着してしまっていた。これは予想外で、ぼくの頭はプチパニックだ。
「わ、ラル、なんっ!?」
ティールのそのお願いを受け入れられるように、私、頑張るね。よろしくお願いしますって言えるように」
「ぼ、ぼくも、自分で納得できるように強くなる。……それまで、待っててね。今度は前みたいに待たせないよ」
ピカの手が緩むと、ぼくは四つん這いになって、ピカの上に被さるような体勢になった。ぼくの下でピカはふわりと笑う。
「うん。……ティール、大好きだよ」
「ぼくもだよ、ラル。愛してる」
どちらかともなく、もう一度キスを交わす。長くも短い時間を共有して、二人で甘い時間を過ごした。



~あとがき~
このあとはご想像にお任せって奴です。

次回、オーシャンの二人+フォースの話。
ピカとポチャをピックアップしたんでね!

こういう恋愛的なお話はしばらくありません。最後ですとまでは言わないけど、そう言っても間違いないくらいには予定がないです。
というか、久し振りでしたね。フォースと鈴流以来ですかね……?
そもそも、恋愛絡みのきゃっきゃっした話なんて、フォース&鈴流か、ピカ&ポチャにしか書けないんですけど、鈴流はもういないし、ピカとポチャはお互いにやる気がないんで……必然的に機会もない。私自身、こういうのは書き慣れてないので、単調な表現ばかりで申し訳ないですけどね~

今回でかなり進展というか、ポチャ君はかなりジャンプした気がします。そんなに飛んでいいのかってくらいです。ピカはピカで一途なので、問題ないと思いますが。
さて、二人は無事にゴールインするんですかね……(遠い目)

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第62話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界で日常生活をはちゃめちゃに楽しむ物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック。
前回はツバサちゃんの秘められた力が発揮しました。あれは物理法則なんて効かないんです。そういうもんです。餌食になるのはアラシ君です。
アラシ「……」
ツバサ「ふえ……」
アラシ「あぁぁぁ!! 大丈夫! 大丈夫だから! そんな泣きそうな顔になるなって!」
まあ、使わなきゃ平気だから大丈夫! 大丈夫!
でも、球技大会みたいなことするときは大変だね。そんなのあるのか知らないけど。
アラシ「もうそれ以上は言ってやるな」


《A side》
三人の先輩と面識があるらしい、ステラとリーフはぺこりと頭を下げていた。そんな二人にリリアーナ先輩はステラとリーフ、交互にぎゅっと抱き締めている。どういう関係なんだろうか。
「リリアは可愛いもの好きなんですよ。……会長よりはましな方です」
な、なるほど……? よく分からないけど、分かったってことにしておきます……
俺の気持ちを読んだのか、ユーリ先輩が少しの呆れた感じの表情を浮かべて、説明をしてくれた。そして、俺の横に並んだイツキ先輩はツバサの様子を見て、楽しそうに笑った。
「ツバサ、めっちゃ気合い入ってるな~♪」
「あぁ……色々ありまして」
ここまでを説明するのも長くなるため、とても便利な言葉、『色々』を使って、一言で終わらせる。説明にもなってないが、イツキ先輩はこれ以上、追求しなかった。
「ふうん? あ、ユーリもやってみれば?」
「やだよ。お前がやれ」
「なんで!? 俺よりユーリの方が得意でしょ」
「どこを見て判断しているんだ。……似たような会話、前にもしたよ? 僕の得意分野知ってて言ってるなら殴るぞ」
「わあ~……おんなじように返された~」
なんか、部活で先輩に言われているような感じの雰囲気……だな。何て言うか、いじられてるときの先輩って感じ。しかし、違うのは、部活の雰囲気よりも自然な空気感がある。ユーリ先輩とは幼馴染みらしいし、二人の空気ってやつなのかもしれない。
「俺、嫌なんだよね。いちいち詰め込むのダルくない?」
「全部が全部、そうだとは言わないけど、そう言うならイツキは銃は……いや、お前、弓道やってたよな。あれも矢を一つずつ構えて射つし、連射は難しいよ?」
それは初耳だなぁ。この前、部活の練習試合でも思わず足を使って、相手を牽制するような素振りを見せていたし、イツキ先輩、思ったよりも引き出し多いのか。
でも、それはイツキ先輩にとってはよくない話題らしく、うげーっとあからさまに嫌がるような反応を見せた。
「嫌なこと思い出させるなよ! 姉ちゃんの付き合いでちょーっとやったけどさ、あんな時間のかかることやってられるか!」
「マツリさんは全く関係ないよね」
「るっせー! だからって、兄ちゃんみたいのもお断り! くっそ痛いし!」
「ダイさんも関係な……」
「俺は剣一本でやるの!! おだまりー!」
「駄々っ子か?」
今出てきた名前は、推測するにイツキ先輩のお姉さんとお兄さん、なんだろう。
再び、ユーリ先輩が俺に向かって説明をしてくれた。イツキ先輩を挟んでいるため、少しだけこちらに体を傾け、俺と目を合わせる。
「イツキのお姉さん、マツリさんは弓道に、お兄さんのダイジュさんは武道、柔道や空手とかですね。そちらの方に造詣が深い方々なんです」
「へぇ……それでイツキ先輩もやったことあるんすね? 弓とか、体術とか」
「そうだな。嫌な思い出だけどね。ガキの頃、とことん付き合わされて、俺のやりたいのはこれじゃないーって泣きわめいて、剣の道に進んだ」
「僕ん家に逃げ込んだことも数知れずってね」
「お前の魔法で匿ってくれるじゃん」
「あれは粗末なもんだったけど、当時はお前の泣きべそを見てるのは楽しかった」
「鬼か、お前」
「冗談だよ。今思えばって話」
そんな話をしていると、銃を撃つ乾いた音が響いた。忘れていたけど、ツバサがやってたんだった。意味はないけど、咄嗟に額を手で押さえるが、コルクが当たった感じはない。となると、他の誰か……?
「いっつっ!?」
あ、イツキ先輩……!
突然の衝撃にイツキ先輩はぐらりとバランスを崩し、後ろへとよろける。ツバサのびっくりした声と他の人達の戸惑った声が聞こえてきた。このままでは尻餅をついてしまうところだったが、それをユーリ先輩が上手く支えてくれたようだ。イツキ先輩が後ろに倒れてしまう事態は防げたらしい。しかし、突然だったにも関わらず、最適解を判断していた。これはきっと、誰にでもできるものじゃない。ユーリ先輩、凄いな。
「す、すみません!! イツキさん!」
「そんな叫ばなくても大丈夫だよ、ツバサ。……ありがと、ユーリ」
「どういたしまして。お礼は大会終わりにご飯奢ってくれればいいよ」
おお、すっげー笑顔……時折、ラルもそんな楽しげな笑顔浮かべるときあるけど、決まってふざけたことを考えてる。ユーリ先輩もその口なのか……?
イツキ先輩はそれにどう返そうかと数秒考えて、にやっと笑った。恐らく、ふざけるつもりだ。
「何それ、お高い。俺の愛で許して?」
「うわ。気持ち悪い」
「いだぁ!?」
「いっちゃん!?」
ぺいっと無造作に前に投げ出される。当然、受けきれるはずもなく、イツキ先輩は顔面から地面と激突する羽目になった。こうなるなら、後ろから尻餅をついた方がダメージなかったのでは?
「もおー! 単なる悪ふざけに対する突っ込みが過激すぎる!! お前、俺のこと嫌いか!?」
「嫌いなら幼稚園からここまで一緒にいるわけないじゃん」
「はあ!? え、じゃあ、何か? ツンデレってやつか! ユーリ、お前はツンデレ属性なのかっ!」
「いやぁ……なんかやれって言われた気がして」
「誰にだよ!? もう、そいつのこと殴ってくるから位置を教えろ!」
「それは分かりかねます」
「ユーリの得意分野だろ!?」
遊んでる。絶対に遊んでるよ、ユーリ先輩。レオンみたいになってる。滅茶苦茶楽しそうだよ。
はあー……さてっと。最後の一発も駄目だったわけだ。流れ弾はイツキ先輩に当たって、ちょっと助かったなんて、言えないけれど。
「ほら、ツバサ。貸してみ?」
「……うん」
俺はしょんぼりしているツバサに近寄り、銃を受け取る。ここから狙いのマスコットまで、最高得点の的を連続で取るしかないだろう。ツバサの残した弾は二発。これらを全て連続で当てなければならない。まあ、多分、大丈夫……多分。
狙いを定めて、集中する。的は動かない静止した物体だ。きちんと狙えば、問題ない。
引き金を引くと、狙った通りに一番小さい的を撃ち抜いた。周りの歓声は無視し、集中力を維持したまま、次の的を定める。俺の構える位置からだと少し高いが、空気抵抗と距離を考えて、標準を合わせた。
「……この辺……かなっと!」
最後の一発も最高得点の的に当たり、なんとかツバサの欲しがっていた得点に届いた。ほっと胸を撫で下ろしていると、ツバサがいきなり俺に抱きついてきた。そして、パッと明るい笑顔で俺を見上げる。
「ありがとっ!! アラシ!」
「お、おう」
顔が赤くなるのを感じ、慌ててツバサから目を逸らした。その視線の先にたまたま、ステラがいて、にこっと笑う。その笑顔で俺は悟った。
あ、それは駄目なやつ。
「アラシさん、すごい! フォースみたいに撃ち抜いちゃった」
「すっげー! アラシ、銃できるんだな!」
ようやく顔面から落とされたダメージから回復したのか、イツキ先輩が立ち上がる。純粋に感心して、言っているようで、俺は少し照れつつ銃を台に置いた。
「え、あ、まあ……ある程度は。知り合いに得意なやつがいて、手解き受けてるんで……まだまだっすけど」
「いやいや~♪ 謙遜すんなって。アラシ、かっこよかったよなー?」
「ですねっ! ツバサちゃんのためにアラシさん、めちゃめちゃ集中してましたもんね? アラシさん、かっこよかったよね、ツバサちゃん♪」
「うんっ! かっこよかった!」
うわぁ!? これ以上はやめてくれ!!
イツキ先輩は他意がなさそうだが、ステラは明らかに意識して言ってる。わざと言ってるだろ!?
「ツバサちゃん、リーちゃん。景品もらいに行こ」
「うんっ♪」
俺の反応に満足したのか、ステラはツバサとリーフを連れ、お目当ての熊をもらいに行ったらしい。ここにレオンがいなくてよかった。心から思った。本当に。
一応、また何か言われないようにと、ステラ達からほんの少しだけ距離を取る。すると、その近くにユーリ先輩が立っていた。俺が近付いたことに気付いた先輩は柔らかな笑みを浮かべる。
「この前の件もそうですが、アラシさんはツバサさんのためなら頑張る方なんですね」
「はへぇっ!?」
思いがけない相手からの不意打ちに変な声が出る。そんな俺にユーリ先輩は、小さく笑った。
「すみません。男女関係とかそういう話ではなく、ちょっと分かる気がするなって」
「だんっ!? ん?……え、と、分かる……?」
「仲のいい人が困ってたら、何かしてあげたいですからね。力になれるなら」
ま、まあ、そうかもしれないっすけど。ユーリ先輩の場合、その相手って……
ユーリ先輩の視線の先には、イツキ先輩とリリアーナ先輩がいた。俺の目線に、先輩はそっと左手の人差し指を口に当てる。
「リリアはともかく、イツキにこんなこと言ったら調子に乗りやがるので、内緒でお願いします」
「あぁ、はい。分かりました」
それだけを告げると、ユーリ先輩はイツキ先輩達のところへと近付いた。
今、一瞬だけ見えた、左手のブレスレット。イツキ先輩の持っているものと同じものだった。紐の色や装飾だろう石の色は違うけれど。あれは、二人にとって大切なものなんだろう。なんだかんだ言って、仲がいい先輩達だ。
「見てー! もらってきたのっ♪」
ぱたぱたと駆け寄ってきたツバサの手には、手のひらサイズの小さくて真っ白の熊が乗っていた。
「ステラちゃんとリーフちゃんとお揃いっ」
「そっか。よかったな、ツバサ」
「えへへ……アラシ、ほんとにありがとね」
大事そうに熊を持って、満面の笑みを見せた。ステラもリーフも楽しそうにしていたし、何よりこいつのこんな笑顔を見れた。女の子三人のお守りも悪くはなかったんだなって思う。
ツバサはリリアーナ先輩達にも見せていて、和気あいあいと話をしていた。
「わあ♪ このくまさん、ツバサちゃんみたいにもふもふしてるね~♪」
「ラルさんとリリアーナさんのブラッシングのお陰ですよ♪」
「そいや、この二人そんな関係だった! 最近、ブラッシングしたの?」
「大会の準備で私は全然だよ。会長様もおんなじじゃないかなぁ」
「そうですね。……あ、でも、ラルさんに簡単にですけど、してもらってるんですよ。ささっと」
「へぇ……あんなに忙しい中でもツバサさんの毛並み第一なのか、あの人は」
「すーくんも髪の毛とか解くの上手だよ。ブラッシングも得意なんじゃないかなぁ?」
「かもね。たまーに結んでもらうもんね。ステラ」
「ほへー……機会があればお願いしてみるのも楽しそうだね~♪ でも、してくれるのかな?」
「ツバサの頼みなら聞くっしょ。あの先輩も!」
……どこにそんな根拠があるのか分からないけれど、まあ、馴染んでいるようで何より。
俺が生徒会の人じゃないってのもあるが、こうして、先輩と世間話するツバサはなかなか見ない。ツバサが生徒会でどんな風に過ごしているのかなんとなく、見れた気がした。
「……あいつは笑ってる方がいいもんな」
俺は誰にも聞こえないように、そう呟いた。



~あとがき~
なっっっがいな、大会前の探索!!
そして今回の話が長い!(全体で六千字超え)
いや多分、あとがきが長い! 暇なときに読んでください。語ってます。あれなら、読まなくていいです。語ってます。(二回目)

次回、終わります。終わらせます、探索を終わらせますよ。本当に。

茶番を入れまいとしたけど、勝手に喋りましたね。ユーリとイツキ。まあ、いいです。楽しかったので。お互いがお互いを大切な親友、相棒だと思っています。しかし、それをあえて表に出さないユーリと、前に出しまくるイツキコンビです。
機会があれば二人だけの話とかもありかもしれない。ネタがないけど。

ツバサちゃんの残った弾を代わりにやる人選は思った以上に悩みました。せっかく考えて、ある程度の形にはなっているので、没ったパターンをささっとご紹介します。今回、話に書いたアラシ君パターン含めて四つ考えてありました。
初期の私の考えとしては、ユーリがやる予定でした。イツキに「やってやれよ。後輩のためだぞ~!」みたいなことを言われて、「僕でいいなら、別にやるけど」って感じの。休日編で銃に興味を持つシーンもあったので、ありかなぁと。しかしまあ、何分、こいつ滅茶苦茶目立ってたので、そっと降りてもらいました。あと、この場合だと、イツキがぺいっとやられるシーンからの茶番はなかったでしょうね。普通にお礼言ってから離れて、お前やってやれよ感じになると思うんで。
次に考えたのは、イツキがやるパターンですね。こいつに関しては、ぺいっとやられて、地面とこんにちはした後に、ユーリが「こういうときはお前の出番だろ」と急かされ、頭にはてなのイツキに「できたら好きなもの買ってあげる」とかなんとかで乗せられ「やってやんよ。見てろよこんにゃろー!!」とムキになってやる感じでした。で、ここでユーリがイツキを褒めるってシーンがありましたね。今回の最後の方にあった感じのやつです。それで、アラシ君が二人の友情というか、信頼関係を考えるってシーンを入れるつもりでした。
最後には言い出しっぺの法則としてステラがやるってのもありました。責任持って私がやるね! みたいな感じに。まあ、このパターンが一番短く収まるやつでしたね。今考えると、ですが。
とまあ、そこに今回書いたアラシ君パターンを合わせて四パターンですかね。それら考えて、ユーリはそっと外したわけですが、それでも三つ残ってて、どれにするよ、私!! って状況に陥ったわけです。これはもう私の考えたストーリーは言わずに友人に誰がいいかと聞いたところ(相方には、男子三人+ステラの中で誰がいいと思うかという話しかしてない)、今の今まで大したイケメンポイントのないアラシ君でよろしくされたので、アラシ君になりました。
結果、アラシ君で、ステラやイツキ(イツキは意識してないけど)に茶化されるシーンや、ツバサちゃんがアラシ君の見ていないところでも、楽しく学園生活を送っていることを彼自身が再確認したので、よかったのかなーと思います。

ではでは!

学びや!レイディアント学園 第61話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でわちゃる物語です。本編とは一切関係ありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック推奨。
前回は色々巡って、射的屋に到着したところまでですね。そこで女の子三人は射的にチャレンジするぞ! ってところで終わりました。
思ったより屋台探索が長いなと思っております。まあ、楽しいんでいいんですけど!
アラシ「やり過ぎると後が辛いぞ」
ステラ「そうですよ。試合の描写とか」
いや! 聞きたくないわ!!
アラシ、ステラ「……」


《A side》
三人同時ではなく、まずは言い出しっぺのステラが銃を構える。弾はよくあるコルクで、これまた普通の射的によくある銃だ。銃口に弾を込め、引き金を引けば、簡単にコルクが撃ち出される。
的には様々な形があり、大きければ得点が低く、小さくなればなるほど得点が上がる仕組み。これまたよくあるルールだ。景品を撃ち落とす代わりに的を撃ち落とすのだろう。見る限り、的は簡単に撃ち落とせると思うが、それは狙いどころがよければの話だ。ぼったくりする気がないだけましなのかもしれないけれど、レイ学の生徒で銃を専門に扱う人からすれば、楽勝過ぎる気もした。遊ぶのは専門家だけじゃないし、問題ないのか。
ステラは両手でしっかりと構え、銃身を支えている。じっと狙いを定めて、引き金を引く。高く乾いた音が響くと、直径が二十センチくらいの丸い的を撃ち落とした。もう少し大きい的があるから、それよりは得点が高いはずだ。
「お。思ったより撃ち落とせる気がする! 景品はもらったー!」
「ステラはいいよね。これ、得意分野だもん。ワタシの代わりにやってほしいくらいだよ」
「へっへっへー! ま、銃を撃つのは久しぶりだし、すーくん達の足元にも及ばないけどね」
二人の口振りから、フォースやティール─話には出てきてないが、もしかしたら、ラルも─はこういった類いは得意なようだ。ラルは刀を使うけど、残りの二人が銃をメインに扱うのかまでは分からないが。
ステラに続けて、リーフも同じように構える。とりあえず、一番大きな的に狙いを定めて、引き金を引いた。当たるには当たったものの、場所が悪く、倒れるまでには至らなかった。
「うっ……当たったのになぁ」
「んーと。リーちゃん、もう少し上だとバランス崩せると思う」
「了解っ!」
ステラもリーフも楽しそうにしているが、ツバサだけはどこか緊張している面持ちだ。場所がないってのもあるかもしれないが、苦手だって気持ちと例によってあんなことになるのではと、頭の中がぐるぐるしてるのかもしれない。
ステラが狙っていた景品をもらえるくらいには稼ぎ終えた頃、ようやくツバサが銃を構える。
「ごめんね、待たせちゃって。頑張れ、ツバサちゃん!」
場所取りの関係で、一人終わるのを待っていたと考えているらしいステラは、そくささと後ろへと下がった。そんなステラにやんわりと笑うツバサ。
……大丈夫かなぁ。
「……えいっ!」
銃を撃つときのかけ声としては可愛らしいものを発したツバサの渾身の一発は、狙いを定めた大きな的を目掛けて一直線に飛んでいく……のが、普通なのだ。本当なら。
「……ってえ!!」
「ひゃあ!? ご、ごめん! アラシ!!」
後ろで見ていた俺の目の前に、ツバサの撃ち出した弾が額に直撃する。本来ならあり得ないのだが、足元にコルクが一つ落ちているために、嘘ではないことがはっきりと分かる。
ツバサのやる遠距離攻撃……と言っては語弊があるが、銃や弓、道具を使った投げる、『うつ』ことに関しては、天才的な能力を発揮する。今のようにあり得ない軌道で物が飛んでくるのだ。銃なら狙った物以外に……誰かに当たる。ボールも同じように明後日の方向に投げ、誰かに当たる。なんかもう、とりあえず、誰かに当てまくるという謎の迷惑能力なのだ。じゃあ、魔法の遠距離攻撃はと思うかもしれないが、そちらには適応されないらしく、しっかりと狙った的や敵に当てることが可能だ。
「えーっと、これはどんな軌道なんだろ……? 弾って、前には飛ぶけど後ろに……?」
ツバサと俺を交互に見て、ステラはしきりに首を傾げている。分かるよ。俺も当たる度にいっつもそんな気持ちだ。これに関しては理屈ではないので、諦めるしかないんだけれど。
当たった額を撫でつつ、落ちているコルクを拾う。コルクは何の変哲もないただのコルク。射的の弾。まじまじと見たところで、その事実が変化するはずもない。
「ていっ!」
もう一度、ツバサが引き金を引く。そして、結果は変わらない。
「いっったぁぁ!?」
再び、吸い込まれるように俺にヒット。いや、もう、本当に……清々しいくらいキレイに当ててくる。その命中力にはその、あれだ。……アコガレマスワー……
「みゃ、みゃあぁぁっ!! ごめん!!!」
申し訳なさとどう頑張っても俺に当たるという理不尽な状況に涙目のツバサ。
「ツバサちゃん、ちょっと貸して?」
「う、うん……」
後ろで見ていたステラがツバサの銃を持ち、さっと構える。そして、一番小さい的を狙う。さっきは全く狙ってなかったけれど、当たるのか……なんて、心配は無用だったらしい。きっちり撃ち抜き、ツバサに銃を返した。
「ちゃんと前に出てるよね……ってことは、ツバサちゃんが何かしてるの?」
「ううん。……実は、いつもこんな感じ……なの」
「えぇ!?」
「偶然じゃなくて?」
ようやく終わったらしいリーフも困ったような表情を浮かべた。そんなリーフの質問に、ツバサは無言で頷いた。
「も、もう一回、撃ってみて? ちょっとちゃんと見てる!」
どうなっているのか気になるのか、ステラはとんでもないお願いをする。今は俺だけでも、他の人に……なんなら、ステラ自身やリーフにも当たるかもしれない。周りの人にだってあり得るかもしれないのだ。しかし、好奇心の方が強いんだろう。
ステラに言われて、ツバサは三度、銃を構える。狙いは変わらず、一番大きな的。
パンと乾いた音にステラとリーフの視線は俺に向く。見られている俺はというと、額を押さえてしゃがんでいた。ここまでくると、悲鳴をあげる暇もない。
ふっつーに滅茶苦茶、痛いんだけど……理不尽……
「三発全部、アラシさんに当たってますね。ある意味、ツバサはスナイパーの素質があるのかも。狙ってない人に当てるスナイパーさん……」
「百発百中だね! ある意味……だけど」
「ふ、ふえぇぇ……」
ステラとリーフの慰めも苦しく、ツバサの声も震えている。これ以上はやっても無駄だろう。
「ツバサ、あと何発あんの……?」
「あ、あと、三発……かな」
「残りは俺が……」
「あ、あと一回だけ! 最後! やってみる!!」
今日に限って、なんでそこまで気合い入ってんだ。
「くまさん、自分で取りたい……」
ステラと……あと、ギリギリだったみたいだが、ステラのアドバイスの下、リーフもお目当ての熊のマスコットをゲットできる範囲まで点数を取っている。一人だけ、取れていないのが嫌なんだろう。
「この展開はいけるやつだー! ツバサちゃん、いっちゃえー!」
……ステラのやつ、面白がってるな。
ラストチャンスにツバサは変わらず、一番大きな的を狙う。それにステラもリーフも目一杯声援を送る。ただのお遊びなのに、手に汗握る展開じみてきたのはなんでだろう。
「あ、アラシじゃん。こんなところで奇遇だな~」
「え? あ、イツキ先輩。と、ユーリ先輩、でしたっけ……とリリアーナ先輩?」
ひらひらーと軽い挨拶をしてきたのは部活の先輩のイツキ先輩。それに先輩の友達のユーリ先輩とリリアーナ先輩も一緒にいる。
ユーリ先輩は何を食べていたのか竹串を口に咥え、リリアーナ先輩はたい焼きを頬張っていた。イツキ先輩は何も持っていないけれど、多分、食べ終わってごみは捨ててきたって感じだろうか。
「覚えていてくれて光栄です」
「一回だけだったもんね。会ったの!」
二人の先輩はほぼ初対面レベルの俺に対しても、笑顔を向けてくれた。
例のもふもふ事件が初対面で、そこから面と向かって話した記憶はない。……あの件は思い出したくもないけど。



~あとがき~
長くなりそうなんで次回に続く。
ここまで続けるつもりなんてなかったんや……(汗)

次回、観客が増えてきた射的屋さん。ツバサちゃんは見事当てることはできるのか!!
……まあ、当てはするか。

本編ステラ……イブですね。イブが銃を使うシーンはほぼないに等しいですが、使える設定ではあるんですよね。んでもって、こちらの世界ではメインとまではいかないまでも、ある程度は習得しています。ステラの相方がフォースですし。
私のメインキャラで言うと、銃の腕前は
フォース→ティール→ラル=ステラ→リーフの順ですかね。ラルとステラはどっこいどっこいだと思います。現場慣れしているという面で、ここぞという対応力が抜きん出ているラルに軍配が上がるでしょうが。今回の場合だと、ラルもステラも変わらなそうです。

ではでは!

空と海 第225話

~前回までのあらすじ~
ピカとポチャのおデート風景でした。そこから戻ってきて、基地でのお話です。
前回までの四話は二年前くらいに書いておいたものですね。結構前に書いたから、文章と文章量があれですが、今更直す気にもなれないので、あのまま出しました。すみません! 今回のも前に書いたものですが、いつ書いたのかは覚えてないです。
ピカ「夏祭り編のバトルが書けなさすぎて、現実逃避した作品を出したっていう」
まあ、元々の計画の中にはやるってのがありましたんで……(汗)


とりあえず、山積みになっていた依頼書をなんとか片付け、最後の仕上げとも言える書類整理をやっていた。それももうすぐで終わりそう。毎回、この後始末で苦労するんだよなぁ……この作業は嫌いではないけど、好きにもなれない。そんな感じの仕事。
本来なら、ぼくとピカの二人でやらなくてはいけないけれど、助っ人としてイブ、チコ、フォースが手伝ってくれていた。
「はぁー……ごめんね、三人とも。こんなことに付き合わせちゃって」
「全然問題ないです! こういう仕事も新鮮ですし、楽しいですよ」
そんなことを言ってくれるイブは、にこにこと笑いながら、書類をファイリングしてくれていた。出来た後輩だなぁ……
イブの側で黙々とファイルの整理をしてくれているフォースは特に返答はない。聞こえてはいるんだろうけど、反応はしないみたい。
「というか、ペラップさんに『ピカんとこ行ってこい』って言われたので! ワタシ達のお仕事もありませんでした。あれってピカさんが言っといたのでは?」
チコは首を傾げつつ、ピカに質問をする。そんな質問をされたピカはというと、やる気がなさそうにぐでっとしていた。それでもチコの言葉は届いていたようで、あーっと呟いた。
というか、関係のない三人が来てくれたのにそのやる気の無さはないんじゃないか……?
「それはご想像にお任せするよぉ」
「はぁい♪ じゃあ、想像通りってことにしておきますっ」
「お好きにどぞ~……っと。今までのまとめ終わった?」
「……終わった。そこに積んであるファイルがそう」
フォースが指差すのは、さっきまでまとめてくれていたファイルだった。ピカは、それを目視で確認をすると、目の前のノートパソコン(ちなみにぼくは一度も触ったことがない)を閉じてすくっと立ち上がる。
「ん、ありがとう。……よぅっし! ライブちゃんとこ行くか。ついでにギルドにも行ってこよう。イブちゃん、チコちゃん、私についてこーい♪」
「あ、はーい!」
「了解です。すーくん、あとは頼んだっ」
「へいへい……」
それなりの量があったのだけれど、全てトレジャーバッグに放り込むと、イブとチコを連れて基地を出ていってしまった。二人を連れていくことに何か意味があるのかは分からないけれど、まあ、ピカが動いてくれるなら何でもいいや。
この場に残されたのはぼくとフォースだけになった。まだ全部終わったとは言えないから、手は止められない。フォースも三人を見送った後、再び整理に戻る。
……これはいい機会かもしれない。あのことを相談してみよう、かな。
「……あのさ、フォース?」
「んー」
「その、仕事やりながらでいいから、話を聞いてくれる?」
「おー……いいよ」
お互いに手は動かしたまま、雑談っぽく話を進めていく。簡潔に、かつあまり思い出さないようにしつつ、慎重に言葉を選んでいく。
「ここに帰ってくる前に、ピカと……町に寄ってきたんだよ」
「おう。デートな」
んんっ!! う、うん……ソウ、デスネ。デート……ぼくの頑張りって……
「……そんで?」
急に黙ったぼくを不思議そうに見て、話を促した。理由なんてバレていると思うんだけど、分かっていてわざと知らないふりしてるんだろう。クールで羨ましいが、憧れたところでぼくに素質がないので、気を取り直して話を再開させた。
「で、いつも通りの他愛ない会話しながら、歩いてて……で、そこで」
あー……駄目だ駄目だ! 思い出しちゃうぅ……!
「なんだ。単刀直入に言え。男だろ」
「う。ごめんなさい……」
「まあ、ペンギンが何を言いたいのかは分かるよ。ラルに自覚はない。以上」
一言で片付けられた……
フォースにとってはそれでいいのかもしれないけど、ぼくはそれで終われない。
「そこに本音はあると思う?」
「結婚うんぬんの話の中に?」
なんでその話を知っているんだろう……いや、心を読まれたのかな。顔色一つ変えずにやるものだから、全く気づかない。普段の生活の中でもやられてるんだろうな。きっと。
「結婚に関しては気になったから聞いただけだろ。あいつの性格上、そこに深い意味はないはずだ。……でも」
「でも?」
フォースはそこで言葉を止めると、少しだけ考え込む。何か思い当たる節でもあるのだろうか。続きを待っていると、彼はにこっと笑う。
「まあ、そこら辺は本人に聞けよ。そっちの方が手っ取り早いぞ」
「えぇ!? 聞けたら苦労はないんだけど!」
「おれの予測を聞いたって面白くないだろ。それは、予測であって真実ではないんだから。……この機会に少しは頑張れよ」
「が、頑張るって……」
「ラルはお前のそういうところも理解してるだろうけど、たまには恋人らしいこともしてやれってこと。そういうの、敏感だぞ? 女って奴は」
フォースと恋愛絡みの話をするのはあまりないから、彼自身の経験なんてものも聞かない。少しだけ気になって、首を傾げた。
「……それ、経験談?」
「まあね。おれの相方は積極的だったから、不満に思えば自分から動く奴だったけどな。……ラルはそうじゃないだろ」
「……そう、かな」
「そうだよ。自分のことは二の次のラルが、恋愛で肉食系女子になるわけない。自分勝手に色々やるけどさ、自己中ではないんだよな、あいつ。そう見えても、底には何かを考えて行動してる。……悪ふざけに意味はないだろうがな」
「フォースはよく見てるね、ピカのこと」
ぼくがそう言うと、フォースはきょとんとして、小さく首を振った。
「ラルに限った話じゃねぇよ。暇だから、観察してるだけ。後は……まあ、色んな奴に会ってきたからな。なんとなく、分かるだけだよ。……とにかくだ。あんま放置すんなよ。飽きられることはないだろうが、不安にさせるのは毒だぞ」
……う、うん。そう言われると、何も言い返せないな。
このあとは、他愛ない話を織り混ぜつつも、真面目に作業をすることになった。

三人のお陰で夕方になる前に全部の仕事が終わった。いつもなら夜まで二人……いや、基本ぼくだけでやってるし、人手って大切だなぁ。
「ありがとね、三人とも。お陰で早く終わっちゃったよ。巻き込んでごめんね?」
まあ、終わってなくても夕飯前には帰してたし、終わらなそうならピカも本気出してやってたと思うけど。今回、ピカはほぼ動くことなくだらーっとしてたけど!
「いえいえ! さっきも言いましたけど、こういうお仕事も楽しいですから! ね! チコちゃん」
「うん。いつかワタシ達も卒業したら、あんな風にやらなきゃなって体験ができましたから」
イブとチコは笑って許してくれた。ピカももう少し、彼女達を見習って欲しいけど、きっと無理なんだろうな。
「それでは、また! お手伝いできることがあれば、何でも手伝いますからね~♪」
イブが頼もしいことを言い残し、三人はギルドへと戻っていった。帰るとき、フォースがぼくのことを見て、やれよって目で訴えてきた……気がする。
「大丈夫。……頑張るよ」
「? 何が?」
小さく呟いたつもりだったけれど、ピカに聞こえていたらしく、怪訝な顔でぼくを見てきた。
「あ、えーっと……な、なんでもないよ! ほら、ぼくらも戻ろ!」
「変なポチャ」
あう。



~あとがき~
最近書いてたレイ学ティールと空海ポチャの性格違いすぎて、戸惑ってる。同じ人物のはずなんですけど、これはあれかな。通ってきた経験の差かな……? レイ学の方が肝据わってね?(笑)

次回、そろそろピカとポチャのほわほわ恋人っぽい話を終わらせますよ。

なんかぐでーっとしてるピカを書くのは久し振りで、こいつはこんなんだったなーと思い出しました。どっかでも言いましたが、本編だとぐでぐでーっとしているピカは出てこないんですよね。最近だと、夏祭り編二日目がぐでっとしてましたね。……話の中では最近だけど、私たちからするとかなり前ですね。

ではでは!