satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

学びや!レイディアント学園 第285話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界でだらだらしてる物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、ラルとセラさんが仲良くなる回をお見せしました。いや、テーマはそういうことではないと思うけど。
今回から、ようやく女神祭へ!
始まるぞ! 熱い熱い祭りがよぉぉ!!!
ラル「では、これを書いてる時期は?」
あ、10月中旬です……(小声)
そして、まだしばらくは祭り本番ではないです……(震え声)


《L side》
今日も今日とて平和なスプランドゥール。
そして、街を上げて行われる女神祭前日とあって、私達も仕事なぞせず、のんびり過ごすと決めたのでした。
ということで、私とティールはギルド内を散歩中なのです。
え、理由ですか?
暇だからですが? それ以外、何がありますか??
しーくんは祭りの最終チェックでお稽古だし、ツバサちゃん達も忙しそうだし。こんなバテバテのティールを引き連れて街に行くわけにもいかないしで、まあ、妥協した結果だよね。
「でも、本当に誰もいないんだねぇ。静かだなー」
「……祭りの期間中は観光客入れないらしいよ。セキュリティとかあるんじゃない?」
暑さでグロッキーなティールが小さく呟いた。こんな状態でも私に付き合う辺り、本当にこいつは優しいなぁと思う。……もしくは、私が何かしないか見張りたいのかもしれないが。いや、そんなことはないよね?
それはともかく。
祭りの準備でギルドの人達、大忙しだ。仕事どころじゃないだろうな。
いつもは観光客で賑わう旧エクラ城もシーンとしている。ギルド関係者やルーメンさんが許可した人物でなければ立ち入れないからだ。
「……なんかいい香りがする」
「え? 匂い? ご飯作ってるってこと?」
「多分……そう。ぼくの予想が正しければ、リンゴを使ったスイーツの予感!」
観光客がいないとはいえ、ギルドの人達は出入りする。この後の食事の準備でもしているのだろうか。いや、ティールの言うリンゴスイーツとかはよく、分からないが。
とりあえず、匂いが気になるらしいティールに連れられ、食堂を覗いてみることに。
リンゴ絡むと途端に元気になったな、こいつ。
扉を開けると、そこには数人のギルドの方々があーでもないこーでもないとお話し中のようだった。
「……あ、ラルさんとティールさん! いいところに!!」
私達の入室に気づいたヒノさんがパッと顔を輝かせ、こちらへと駆け寄ってくる。そして、ティールの手をがっちり掴んだ。
「カズキ先輩からお噂は伺っております! ティールさん、ご協力願えませんか!?」
カズキさんから何の噂を伺ったんだ、ヒノさん!?
「えーっと、ぼくにできることなら、お手伝いしますけど……料理ならラルの方がいいんじゃ」
「いいえ。これはリンゴ愛の強いティールさんにお願いしたいのです!」
リンゴ絡みか~……じゃあ、私は力になれないなぁ。
「よかったな、ティール。お前の何の取り柄にもならなそうなリンゴ愛がここで大活躍するらしいぞ」
「え、なんか馬鹿にされた気分」
気のせい気のせい。
「ヒノさん、こいつは貸し出すので思う存分使ってやってください。適当な時間になったら迎えに来ますんで」
「わあ、ラルさん! ありがとうございます」
「ラル? ぼくのこと、なんだと思ってる?」
パートナー。またの名を相棒かな。
この時期だし、祭りでリンゴ絡みの商品でも出すのだろう。それなら、ティールは適任だ。誰よりもリンゴ大好きだし、色んな意見を出してくれる。私は必要ない。
さて、私は散歩を再開するかな~♪

あてもなく、ギルド内をうろうろしていると、ギルドの出入口付近でリアさんとイグさんを見つける。楽しそうに談笑している辺り、デートにでも行く前なのかもしれない。
ここで突撃してもいいけど、変に言いくるめられ、二人に連れ出される可能性はある。「あれ、一人? じゃあ、俺らと出かけっか!」みたいに言い出しかねん。そうなれば、デートの邪魔になる。いや、あの二人はそんな風に思わないだろうけれども。
しれーっと離れよ……
くるりとUターンしたところで、バタバタと精霊役の子供達─ちなみに、その中にしーくんはいなかった─がギルドから出てきた。そして、一直線にリアさんの元へ駆け寄っていく。
思わず、子供達を目線で追っていると、困ったように笑うリアさんと目があった。
「ラルちゃ~ん! ちょうどよかった!」
……嫌な予感。
呼ばれたからには無視するわけにもいかず、リアさん達のところへ。
「どうしました?」
「今からイグと買い物に行くはずだったんだけど、実はこの子達に魔法の先生を頼まれちゃって。……ラルちゃんにお使い、頼んでもいい?」
なんだ、そっちか。
てっきり、子供達をお願いされるのかと。流石に一人でこの元気っ子達の相手は骨が折れそうだ。
「お使いくらいなら、お安いご用です。何を買いに行けばいいんです?」
「ありがとう! このメモに欲しいものは書いてあるわ」
手持ちの鞄からメモ用紙を取り出すと、私に差し出してくる。丁寧な字でお店の名前といくつか品物が書かれていた。どれも茶葉の名前らしい。
「……そうだ。せっかくだから、イグと一緒に行ってきたらいいわ♪」
……は?
「ん? 呼んだ?」
ここまで、私達の話を邪魔しないようにと子供達を相手していたイグさんが振り返る。
「イグ、ラルちゃんとお買い物お願いしてもいいかしら? お祭りも近いから、変な人がうろうろしてるかもしれないし」
「俺はいいぞ。元々、リアと行く予定だっし」
いや、待って? 私の同意は?
「別に心配しなくとも、私一人で問題ないですよ。そこら辺のチンピラより何十倍も強いと自負してますので」
「そうだけれど……男の人が傍にいれば、ナンパ男とかに話しかけられることもないじゃない。兄妹デートだと思って、ね?」
誰が誰とデートだ!? 誰と誰が兄妹!?
いや、リアさんの言い分が分からないわけではない。リアさんの言う通り、イグさんと歩いていれば、変なやつは寄ってこないだろうし、目をつけられることもないだろう。が、それとこれは話が別ってやつで。
イグさんと一緒にどこかへ行くのが嫌すぎる。絶対、遊んでくるもん。何かしらで遊んでくるもん!!
「イグなら安心して任せられるもの~♪」
あ、あぁ……これは、断れないやつ!
ほわほわ~っとお花が周りに飛んでいるリアさんに「イグさんと行きたくないです」なんて、言えない! これは意識的に嫌がらせしているのではなく、善意で言ってくれているのだ。私の身を案じてイグさんと行っておいで、と言ってくれているのだ。
いつものうりゃうりゃされるやつとは違うのだ……少なくとも、リアさんは。
「どーすんだ、ラル~?」
こっちは分かっててつついてやがる。そういうところだぞ、お節介兄さん!
ニヤニヤ笑うイグさんとニコニコと笑うリアさん。断れる空気ではない。
第一、私が「お使いくらいなら、お安いご用です」って言ったもーーん! 前言撤回なんてできない。だって、実際、暇だからうろついてたわけで。
「……行きますよ。リアさんの頼みです。イグさんと、行けばいいんですよね……!」
「ありがとう、ラルちゃん。せっかくだし、お祭り前の街を楽しんできてね?」
「よっしゃ! 行くか~♪」
リアさんは善意しかない。イグさんは悪意しかないけど。
くっそぉ、まさかこの人と二人で街を歩くことになろうとは……!



~あとがき~
思い付くままにつらつらと書いたのは久しぶりです。

次回、ラルとイグの兄妹デート。
兄妹でデートとはなんぞ??
まあ、本当の兄妹ではないから、デートでいいか……(笑)

よく分かりませんが、ティールのリンゴ好きがちょいちょい出てくるのはなんなんでしょうね。そこまで印象強いですか? 相方様、そこまで印象強いですか!?
うーむ、わからぬ……(笑)

ではでは。

気ままな神様達の日常記録 vol.14

こちらは『学びや! レイディアント学園』の番外編でございます。スピンオフというか、なんというか。全く本編に関係のない皆々様に焦点を当てたお話となっております。今回はフォースと昔の友人達のお話の続き。



☆さくっと登場人物紹介のコーナー☆
アルフ:転生の神様。穏やかな性格でにこにこしながら、みんなを見守る優しいお方。

フォース:制御者の一人で、最高位の色を制御する。クールな性格で制御者達のリーダー的存在でもある。能力を用いて、心あるものと会話することができる。

ルリ:綺麗な青色の小鳥。フォースの友達でもあり、現在はアルフさんの従者の一匹。

ガーラ:煜くような銀色の狼。フォースの友達でもあり、現在はアルフさんの従者の一匹。





★転生の神に仕えるもふもふ達★
ガーラを思う存分、撫でてやった後─その間、ずっとエルに撫でられることに対する不満を漏らしまくってた─ガーラは盛大なため息をついた。
『あんな奴がいるんなら、あんとき、アルフ様の従者になんて、なるんじゃなかったぜ』
『あら。あの頃はあの子、いないじゃないの』
ガーラの頭の上から、おれの肩へと移動したルリが呆れたように呟く。そんなルリの言葉に、ガーラも言葉を詰まらせた。
『いや、まあ……そーだけどよぉ?』
「……あの時?」
『えぇ。私とガーラがアルフ様の従者になった時の話……カルに話してなかったかしら?』
「おれ、二人が従者になった理由、知らないよ」
『あら、ごめんなさい。話したつもりでいたわ』
『あ~……オレも。そいや、再会した時も会えたのが嬉しすぎて、カルマに経緯とか話してねぇな』
ルリとガーラと再会したのは、鈴流と死に別れた後。ある程度、気持ちの整理というか、おれの精神が落ち着いてきた頃だった。それでも、どこか本調子でないとアルフ様に見破られてしまった。アルフ様から「君に会わせたい子達がいる」と聞かされ、訳も分からぬままついていくと、そこにルリとガーラがいたのだ。
恥ずかしい話、あの時は滅茶苦茶、驚いたし、大人げなく泣きまくったなぁ。泣いたのは思い出したくもねぇけど、再会できたのは滅茶苦茶、嬉しかった。
『せっかく時間もあるし、この際だから話してあげるわ。……でも、どこから話そうかしら?』
『だな。あ~……カルマ、オレらの最期は知ってるよな』
「……あぁ。知ってるよ。だって」
おれのせいで、二人は死んだのだ。
悪い大人に捕まらないようにと、おれを守るために死んでしまったのだから。
忘れるはずがない。忘れられるはずがない。
『あーもう! そんな顔すんなっ! 辛気くせぇなぁ!?』
ガーラに顔をペシッと尻尾で叩かれ、ルリには頬をふわりと翼で撫でられた。
『そうそう。それにあれがあったからこそ、私達はこうして、また出逢えたのよ』
『そうだぞ。今更、気に病むんじゃねぇ』
「ん。……ごめん」
『カル? そういう時は「ごめん」じゃないわ』
『もっと別にあるぜ。いい言葉がよ』
「……そうだったな。ありがとう、二人とも」
二人は満足げに頷く。
そして、ルリは「話を戻すと」と続ける。
『あの出来事があって、アルフ様はカルのお兄さんの代わりに転生の仕事に戻るようになるのは、知ってるわよね?』
「あぁ。元々はアルフ様がしていた仕事を兄貴がしてたんだったかな……?」
『おうよ。んで、転生の仕事をするようになったアルフ様の元に、オレらが行くって訳だ。一番乗りでな』
あぁ。なるほど? そういうこと?
アルフ様が仕事を再開させた時、初めて対面した魂がルリとガーラだった、と。
ルリは嬉しそうに頷き、話を続けた。
『アルフ様としては、カルを守って死んだ私達に、次はよい生を送れるようにと、手配してくださったのだけれど……この馬鹿がねぇ』
じとーっとガーラを見つめるルリ。おれも思わず、ガーラを見つめた。
『はんっ! 大したこたぁしてねぇよ。……その、アルフ様にちょっと頼み事をしたくらい?』
『はぁ? ちょっとぉ? あなた、天界にいるはずのカルに会わせろって、アルフ様に楯突いてたじゃないの』
クスクスと楽しそうに笑いながら話すルリだが、今現在、神に仕えるおれとしては、笑いながら聞ける話ではなかった。
「ガーラ!? 死んで早々に何してんの!?」
『うっせぇ!……魂になった状態でも、オレの鼻は健在でよ。天界に来てすぐ、お前の匂いに気づいたんだ。だから、カルマがここにいるって確信した。……それなのにあの神、気づかねぇフリしやがってぇぇ!!』
当時のことを思い出し、イラついたのか、前足をダンダンッと何度も振り下ろす。しかし、その前足はふかふかのクッションの上に振り下ろされてるため、なんの被害もない。ご丁寧に爪が引っ掛からないよう注意しながらである。
……周りに配慮できているし、意外と冷静なのかもしれない。
『びっくりしたわよ。魂になって、あまつさえ、神様に逆らおうとするんだもの。まあ、そんなガーラは、アルフ様に即大人しくさせられてたけどね?』
そりゃ、そうなるだろう。
アルフ様は転生の神。魂を次の生へ導く者だ。魂相手にどうこうされるお方ではない。
『でもね、大人しくさせられた後も、ガーラはカルに会わせろって聞かなかったのよ。会わせてくれなきゃ、この場で悪霊になってやるーって』
『……ふん。そこにいるって分かってて、会いに行かねぇわけがねぇだろ。天界にいるってことはよ、カルマも……って思うだろうが』
「ガーラ。嬉しいけど……なんか複雑」
『はあ!? 素直に喜べっ!』
あ、はい。嬉しいです。めっちゃ嬉しいです。はい!
『うふふっ! まあ、その甲斐あって、アルフ様の従者になれたんでしょうけれど』
『まあ、なったはいいが、実際に会えたのは大分後だったけどよ。なったばっかの時は、カルマの精神は壊れかけてて、すぐに会わせられる状態じゃねぇってさ』
「それは……ごめん」
『いいって。ちっせぇガキがあんな目に遭えば、誰だってぶっ壊れる。……ま、その後も、タイミングが合わないだの、今じゃねぇだとか、まーったくカルマと会わしてくんねぇんだよな、アルフ様!』
そもそも、おれはアルフ様の従者ではなく、マスター……ファウス様の従者だからな。そこら辺は仕方ないように思う。
『まあ、いいじゃない。こうやってカルとも出逢えたんだし。……でも、アルフ様が私達を受け入れたのは、なぜなのかしらね? 私達、元々は地上の生き物にすぎないのよ? いくらガーラがうるさく迫ったからといって、簡単に従者にするかしら? それにあの頃のアルフ様は、お力を取り戻したばかり。そんな時に私達を傍付きにした理由が未だに分からないのよねぇ? カルには分かる?』
そう言われると……どうなのだろう?
おれも元人間で、神に見定められた一人ではあるけど、おれには“強き力”の継承者であり、─当時は全く知らなかったけど─兄貴の封印の器という理由があった。しかし、ルリとガーラは違う。どこにでもいる生き物の一種にすぎない。
それに、二人はミィみたいに、アルフ様にとっての特別な存在でもない。
「ふーむ。……確かに、普段のアルフ様なら絶対にしない。説得して、次の生を受け入れさせるだろうな。つか、適当に喚いて従者にしてもらえるんなら、今頃、アルフ様は動物園の園長だよ」
『おい。カルマ? その言い草はオレへの当て付けか?』
『そうよね。いくらガーラが大騒ぎしてウザかったとはいえ、あなた程度の魂を無視することは可能よね』
『ルリ、てめぇもかぁ!?』
『事実じゃない』
『くそがぁ! 二人してオレを馬鹿にしやがってぇ!!』
ダンダンッとクッションに八つ当たりするガーラ。しかし、クッションに対する配慮は忘れていないので、被害はゼロ。とても賢くていい奴だ。
「まあ、なんだ。ガーラの訴えがあって、従者になったのは事実だから、そんな怒るなって」
『まあ? かなーりウザかったと思うけど?』
あの、ルリさーん? 追い討ち、やめてぇ?
「あはは♪ ルリやフォースくんの言うことも一理あるかもね~♪」
休憩室の入り口で一枚の紙をひらひらと見せながら、アルフ様が会話に入ってきた。
『アルフ様!』
「やあ、二人に次のお仕事持ってきたよ~♪」
『ありがとうございます、アルフ様。では、早速……あ、でも』
ルリはちらりとおれを見る。まだ話したりないとでも言うように。ガーラも言葉にしないものの、おれとまだ離れたくないという気持ちが聴こえてきた。
「この案件、そんなに急いでないし、出発はまだ大丈夫だよ。だから、フォースくん。君さえよければ、ルリとガーラともう少し、お話ししてくれないかな?」
「! もちろんです、アルフ様」
『ありがとうございます、アルフ様っ♪』
『……本当にいいのかよ?』
「うん。君達は天界にいる方が少ないし、こうやってフォースくんと会えないだろう? だから、今日くらいは思う存分、話しなさい♪ で、さっきの話をちょこっと聞いちゃったんだけど」
……うん? あぁ、ルリとガーラを従者にした理由、ですか?
「そそ。僕としては、そこまで深い理由はなかった、が答えだよ。あの頃、前々からミィ以外の従者を増やせって言われていてね? で、そんな時に僕の従者にするための条件に当てはまる、ルリとガーラがやって来て、特例として従者にしたの♪」
『条件?』
「うん。僕が従者にする条件はね? 強靭な精神力を持っていること、これが最優先事項なのさ。まあ、他の決め手としては、二人とも元々、動物で僕の遣いにしやすかったってのもあるけど。ほら、僕の仕事って、地上を彷徨う魂の回収でしょ? そういうのって、動物の方が都合いいんだよね~♪」
そういえば、アルフ様の従者はミィを含めて動物が多いな。そういう理由か。
「……で、話は変わるんだけどさ。フォースくん」
「? はい」
「あっちの方でファウスさん、液体みたいにぐでーっと溶けてたよ? 大丈夫?」
大丈夫じゃないっすかね。ぐでっとするのは、いつものことなんで。
「あ、そうじゃなくってね。仕事、大丈夫かなって話」
「……仕事、ですか?」
「うん。確か締め切りは今日かな? ファウスさんから僕に渡すはずの書類があるとか、なんとかってユウくんから聞いててさ。終わってるなら、ぐでっててもいいんだけど。でも、僕、その書類もらってなくて?」
アルフ様はにこにこと笑いながら話す。
おれもまた、にこりと笑って見せた。
「恐れ入ります、アルフ様。少しの間、ルリとガーラをお借りしても?」
「うん。いいよ~♪」
「ありがとうございます。……いいかな、二人とも」
『えぇ。カルの頼みなら聞かないわけにいかないわっ!』
『オレ達に任せとけ。カルマの主さんが逃げてもすーぐ見つけてやっから♪ 乗れよ、カルマ! ひとっ走りして、噛みついてやるぜ』
了解。頼りにしてる。
「あ、ガーラ? 噛みつくのはいいけど、手加減はするんだよ?」
『わーってますよ♪』
あ、アルフ様的にも噛みつくのはいいんだ。
おれはアルフ様に一礼すると、ひょいっとガーラに跨がる。おれを乗せたガーラは力強く地面を蹴りあげ、いきなりトップスピードで走り出した。
「わ、ばっ……か! 速すぎだろ!?」
『はっ! なんなら、もっと速くできるぜ?』
『ねぇ? このまま、カルの主様に突進しましょ。突進♪』
……ま、いいか。それくらいしても仕事をしなかった罰にもならないし。



~あとがき~
ちょいと長くなってしまいましたが、ご愛嬌ってことで許してください。
そして、どう頑張ってもファウスは酷い目に遭う。そんな運命に立ち向かえ、ファウスや。来年はいいことあるさ。まあ、相方の気が向けばな。

次回、レイ学本編へ戻ります。
祭りの前日のお話。つまり、まだ祭りはやらん。

ルリとガーラと話すときのフォースは、若干いつもより子供っぽくというか、いつもみたいに大人びたような、クールな話し方をしてません。無意識的にカルマだった頃を思い起こさせるからですかね。
ウィルと話してるときにもごく稀に出てきますが、ルリとガーラ程ではないです。もしかして、ルリとガーラの方がお姉さんお兄さん力があるのでは?? ウィル、頑張れ。

ではでは。

気ままな神様達の日常記録 vol.13

こちらは『学びや! レイディアント学園』の番外編でございます。スピンオフというか、なんというか。全く本編に関係のない皆々様に焦点を当てたお話となっております。今回はフォースと昔の友人達のお話。



☆さくっと登場人物紹介のコーナー☆
アルフ:転生の神様。穏やかな性格でにこにこしながら、みんなを見守る優しいお方。

フォース:制御者の一人で、最高位の色を制御する。クールな性格で制御者達のリーダー的存在でもある。能力を用いて、心あるものと会話することができる。

ルリ:綺麗な青色の小鳥。フォースの友達でもあり、現在はアルフさんの従者の一匹。

ガーラ:煜くような銀色の狼。フォースの友達でもあり、現在はアルフさんの従者の一匹。





★転生の神に仕える、もふもふ達★
ここは天界。様々な神が住まう世界。
そんな天界に存在する休憩室の一つで─座り心地のよいソファや、快適そうなベッド等々が置かれた謎の場所─おれはソファに寝そべりながら、一人、読書をしていた。
下ですることもなければ、ここですることもなく、単純に暇潰しのためにいるってだけだ。珍しく、誰も絡んでこないし、話しかけにも来ない。
まあ、こう頻繁に行き来していれば、仲間達からも物珍しさも消えるってもんなのかもしれない。というか、物珍しくされる方が変な話でもあるか。おれは元々、ここにいるわけで──いや、生まれてからずっと、ここにいるわけじゃないけども。
……少し、昔の話になる。
おれは元々は人間で、神様に仕えるなんて立場ですらなかった。本当にどこにでもいる……とも言えないけど、力を持って生まれてしまった少年だった。
そのせいで友達をなくしたり、兄貴と別れたり、人でなくなったりと色々あったけど、結果的にこうして平和に暮らしているもんだから、人生ってもんは分からない。
……って、待て待て待て。おれはなんで感傷に浸ってるんだ? 久々に一人でいるせいか?
そうだとしたら、おれも焼きが回ったもんだが。
「……ぴぃ♪」
「がうっ」
……あ?
体を起こして、入り口の方を見れば、銀色の狼と青色の小鳥がこちらへと近づいてきていた。心地よい鳴き声と共に頭には言葉が流れ込んでくる。
『はぁい♪ カル♪ お久しぶり』
『ははっ! オレの嗅覚のお陰だな。感謝しろ、ルリ!』
『はいはい。ありがとうございました~』
『感謝が雑だな!?』
「ルリ、ガーラ。……久しぶり。戻ってたのか」
二人はおれのことを本名で呼ぶ、数少ない友人だ。
なぜなら、二人はかつて、カルマだったおれが、なくしてしまったはずの友達だから。
なくなったはずの二人がなぜ、こうして天界でのんびり、おれと会話をしているのかと言えば、アルフ様のお陰である。
と言うのも、今の二人はアルフ様の従者として存在しているのだ。つまり、アルフ様の仕事を手伝う従者……ある意味、おれと同じ立場になったとも言える。
そういえば、友達がそうなった理由を知らない気がする。
ふとそんなことを考えている間に、ルリが軽やかに飛び回る。そして、おれの膝にふわりと着地すると、嬉しそうに笑った。
『えぇ、ついさっきね。アルフ様から指示された魂の回収がある程度、終わったから、その提出と報告を兼ねて、戻ってきたの』
『天界で会うのも、随分と久しぶりだなぁ? お前とはすれ違うばっかだし』
ふんっと鼻を鳴らし、不機嫌そうにそっぽを向く。そんなガーラを苦笑しながら、そっと撫でてやる。
「そりゃ、今のおれはここじゃなくて、地上にいる方が多いから。でも、最近は学校が休みだから、ここにいる方が多いけどね」
『知っているわ。それ、『夏休み』って言うのよね?』
『あん? だから、地上の森やダンジョンにガキ共が彷徨いてやがるのか?』
多分、そう。
ガーラを撫でつつも、こいつの頭の上に移動して、ちょこんと座ったルリを見る。
「ルリ。入ってきた口振りからして、おれに会いに来てくれたんだろうけど……アルフ様へ報告は?」
『それはすでに済ましてあるわ。帰ってきてすぐ、ガーラが「カルマの匂いがする」って、はしゃぐものだから、さっさと終わらせてきたの♪ それに次の仕事の話は、アルフ様の仕事が一段落してから、改めて教えてくださるそうだから。今はカルと一緒にいられるわ♪』
「……そっか。それならいいんだ」
『おいこら。記憶を改竄するな。お前もそこそこ、はしゃいでたろうに』
「あはは。ガーラ自身が、はしゃいでたってのは訂正しないんだ?」
『……そこまで浮かれてねぇってだけ訂正させろ』
分かった分かった……ごめんって。
でも、よく、おれの匂いなんて分かったな?
天界は広いし、多くの神や従者達が行き交う。その中で、おれの匂いに瞬時に気づくのは、至難の技のように思う。ガーラが匂いに敏感だとしてもだ。
おれが不思議そうにしていたのだろうか。ガーラが得意気な笑みを浮かべた。
『オレの嗅覚なめんな! どこにいたって、お前の居場所くらい当ててやれるぜ?』
なんだろう。素直に喜べない返答が来たな。
「……おれ、そんなに特徴的な匂いでもする?」
『大丈夫よ、カル。ガーラはそれくらいしか取り柄がないってだけ。カルの匂いだけ、特別に匂うわけじゃないわ。それに今回は助言もあったしね?』
「助言?」
『……こっちに帰ってきてすぐ、ひっつき虫に会ってな。そいつにお前がいるって聞いたんだよ』
どこか不服そうなガーラに対し、ルリはけらけらと楽しそうに笑う。
ガーラの言う「ひっつき虫」とは、エルのことだ。エルはガーラの毛並みを気に入っているのか、ガーラを見かける度、こいつをもふもふしようと突っ込んでくるらしい。
『あの子、ガーラのこと好きよね♪ 会う度にくっつくんですもの♪』
『くそ。気安く触ってくんじゃねぇよ。……カルマからも言っておけ! オレが何度言っても聞きやしねぇ!』
『ガーラの言葉に適当に返しながら、ずーっと撫でてたものね~♪』
神の従者になったからだろう。二人は念話を使って、おれ以外とも言葉を交わせるようになっていた。それは嬉しくも思うし、どこか寂しくもあって。
「あ~……うん。まあ、言うだけ言っとくよ。絶対に聞かないと思うけど」
『くっそが!!』
『やぁね。好かれてるんだから、素直に喜びなさいな?』
『けっ! お前はいいよな。無闇に触られなくって』
『私は小さいもの。彼女、遠慮してくれてるのよ』
『オレにも遠慮しろや!!』
『直接言えば?』
『言っても聞かねぇんだっての!!!』
エルのモフる攻撃に、ガーラは手も足も出ないらしい。まあ、こいつのことだ。本気になれば振りきれるだろうけれど、そうしないのは優しさ、なんだろう。昔から、なんだかんだ言いながら、優しかったから。
とはいえ、先程エルと出会し、モフる攻撃をされたのならば、おれはほどほどにしてやった方がいいのかもしれない。
そう思い、そっと手を離すと、なぜかガーラに滅茶苦茶睨まれた。
「……え、やめるなってこと?」
『そうだよ。カルマは別。……んなことオレに言わせんな!』
『カル! これはね、照れ隠しよ、照れ隠し。カルに撫でられるのは気持ちいいから、いいってことなのよ?』
「そうなんだ。じゃあ、もっとしてやらないとな~?」
『があー! 調子乗んなー!!』
口ではそう言いつつも、おれに身を委ねている辺り、かなりの天邪鬼だ。
おれはルリと目を合わせると、小さく笑い合った。



~あとがき~
動物多めでお送りしました。
今回の番外編の中だと一番みじけぇっす。

次回、フォースと友人達の話。後編。

フォースの生前、カルマ時代を知る数少ない二匹でございます。そして、お分かりかと思いますが、ルリとガーラ、レイ学限定キャラです。
また、フォースが動物に好かれたり、優しかったりする理由は彼らという友人がいる為ですね。過去に彼らと遊び、優しくされた経験があるため、制御者となった今でも動物は好きだし、無条件に優しくします。

ではでは。

気ままな神様達の日常記録 vol.12

こちらは『学びや! レイディアント学園』の番外編でございます。スピンオフというか、なんというか。全く本編に関係のない皆々様に焦点を当てたお話となっております。今回はほのぼの子猫と戯れる回でございます。ごゆるりとお楽しみください。



☆さくっと登場人物紹介のコーナー☆
アルフ:転生の神様。穏やかな性格でにこにこしながら、みんなを見守る優しいお方。従者であり、奥さんでもあるミィが大好き。

ウィル:生命の神様。人懐っこい性格。フォースを本当の弟のように可愛がり、皆の頼れるお兄ちゃんでもある。

ミィ:アルフに仕える蒼い目をした白猫であり奥様。誰にでも優しい性格。猫らしく、ぴょこぴょこ動くものに目がない。

フォース:制御者の一人で、最高位の色を制御する。クールな性格で制御者達のリーダー的存在でもある。本作のツッコミ兼振り回され役。





★子猫とアホ毛
ここは天界。様々な神が住まう世界。
そんな天界にある別名、魂の間と呼ばれる部屋は、生命の神であり、自称おれの兄、ウィル様の仕事部屋である。
整理された資料や本、そして道具達。
また、転生順を待つ魂を保管する容器も規則正しく並べられ、とても分かりやすい。
これがあのマスターの息子に当たる神であるなんて、誰が信じるだろうか。
まあ、本人はこの事実をとても嫌がるので、口にしないけど。
おれはマスターの仕事を片付けた後─なんで、おれがやってるかは聞かないでほしい─、地上へ戻ろうかと思いながら歩いていたら、運悪く(?)兄貴に見つかり、仕事の手伝いをさせられている。しかしまあ、戻ったところで、すぅの相手をするくらいしかやることはないので、全く問題はないが。
兄貴は現在、鼻歌混じりで書類整理に勤しんでいる。なんでも、アルフ様に提出するための書類だとか。
「にゃっ! にゃっ!」
そして、仕事中の兄貴の頭の上では、ミィが兄貴の髪の毛で遊んでいる。ぴこっと跳ねているアホ毛をていていっと前足でつついているところらしい。
ちなみに、ミィはおれと兄貴が歩いていたところ、勝手に付いてきただけだ。なんで付いてきたのかと思っていたが、ここへ来るなり、兄貴の頭に登り、アホ毛でじゃれ始めているので、目当ては兄貴だったのかもしれない。
「にゃにゃにゃっ!!」
アホ毛への攻撃をつつくではなく、連続猫パンチに変更。パンチがヒットする度、大きく揺れ動く。
「あー……りゅっち~? 遊ぶのはいいけど、パンチは勘弁ね~? 痛くはないけど、微妙な衝撃が来て、集中できなーい」
「にゃっ!? みっ……みっ……」
兄貴の言葉でミィは素直に攻撃を弱める。
というか、遊ぶのはいいんだ?
「そそ。そんくらいだと嬉しいかなぁ~……で、かーくんはどしたの? しまうの、分かんない資料でもある?」
おれがじっと見ていたことに気づいていたのだろう。視線は書類に落としたまま、おれに話しかけてきた。
「あ、いや。……そうじゃなくて。気になるというか、なんというか」
「……もしかして、何かあった? それなら、きちんと聞くよ」
あっ……くっそどうでもいい話すぎて、言い淀んでいたら、兄貴が謎にお兄ちゃんモードになっちゃったよ。違う。そうじゃねぇ!
「あーいや、その、どうでもいいことだから! そんな真剣にならなくていいから!」
「それならよかった♪ で、なぁに?」
「結局、言わせんのかよ。……あー! ミィって、兄貴の頭の上にいるときはアホ毛でよく遊ぶなぁって思って見てただけ!」
「うん? あーまあ、そうね」
と、書類を書く手を止め、自身の髪をいじる。
「俺自身は気になんないけど、りゅっちは気になるの?」
その問いかけにミィはこくこくっと頷く。滅茶苦茶、気になるらしい。
「体は猫だし、ゆらゆらするもんは狙いたくなるのかね。元人間のリュミエールさんでも、さ」
「あはは♪ 猫の本能には、りゅっちも逆らえないのかもねぇ~……でも、そっか。気になるんだ。ふーん?」
兄貴のそのニヤニヤ顔は、くっだらねぇことを考えてんだろうな。
変なことしなきゃいいけど……
何やら、考え事をし始めてしまった兄貴をよそに、おれは再び、仕事の手伝いへと戻る。
兄貴は兄貴ですぐに仕事へと戻り、何事もなく、すんなりと一日を終えた。

兄貴のアホ毛話から数日後。
あれから何かあった……わけでもなく、平和な日常がのんびりと続いていた。
今日はとある神に仕える従者から、マスターへ仕事だと手渡された書類の束を抱え、マスターの部屋へと向かっている最中だ。
その従者によれば、提出期限は来週。急ぎではないのだろうが、あのサボり魔馬鹿マスターのことだ。今のうちに急かしておかなければ、期限なんて間に合うはずもない。
必要な資料を揃え、机に縛り付けておけば、嫌でもやるだろ。そのための準備をしなくては。
「にゃーーー!!」
どこからともなく、ミィの叫び声が聞こえてくる。その声に思わず、足を止めた。
その声は、近くの休憩室から聞こえてきたようだった。声からして、相当慌てているみたいで、ミィに何かあったのだと思わせるのに十分だった。
「にゃ! にゃにゃにゃーーー!」
「え、ちょ! りゅっち!?」
ふむ? ミィだけでなく、兄貴もいるのか。
なら、大事ではない……? 少なくとも、ミィに危険はなさそうだ。兄貴の驚いた声に別の意味で少し、不安は残るが。
休憩室へ駆け込もうとしていた歩を緩めた辺りで、兄貴の制止声が響いてきた。
「わーー!! りゅっち! 待って待って!? ごめーーん! 行かないでぇ!? って、うわぁ!?」
何してんだ、うちの兄貴は。
「みぃいぃぃぃぃ!!!」
「おい、あに……って!」
兄貴に文句を言いながら入ってやろうと思っていたところに突然、ミィが休憩室の入口から飛び出してきた。そして、驚くおれと目が合うと、素早い方向転換の後、凄まじいジャンプ力で、おれ目掛けて飛び込んでくる。
「にゃにゃにゃー!」
「まっ、おれ、今、手が塞がってます。ちょ、ミィさぁぁんっ!?」
おれに飛び付くミィを見て、書類とミィを天秤にかける。そして、おれはミィを抱き止めることを選択した。
散らばる書類に足を取られてしまったのと、思いの外、勢いよく飛び込んできたミィの威力を殺しきれずに、後ろへと倒れてしまう。
「いってぇ~……! ど、どうしたんだよ、ミィ?」
「にゃあ! にゃう~!」
理由を説明するでもなく、ただただ、おれの胸に顔を押し付け、大号泣状態だ。
見たところ、変なところはない。怪我とか、病気とかではない……と思うのだが。……如何せん、ミィにおれの能力は効かない。何があったのか、直接聴けないのだ。
「ミィ、そんなに泣くなって」
こんなに泣くミィも珍しい。アルフ様関連なら分からんでもないけど、アルフ様がどこかへ行くなんて話は聞かないし、喧嘩したって話も聞かない。
判断材料がなさすぎる。……いや、待て。休憩室からは、兄貴の声も聞こえてきていた。なら、兄貴なら、ミィの泣いている理由を知っているんじゃ?
「りゅっち! ごめんって、そんなショックを受けるとは思わなくて! 元に戻し……って、かーくん!? 大丈夫!?」
「おれはまあ、平気だよ」
ミィに遅れ、兄貴もまた、休憩室から飛び出てきた。が、散らばった書類に廊下で座り込むおれを見て、こちらはこちらで驚いたのだろう。慌てて助け起こしてくれた。
そして、兄貴の手助けもあり、すぐに書類も集まった。せっかくなので、場所も休憩室のソファへと移動して、本題へ。
「さて、説明してもらっていいかな? ウィルにぃ?」
「あ、はい」
「ミィはなんで泣いてたんだ?」
「ちょっとした悪戯のせいです」
悪戯ぁ?
おれはぐすぐすと未だに泣き止まぬミィを宥めつつ、兄貴の話を聞いていた。
「ほら。少し前に俺の髪の話、したでしょ? りゅっちが俺の髪でよく遊ぶ~ってやつ」
「あぁ、うん。覚えてる」
「で、なんとなく俺のアホ毛消してみたら、りゅっちはどんな反応するのかなーって思ってしまいまして」
「……今日、それを実行した、と?」
「はい。で、かーくんが遭遇した事態に合流するわけですね~……え、えへへ~♪」
笑っても誤魔化されんぞ。おれは。
兄貴の髪の話が出てきた時点でなんとなく、くっだらねぇ空気は察してはいたが……なんだかなぁ。真面目に心配したおれの気苦労を返せ。
「まあ、なんもなくて、よかったけど。……ったく、ミィ。んなことで大泣きすんなよ。見た目は子猫でも、中身は大の大人でしょうよ、リュミエールさん。大先輩らしく、笑ってスルーしてくれませんかねぇ」
「みゃあ~!」
この感じは「私にとっては大事だよー!」って感じかな……いやいや、どう考えても、どうでもいいだろ。これ。
「兄貴も兄貴だ。こんなことに時間を割くくらいなら、もっと有意義に時間を使え。神の名が泣くぞ」
「神様でも、くだらない無駄な時間は必要だよ」
「黙れ。やるにしても相手を選べ」
「すみません。つい、出来心で」
全く……まじで、どうでもよかったな。こんなことに巻き込まれるとは、おれの運が悪かったのかもしれない。しかし、このままでは少し……いや、かなりまずいのは明白だ。
「ミィ。いい加減、泣き止め。でないと、兄貴がまずいことに巻き込まれる」
「みゃ……?」
「俺? なんで?」
一人と一匹は不思議そうに首をかしげる。ミィはともかく、兄貴のその反応は駄目だろ。
「……あのねぇ、ウィルにぃさんや。ミィは誰の従者で、どう扱われてるんでしたっけ?」
「? そんなの、ルフさんの従者さんで、奥さんで、めっちゃくちゃ大切に……され、て」
思いの外、事態の深刻度は高いと、ようやく理解したらしい。兄貴はみるみる青ざめていく。ソファから立ち上がったかと思えば、床に正座し、切羽詰まったようにおれに─正確には、おれの膝に座るミィ─向かって懇願し始める。
「りゅっち、即座に泣き止んでください、お願いします! 一生のお願いです、りゅっちさまー!」
「み、みゃあ……?」
最初ほどではないにしろ、未だにポロポロと涙を溢すミィ。あと数分もすれば、涙は引っ込んでくれるかもしれない。
まあ、そんな猶予があれば、よかったんですけども。
「ウィ~ル~くんっ?」
「ひぃ!? ル、ルフさん!? いつの間に!」
気配を殺し、兄貴の背後に立つのは、ニコッと笑うミィの守護者様こと、アルフ様である。笑ってはいるものの、当然、目は笑っておらず、兄貴の肩を掴むその手は、必要以上に力が込められていた。
「あ、あの、これは、なんでもなくて! 悪ふざけが過ぎたというか! なんか、そういうやつでして!! 決して、りゅっちを泣かしたいとか、そういう悪意はなくてですね!!」
「うんうん。話は大体、聞いてたよ。まあ、ここじゃ何だし、あっちでゆーっくり話そっか? 二人でじっくりと、ね?」
「え!? 話を聞いてたなら、そこまで怒らなくても……ってか、二人!? 二人はちょっと都合が……あーー!! 掴まないで! やだぁぁ!!」
さよーならー……と。
ずるずると引きずられるように退出していく兄貴を見送り、おれは小さくため息をついた。
「マスターと言い、兄貴と言い……なんでアルフ様の怒りに触れるようなことをするんだろうか」
「み、みぃ~……」
放置してても泣き止むとは思うんだが……あぁ、もう! 仕方ないなぁ!
「おれの仕事が落ち着いたら、クッキーでも焼いてやる! だから、もう泣くなって!」
「みゃおー!」
クッキーという単語につられたのか、すっと涙が引っ込んだ。なんなら、先程までの大号泣は何だったのか、と問いたくなる程の笑顔である。
「現金だな、お前」
「にゃ?」
「……まあ、いいや。先にマスターの部屋に行って、この書類を置きに行こう。で、まあ……資料集めは……明日でも問題はないか」
書類を届けて、クッキー焼いて……その後にアルフ様の話が続いていたら、兄貴の救出に行こう。続いていたらの話だが。



~あとがき~
粘っていれば、フォースのお菓子をねだれるのでは思っての行動だったら、策士すぎるぞ、ミィさん。でも、そんなことないと思ってる。

次回、フォースととある従者達の話。
今まではどったんばったんしてましたが、次回はそんなことないです。多分。

アルフさん、ここまで怒ることしかしてないな……(笑)
本当にこの扱いでいいのかと相方に何度も聞いたけど、「大丈夫( ^ω^ )」としか言われんかった。大丈夫らしいです。

ではでは。

気ままな神様達の日常記録 vol.11

こちらは『学びや! レイディアント学園』の番外編でございます。スピンオフというか、なんというか。全く本編に関係のない皆々様に焦点を当てたお話となっております。前回、ファウスがアルフ様のお怒りに触れてしまい、あわや大惨事になりかけました! そして、大掃除です!



☆さくっと登場人物紹介のコーナー☆
アルフ:転生の神様。穏やかな性格でにこにこしながら、みんなを見守る優しいお方。怒ったところを見たことがない。

ファウス:力の神様。ずぼらな性格で部下である制御者達(特にフォース)からの信用度は低い。部屋がめっちゃ汚いことで有名。

ウィル:生命の神様。人懐っこい性格。フォースを本当の弟のように可愛がり、皆の頼れるお兄ちゃんでもある。

ミィ:アルフに仕える蒼い目をした白猫であり奥様。誰にでも優しい性格。アルフさん大好き子猫。

フォース:制御者の一人で、最高位の色を制御する。クールな性格で制御者達のリーダー的存在でもある。ゲームは滅茶苦茶強い。

エレル:制御者の一人で色は青。底無しに明るく、トラブルメーカーな存在。ゲームは苦手。

ユウ:制御者の一人で色は緑。物静かな性格で真面目な青年。ゲームは普通の腕前。

ラウラ:制御者の一人で色は白。どこか皮肉屋で掴めない性格をしている。ゲームはそこそこやれる腕前。





★天界の魔窟、大掃除大作戦★
「──と、いうことで! 今から、ファウスのお部屋の大掃除を始めたいと思いまーす!」
頭に三角巾、汚れないためにエプロンまで装備したアルフ様が、やる気満々に宣言する。そして、アルフ様の頭の上にちょこんと乗るミィも、やる気十分なようで、にっこにこであった。
そして、付き合うこととなった兄貴と制御者の面々も、渡された三角巾&エプロン装備に戸惑いつつも、各々反応を示す。
「……お、おー?」
「なんで、こうなったんだろ」
「あはは♪ 謎だねぇ?」
三角巾&エプロン装備でおずおずと拳を突き上げる、エル。
三角巾を結びながら、頭上にはてなを浮かべている、ユウ。
そして、こういうものに参加するイメージのないラウラですら、きちんと装備を整えて楽しそうに輪に加わっていた。
そして、おれと兄貴は互いに顔を見合わせ、苦笑していた。というか、苦笑しかできない。
……なんでこうなったっ!?
「あ、あの、ルフさーん! いくつか質問してもいいでしょーか!」
「うんっ! どうぞ、ウィルくんっ!」
あれ、いつものアルフ様……?
いや、でも、いつもならマスターを呼び捨てで呼んだりはしない、か。
「さっきまで、あの馬鹿にめっちゃ怒ってたけど、もういいの?」
と、アルフ様の手によって、天井にぶら下げられたマスターを指差した。
おれ達用にとエプロン等を取りに行き、戻ってきたトキにはある程度、いつものアルフ様に戻っていた。あの異常な威圧感も、どこへやらである。
「そうだね~……完全に収まったとは言えないけど、とりあえずは俺の気持ちも落ち着いたかなぁって。だから、ファウスの説教は一旦終わりってことで♪」
俺、ねぇ?
基本、少年姿のアルフ様の一人称は「僕」だ。「俺」なんて使うのは、元の姿に戻った時か、素に戻った時にしか使わない。
つまり、アルフ様の言葉通り、怒りは収まっていないんだろう。それに、さっきもマスターを呼び捨てにしていたし、ほぼ確定で、まだお怒り中だ。
「……じゃ、もう一個。ルフさん自ら、この部屋を掃除するって言い出したのはなんで? りゅっちが怪我しないようにするため?」
「うん。それが一番ではあるかな」
なら、ミィがこの部屋の前を通らないようにすればいいんじゃないか? その方が確実で、手っ取り早い気もする。
「お言葉ですが、アルフ様。今回片付けても、すぐに元通りになっちゃう気がしますよ~……?」
「現になってるしね? この前、片付けたはずなのに、これだもの。僕らの片付けがあっても、これじゃ、この大掃除も意味がない気がするなぁ?」
エルとラウラも、おれと同じ考えに至ったのか、素朴な疑問を口にしていた。
そして、その疑問はこの場にいる全員(マスターを除く)が思っていることでもあり、うんうんっと深く何度も頷いていた。
そして、それはアルフ様も同じで、ニッコリと笑いながら、二人の言葉を肯定した。
「そだね! でも、前にファウスの部屋について、会議の議題として出たことがあってね。ついでだから、それを今回で解決してやろかなって?」
……議題?
「あ~……そいや、いつだったか話題に上がってたかも。なんだっけ。議題名」
「『力のの汚部屋問題について』だよ、ウィルくん♪ 今回みたいに突然、廊下に雪崩が起きるのは危ないって話になったでしょ」
「それだー! かなり前だよね、それ。結局、議題に上がったはいいけど、本人不在でお流れになったやつぅ~♪……こいつ関連の話だったし、すっかり忘れて……あれ? か、かーくん? お、落ち着いて!?」
「おい、アホ。聞いてねぇが?」
兄貴の制止も無視し、おれは天井にぶら下がるマスターを睨み付ける。
「あ、すみません。俺も初耳です……ごめんなさい、フォース様。なので、そのお怒りは、しまっていただいてよろしいかな!?」
「しまえるか、くそがぁ!! この部屋の前に貴様を掃除してやってもいいんだかな! おれは!!」
即座に銃を創り出して、その銃口を哀れな、てるてる坊主へと向ける。
「ひいぃぃ!? 主人に武器を向けるなんて、不敬罪で逮捕ですよ、フォースさまぁぁ!!!」
「黙れ、腐れ神が!! こちとら、多方面の方々からスカウト受ける程、優秀な従者として名を通してますから! なんなら、すぐにでもお前のところ、辞めてやってもいいんだぞ!!」
「かーくん! ステーーイ!」
流石にまずいと思ったのか、兄貴がおれの邪魔をしてくる。がばっとおれに抱きつき、意味もなく、よしよしと頭を撫でてきた。
「落ち着いてください、かーくん! 俺としてもこいつに一発ぶちこむのは、大いに賛成だけども! 本人の許可なく攻撃はまずいっ!! 流石に!」
「うるせえぇぇ!! とめるな、ウィルにぃ! つーか、こんなことで罰が与えられるなら、おれはとっくの昔に消されとるわぁぁ!!」
「確かに! よし、一発撃っちゃえ、かーくん! 俺も加勢するぞ!」
ぱっとおれから離れた兄貴がびしっと馬鹿を指差した。
「『撃っちゃえ☆』じゃねぇが!? お前ら二人、後で覚えてろーー!!」
おれが引き金に手をかけた瞬間、パチンっと手を叩く音が部屋に響いた。思わず、音のした方を見ると、ニコニコ顔のアルフ様がいた。
「はーい。ファウスの粛清は部屋片付けてからにしてもらおっか? ウィルくん、フォースくん?」
……あっと、すみません。つい。
「いいよいいよ♪ 見てて面白かったから、OK! そういえば、流れで君達にも掃除、手伝ってもらうことになったけど、よかった?」
「あ、はいっ! それはもちろんっ! というか、うちのマスターの問題ですもん。私達がどうにすべきですし、むしろ、巻き込んで申し訳ないです……!」
「あ、それは安心して、エレルちゃん? 掃除中でもちゃあんと、ファウスにお仕置きするから」
全く安心できないような台詞を笑顔で告げながら、おれ達にとあるものを手渡していく。
「はい。これでどんどんお片付けしてってね!」

掃除を始めて、数十分。
アルフ様から手渡された『それ』を使って、スムーズに掃除は進んでいた。
「凄いですよ、これー! めっちゃ楽ですもん!」
と、エルは感動しながら、本来、図書館にあるはずの本、数冊をぽいぽいっと手元の袋へと投げ入れる。袋は大きさを変えることなく、全てを収納した。
「だね……中に入れたものを自動的に任意の場所へ移動する『移動袋』。……これなら、担当決めて、袋に入れるだけで片付く」
ユウは感心しながら、紙屑を玉入れのように移動袋へとぽんぽん捨てていく。
その隣では、エルと同じように本をまとめていたラウラも満足げに頷いていた。
「入れるものさえ、間違わなければいいからね。……でも、アルフ様もこんなもの、いつの間に作ってたんだろうねぇ? あ、エレルちゃん。これ、君のかな」
「ありがと、ラウラ~♪ でも、ラウラ、こんなのに参加するなんて、珍しいねー?」
ラウラから手渡された本を袋へとしまいつつ、こてんと首を傾げる。
「あはは。逃げられるなら、さっさと逃げてたよ♪ でも、無理でしょ。逃げる隙がない」
「まあ、そだね! いつもはお優しいアルフ様があんなに怒ってたもん。流石のラウラも駄目だったか~」
「あれから目を盗んで逃げようなんて、無理無理」
と、二人が見る先には、謎の置物をマスターに向かってぶん投げるアルフ様がいた。
置物はマスターに当たる寸前でふっと消える。
「あっぶなぁ!? 片付けるにしても、投げる必要性を感じないですけど!!」
「え~? だって、こうしないとお仕置きにならないし~♪ ミィを怪我させた罰でもあるし~♪ 黙って受けててよ~? まあ、当たることはないよ。ファウスのその袋にも、皆の持ってる袋と同じ魔法をかけてあるもん」
「それは理解してる。その範囲を俺に当たるギリギリにするのは必要か?」
「必要」
「ねぇよ!! まじで当たったらどうすんだ、アルフお前ぇ!?」
「間違って当たったとして、死にはしないでしょ? ファウスも神様だもーん。あと、治してくれるかは知らないけど、ウィルくんもいるし、だいじょぶ、だいじょぶ♪」
気軽な口振りとは裏腹に、時計らしきものを握ったアルフ様は、超豪速球でそれをマスター目掛けて投げた。身動きの取れないあいつにできることなんて、無意味に体を縮める程度である。
「あ、こんなところに固そうな石、発見っ♪」
「なっ!? やめろ。それだけはやめろ……死ぬ! 当たったら死ぬっ!!」
「うるっせぇぇ! 黙って、てるてる坊主の仕事を全うしていろ!!」
おれはその場にあった電気ケトル─ちなみに、電気なんてこの部屋に通ってない─を掴み、マスターに向かってぶん投げた。
それは苦しくもマスターに当たらず、袋によって吸収されてしまった。
「チッ……軌道がずれたか」
「フォースさん!? お前、もうやってることが殺人ギリギリでは!?」
神様なんて基本、死なねぇだろ。殺人になりゃしねぇわ。そもそも、人ですらねぇだろ。
「いいなぁ。俺もクソジジィに何か投げたーい。……あ、りゅっち。それ、持ち上げてほしいかも」
「みゃ!」
兄貴とミィは協力して、謎の小物類を集めまくっている。時折、手頃な小物を掴んでは握り心地を確かめているため、やる気は十二分にあるらしい。
「馬鹿息子!! 便乗すんな! とめろ! お前の弟をとめろ!!」
「かーくんのやりたいことは極力、させてあげたい系お兄ちゃんなので無理です。後、こんな機会でもないと、貴様を屠れんだろうが」
「……お前、本性、出かかってるけど?」
「てへ☆ つい、うっかりぃ」
多分、兄貴のそれはわざとだな。
……こうして、アルフ様のお力添えもあり、片付けは順調に進んでいった。
数時間後、綺麗に整えられたマスターの部屋には干からびた神様が転がっていたと噂が流れるが……まあ、それはきっと気のせいだ。忘れてくれ。



~あとがき~
ファウス退治にノリノリな兄弟やべぇな。

次回、ウィルさんとミィちゃんとフォースくん。
ファウスをいじめるのにノリノリだった二人が出てくるお話です。

フォースがぶちギレ(?)てファウスに銃を向ける辺りは私も楽しくなって、滅茶苦茶なことをするフォースくんを書いてしまいました。悪ノリ、よくない。
実際のところ、フォースは制御者でなくても他の神様の使いでもやっていけるポテンシャルはあるんだよね。
まあ、あんなこと言ってたり、主にとんでもない行動してたフォースですが、結局はファウスの元を離れないんですけどね。
ツンデレってよりは、今後の心配と今まで受けた恩義という半々の気持ちで側にいます。

ではでは。

気ままな神様達の日常記録 vol.10

こちらは『学びや! レイディアント学園』の番外編でございます。スピンオフというか、なんというか。全く本編に関係のない皆々様に焦点を当てたお話となっております。さて、今回の登場人物の紹介をいたしましょう!



☆さくっと登場人物紹介のコーナー☆
アルフ:転生の神様。穏やかな性格でにこにこしながら、みんなを見守る優しいお方。怒ったところを見たことがない。

ファウス:力の神様。ずぼらな性格で部下である制御者達(特にフォース)からの信用度は低い。部屋がめっちゃ汚いことで有名。

ウィル:生命の神様。人懐っこい性格。フォースを本当の弟のように可愛がり、皆の頼れるお兄ちゃんでもある。

ミィ:アルフに仕える蒼い目をした白猫であり奥様。誰にでも優しい性格。アルフさん大好き子猫。

フォース:制御者の一人で、最高位の色を制御する。クールな性格で制御者達のリーダー的存在でもある。ゲームは滅茶苦茶強い。

エレル:制御者の一人で色は青。底無しに明るく、トラブルメーカーな存在。ゲームは苦手。

ユウ:制御者の一人で色は緑。物静かな性格で真面目な青年。ゲームは普通の腕前。

ラウラ:制御者の一人で色は白。どこか皮肉屋で掴めない性格をしている。ゲームはそこそこやれる腕前。





★転生の神の怒り★
ここは天界。様々な神が住まう世界。
今日も世界のため、人々のため、神様は見守っている。そんな天界のとある場所。
誰が作ったのか、娯楽室のような休憩所で、おれは無言で白の石を引っくり返し、盤上を黒に染め上げていく。
目の前には、世界の滅亡でも迎えたのかと思うくらい、絶望した表情を浮かべる少女が一人。
「ほい。これで終わり。……おれの勝ちだな♪」
最後の白を黒へと変え、ニヤリと笑ってみせる。
目の前の少女こと、エルは口をあんぐりと開け、頭を抱えながら悲鳴を上げた。
「ぐあー!! なんで! なんで、また負けるの!? というか、酷いよ!! ぜーんぶ黒にすること、ないよね!?」
「お前が弱い」
「手加減してよぉぉ!!」
「してもあんまり変わらないと思うぞ。むしろ、一つ、二つ残ってる方が虚しくね?」
別におれだって、全部黒にしてやろう……とは思ってはいない。ただ、エルが弱すぎるから、結果的にこうなるだけで。
おれとエルの対戦を見ていたユウとラウラも、互いに感想を言い合っている。
「流石、フォース。容赦ない」
「あはっ♪ らしくはあるけどねぇ」
お前らもそっち側かい。
しかし、ラウラはにこっと笑いながら、おれではなくエルの方を見て、ぽんぽんっと頭を撫でた。
「でも、エレルちゃんもフォース君の慈悲でチェスからオセロにしてもらってるんだし、文句は駄目だよねぇ?」
「ラウラも意地悪だぁぁ!!」
あ、こいつエルに追い討ちしたいだけだった。性格悪いわ、やっぱ。
こうなった経緯としては。
おれ、ラウラ、ユウの三人で対戦(チェス)をしていたところ、エルが飛び込んできたのだ。そして、「私も遊びたい!」と仲間に加わった……まではいいが、チェスを知らないエルでも遊べるボードゲームはなんだとなり、オセロに変更されたのだ。
で、おれとエルで通算十戦のオセロ勝負と相成ったわけで。言うまでもないが、おれが十勝してます。
「おれとやるから、こうなるんだろ。ユウかラウラとやれば?」
「ラウラも強いし、ユウも強いもんっ!!」
誰とやっても勝てねぇじゃねぇか、それ。
わんわんと嘆き悲しむ(?)エルだったが、ぴくっと猫耳を動かすと、不思議そうに顔を上げた。
「……なんか廊下から聞こえてこない?」
廊下?
エルの言葉に、おれ達は廊下に続く扉を見つめる。獣人であるエルだからこそ聞こえたのだろうが、現在、人族であるおれには、何も聞こえてこなかった。
「うーん?……誰かが走って……いや、爆走してるかな?」
天界に住む人々は教養があるのか、廊下を走るという行為を滅多にしない。……ま、普通に考えて、神様が仕事しているかもしれない部屋の前を走る方がおかしいんだけども。
そういった事情もあり、誰かが走るなんて早々ない。つまり、だ。
「……何かあって、廊下を爆走してる人がいるってことかな♪」
そういうことになるな。楽しそうに言う必要はないが。
おれにも爆走する足音が聞こえてきた辺りで、なぜがミィの声も聞こえてきた。
「……ミィ?」
「ほわ? あ、ほんとだ! ってことは、ミィちゃんも一緒なのかな。はっ! 爆走さんと走ってるのかも!」
「あれれ? フォースくん、ミィちゃんの声に気づくのは早いんだねぇ?」
うるせぇ。たまたまだ。ニヤニヤすんな。
とはいえ、状況が掴めないままなのは確かだ。外に出てみれば何か分かるかもと思ったところで、休憩所の扉が大きく開かれた。驚くおれ達をよそに、乱暴に入室してきた人物──ウィルにぃは、周りを見渡し、大きく息を吐き出した。
「よかったぁぁ……みんないるぅぅ!」
「兄貴? どうかしたのか?」
「カルマァァ!!」
「え、おれ? は、はい……?」
「パスッ!」
は!? パスッ!?
兄貴の全力疾走に目を回しているミィを構わず、おれに投げて寄越してきた。
相当慌ててるのか、おれのことを『かーくん』ではなく、本名で呼ぶ辺り、ガチで余裕がないのだろう。
「みいぃぃぃ~……!」
「わっとと……大丈夫か、ミィ?」
「み、みぃ~……」
爆走&投げ渡しで、ぐるぐると目を回しているミィだが、とりあえず、怪我とかはなさそうだ。
「ウィル様! 何がどうなって」
「悪い、エレル! 説明している暇がない! とりあえず、全員、俺の言うことを聞け。カルマと離れずに固まっとけ!!」
兄貴が両手を合わせると、ぽうっと兄貴の周りが発光する。何かの術を発動させるつもりなのだろう。
状況が読めないが、兄貴があんな風になっているんだ。言う通りにした方がいい。
「な、何が起こってるの~!?」
「さ、さあ?」
「よく分からないけれど、フォースくんにくっつけばいいのかな~?」
いや、本当にくっつく必要はないのでは?
おれが反論する前に、三人がおれにぴったりとくっついた瞬間、ミィの鈴が鳴り響く。
そして、遠くの方で地響きが聞こえてきた後、どこからか強力な威圧感を感じた。
「ひゃあっ!」
「うっ!」
「……わお。これは笑えない」
強大な力を持つ神と対峙した瞬間。
深い深淵に触れた瞬間。
普通に生きていれば、まず出逢わないだろうそれらと邂逅した時に感じる本能か。
おれはそれを凄まじい悪寒として感じ取った。
動けない。動いてはならない。
そんな直感に、おれは忘れていた死への恐怖のようなそれを思い起こさせられた。
「うえぇん……マスターの本性、駄々漏れしてない?」
「うん。……だけど、それよりも凄い気がするけど」
「だね。似てるけど、違う気がするな」
いや、むしろ、あのマスターよりも恐ろしいプレッシャーだ。これはマスターじゃない。
「みぃ?」
ミィが不思議そうに「どうかしたの?」とおれを見上げる。いつも通りのミィ。
ミィはこれを感じていない……? おれを含めて、全員が恐怖し、動けずにいるのに?
「うげぇ~……ルフさん、めちゃ本気だよ! 待ってて。すぐに楽にしたげる……よっと!」
兄貴が術を発動させると、感じていた威圧感がふっと消える。その瞬間、エル達はその場に座り込んだ。
「はうぅ~……助かったよぉ~……!」
「ふぅ……ウィル様が相殺してくださったのですか?」
「まあねん♪ ごめんね? 急に驚いたでしょ」
「まあ、それなりに驚いたけど……それよりも状況が掴めなくて、理解できてないんだが。兄貴、何があったんだ? アルフ様の名前が出てたってことは、アルフ様に何か?」
「うーん。まあ、うん。そうね……あのプレッシャー攻撃はルフさんが原因だけど。それからかーくん達を守るために、俺も走ってきたわけで。……まあ、なんだ。とりあえず、現場、見てみる?」
はっきりしない物言いに首を傾げつつも、兄貴に言われるまま、その現場とやらに向かうおれ達。実際に見た方が早いと言われてしまえば、その通りにするしかない。

兄貴に連れてこられたのは、マスターの仕事部屋の前。
その部屋の中では、アルフ様がマスターの頭を鷲掴みにし、壁に打ち当てている。
「あ、あれ? アルフ様? なんか雰囲気が……」
「あはは。マスター、大変なことになってるなぁ~?」
「いや、これ、笑えないって。どういう状況なんだ?」
「……兄貴、これって」
「本気アルフ様は怖いってことだよ。俺も怖いもん。でもまあ、まだ手前なだけ、ましかなぁ」
あれで手前なんだ……?
部屋の中では、鷲掴みにされているマスターがプルプル震えながらも─恐らく、痛みによる反射─どうにかアルフ様に話しかけているところだった。
「ア、アルフ……? このマジなやつは勘弁してくれ。流石に痛すぎる……」
「あ? どの口が言ってるんだ。あんなことが起きておいて、『はい。すみませんでした』で、済むわけがないだろうが」
「起きた後は謝るしかできないだろ……その後は反省して、次から起こさないよう、努力するしかねぇもん……なので、少しでもいいんで、力を抑えてくれませんかね?」
「信用できるか。前にも被害はなかったとはいえ、今回、似たようなことが起きているのにか?」
アルフ様が更に力を込める。それにマスターは慌てて弁明する。
「悪かったって!! 今度は安全第一にしますんで! だから、これ以上は勘弁してくれぇぇ!!!」
……マスターとアルフ様が原因なのは分かった。そして、マスターが何かやらかして、アルフ様の怒りに触れたことも分かった。分かったけれど……
「根本的な原因は何?」
「ひいぃ~……ルフさん怖い。怖いです……!」
……おい、馬鹿兄貴。
「あう。ごめん。つい、昔のあれこれがトラウマとして蘇るところだったよ。……まあ、端的に申しますと、アホがりゅっちを怪我させたのが原因ですかね」
……はぁ!?
さっき、兄貴に渡されたときは怪我なんてなかっ……たのは、当然か。兄貴が即座に治したんだろうから。
兄貴曰く。
事が始まる前、アルフ様、ミィ、兄貴の三人(正確には二人と一匹)で資料運びをしていたらしい。もちろん、子猫のミィに資料は持てない─念力使えば持てるけど、そこまでする程の量は運んでなかったとのこと─ので、二人を先導するように前を歩いていた。
そして、丁度、マスターの部屋の前を通りかかった際、事件が起こる。
「タイミング悪く、あの魔窟の扉が開かれてしまってね。前を歩くりゅっちが巻き込まれちゃってさ。その時、りゅっちが怪我を~……っても、たんこぶ作っただけなんだけども」
「はうぅ~……大丈夫なの? ミィちゃん」
「み? にゃあ♪」
エルの問いかけに、おれの腕に収まるミィが「問題なし!」と元気よく一鳴き。ラウラも当然のように、「そりゃそうでしょ」と呟く。
「ウィル様がいたし、問題ないに決まってるよね。……でも、なるほど。それでマスターは、アルフ様の逆鱗に触れちゃったわけか♪」
ってことだな。
普段は仲のいい二人だが、ミィに何かあったのなら、アルフ様のお怒りスイッチを押してしまうのは目に見えている。その結果、離れたところにいたおれ達までも、あの威圧感に圧倒されてしまう事態になったと。
「ん~……けれど、変だなぁ? あの部屋、フォースくんの夏季休暇とやらの前に一度、片付けなかったかい?」
そだな。片付けたの、つい最近だったと思うが。
「さっすが、マスター! この短期間で元通りにしちゃったんだね!」
「さっすが~……じゃないけど。やれやれ……あの苦労はなんだったのさ?」
ユウの言う通りだよ。なんだったのだ。あの時間はっ……!
「ちっちゃなミィちゃんが、たんこぶ程度で済んだのは、ふこーちゅーのさいわいってやつだね!」
「まあうん。そうだと思うけど……あれ、どうすんだよ?」
室内は未だにバッチバチなアルフ様にしばかれるマスターしかいない。とてもじゃないが、止めに踏み込もうとは思えない険悪な空気だ。
同族の兄貴もかなり困った様子で、どうしようね、とおれに聞き返してくる始末。
「……そいや、アルフ様の威圧感……兄貴はともかく、ミィはけろっとしたな」
「にゃあ?」
「あぁ……それはりゅっちの鈴が理由だよ。それ、ルフさんの力が込められた鈴だから、ルフさん自身の威圧感も相殺できちゃうって訳」
なるほど。ミィが怖いもの知らずってわけじゃないのね。
「わは~♪ ま、りゅっちなら、ルフさんを恐れなさそうだし、そこも否定はしない。でも、けろっとしてた理由は鈴の力だよ♪」
「まあ、ミィがアルフ様の力に影響されないってのは分かった。で、どうするかは別問題だよな?」
「だね。いくらマスターの自業自得で、この事態を引き起こしたからと言っても、一応、僕らのマスターだ。流石に放置するのは気が引けてしまうよ」
ラウラの話も一理ある。どうにかこの場を納められないだろうか。マスターを救出するためというよりは、これを放置するのは、周りの迷惑になるかもしれないからだ。
アルフ様のお怒り原因はミィが怪我したからだ。しかし、現状、兄貴の力で怪我一つない。無事であると伝えたら、少しは怒りが収まる……なんて、都合よすぎる?
「なあ、ウィルにぃ? ミィに協力してもらって、どうにかんない……かな?」
兄貴は低く唸ったあと、おれの予想通りの返答をする。
「望み薄、かなぁ。……いつもの不機嫌ルフさん程度なら、りゅっちで一発だけど~……今回はねぇ……気が収まるまで放置が安定かな。それに下手に刺激すると、飛び火もしそうだからな。俺、死にたくないです」
や、流石に死にゃせんだろ……流石に。
「じゃあ、かーくんが止めに入る? すっごくオススメしないけど」
ちらりと扉の先をみる。
尋常ではない危険なオーラにそっと視線を外す。
「……おれも死にたくねぇかなぁ」
「死にはしないよ~……多分」
多分って言っているじゃねぇか! アウト!!
「つまり、マスターを助ける術はないってことです?」
「そだねぇ~……ごめんねぇ、ラウちーん」
「いいえ? 僕は格別困らないので、大丈夫です♪」
やっぱ、いい性格してやがるわ……
「そっと離れて、ルフさんの怒りゲージが下がるの待とっか~……そうすれば、りゅっちで機嫌なお─」
「ウィル!!!」
「はいっ!? なんでございましょうか、アルフ様っっ!!!」
突然、兄貴の名前を怒声混じりに叫んだアルフ様。そして、条件反射なのか、一瞬にしてアルフ様のもとへ傅く兄貴の姿。
あそこまで極められてると尊敬するわ。すげぇな、兄貴。
「今から掃除をする。お前も手伝え」
「お、あ……え? 掃除、ですか」
「あぁ。こいつの部屋の、な」
アルフ様が示したのは袋に押し込められ、てるてる坊主のように吊し上げられたマスターがいた。
……まぁた、面倒なことになってきたぞ?



~あとがき~
なっげくなってすんません。
相方にオチ要員として重宝され始めたファウス様。果たして未来はあるのか……(笑)

次回、大掃除。
周年記念に何してるんでしょう。彼らは??

一周年ぶりに制御者全員揃いました。
去年は……全員いなかったもんな。確か。

ではでは。

レイ学3周年!

だってよ。
いつの間にか3周年。3年て。
時が経つの早い……(震え)

それはさておき!
毎年恒例! 記念イラストこうかーい!
私はもちろん、私の相方、mike猫からも預かっておりますので、ぽいぽいぽーいしちゃいます!
まずは私から!

f:id:nyanco-sensei:20220104212624p:plain
3周年イラスト。コメントも添えて。
このキャスティング何故?? って思うかもしれません。現に相方に「なんで?(´・ω・`)?」って聞かれました!
まあ、聞いてくれよ……←?
だんだん、ネタがなくなっていく……というか、ペアも難しくなってくる今日この頃。
ラル&ツバサ、ティール&アラシまではよかった。順当にいけば、フォース&レオンなんでしょうけど、そもそもフォースってmike猫サイドのキャラとそこまで絡みをしてない。困った。
で、他キャラよりもまだ接点のあるアリアちゃんに白羽の矢が立つわけでした。ごめんな、レオン君。この1年でうちの誰かと親しくなっといてください←??


以下、相方からでございます。

f:id:nyanco-sensei:20220103215140j:plain
↑3周年イラスト

どうも、mike猫です。
イラストではなく文面のみでのコメントは初めてになりますね。
ということで、レイ学が始まってから3年が経ちましたね!
もう3年も経ったんですね……時間というものは早いものですね〜?
というか、3年経ったのに未だに本編の方は夏休み中って……い、一体いつになったらツバサ達の夏休みは終わるんでしょうね〜?(汗)
一応、私の中では夏休みネタは3周年の時点ではもう終わっている予定だったんですけどね……思っていた以上にネタが多くてこうなってしまったというかなんというか……
夏休み以降の話を楽しみにしている方にはほんと申し訳ないです。
でも、話の構成的にはスプランドゥール編は折り返し地点を過ぎているので次の4周年までには夏休み編も流石に終わるはずです!!多分!おそらく!!←
……まぁ、そんな感じで引き続き私の方は裏方としてレイ学の話を書き続けていこうと思いますので、今後ともよろしくお願いします!
最後に3周年ということで、この機会にお知らせを作りました!どうぞ、そちらもご覧くださると嬉しいです!by mike猫

以上、相方よりでした。

更に更に!! 相方からお知らせです!

f:id:nyanco-sensei:20220103221757j:plain
f:id:nyanco-sensei:20220103221809j:plain
f:id:nyanco-sensei:20220103221829j:plain
↑mike猫作 お知らせ漫画

……はい! 漫画にある通りです!
レイ学専用アカウント的なものを作ってくれました!! 私がまっっったくTwitter稼働させないので、代わりにやってくれるらしい! ありがたいね!! 肝心のアカウントはこちらになります!

twitter.com

TwitterIDは
「@mike_raygaku」
です。

お知らせ漫画にもある通りですが、こちらのアカウント運営はmike猫様がやってくださるとのこと! 気になる方はTwitterチェックじゃい!
ここじゃ見れないプロット担当視点からの感想や裏話等々が拝める……はず! あとは単純に相方の私生活もチラ見せされちゃうかもです。
私ももしかしたら、本編やあとがきじゃ書かないようなちょい話をあっちに提供する……かもしれないし、全く関わらないかもしれない。
現状、これといった決め事をしているわけじゃないので、何とも言えません!
とりあえず、あれですよ。私だけではなく、相方視点からのレイ学話が聞きたい方はチェックしちゃおうぜってことですね。はい!


最後に。
来週から毎年恒例、レイ学の番外編を投稿します。
神様サイドのお話ですね。なんかもう定番となってしまった。最初はなんとなくで始めた気がするんですけどねぇ(笑)
ということで、いつも通り神様達でわちゃわちゃしてると思いますので、お楽しみに。

番外編は火、金の週2更新し、通常に戻す際にも週2のままにしようと思ってます。しばらくは週2更新でいけるはず。
いけなくなりそうだなってなったら、あれだよ。また週1になります。ふわふわしとりますが、どうぞよろしくお願いしますっ!

ではでは!