satomiのきまぐれ日記

二次創作ポケモンストーリーをいくつか連載しています。他、日記とかをちょいちょいと

学びや!レイディアント学園 第391話

~attention~
『空と海』のキャラ達が学パロなif世界の物語です。本編とは一切関係がありません。また、擬人化前提で話が進み、友人とのコラボ作品でもあります。苦手な方はブラウザバック!
前回、三人でのお話し会は終了。ティールとサフィアが残され、二人だけの時間となりました。そんな中、ティールは何を話すのでしょうか。


《Te side》
『……ティール?』
いつの間にか、お祖母様はぼくの隣に座り、こちらの顔を覗き込んでいた。
そして、昔から変わらない笑顔で、ぼくが話し出すのを待ってくれている。
……両親が仕事で忙しくしている時、お祖母様がよく、ぼくの相手をしてくれていた。嫌な顔一つせず、ぼくの話だったり、遊びに付き合ってくれた。
だからまあ、当時のぼくは相当のおばあちゃんっ子だったのだと思う。
もちろん、両親もお祖父様も好きだったけれど……いつも側にいてくれたのは、お祖母様だ。いつだって、部屋を覗けば、そこにいてくれたから……今にして思えば、病気だったのだから、部屋で安静しているのは当たり前なのだが。
その頃と何一つ変わらない。お祖母様はいつだって優しくて、暖かな人だ。
ラルがせっかく、機会を作ってくれて、お祖母様も急かさず、そこにいてくれている。何か話さなきゃいけないのに、何か言わなきゃいけないのに。
「これで最後、なんですよね」
『……えぇ、そうね。きっと、面と向かって話せるのは、これが最後になると思うわ』
こんな、分かりきった言葉しか出てこない。
分かっている。ぼくは、ラルやフォースみたいに、見通す力を持っていない。だから、これが最後なんだと。……そんなの、分かりきっているのに。
「……話したいこと、伝えたいこと、あったはずなんです。でも、なんででしょう? なんにも出てこないんです」
お祖母様が亡くなってから、色々あった。それら全てを伝えたい。ぼくが何を通じて、何を感じて、今を生きているのか。……けれど、それらを言語化するのが難しくて。
……幼い子供が親に何かを伝えたいけど、言葉が難しくて伝えられない。そんな、もどかしさだ。
ただ、最後の機会という明確な別れを目の前にして、焦りなのか、不安なのか、或いは悲しみなのか……じわりと涙が溢れそうになり、ぐっと強く目を閉じる。
……ふと、脳裏にラルや仲間達と巡った冒険の日々が思い浮かぶ。
幼い頃、お祖母様とのごっこ遊びではない、本当の冒険。ぼくが経験した数々の思い出達。
この日々の始まりには、お祖母様がいる。ぼくの初めての相手は……パートナーは、他の誰でもない、お祖母様だ。
お祖母様の知らない冒険の話を伝えないと。
「お祖母様」
『何かしら?』
「ぼく、探検隊になって、たくさんの冒険をしました。遺跡調査や未開拓ダンジョンの調査……魔物退治だってしてきたんですよ。あ、後……お化け退治とかも……いや、その時は結局、お化けなんて、いなかったんですけど!」
『ふふ。そうなの』
「はい。……昔はお祖母様と一緒に王宮を冒険していましたが、今は世界中でを冒険しています。隣には、頼れるパートナーもいて……お祖母様みたいに、強くてかっこいい……なんて言うと、怒られちゃいそうだけど。でも、そんなパートナーが一緒なんです」
『あら? そう言ってくれるってことは、私はティールにとって、頼りになるパートナーになれていたのかしら?』
「もちろんです」
幼かったぼくは、絵本を片手に広くて……だけど、狭い世界を冒険していた。
今はその狭い世界を飛び出して、広い世界を冒険している。現在進行形で、未だ見ぬ土地に憧れを抱いて、ラルと一緒に。
「これからもぼくは……ラルと冒険し続けます。いつか、彼女との冒険譚をお祖母様にお聞かせします」
『えぇ。いつか聞かせてちょうだい。貴方とラルさんの冒険の話を。ティールのとっておき、楽しみにしているわ』
「はい。必ず」
お祖母様は変わらず、優しい笑みを浮かべ、ぼくの話を、言葉を聞いてくれている。本当に昔から変わらない。
「お祖母様が亡くなった日、ぼくは現状を理解できませんでした。だから、しなければならないお別れも、できないままで」
あの日、家族全員でお祖母様の寝室を訪れ、お祖母様を看取るため、最期の話をするために、その場に集まった。
ぼくは言われるがまま、連れていかれ、部屋の隅に置かれた椅子に座っていた。母上やおば様がベッドにしがみつくように泣き崩れ、父上やお祖父様は沈黙しつつも、お祖母様の側を離れようとしない。……そんな光景を遠くから、ぼんやりと眺めていたことを覚えている。単純に、普段と様子の違う家族に戸惑い、理解する暇もなかった。そして、言われるがまま、母上と部屋を後にし、ようやく事の重大さに気付いた頃には、お祖母様はいなくなっていた。
だから、きちんとお別れをした記憶はない。伝えなきゃいけない言葉を何一つとして、残せぬまま別れてしまったのだ。
『そうだったわね。……ごめんなさい、ティール。あの時、貴方を独りにしてしまって』
「お祖母様?」
『あの時……私が死んでしまったあの日、誰かティールを見てあげなさいって言いたかったのよ。でも、どうしてもできなくて……本当にごめんなさい』
……自分の命が尽きようとしているのに、ぼくの心配をしてくれてたのか。
いや、多分、ぼくだけじゃないんだろうな。
「お祖母様はそんな時まで……ご自身より、周りなのですね」
『……うふふ♪ えぇ、そうなの。そうだったのよね』
お祖母様はどこかおかしそうに笑い、そして、呆れたような困ったような表情を浮かべた。
『私、家族の心配をしていたの。あんな
大事にされちゃって……これからが心配になっちゃた。私との別れは遅かれ早かれ来るって言うのにね? 前々から近いうちに死ぬって言ってあったのに、あんな風に大騒ぎされちゃうんだもの。……本当に世話のかかる家族』
「ご、ごめんなさい……!」
『あら、ティールはいいのよ。ティールは子供だもの。目一杯、周りの大人達に世話されていいんだから。……ブライトとセイラさんも、お世話したがっていると思うしね?』
母上は全面的に感じてるし、父上も……まあ、気にかけてくれてるんだなって、最近になって思うようになったけど。
「……はい。素直にお世話されちゃいます」
『えぇ、それが一番だわ。そうしなさい。……なんてね。ぜーんぜん、手間のかからなかったブライトを育てた私が言うのも変な話なのだけれど。……いいえ、ある意味、手間はかかっているけれど』
……?
ルーメンさんから、父上の若い頃の話は聞いたけど、子供時代の話は聞いたことがないな。もちろん、父上本人が喋るわけもないし。何かあったのかな。
『ふふ。そうねぇ……あの子もティールみたいに冒険が好きな頃があったってことよ。……少し目を離すと、どこかへ行っちゃうの。まあ、大抵、書庫の机の下か、森の茂みの中にいたのだけれど。……全く、男の子ってじっとしていられないのかしらね?』
ど、どうなんでしょうね~……?
ぼくも子供の頃はチョロチョロしていた自覚があるので、何とも言えない。しかし、父上にもそのような頃があったとは。いやまあ、そりゃ子供時代があるだろうし、あの父上だって、子供っぽい(?)ところがあったのだろう。……想像は全くできないけれど。
お祖母様が小さく、クスッと笑う。
そして、そっとぼくの頭を撫でるように手を添える。今のお祖母様には実体がない。だから、撫でられている感覚はない……はずなのだが、なぜかぬくもりだけは伝わってくる。
『私の可愛い王子様。……可愛いティール。大好きですよ、今も昔も。ずぅっと大好きよ』
「……お祖母様」
ぼくも、ぼくも貴女が大好きです。昔から……今も。
当時、伝えられなかった「ありがとう」を伝えなきゃな。だって、これを逃せば、一生ないかもしれないんだから。
「ぼくも……ぼくもね、大好きだよ、おばあちゃま」
『……! ティール』
「おばあちゃま、ありがとう。一人で遊んでたぼくの側にいてくれて。遊んで、話をして……たくさん、思い出や宝物をくれて。……今でも、大切にしてるよ。おばあちゃまの宝物」
ぼくは懐から懐中時計を取り出す。
これは幼い頃、お祖母様から譲り受けたものの一つだ。……正確には、お祖母様の母方の祖父……ひいおじいさまのものらしいのだが。
「これからも、おばあちゃまの宝物はぼくが守るから、安心してね」
『……そう。ありがとう』
「うん。それとね、ぼくはもう、一人じゃなくなったんだ。もう、独りじゃなくなったから、大丈夫だよ」
ラルがぼくをぼくとして、見てくれている。
チームの皆がいてくれている。
ここでなくても、ぼくの居場所を見つけられた。
だからもう、大丈夫。
『見つけたのね』
「うん」
『……よかった』
ぼくを撫でる手がそっと離れると、お祖母様はベンチからふわりと立ち上がる。それと同時に、体が透け始める。
『それなら、待たせちゃ悪いわ。早く行きなさい』
「お祖母様……」
『最期に私からアドバイス。あの子は……この世界に染まっていない色がする。……これからも、共にいたいと……添い遂げたいと願うなら、きちんと捕まえておきなさい』
「あの子って」
もしかして……ラルのこと?
そう問うてみれば、お祖母様は静かに頷く。
『ラルさん、自分のことは無頓着みたいだから』
「……」
確かに、そういうところあるけれど。
でも、お祖母様の言葉の意味って……?
『なんだか、かつてのアズや私みたい。……だから、ちゃあんと捕まえておかないと、いつか『なくして』しまう……そんな気がするの』
なくす……なくす?
いつか、ラルがいなくなるかもしれないってこと? どういうことだろう。
『そんな顔をしなくても大丈夫』
無意識にうつ向いていた顔を上げる。そこには、安心させるような優しい笑みを浮かべたお祖母様がいた。
『二人なら問題ないわ。今日一日、見てて大丈夫だって思ったもの』
「お祖母様」
『……あ、そうだ。アズにも伝言を一つ。スプランドゥールの『ハニー・キャット』のミヨちゃん、かっこいい彼氏がいるって。ついでに、いい歳したジジイが、十代の女の子をナンパするんじゃありませんって、私の代わりに言っておいて~』
「お祖母様!?」
今日会ったことは、誰にも言っちゃ駄目だったのでは!?
『私が言っていたって言わなきゃいいわよ。よろしくね、ティール』
先程までのしんりみムードはどこへやら。どこか悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべたお祖母様は、空へ溶けるように消えてしまう。
「……そ、それが最期の言葉はないんじゃないですか、お祖母様っ!!」



~あとがき~
真面目モードで終わらせるか、最後、不真面目モードにしちゃうかで延々と悩み、後者を選ぶ私。殴っていいです。

次回、ようやく王宮に帰ったり、とある方とお話ししてみたり。

サフィアがティールを気にする理由。
まあ、時折、話してはいたんですけど、彼の幼少期、サフィアと過ごす時間が多いせいで、死後、ティールが一人になってしまうことを相当、気にかけていたんですよね。なんなら、死の当日すら、サフィアはティールを気にしてました。
その思いが彼女の唯一の未練みたいなもんですな。他にもないとは言わないけど。
ティールも最後の最後、サフィアに伝えたかった思いを伝えられてよかったな、と思います。

ではでは。